(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5663680
(24)【登録日】2014年12月12日
(45)【発行日】2015年2月4日
(54)【発明の名称】溶射材
(51)【国際特許分類】
C23C 4/04 20060101AFI20150115BHJP
C23C 4/10 20060101ALI20150115BHJP
C23C 4/12 20060101ALI20150115BHJP
C01B 33/02 20060101ALI20150115BHJP
C04B 35/00 20060101ALI20150115BHJP
C04B 41/87 20060101ALI20150115BHJP
【FI】
C23C4/04
C23C4/10
C23C4/12
C01B33/02 Z
C04B35/00 W
C04B41/87 K
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-14601(P2014-14601)
(22)【出願日】2014年1月29日
【審査請求日】2014年2月7日
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000170716
【氏名又は名称】黒崎播磨株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001601
【氏名又は名称】特許業務法人英和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】本田 和寛
(72)【発明者】
【氏名】松井 泰次郎
【審査官】
祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−284707(JP,A)
【文献】
特許第4657172(JP,B2)
【文献】
特開平10−226869(JP,A)
【文献】
特開平04−293763(JP,A)
【文献】
特開2009−120406(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 4/00−6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火材料粉及び金属Si粉を含み、酸素又は酸素を含有するガスを搬送ガスとして被施工面に吹付け、前記金属Si粉の燃焼発熱で被施工面に溶融付着させる溶射材であって、
溶射材全体中の金属Si粉の含有量は10質量%以上25質量%以下であり、
前記金属Si粉のメジアン径は10μm以下であり、
前記金属Si粉全体中の粒度2μm以下の金属Si粉の含有量は8質量%以下である溶射材。
【請求項2】
前記金属Si粉のメジアン径は8μm以下である請求項1に記載の溶射材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工業用窯炉の炉壁の補修等に使用する溶射材に関する。
【背景技術】
【0002】
工業用窯炉の炉壁を補修する技術の一つとして、耐火原料粉及び金属粉を主材として含む溶射材を、酸素又は酸素を含有するガスを搬送ガスとして被施工面(被補修面)に吹付け、金属粉の燃焼発熱を利用して耐火原料を溶融付着させるテルミット溶射法が知られている。
【0003】
このようにテルミット溶射に使用する溶射材は金属粉を含むことから、必然的に発火が生じやすいという問題があり、特許文献1では溶射装置の構成面からの発火防止技術が提案されている。ただし、溶射材が発火性を有する以上、溶射装置の構成面からの発火防止対策だけでは十分とはいえず、溶射材自体の発火性を抑える技術が望まれる。
【0004】
溶射材の発火性を抑えるには、Al−Mg合金粉やCa−Si合金粉などの他の金属粉に比べ発火性の低い金属Si粉を主材として使用することが知られている(例えば、特許文献2、3)。
【0005】
また、溶射材には、上述の発火防止のほか、作業性向上のために金属粉による発塵を抑えることや被補修面に対して安定した施工を行うために接着性(溶融付着性)を向上させることが求められる。金属粉による発塵を抑える点については、本発明者らが、金属Si粉全体中に2μm以下の金属Si粉を10質量%以上含む上記特許文献3の溶射材を試したところ、溶射施工時に金属Si粉による発塵が顕著に発生し、作業者の視界が悪くなって溶射施工が非常に困難であることがわかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013−43141号公報
【特許文献2】特許第4109663号公報
【特許文献3】特開2005−336001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、テルミット溶射に使用する溶射材の発火性及び発塵性を抑え、かつ、接着性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明者らが鋭意研究した結果、まず発火防止の点からは、金属Si粉のメジアン径を小さくすることが有効であるという知見が得られた。また、金属Si粉による発塵を抑える点からは、粒度2μm以下の金属Si粉の含有量を低減することが有効であるという知見が得られた。更に、接着性向上の点からは、金属Si粉の含有量が少ないと溶射材としての必要な接着性が得られないため、接着性向上に必要な金属Si粉の含有量の知見が得られた。
【0009】
本発明はこれらの知見に基づき完成されたもので、本発明の溶射材は、耐火材料粉及び金属Si粉を含み、酸素又は酸素を含有するガスを搬送ガスとして被施工面に吹付け、金属Si粉の燃焼発熱で被施工面に溶融付着させる溶射材であって、溶射材全体中の金属Si粉の含有量は10質量%以上25質量%以下であり、前記金属Si粉のメジアン径は
10μm以下であり、前記金属Si粉全体中の粒度2μm以下の金属Si粉の含有量は8質量%以下であることを特徴とするものである。
【0010】
本発明において前記金属Si粉のメジアン径は、
8μm以下であることが好まし
い。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、テルミット溶射に使用する溶射材の発火性及び発塵性を抑え、かつ、接着性を向上させることができる。すなわち、溶射材中の金属Si粉のメジアン径を15μm以下としたことで発火性が抑えられ、金属Si粉全体中の粒度2μm以下の金属Si粉の含有量を8質量%以下としたことで発塵性が抑えられる。更に、金属Si粉の含有量を10質量%以上としたことで接着性が得られる。なお、金属Si粉の含有量が25質量%を超えると、メジアン径を小さくしたとしても発火が生じやすくなる。このため、接着性及び発火性の観点から金属Si粉の含有量は10質量%以上25質量%以下であることが必要である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明者らが行った実験による、金属Si粉のメジアン径と爆発限界濃度との関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
まず本発明は、溶射材の発火性を抑える点から、溶射材中に含まれる金属Si粉のメジアン径を15μm以下
、より限定的に10μm以下とすることを特徴とする。
【0014】
図1は、本発明者らが行った実験による、金属Si粉のメジアン径と爆発限界濃度との関係を示す。爆発限界濃度は、JIS Z8818に基づいて酸素雰囲気下で測定した。メジアン径は、超音波ホモジナイザーで試料(金属Si粉)を分散させ、レーザ回折散乱式粒度分布計で測定した。この測定で得られた粒度の累積分布(体積分布)の中央累積値(d50)にあたるのがメジアン径である。
【0015】
図1に示すとおり、金属Si粉のメジアン径が15μm以下になると、爆発限界濃度が急激に高くなり、発火しにくくなることがわかった。従来の技術常識によれば、金属Si粉のメジアン径を小さくすると、むしろ発火しやすくなると予測されるところであるが、本発明者らの実験ではその予測に反する知見が得られたのである。これは、金属Si粉のメジアン径が15μm以下になると、微細な金属Si粉が凝集して擬似粒子を形成することで、見掛け上粒径が大きくなって金属Si粉の活性が低下することによるものと推定される。
【0016】
実際の溶射施工においても、金属Si粉が搬送ガスで搬送されている最中は、メジアン径が15μm以下の金属Si粉が凝集して擬似粒子を形成し活性が低下することで、発火性が抑えられると考えられる。一方、溶射施工において金属Si粉の活性の低下は、被施工面への接着性(溶融付着性)には負の影響をもたらす。しかし、本発明において金属Si粉は、もともとはメジアン径が15μm以下の微細な粒子であるので、搬送ガスによる搬送中に粗大な擬似粒子を形成していても、被施工面への吹付け(衝突)による衝撃により個々の微細な金属Si粉に分離し、その活性がいかんなく発揮される。このように本発明は、金属Si粉のメジアン径を15μm以下とすることで、溶射材の発火性を抑えることができ、かつ被施工面への接着性(溶融付着性)をも向上させることができるという、一石二鳥の効果を奏する。
【0017】
また本発明は、溶射材の発塵性を抑える点から、金属Si粉全体中の粒度2μm以下の金属Si粉の含有量を8質量%以下とすることを特徴とする。これは、溶射材の発塵性を抑えるためには、粒度2μm以下の金属Si粉の含有量を低減することが有効であるという本発明者らの新たな知見に基づく。すなわち、金属Si粉のメジアン径を小さくしたとしても、粒度2μm以下の含有量を8質量%以下とすることで、発塵性を抑えることができる。
【0018】
本発明において、溶射材全体中の金属Si粉の含有量は10質量%以上25質量%以下とする。金属Si粉の含有量が10質量%未満では、溶射材としての必要な接着性(溶融付着性)が得られず、25質量%を超えると、メジアン径を小さくしたとしても発火が生じやすくなる。
【0019】
本発明の溶射材において金属Si粉以外の残部は、主として非金属の耐火材料粉からなる。非金属の耐火材料粉の材質は従来の溶射材に使用されている耐火材料粉と同材質とすることができ、例えば、シリカ質粉、マグネシア質粉、アルミナ質粉、アルミナ−シリカ質粉、マグネシア−シリカ質粉、アルミナ−マグネシア質粉、アルミナ−スピネル質粉、カルシア質粉、カルシア−シリカ質粉などから選択される一種又は二種以上の組合せが挙げられる。これらの耐火材料粉の粒度構成も、従来の溶射材に倣って適宜調整する。
【0020】
本発明では、金属粉の主材として金属Si粉を用いるが、金属Si粉以外の残部には、非金属の耐火材料粉のほかに、発熱性を向上させるための燃焼助剤として、Al粉、Al−Mg合金粉、Mg粉、Fe−Si合金粉、Ca−Si合金粉等の金属Si粉以外の金属粉を少量(最大で溶射材全体中に1質量%)添加してもよい。更に、着火助剤として、レジン、ピッチなどの酸素雰囲気下で燃焼する有機系粉末を、溶射材の物性に影響を及ぼさない範囲(例えば、溶射材全体中に2質量%未満)で添加してもよい。
【実施例】
【0021】
表1に本発明の溶射材の実施例を比較例と共に示す。本実施例では、非金属の耐火材料粉として、シリカ質粉を用いた。シリカ質粉としては、天然石英粉、溶融シリカ粉、珪砂、珪石粉、あるいはこれらの成分を主体とした耐火物粉等が挙げられる。
【0022】
【表1】
【0023】
各例の溶射材を被施工面であるれんが表面に溶射施工し、その溶射施工時の発火の有無、発塵性及び溶射後のれんがとの接着性(溶融付着性)を評価した。
【0024】
溶射施工には一般的な溶射装置を用い、タンクの底部に備え付けたテープフィーダをもって溶射材を切り出し、酸素で搬送し、ノズル先端かられんが表面に向けて吹付けた。溶射材(粉体)の供給速度は60kg/h、れんが表面とノズル先端との距離は80mmとし、1回あたり3kgの溶射材をれんが表面に吹付けた。
【0025】
溶射施工時の発火の有無の評価は、上述の溶射施工を繰り返し100回行い、発火の発生が0回の場合は◎、1回の場合は○、2回の場合は△、3回以上の場合は×とした。
【0026】
発塵性の評価は、溶射施工時に発塵がほとんどなく視界が良好の場合は◎、発塵が少しあるが視界が良好の場合は○、発塵があり視界は少し悪いが施工に問題ない場合は△、発塵があり視界が悪く施工ができない場合は×とした。
【0027】
れんがとの接着性の評価は、施工体を打撃により取り外した際にれんがと一緒に壊れる場合は◎、外観で接着不良は見られず、施工体を打撃により取り外そうとした際に接着界面から剥落する場合は○、外観で部分的に外れた箇所が見られる場合は△、外観で接着不良が顕著な場合は×とした。
【0028】
上記いずれの評価においても、◎、○、△、×の順に評価結果が悪いことを表す。総合評価は、上記いずれの評価のうち最も評価結果の悪いものに合わせた。例えば、いずれの評価のうち、○が最も悪い結果であれば総合評価は○、△が最も悪い結果であれば総合評価は△、×が最も悪い結果であれば総合評価は×とした。総合評価において、△以上の評価を合格とし、×の評価は不合格とした。
【0029】
表1の
各実施例はいずれも本発明の範囲内にあり、総合評価で△以上の評価が得られた。
【0030】
これに対して、比較例1は金属Si粉の含有量が少なすぎるため、れんがとの接着性に劣る。比較例2は金属Si粉の含有量が多すぎるため、発火しやすい。比較例3、4は金属Si粉のメジアン径が大きすぎるため、発火しやすい。
【0031】
ここで、金属Si粉のメジアン径が15μmの
参考例4、5の総合評価が△であるのに対し、金属Si粉のメジアン径が10μmの実施例6〜8の総合評価が○、8μm以下の実施例1〜3、9の総合評価が◎であることから、金属Si粉のメジアン径は10μm以下であることが好ましく、8μm以下であることがより好ましいと言える。
【0032】
また、
参考例5は、金属Si粉全体中の粒度2μm以下の含有量が8質量%の例であり、発塵性の評価が△である。なお、実施例7は、金属Si粉全体中の粒度2μm以下の含有量が
参考例5と同じ8質量%であるが、発塵性の評価は○である。これは、実施例7は
参考例5に比べ金属Si粉の含有量が高いので、溶射材の接着性(溶融付着性)が高くなったことによる。一方、金属Si粉全体中の粒度2μm以下の含有量が10質量%の比較例2の発塵性の評価は×である。以上を勘案すると、溶射材の発塵性を抑えるには金属Si粉全体中の粒度2μm以下の含有量は8質量%以下とする必要があると言える。
【要約】
【課題】テルミット溶射に使用する溶射材の発火性及び発塵性を抑え、かつ、接着性を向上させること。
【解決手段】酸素又は酸素を含有するガスを搬送ガスとして被施工面に吹付け、金属Si粉の燃焼発熱で被施工面に溶融付着させる溶射材において、溶射材全体中の金属Si粉の含有量を10質量%以上25質量%以下、前記金属Si粉のメジアン径を15μm以下、前記金属Si粉全体中の粒度2μm以下の金属Si粉の含有量を8質量%以下とした。
【選択図】
図1