(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5663595
(24)【登録日】2014年12月12日
(45)【発行日】2015年2月4日
(54)【発明の名称】ドライアイ症候群の治療のための医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 38/00 20060101AFI20150115BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20150115BHJP
A61K 47/06 20060101ALI20150115BHJP
A61K 47/10 20060101ALI20150115BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20150115BHJP
【FI】
A61K37/02
A61K9/08
A61K47/06
A61K47/10
A61P27/02
【請求項の数】9
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-542577(P2012-542577)
(86)(22)【出願日】2010年12月13日
(65)【公表番号】特表2013-513586(P2013-513586A)
(43)【公表日】2013年4月22日
(86)【国際出願番号】EP2010069495
(87)【国際公開番号】WO2011073134
(87)【国際公開日】20110623
【審査請求日】2013年11月13日
(31)【優先権主張番号】09015423.8
(32)【優先日】2009年12月14日
(33)【優先権主張国】EP
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】512086242
【氏名又は名称】ノバリック ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100133503
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 一哉
(72)【発明者】
【氏名】バスチャン タイジンガー
(72)【発明者】
【氏名】ゾンニャ タイジンガー
(72)【発明者】
【氏名】バーンハルド グンター
【審査官】
小森 潔
(56)【参考文献】
【文献】
特表2008−501806(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/065565(WO,A1)
【文献】
特表2000−511157(JP,A)
【文献】
あたらしい眼科,2004年,Vol.21,No.2,p179−185
【文献】
臨床眼科,1996年,Vol.50,No.1,p41−44
【文献】
European Journal of Ophthalmology,2000年,Vol.10,No.3,p189−197
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/13
A61K 9/08
A61K 47/06
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)乾性角結膜炎またはそれに関連する症状の予防または治療において有用な有効成分シクロスポリンAの治療有効量;および
(b)F4H5またはF6H8から選ばれる半フッ素化アルカンを含む液体ビヒクル
を含有する、乾性角結膜炎またはそれに関連する症状の予防または治療のための医薬組成物。
【請求項2】
有効成分が、室温および中性pHで測定した場合、1mg/ml未満の水溶解度を示す、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
シクロスポリンAの濃度が0.01重量%〜0.5重量%である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
溶液として製剤される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
水を含まない、請求項1〜4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
有機共溶媒をさらに含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
有機共溶媒がエタノールである、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
1重量%またはそれ以下の濃度のエタノールを含む、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の組成物および組成物を保持する容器を含み、容器が、組成物を患者の眼に局所投与するのに適した投薬手段を備える、医薬キット。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
ドライアイ疾患または涙液機能不全症候群としても知られる、乾性角結膜炎は、今日、不快、視覚障害、さらにはしばしば涙液膜の不安定性によって引き起こされる眼表面損傷をも生じさせる涙液膜および眼表面の多機能障害と理解されている。その罹患率は地域によって大きく異なり、米国での約7.4%から日本における約33%までにわたると推定される(J.L.Gayton,Clinical Ophthalmology 2009:3,405−412)。別の評価によれば、米国だけで約320万人の女性と105万人の男性が乾性角結膜炎に罹患している。症状的に軽度の症例も考慮すると、米国では罹患人口は2000万人にも上ると考えられる。
【0002】
涙液膜の主たる生理的機能は眼表面および内眼瞼の潤滑である。加えて、涙液膜は眼表面にそれが必要とする栄養素を供給し、眼に滑らかで規則正しい光学的平面を提供する。さらに、涙液膜は、異物粒子の機械的除去を含む様々な機構によって、のみならずそれが含有する抗菌性物質を介して、眼表面を病原体から保護する。
【0003】
涙液膜は、粘液成分、水性成分および脂質成分から成る。膜の内層は粘液層または成分であり、前記層または成分は、結膜杯細胞によってならびに結膜および角膜の重層扁平上皮細胞によって産生されるムチン分子の相互作用を介して眼上皮に結合される。涙液膜の潤滑作用は、実質的に粘液層およびその組成物に基づく。
【0004】
粘液層の上には、主涙腺と副涙腺によって生成される水層がある。その主要な機能は、粘液成分を水和し、眼表面への栄養素、電解質、抗菌性化合物および酸素の輸送に寄与することである。水性成分は、その重要な構成要素として水、電解質、リゾチーム、ラクトフェリン、免疫グロブリン(特にIgA)、レチノール、肝細胞増殖因子、上皮増殖因子を含む。
【0005】
水層を覆う脂質層は、眼瞼の瞼板に位置する瞼板腺によって、およびある程度は、睫毛嚢に開くツァイス腺によっても生成される。その機能は、涙液膜の拡大の増強、蒸発を低減することによる水層からの水分喪失の減少、および涙液膜汚染の防止を含む。
【0006】
今日では、乾性角結膜炎は、まだ理解され始めたばかりであるいくつかの相互作用性病態生理学的機構に関与する複雑な多機能障害であることが認められている(H.D.Perry,Am.J.Man.Care 13:3,S79−S87,2008)。この疾患の病因において極めて重要であると論じられており、また相互に補強し合うと思われる2つの機構は、涙液の高浸透圧と涙液膜の不安定性である。高浸透圧の涙液は、過剰な涙液膜蒸発または水分流量減少から生じ得る。高浸透圧涙液は、最終的に涙液膜蒸発の増大と涙液膜の不安定性を導く多数の病態生理学的作用を伴って、炎症カスケードを活性化し、涙液中への炎症メディエイタの放出を生じさせる。したがって、涙液膜の不安定性は高浸透圧の結果であり得る。あるいは、例えば瞼板疾患におけるような脂質層組成物の異常を介して、最初の病因経路として発症し得る。
【0007】
ひとたび乾性角結膜炎が発症すると、炎症は、疾患を維持し、潜在的に進行させる重要なプロセスの1つとなる。症状の重篤度により、患者は可逆的な鱗状メタ相および眼上皮に斑点状のびらんを頻繁に発症する。その発症が乾性角結膜炎によって誘発され得る続発疾患は、糸状角膜炎、細菌性角膜炎、角膜血管新生および眼表面の角化を含む。
【0008】
乾性角結膜炎またはドライアイ疾患(DED)の2つの主要なカテゴリーは、現在、涙液欠乏性DEDと蒸発性DEDに分類される。涙液欠乏性形態のDEDのクラスの中で、2つの主要なサブタイプはシェーグレン型と非シェーグレン型に区別される。シェーグレン症候群の患者は、涙腺が活性化T細胞によって侵襲される自己免疫疾患に罹患し、これは乾性角結膜炎だけでなくドライマウス症状ももたらす。シェーグレン症候群は、原疾患であり得るかまたは全身性エリテマトーデスもしくは関節リウマチなどの他の自己免疫疾患から生じ得る。涙液欠乏性DEDに罹患している非シェーグレン患者は、通常、涙腺機能不全、涙管閉塞または反射的涙液分泌の低下を有する。2番目の主要なクラスである蒸発性DEDも多少は異質性であり、多様な根本原因により発症し得る。主要原因の1つは、マイボーム腺疾患、眼瞼開口障害、(パーキンソン病におけるような)瞬目障害または(アレルギー性結膜炎におけるような)眼表面障害である。
【0009】
現在公知である乾性角結膜炎についての多くの危険因子のなかで、最も広く検討されているものの一部が高齢と女性である。特に閉経後の女性は、おそらくまだあまりよく理解されていないホルモン作用に関連して、涙液産生が減少すると思われる。さらなる危険因子としては、ω−3脂肪酸が少ない食事、職業的因子(例えば瞬目頻度の低下に関連する)、環境条件、コンタクトレンズの装用、特定の全身性(抗コリン作動薬、β遮断薬、イソトレチノイン、インターフェロン、ホルモン)および眼科用薬剤(人工涙液を含む任意の頻度で投与される点眼剤;特に防腐剤を含有する製剤)、ならびにパーキンソン病、C型肝炎、HIV感染および糖尿病などの多くの原疾患を含む。
【0010】
乾性角結膜炎の制御は、非薬理学的アプローチと薬理学的アプローチの両方に基づき、治療の選択は疾患症状の重篤度に有意に依存する(M.A.Lemp,Am.J.Man.Care 14:3,S88−S101,2008)。非薬理学的アプローチは、軽度の症状だけが発生した場合に最初に、または医学的介入を支持する緩和措置として使用され得る。それらは、乾燥した空気、風および通気、喫煙、作業習慣の変更などの増悪因子の回避;眼瞼の衛生;涙液補充、ならびに涙点プラグまたは治療用コンタクトレンズによる物理的な涙液保持を含む。
【0011】
非薬理学的DED治療の中心は、涙液置換のための人工涙液の使用である。使用可能な製品の大部分は潤滑剤として設計されている。加えて、それらは栄養素および電解質(重要なのは、カリウムおよび重炭酸塩)のための担体として機能することができ、一部の製品は、特定の形態のDEDにおける浸透圧上昇などの物理的パラメータを矯正することを試みている。人工涙液組成物の主要な機能性成分は、粘度を高めまたは調整し、同時に潤滑剤の機能も示す物質である。このために使用される一般的な化合物は、カルボキシメチルセルロースおよびそのナトリウム塩(CMC、カルメロース)、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC、ヒプロメロース)、ヒアルロン酸およびそのナトリウム塩、ならびにヒドロキシプロピルグアーガムを含む。しかし、比較的高い粘度を有する組成物、特にゲルタイプの製剤は視界不良を引き起こす傾向がある。
【0012】
一部の人工涙液は、天然涙液膜の脂質成分の代わりとなる脂質を含有する。残念ながら、一般的に使用される脂質は、物理的および生化学的に天然脂質成分にはほとんど関連しない;それらはヒマシ油、さらには鉱油に基づく。それによって涙液蒸発の速度を低下させることが意図されている。同じ作用が、おそらく、ヒドロキシプロピルグアーガムまたはヒアルロン酸などの、ある程度の生体接着性を示すハイドロコロイドによっても達成され得る。
【0013】
少なくとも以前は、眼投与用の多回用量製剤は、微生物汚染および感染の危険性を低減するために生理的に許容される防腐剤を使用して保存されねばならなかった。大部分の防腐剤は、しかし、それらが眼表面にマイナスの影響を及ぼす潜在的可能性を有し、したがって治療目的を妨げるという意味でDED患者にとって問題がある。代替策として、非保存製剤の投与のための単回用量容器が開発された。これらは、しかし、従来の多回用量ボトルよりも取り扱いが不便である。
【0014】
中等度から重症形態の乾性角結膜炎に関しては、非薬理学的アプローチは通常、適切に症状を制御するには十分でない。しかし、現在のところ、有効であることが証明されているおよび/または規制当局によって認可されている使用可能な薬理学的治療法は多くない。
【0015】
ムスカリン性アセチルコリン受容体アンタゴニストなどのコリン作動薬は、涙液産生を刺激する分泌促進剤として涙液欠乏性患者において使用され得る。シェーグレン症候群患者によるいくつかの臨床試験で成功裏に試験された薬剤はピロカルピンである。1日4回5〜7.5mg(Lemp,同上)の用量で経口投与されたこの薬剤は、DED症状を有意に改善した。しかし、その製品は、経口製剤としてもまたは、緑内障の治療のために使用可能であるので点眼剤の形態でも、乾性角結膜炎における使用に関してはいずれの主要規制当局によっても承認されていない。
【0016】
セビメリンはもう1つの副交感神経作動薬およびムスカリンアゴニストである。特にムスカリンM3受容体に作用する。数カ国で経口製剤として入手可能であり、シェーグレン症候群に関連するドライマウスの治療において使用される。臨床試験は、この薬剤がシェーグレン型の乾性角結膜炎に関連する症状の制御においても有効であることを示し、前記症状のためにピロカルピンのように適応症外使用されている。
【0017】
抗炎症薬を使用することにより、炎症応答を引き起こし、それが次に症状の重篤度を増大させるという症状の悪循環に介入し得る。そのような薬剤を使用することの理論的根拠は、涙液欠乏性またはさらにシェーグレン症候群患者に限定されない。局所コルチコステロイドおよび局所非ステロイド系抗炎症(NSAID)化合物の両方が治療選択肢として提案されてきた。
【0018】
これまでに実施された臨床試験から(Lemp,同上)、エタボン酸ロテプレドノールおよび酢酸プレドニゾロンなどのコルチコステロイドは、いくつかのDED症状の制御においてジクロフェナクおよびケトロラクなどのNSAIDよりも有効であると思われる。しかし、それらは一般に短期的使用に関してのみ推奨される。長期的には、眼感染、緑内障および白内障の発症を引き起こし得るまたは支持し得る。エタボン酸ロテプレドノールおよび酢酸プレドニゾロンはどちらも水難溶性であり、したがって懸濁液として製剤され、これは、乾性角結膜炎の症状を考慮すると不利とみなされ得る。
【0019】
さらに、乾性角結膜炎のためのドキシサイクリン、ミノサイクリンおよびオキシテトラサイクリンなどの経口テトラサイクリン類に関する臨床試験およびそれらの適応症外使用が報告されている(Lemp,同上)。それらは、主として抗菌特性に基づいて有効なのではなく、それらの抗菌活性によるものであると推測される。
【0020】
少なくとも米国では、中等度から重度の乾性角結膜炎のための主要な薬理学的治療選択肢はシクロスポリン(すなわち、サイクロスポリンAとしても知られる、シクロスポリンA)であり、これは、「乾性角結膜炎に関連する眼炎症のために涙液産生が抑制されていると推測される患者において涙液産生を...」(Restasis添付文書)増大させるための眼科用エマルジョン(Restasis(登録商標))の形態の認可薬剤である。入手可能な証拠によれば、局所シクロスポリンは、おそらく、単なる緩和性ではなく疾患修飾性である。様々な炎症プロセスおよびカスケードにおいてアンタゴニストとして働く。例えば、結膜インターロイキン6(IL−6)レベルを低減し、結膜中の活性化リンパ球を減少させ、他の結膜炎症およびアポトーシスマーカーを抑制し、結膜中の杯細胞の数を増加させる(Lemp,同上)。
【0021】
シクロスポリン(IUPAC名称:(E)−14,17,26,32−テトラブチル−5−エチル−8−(1−ヒドロキシ−2−メチルヘキス−4−エニル)−1,3,9,12,15,18,20,23,27−ノナメチル−11,29−ジプロピル−1,3,6,9,12,15,18,21,24,27,30−ウンデカアザシクロドトリアコンタン−2,4,7,10,13,16,19,22,25,28,31−ウンデカオン;C62H111N11O12;分子量1202.61)は、真菌種ビューベリア・ニベア(Beauveria nivea)の産物として最初に発見された、11アミノ酸の環状非リボソームペプチドである。シクロスポリンは、患者の免疫系の活性を低減し、臓器拒絶反応の危険性を低減するためにアレルゲン性臓器移植後に広く使用される免疫抑制薬である。
【0022】
シクロスポリンは、免疫応答性リンパ球、特にTリンパ球のサイトゾルタンパク質シクロフィリン(イムノフィリン)に結合すると考えられる。シクロスポリンとシクロフィリンのこの複合体は、通常の状況下ではインターロイキン2の転写を活性化することに関与する、カルシニューリンを阻害する。また、リンホカイン産生およびインターロイキン放出も阻害し、それゆえ、エフェクターT細胞の機能低下を導く。
【0023】
同様の活性を有する他の免疫抑制薬は、タクロリムス、ピメクロリムス、エベロリムス、シロリムス、デホロリムス、テムシロリムスおよびゾタロリムス、アベチムス、グスペリムスおよびミコフェノール酸を含む。薬理学的判断に基づき、これらの化合物はまた、ドライアイ疾患または乾性角結膜炎などの、シクロスポリンによって制御される疾患または症状の管理においても有益であると推測される。
【0024】
シクロスポリン、タクロリムス、シロリムス、エベロリムス等のようなマクロライド系免疫抑制剤は、生物または標的組織に有効に送達されれば高度に活性であるが、特にそれらの極めて低い溶解度と比較的大きな分子サイズのために、製剤し、作用部位に送達することが難しい化合物である。経口または静脈内投与経路を介した全身療法のために、それらは、典型的には、界面活性剤および有機溶媒などの、実質的な量の可溶化賦形剤を含有する可溶化製剤として提供される。
【0025】
0.05%の濃度のシクロスポリンを含有する眼科用製品、Restasisは、滅菌防腐剤不含水中油型(o/w)エマルジョンとして製剤される。この製剤は白色不透明からわずかに半透明で、0.4mLの液体を充填した単回使用LDPEバイアル中で提供される。不活性成分として、グリセリン、ヒマシ油、ポリソルベート80、カルボマー1342、精製水およびpHを6.5〜8.0に調整するための水酸化ナトリウムを含有する。有効成分は、ヒマシ油から成るエマルジョンの分散油相に溶解されている。両親媒性ポリソルベート80およびおそらくカルボマーも、エマルジョンの安定剤として働くと推測される。Restasisの主要な有害作用は、それぞれ14.7%および3.4%の頻度で第III相臨床試験において発生した、眼の灼熱感および眼部刺痛を含む。患者の1〜5%で報告された他の事象は、結膜充血、分泌物、流涙、眼痛、異物感、かゆみ、および典型的には霧視である視覚障害を含む(Restasis添付文書)。
【0026】
シクロスポリンの他の眼科用製剤は、米国特許第5,411,952号および同第4,839,342号から公知である。後者はオリーブ油中のシクロスポリンの2%溶液を開示し、米国特許第5,411,952号もトウモロコシ油中のシクロスポリンの溶液を記載する。
【0027】
眼投与用のすべての油性製剤の不利な点の1つは、本質的に視力に負の影響を及ぼすことである。油性溶液または水中油型エマルジョンのいずれで使用される場合も、それらは生理的涙液の屈折率とは実質的に異なる屈折率を示し、それが視覚障害および霧視を導く。
【0028】
さらに、油性製剤は、容易には涙液と混合して均質な液相を形成しない。油性溶液は水性涙液とは全く混和せず、生理的状況で涙液と混合したエマルジョンの正確な結果は完全には予測できない。
【0029】
シクロスポリンのような水難溶性薬剤の水中油型エマルジョンは、それらが限られた薬剤負荷能力を有するという不都合をさらに示す。有効成分は油相に多少の溶解度を有し得るが、この相は単にエマルジョンのコヒーレント水相に分散しているだけなので、製剤中の全体的な最大薬剤濃度は非常に限られる。
【0030】
水溶液または油性溶液などの単相系と異なり、水中油型エマルジョンはまた、特に滅菌形態では、より複雑で製造が難しい。しばしば、エマルジョンは、エマルジョンの物理的性質への負の影響を伴わずに熱処理によって滅菌することが容易ではない。他方で、無菌操作は複雑で費用がかかり、失敗、すなわち製品の微生物汚染のより高い危険性に結びつく。
【0031】
さらに、水中油型エマルジョンは、水溶液のように、使用の間に微生物汚染を生じやすい。原則的に単回使用バイアルよりもコスト効果的で患者にとっても好都合である多回用量容器で提供された場合、微生物学的品質を保証するためには防腐されねばならない。同時に、眼科用製剤中で使用できる防腐剤は、潜在的に眼に、特に眼表面に損傷を与え、ドライアイ疾患に関しては回避されるべきである。
【0032】
国際公開第2005/123035号は、眼科用薬剤製剤として有用であり得る疎水性組成物を開示する。前記組成物は、ドライアイ症候群を含む様々な眼疾患および症状を治療するために使用でき、例えば抗生物質、抗菌薬、抗真菌薬、抗ウイルス薬、駆虫薬、抗アレルギー薬、抗炎症薬、アルキル化剤、β遮断薬、コリン作動薬、血管収縮薬、瞳孔管理薬、緑内障薬、黄斑変性薬、および白内障の発症を停止させる薬剤などの様々な異なる治療カテゴリーから選択される治療薬を含有し得る。組成物の疎水性は、特にシリコンポリマー、フッ素化シリコンポリマー、ペルフルオロカーボン、フッ素化アルコールおよび過フッ素化ポリエーテル、ならびにそれらの混合物から選択される疎水性液体ビヒクルを選択することによって達成される。しかし、資料中で開示される唯一の特定組成物は有効成分を組み込んでおらず、単に、約8,000センチストークの粘度を生じるように組み合わされた2つのシリコンポリマー、すなわちジメチコンとシクロメチコンの混合物から成るビヒクルである。
【0033】
米国特許第6,262,126号は、半フッ素化アルカンおよびそれらの製剤を開示し、眼科用製剤中のビヒクルとしてのそれらの使用を提案する。しかし、半フッ素化アルカンおよび組み込まれた有効成分を含有する特定組成物を開示していない。ドライアイ症候群の治療またはマクロライド系免疫抑制剤の組込みのいずれについても言及していない。また、半フッ素化アルカンと共溶媒の混合物を含む眼科用ビヒクルについても触れていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0034】
【特許文献1】米国特許第5,411,952号
【特許文献2】米国特許第4,839,342号
【特許文献3】国際公開第2005/123035号
【特許文献4】米国特許第6,262,126号
【非特許文献】
【0035】
【非特許文献1】J.L.Gayton,Clinical Ophthalmology 2009:3,405−412
【非特許文献2】H.D.Perry,Am.J.Man.Care 13:3,S79−S87,2008
【非特許文献3】M.A.Lemp,Am.J.Man.Care 14:3,S88−S101,2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0036】
乾性角結膜炎の治療において有用であり、同時にこれらの問題に対処し、先行技術の製剤に関連する制約または不都合の少なくとも1つを克服する新規医薬組成物を提供することが本発明の1つの目的である。特定の態様では、乾性角結膜炎の制御において有用な水難溶性薬剤物質の実質的な量を組み込む能力を有する眼科用組成物を提供することが本発明の1つの目的である。さらなる態様では、先行技術の不利な点の1またはそれ以上を示さない乾性角結膜炎の治療のための組成物を含む医薬キットを提供することが本発明の1つの目的である。本発明のさらなる目的は、以下の説明、実施例および特許請求の範囲に基づいて明らかになる。
【課題を解決するための手段】
【0037】
本発明は、乾性角結膜炎またはそれに関連する症状の予防または治療において有用な有効成分を含有する医薬組成物を提供する。有効成分はマクロライド系免疫抑制剤の群から選択される。組成物は、半フッ素化アルカンを含む液体ビヒクルをさらに含有する。
【0038】
好ましい実施形態の1つでは、組成物は、シクロスポリン、特にシクロスポリンAのような免疫抑制活性を有する水難溶性マクロライドの治療有効量を含有する。組成物が液状であり、患者の眼に局所投与するように適合されていることがさらに好ましい。
【0039】
さらなる態様では、本発明は、乾性角結膜炎またはそれに関連する症状の予防または治療におけるそのような組成物の使用を提供し、前記予防または治療は、好ましくは組成物を患者の眼に投与することによって実施される。
【0040】
尚さらなる態様では、本発明は、組成物を患者の眼に局所投与するのに適した投薬手段を備える容器中にそのような組成物を含む医薬キットを提供する。
【発明を実施するための形態】
【0041】
最初の態様では、本発明は、乾性角結膜炎またはそれに関連する症状の予防または治療において有用な有効成分の治療有効量を含有する医薬組成物を提供する。有効成分はマクロライド系免疫抑制剤の群から選択される。組成物は、半フッ素化アルカンを含む液体ビヒクルを含有することをさらに特徴とする。
【0042】
本明細書で使用される場合、医薬組成物は、少なくとも1つの医薬賦形剤と組み合わせて少なくとも1つの薬理学的有効成分または診断薬を含有する組成物である。治療有効量とは、所望の薬理学的効果を生じさせるために有用な用量、濃度または強度を指す。
【0043】
乾性角結膜炎は、上述したように複雑で多面的な疾患または症状である。ドライアイ症候群、ドライアイ疾患(DED)または涙液機能不全症候群としても知られる。涙液欠乏性DED、蒸発性DED、シェーグレン症候群、涙腺機能不全、マイボーム腺疾患および他の症状はすべて乾性角結膜炎の範囲内であり、その特定のサブタイプを形成する。乾性角結膜炎の症状は、眼における乾燥した、チクチクした、ゴロゴロするまたはザラザラした感覚;異物感、疼痛またはヒリヒリする痛み;眼部刺痛または灼熱感;かゆみ;瞬きの増加;眼精疲労;羞明;霧視;発赤;粘液分泌;コンタクトレンズ不耐性;過剰な反射的流涙を含む。必ずしも乾性角結膜炎に罹患しているすべての患者がすべての症状を同時に示すわけではないことは理解される。したがって、現在のところこの疾患を診断するための均一なセットの判定基準は存在しない。しかし、本発明の範囲内で、DEDの態様、症状または病態生理学的結果のいずれかに対処し得ることに留意しなければならない。
【0044】
本発明の組成物中で使用される有効成分は、したがって、DEDに関連する炎症カスケードに介入すると考えられるシクロスポリンのような、疾患自体に対して有効であることが公知の薬剤であり得るか、または治癒活性を伴わずに、DEDに関連する症状の1またはそれ以上に対して有効な薬剤であり得る。以下でより詳細に論じるように、有効成分は、シクロスポリン、タクロリムス、ピメクロリムス、エベロリムス、シロリムス、デホロリムス、テムシロリムスおよびゾタロリムス、アベチムス、グスペリムスおよびミコフェノール酸などのマクロライド系免疫抑制剤から選択される。
【0045】
本発明の重要な利点の一部は、組成物中の半フッ素化アルカンの存在によってもたらされる。半フッ素化アルカンは、その水素原子の一部がフッ素で置換されている直鎖状または分枝アルカンである。好ましい実施形態では、本発明で使用される半フッ素化アルカン(SFA)は、少なくとも1つの非フッ素化炭化水素部分と少なくとも1つの過フッ素化炭化水素部分から成る。特に有用なのは、一般式F(CF2)n(CH2)mHにしたがって、1つの過フッ素化炭化水素部分に結合した1つの非フッ素化炭化水素部分を有する、または一般式F(CF2)n(CH2)m(CF2)oFにしたがって、1つの非フッ素化炭化水素部分によって分けられた2つの過フッ素化炭化水素部分を有するSFAである。
【0046】
本明細書で使用される別の命名法では、2または3の部分を有する上記SFAをそれぞれRFRHおよびRFRHRF[式中、RFは過フッ素化炭化水素部分を表し、RHは非フッ素化部分を表す]と称する。あるいは、化合物は、それぞれFnHmおよびFnHmFo[式中、Fは過フッ素化炭化水素部分を意味し、Hは非フッ素化部分を意味し、ならびにn、mおよびoはそれぞれの部分の炭素原子の数である]と称され得る。例えば、F3H3は、ペルフルオロプロピルプロパンに関して使用される。さらに、このタイプの命名法は、通常、直鎖状部分を有する化合物に関して使用される。それゆえ、特に指示されない限り、F3H3は、2−ペルフルオロプロピルプロパン、1−ペルフルオロイソプロピルプロパンまたは2−ペルフルオロイソプロピルプロパンではなく、1−ペルフルオロプロピルプロパンを意味するとみなされるべきである。
【0047】
好ましくは、一般式F(CF2)n(CH2)mHおよびF(CF2)n(CH2)m(CF2)oFにしたがった半フッ素化アルカンは、3〜20個の炭素原子にわたる部分サイズを有し、すなわちn、mおよびoは、3〜20の範囲から独立して選択される。本発明に関連して有用なSFAはまた、資料の開示が参照により本明細書に組み込まれる、欧州特許出願第EP−A 965 334号、同第EP−A 965329号および同第EP−A 2110126号にも記載されている。
【0048】
さらなる実施形態では、半フッ素化アルカンは式RFRHにしたがった化合物であり、そのRFおよびRH部分は直鎖状であり、各々、しかし互いからは独立して、3〜20個の炭素原子を有する。別の特定の実施形態では、過フッ素化部分は直鎖状であり、4〜12個の炭素原子を含み、および/または非フッ素化部分は直鎖状であり、4〜8個の炭素原子を含む。好ましいSFAは、特に化合物F4H5、F4H6、F6H4、F6H6、F6H8およびF6H10を含む。本発明を実施するために現在最も好ましいのは、F4H5、F6H6およびF6H8である。
【0049】
場合により、組成物は2以上のSFAを含有し得る。例えば特定の密度または粘度などの特定の標的特性を達成するために、SFAを組み合わせることが有用であり得る。SFAの混合物を使用する場合は、混合物がF4H5、F4H6、F6H4、F6H6、F6H8およびF6H10の少なくとも1つ、特にF4H5、F6H6およびF6H8の1つを含むことがさらに好ましい。別の実施形態では、混合物は、F4H5、F4H6、F6H4、F6H6、F6H8およびF6H10から選択される少なくとも2つの成員、特にF4H5、F6H6およびF6H8から選択される少なくとも2つの成員を含む。
【0050】
液体SFAは、化学的および生理的に不活性であり、無色で安定である。それらの典型的な密度は1.1〜1.7g/cm3の範囲であり、表面張力は19mN/mという低いものであり得る。RFRH型のSFAは水に不溶性であるが、同時にいくぶん両親媒性であり、親油性の上昇は非フッ素化部分の大きさの増大と相関する。
【0051】
RFRH型の液体SFAは、網膜を広げ、再適用するために、代用硝子体液として長期タンポナーデのために(H.Meinert et al.,European Journal of Ophthalmology,Vol.10(3),pp.189−197,2000)、および硝子体網膜手術後の残留シリコン油のための洗い出し液として、商業的に使用されている。実験的に、それらは代用血液としても使用されている(H.Meinert et al.,Biomaterials,Artificial Cells,and Immobilization Biotechnology,Vol.21(5),pp.583−95,1993)。これらの適用は、SFAを生理的に良好に耐容される化合物として確立した。
【0052】
他方で、SFAは、現在のところ承認された薬剤製品中の賦形剤としては使用されていない。
【0053】
今や、驚くべきことに、SFAが局所投与のための眼科用組成物における担体、ビヒクルまたは賦形剤として特に適することが発明者によって見出された。これは、SFAが、眼科における関心対象である多くの水難溶性化合物を溶解することができるという事実のみならず、前臨床試験で示されたように、眼によって予想外に良好に耐容されるという発見にも基づく。有機または非水性溶媒は、おそらく油性化合物を例外として、眼に局所的に投与した場合典型的には非常に刺激性であり、さらには高度に損傷性であるので、これは非常に驚くべきことである。
【0054】
局所使用のための眼科用組成物中の油性担体またはビヒクルと比較して、SFAは、視力にできるだけ影響を及ぼさないという目的とはるかに良好に適合する屈折率を示す:油性製剤により視界不良となるので、患者が明瞭な視力を必要とする状況では投与することができないが、SFAはほとんどまたは全く視界不良を引き起こさない。
【0055】
例証として、涙液の屈折率は水の屈折率に近い、すなわち室温(RT)で1.333である。油は、典型的には、約1.46(落花生油)、1.47(ゴマ油)または1.48(ヒマシ油)などの実質的により高い屈折率を有する。これに対し、発明者は、関心対象である様々なSFAの屈折率が1.29〜1.35の領域である、すなわち水の屈折率にはるかに近い屈折率であることを測定した。特定の実施形態の1つでは、本発明は、それゆえ、屈折率が20℃で1.29〜1.35、特に約1.30〜約1.35であるSFAを用いて実施される。選択したSFAについての屈折率を表1に示す。
【0057】
さらに、SFAは著明な湿潤および拡散挙動を示し、それによって組み込まれた有効成分を迅速かつ有効に角膜表面および結膜に送達する。湿潤とは、液体が固体表面との接触を確立し、維持する能力を意味し、これは、その2つが接触したときの分子間相互作用から生じる。接着力と凝集力のバランスが湿潤の程度を決定する。凝集力に比して接着力がより高いほど、より多くの液滴が固体物質の表面に広がる。逆に、液体内の非常に高い凝集力は液滴にスフェアを形成させ、したがって表面との接触を回避させる。同様に、拡散はまた、相互に接触した2つの液体の界面でも起こり得る。
【0058】
湿潤および拡散についての尺度は接触角θである。接触角は、液体−蒸気界面が固体−液体または液体−液体界面に交わる角度である。接触角が小さくなると共に液滴が拡散する傾向が増大する。したがって、接触角は湿潤性の逆指標となる。
【0059】
90°未満の低い接触角は高い湿潤性および/または拡散性を指示し、より高い接触角は低い湿潤性および拡散性を指示する。完全な湿潤および拡散は、測定不能の接触角としても報告される、0°の接触角を生じさせる。
【0060】
発明者は、本発明で使用されるSFA、特に好ましいSFAが、従来の薬剤製剤によっては容易に湿潤化されない様々な表面の卓越した湿潤を示すことを見出した。例えば、塩化トロスピウムおよびフェノフィブレートのいずれかから圧縮された錠剤(薬剤物質150mgが15〜20kNで直径13mmの錠剤に圧縮される)上のF4H5およびF6H8の両方の接触角が測定不能であった、すなわち完全な湿潤が生じた。フェノフィブレートは疎水性で水難溶性の化合物の一例であり、一方塩化トロスピウムは親水性で水溶性であることが注目される。比較として、フェノフィブレート錠剤上の精製水の接触角は92.5°と測定され、すなわち錠剤は水によってほとんど湿潤化されなかった。
【0061】
発明者によって見出されたSFAのさらなる驚くべき利点は、それらが点眼器などの点滴注入器から投薬された場合非常に小さな液滴を形成すると思われることである。理論に拘束されることを望むものではないが、小さな液滴サイズは、密度、粘度および表面張力に関するSFAのユニークな特性の相互作用の結果であると考えられる。いずれにしても、涙嚢が液体を受け入れて保持する能力は極めて限られているので、眼への局所投与のためには小さな滴または容量の投与は極めて好都合であると考えられる。実際に、水または油ベースの従来の点眼製剤の投与は、直ちに、投与された薬剤の実質的な割合ならびに一部の涙液の排出をもたらすことが非常に一般的である。同時に、投与された用量の一部が鼻涙管を介して全身的に取り込まれる危険性がある。したがって、有効量の有効成分を、非常に小さな液滴として投薬できる小容量の液体中に組み込むことができれば、これは実質的に高い投与の信頼性および再現性をもたらし、したがって治療の安全性と有効性を高めるはずである。
【0062】
SFAの使用に基づく本発明のさらなる利点は、それらが、投与後の最適に調整された蒸発挙動に合わせて設計または混合され得ることである。したがって、液体ビヒクルがその後蒸発によって除去されるように、活性化合物を眼に効率的に送達する眼科用組成物を製剤することが可能である。これは、蒸発せず、したがって投与の部位、例えば涙嚢中で非生理的残留物を形成する油性点眼剤ビヒクルとは大きく異なる。
【0063】
さらに、本発明は、微生物学的に安定な非水性眼科用組成物を製剤する手段を提供する。これは、SFAが、通常は微生物汚染を生じにくいという事実に起因する。したがって、多くの患者にとって、特に乾性角結膜炎に罹患している患者にとってより良好に耐容される防腐剤不含の眼科用組成物を製剤することが可能である。
【0064】
上述したように、本発明を実施するために選択される有効成分は、乾性角結膜炎もしくはドライアイ疾患、またはこの疾患に関連する何らかの症状の制御、予防または治療において有用なマクロライド系免疫抑制剤である。
【0065】
活性化合物が、さもなければ眼科用に製剤することが困難な水難溶性薬剤物質から選択される場合、本発明は特に有用であると考えられる。本明細書で使用される場合、化合物は、「やや溶けにくい」、「溶けにくい」、「極めて溶けにくい」または「ほとんど溶けない」(欧州薬局方第6版による)の定義に含まれる溶解度を示す場合、水難溶性である。特に好ましいのは、「極めて溶けにくい」または「ほとんど溶けない」有効成分である。別の実施形態では、有効成分が、室温(15〜25℃)および中性pH(pH6.0〜pH8.0)で測定した場合、約1mg/ml未満の水溶解度を示すことが好ましい。
【0066】
特に好ましい有効成分の一例は、上記で詳細に論じたシクロスポリンAである。シクロスポリンはほとんど水に溶けない。シクロスポリンは、約0.001重量%〜約5重量%などの、任意の治療上有用な濃度で組み込まれ得る。さらなる実施形態では、シクロスポリンの濃度は、少なくとも約0.01重量%、例えば、それぞれ約0.01重量%〜約2重量%、または約0.01重量%〜約1重量%、または約0.01重量%〜約0.5重量%である。シクロスポリンの治療上有用な濃度はまた、0.02重量%、0.05重量%、0.1重量%および0.2重量%を含む。
【0067】
有効成分が溶解した状態で組み込まれることも好ましい。これは、組成物が透明な溶液として製剤されることを可能にする。あるいは、組成物はまた、懸濁液またはエマルジョンとしても設計され得る。
【0068】
特定のSFAは、シクロスポリンAのような極めて難しい難溶性化合物でさえも溶解する驚くべき高い能力を有することが発明者によって認められた。好ましい実施形態の一部では、眼科用溶液は、F4H5、F4H6、F6H6およびF6H8から選択されるSFAならびに有効成分としてシクロスポリンAを含有する。これらの実施形態内で、シクロスポリンAの濃度は約0.01重量%〜約0.5重量%であることが好ましい。
【0069】
有効成分、その用量および担体として選択されるSFAまたはSFAの混合物に依存して、活性化合物が完全に溶解した形態で組み込まれ得ることを保証するために別の液体賦形剤を添加することが有用であり得る。そのような他の液体賦形剤は、好ましくは、グリセリド油、液体ワックスおよび流動パラフィンから選択される油のような有機共溶媒、または高度の生体適合性を示す有機溶媒である。
【0070】
1またはそれ以上のSFAと組み合わせて使用し得る潜在的に有用な油性賦形剤の例は、トリグリセリド油(すなわちダイズ油、オリーブ油、ゴマ油、綿実油、ヒマシ油、甘扁桃油)、鉱油(すなわちワセリンおよび流動パラフィン)、中鎖トリグリセリド(MCT)、油性脂肪酸、ミリスチン酸イソプロピル、油性脂肪アルコール、ソルビトールと脂肪酸のエステル、油性スクロースエステル、または眼によって生理的に耐容される任意の他の油性物質を含む。
【0071】
潜在的に有用な有機溶媒の例は、グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールおよびエタノールを含む。しかし、共溶媒の濃度は、好ましくはSFAまたはSFA混合物の濃度に比べて低くなければならない。エタノールなどの有機溶媒を使用する場合は、約5重量%のレベルより下に保持することが推奨される。より好ましくは、エタノールの含量は約0.1〜約2重量%、最も好ましくは約1重量%以下である。特定の実施形態の1つでは、約99重量%のF4H5および約1重量%のエタノールを含む液体ビヒクル中のシクロスポリンの溶液(例えば0.5mg/mLの濃度を有する)が提供される。
【0072】
エタノールは、一般的に言えば、ヒトの眼によってあまり良好に耐容されないが、驚くべきことに、1重量%のような非常に少量のエタノールと半フッ素化アルカンの混合物は、シクロスポリンAのような疎水性で難溶性の化合物の実質的により高い量を溶解することができ、一方組成物の耐容性はエタノール含量によって負の影響を受けないことが発明者によって見出された。
【0073】
組成物は、言うまでもなく、必要に応じてまたは有用なさらなる医薬賦形剤を含有し得る。潜在的に有用な賦形剤は、界面活性剤、特に非イオン性界面活性剤または両親媒性脂質、酸、塩基、抗酸化剤、安定剤、共力剤および、特定の場合に必要に応じて、防腐剤を含む。
【0074】
潜在的に有用とみなされる界面活性剤は、チロキサポール、Pluronic F68LFまたはLutrol F68、Pluronic L−G2LFおよびPluronic L62Dなどのポロキサマー、ポリソルベート20およびポリソルベート80などのポリソルベート、ポリオキシエチレンヒマシ油誘導体、ソルビタンエステル、ステアリン酸ポリオキシル、およびそれらの2またはそれ以上の混合物を含む。
【0075】
さらに、本発明は、上述した組成物および組成物を保持する容器を含む医薬キットを提供する。好ましくは、組成物を含む容器は、組成物を患者の眼に局所投与するのに適した点眼装置などの投薬手段を有する。
【0076】
以下の実施例は本発明を説明するものである;しかし、これらは本発明の範囲を限定すると理解されるべきではない。
実施例
【実施例1】
【0077】
3つの点眼器からの液滴の重量および容量に関して選択したSFAの液滴サイズを測定し、精製水のものと比較した。液滴を投薬するのに使用した装置は、(a)ガラス製の2mLパスツールピペット(壁厚0.53mm;外端径:1.50mm;長さ:150mm)、(b)20G(0.9mm×50mm)注射針、および(c)市販の点眼製品(Hylo−Vision)からの点眼器であった。液滴重量は、実験室用はかりを使用して25℃で測定した;容量は算定した。各々の検査を10回実施した。実験の結果(液滴サイズの平均値および標準偏差)を表2に示す。
【0078】
【表2】
【0079】
表2は、F4H5およびF6H8の液滴が、同じ装置から分注された水滴よりも劇的に小さく、軽いことを示す。SFAが多くの有効成分を非常に良好に溶解する高い能力を有するという事実を考慮に入れると、SFAは、涙嚢によって良好に保持され、ほとんど溢出を生じず、したがって従来の点眼製剤よりも確実かつ再現可能に用量を眼に送達する潜在的可能性を有する、点眼薬のための極めて適切な液体ビヒクルであると結論される。
【実施例2】
【0080】
様々な半フッ素化アルカンへのシクロスポリンAの溶解度を、逆相HPLC/DAD法を用いて欧州薬局方2.2.29にしたがって試験した。結果を表3に示す。
【0081】
【表3】
【実施例3】
【0082】
実施例2と同じ方法で、1.0重量%エタノール(EtOH)とSFAの混合物へのシクロスポリンAの溶解度を測定した。結果を表4に示す。結果は、1重量%のような少量のエタノールでさえも半フッ素化アルカンの溶解度を著しく上昇させ、この作用はF4H5に関して特に著明であることを示す。
【0083】
【表4】
【実施例4】
【0084】
エタノールをF4H5と混合し、1重量%のエタノール濃度を有する溶液を調製した。シクロスポリンA 2.5mgをこの溶液5mlに溶解し、0.5mg/mLのシクロスポリン濃度を有する透明な溶液を生成した。溶液を無菌的にろ過し、滅菌バイアルに充填した。20℃での屈折率は1.321であった。
【実施例5】
【0085】
0.5mg/mLの名目シクロスポリン濃度を有する、F4H5と1重量%エタノールの混合物中のシクロスポリンAの溶液を滅菌ガラスバイアル(10mL)に充填し、25℃および60%相対湿度で保存した。保存期間の開始時およびその後一定の時間間隔で試料を採取し、逆相HPLC/DAD法を用いて欧州薬局方2.2.29にしたがってシクロスポリンAの濃度を測定した。結果を表5に示す。
【0086】
【表5】
【実施例6】
【0087】
F4H5および実施例4で使用したビヒクル(F4H5中1重量%エタノール)の生理的耐容性を、新鮮犠死させた動物から採取したウサギ眼を使用してエクスビボ眼刺激試験(EVEIT)において評価した。ウシ胎仔血清を含まない培地(最小必須培地、MEM T031−05)を眼に継続的に供給するマイクロポンプシステムに連結したチャンバー内に眼を固定した。チャンバー溶出液中の乳酸塩およびグルコースの濃度を定期的に測定することによって眼の生命力を観測した。眼の角膜表面を、歯科用セラミック研磨剤(638XF,Meisinger)を使用して擦過傷によって損傷した。各々の眼について、3.0〜4.5mm2の4つの病変を作製した。
【0088】
1重量%エタノールとF4H5およびF4H5の角膜への作用を評価するために、約0.25〜0.50μlの量のそれぞれの試験物質を12時間にわたって1時間に1回角膜の中心部に点眼し、次いで12時間を休止時間として、その間は夜間期の閉じた眼瞼をシミュレートするために角膜を培地に沈漬した。加えて、ヒアルロン酸の水溶液(0.1重量%)を標準品として使用し(ヒアルロン酸は損傷後の角膜表面の修復を促進することが公知である)、培地を対照として使用し、そして塩化ベンザルコニウム水溶液(0.01重量%)を陰性対照として使用した。各試験を3日間にわたって実施した。作用を、光干渉断層撮影法(OCT)によって、フルオレセインで染色した後病変の面積をデジタル測定することによって、および最後に各実験の終了時に角膜上皮および内皮の組織学的評価によって観察した。
【0089】
結果として、特にF4H5が培地よりも良好に耐容されることおよびヒアルロン酸と同様に損傷角膜の治癒にプラスの作用を示すことが認められた。1重量%のエタノールを含む場合でも、F4H5は眼によって非常に良好に耐容される。OCTイメージングは、角膜へのF4H5の浸透の徴候を示さなかった。
【0090】
【表6】
【0091】
【表7】
【0092】
より詳細には、擦過傷によって作製した病変は、角膜に投与された液体に依存して経時的により小さくまたはより大きくなることが認められた。F4H5、F4H5と1重量%エタノールまたはヒアルロン酸を使用した場合は実質的な治癒が起こった。それとは著しく異なり、塩化ベンザルコニウム投与は病変の急速な成長を導き、最終的に角膜上皮の完全な崩壊に至る。培地は中間的な作用を及ぼした。表6および7は、それぞれ、様々な試験液および対照に関する試験前と試験後の病変の面積[mm2]を示す。
【0093】
形態学的および組織学的評価は、F4H5またはヒアルロン酸で処置した角膜は非常に良好に治癒していたのみならず、試験の終了時に完全に透明であり、健康で滑らかな表面形態を有することを明らかにした。F4H5と1重量%エタノールで処置した眼は健康な全体的形態を示し、角膜は透明で、上皮は病変から残存する非常に小さな損傷の徴候だけを明らかにした。これに対し、培地で処置した対照の一部は有意の表面の粗さを示し、塩化ベンザルコニウムで処置した眼は、角膜上皮の完全な崩壊だけでなく、内皮までも含む角膜全体の重大な損傷を示した。
【実施例7】
【0094】
実施例6にしたがったエクスビボ眼刺激試験(EVEIT)を、今回はF6H8および1重量%エタノールと混合したF6H8をビヒクルとして使用して反復し、それらの耐容性を評価した。2つのビヒクルの各々を2つの別々の試験で検査した。結果として、すべての病変が実験期間中に完全に治癒した(表8参照)。組織学的検査は、ごくわずかな裂溝と良好に配置されたケラチノサイトを伴う密な支質を示した。
【0095】
【表8】
【実施例8】
【0096】
シクロスポリンA 2.5mgをF6H8中のエタノール(1重量%)の溶液5mlに溶解した。生じた透明な溶液を無菌的にろ過し、滅菌バイアルに充填した。20℃での屈折率は1.3440であった。
【実施例9】
【0097】
シクロスポリンA 2.5mgおよびα−トコフェロール20mgをF4H5中のエタノール(1重量%)の溶液5mlに溶解した。生じた透明でわずかに黄色の溶液を無菌的にろ過し、滅菌バイアルに充填した。20℃での屈折率は1.3225であった。
【実施例10】
【0098】
シクロスポリンA 2.5mgを、F4H5(49.5重量%)、F6H8(49.5重量%)およびエタノール(1重量%)から成る液体ビヒクル5mlに溶解した。透明な溶液が生じ、それを無菌的にろ過して、滅菌バイアルに充填した。20℃での屈折率は1.3310であった。
【実施例11】
【0099】
シクロスポリンA 2.5mgおよびオリーブ油20mgを、F4H5(49.5重量%)、F6H8(49.5重量%)およびエタノール(1重量%)から成る液体ビヒクル5mlに溶解した。透明でわずかに黄色の溶液が生じ、それを無菌的にろ過して、滅菌バイアルに充填した。20℃での屈折率は1.3431であった。
【実施例12】
【0100】
タクロリムス2.5mgを、F6H8(99重量%)およびエタノール(1重量%)から成る液体ビヒクル5mlに溶解した。透明な溶液が生じ、それを無菌的にろ過して、滅菌バイアルに充填した。20℃での屈折率は1.3421であった。
【実施例13】
【0101】
タクロリムス2.5mgを、F4H5(99重量%)およびエタノール(1重量%)から成る液体ビヒクル5mlに溶解した。透明な溶液が生じ、それを無菌的にろ過して、滅菌バイアルに充填した。20℃での屈折率は1.3218であった。