特許第5663538号(P5663538)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5663538
(24)【登録日】2014年12月12日
(45)【発行日】2015年2月4日
(54)【発明の名称】インクジェットヘッド
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/14 20060101AFI20150115BHJP
【FI】
   B41J2/14 301
   B41J2/14 611
   B41J2/14 613
【請求項の数】4
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2012-191806(P2012-191806)
(22)【出願日】2012年8月31日
(65)【公開番号】特開2014-46580(P2014-46580A)
(43)【公開日】2014年3月17日
【審査請求日】2013年5月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003562
【氏名又は名称】東芝テック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100109830
【弁理士】
【氏名又は名称】福原 淑弘
(74)【代理人】
【識別番号】100088683
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140176
【弁理士】
【氏名又は名称】砂川 克
(74)【代理人】
【識別番号】100158805
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 守三
(74)【代理人】
【識別番号】100172580
【弁理士】
【氏名又は名称】赤穂 隆雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100124394
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 立志
(74)【代理人】
【識別番号】100112807
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 貴志
(74)【代理人】
【識別番号】100111073
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 美保子
(72)【発明者】
【氏名】横山 周平
(72)【発明者】
【氏名】田沼 千秋
(72)【発明者】
【氏名】新井 竜一
(72)【発明者】
【氏名】楠 竜太郎
【審査官】 鈴木 友子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−289201(JP,A)
【文献】 特開2010−005900(JP,A)
【文献】 特開2005−306017(JP,A)
【文献】 特開2009−226795(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01 − B41J 2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
取付面と、前記取付面に開口する圧力室とを有し、半導体によって形成された基材と、
前記基材の前記取付面に固定されるとともに前記圧力室を塞ぐ第1の面と、前記第1の面の反対側に位置する第2の面と、を有する振動板と、
前記振動板の前記第2の面に形成された第1の電極と、
前記第1の電極に重ねられた圧電体と、
前記圧電体に重ねられる第2の電極と、
前記振動板の前記第2の面に設けられ、前記第1の電極、前記圧電体、および前記第2の電極を覆う保護膜と、
前記圧力室に連通し、前記振動板および前記保護膜の少なくとも一方に形成された、インクを吐出するためのノズルと、
前記基材の前記取付面に設けられ、前記第1の電極または前記第2の電極に駆動電圧を印加することで、前記圧電体を変形させて前記圧力室の容積を増大または減少させる駆動回路と、
を具備し、
前記振動板が前記駆動回路を覆うことを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項2】
前記駆動回路は、前記基材に形成された複数の半導体素子を有することを特徴とする請求項1に記載のインクジェットヘッド。
【請求項3】
前記振動板は、前記複数の半導体素子の間を隔てることを特徴とする請求項に記載のインクジェットヘッド。
【請求項4】
前記半導体素子がCMOSトランジスタを有することを特徴とする請求項に記載のインクジェットヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、インクジェットヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
画像信号に従ってノズルからインク滴を吐出させて、記録紙上にインク滴による画像を形成するオンデマンド型インクジェット記録方式が知られている。オンデマンド型インクジェット記録方式として発熱素子型と圧電素子型とが知られる。
【0003】
発熱素子型においては、インク流路に設けられた発熱体によってインク中に気泡が発生し、その気泡によって押されたインクがノズルから吐出される。圧電素子型においては、圧電素子が変形することでインク室に貯蔵されたインクに圧力変化が生じ、インクがノズルから吐出する。
【0004】
圧電素子(ピエゾ素子)は、電気−機械変換素子であり、電界を加えられると、伸張または剪断変形を起こす。代表的な圧電素子として、チタン酸ジルコン酸鉛が使われている。
【0005】
圧電素子を利用したインクジェットヘッドとして、圧電性材料で形成されたノズルプレートを用いた構成が知られている。当該インクジェットヘッドのノズルプレートは、例えば、インクを吐出させるノズルを備える圧電体膜と、前記ノズルを囲むように前記圧電性膜の両面に形成された金属電極膜と、を有するアクチュエータを備える。
【0006】
上記インクジェットヘッドは、前記ノズルに接続された圧力室を有する。インクが圧力室とノズルプレートのノズルに入り込み、ノズル内でメニスカスを形成してノズル内に維持される。ノズル周囲に設けた二つの電極に駆動波形(電圧)を印加すると、当該電極を介して分極の方向と同方向の電界が圧電体膜に印加される。これにより、アクチュエータは電界方向と直交する方向に伸縮する。この伸縮を利用してノズルプレートが変形する。ノズルプレートが変形することで圧力室内のインクに圧力変化が発生し、ノズル内のインクが吐出される。
【0007】
駆動波形を前記電極に印加する駆動回路は、ICのような電子部品に形成される。当該電子部品は、例えばフレキシブルプリント配線板またはその他の配線を介して、前記電極に接続される。フレキシブルプリント配線板を利用する場合、例えばアクチュエータを有するノズルプレートに形成されたパッドに、当該フレキシブルプリント配線板が接続される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2012−71587号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
インク吐出時の消費電力の低い圧電素子型インクジェットを、精度良く且つ安価に形成することに関して、インクジェットヘッドには未だ改良の余地がある。
【0010】
本発明の目的は、吐出時の消費電力を低減できるインクジェットヘッドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
一つの実施の形態に係るインクジェットヘッドは、基材と、振動板と、第1の電極と、圧電体と、第2の電極と、保護膜と、ノズルと、駆動回路とを備える。前記基材は、取付面と、前記取付面に開口する圧力室とを有し、半導体によって形成される。前記振動板は、前記基材の前記取付面に固定されるとともに前記圧力室を塞ぐ第1の面と、前記第1の面の反対側に位置する第2の面と、を有する。前記第1の電極は、前記振動板の前記第2の面に形成される。前記圧電体は前記第1の電極に重ねられる。前記第2の電極は前記圧電体に重ねられる。前記保護膜は、前記振動板の前記第2の面に設けられ、前記第1の電極、前記圧電体、および前記第2の電極を覆う。前記ノズルは、前記圧力室に連通し、前記振動板および前記保護膜の少なくとも一方に形成され、インクを吐出する。前記駆動回路は、前記基材の前記取付面に設けられ、前記第1の電極または前記第2の電極に駆動電圧を印加することで、前記圧電体を変形させて前記圧力室の容積を増大または減少させる。前記振動板が前記駆動回路を覆う。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1の実施の形態に係るインクジェットヘッドを分解して示す斜視図。
図2】第1の実施形態のインクジェットヘッドを示す平面図。
図3】第1の実施形態のインクジェットヘッドを図2のF3−F3線に沿って示す断面図。
図4】第1の実施形態の駆動回路の構成を概略的に示す図。
図5】第1の実施形態のインクジェットヘッドの一部を拡大して示す断面図。
図6】第1の実施形態の製造過程のインクジェットヘッドを示す断面図。
図7】第2の実施の形態に係るインクジェットヘッドを示す平面図。
図8】第3の実施の形態に係るインクジェットヘッドを示す平面図。
図9】第4の実施の形態に係るインクジェットヘッドを示す断面図。
図10】第5の実施の形態に係るインクジェットヘッドを分解して示す斜視図。
図11】第5の実施形態のインクジェットヘッドを示す平面図。
図12】第5の実施形態のインクジェットヘッドを図11のF12−F12線に沿って示す断面図。
図13】第5の実施形態のインクジェットヘッドを図11のF13−F13線に沿って示す断面図。
図14】第6の実施の形態に係るインクジェットヘッドを示す断面図。
図15】第7の実施の形態に係るインクジェットヘッドを分解して示す斜視図。
図16】第8の実施の形態に係るインクジェットヘッドを分解して示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、第1の実施の形態について、図1から図6を参照して説明する。なお、複数の表現が可能な各要素について一つ以上の他の表現の例を付すことがあるが、これは他の表現が付されていない要素について異なる表現がされることを否定するものではないし、例示されていない他の表現がされることを制限するものでもない。
【0014】
図1は、第1の実施の形態に係るインクジェットヘッド1を分解して示す斜視図である。図2は、インクジェットヘッド1の平面図である。図3は、図2のF3−F3線に沿ってインクジェットヘッド1を概略的に示す断面図である。なお、図1および図2において、説明のために、本来は隠れている種々の要素を実線で示す。
【0015】
図1に示すように、インクジェットヘッド1は、ノズルプレート100と圧力室構造体200と、セパレートプレート300と、インク供給路構造体400とを備えている。圧力室構造体200は、基材の一例である。圧力室構造体200と、セパレートプレート300と、インク供給路構造体400とは、例えばエポキシ系接着剤で固定されている。
【0016】
ノズルプレート100は、矩形の板状に形成されている。ノズルプレート100は、圧力室構造体200の上に、後述する成膜プロセスによって形成される。このため、ノズルプレート100は、圧力室構造体200に固着している。
【0017】
ノズルプレート100に、インク吐出用の複数のノズル(インク吐出孔)101がある。ノズル101は、円形の孔であり、ノズルプレート100をその厚さ方向に貫通している。ノズル101の直径は、例えば20μmである。
【0018】
圧力室構造体200は、シリコンウエハによって矩形の板状に形成されている。圧力室構造体200は、インクジェットヘッド1の製造過程において、繰り返し加熱および薄膜の成膜がなされる。このため、シリコンウエハは、耐熱性を有し、SEMI(Semiconductor Equipment and Materials International)規格に準じ、平滑化されたものである。なお、圧力室構造体200はこれに限らず、炭化シリコン(SiC)ゲルマニウム基板のような他の半導体によって形成されても良い。圧力室構造体200の厚さは、例えば525μmである。
【0019】
圧力室構造体200は、ノズルプレート100に面する取付面200aと、複数の圧力室201とを有している。取付面200aに、ノズルプレート100が固着している。
【0020】
圧力室201は、円形の孔であるが、他の形状に形成されても良い。圧力室201の直径は、例えば240μmである。圧力室201は、取付面200aに開口しており、ノズルプレート100に塞がれている。
【0021】
複数の圧力室201は、複数のノズル101と対応するように配置され、複数のノズル101と同一軸上にそれぞれ配置されている。このため、圧力室201に、対応するノズル101が開口している。
【0022】
セパレートプレート300は、ステンレスによって矩形の板状に形成されている。セパレートプレート300の厚さは、例えば200μmである。セパレートプレート300は、ノズルプレート100の反対側から、複数の圧力室201を塞いでいる。
【0023】
セパレートプレート300に、複数のインク絞り(圧力室201へのインク供給孔)301がある。複数のインク絞り301は、圧力室201にそれぞれ対応して配置される。このため、圧力室201に、インク絞り301が開口している。インク絞り301の直径は、例えば60μmである。インク絞り301は、それぞれの圧力室201へのインク流路抵抗がほぼ同程度になるように形成される。
【0024】
インク供給路構造体400は、ステンレスによって矩形の板状に形成されている。インク供給路構造体400の厚さは、例えば4mmである。インク供給路構造体400に、インク供給口401と、インク供給路402とがある。
【0025】
インク供給口401は、インク供給路402の中央部分に開口している。インク供給口401は、画像形成のためのインクが貯蔵されたインクタンクに接続され、インク供給路402にインクを供給する。
【0026】
インク供給路402は、インク供給路構造体400の表面から2mmの深さで形成されており、全てのインク絞り301を囲んでいる。言い換えると、全てのインク絞り301は、インク供給路402に開口している。このため、インク供給口401は、インク絞り301を介して、全ての圧力室201にインクを供給する。また、インク供給口401は、それぞれの圧力室201へのインク流路抵抗がほぼ同程度になるように形成されている。
【0027】
上記のように、セパレートプレート300およびインク供給路構造体400はステンレスによって形成される。しかし、これらの要素300,400の材料は、ステンレスに限定されない。要素300,400はノズルプレート100との膨張係数の差を考慮して、インク吐出圧力発生に影響しない範囲で、セラミックス、樹脂、または金属(合金)のような他の材料によって形成されても良い。使用されるセラミックスは、例えば、アルミナセラミックス、ジルコニア、炭化ケイ素、窒化ケイ素、およびチタン酸バリウムのような窒化物、酸化物である。使用される樹脂は、例えば、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)、ポリアセタール、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエーテルサルフォンのようなプラスチック材である。使用される金属は、例えば、アルミまたはチタンである。
【0028】
圧力室201は供給されたインクを保持する。そしてノズルプレート100の変形によって各圧力室201内のインクに圧力変化が発生すると、圧力室201内のインクが、各ノズル101から吐出される。セパレートプレート300は、圧力室201内に発生した圧力を閉じ込めて、当該圧力がインク供給路402へ逃げることを抑制する。このため、インク絞り301の直径は、圧力室201の直径の1/4以下である。
【0029】
なお、インク供給路構造体400は、インクを循環するように形成されても良い。この場合のインク供給路構造体400は、インク供給口401に加えて、インク排出口を有する。これにより、インク供給路402内でインクが循環される。
【0030】
インクが循環することにより、インク供給路402内のインク温度を一定に保つことができる。このようなインクジェットヘッド1は、図1のインクジェットヘッド1と比べて、ノズルプレート100の変形によって発生した熱による、インクジェットヘッド1の温度上昇を抑制する。
【0031】
次に、ノズルプレート100および駆動回路103について説明する。図2および図3に示すように、ノズルプレート100は、上記の複数のノズル101と、複数のアクチュエータ102と、複数のパッド部104と、二つの共有電極端子部105と、共有電極106と、配線電極端子部107と、複数の配線電極108と、振動板(CMOSパッシベーション層)109と、保護膜113と、撥インク膜116とを有している。共有電極106は、第1の電極の一例である。配線電極108は、第2の電極の一例である。
【0032】
振動板109は、圧力室構造体200の取付面200aの上に、矩形の板状に形成されている。振動板109の厚さは、例えば2μmである。振動板109の厚さは、概ね1〜50μmの範囲である。
【0033】
振動板109は、第1の面501と、第2の面502とを有している。第1の面501は、取付面200aに固着するとともに圧力室201を塞いでいる。第2の面502は、第1の面501の反対側に位置している。アクチュエータ102と、共有電極106と、配線電極108とは、振動板109の第2の面502に形成されている。
【0034】
複数のアクチュエータ102は、複数の圧力室201および複数のノズル101に対応して設けられている。アクチュエータ102は、ノズル101からインクを吐出させるための圧力を、圧力室201に発生させる。
【0035】
図2に示すように、アクチュエータ102は、円環状に形成されている。アクチュエータ102は、対応するノズル101と同軸上に配置される。このため、アクチュエータ102の内側に、ノズル101が設けられている。
【0036】
より高密度にノズル101を配置するために、ノズル101は千鳥状(互い違い)に配置されている。言い換えると、図2のX軸方向に複数のノズル101が直線状に配置される。Y軸方向に、二つの直線状のノズル101の列がある。X軸方向で隣接するノズル101の中心間距離は、例えば340μmである。Y軸方向でノズル101の二つの列の配置間隔は、例えば240μmである。
【0037】
図3に示すように、アクチュエータ102は、圧電体膜111と、共有電極106の電極部分106aと、配線電極108の電極部分108aと、絶縁膜112とを有している。圧電体膜111は、圧電体の一例である。
【0038】
圧電体膜111は、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)によって膜状に形成されている。なお、圧電体膜111はこれに限らず、例えば、PTO(PbTiO:チタン酸鉛)、PMNT(Pb(Mg1/3Nb2/3)O−PbTiO)、PZNT(Pb(Zn1/3Nb2/3)O−PbTiO)、ZnO、およびAlNのような種々の材料によって形成されても良い。
【0039】
圧電体膜111は、円環状に形成されている。圧電体膜111は、ノズル101および圧力室201と同軸上に配置されている。言い換えると、圧電体膜111は、ノズル101を囲んでいる。圧電体膜111の直径は、例えば170μmである。圧電体膜111の内周部分は、ノズル101から僅かに離れている。
【0040】
圧電体膜111の厚さは、例えば1μmである。圧電体膜の厚さは、圧電特性と絶縁破壊電圧などによって決定される。圧電体膜の厚さは、概ね0.1μmから5μmの範囲である。
【0041】
圧電体膜111は、配線電極108の電極部分108aと共有電極106の電極部分106aとによって挟まれている。言い換えると、圧電体膜111に、配線電極108の電極部分108aと共有電極106の電極部分106aとが重ねられている。
【0042】
成膜された圧電体膜111は、その厚み方向に分極を発生させる。配線電極108および共有電極106を介して当該分極の方向と同方向の電界を圧電体膜111に印加すると、アクチュエータ102は電界方向と直交する方向に伸縮する。アクチュエータ102の伸縮により、振動板109が、ノズルプレート100の厚み方向に変形する。これにより、圧力室201内のインクに圧力変化が生じる。
【0043】
アクチュエータ102に含まれる圧電体膜111の動作についてさらに説明する。圧電体膜111は膜厚に対して直交する方向(面内方向)に収縮または伸張する。圧電体膜111が収縮すると、圧電体膜111が結合された振動板109は圧力室201を拡張する方向へ湾曲する。圧力室201を拡張する湾曲は圧力室201内に貯留されたインクに負圧力を発生させる。発生した負圧によりインク供給路構造体400からインクが圧力室201内に供給される。圧電体膜111が伸張すると、圧電体膜111に結合された振動板109は圧力室201の方向へ湾曲する。振動板109の圧力室201方向への湾曲は圧力室201内に貯留されたインクに正圧力を発生させる。発生した正圧により振動板109に設けられたノズル101からインク滴が吐出する。圧力室201の拡張または収縮時、振動板109のノズル101近傍は圧電体膜111の変位によってインクが吐出する方向に変形することになる。言い換えれば、インクを吐出させるアクチュエータ102はベンディングモードで動作している。
【0044】
配線電極108の電極部分108aは、圧電体膜111に繋がる二つの電極の一方である。配線電極108の電極部分108aは、圧電体膜111よりも大きい円環状に形成され、圧電体膜111の吐出側(インクジェットヘッド1の外に向く側)に成膜されている。電極部分108aの外径は、例えば174μmである。
【0045】
共有電極106の電極部分106aは、圧電体膜111に繋がる二つの電極の一方である。共有電極106の電極部分106aは、圧電体膜111よりも小さい円環状に形成され、振動板109の第2の面502に成膜されている。共有電極106の電極部分106aは、振動板109の第2の面502に形成されている。電極部分106aの外径は、例えば166μmである。
【0046】
絶縁膜112は、圧電体膜111が形成された領域の外側において、共有電極106と配線電極108との間に介在している。すなわち、共有電極106と配線電極108との間は、圧電体膜111または絶縁膜112によって絶縁される。絶縁膜112は、例えばSiO(酸化ケイ素)によって形成される。絶縁膜112は、他の材料によって形成されても良い。絶縁膜112の厚みは、例えば0.2μmである。
【0047】
図3に示すように、圧力室構造体200の取付面200aに、駆動回路103が設けられている。駆動回路103は、例えば、インクジェットヘッド1を駆動するための、論理回路、設定回路、およびアナログ回路を有する半導体集積回路である。また、振動板109に、相互接続層110が設けられている。相互接続層110は、駆動回路103に接続されて形成されている。駆動回路103および相互接続層110については、後で詳述する。
【0048】
パッド部104は、相互接続層110に接続されている。パッド部104は、駆動回路103に、電源接続、グランド接続、および入出力信号の送受信を行うための電極である。パッド部104に、例えば、インクジェットプリンタの制御部に接続された配線が接続される。
【0049】
配線電極端子部107は、配線電極108の端部に設けられ、相互接続層110に接続されている。配線電極端子部107は、駆動回路103のアナログ回路出力に接続され、アクチュエータ102を駆動させるための信号を伝送する。
【0050】
図2に示すように、複数の配線電極端子部107のそれぞれの間隔は、ノズル101のX軸方向の間隔と同じである。配線電極108の幅に比べて、配線電極端子部107のX軸方向の幅は広い。このため、配線電極端子部107は、相互接続層110に容易に接続される。
【0051】
共有電極端子部105は、例えば、振動板109の第2の面502に設けられている。共有電極端子部105は、共有電極106の端部であって、GND(グランド接地=0V)に接続される。
【0052】
配線電極108は、対応するアクチュエータ102の圧電体膜111に個別に繋がり、アクチュエータ102を駆動するための信号を伝送する。配線電極108は、圧電体膜111を独立に動作させるための個別電極として用いられる。複数の配線電極108は、上記の電極部分108aと、配線部と、上記の配線電極端子部107とをそれぞれ有している。
【0053】
配線電極108の配線部は、電極部分108aから配線電極端子部107に向かって延びている。配線電極108の電極部分108aは、ノズル101と同心軸上に配置される。電極部分108aの内周部分は、ノズル101から僅かに離れている。
【0054】
複数の配線電極108は、Pt(白金)の薄膜によって形成されている。なお、配線電極108は、Ni(ニッケル)、Cu(銅)、Al(アルミニウム)、Ag(銀)、Ti(チタン)、W(タンタル)、Mo(モリブデン)、Au(金)のような他の材料によって形成されても良い。配線電極108の厚さは、例えば0.5μmである。複数の配線電極108の膜厚は、概ね0.01〜1μmである。
【0055】
共有電極106は、複数の圧電体膜111に繋がる。共有電極106は、上記の複数の電極部分106aと、複数の配線部と、上記の二つの共有電極端子部105とを有している。
【0056】
共有電極106の配線部は、電極部分106aから配線電極108の配線部の反対側に延びている。共有電極106の配線部は、図2に示すノズルプレート100のY軸方向端部で合体し、ノズルプレート100のX軸方向両端部に沿って延びている。電極部分106aは、ノズル101と同一軸上に設けられる。電極部分106aの内周部分は、ノズル101から僅かに離れている。共有電極端子部105は、ノズルプレート100のX軸方向両端にそれぞれ配置されている。
【0057】
共有電極106は、Pt(白金)/Ti(チタン)薄膜によって形成されている。共有電極106は、Ni、Cu、Al、Ti、W、Mo、Auのような他の材料によって形成されても良い。共有電極106の厚さは、例えば0.5μmである。共有電極106の厚さは、概ね0.01から1μmである。
【0058】
配線電極108および共有電極106のそれぞれの配線部の幅は、例えば80μmである。幾つかの配線電極108および共有電極106は、並んだアクチュエータ102の間を通して配線される。
【0059】
図3に示すように、保護膜113は、振動板109の第2の面502に設けられている。保護膜113は、ポリイミドによって形成されている。保護膜113はこれに限らず、樹脂、セラミックス、金属(合金)のような他の材料によって形成されても良い。利用される樹脂は、例えば、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)、ポリアセタール、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエーテルサルフォンなどのプラスチック材である。利用されるセラミックスは、例えば、ジルコニア、炭化ケイ素、窒化ケイ素、チタン酸バリウム、などの窒化物、酸化物である。利用される金属は、例えば、アルミ、SUS、またはチタンである。
【0060】
保護膜113の材料は、振動板109の材料とヤング率が大きく異なる。板形状の変形量は、材料のヤング率と板厚とが影響する。同じ力がかかった場合でも、ヤング率が小さい程、そして板厚が薄い程、変形が大きい。振動板109を形成するSiOのヤング率は80.6GPa、保護膜113を形成するポリイミドのヤング率は4GPaである。すなわち、振動板109と保護膜113とのヤング率の差は76.6GPaである。
【0061】
保護膜113の厚さは、例えば3μmである。保護膜113の厚さは、概ね1〜50μmの範囲である。保護膜113は、振動板109の第2の面502と、共有電極106と、配線電極108と、圧電体膜111とを覆っている。
【0062】
撥インク膜116は、保護膜113の表面を覆っている。撥インク膜116は、撥液性を有するシリコーン系撥液材料によって形成される。なお、撥インク膜116は、フッ素含有系有機材料のような他の材料によって形成されても良い。撥インク膜116の厚さは、例えば1μmである。
【0063】
撥インク膜116は、パッド部104と、パッド部104の周辺の保護膜113を覆わずに露出させている。ノズル101は、振動板109、保護膜113、および撥インク膜116を貫通している。
【0064】
図4は、駆動回路103の構成を概略的に示す図である。図4に示すように、駆動回路103は、設定回路601と、シフトレジスタ602と、ラッチ&分割振分け603と、スイッチ制御604と、レベルシフト回路605と、出力回路606とを有している。
【0065】
設定回路601およびシフトレジスタ602は、外部回路10に接続されている。外部回路10は、例えばインクジェットヘッドの制御部であり、ユーザの操作やあらかじめ設定されたプログラムに応じた電気信号を出力する。出力回路606は、配線電極108を介して、アクチュエータ102に接続される。
【0066】
図5は、駆動回路103の周辺を拡大して示すインクジェットヘッド1の断面図である。なお、図5において、圧力室構造体200は、説明のためにハッチングを省略されている。
【0067】
図5に示すように、駆動回路103は、CMOSトランジスタ700を有している。図5に示すCMOSトランジスタ700は、出力回路606に含まれる。駆動回路103は、他の複数のCMOSトランジスタおよび配線パターンを有している。また、駆動回路103は、例えばMESFETトランジスタのような他の半導体素子を有しても良い。
【0068】
CMOSトランジスタ700は、シリコンウエハによって形成された圧力室構造体200の取付面200aに直接形成されている。言い換えると、p型シリコンウエハによって形成された圧力室構造体200に、例えばイオン注入を含む種々の加工を施すことで、CMOSトランジスタ700が作り込まれる。CMOSトランジスタ700はゲート701を通じてレベルシフト回路605に接続されている。
【0069】
CMOSトランジスタ700は、プラグ702を介してドレイン703に接続されている。ドレイン703に、配線電極端子部107が接続される。これにより、CMOSトランジスタ700が配線電極108を介してアクチュエータ102に接続される。
【0070】
図5に示すように、振動板109は、第1層706と、第2層707と、第3層708とを有している。第1ないし第3層706〜708は、SiOによって形成されている。なお、第1ないし第3層706〜708はこれに限らず、SiN(窒化ケイ素)、Al(酸化アルミニウム)、HfO(酸化ハフニウム)、DLC(Diamond Like Carbon)によって形成されても良い。振動板109の材料選択は、例えば、耐熱性、絶縁性(導電率の高いインクを使用した場合における、アクチュエータ102の駆動によるインク変質の影響を考慮)、熱膨張係数、平滑性、インクに対する濡れ性が考慮される。また、第1ないし第3層706〜708の材料がそれぞれ異なっても良い。
【0071】
第1層706は、圧力室構造体200の取付面200aに接している。第1層706は、CMOSトランジスタ700を形成する複数の突出部の間の隙間、およびCMOSトランジスタ700と他のCMOSトランジスタとの間の隙間に入り込む。言い換えると、第1層706は、複数の半導体素子の間を隔てる。第1層706は、いわゆる素子分離として利用される。
【0072】
第2層707は、第1層706に積層され、ゲート701を覆う。第2層707は、CMOSトランジスタ700とドレイン703との間に介在する。第2層707は、いわゆる層間絶縁膜として利用される。プラグ702は、第1および第2層706,707を貫通する。
【0073】
第3層708は、第2層707に積層され、CMOSトランジスタ700に接続されるpチャンネルドレインやnチャンネルドレインを覆う。言い換えると、第3層708は、駆動回路103を覆っている。第3層708は、いわゆるパッシベーション層として利用される。なお、第1ないし第3層706〜708がCMOSトランジスタ700を覆って保護する絶縁膜であるので、振動板109はパッシベーション層と呼称され得る。ドレイン703は、第3層708から露出されている。
【0074】
図5において、駆動回路103および相互接続層110は、二点鎖線で示される。すなわち、CMOSトランジスタ700および複数の他のCMOSトランジスタを含む部分が駆動回路103として示され、CMOSトランジスタ700と配線電極108とを接続するドレイン703を含む部分が相互接続層110として示される。しかし、図5における駆動回路103および相互接続層110は、説明の便宜上示されたものであり、それぞれを厳密に規定したものではない。駆動回路103は、CMOSトランジスタ700を含み、アクチュエータ102を駆動させるための信号を出力する回路である。相互接続層110は、駆動回路103と配線電極端子部107との間に介在する部分である。
【0075】
上述のインクジェットヘッド1は、次のように印字(画像形成)を行う。インクジェットプリンタのインクタンクから、インクがインク供給路構造体400のインク供給口401に供給される。インクは、インク絞り301を通って、圧力室201に供給される。圧力室201に供給されたインクは、対応するノズル101内に供給され、ノズル101にメニスカスを形成する。インク供給口401から供給されるインクは適切な負圧となるように保たれ、ノズル101内のインクはノズル101から漏れることなく保たれる。
【0076】
例えばユーザの操作により、外部回路10が駆動回路103に印字指示信号を入力する。印字指示を受けた駆動回路103は、配線電極108を介して、アクチュエータ102に信号を出力する。言い換えると、駆動回路103は、配線電極108の電極部分108aに電圧を印加する。これにより、圧電体膜111に分極方向と同方向の電界が印加され、アクチュエータ102が電界方向と直交する方向に伸縮する。
【0077】
アクチュエータ102は、振動板109と保護膜113に挟まれている。このため、アクチュエータ102が電界方向と直交する方向に伸びた場合、振動板109に、圧力室201側に対して凹形状に変形する力がかかる。反対に、保護膜113に、圧力室201側に対して凸形状に変形する力がかかる。アクチュエータ102が電界方向と直交する方向に縮んだ場合、振動板109に、圧力室201側に対して凸形状に変形する力がかかる。また、保護膜113に、圧力室201側に対して凹形状に変形する力がかかる。
【0078】
保護膜113のポリイミド膜は、振動板109のSiO膜よりヤング率が小さい。このため、同じ力に対して保護膜113の方が変形量は大きい。アクチュエータ102が電界方向と直交する方向に伸びた場合、ノズルプレート100は圧力室201側に対して凸形状に変形する。これにより、圧力室201の容積が縮まる(保護膜113が圧力室201側に対して凸形状に変形する量の方が大きいため)。反対に、アクチュエータ102が電界方向と直交する方向に縮んだ場合、ノズルプレート100は圧力室201側に対して凹形状に変形する。これにより、圧力室201の容積が広がる(保護膜113が圧力室201側に対して凹形状に変形する量の方が大きいため)。
【0079】
振動板109が変形して圧力室201の容積が増減すると、圧力室201のインクに圧力変化が生じる。当該圧力変化によって、ノズル101に供給されたインクが吐出される。
【0080】
振動板109と保護膜113のヤング率の差が大きい程、同じ電圧をアクチュエータ102に印加した際の振動板109の変形量の差が大きくなる。そのため、振動板109と保護膜113のヤング率の差が大きいほど、より低い電圧でのインク吐出が可能となる。
【0081】
振動板109と保護膜113の膜厚とヤング率が同じ場合、アクチュエータ102に電圧印加しても、振動板109と保護膜113は正反対の方向に同じ量変形する力がかかるため、振動板109は変形しない。
【0082】
なお、上述したように、板材の変形量は、材料のヤング率だけでなく、板厚も影響する。そのため、振動板109と保護膜113の変形量に差をつける場合は、材料のヤング率だけでなく、それぞれの膜厚も考慮される。振動板109と保護膜113の材料のヤング率が同じでも、膜厚に違いがあればインク吐出可能である。
【0083】
次に、インクジェットヘッド1の製造方法の一例について説明する。図6は、製造過程におけるインクジェットヘッド1を示している。図6に示すように、圧力室201が形成される前の圧力室構造体200(シリコンウエハ)に、駆動回路103を形成する。駆動回路103は、上述のように、圧力室構造体200に、例えばイオン注入を含む種々の加工を施すことで作り込まれる。
【0084】
振動板109を形成するSiO膜は、CVD法によって、圧力室構造体200の取付面200aの全域に成膜される。振動板109の第1ないし第3層706〜708は、駆動回路103を製造する工程において形成される。当該工程において、ゲート701、プラグ702、およびドレイン703も形成される。
【0085】
次に、振動板109のSiO膜をパターニングし、ノズル101を形成する。また、パッド部104および配線電極端子部107が設けられる部分をパターニングする。パターニングは、SiO膜上にエッチングマスクを作り、エッチングマスク以外のSiO膜をエッチングによって除去することで行う。
【0086】
次に、振動板109の第2の面502に、共有電極106を成膜する。まず、スパッタリング法を用いてTiとPtを順番に成膜する。Tiの膜厚は例えば0.45μm、Pt膜厚は例えば0.05μmである。なお、共有電極106は、蒸着および鍍金のような他の製法によって形成されても良い。
【0087】
共有電極106を成膜した後に、パターニングによって、複数の電極部分106a、配線部、二つの共有電極端子部105を形成する。パターニングは、電極膜上にエッチングマスクを作り、エッチングマスク以外の電極材料をエッチングによって除去することで行う。
【0088】
共有電極106の電極部分106aの中心にノズル101が形成されるため、電極部分106aの中心と同心円の、直径34μmの電極膜がない部分が形成される。共有電極106をパターニングすることで、共有電極106の電極部分106a、配線部、および共有電極端子部105以外では、振動板109が露出している。
【0089】
次に、共有電極106上に圧電体膜111を形成する。圧電体膜111は、例えばRFマグネトロンスパッタリング法により基板温度350℃で成膜される。圧電体膜111は、成膜後、圧電体膜111に圧電性を付与するために、500℃で3時間熱処理される。これにより、圧電体膜111は良好な圧電性能を得る。圧電体膜111は、例えば、CVD(化学的気相成長法)、ゾルゲル法、AD法(エアロゾルデポジション法)、水熱合成法のような他の製法によって形成されても良い。圧電体膜111を、エッチングによってパターニングする。
【0090】
圧電体膜111の中心にはノズル101が形成されるため、圧電体膜111と同心円の直径30μmの圧電体膜がない部分が形成される。圧電体膜111のない部分では、振動板109が露出している。圧電体膜111がない部分の直径は30μmである。圧電体膜111は、共有電極106の電極部分106aを覆う。
【0091】
次に、圧電体膜111の一部と共有電極106の一部との上に、絶縁膜112を形成する。絶縁膜112は、良好な絶縁性を低温成膜にて実現できるCVD法によって形成される。絶縁膜112は、成膜後にパターニングされる。パターニング加工バラツキによる不具合を抑制するため、絶縁膜112は圧電体膜111を一部覆う。絶縁膜112は、圧電体膜111の変形量を阻害しない程度に圧電体膜111を覆う。
【0092】
次に、振動板109、圧電体膜111、および絶縁膜112の上に配線電極108を形成する。配線電極108は、スパッタリング法によって成膜される。配線電極108は、真空蒸着および鍍金のような他の製法によって形成されても良い。
【0093】
成膜された配線電極108をパターニングすることで、電極部分108a、配線部、および配線電極端子部107を形成する。また、配線電極108を形成する電極膜をパターニングすることで、パッド部104を形成する。パターニングは、電極膜上にエッチングマスクを作り、エッチングマスク以外の電極材料をエッチングによって除去することで行う。
【0094】
配線電極108の電極部分108aの中心にノズル101が形成されるため、配線電極108の電極部分108aの中心と同心円の直径26μmの電極膜がない部分が形成される。配線電極108の電極部分108aは、圧電体膜111を覆う。
【0095】
次に、振動板109、配線電極108、共有電極106、および絶縁膜112の上に保護膜113を成膜する。保護膜113は、ポリイミド前駆体を含有した溶液をスピンコーティング法によって成膜した後に、ベークによって熱重合と溶剤除去を行って形成する。スピンコーティング法で成膜することにより、表面が平滑な膜が形成される。保護膜113は、例えば、CVD、真空蒸着、および鍍金のような他の方法によって形成されても良い。
【0096】
次に、パターニングによって、パッド部104を露出させるとともに、ノズル101を開口させる。保護膜113に非感光性ポリイミドを使用した場合において、パターニングは、非感光性ポリイミド膜上にエッチングマスクを作り、エッチングマスク以外のポリイミド膜をエッチングによって除去することで行われる。
【0097】
次に、保護膜113の上に保護膜カバーテープ114を貼り付ける。保護膜カバーテープ114が貼り付けられた圧力室構造体200を上下反転し、圧力室構造体200に複数の圧力室201を形成する。
【0098】
圧力室201は、パターニングによって形成される。まず、保護膜113の上に保護膜カバーテープ114を貼り付ける。保護膜カバーテープ114は、例えば、シリコンウエハの化学機械研磨(Chemical Mecanical Polishing:CMP)用の裏面保護テープである。
【0099】
シリコンウエハである圧力室構造体200上にエッチングマスクを作り、シリコン基板専用のいわゆる垂直深堀ドライエッチングを用いて、エッチングマスク以外のシリコンウエハを除去する。これにより、圧力室201が形成される。
【0100】
上記エッチングに用いられるSF6ガスは、振動板109のSiO膜や保護膜113のポリイミド膜に対してはエッチング作用を及ぼさない。そのため、圧力室201を形成するシリコンウエハのドライエッチングの進行は、振動板109で止まる。
【0101】
なお、上述のエッチングは、薬液を用いるウェットエッチング法、プラズマを用いるドライエッチング法のような、種々の方法を用いて良い。絶縁膜、電極膜、圧電体膜などの材料によって、エッチング方法やエッチング条件を変えて良い。各感光性レジスト膜によるエッチング加工が終了した後、残った感光性レジスト膜は溶解液によって除去される。
【0102】
次に、圧力室構造体200に、セパレートプレート300およびインク供給路構造体400を接着する。すなわち、インク供給路構造体400が接着されたセパレートプレート300を、エポキシ樹脂剤で圧力室構造体に接着する。
【0103】
次に、保護膜113にパッド部カバーテープ115を貼り付け、パッド部104と共有電極端子部105とを覆う。パッド部カバーテープ115は樹脂によって形成され、保護膜113から容易に脱着可能である。パッド部カバーテープ115は、パッド部104および共有電極端子部105へのゴミの付着や、後述する撥インク膜116の付着を防止する。
【0104】
次に、保護膜113上に撥インク膜116を形成する。撥インク膜116は、保護膜113上に液状の撥インク膜材料をスピンコーティングすることによって成膜される。この際、インク供給口401より陽圧空気を注入する。これにより、インク供給路402と繋がったノズル101から陽圧空気が排出される。この状態で、液体の撥インク膜材料を塗布すると、ノズル101内壁に撥インク膜材料が付着することが抑制される。
【0105】
撥インク膜116が形成された後、パッド部カバーテープ115を保護膜113から剥がす。これにより、図3に示すインクジェットヘッド1が形成される。インクジェットヘッド1は、インクジェットプリンタの内部に搭載され、パッド部104に配線が接続される。
【0106】
パッド部104と共有電極端子部105が形成された領域において、保護膜113および撥インク膜116はエッチングされている。このため、パッド部104と共有電極端子部105は露出される。パッド部104と共有電極端子部105が形成された領域以外では、配線電極108の上に撥インク膜116および保護膜113が成膜されている。
【0107】
第1の実施形態のインクジェットヘッド1によれば、駆動回路103が、振動板109が固定される圧力室構造体200の取付面200aに設けられる。これにより、駆動回路103とアクチュエータ102との間の距離を近くし、配線抵抗を小さくすることができる。したがって、駆動回路103から発信した信号の減衰を低減し、インク吐出時の消費電力を低減することができる。また、圧力室構造体200に駆動回路103を設けたとしても、記録紙のような媒体に面する保護膜113および撥インク膜116を平坦に形成できる。このため、媒体とノズル101との間の距離を近くすることができ、インク吐出精度を保つことができる。
【0108】
駆動回路103のCMOSトランジスタ700は、シリコンウエハによって形成された圧力室構造体200に直接形成されている。これにより、圧力室構造体200の他に半導体基板を用意する必要がなく、インクジェットヘッド1の製造費を低減できる。
【0109】
振動板109は、駆動回路103を覆っている。すなわち、振動板109は駆動回路103のパッシベーション層として利用される。これにより、別途パッシベーション層を形成する必要がなく、インクジェットヘッド1の製造工程および材料費の増加を抑制できる。
【0110】
振動板109は、CMOSトランジスタ700と他のCMOSトランジスタとの間を隔てる。すなわち、振動板109は層間絶縁膜および素子分離として利用される。これにより、別途層間絶縁膜および素子分離を形成する必要がなく、インクジェットヘッド1の製造工程および材料費の増加を抑制できる。
【0111】
次に、図7を参照して、第2の実施の形態について説明する。なお、以下に開示する少なくとも一つの実施形態において、第1の実施形態のインクジェットヘッド1と同一の機能を有する構成部分には同一の参照符号を付す。さらに、当該構成部分については、その説明を一部または全て省略することがある。
【0112】
図7は、第2の実施の形態に係るインクジェットヘッド1を示す平面図である。第2の実施形態のアクチュエータ102は、第1の実施形態のアクチュエータ102と形状が異なっている。
【0113】
第2の実施形態のアクチュエータ102は、矩形状に形成されている。アクチュエータ102の幅は、例えば170μm、長さは、例えば340μmである。ノズル101は、アクチュエータ102の中央に配置される。圧力室201も、圧電体膜111の形状に対応して、矩形状に形成されている。
【0114】
第2の実施形態のアクチュエータ102は、第1の実施形態の円形のアクチュエータ102と比べて大きくなる。これにより、インクジェットヘッド1のインク吐出圧力を大きくすることができる。
【0115】
次に、図8を参照して、第3の実施の形態について説明する。図8は、第3の実施の形態に係るインクジェットヘッド1を示す平面図である。第3の実施形態のアクチュエータ102は、第1の実施形態のアクチュエータ102と形状が異なっている。
【0116】
第3の実施形態のアクチュエータ102は、菱形に形成されている。アクチュエータ102の幅は、例えば170μm、長さは、例えば340μmである。ノズル101は、アクチュエータ102の中央に配置される。圧力室201も、アクチュエータ102の形状に対応して、菱形に形成されている。
【0117】
第3の実施形態のアクチュエータ102は、第1の実施形態の円形のアクチュエータ102と比べて、より高密度に配置することができる。すなわち、アクチュエータ102を菱形に形成することで、アクチュエータ102を千鳥状に配置しやすくなる。
【0118】
次に、図9を参照して、第4の実施の形態について説明する。図9は、第4の実施の形態に係るインクジェットヘッド1を示す断面図である。第1の実施形態のノズル101は振動板109と保護膜113に形成されるが、第4の実施形態のノズル101は保護膜113に形成され、振動板109に形成されない。
【0119】
図9に示すように、振動板109に開口部118がある。開口部118の直径は、例えば26μmである。開口部118の直径は、ノズル101の直径よりも大きい。開口部118の内壁は保護膜113によって覆われる。すなわち、ノズル101は、開口部118の内側の保護膜113に形成されている。
【0120】
第4の実施形態のインクジェットヘッド1によれば、ノズル101は保護膜113に形成され、振動板109に形成されない。これにより、ノズル101の形状が不均一になることを抑制できる。すなわち、振動板109に設けられたノズル101の一部と、保護膜113に設けられたノズル101の一部とに、形状および位置の不均一が生じることを防止できる。したがって、ノズル101の形状の均一性が向上し、複数のノズル101間のインク液滴の着弾位置精度が向上する。
【0121】
次に、図10ないし図13を参照して、第5の実施の形態について説明する。図10は、第5の実施の形態に係るインクジェットヘッド1を分解して示す斜視図である。第5の実施形態のノズル101は、第1の実施形態と異なり、アクチュエータ102の外に配置されている。
【0122】
圧力室201の円形断面の中心から離れた位置に、対応するノズル101の中心がある。圧力室201は、対応するアクチュエータ102およびノズル101を囲んでいる。
【0123】
図11は、第5の実施形態のインクジェットヘッド1の平面図である。図12は、図11のF12−F12線に沿ってインクジェットヘッド1を示す断面図である。図13は、図11のF13−F13線に沿ってインクジェットヘッド1を示す断面図である。
【0124】
アクチュエータ102は、円形状に形成され、対応するノズル101とは異なる位置にある。アクチュエータ102の直径は、例えば170μmである。アクチュエータ102の中心は圧力室201の円形断面の中心から離れた位置にある。なお、アクチュエータ102は、圧力室201と同軸上に配置されても良い。
【0125】
第5の実施形態のインクジェットヘッド1によれば、ノズル101がアクチュエータ102と異なる位置に配置されている。このため、アクチュエータ102の共有電極106、圧電体膜111、および配線電極108の中心に、ノズルを形成するための円形パターニングが不要になる。これにより、パターニングの不良によるインク吐出位置の精度不良を抑制できる。
【0126】
次に、図14を参照して、第6の実施の形態について説明する。図14は、第6の実施の形態に係るインクジェットヘッド1を示す断面図である。図14に示すように、第6の実施形態のノズル101は、保護膜113に形成され、振動板109に形成されない。さらに、ノズル101は、第5の実施形態と同様に、アクチュエータ102と異なる位置に配置されている。
【0127】
第6の実施形態のインクジェットヘッド1は、第4の実施形態と同様に、複数のノズル101間のインク液滴の着弾位置精度を向上できる。また、インクジェットヘッド1は、第5の実施形態と同様に、パターニングの不良によるインク吐出位置の精度不良を抑制できる。
【0128】
次に、図15を参照して、第7の実施の形態について説明する。図15は、第7の実施の形態に係るインクジェットヘッド1を分解して示す斜視図である。第7の実施形態において、ノズル101がアクチュエータ102と異なる位置に配置されるとともに、アクチュエータ102および圧力室201が矩形状に形成されている。アクチュエータ102の幅は、例えば250μm、長さは、例えば220μmである。
【0129】
第7の実施形態のインクジェットヘッド1は、第2の実施形態と同様に、インク吐出圧力を大きくすることができる。また、インクジェットヘッド1は、第5の実施形態と同様に、パターニングの不良によるインク吐出位置の精度不良を抑制できる。
【0130】
次に、図16を参照して、第8の実施の形態について説明する。図16は、第8の実施の形態に係るインクジェットヘッド1を分解して示す斜視図である。第7の実施形態において、ノズル101がアクチュエータ102と異なる位置に配置されるとともに、アクチュエータ102および圧力室201が菱形に形成されている。アクチュエータ102の幅は、例えば170μm、長さは、例えば340μmである。
【0131】
第8の実施形態のインクジェットヘッド1は、第3の実施形態と同様に、アクチュエータ102を千鳥状に配置しやすくなる。また、インクジェットヘッド1は、第5の実施形態と同様に、パターニングの不良によるインク吐出位置の精度不良を抑制できる。
【0132】
以上述べた少なくとも一つのインクジェットヘッドによれば、駆動回路が、振動板が固定される基材の取付面に設けられる。これにより、駆動回路と第1または第2の電極との間の距離を近くし、配線抵抗を小さくすることができる。したがって、駆動回路から発信した信号の減衰を低減し、インク吐出時の消費電力を低減することができる。また、基材に駆動回路を設けたとしても、記録紙のような媒体に面する保護膜を平坦に形成できる。このため、媒体とインクジェットヘッドとの間の距離を近くすることができ、インク吐出精度を保つことができる。
【0133】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0134】
1…インクジェットヘッド、100…ノズルプレート、101…ノズル、102…アクチュエータ、103…駆動回路、104…電源・GND・入出力信号用パッド部、105…共有電極端子部、106…共有電極、107…配線電極端子部、108…配線電極、109…振動板(CMOSパッシベーション層)、110…相互接続層、111…圧電体膜、112…絶縁膜、113…保護膜、114…保護膜カバーテープ、115…パッド部カバーテープ、116…撥インク膜、200…圧力室構造体、201…圧力室、300…セパレートプレート、301…インク供給絞り、400…インク供給路構造体、401…インク供給口、402…インク供給路。
図1
図2
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