(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、第1の実施の形態について、
図1から
図4を参照して説明する。なお、複数の表現が可能な各要素について一つ以上の他の表現の例を付すことがあるが、これは他の表現が付されていない要素について異なる表現がされることを否定するものではないし、例示されていない他の表現がされることを制限するものでもない。
【0013】
図1は、第1の実施の形態に係るインクジェットプリンタ1のインクジェットヘッド10を分解して示す斜視図である。
図2は、インクジェットヘッド10の平面図である。
図3は、
図2のF3−F3線に沿ってインクジェットヘッド10を概略的に示す断面図である。なお、
図1および
図2において、説明のために、本来は隠れている種々の要素を実線で示す。
【0014】
図1に示すように、インクジェットヘッド10は、インクジェットプリンタ1に搭載されている。インクジェットプリンタ1は、画像形成装置の一例である。画像形成装置はこれに限らず、複写機のような他の画像形成装置であっても良い。
【0015】
インクジェットヘッド10は、ノズルプレート100と圧力室構造体200と、セパレートプレート300と、インク供給路構造体400とを備えている。圧力室構造体200は、基材の一例である。圧力室構造体200と、セパレートプレート300と、インク供給路構造体400とは、例えばエポキシ系接着剤で固定されている。
【0016】
ノズルプレート100は、矩形の板状に形成されている。ノズルプレート100は、圧力室構造体200の上に、後述する成膜プロセスによって形成される。このため、ノズルプレート100は、圧力室構造体200に固着している。
【0017】
ノズルプレート100に、インク吐出用の複数のノズル(インク吐出孔)101がある。ノズル101は、開口部の一例である。ノズル101は、円形の孔であり、ノズルプレート100をその厚さ方向に貫通している。
【0018】
圧力室構造体200は、シリコンウエハによって矩形の板状に形成されている。圧力室構造体200は、インクジェットヘッド10の製造過程において、繰り返し加熱および薄膜の成膜がなされる。このため、シリコンウエハは、耐熱性を有し、SEMI(Semiconductor Equipment and Materials International)規格に準じ、平滑化されたものである。なお、圧力室構造体200はこれに限らず、炭化シリコン(SiC)ゲルマニウム基板のような他の半導体によって形成されても良い。
【0019】
圧力室構造体200を形成するシリコンウエハ(Si)の膨張係数は、4×10
−6[K
−1]である。すなわち、第1の実施形態における第1の膨張係数は、4×10
−6[K
−1]である。
【0020】
圧力室構造体200は、ノズルプレート100に面する取付面200aと、複数の圧力室201とを有している。取付面200aに、ノズルプレート100が固着している。
【0021】
圧力室201は、円形の孔である。圧力室201は、矩形や菱形のような他の形状の孔であっても良い。圧力室201は、取付面200aに開口しており、ノズルプレート100に塞がれている。
【0022】
複数の圧力室201は、複数のノズル101と対応するように配置され、複数のノズル101と同心軸上にそれぞれ配置されている。このため、圧力室201に、対応するノズル101が開口している。
【0023】
セパレートプレート300は、ステンレスによって矩形の板状に形成されている。セパレートプレート300は、ノズルプレート100の反対側から、複数の圧力室201を塞いでいる。
【0024】
セパレートプレート300に、複数のインク絞り(圧力室201へのインク供給孔)301がある。複数のインク絞り301は、圧力室201にそれぞれ対応して配置される。このため、圧力室201に、インク絞り301が開口している。インク絞り301は、それぞれの圧力室201へのインク流路抵抗がほぼ同程度になるように形成される。
【0025】
インク供給路構造体400は、ステンレスによって矩形の板状に形成されている。インク供給路構造体400に、インク供給口401と、インク供給路402とがある。
【0026】
インク供給口401は、インク供給路402の中央部分に開口している。インク供給口401は、画像形成のためのインクが貯蔵されたインクタンク11に接続され、インク供給路402にインクを供給する。
【0027】
インク供給路402は、インク供給路構造体400の表面から凹んでおり、全てのインク絞り301を囲んでいる。言い換えると、全てのインク絞り301は、インク供給路402に開口している。このため、インク供給口401は、インク絞り301を介して、全ての圧力室201にインクを供給する。また、インク供給口401は、それぞれの圧力室201へのインク流路抵抗がほぼ同程度になるように形成されている。
【0028】
上記のように、セパレートプレート300およびインク供給路構造体400はステンレスによって形成される。しかし、これらの要素300,400の材料は、ステンレスに限定されない。要素300,400はノズルプレート100との膨張係数の差を考慮して、インク吐出圧力発生に影響しない範囲で、セラミックス、樹脂、または金属(合金)のような他の材料によって形成されても良い。使用されるセラミックスは、例えば、アルミナセラミックス、ジルコニア、炭化ケイ素、窒化ケイ素、およびチタン酸バリウムのような窒化物、酸化物である。使用される樹脂は、例えば、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)、ポリアセタール、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエーテルサルフォンのようなプラスチック材である。使用される金属は、例えば、アルミまたはチタンである。
【0029】
圧力室201は供給されたインクを保持する。そしてノズルプレート100の変形によって各圧力室201内のインクに圧力変化が発生すると、圧力室201内のインクが、各ノズル101から吐出される。セパレートプレート300は、圧力室201内に発生した圧力を閉じ込めて、当該圧力がインク供給路402へ逃げることを抑制する。このため、インク絞り301の直径は、例えば圧力室201の直径の1/4以下である。
【0030】
次に、ノズルプレート100について説明する。
図2に示すように、ノズルプレート100は、上記の複数のノズル101と、複数のアクチュエータ102と、二つの共有電極端子部105と、共有電極106と、複数の配線電極端子部107と、複数の配線電極108とを有している。
図3に示すように、ノズルプレート100はさらに、振動板109と、保護膜113と、撥インク膜116とを有している。アクチュエータ102は、圧電素子の一例である。
【0031】
振動板109は、圧力室構造体200の取付面200aの上に、矩形の膜状に形成されている。振動板109は、第1の面501と、第2の面502とを有している。
【0032】
第1の面501は、取付面200aに固着するとともに圧力室201を塞いでいる。第2の面502は、第1の面501の反対側に位置している。アクチュエータ102と、共有電極106と、配線電極108とは、振動板109の第2の面502に形成されている。
【0033】
複数のアクチュエータ102は、複数の圧力室201および複数のノズル101に対応して設けられている。アクチュエータ102は、ノズル101からインクを吐出させるための圧力を、圧力室201に発生させる。
【0034】
図2に示すように、アクチュエータ102は、円環状に形成されている。アクチュエータ102は、対応するノズル101と同軸上に配置される。このため、アクチュエータ102の内側に、ノズル101が設けられている。
【0035】
より高密度にノズル101を配置するために、ノズル101は千鳥状(互い違い)に配置されている。言い換えると、
図2のX軸方向に複数のノズル101が直線状に配置される。Y軸方向に、二つの直線状のノズル101の列がある。
【0036】
図3に示すように、アクチュエータ102は、圧電体膜111と、共有電極106の電極部分106aと、配線電極108の電極部分108aと、絶縁膜112とを有している。
【0037】
圧電体膜111は、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)によって膜状に形成されている。なお、圧電体膜111はこれに限らず、例えば、PTO(PbTiO
3:チタン酸鉛)、PMNT(Pb(Mg
1/3Nb
2/3)O
3−PbTiO
3)、PZNT(Pb(Zn
1/3Nb
2/3)O
3−PbTiO
3)、ZnO、およびAlNのような種々の材料によって形成されても良い。
【0038】
圧電体膜111は、円環状に形成されている。圧電体膜111は、ノズル101および圧力室201と同軸上に配置されている。言い換えると、圧電体膜111は、ノズル101を囲んでいる。圧電体膜111の内周部分は、ノズル101から僅かに離れている。
【0039】
圧電体膜111は、配線電極108の電極部分108aと共有電極106の電極部分106aとによって挟まれている。言い換えると、圧電体膜111に、配線電極108の電極部分108aと共有電極106の電極部分106aとが重ねられている。
【0040】
成膜された圧電体膜111は、その厚み方向に分極を発生させる。配線電極108および共有電極106を介して当該分極の方向と同方向の電界を圧電体膜111に印加すると、アクチュエータ102は電界方向と直交する方向に伸縮する。アクチュエータ102の伸縮により、振動板109が、ノズルプレート100の厚み方向に変形する。これにより、圧力室201の容積が変化し、圧力室201内のインクに圧力変化が生じる。
【0041】
配線電極108の電極部分108aは、圧電体膜111に繋がる二つの電極の一方である。配線電極108の電極部分108aは、圧電体膜111よりも大きい円環状に形成され、圧電体膜111の吐出側(インクジェットヘッド10の外に向く側)に成膜されている。
【0042】
共有電極106の電極部分106aは、圧電体膜111に繋がる二つの電極の一方である。共有電極106の電極部分106aは、圧電体膜111よりも小さい円環状に形成され、振動板109の第2の面502に成膜されている。共有電極106の電極部分106aは、振動板109の第2の面502に形成されている。
【0043】
絶縁膜112は、圧電体膜111が形成された領域の外側において、共有電極106と配線電極108との間に介在している。すなわち、共有電極106と配線電極108との間は、圧電体膜111または絶縁膜112によって絶縁される。絶縁膜112は、例えばSiO
2(酸化ケイ素)によって形成される。絶縁膜112は、他の材料によって形成されても良い。
【0044】
共有電極端子部105、および配線電極端子部107に、駆動回路が接続される。当該駆動回路は、例えばフレキシブルプリント回路板やテープキャリアパッケージ(TCP)である。
【0045】
配線電極端子部107は、配線電極108の端部に設けられている。配線電極端子部107は、前記駆動回路に接続され、アクチュエータ102を駆動させるための信号を伝送する。
【0046】
図2に示すように、複数の配線電極端子部107のそれぞれの間隔は、ノズル101のX軸方向の間隔と同じである。配線電極108の幅に比べて、配線電極端子部107のX軸方向の幅は広い。このため、配線電極端子部107は、前記駆動回路に容易に接続される。
【0047】
共有電極端子部105は、例えば、振動板109の第2の面502に設けられている。共有電極端子部105は、共有電極106の端部であって、前記駆動回路に設けられたGND(グランド接地=0V)に接続される。
【0048】
配線電極108は、対応するアクチュエータ102の圧電体膜111に個別に繋がり、アクチュエータ102を駆動するための信号を伝送する。配線電極108は、圧電体膜111を独立に動作させるための個別電極として用いられる。複数の配線電極108は、上記の電極部分108aと、配線部と、上記の配線電極端子部107とをそれぞれ有している。
【0049】
配線電極108の配線部は、電極部分108aから配線電極端子部107に向かって延びている。配線電極108の電極部分108aは、ノズル101と同心軸上に配置される。電極部分108aの内周部分は、ノズル101から僅かに離れている。
【0050】
複数の配線電極108は、Pt(白金)の薄膜によって形成されている。なお、配線電極108は、Ni(ニッケル)、Cu(銅)、Al(アルミニウム)、Ag(銀)、Ti(チタン)、W(タンタル)、Mo(モリブデン)、Au(金)のような他の材料によって形成されても良い。
【0051】
共有電極106は、複数の圧電体膜111に繋がる。共有電極106は、上記の複数の電極部分106aと、複数の配線部と、上記の二つの共有電極端子部105とを有している。
【0052】
共有電極106の配線部は、電極部分106aから配線電極108の配線部の反対側に延びている。共有電極106の配線部は、
図2に示すノズルプレート100のY軸方向端部で合体し、ノズルプレート100のX軸方向両端部に沿って延びている。電極部分106aは、ノズル101と同心軸上に設けられる。電極部分106aの内周部分は、ノズル101から僅かに離れている。共有電極端子部105は、ノズルプレート100のX軸方向両端にそれぞれ配置されている。
【0053】
共有電極106は、Pt(白金)/Ti(チタン)薄膜によって形成されている。共有電極106は、Ni、Cu、Al、Ti、W、Mo、Auのような他の材料によって形成されても良い。
【0054】
図3に示すように、保護膜113は、振動板109の第2の面502に設けられている。保護膜113は、振動板109の第2の面502と、共有電極106と、配線電極108と、圧電体膜111とを覆っている。
【0055】
保護膜113は、ポリイミドによって形成されている。保護膜113はこれに限らず、樹脂、セラミックス、金属(合金)のような他の材料によって形成されても良い。利用される樹脂は、例えば、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)、ポリアセタール、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエーテルサルフォンなどのプラスチック材である。利用されるセラミックスは、例えば、ジルコニア、炭化ケイ素、窒化ケイ素、チタン酸バリウム、などの窒化物、酸化物である。利用される金属は、例えば、アルミ、SUS、またはチタンである。なお、保護膜113が導電性材料によって形成される場合、共有電力106、配線電極108、および圧電体膜111との間は、例えば樹脂によって絶縁される。
【0056】
保護膜113の材料は、振動板109の材料とヤング率が大きく異なる。板形状の変形量は、材料のヤング率と板厚とが影響する。同じ力がかかった場合でも、ヤング率が小さい程、そして板厚が薄い程、変形が大きい。
【0057】
撥インク膜116は、保護膜113の表面を覆っている。撥インク膜116は、撥液性を有するシリコーン系撥液材料によって形成される。なお、撥インク膜116は、フッ素含有系有機材料のような他の材料によって形成されても良い。
【0058】
撥インク膜116は、共有電極端子部105および配線電極端子部107と、共有電極端子部105および配線電極端子部107の周辺の保護膜113を覆わずに露出させている。
【0059】
ノズル101は、振動板109、保護膜113、および撥インク膜116を貫通している。言い換えると、ノズル101は、振動板109、保護膜113、および撥インク膜116に設けられている。
【0060】
図3に示すように、振動板109は、第1の部分505と、第2の部分506とを有している。第1の部分505は、SiO
2によって形成されている。第2の部分506は、SiN(窒化ケイ素)によって形成されている。なお、第1および第2の部分505,506はこれに限らず、Al
2O
3(酸化アルミニウム)、HfO
2(酸化ハフニウム)、ZrO
2(酸化ジルコニウム)、DLC(Diamond Like Carbon)のような他の材料によって形成されても良い。
【0061】
振動板109の材料選択は、例えば、耐熱性、絶縁性(導電率の高いインクを使用した場合における、アクチュエータ102の駆動によるインク変質の影響を考慮)、膨張係数、平滑性、インクに対する濡れ性が考慮される。
【0062】
第1の部分505を形成するSiO
2の膨張係数は、5×10
−7[K
−1]である。すなわち、第1の実施形態における第2の膨張係数は、5×10
−7[K
−1]である。第2の部分506を形成するSiNの膨張係数は、3×10
−6[K
−1]である。すなわち、第1の実施形態における第3の膨張係数は、3×10
−6[K
−1]である。
【0063】
なお、Al
2O
3の膨張係数は、7×10
−6[K
−1]、HfO
2の膨張係数は、4×10
−6[K
−1]、ZrO
2の膨張係数は、1×10
−5[K
−1]、DLCの膨張係数は、2×10
−6[K
−1]である。
【0064】
上記のように、第1の部分505の第2の膨張係数は、圧力室構造体200の第1の膨張係数よりも小さい。第2の部分506の第3の膨張係数は、第2の膨張係数よりも第1の膨張係数に近く、第2の膨張係数よりも大きい。
【0065】
第1の部分505が、振動板109の第1の面501を形成している。第1の部分505は、圧力室構造体200の取付面200aに固着している。第1の部分505は、取付面200aの全域に亘って設けられ、圧力室201を塞いでいる。なお、第1の部分505は、取付面200aの一部にのみ設けられても良い。
【0066】
第2の部分506が、振動板109の第2の面502を形成している。第2の部分506は、第1の部分505に重ねられ、第1の部分505に固着している。このため、第1の部分505は、圧力室構造体200と第2の部分506との間に挟まれている。
【0067】
上述のインクジェットプリンタ1は、次のように印字(画像形成)を行う。インクタンク11から、インクがインク供給路構造体400のインク供給口401に供給される。インクは、複数のインク絞り301を通って、複数の圧力室201に供給される。圧力室201に供給されたインクは、対応するノズル101内に供給され、ノズル101にメニスカスを形成する。インク供給口401から供給されるインクは適切な負圧となるように保たれ、ノズル101内のインクはノズル101から漏れることなく保たれる。
【0068】
例えばユーザの操作により、前記駆動回路に印字指示信号が入力される。印字指示を受けた前記駆動回路は、配線電極108を介して、アクチュエータ102に信号を出力する。言い換えると、前記駆動回路は、配線電極108の電極部分108aに電圧を印加する。これにより、圧電体膜111に分極方向と同方向の電界が印加され、アクチュエータ102が電界方向と直交する方向に伸縮する。
【0069】
アクチュエータ102は、振動板109と保護膜113に挟まれている。このため、アクチュエータ102が電界方向と直交する方向に伸びた場合、振動板109に、圧力室201側に対して凹形状に変形する力がかかる。反対に、保護膜113に、圧力室201側に対して凸形状に変形する力がかかる。アクチュエータ102が電界方向と直交する方向に縮んだ場合、振動板109に、圧力室201側に対して凸形状に変形する力がかかる。また、保護膜113に、圧力室201側に対して凹形状に変形する力がかかる。
【0070】
保護膜113のポリイミド膜は、振動板109よりヤング率が小さい。このため、同じ力に対して保護膜113の方が変形量は大きい。アクチュエータ102が電界方向と直交する方向に伸びた場合、ノズルプレート100は圧力室201側に対して凸形状に変形する。これにより、圧力室201の容積が縮まる(保護膜113が圧力室201側に対して凸形状に変形する量の方が大きいため)。反対に、アクチュエータ102が電界方向と直交する方向に縮んだ場合、ノズルプレート100は圧力室201側に対して凹形状に変形する。これにより、圧力室201の容積が広がる(保護膜113が圧力室201側に対して凹形状に変形する量の方が大きいため)。
【0071】
振動板109が変形して圧力室201の容積が増減すると、圧力室201のインクに圧力変化が生じる。当該圧力変化によって、ノズル101に供給されたインクが吐出される。
【0072】
振動板109と保護膜113のヤング率の差が大きい程、同じ電圧をアクチュエータ102に印加した際の振動板109の変形量の差が大きくなる。そのため、振動板109と保護膜113のヤング率の差が大きいほど、より低い電圧でのインク吐出が可能となる。
【0073】
振動板109と保護膜113の膜厚とヤング率が同じ場合、アクチュエータ102に電圧印加しても、振動板109と保護膜113は正反対の方向に同じ量変形する力がかかるため、振動板109は変形しない。
【0074】
なお、上述したように、板材の変形量は、材料のヤング率だけでなく、板厚も影響する。そのため、振動板109と保護膜113の変形量に差をつける場合は、材料のヤング率だけでなく、それぞれの膜厚も考慮される。振動板109と保護膜113の材料のヤング率が同じでも、膜厚に違いがあればインク吐出可能である。
【0075】
次に、インクジェットヘッド10の製造方法の一例について説明する。まず、圧力室201が形成される前の圧力室構造体200(シリコンウエハ)に、振動板109の第1の部分505を形成する。第1の部分505を形成するSiO
2膜は、CVD法によって、圧力室構造体200の取付面200aの全域に成膜される。次に、第2の部分506を形成するSiN膜を、CVD法によって、第1の部分505の上に成膜する。なお、SiO
2膜は、熱酸化によって成膜されても良い。また、SiN膜は、スパッタリング法によって成膜されても良い。
【0076】
図4は、振動板109が成膜された圧力室構造体200を示す断面図である。振動板109の成膜時、圧力室構造体200は数百度に加熱される。振動板109の成膜後、圧力室構造体200は常温下に戻される。常温下に戻ることで、圧力室構造体200および振動板109が収縮する。
【0077】
振動板109の第1の部分505の第2の膨張係数は、圧力室構造体200の第1の膨張係数よりも小さい。言い換えると、圧力室構造体200は、第1の部分505よりも大きく収縮しようとする。このため、
図4に矢印で示すように、第1の部分505に圧縮応力が生じる。
【0078】
第2の部分506の第3の膨張係数は、第1の部分505の第2の膨張係数よりも第1の膨張係数に近く、第2の膨張係数よりも大きい。言い換えると、第2の部分506は、第1の部分505よりも大きく収縮しようとする。このため、
図4に矢印で示すように、第2の部分506に引張応力が生じる。
【0079】
上記のように、第1の部分505と第2の部分506とに逆方向の応力が生じる。これにより、第1の部分505に生じる圧縮応力と、第2の部分506に生じる引張応力とが打消し合う。
【0080】
次に、振動板109をパターニングし、ノズル101を形成する。パターニングは、振動板109上にエッチングマスクを作り、エッチングマスク以外の振動板109をエッチングによって除去することで行う。
【0081】
次に、振動板109の第2の面502に、共有電極106を成膜する。まず、スパッタリング法を用いてTiとPtを順番に成膜する。なお、共有電極106は、蒸着および鍍金のような他の製法によって形成されても良い。
【0082】
共有電極106を成膜した後に、パターニングによって、複数の電極部分106a、配線部、二つの共有電極端子部105を形成する。パターニングは、電極膜上にエッチングマスクを作り、エッチングマスク以外の電極材料をエッチングによって除去することで行う。
【0083】
共有電極106の電極部分106aの中心にノズル101が形成されるため、電極部分106aの中心と同心円の電極膜がない部分が形成される。共有電極106をパターニングすることで、共有電極106の電極部分106a、配線部、および共有電極端子部105以外では、振動板109が露出している。
【0084】
次に、共有電極106上に圧電体膜111を形成する。圧電体膜111は、例えばRFマグネトロンスパッタリング法により成膜される。圧電体膜111は、成膜後、圧電体膜111に圧電性を付与するために、500℃で3時間熱処理される。これにより、圧電体膜111は良好な圧電性能を得る。圧電体膜111は、例えば、CVD(化学的気相成長法)、ゾルゲル法、AD法(エアロゾルデポジション法)、水熱合成法のような他の製法によって形成されても良い。圧電体膜111を、エッチングによってパターニングする。
【0085】
圧電体膜111の中心にはノズル101が形成されるため、圧電体膜111と同心円の圧電体膜がない部分が形成される。圧電体膜111のない部分では、振動板109が露出している。圧電体膜111は、共有電極106の電極部分106aを覆う。
【0086】
次に、圧電体膜111の一部と共有電極106の一部との上に、絶縁膜112を形成する。絶縁膜112は、良好な絶縁性を低温成膜にて実現できるCVD法によって形成される。絶縁膜112は、成膜後にパターニングされる。パターニング加工バラツキによる不具合を抑制するため、絶縁膜112は圧電体膜111を一部覆う。絶縁膜112は、圧電体膜111の変形量を阻害しない程度に圧電体膜111を覆う。
【0087】
次に、振動板109、圧電体膜111、および絶縁膜112の上に配線電極108を形成する。配線電極108は、スパッタリング法によって成膜される。配線電極108は、真空蒸着および鍍金のような他の製法によって形成されても良い。
【0088】
成膜された配線電極108をパターニングすることで、電極部分108a、配線部、および配線電極端子部107を形成する。パターニングは、電極膜上にエッチングマスクを作り、エッチングマスク以外の電極材料をエッチングによって除去することで行う。
【0089】
配線電極108の電極部分108aの中心にノズル101が形成されるため、配線電極108の電極部分108aの中心と同心円の電極膜がない部分が形成される。配線電極108の電極部分108aは、圧電体膜111を覆う。
【0090】
次に、振動板109、配線電極108、共有電極106、および絶縁膜112の上に保護膜113を成膜する。保護膜113は、ポリイミド前駆体を含有した溶液をスピンコーティング法によって成膜した後に、ベークによって熱重合と溶剤除去を行って形成する。スピンコーティング法で成膜することにより、表面が平滑な膜が形成される。保護膜113は、例えば、CVD、真空蒸着、および鍍金のような他の方法によって形成されても良い。
【0091】
次に、パターニングによって、共有電極端子部105および配線電極端子部107を露出させるとともに、ノズル101を開口させる。保護膜113に非感光性ポリイミドを使用した場合において、パターニングは、非感光性ポリイミド膜上にエッチングマスクを作り、エッチングマスク以外のポリイミド膜をエッチングによって除去することで行われる。
【0092】
次に、保護膜113の上に保護膜カバーテープを貼り付ける。前記保護膜カバーテープが貼り付けられた圧力室構造体200を上下反転し、圧力室構造体200に複数の圧力室201を形成する。
【0093】
詳しく述べると、まず、保護膜113の上に前記保護膜カバーテープを貼り付ける。前記保護膜カバーテープは、例えば、シリコンウエハの化学機械研磨(Chemical Mecanical Polishing:CMP)用の裏面保護テープである。
【0094】
シリコンウエハである圧力室構造体200上にエッチングマスクを作り、シリコン基板専用のいわゆる垂直深堀ドライエッチングを用いて、エッチングマスク以外のシリコンウエハを除去する。これにより、圧力室201が形成される。
【0095】
上記エッチングに用いられるSF6ガスは、振動板109のSiO
2膜およびSiN膜や保護膜113のポリイミド膜に対してはエッチング作用を及ぼさない。そのため、圧力室201を形成するシリコンウエハのドライエッチングの進行は、振動板109で止まる。
【0096】
なお、上述のエッチングは、薬液を用いるウェットエッチング法、プラズマを用いるドライエッチング法のような、種々の方法を用いて良い。絶縁膜、電極膜、圧電体膜などの材料によって、エッチング方法やエッチング条件を変えて良い。各感光性レジスト膜によるエッチング加工が終了した後、残った感光性レジスト膜は溶解液によって除去される。
【0097】
次に、圧力室構造体200に、セパレートプレート300およびインク供給路構造体400を接着する。すなわち、インク供給路構造体400が接着されたセパレートプレート300を、エポキシ樹脂剤で圧力室構造体に接着する。
【0098】
次に、保護膜113にカバーテープを貼り付け、共有電極端子部105および配線電極端子部107を覆う。前記カバーテープは樹脂によって形成され、保護膜113から容易に脱着可能である。前記カバーテープは、共有電極端子部105および配線電極端子部107へのゴミの付着や、後述する撥インク膜116の付着を防止する。
【0099】
次に、保護膜113上に撥インク膜116を形成する。撥インク膜116は、保護膜113上に液状の撥インク膜材料をスピンコーティングすることによって成膜される。この際、インク供給口401より陽圧空気を注入する。これにより、インク供給路402と繋がったノズル101から陽圧空気が排出される。この状態で、液体の撥インク膜材料を塗布すると、ノズル101内壁に撥インク膜材料が付着することが抑制される。
【0100】
撥インク膜116が形成された後、前記カバーテープを保護膜113から剥がす。これにより、
図3に示すインクジェットヘッド10が形成される。インクジェットヘッド10は、インクジェットプリンタ1の内部に搭載される。さらに、共有電極端子部105および配線電極端子部107に前記駆動回路が接続される。
【0101】
第1の実施形態のインクジェットプリンタ1によれば、振動板109が、第2の膨張係数を有する第1の部分505と、第3の膨張係数を有する第2の部分506とを含んでいる。第2の膨張係数は圧力室構造体200の第1の膨張係数よりも小さいが、第3の膨張係数は第2の膨張係数よりも第1の膨張係数に近い。
【0102】
第1の膨張係数と第2の膨張係数との差により、第1の部分505に圧縮応力または引張応力が生じる。一方、第3の膨張係数が第2の膨張係数よりも第1の膨張係数に近いため、第2の部分506に、第1の部分505に生じるよりも小さい応力か、または第1の部分505とは逆方向の応力が生じる。これにより、第1の部分505に生じる応力を、第2の部分506に生じる応力が軽減し、または打消す。したがって、振動板109全体に生じる応力が低減され、圧力室構造体200および振動板109に生じる反りを抑制することができる。
【0103】
第2の膨張係数を有する第1の部分505は、圧力室構造体200の取付面200aに固定されている。第3の膨張係数を有する第2の部分506は、第1の部分505に重ねられている。このため、第1の部分505に生じる圧縮応力を、第2の部分506に生じる引張応力が打ち消す。したがって、圧力室構造体200および振動板109に生じる反りを抑制することができる。
【0104】
なお、第2の部分506が圧力室構造体200の取付面200aに固定され、第1の部分505が第2の部分506に重ねられても良い。この場合、SiNによって形成された第2の部分506は、圧力室構造体200よりも収縮量が小さい。このため、第2の部分506に圧縮応力が生じる。
【0105】
SiO
2によって形成された第1の部分505は、第2の部分506よりも収縮量が小さい。このため、第1の部分505に圧縮応力が生じる。第1の部分505に生じる圧縮応力は、第2の部分506に生じる圧縮応力よりも小さい。
【0106】
このような振動板109全体に生じる圧縮応力は、振動板109がSiO
2のみによって形成された場合に生じる圧縮応力よりも小さい。すなわち、振動板109が第1および第2の部分505,506を含むことにより、振動板109に生じる応力が低減され、振動板109および圧力室構造体200に生じる反りを抑制できる。
【0107】
また、第1の実施形態では、第1の部分505の第2の膨張係数が、圧力室構造体200の第1の膨張係数よりも小さいが、第2の膨張係数はこれに限らない。すなわち、第2の膨張係数は、第1の膨張係数より大きくても良い。第1の部分505は、例えばZrO
2によって形成されても良い。
【0108】
第2の膨張係数が第1の膨張係数より大きい場合、振動板109の第1の部分505は、圧力室構造体200よりも大きく収縮しようとする。このため、第1の部分505に、引張応力が生じる。
【0109】
第2の部分506の材料は、膨張係数が第2の膨張係数よりも第1の膨張係数に近いものが用いられる。例えば、第2の部分506は、SiNによって形成される。すなわち、第2の部分506の第3の膨張係数は、第2の膨張係数よりも第1の膨張係数に近く、第2の膨張係数よりも小さい。
【0110】
第3の膨張係数が第1の膨張係数よりも小さいため、振動板109の第2の部分506は、第1の部分505よりも収縮量が小さい。このため、第2の部分506に、圧縮応力が生じる。
【0111】
上記のように、第1の部分505と第2の部分506とに、逆方向の応力が生じる。これにより、第1の部分505に生じる応力を、第2の部分506に生じる応力が軽減し、または打消す。したがって、振動板109全体に生じる応力が低減され、圧力室構造体200および振動板109に生じる反りを抑制することができる。
【0112】
次に、
図5を参照して、第2の実施の形態について説明する。なお、以下に開示する少なくとも一つの実施形態において、第1の実施形態のインクタンク11と同一の機能を有する構成部分には同一の参照符号を付す。さらに、当該構成部分については、その説明を一部または全て省略することがある。
【0113】
図5は、第2の実施の形態に係るインクジェットヘッド10を示す断面図である。第2の実施形態において、振動板109の第1の部分505に、複数の連続部601がある。
【0114】
連続部601は、第1の部分505に設けられた円形の孔である。連続部601は、圧力室201に対応して配置され、ノズル101および圧力室201と同心軸上に位置している。連続部601の外径は、圧力室201の外径と同じであるが、圧力室201の外径と異なっていても良い。連続部601が設けられることで、振動板109の第2の部分506が、圧力室201を塞ぐ。
【0115】
連続部601は、例えばエッチングによって形成される。圧力室201が形成された後、振動板109の第1の部分505を形成するSiO
2膜がエッチングによって除去される。当該エッチングにおいて、第2の部分506を形成するSiN膜には、エッチング作用が及ぼされない。第1の部分505のエッチングの進行は、第2の部分506で止まる。
【0116】
第2の実施形態のインクジェットプリンタ1によれば、第1の部分505に、複数の連続部601が設けられている。言い換えると、第1の部分505の一部が除去される。これにより、第1の部分505の全体に生じる応力が軽減され、圧力室構造体200および振動板109に生じる反りを抑制することができる。
【0117】
次に、
図6および
図7を参照して、第3の実施の形態について説明する。
図6は、第3の実施の形態に係るインクジェットヘッド10を示す断面図である。
図6に示すように、第3の実施形態の振動板109は、複数の第1の部分505と、第2の部分506とを有している。
【0118】
第3の実施形態の第1の部分505は、円板状に形成されている。複数の第1の部分505は、複数の圧力室201に対応して配置され、ノズル101および圧力室201と同心軸上に位置している。第1の部分505の外径は、圧力室201の外径と同じであるが、圧力室201の外径と異なっていても良い。第1の部分505は、圧力室201を塞いでいる。
【0119】
第2の部分506は、圧力室構造体200の取付面200aの全域に亘って設けられている。第2の部分506は、複数の第1の部分505の周りに設けられている。言い換えると、第2の部分506に設けられた複数の孔に、複数の第1の部分505が嵌め込まれている。なお、第1の部分505の外周と、第2の部分506に設けられた孔の内周との間は、離れていても良く、または圧力室構造体200の一部が介在しても良い。
【0120】
第2の部分506は、第1の部分505と共に、第1の面501および第2の面502を形成している。言い換えると、第2の部分506の圧力室構造体200に向く面は、第1の部分505の圧力室構造体200に向く面と面一に形成される。第2の部分506の圧力室構造体200と反対側の面は、第1の部分505の圧力室構造体200と反対側の面と面一に形成される。
【0121】
第3の実施形態において、振動板109の複数の第1の部分505は、例えばCVD法によって圧力室構造体200の取付面200aに形成されたSiO
2膜をエッチングすることによって形成される。例えば、形成されたSiO
2膜上に複数のエッチングマスクを形成し、エッチングマスク以外のSiO
2膜をエッチングによって除去する。
【0122】
第2の部分506も、例えばCVD法によって圧力室構造体200の取付面200aに形成されたSiN膜をエッチングすることによって形成される。例えば、第1の部分505が形成された以外の場所に複数のエッチングマスクを形成し、エッチングマスク以外のSiN膜をエッチングによって除去する。これにより、振動板109の第1および第2の部分505,506が形成される。
【0123】
図7は、第3の実施形態の振動板109が成膜された圧力室構造体200を示す断面図である。振動板109の第1の部分505の第2の膨張係数は、圧力室構造体200の第1の膨張係数よりも小さい。言い換えると、圧力室構造体200は、第1の部分505よりも大きく収縮しようとする。このため、
図7に矢印で示すように、第1の部分505に圧縮応力が生じる。
【0124】
第2の部分506の第3の膨張係数は、第1の膨張係数よりも小さく、第1の部分505の第2の膨張係数よりも第1の膨張係数に近く、そして第2の膨張係数よりも大きい。言い換えると、第2の部分506は、圧力室構造体200よりも収縮量が小さいが、第1の部分505よりも収縮量が大きい。このため、
図7に矢印で示すように、第2の部分506に、第1の部分505に生じるよりも小さい圧縮応力が生じる。
【0125】
以上のように、複数の第1の部分505に大きい圧縮応力が生じる一方、第2の部分506に小さい圧縮応力が生じる。これにより、振動板109の全体に生じる圧縮応力が、第1の部分505に生じる圧縮応力よりも小さくなる。
【0126】
上記のように、第1の部分505と第2の部分506とに、強さが異なる応力が生じる。これにより、第1の部分505に生じる大きい圧縮応力が、第2の部分506に生じる小さい圧縮応力に緩和される。
【0127】
第3の実施形態のインクジェットプリンタ1によれば、膨張係数が圧力室構造体200に近い第2の部分506が第1の部分505を囲む構造とすることで、振動板109および圧力室構造体200の全体に作用する応力を低減できる。また、圧力室構造体200との膨張係数の差が大きい第1の部分505が、圧力室201を覆う領域にのみ設けられる。このため、振動板109および圧力室構造体200に作用する応力を低減できる。これにより、振動板109および圧力室構造体200に反りが生じることを抑制できる。
【0128】
なお、第2の部分506の第3の膨張係数が、圧力室構造体200の第1の膨張係数よりも大きくても良い。この場合、第2の部分506に引張応力が生じ、第1の部分505に生じる圧縮応力を相殺する。これにより、振動板109および圧力室構造体200の反りを抑制できる。
【0129】
また、複数の第2の部分506が圧力室201を塞ぎ、第1の部分505が第2の部分506の周りに設けられても良い。すなわち、第1の部分505に設けられた複数の孔に、複数の第2の部分506が嵌り込む。振動板109が第1および第2の部分505,506を含むため、振動板109全体に生じる応力が低減され、振動板109および圧力室構造体200に生じる反りを抑制できる。
【0130】
次に、
図8を参照して、第4の実施の形態について説明する。
図8は、第4の実施の形態に係るインクジェットヘッド10を示す断面図である。
図8に示すように、第4の実施形態の第2の部分506は、圧力室構造体200と一体に形成されている。言い換えると、第2の部分506は、圧力室構造体200の一部によって形成されている。すなわち、第2の部分506はシリコンウエハによって形成されており、第3の膨張係数は第1の膨張係数と同じ4×10
−6[K
−1]である。
【0131】
第2の部分506は、第3の実施形態と同様に、複数の第1の部分505の周りに設けられている。
図8において、第2の部分506は二点鎖線によって圧力室構造体200と区別される。
【0132】
第4の実施形態において、振動板109は以下のように形成される。まず、圧力室構造体200を形成するシリコンウエハの複数の部分に、エッチングによって複数の窪みを形成する。当該複数の部分は、第1の部分505が設けられる部分である。シリコンウエハに窪みを形成することで、第2の部分506が形成される。
【0133】
次に、前記複数の窪みにCVD法によってSiO
2膜を形成する。当該SiO
2膜をエッチングすることによって、複数の第1の部分505が形成される。例えば、複数の窪みに形成されたSiO
2膜上に複数のエッチングマスクを形成し、エッチングマスク以外のSiO
2膜をエッチングによって除去する。これにより、振動板109の第1および第2の部分505,506が形成される。
【0134】
振動板109の第1の部分505の第2の膨張係数は、圧力室構造体200の第1の膨張係数よりも小さい。言い換えると、圧力室構造体200は、第1の部分505よりも大きく収縮しようとする。このため、第1の部分505に圧縮応力が生じる。
【0135】
第2の部分506の第3の膨張係数は、第1の膨張係数と等しい。言い換えると、第2の部分506は、圧力室構造体200と同じように収縮する。このため、第2の部分506は、圧力室構造体200との関係で応力を生じない。
【0136】
以上のように、複数の第1の部分505に大きい圧縮応力が生じる一方、第2の部分506に応力は生じない。これにより、振動板109の全体に生じる圧縮応力が、第1の部分505に生じる圧縮応力よりも小さくなる。
【0137】
上記のように、第1の部分505に応力が生じる一方、第2の部分506に応力が生じない。これにより、第1の部分505に生じる大きい圧縮応力が緩和される。
【0138】
第4の実施形態のインクジェットプリンタ1によれば、第2の部分506が圧力室構造体200と一体に形成される。すなわち、第2の部分506は成膜のような工程無しに形成される。これにより、工程数および材料数が低減でき、インクジェットプリンタ1の製造コストを低減できる。
【0139】
以上述べた少なくとも一つのインクジェットヘッドおよび画像形成装置によれば、振動板が、基材の第1の膨張係数と異なる第2の膨張係数を有する第1の部分と、前記第2の膨張係数よりも前記第1の膨張係数に近い第3の膨張係数を有する第2の部分とを有する。これにより、基材に作用する応力を低減させ、基材の反りを抑制できる。
【0140】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0141】
例えば、ノズル101が開口部の一例であったが、開口部はこれに限らない。例えば、振動板109にノズル101よりも大きい開口部が設けられ、保護膜113によって当該開口部の内側にノズル101が形成されても良い。