【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の第1の態様によれば、セメント素地の補強用のコードが提供される。コードは、コードを形成するために一緒に撚り合された複数の被覆金属フィラメントを含む。ここで、コードを幾何学的な配列構造とみなし、コードの軸と直交する面に沿った一連の断面を想定する。このような断面内において、空洞を包囲する互いに隣接するフィラメントのサブ構造体が認められる。フィラメントは、面がコードの軸に沿って前進しても、互いに隣接したままである。これらのサブ構造体は、直交面がコードの軸に沿って前進する撚り長さごとに一回転する。このようなサブ構造体の存在は、コードの「構造体(construction)」と一般的に呼ばれている配列のコード内にいかにフィラメントが組み入れられているかに依存している。本発明によるコードの断面内において、少なくとも1つの閉じたサブ構造体が存在している。閉じたサブ構造体内において、互いに隣接するフィラメントは、互いに最大100μm離れている。すなわち、閉じたサブ構造体の互いに隣接するフィラメントのそれぞれの外面は、互いに最大100μm離れている。さらに好ましくは、閉じたサブ構造体の互いに隣接するフィラメントは、互いに最大30μm、20μm、10μm、5μm、または2μm離れている。互いに接触するフィラメントも、勿論、排除されるものではない。このような接触がコードのかなりの長さにわたって生じている場合、「ライン接触(line contact)」と呼ばれている。
【0021】
フィラメント以外に、コードは、防食化合物も含む。本発明の目的の観点から、「防食化合物」は、被覆金属要素に陰極防食をもたらす任意の化合物をも指している。防食化合物は、好ましくは、イミダゾール、トリアゾール、およびテトラゾールからなる群から選択されている。
防食化合物の主な機能は、補強構造体の混入、注入、凝結および/または硬化中に、被覆金属要素とセメント素地との界面における水素ガスの発生を回避することである。従って、防食化合物が被覆金属フィラメントとセメント素地との界面に存在することが重要である。
金属要素の亜鉛メッキ面が防食を必要とする臨界期間は、セメント素地が硬化する期間、すなわち、打設後の最初の72時間における最初の24時間である。
【0022】
本発明の好ましい実施形態では、防食化合物は、シリルイミダゾールまたはベンゾイミダゾールのようなイミダゾールを含んでいる。好ましいシリルイミダゾールは、N−(トリメチルシリル)−イミダゾールを含んでおり、好ましいベンゾイミダゾールは、2−メルカプトベンゾイミダゾールまたは2−メルカプト−1−メチルベンゾイミダゾールを含んでいる。
【0023】
前述したように、防食化合物は、セメント素地の硬化中、被覆金属フィラメントとセメント素地との界面に存在していることが重要である。被覆金属フィラメントを十分に防食するために、多量の防食化合物が被覆金属フィラメント、特に被覆金属フィラメントとセメント素地との界面に存在していることが必要である。
【0024】
これらの問題は、防食化合物がコードの1つまたは複数の閉じたサブ構造体の1つまたは複数の1つまたは複数の空洞内に少なくとも存在しているコードを設けることによって、解消されることになる。
1つまたは複数の空洞内の防食化合物は、化合物容器効果をもたらすことになる。この化合物容器効果の利点は、より多くの防食化合物をコア内に貯蔵することができることである。さらに、より多くの防食化合物を貯蔵することができるので、コードがセメント素地に接触したとき、例えば、コードの外周に向かう拡散によって、防食化合物を運ぶことができる。例えば、防食化合物がコードの外周に適用されなかったことによって、またはコードの貯蔵中、輸送中、および/または処理中に、防食化合物が取り去られたことによって、コードがセメント素地内に導入されたときに、防食化合物がコードの外周に存在していなくても、防食化合物は、例えば、コードの外周に向かう拡散によって運ばれるので、被覆金属要素とセメント素地との界面に存在することになる。
【0025】
本発明によれば、防食化合物は、コードの閉じたサブ構造体の1つまたは複数の空洞内に少なくとも存在している。加えて、防食化合物は、コードの1本または多数本のフィラメント上、例えば、コードの外周に配置されたフィラメント上、すなわち、コードがセメント素地内に埋設された時点でセメント素地に接触するフィラメント上に存在していてもよい。
【0026】
化合物容器効果は、もし防食化合物を貯蔵するコードの能力が、コードの個々のフィラメントの全表面に防食化合物を貯蔵するコードの能力よりも大きいなら、認められることになる。
本発明の目的の観点から、防食化学物を貯蔵するコードの能力は、値c(容器値)によって表され、式:
c=(x+y)/x
によって計算されることになる。
式中、
x=コードの個々のフィラメントの全表面に適用された防食化合物の量(g/m
2);
y=コードの1つまたは複数のサブ構造体の1つまたは複数の空洞内に貯蔵されている防食化合物の量(g/m
2)
xは、フィラメントの直径およびコード構造とは無関係であり、素線、すなわち、フィラメントに適用された防食化合物の量に対応している。
【0027】
化合物容器効果をもたらすために、yの値は、ゼロよりも大きくなっている。換言すれば、化合物容器効果をもたらすために、値cは、1よりも高くなっている。さらに好ましくは、値cは、1.5よりも高くなっており、最も好ましくは、値cは、2よりも高くなっており、さらに、5または10よりも高くなっている。
【0028】
値cが、コードの構造とは無関係であることに留意することが重要である。
【0029】
コードの個々のフィラメントの全表面に適用される防食化合物の量(g/m
2)およびコードの1つまたは複数のサブ構造体の1つまたは複数の空洞内に貯蔵される防食化合物の量(g/m
2)は、防食化合物を施すのに用いられる溶液内の防食化合物の濃度に依存していることは、当業者にとって明らかである。この濃度は、0wt%から100wt%の範囲内にある。0wt%の濃度は、防食化合物が溶液内に存在していないことを意味しており、100wt%の濃度は、純防食化合物が用いられることを意味している。他の全ての百分率は、防食化合物が、防食化合物を含む溶液から適用されることを意味している。本発明では、用いられる溶液内の防食化合物の濃度は、好ましくは、5wt%から100wt%の範囲内、例えば、10wt%から50wt%の範囲内、または10wt%から20wt%の範囲内にある。
【0030】
値cは、二回秤量によって、測定されるようになっている。所定長さのコードに防食化合物が適用された後、該コードが秤量される。続いて、防食化合物は、例えば、エタノールによってコードから除去され、再び秤量される。重量差は、(g/m
2で表される)x+yに対応している。yを決定するために、同じ二回秤量法が、所定長さのフィラメント、すなわち、素線に適用される。防食化合物が適用された後の重量と防食化合物が除去された後の重量との間の差は、(g/m
2で表される)値xに対応している。この値xは、直径とは無関係である。x+yからx値(g/m
2)を減算することによって、yが決定されることになる。
【0031】
化合物容器効果を得るために、サブ構造体の互いに隣接するフィラメント間の距離がある範囲内にあることが重要である。
もし互いに隣接するフィラメント間の距離が大きすぎると、サブ構造体は、その防食化合物の殆どを失うことになる。従って、互いに隣接するフィラメント間の距離は、好ましくは、100μm未満、より好ましくは、30μm未満、例えば、20μm、10μm、5μm、または2μmである。
【0032】
請求項1のサブ構造体をコード内にもたらすことができる多数の方法がある。いずれの場合も、必ずしも同一の直径である必要がない少なくとも3本の鋼フィラメントが一緒に撚り合されたとき、サブ構造体が生じることになる。少なくとも3本のフィラメントは、例えば、同一の撚り長さで同一の方向に一緒に撚り合されるようになっている。「撚り方向(lay direction)」は、ストランドまたはコードのフィラメントの螺旋状の撚り配置として、定義されている。ストランドまたはコードは、もし垂直に置かれた場合、ストランドまたはコードの中心軸の周りの螺旋が「S」字の中心部分に対する斜めの方向と一致しているなら、「S」撚りまたは左撚りされていることになり、もし螺旋が「Z」字の中心部分に対する斜めの方向と一致しているなら、[Z]撚りまたは右撚りされていることになる。「撚り長さ(lay length)」は、ストランドまたはコードにおいてフィラメントが360°回転するのに必要な軸方向距離として、定義されている。
【0033】
コード構造は、コードを製造する順序、すなわち、最も内側のフィラメントまたはストランドから始まり、外方に移っていく順序に従って、記述されている。コードの完全な記述は、以下の式:
(N×F)+(N×F)+(N×F)
によって与えられる。
式中、
N=ストランドの数;
F=フィラメントの数
(NまたはFが1と等しい場合、NまたはFは、式に含まれない)。
コード構造は、フィラメントの直径を含むことによって完全なものとされ、以下の式:
(N×F)×D+(N×F)×D+(N×F)×D
によって与えられる。
式中、
D=mmで表されるフィラメントの公称直径
【0034】
これに関する第1の好ましい実施形態は、3本のフィラメントのみが、機械的な予備成形または曲げを与えることなく、一緒に撚り合されている構造、すなわち、3×1構造の場合である。この実施形態では、対をなすフィラメントは、鋼コードの実質的に全長にわたって互いに線接触している。1つの空洞が、3本のフィラメント間に形成されている。同様に、4×1構造の実施形態は、フィラメント中心が実質的に正方形に配置されるかまたは菱形に配置されるかに応じて、1つの空洞(正方形に配置された場合)または2つの空洞(菱形に配置された場合)を有することになる。同様に、フィラメントがどのように配置されているかに応じて、5×1構造の実施形態は、1つ、2つ、または3つの空洞を有することになり、6×1構造の実施形態は、1つから4つの空洞を有することになる。
7本のフィラメントになると、最も安定した好ましい配置は、1本のフィラメントが中心に配置され、他のフィラメントが中心フィラメントを包囲する場合に、得られることになる。原理的に、フィラメントが無限の撚り長さで撚られてかつ完全に同一の直径を有している場合にのみ、空洞が完全に閉じられ、完全な線接触がもたらされることになる。これらのフィラメントを有限の撚り長さで撚った場合、外側フィラメントが中心フィラメントから離間し、30μm未満に容易に保持可能な距離が、フィラメント間にもたらされることになる。同様に、互いに異なるフィラメントへの負荷分布を均一にするために、中心フィラメントを6本の周囲フィラメントよりも太くすると、有益である。ここでも、中心フィラメントの直径の増大は、外側フィラメント間に形成される間隙が30μ未満に維持されるように、十分に小さくされているとよい。フィラメントの数がさらに増えると、この内の何本かは、特に製造を安定させるために、外方に突き出ることになる。
・実質的に等しい直径の12本のフィラメントが、中心の3本のフィラメントが9本のフィラメントによって包囲されるように、1つの撚り長さで一方向に、単一のステップによって一緒に撚り合された場合、13個の空洞が、フィラメント間に形成されることになる。
・15本のフィラメントが、中心の小径のフィラメントが5本の最近接フィラメントによって包囲され、次いで、10本のフィラメントの外側シェルによって包囲されるように、単一のステップによって一緒に撚り合された場合、20個の空洞がフィラメント間に形成されることになる。このコードは、略5角形の包絡線を有している。
・実質的に等しい直径を有する19本のフィラメントが、中心の単一フィラメントが6本のフィラメントの第1のシェルによって包囲され、次いで、12本のフィラメントのシェルによって包囲されるように、同一の撚り長さで同一の撚り方向に、単一のステップによって一緒に撚り合された場合、24個の空洞が、フィラメント間に形成されることになる。このようなコードの外周が描く包絡線は、実質的に正六角形である。
・実質的に等しい直径の27本のフィラメントが、中心の3×1が9本のフィラメントの第1のシェルによって包囲され、次いで、15本のフィラメントのシェルによって包囲されるように、同一の撚り長さで同一の撚り方向に、単一のステップによって一緒に撚り合された場合、36個の空洞がフィラメント間に形成されることになる。外周が描く包絡線は、六角形であり、その側辺は、交互に4本のフィラメントおよび3本のフィラメントになっている。
このような構造は、一般的にコンパクトコードとして知られている。これらの構造は、(同一の方向に並べられた全てのフィラメントが、同一の撚り方向に撚られる)平行撚りと、互いに等しいフィラメント直径と、によって特徴付けられている。平行撚りを維持しながら、直径を異ならせることによって、極めて高い金属密度によって特徴付けられる他の工業的に重要な構造が得られることになる(「ワイヤロープ(Drahtseile)」:D. G. Shitkow(教授、工学博士)およびI. T. Pospechow(工学専攻)、V. E. B. Verlag Technik 社、ベルリン、1957年の該当ページを参照されたい)。
・ウォーリントン型:中心コアが2つの層によって包囲されており、外層が第1の層のフィラメントの数の2倍の数のフィラメントからなっており、外層の直径が交互に小径および大径になっているもの(251〜263ページ)。
・シール型:中心コアが、同数のフィラメントを有する2つの層によって包囲されており、1つの層内のフィラメントの直径が互いに実質的に等しくなっており、外層のフィラメントの直径が内層のフィラメントの直径よりも大きくなっているもの(229〜237ページ)。
・フィラー型:中心コアが2つの層によって包囲されており、1つの層内のフィラメントの直径が互いに実質的に等しくなっており、第2の層内のフィラメントの数が第1の層内のフィラメントの数の2倍になっており、2つの層内のフィラメントの位置が細い充填素線の存在によって安定化されているもの(241〜251ページ)。
上記の型の組合せ、例えば、ウォーリントン−シール型も、同じように良好に適用可能である。
【0035】
前述したサブ構造体は、コードのさらなる製造において、中間製品として用いられてもよい。これらの中間製品は、例えば、コアとして使用されてもよい。この場合、3+9+15型のコードまたは1+6+15型のコードにおけるように、該コアの周囲に、鋼フィラメントの他の層が、(異なる撚り長さでまたは異なる撚り方向に)、撚り合わされることが可能である。
【0036】
コードは、少なくとも2本のストランドを含むコードであってもよい。このコードでは、少なくとも3本のフィラメントからなるサブ構造体が、ストランドの内側に存在している。これに関連する構造は、N×F型のコードであり、1本のストランドのフィラメントは、同一の撚り方向および同一の撚り長さを有している。以下の構造、すなわち、3×3、7×3、7×4、7×7、7×19が、特に重要である。これに関して、欧州特許出願公開第0770726号明細書に記載されているコード構造12×3、19×3も、本出願の原理が適用可能なコードである。また、外側ストランドと異なるコアストランドを有するコード、例えば、1×3+5×7、19+8×7も、対象となるコードである。コアは、7×7+6×19におけるように、ケーブルであってもよい。
【0037】
コードに防食化合物を施す好ましい方法は、防食化合物を含む溶液内にコードを浸漬させることによって、または溶融状態にある防食化合物を施すことによるものである。さらに、防食化合物は、噴霧、例えば、防食化合物を含む溶液の噴霧または溶融状態にある防食化合物の噴霧によって、適用されてもよい。
【0038】
防食化合物が、(例えば、溶液の浸漬または溶液の噴霧によって)、溶液から適用される場合、防食化合物の濃度は、0wt%から100wt%の範囲内にある。さらに好ましくは、防食化合物の濃度は、10wt%から50wt%の範囲内、例えば、10wt%から20wt%の範囲内にある。
【0039】
浸漬は、溶液を含む浸漬タンク内にコードを導くことによって行われてもよいし、または防食化合物を含む溶液が連続的に供給される漏斗内にコードを導くことによって行われてもよい。好ましくは、コードは、この後、防食化合物を含む溶液の流れと反対の方向に導かれることになる。
【0040】
任意選択的に、防食化合物を含む溶液がサブ構造体内に侵入し、これによって、1つまたは複数の空洞を充填することを可能とするために、1つまたは複数のサブ構造体は、浸漬される間に開拡され、次いで、閉じられるようになっている。代替的に、1つまたは複数のサブ構造体は、浸漬前に開拡されており、浸漬の後に閉じられるようになっていてもよい。
【0041】
サブ構造体の開拡は、当技術分野において知られている任意の技術によって行われてもよい。
第1の方法は、コードをホイールの周りに繰り返し曲げることによって、1つまたは複数のサブ構造体を開拡し、次いで、閉じることを含んでいる。ホイールは、好ましくは、十分に小さい直径、例えば、コードの直径の1倍から50倍、より好ましくは、10倍から40倍の直径を有している。従って、コードの曲げによって、サブ構造体は、引っ張られて開拡し、防食化合物が、1つまたは複数の空洞に浸透することができる。1つのホイールでも十分な開拡をもたらすことができるが、もし次々に配置された2個から10個のホイールが用いられるなら、さらに好ましい。ホイールは、ホイールの全てが同じ平面に位置するように取り付けられていてもよいし、または互いに傾斜している平面に取り付けられていてもよい。後者は、より好ましい。何故なら、コードの周囲の全体にわたってより均一な処理が可能になるからである。
【0042】
サブ構造体を開拡させる第2の方法は、防食化合物がコードの空洞に進入することを可能にするように、サブ構造体を連続的に捩じることを含んでいる。これは、回転している回転拘束装置、すなわち、疑似撚り機内にコードを供給することによって、連続的に行うことができる。
【0043】
コードの空洞内への防食化合物の進入を改良するための付加的な手段、例えば、超音波振動子またはコード自体の振動による浴の撹拌が、さらに用いられてもよい。
【0044】
可能であれば、防食化合物が適用された後、コードは、乾燥されるとよい。乾燥は、当技術分野において知られている任意の手段によって、例えば、伝導、対流、または輻射によって行われてもよい。好ましい乾燥として、誘導加熱、赤外線加熱、または温風のような高温ガスによる加熱が挙げられる。
【0045】
可能であれば、防食化合物を施し(及び、乾燥する)手順は、コード内における防食化合物の全体的な量を増大させるために、繰り返されるとよい。
【0046】
金属フィラメントは、当技術分野において知られている任意の金属または金属合金から作製されていてもよい。金属フィラメントは、好ましくは、例えば、普通鋼のような鋼から作製されている。このような鋼は、一般的に、0.40wt%の最小炭素含量または少なくとも0.70wt%C、最も好ましくは、少なくとも0.80wt%Cであって最大1.1wt%Cの炭素含量、0.10wt%Mnから0.90wt%Mnのマンガン含量を有しており、硫黄含量および燐含量は、各々、好ましくは、0.030wt%未満に維持されている。付加的な微小合金元素、例えば、非羅列的に列挙すれば、(0.20wt%から0.4wt%の)クロム、ボロン、コバルト、ニッケル、バナジウムが、加えられてもよい。また、好ましくは、ステンレス鋼が用いられる。ステンレス鋼は、最小12wt%Crおよび十分な量のニッケルを含んでいる。さらに好ましいのは、オーステナイト系ステンレス鋼である。このオーステナイト系ステンレス鋼は、さらに冷間成形されているとよい。最も好ましい組成は、AISI(米国鉄鋼協会)302、AISI301、AISI304、AISI316として当技術分野において知られているものである。
【0047】
金属フィラメントは、好ましくは、用途に応じて、0.04mmから1.20mmの範囲内にある直径を有している。
【0048】
被覆金属フィラメントは、亜鉛、アルミニウム、マンガン、またはそれらの合金を含む被膜によって被覆された金属フィラメントを含んでいる。
【0049】
好ましくは、金属フィラメントは、亜鉛被膜または亜鉛合金被膜が適用されている。亜鉛合金被膜として、例えば、Zn−Fe合金、Zn−Ni合金、Zn−Al合金、Zn−Mg合金、またはZn−Mg−Al合金が考えられる。
好ましい亜鉛合金被膜は、2wt%から15wt%のAlを含むZn−Al合金被膜である。
可能であれば、0.1%から0.4%のCeおよび/またはLaのような希土類元素が、添加されていてもよい。
【0050】
本発明によるコードの大きな利点は、該コードが、六価クロムを含んでいないことである。何故なら、被覆金属フィラメントを防食するのに、六価クロムを必要としないからである。これは、コードおよび/またはフィラメントが、クロムを主成分とする化合物による処理を必要としないことを意味している。
さらに、本発明によるコードがセメント素地の補強に用いられるとき、セメント素地も六価クロムを含んでいない。
【0051】
本発明の第2の態様によれば、前述した少なくとも1本のコードを含む構造体が提供されることになる。この構造体は、好ましくは、補強構造体、例えば、セメント素地を補強するための構造体である。
【0052】
この構造体は、本発明による少なくとも1本のコードを含む任意の構造体であってよく、例えば、織物構造体、編物構造体、編組(網状)構造体、溶接構造体、または接着構造体であってもよい。
【0053】
この構造体は、本発明によるコードから構成されていてもよいし、または代替的に、この構造体は、本発明によるコードと、他のコードおよび/またはフィラメント、例えば、他の金属コードおよび/または金属フィラメントまたは非金属コードおよび/または非金属フィラメントと、を備えていてもよい。
【0054】
本発明の第3の態様によれば、前述した少なくとも1本のコードによって補強されたセメント素地が提供されることになる。前述したコードは、セメント素地内に導入され、セメント素地によって包囲され、これによって、被覆金属フィラメント−セメント素地の界面が形成されることになる。
【0055】
本発明によるコードの大きい利点は、該コードが、六価クロムを含んでいないことである。何故なら、被覆金属フィラメントを防食するのに、六価クロムを必要としないからである。これは、コードおよび/またはフィラメントが、クロムを主成分とする化合物による処理を必要としないことを意味している。
本発明による補強構造体のさらなる利点は、六価クロムを含んでいないセメントが用いられる場合にも、被覆金属要素の良好な防食が得られることである。
六価クロムを含んでいるセメントが用いられる場合、クロムを主成分とする化合物が被覆金属要素を防食するために加えられていない場合であっても、被覆金属要素は、セメント内に自然に存在するクロムを利用することができる。
クロム酸塩に関連するアレルギー性皮膚炎の発生を最小限に抑えるために、セメント内の六価クロムの量を制限する新しい法案が課せられている。その結果、セメント素地内の被覆金属フィラメントは、もはやセメント内に自然に存在するクロムを利用することができない。六価クロムを含まないセメントを得るために、セメント製造業者は、硫酸第一鉄の添加のような技術を開発してきている。硫酸第一鉄の添加は、水素ガスの発生量を著しく増大させることになる。
本発明の大きな利点は、六価クロムを含まないセメントが用いられた場合およびセメントに硫酸第一鉄が添加された場合にも、水素ガスの発生が阻止されることにある。
【0056】
補強されたセメント素地は、当技術分野において知られている任意の用途、例えば、プレハブ建造物、橋、建物、トンネル、駐車場、沖合石油プラットフォーム、などに使用可能である。
【0057】
本発明の目的の観点から、「セメント素地(cementitious matrix)」は、金属要素とは別の素地材料を意味すると理解されたい。セメント素地は、セメントを含む任意の材料、例えば、コンクリートまたはモルタルを含んでいてもよい。
【0058】
本発明のさらに他の態様によれば、セメント素地内に埋設された被覆フィラメントを含むコードの界面における水素ガスの発生を阻止するための方法が、提供されることになる。この方法は、前述した少なくとも1本のコードを設けるステップと、前記コードをセメント素地内に導入するステップと、を含んでいる。
【0059】
以下、添付の図面を参照して、本発明をさらに詳細に説明する。