特許第5663501号(P5663501)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5663501バイオマスからの有機化合物を一部含有する航空燃料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5663501
(24)【登録日】2014年12月12日
(45)【発行日】2015年2月4日
(54)【発明の名称】バイオマスからの有機化合物を一部含有する航空燃料
(51)【国際特許分類】
   C10L 1/22 20060101AFI20150115BHJP
   C10L 1/00 20060101ALI20150115BHJP
   C10L 1/02 20060101ALI20150115BHJP
   C10L 1/04 20060101ALI20150115BHJP
   C10L 1/19 20060101ALI20150115BHJP
【FI】
   C10L1/22
   C10L1/00
   C10L1/02
   C10L1/04
   C10L1/19
【請求項の数】8
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2011-553490(P2011-553490)
(86)(22)【出願日】2010年3月8日
(65)【公表番号】特表2012-519768(P2012-519768A)
(43)【公表日】2012年8月30日
(86)【国際出願番号】FR2010050387
(87)【国際公開番号】WO2010103223
(87)【国際公開日】20100916
【審査請求日】2011年10月28日
(31)【優先権主張番号】0951472
(32)【優先日】2009年3月9日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】デユボワ,ジヤン−リユツク
【審査官】 ▲吉▼澤 英一
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第02135327(US,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0244963(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0032913(US,A1)
【文献】 国際公開第2008/036654(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10L 1/22
C10L 1/00
C10L 1/02
C10L 1/04
C10L 1/19
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも14個の炭素原子の鎖長を有する、天然および再生可能な、任意にヒドロキシル化されている一価不飽和脂肪酸から出発する化学変換により得られ、中鎖脂肪酸のニトリルおよびエステルから選択される化合物であって、該中鎖脂肪酸が1分子当たり7から12個の炭素原子を含む化合物の留分20〜99重量%と航空燃料についての世界規格に適合するケロシン1〜80重量%とを含む航空燃料であって、
前記中鎖脂肪酸のエステルが奇数の炭素原子を含むか、または当該エステルが10〜12個の炭素原子を含みかつω−不飽和である航空燃料。
【請求項2】
化合物の留分が、ニトリルおよび/またはエステル化合物の少なくとも1種ならびに前記天然および再生可能な、任意にヒドロキシル化されている一価不飽和脂肪酸に適用される化学変換と同様の化学変換から得られる1分子当たり6から13個の炭素原子を含む天然由来の少なくとも1種のオレフィンおよび/またはアルカンの混合物から構成されることを特徴とする請求項1に記載の燃料。
【請求項3】
化合物の留分を構成する混合物中のオレフィンおよび/またはアルカンの割合が、前記混合物の10から50重量%を表すことを特徴とする請求項2に記載の航空燃料。
【請求項4】
12個の炭素原子を含む脂肪族ニトリルがω−不飽和であることを特徴とする請求項1〜3の一項に記載の燃料。
【請求項5】
選択されるエステルが、10−ウンデシレン酸またはウンデカン酸のメチルエステルであることを特徴とする請求項1〜3の一項に記載の燃料。
【請求項6】
選択されるニトリルが、デカン酸または9−デセン酸のニトリルであることを特徴とする請求項1〜3の一項に記載の燃料。
【請求項7】
選択されるエステルが、メチルノナノアートであることを特徴とする請求項1〜3の一項に記載の燃料。
【請求項8】
選択されるニトリルが、ウンデカンニトリルまたは10−ウンデセンニトリルであることを特徴とする請求項1〜3の一項に記載の燃料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の主題は、石油由来のケロシンおよび植物油から誘導された燃料の混合物から構成される航空燃料(またはケロシン)である。
【背景技術】
【0002】
航空燃料は、これらの燃料が使用される規定条件(これらの燃料は、約80℃の温度の極端な変動に供される。)から直接得られる一連の規格に適合しなければならない。種々の現在の燃料の範囲内で、ケロシンは、ガソリンと軽油との間の蒸留範囲に関して中間石油留分として提供される。
【0003】
ケロシンの蒸留範囲に加え、ケロシンの3つの主要な技術的特徴は、密度、耐寒性(融点)および引火点である。また、これらの特徴に、航空機の十分な操縦に必須である、燃料のエネルギー必要量を加えるべきである。可能な限り大きいものの、他の特徴に適合するエネルギー必要量を有する利用可能な燃料を有することができることが必要であるからである。
【0004】
エネルギー必要量においては、比エネルギーとエネルギー密度とを区別することが可能である。高い比エネルギー(1キログラム当たりのエネルギー必要量)は、タンクが満杯である離陸時のエネルギー消費を最小化するために重要である。高いエネルギー密度(1リットル当たりのエネルギー必要量)は、任意の追加の容積が航空機およびタンクの構造について過剰の重量も伴う場合、タンクの容積を最小化するために重要である。
【0005】
航空産業は、極めて高度な成長を経験している部門であり、この発展は、石油を唯一の源として有する燃料の調達に依存する。この燃料が今から数十年後に消失の一途を辿ることから、製造業者は、代替的な解決策を見出す研究を数年前に開始した。
【0006】
George Marsh著「Biofuels:Aviation Alternative」これは「Renewable Energy Focus」,2008年7月/8月,p.48−51に掲載された記事であり、現在調査中の経路の広範な概要を伝えている。航空の将来に関する完全性のため、別の天然燃料、例えば、水素の使用に関する考察を追加することができる。しかしながら、天然燃料使用の経路は、新規エンジンの設計、ひいてはこの産業の完全な転換の着想を含む。今日主流である経路は、英語圏において「ドロップイン」と称される経路であり、即ち、現在のケロシンに適合性を示し、ひいてはケロシンとの混合物中で使用することができる「合成」燃料を提供する経路であり、長期目標はケロシンを完全に置き換えることである。
【0007】
新規再生可能燃料、即ち、非化石燃料の製造を目的として有するこれらの研究はまた、大気中へのCO2放出の制限についての現在の関心事の一部であり、またはより正確には、大気へのCO2排出増加の制限の一部である。
【0008】
調査経路の中では、石炭を化学変換すること(CTL、慣用の専門用語によれば、石炭液化)またはフィッシャー・トロプシュ合成に従ってガスを化学変換すること(GTL、ガス液化)にある合成燃料を挙げることができる。この合成経路は、極めて長きにわたり知られており、工業的に運転可能である。この経路の利点は、合成燃料の炭化水素が、ケロシンと十分に適合性を示すことである。しかしながら、この経路は多くの欠点を有する。最初に、合成のコストが高い。続いて、この合成方法はエネルギーが高価であり、有害なCO2の顕著な生成をもたらす。最後に、出発材料が化石由来の材料であるため、再生可能燃料の源について言及することができない。
【0009】
主要な関心事は、石油の永久代用物を長期的に見出すことであるため、この燃料の源(または鉱床)が再生可能であることが必要であり、このことはバイオマスを形成する炭素リッチな作物生産物についての研究をもたらす。この経路をさらに進むため、重要な追加のパラメータ、主に、この作物生産物またはこの生産物の栽培が世界人口の変化に伴って不可欠な人類の摂食のために意図される栽培の拡大に対して影響を有しないことを考慮することが必要である。
【0010】
要約すると、これらの経路の1種の選択は、当然ながら、こうして得られる燃料の「熱およびエネルギー」特性に依存するが、3つの重要な追加の基準、即ち、これらの燃料と現在使用されているエンジンとの適合性、CO2放出に関する新規標準との一致性および食用作物との調和性(非競合性)にも依存する。第1の基準の適用は、水素を一時的に除外することをもたらし、このことは新規反応器の開発を含み、第2の基準の適用は、CO2の生成の起因して化石炭素をベースとする合成燃料をもたらし、第3の基準の適用は、食物と競合しないエネルギーバイオマスの生成のために意図される炭素リッチな植物からの選択をもたらす。
【0011】
現在、施行中の規制に適合し、ケロシンとの混合物として大量に(10容量%超)使用することができる、バイオマスから誘導された航空燃料を製造する解決策は全く存在しない。
【0012】
バイオマス経路において、無論、糖の発酵により得られるエタノールおよびメタノールにより表されるアルコール経路が存在する。このようなアルコールをベースとする燃料は、特にブラジルにおいて地上車に使用されている。これらの燃料は、軽飛行機にも使用されているが、これらの特徴に起因して、ケロシン補助物または代用物の製造に全く好適ではない。
【0013】
より重要な研究が、ディーゼルエンジン用軽油の代替燃料のバイオディーゼルの枠内で発展した知識を使用して実施されてきた。これらの研究の基盤は、種々の植物、例えば、セイヨウアブラナ、ダイズ、ヒマワリなどの種子から得られ、鎖長が一般に16から18個の炭素原子である脂肪有機酸のトリグリセリドの混合物から構成される植物油を使用することであった。
【0014】
これに関連して、主分子がオレイン酸のメチルエステルである脂肪酸メチルエステル(FAME)として知られているディーゼルエンジン用バイオ燃料が開発された。脂肪酸はこれらの植物の種子から得られ、種子からこれらのトリグリセリドが抽出され、トリグリセリドが加水分解により対応する脂肪酸を提供し、続いてメタノールによりエステル化される。エステルは、エステルの混合物をもたらす、メタノールの存在下での植物油の直接的なトランスエステル化により得ることができる。同様に、FAEE、即ち、本質的にオレイン酸エチルエステルにより表される対応するエチルエステルが調製された。これらのエステルは、第1世代バイオディーゼルとして知られているものを形成する。
【0015】
第2世代バイオディーゼルも知られており、この生成物は、植物油を水素処理し、水素化により異性化または非異性化長鎖炭化水素をもたらすことにより得られる。パラフィンの異性化により、曇り点、即ち、パラフィンが結晶化し始める温度を顕著に減らすことが可能になる。
【0016】
N.M.Irving著,標題「Clean,High−Enthalpy Biofuels」,「European Biomass Conference」,(バレンシア,スペイン),2008年6月2日から6日に公開の論文において、ニトリル化により脂肪酸の酸官能基をニトリル官能基により置き換える提案もなされている。C12からC18の鎖を含み、主としてC16を中心とする、種子中に存在するトリグリセリドの加水分解により得られた天然脂肪酸から直接得られるこれらの脂肪族ニトリルは、バイオディーゼルの適用において優れた結果を与えると考えられる。
【0017】
バイオディーゼルとして慣用的に知られているエステル化または転換された脂肪酸、例えば、FAMEは、一方で高すぎる沸点および他方で同様に高すぎる融点を有する留分を構成し、これらの特徴は、慣用的には16から18個の炭素原子からの脂肪酸の鎖長に直接関連し、航空燃料留分中に大量に取り込むことができる。
【0018】
1つの解決策は、より短い脂肪酸に対応する植物油、例えば、ココナツ油、パーム核油またはクフェア油などを使用することであり得る。しかしながら、この場合、これらの植物油のエステルは、現在の燃料に関して稠密すぎるため密度の基準に適合せず、エネルギー必要量(比エネルギー)に関する規格にも適合しない。これらの油の使用の別の主要な欠点は、コストが比較的高いことである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】George Marsh著,「Biofuels:Aviation Alternative」,「Renewable Energy Focus」,2008年7月/8月,p.48−51
【非特許文献2】N.M.Irving著,標題「Clean,High−Enthalpy Biofuels」,「European Biomass Conferenc」,(バレンシア,スペイン),2008年6月2−6日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
従って、解決すべき課題は、航空燃料の基準(規格)、特に密度、沸点および融点ならびにエネルギー必要量の基準に可能な限り最良に適合する再生可能源をベースとする燃料を見出すことである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、石油から得られるケロシンならびに天然由来の再生可能な一価不飽和脂肪酸から得られる中鎖脂肪酸(これらの中鎖脂肪酸は、1分子当たり7から12個の炭素原子を含む。)のニトリルおよびエステルから選択される化合物の混合物から構成される航空燃料を提供することによりこれらの欠点を克服することを対象とする。
【発明の効果】
【0022】
中鎖鎖長を有する脂肪族ニトリルおよび脂肪族エステルが、これらの密度、沸点および融点ならびにエネルギー必要量の特徴を介して、航空燃料として特に有利な留分を構成することができることを発見したからである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
後続の本詳細な説明において、出発材料として、天然および再生可能な、任意にヒドロキシル化されている一価不飽和脂肪酸の使用が挙げられる。この脂肪酸という用語は、厳密な酸、このエステル形態およびこのニトリル形態を包含する。酸形態からエステル形態への変化は全く一般的であり;本詳細な説明において後述する通り、酸形態からニトリル形態への変化もこれ自体周知である。天然油または脂肪中に存在するトリグリセリドを直接処理することによりこのニトリル形態に変化させることさえ完全に可能である。
【0024】
本発明の主題は、少なくとも14個の炭素原子の鎖長を有する、天然および再生可能な、任意にヒドロキシル化されている一価不飽和脂肪酸から出発する化学変換により得られ、1分子当たり7から12個の炭素原子を含む中鎖脂肪酸のニトリルおよびエステルから選択される化合物の留分1から100重量%ならびに航空燃料についての世界規格に適合するケロシン0から99重量%を含む航空燃料である。
【0025】
用語「航空燃料についての世界規格」は、文献「World Jet Fuel Specifications with Avgas Supplement」,2005 edition,Exxon−Mobil刊に定義される全ての規格を意味するものと解するべきである。この用語は、一方でジェットタイプの燃料(航空タービン燃料−ジェットAおよびジェットA1)を、他方で「軍事タービン燃料グレード」および「航空ガソリン」を内包する。ケロシンタイプの燃料は、実施される輸送の安全性を確保するために同一の規格に世界規模で厳密に適合しなければならないという際立った特性を示すためである。
【0026】
本発明の航空燃料の好ましい代替形態において、化合物の留分は20から99重量%を表し、世界規格に適合するケロシンは1から80重量%を表す。
【0027】
各含有率の選択は、構成成分のそれぞれの供給についての技術的/経済的条件に依存する。しかしながら、一部の化合物は単離して考慮すると世界規格に適合しないことを観察することができ、このことにより、化合物が、化合物の特徴と規格との差異により決まる比率を有する石油由来のケロシンとの混合物として使用されることが要求される。
【0028】
本発明の別の好ましい代替形態において、化合物の留分は、少なくとも1種のニトリルおよび/またはエステル化合物、ならびに前記天然および再生可能な、任意にヒドロキシル化されている一価不飽和脂肪酸に適用される化学変換と同様の化学変換から得られる1分子当たり6から13個、好ましくは、7から12個の炭素原子を含む天然由来の少なくとも1種のオレフィンおよび/またはアルカンの混合物から構成される。この化合物の留分を構成する混合物中のオレフィンおよび/またはアルカンの割合は、混合物の10から50重量%を表す。
【0029】
ニトリルおよび/またはエステル化合物の鎖長に実質的に類似する鎖長を有する、即ち、1分子当たり6から13個の炭素原子を含む一部の分子アルカンまたはアルケンが、燃料混合物中に導入された場合、化合物の「不十分性」を補填することができるためである。この代替的実施形態により、ケロシンの使用を長期間省くことさえ可能になる。この経路は、特に、ニトリルおよび/またはエステル化合物の合成に加え、少なくとも14個の炭素原子を含む天然脂肪酸に適用される化学処理によりこのようなアルケンおよび/またはアルカンの合成が可能になる場合、経済的に実行可能になり得る。
【0030】
これらのアルケンまたはオレフィンは、ケロシンに由来する類似分子と一緒に最終航空燃料中に見出されることに留意すべきである。しかしながら、14C留分を含む再生可能な炭化水素の由来に起因して、これらを互いに区別することが可能である。
【0031】
好ましい実施形態において、アルデヒドがアセタールまたは酸、エステル、ニトリル、アルコール、アルカンまたはオレフィンに変換される。
【0032】
これらの中鎖脂肪酸のエステルの形態の化合物は、好ましくは、奇数の炭素原子7、9または11個を含む。10または12個の炭素原子から構成されるエステルは、好ましくは、ω−不飽和エステルの形態である。
【0033】
これらのニトリル形態の化合物は、飽和または一価不飽和形態である。12個の炭素原子を含む脂肪族ニトリルは、好ましくは、ω−不飽和である。
【0034】
これらの脂肪族ニトリルは、一部の製造方法によれば、ニトリル官能基に加え、別の官能基、エステルとニトリルのいずれかを含むことができる。これらの化合物は、これらの特徴(密度、相変化温度およびエネルギー必要量)が、これらをさらなる高価な変換に供さなくてもよいほど十分である場合、燃料中に導入することができる。
【0035】
エステル官能基に関与するアルコール基は、1から4個の炭素原子を含む。好ましくは、化合物に本発明の燃料におけるこの最良の特性を付与するため、この基はメチルである。
【0036】
本発明の航空燃料の組成に関与することができる種々の分子の物理的特徴を、以下の表1から3に挙げ、これらの表は、ニトリル(表1)、エステルまたはニトリル−エステル(表2)ならびにオレフィンおよびアルカン(表3)を指す。
【0037】
【表1】
【0038】
【表2】
【0039】
【表3】
【0040】
α−オレフィンおよびアルカンは、ケロシン留分中で混合物の補給物として取り込まれるために優れた源を構成することができるある特徴(極めて低い融点、低い密度、高い比エネルギー)を示すことを観察することができる。α−オレフィンおよびアルカンにより、特に、密度および比エネルギーに関して、ある化合物、例えば、エステルの欠陥を補填することが可能になる。従って、オレフィンおよび元の脂肪酸の化学変換の間に生成された不飽和エステルを混合物として保持し、オレフィンおよび不飽和エステルを同時に水素化してアルカン−飽和エステル混合物を生じさせるという規定の利点が存在する。ニトリル化合物およびオレフィンまたはアルカンの組合せは、混合物に同一の利点を付与する。これら2種の成分の生成は同一の反応法の間に行うことができるが、処理される脂肪酸がニトリル形態であることを条件とする。
【0041】
この解決策は、少量の水素を消費し、沸点および凝固温度の低下にも寄与するという点で、植物油を完全に水素化する通常の解決策よりも有利である。
【0042】
全てのニトリル化合物は、使用に完全に好適な密度を示す。エネルギー必要量に関して、実質的に全てのこれらのニトリルについて、MJ/kgで表現される発熱量(比エネルギー)が標準的なジェットA1の発熱量と完全に類似していることを観察することができる。温度(沸点、融点および引火点)の分野において、これらの化合物は全体として標準内である。エステルに関して、これらの特徴は、たとえこれらがそれほど良好でない場合であっても、本発明の燃料中に少量で導入することが許容される。慣用油(ダイズ、セイヨウアブラナ、ヒマワリおよびさらにはジャトロファ)の天然脂肪酸のエステルの鎖長よりも短いこれらの鎖長により、例えば、融点(曇り点)と沸点の両方の観点から、ジェット燃料の適用との適合性をかなり大きく示すようになる。
【0043】
燃料の構成に関与するエステルおよび/またはニトリルタイプの化合物は、天然および再生可能物由来の一価不飽和脂肪酸から得られる。これらの脂肪酸は、高級酸、即ち、1分子当たり少なくとも14個の炭素原子を含む酸である。
【0044】
これらの脂肪酸は、特に、ミリストレイン酸(C14=)、パルミトレイン酸(C16=)、ペトロセリン酸(C18=)、オレイン酸(C18=)、バクセン酸(C18=)、ガドレイン酸(C20=)、セトレイン酸(C22=)およびエルカ酸(C22=)ならびにモノヒドロキシル化脂肪酸のリシノール酸(C18=OH)およびレスクエロール酸(C20=OH)である。
【0045】
本発明の航空燃料の構成に関与する化合物は、天然油(または脂肪)から、天然油(または脂肪)を加水分解またはメタノール分解により処理して脂肪酸またはこのメチルエステルをグリセロールとの混合物として得、分離してから化学処理して得られる。植物油から脂肪族ニトリルを直接形成させることも可能である。この油が遊離脂肪酸リッチである場合、使用される天然食用油またはある天然油の場合と同様に、油からニトリルを形成させることが特に有利である。ニトリルを得るため、出発材料として脂肪酸を使用することが好ましい。
【0046】
長鎖一価不飽和脂肪酸/エステル/ニトリルの変換は、二重結合における長鎖分子の細分化に基づく。この細分化は、エチレンとのクロスメタセシス反応(エテノリシス)または強力な酸化剤の作用下での二重結合の酸化的開裂、特に酸化的オゾン分解またはヒドロキシル化脂肪酸についての熱分解により実施される。
【0047】
エテノリシス反応は、生成物の混合物をもたらす効果を有する基質および/または生成物の異性化を伴うことが多い。しかしながら、本使用において、生成物の混合物は、目的の適用と完全に適合性を示し、全く異性化させない触媒についての探索は省かれる。異性化、例えば、オレイン酸のエステルのエテノリシスの場合における異性化は、約10個の炭素のエステルの混合物および同様に約10個の炭素のオレフィンの混合物の形成をもたらす効果を有する。後続の本特許出願において、燃料がケロシンの他に「n」個の炭素原子の(メタセシスを介して得られる)ニトリルまたはエステル化合物x%を含むと示される場合、このことは、この化合物がn−2からn+2個の炭素原子を含み、大半の化合物がn個の炭素原子を含む、ニトリルまたはエステルから構成される混合物であることを意味する。
【0048】
細分化法の代替形態において、α−不飽和ニトリルの他、ニトリル−エステル二官能性化合物の形成を伴うクロスメタセシスを、アクリロニトリルを用いて実施することができる。
【0049】
数種の加工例がこれらの長鎖脂肪酸の本発明のエステルおよび/またはニトリル化合物への変換のための種々の処理の説明として挙げられる。
【0050】
ミリストレイン酸は、以下の反応に従ってエテノリシス(エチレンとのクロスメタセシス)に供する(式は、反応がエステルまたはニトリルを含む場合であっても、説明を簡易にするため酸形態で表現する。):
CH−(CH−CH=CH−(CH−COOH+CH=CH
CH−(CH−CH=CH+CH=CH−(CH−COOH
第2の段階において、必要に応じてCα−オレフィンを下記の反応に従ってアクリロニトリルとのクロスメタセシス反応に供してC7不飽和ニトリルを得る:
CH−(CH−CH=CH+CH=CH−CN→CH−(CH−CH=CH−CN+CH=CH
飽和ニトリルは、水素化により得る。
【0051】
上記の通り、Cオレフィンは燃料混合物中に導入することができ;このオレフィンも本適用との適合性を示し、水素化してこれ自体も適合性を示すヘキサンを生じさせることができる。
【0052】
さらに、反応からの第2の生成物(酸)は、エステル化後、C10ω不飽和エステルを形成し、このエステルはこのまま(または水素化により飽和した形態で)使用することができるが、Cα−オレフィンについて上記の反応と類似の反応に従ってアクリロニトリルとのクロスメタセシスを介して変換してC11不飽和ニトリル−エステルを生じさせることもできる。
【0053】
ミリストレイン酸のニトリル化を事前(エテノリシス前)に実施し、エテノリシスによりオレフィンの他にC10ω不飽和ニトリルの形成をもたらすことも可能である。
【0054】
パルミトレイン酸は、以下の反応に従ってエテノリシスに供する:
CH−(CH−CH=CH−(CH−COOH+CH=CH
CH−(CH−CH=CH+CH=CH−(CH−COOH
第2の段階において、必要に応じてCα−オレフィンを下記の反応に従ってアクリロニトリルとのクロスメタセシス反応に供してC不飽和ニトリルを得る:
CH−(CH−CH=CH+CH=CH−CN→
CH−(CH−CH=CH−CN+CH=CH
飽和ニトリルは、水素化により得る。
【0055】
上記の通り、Cオレフィンは燃料混合物中に取り込むことができる。このオレフィンは、事前に水素化することができる。
【0056】
エテノリシス反応から得られた酸は、ミリストレイン酸の場合と同一のエステルまたはニトリル−エステルをもたらす。
【0057】
ミリストレイン酸に関して、酸のエテノリシス前のニトリル化は、C10ω−不飽和ニトリルの形成をもたらす。
【0058】
ペトロセリン酸は、以下の反応に従ってエテノリシスに供する:
CH−(CH10−CH=CH−(CH−COOH+CH=CH
CH−(CH10−CH=CH+CH=CH−(CH−COOH
13不飽和オレフィンは、エステルとの混合物としてこのまま取り込むことができる。
【0059】
ω−不飽和酸は、エステル化により対応するエステルをもたらす。さらに、このエステルにアクリロニトリルとのメタセシス反応を適用することにより、C不飽和ニトリル−エステルを得る。メチルアクリラートとのクロスメタセシス反応を実施することにより、C不飽和エステルを得る。
【0060】
酸の事前のニトリル化は、エテノリシスにより、Cω−不飽和ニトリルをもたらす。
【0061】
オレイン酸は、以下の反応を有するエテノリシスに供する:
CH−(CH−CH=CH−(CH−COOH+CH=CH
CH−(CH−CH=CH+CH=CH−(CH−COOH
10不飽和α−オレフィンを、必要に応じて下記の反応に従ってアクリロニトリルとのクロスメタセシス反応に供してC11不飽和ニトリルを得る:
CH−(CH−CH=CH+CH=CH−CN→
CH−(CH−CH=CH−CN+CH=CH
11飽和ニトリルは、水素化により得る。
【0062】
上記の通り、C10オレフィンは燃料混合物中に取り込むことができる。このオレフィンは、事前に水素化することができる。
【0063】
エテノリシスから得られたC10ω−不飽和酸をエステル化することができる。こうして得られたエステルの水素化により、C10エステルを得ることが可能になる。さらに、アクリロニトリルとのメタセシス反応をこのω不飽和エステルに適用することにより、C11不飽和ニトリル−エステルを得る。
【0064】
酸の事前のニトリル化は、エテノリシスにより、C10ω−不飽和ニトリルをもたらす。
【0065】
オレイン酸は、酸化的開裂、例えば、以下の(簡易化)反応に従って酸化的オゾン分解に供することもできる(酸化的オゾン分解は、オゾニド形成後の酸素源を含み、オゾニド分解が2個の酸基をもたらす。):
CH−(CH−CH=CH−(CH−COOH+O(O)→
CH−(CH−COOH+HOOC−(CH−COOH
エスエルは、一酸のエステル化後に得る。
【0066】
バクセン酸は、以下の反応に従ってエテノリシスに供する:
CH−(CH−CH=CH−(CH−COOH+CH=CH
CH−(CH−CH=CH+CH=CH−(CH−COOH
不飽和α−オレフィンを、必要に応じて下記の反応に従ってアクリロニトリルとのクロスメタセシス反応に供してC不飽和ニトリルを得る:
CH−(CH−CH=CH+CH=CH−CN→
CH−(CH−CH=CH−CN+CH=CH
ニトリルは、水素化により得る。
【0067】
上記の通り、C10オレフィンは燃料混合物中に取り込むことができる。このオレフィンは、事前に水素化することができる。
【0068】
エテノリシスから得られたC12ω−不飽和酸をエステル化してC12ω−不飽和エステルを得ることができる。
【0069】
酸の事前のニトリル化は、エテノリシスにより、C12ω−不飽和ニトリルをもたらす。
【0070】
バクセン酸は、酸化的開裂、例えば、以下の(簡易化)反応に従って酸化的オゾン分解に供することもできる:
CH−(CH−CH=CH−(CH−COOH+O(O)→
CH−(CH−COOH+HOOC−(CH−COOH
エステル化後、一方でCを得、他方でC11ジエステルを得る。このC11ジエステルは、ニトリルに完全に変換してジニトリルを形成させ、または部分的に変換してニトリルエステルを導くことができる。ジニトリルは、二酸から形成させることもできる。
【0071】
ガドレイン酸は、以下の反応に従ってエテノリシスに供する:
CH−(CH−CH=CH−(CH−COOH+CH=CH
CH−(CH−CH=CH+CH=CH−(CH−COOH
酸の事前のニトリル化は、エテノリシスにより、C10ω−不飽和ニトリルをもたらす。
【0072】
12不飽和α−オレフィンは、必要に応じて酸化的開裂、例えば、以下の(簡易化)反応に従ってオゾン分解に供する:
CH−(CH−CH=CH+O(O)→CH−(CH−COOH+HCOOH。
【0073】
オゾン分解から得られたC11酸をエステル化してC11エステルを生じさせ、適切な場合、C11ニトリルに変換することができる。
【0074】
上記の通り、C12オレフィンは燃料混合物中に取り込むことができる。このオレフィンは、事前に水素化することができる。
【0075】
10ω不飽和酸をエステル化し、次いで、適切な場合、水素化してC10飽和エステルを生じさせ、いずれの場合においても、エステルまたは酸官能基をニトリル官能基に変換することが可能である。
【0076】
この酸は、メタノールによるエステル化後、例えば、下記の反応に従ってアクリロニトリルとのクロスメタセシス反応に供してC11不飽和ニトリル−エステルを得ることもできる:
CHCH−(CH−COOMe+CH=CH−CN→
CN−CH=CH−(CH−COOMe+CH=CH
11ニトリル−エステルは、水素化により得る。
【0077】
セトレイン酸は、以下の反応に従ってエテノリシスに供する:
CH−(CH−CH=CH−(CH−COOH+CH=CH
CH−(CH−CH=CH+CH=CH−(CH−COOH
酸の事前のニトリル化は、エテノリシスにより、C12ω−不飽和ニトリルをもたらす。
【0078】
12ω不飽和α−オレフィンは、必要に応じて酸化的開裂、例えば、以下の(簡易化)反応に従ってオゾン分解に供する:
CH−(CH−CH=CH+O(O)→CH−(CH−COOH+HCOOH。
【0079】
11酸をエステル化してC11エステルを生じさせ、適切な場合、C11ニトリルに変換することができる。
【0080】
12ω不飽和酸をエステル化し、次いで、適切な場合、水素化してC12飽和エステルを生じさせ、いずれの場合においても、エステルまたは酸官能基をニトリル官能基に変換することが可能である。
【0081】
エルカ酸は、以下の反応に従ってエテノリシスに供する:
CH−(CH−CH=CH−(CH11−COOH+CH=CH
CH−(CH−CH=CH+CH=CH−(CH11−COOH
10不飽和α−オレフィンは、必要に応じて下記の反応に従ってアクリロニトリルとのクロスメタセシス反応に供してC11不飽和ニトリルを得る:
CH−(CH−CH=CH+CH=CH−CN→
CH−(CH−CH=CH−CN+CH=CH
11飽和ニトリルは、水素化により得る。
【0082】
10ω不飽和α−オレフィンは、酸化的開裂、例えば、以下の(簡易化)反応に従ってオゾン分解に供することもできる:
CH−(CH−CH=CH+O(O)→CH−(CH−COOH+HCOOH。
【0083】
酸をエステル化してCエステルを生じさせ、適切な場合、Cニトリルに変換することができる。
【0084】
上記の通り、C10オレフィンは燃料混合物中に取り込むことができる。このオレフィンは、事前に水素化することができる。
【0085】
エルカ酸は、酸化的開裂、例えば、以下の(簡易化)反応に従って酸化的オゾン分解に供することができる:
CH−(CH−CH=CH−(CH11−COOH+O(O)→
CH−(CH−COOH+COOH−(CH11−COOH
11酸はC11エステルに変換する。
【0086】
ヒドロキシル化脂肪酸のリシノール酸(C18:1個のOH)およびレスクエロール酸(C20:1個のOH)に関しては、適用される方法がわずかに異なる。
【0087】
好ましい代替的処理形態において、リシノール酸のメチルエステルを下記の反応に従って分解に供する:
CH−(CH−CHOH−CH=CH−(CH2)−COOCH(Δ)→
CH−(CH−CHO+CH=CH−(CH−COOCH
アルデヒドを酸化によりC7酸に容易に変換し、次いでCニトリルに変換し、アルデヒド官能基の形成は、カルボキシル官能基からニトリル官能基への変換における中間相である。
【0088】
アルデヒドは、メタノールの作用によりジメチルアセタールに変換することもでき、この生成物を、上記のオレフィンまたはアルカンと同様の手法において燃料混合物中に取り込むことができる。
【0089】
分解から得られたC11ω−不飽和エステルのメチルω−ウンデシレナートは、加水分解してω−ウンデシレン酸を生じさせることができる。こうして得られたエステルの水素化により、C11エステルを得ることが可能になる。このω−ウンデシレン酸は、ω−ウンデシレン酸ニトリルに変換することができる。さらに、このω−不飽和エステルにアクリロニトリルとのメタセシス反応を適用することにより、C12不飽和ニトリル−エステルを得る。
【0090】
レスクエロール酸に適用される同一の方法は、下記の反応をもたらす:
CH−(CH−CHOH−CH=CH−(CH−COOCH(Δ)→
CH−(CH−CHO+CH=CH−(CH10−COOCH
アルデヒドは、上記の通りC7ニトリルに容易に変換し、またはジメチルアセタールに変換する。
【0091】
上記変換を実施するために使用される方法は、当業者に周知である。
【0092】
官能性炭化水素(酸、アルデヒド、アルコール)をニトリル化してこれらをニトリル官能基に変換するための経路は周知である。
【0093】
出発材料として脂肪酸を使用する工業的方法の例は、植物油または動物油から抽出された脂肪酸から出発する脂肪族ニトリルおよび/またはアミンの製造の方法である。この方法は、Kirk−Othmer Encyclopedia,Vol.2,4th edition,page 411に記載されており、1940年代に端を発する。 脂肪族アミンは、幾つかの段階において得る。第1の段階は、植物油または動物性脂肪のメタノール分解または加水分解からなり、それぞれ、脂肪酸のメチルエステルまたは脂肪酸を生成する。続いて、脂肪酸のメチルエステルを加水分解して脂肪酸を形成させることができる。最後に、脂肪酸をアンモニアとの反応によりニトリルに変換する(最後に、こうして得られたニトリルを水素化することによりアミンに変換する。)。
【0094】
ニトリルの合成のための反応スキームは、以下の通り要約することができる:
【化1】
この反応スキームをベースとする方法の2種のタイプ:液相回分法および蒸気相連続法が存在する。
【0095】
これらの方法は、一般にアンモニアまたは尿素から選択されるニトリル化剤を使用し、金属酸化物触媒、例えば、ZnOまたは他のものを用いる。
【0096】
酸化チタンをベースとする触媒法を対象とする特許US6005134(Kao)、酸化ニオブの使用を記載する日本国出願番号10−178414および11−117990(Kao)ならびに酸化ジルコニウムをベースとする触媒を対象とする日本国出願番号9−4965に記載の方法を挙げることもできる。
【0097】
最後に、原料の性質に従ってグリセロールおよび種々の脂肪酸ニトリルの混合物をもたらす、構成成分の動物性脂肪または植物油のトリグリセリドから直接出発するアンモニアおよび有機金属スルホナートをベースとする触媒の存在下での脂肪酸ニトリルの合成を記載する米国特許番号4801730に留意しなければならない。
【0098】
メタセシス反応の触媒作用は、非常に多数の研究の対象および高機能触媒系の開発を形成している。例えば、Schrock et al.(J.Am.Chem.Soc.,108(1986),2771)またはBasset et al.(Angew.Chem.,Ed.Engl.,31(1992),628)により開発されたタングステン錯体を挙げることができる。さらに近年、ルテニウム−ベンジリデン錯体である「グラブス」触媒が現れた(Grubbs et al.,Angew.Chem.,Ed.Engl.,34(1995),2039およびOrganic Lett.,1(1999),953)。これらの触媒は、均一系触媒に関する。アルミナまたはシリカ上に堆積させた金属、例えば、ルテニウム、モリブデンおよびタングステンをベースとする不均一系触媒も開発されている。最後に、固定化触媒、即ち、活性原理が均一系触媒、特にルテニウム−カルベン錯体の原理であるが、不活性支持体上に固定化されている触媒の調製に関する研究が実施されている。これらの研究の目的は、副反応、例えば、一緒に用いられる反応物質間の「ホモメタセシス」反応に関して反応の選択性を増加させることである。これらの研究は、触媒の構造に関するだけでなく、導入することができる反応媒体および添加剤の効果にも関する。
【0099】
上記方法において、任意の活性および選択的メタセシス触媒を使用することができる。しかしながら、好ましくは、ルテニウムベースの触媒を使用する。
【0100】
メタセシス反応は、一般に、20から100℃の間の低温において実施する。
【0101】
これらの方法は、本出願人に代わり出願WO08104722にも記載されている。
【0102】
不飽和脂肪酸を変換する方法の考えられる段階の1つは、分子の二重結合を攻撃して二重結合の分割を達成することによる開裂であり、少なくとも1個の末端酸またはアルデヒド官能基を形成させる。この段階は、分子の二重結合の酸化的開裂を含む。この開裂は、強力な酸化剤、例えば、KMnO、アンモニウムクロロクロマート、過酸化水素水溶液、さらに特定すると、オゾンを使用して実施することができ、従ってオゾン分解という用語が広く用いられる。この開裂は、分解により実施することができるが、ヒドロキシル基が二重結合に対してα位に位置している場合のみである。
【0103】
オゾン分解、より一般には酸化的開裂に関して、以下の刊行物を参照することができる:L.G.Wade Jr.による「Organic Chemistry」,5th edition,Chapter 8,Reactions of Alkenes、G.S.Zhang et al.による Chinese Chemical Letters,Vol.5,No.2,pp.105−108,1994の論文および論文「Aldehydic Materials by the Ozonization of Vegetable Oils」,Journal of the American Oil Chemists’Society,Vol.39,pages 496−500。オゾニドの形成を特徴とする「クリーゲー」反応機序が参照される。
【0104】
この酸化的開裂の使用は、所望の目的、即ち、酸官能基の形成をもたらす酸化的オゾン分解とアルデヒド段階での停止が所望される場合の還元的オゾン分解のいずれかに依存することは明らかである。上記方法において、酸化的開裂は、目標が酸官能基の形成であるかニトリル官能基の形成であるかによって選択される。
【0105】
リシノール酸およびレスクエロール酸の分解方法は、幾つかの段階を含む11−アミノウンデカン酸の合成を対象とするA.Chauvel et al.による著作「Les Procedes de Petrochimie」[Petrochemical Processes](Editions TECHNIP(1986)において掲載)に記載の工業的方法に従って実施する。
【0106】
第1の段階は、塩基性媒体中でのヒマシ油のメタノール分解からなり、メチルリシノレアートを生成し、続いて熱分解に供して一方でヘプタンアルデヒドを、他方でメチルウンデシレナートを生成する。メチルウンデシレナートは、加水分解により酸形態に変化させる。
【0107】
特許出願FR2918058に記載の通り、メタノールによるトランスエステル化によりメチルエステルを得ることが可能になる。リシノール酸トリグリセリド(ヒマシ油)は、ナトリウムメトキシドの存在下で過剰のメタノールによりトランスエステル化する。
【0108】
次いで、エステルを225℃において蒸発させ、続いて過熱蒸気(620℃)と混合する。反応は短く、約10秒である。続いて、メチルウンデセノアートを、最初に媒体を冷却して水の抽出を可能とし、次いで一連の蒸留によりエステルおよび反応副生物の分離を可能とすることにより精製する。
【0109】
混合物を620℃の温度における蒸気の存在下で分解する。メチルエステルの変換度は、70%である。続いて、軽質留分を大気圧において分離し、続いて、主としてヘプタンアルデヒドから構成される軽質留分を減圧において蒸留により分離する。続いて、主にウンデシレン酸のメチルエステルから構成される留分を0.01atmの真空下で蒸留する。最後に、オレイン酸およびリシノール酸のメチルエステルリッチな留分を、未変換のリシノール酸のメチルエステルを含む留分から蒸留し、この未変換のメチルエステルは分解段階に必要に応じて再循環させる。軽質留分は、主に、オレイン酸およびリシノール酸のメチルエステルから構成される。
【0110】
種子が14個超の炭素原子の不飽和脂肪酸を生じさせる任意の植物を使用することができる。しかしながら、リシノール酸80重量%超を含むヒマシ油およびオレイン酸30から50重量%を含むジャトロファ・カルカス(Jatropha curcas)油は、現在の燃料と食料の議論において非常に興味深い非食用油である。さらに、これらの植物は、1ヘクタール当たりの収量が特に高いため、極めて魅力的なものとなっている。これらの植物はまた、極めて不利な土壌中および低降雨量、従って食用植物をほとんど栽培することができず、食料適用との競合も制限する条件下で生長することもできる。
【実施例】
【0111】
本発明の航空燃料を、以下の実施例により説明する。
【0112】
(実施例1)
オレイン酸のニトリルの調製
本実施例においては、オレイン酸76.8%を含む市販のオレイン酸留分を使用する。酸留分を真空下で蒸留してオレイン酸留分を最大85%の含有率まで濃縮する。
【0113】
ニトリル調製は、脂肪族アミンの調製のための慣用の工業的操作である。
【0114】
脂肪酸40トン当たり触媒としてのZnO25kgの慣用の分量(即ち、0.0625%)を使用する。操作は、1000Sm/h(即ち、0.417L/分.kg)のアンモニア流速を用いて実施する。反応器の温度を160℃から最大305℃に約1℃/分ずつ徐々に増加させる。アンモニアの注入を160℃から開始する。反応を、酸価がKOH0.1mg/g以下になるまで、これらの条件下で約13時間維持する。反応の間、分縮器の温度を130℃に維持する。
【0115】
ニトリルの変換に次いで単蒸留を行い、粗製生成物をVigreuxタイプの蒸留塔上で精製し、蒸留物のトッピングを実施する。
【0116】
得られたニトリルの酸価は0.030mgKOH/gであり、ヨウ素価は98gI/100gであり、蒸留収率は90%である。
【0117】
最終生成物は、オレオニトリル約85%、ステアリン酸ニトリル10%およびパルミトレイン酸ニトリル4%を含む。
【0118】
(実施例2)
オレオニトリルのエテノリシス
先の実施例のオレオニトリルを、触媒[1,3−ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)−2−イミダゾリジニリデン]ジクロロ[[2−(1−メチルエトキシ)フェニル]メチレン]ルテニウム、CAS[301224−40−8](式を後述する。)の存在下でのエテノリシスにより1−デセンおよびデセン酸ニトリルに変換する。この操作は、触媒0.5%を有する0.05M濃度のトルエン中で50℃において実施する。22時間後、変換率は99%超であり、計算選択率はデセンについて42%、デセンニトリルについて46%である。
【0119】
【化2】
こうして得られた混合物は、0.78g/mlの密度および−50℃の曇り点を有する。この混合物は、本発明に記載の条件に従ってケロシン中に取り込むことができる。
【0120】
(実施例3)
ウンデシレン酸のニトリルの調製
ArkemaのMarseille St Menet製造所産のウンデシレン酸を使用する。このウンデシレン酸は、ウンデシレン酸のメチルエステルの加水分解により調製する。
【0121】
手順は、先の実施例1と同様である。しかしながら、酸の沸点がより低いため、顕著な還流が発生し、この還流により300℃に到達することができない。12時間後、等重量において、変換すべきモル数がより多くの存在するので、反応は依然として完了しない。残留酸性度は、18時間後に0.2%である。
【0122】
264℃において21時間反応させた後、最終酸価は0.17mgKOH/gである。粗製生成物を上記の通り蒸留により精製する。蒸留は、40mbarの真空下で実施し、蒸留収率は83%である。
【0123】
生成物のNMR分析は、ウンデシレン酸ニトリルの二重結合が部分的に移動したことを示す(反応の間の異性化反応)。最終生成物は、10−ウンデセンニトリル96%および異性体4%(C=C二重結合は、すでに末端ではない。)を含む。
【0124】
こうして得られた混合物は、0.83g/mlの密度および270℃の沸点を有し、本発明に記載の条件に従ってケロシン中に部分的に取り込むことができる。
【0125】
(実施例4)
ウンデシレン酸のメチルエステルの調製
10−ウンデシレン酸のメチルエステルは、上記方法(A.Chauvel et al.による「Les Procedes de Petrochimie」)に従って合成する。
【0126】
最終蒸留から得られた軽質留分は、主に、オレイン酸およびリノール酸のメチルエステルから構成される。ヒマシ油の約15%を表すこの留分は、ケロシン留分中に10−ウンデシレン酸のメチルエステルと一緒に全部または部分的に取り込むことができる。
【0127】
ウンデシレン酸のメチルエステルならびにオレイン酸およびリノール酸のメチルエステルを含むこうして得られた混合物は、0.88g/mlの密度および−20℃の曇り点を有する。この混合物は、本発明に記載の条件に従ってケロシン中に部分的に取り込むことができる。
【0128】
単独で使用される10−ウンデシレン酸のメチルエステルは、ケロシン中により大量に取り込むことができる。
【0129】
(実施例5)
エテノリシスによる9−デセン酸のメチルエステルの調製
本実施例は、メチルオレアートのエテノリシスを説明する。この反応には、錯体触媒[RuCl(=CHPh)(IMesH)(PCy)](式(A)を後述する。)を使用する。反応は、0.05Mのメチルオレアート濃度および0.2Mのエチレン濃度において、メチルオレアートに対して5mol%の濃度の触媒の存在下で、55℃の温度において6時間、CHCl中で実施する。収率は、クロマトグラフィー分析により測定する。メチル9−デセノアートCH=CH−(CH−COOCHおよび1−デセンの収率は、55mol%である。
【0130】
式(A)の触媒:
【0131】
【化3】
式(A)
【0132】
(実施例6)
エテノリシスによる9−デセン酸のメチルエステルの調製
本実験は、グローブボックス内でアルゴン雰囲気下で実施する。活性化アルミナに通して濾過することにより精製したオレイン酸のメチルエステル(15g)を、撹拌ガラス反応器に入れる。メタセシス触媒(参照番号57972−6、CAS[172222−30−9]、Sigma−Aldrichから購入)1000ppm(メチルエステルに対する含有量)の塩素中溶液を調製し、メチルオレアートに添加する。反応器に圧力プローブおよび導入オリフィスを備える。密閉系をグローブボックスから取り出し、エチレンラインに連結する。次いで、反応器をエチレンにより3回パージし、次いで10atmに加圧し、40℃の油浴中に2時間装入する。クロマトグラフィー分析前、トリス(ヒドロキシメチル)ホスフィンのイソプロパノール中1M溶液を添加することにより反応を中断させる。次いで、試料を60℃において1時間加熱し、蒸留水中で希釈し、ヘキサンにより抽出してからガスクロマトグラフィーにより分析する。分析は、1−デセン収率が30%であり、メチル9−デセノアート収率が30%であることを示す。
【0133】
デセン酸のメチルエステルおよび1−デセンの混合物は、ケロシン中に取り込むことができる留分として直接使用することができる。混合物中にオレイン酸のメチルエステルの一部を残すことも可能であり、このことは、1−デセンと10−ウンデシレン酸のメチルエステル留分について高純度を求める必要がないことを意味する。
【0134】
こうして得られたメチルデセノアートおよび1−デセンの等モル混合物は、0.81g/mlの密度および−52℃の曇り点を有する。この混合物は、本発明に記載の条件に従ってケロシン中に取り込むことができる。
【0135】
(実施例7)
酸化的開裂によるノナン酸のメチルエステルの調製
オレイン酸ヒマワリ油1kg(オレイン酸82%、リノール酸10%)を、タングステン酸5gおよび先の合成に由来するヒドロキシル化油50gを有する反応器中に装入する。温度を最大60−65℃に増加させ、次いで50%過酸化水素水溶液280mlを3時間で添加する一方、反応器を窒素によりフラッシュして反応器中の水の存在を制限し、こうして過酸化水素水溶液の希釈を制限する。
【0136】
過酸化水素水溶液の添加が完了したら、反応を3時間継続する。先の段階の終了時に形成された混合物を撹拌オートクレーブ中に装入する。1%酢酸コバルト水溶液300g(即ち、先の段階において生成されたジオールに対してCO0.4mol%)を添加する。温度を70℃に調整し、反応器を12barの空気圧下に装入する。反応が発熱性のため、反応の開始を混合物の温度の増加により観察する。次いで、反応を8時間持続させる。
【0137】
続いて、水相を高温条件下で分離する。水相を有機相から分離する。回収可能な水相は、前段階の触媒を含む。酸化油の有機相は、反応により生成されたアゼライン酸のトリグリセリドを、ペラルゴン酸との混合物として含む。有機相の蒸留により、ペラルゴン酸および他の短鎖脂肪酸の360gの留分の回収が可能になる。
【0138】
続いて、酸をメタノールの存在下でエステル化する。
【0139】
(実施例7a)
オゾン分解によるノナン酸の調製
本実施例は、酸化的オゾン分解によりノナン酸を生じさせるためのオレイン酸の酸化的開裂を説明する。
【0140】
Welsbach T−408オゾン発生器により得られたオゾンを、青色が観察されるまでペンタン25ml中に曝気する。ペンタン溶液を、アセトン/ドライアイス浴により−70℃に維持する。ペンタン5ml中に溶解させ、0℃に冷却したオレイン酸20mgをオゾン溶液に添加する。続いて、過剰のオゾンを除去し、青色が消失する。5分後、ペンタンを乾燥窒素流により蒸発させる。この段階の間、溶液の温度を0℃未満に維持する。ペンタンの蒸発の間、−70℃に冷却したメタノール3mlを、これを再加熱しながら反応器に添加してオゾニドを溶解させる。オゾニドを酸に変換するため、最初の工程は、温度を約60℃に上昇させることである。オゾニドの分解の反応が始まるとき、この分解に温度の上昇が伴う。酸素流を継続的に添加して温度を維持し、オゾニドの分解から得られた生成物を直接酸化する。手順を、4時間にわたり実施して分解生成物の形成を制限する。この段階の間、オゾニドの分解温度をわずかに超える反応温度を維持することが重要である。本実施例においては95℃の温度を使用する。
【0141】
式CH−(CH−COOHの酸6mgを得る。
【0142】
(実施例8)
ノナン酸のエステル化
実施例7aに従って調製したノナン酸を、触媒としての硫酸(2%)の存在下で100の化学量論的過剰でメタノールによりエステル化する。反応を還流下で2時間実施する。反応の終了時、ノナン酸のメチルエステルを、溶媒により抽出し、残留酸を中和し、次いで洗浄することにより単離する。
【0143】
こうして得られたメチルエステルは、0.87g/mlの密度および−35℃の曇り点を有する。このメチルエステルは、本発明に記載の条件に従ってケロシン中に部分的に取り込むことができる。
【0144】
従って、本発明の好ましい実施形態において:
−選択されるエステルは、10−ウンデシレン酸またはウンデカン酸のメチルエステルであり、
−選択されるニトリルは、デカン酸または9−デセン酸のニトリルであり、
−選択されるエステルは、メチルノナノアートであり、
−選択されるニトリルは、ウンデカンニトリルまたは10−ウンデセンニトリルである。