特許第5663683号(P5663683)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5663683
(24)【登録日】2014年12月12日
(45)【発行日】2015年2月4日
(54)【発明の名称】一括練り混ぜ方法と一括練り混ぜ装置
(51)【国際特許分類】
   B28C 7/04 20060101AFI20150115BHJP
【FI】
   B28C7/04
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-29651(P2014-29651)
(22)【出願日】2014年2月19日
【審査請求日】2014年2月19日
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】592068130
【氏名又は名称】リブコンエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100089037
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 清一
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 祐二
(72)【発明者】
【氏名】塩永 亮介
【審査官】 永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭53−24310(JP,A)
【文献】 特開2003−191224(JP,A)
【文献】 特開2002−166412(JP,A)
【文献】 特許第4249176(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28C1/00−9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨材(木片を除く)とセメント等の水硬性物質粉体(急硬性セメントを除く)と配合水とをそれぞれ加えて練り混ぜてモルタルまたはコンクリートを固定式のミキサーを用いて製造する一括練り混ぜ方法において、
前記骨材に配合水を加えて練り混ぜする第一練り混ぜ工程と、
その後、前記水硬性物質粉体を加えて練り混ぜする第二練り混ぜ工程と
を備え、前記第二練り混ぜによって骨材表面の均一な水と前記水硬性物質粉体とが次第に練り混ぜられ、水セメント比がフェニキュラー状態から増大してブリーディング率が極小値となるキャピラリー状態に移行し、その後、更に水セメント比を大きくすることでブリーディング率を低減させるようにしたことを特徴とする一括練り混ぜ方法。
【請求項2】
骨材(木片を除く)とセメント等の水硬性物質粉体(急硬性セメントを除く)と配合水とをそれぞれミキサーに加えて練り混ぜてモルタルまたはコンクリートを固定式のミキサーを用いて製造する一括練り混ぜ装置において、
前記骨材と配合水をミキサーに加える第一供給手段と、
前記水硬性物質粉体をミキサーに加える第二供給手段と
を備え、前記第一供給手段で骨材と配合水をミキサーに加えて練り混ぜた後、前記第二供給手段で骨材表面の均一な水と前記水硬性物質粉体とを次第に練り混ぜ、水セメント比がフェニキュラー状態から増大してブリーディング率が極小値となるキャピラリー状態に移行し、その後、更に水セメント比を大きくすることでブリーディング率を低減させるようにしたことを特徴とする一括練り混ぜ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリートやモルタルを製造するために必要な配合水を水硬性物質粉体の投入前に供給する一括練り混ぜ方法と一括練り混ぜ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリートまたはモルタルの製造方法は、骨材にセメントと水を加えて、一括で練り混ぜをする一括練り混ぜ方法が一般に採用されている。一括練り混ぜ方法は、特許文献1に示すような、配合水を一次水と二次水とに分けて供給と練り混ぜを行うようにした分割練り混ぜ工法と比較して、製造が簡単でしかも短時間で製造できる。しかしながら、一括練り混ぜ方法は、ブリーディング率及び強度のバラツキが比較的大きく、しかも強度が比較的小さいモルタルまたはコンクリートになることが知られている。なお、セメントに配合水を加えて練り混ぜしたスラリー状のセメントをセメントペーストという。
【0003】
このような一括練り混ぜ方法によるコンクリートの製造方法では、コンクリートの強度を改善するために種々の製造方法が提案されている。例えば、特許文献2に記載されたコンクリートでは、セメントに、ポゾランあるいは潜在的水硬性物質のうち少なくとも一種からなる混和剤と、石灰石粗骨材とが混合されていることによってコンクリートの強度を高めることが提案されている。
【0004】
また、製造されるコンクリートやモルタルの強度を向上させる他の手段として、セメントペーストのブリーディング特性に着目した考え方がある。コンクリートやモルタルのブリーディングはセメントペーストの水が分離して発生するので、セメントペーストのブリーディング特性にコンクリートやモルタルの強度が影響される。即ち、セメントペーストのブリーディング率が小さいほどコンクリートやモルタルの強度に良い影響を与える。
練り混ぜ後に発生したブリーディング水はコンクリートやモルタルの骨材の間を水道(みずみち)を作りながら上昇する。この一部が頂部表面に行き着く前に骨材下面で拘束されて留まり、硬化後に骨材下面界面の欠陥(マイクロクラック等)の原因となり圧縮強度を低下させている。そのため、セメントペーストのブリーディング率が小さいほどコンクリートやモルタルの強度を向上させることができる。
【0005】
コンクリートやモルタルを製造する一般的な方法では、骨材とセメント等の水硬性物質粉体と必要な配合水とをほぼ同時に時間当たり均等に供給して練り混ぜを行うようにしている。このような一括練り混ぜ方法における練り混ぜと同じようにセメントCと配合水Wを例えばW/C=50%となるよう練り混ぜたセメントペーストのブリーディング率(セメントペーストの場合には、ブリーディング水の体積に対する混練物であるセメントペースト体積の割合をいう)は約8%であることが本発明者らの研究によって確認されている。
【0006】
通常、一括練り混ぜ方法でコンクリートを製造する場合、練り混ぜ手順として、投入時間が長くかかる骨材を最初に投入し、ミキサーで撹拌しながら引き続いてセメントと配合水の全量を投入するようにしている。ここで、セメントと水に着目すれば、その投入直後に混練物の局部のセメントに過剰な水が遭遇して練り混ぜが開始される。撹拌されながら、配合の水セメント比より水が過剰なセメントペースト部分から隣接する水が過少なセメント部分に移動して広がり、更に混練することによって配合の水セメント比に次第に近づきながら濃度は次第に均一化され、フレッシュコンクリートとして必要な流動性が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4249176号公報
【特許文献2】特開2002−87866号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、このような一括練り混ぜ方法によるコンクリートでは、水セメント比(W/C)が55%の場合にブリーディング率(コンクリートの場合には、ブリーディング水に対する全配合水の割合をいう)は2.7%、水セメント比(W/C)が65%の場合にはブリーディング率は3.4%となり、ブリーディング率が比較的大きかった。このような一括練り混ぜ方法ではブリーディング率が大きいだけでなく、練り混ぜ初期において、セメントに対して水の割合が偏り、セメントのダマが多く発生するなどの好ましくない状態になることがあった。そのため、大きなブリーディング率とセメントのダマの発生によってコンクリートの強度がバラつき、しかも十分発現しないという欠点があった。
【0009】
本発明は、このような実情に鑑みて、ブリーディング率を改善すると共にセメントのダマをなくしてコンクリートやモルタルの強度を改善できるようにした一括練り混ぜ方法と一括練り混ぜ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による一括練り混ぜ方法は、骨材(木片を除く)とセメント等の水硬性物質粉体(急硬性セメントを除く)と必要な配合水とをそれぞれ加えて練り混ぜてモルタルまたはコンクリートを固定式のミキサーを用いて製造する一括練り混ぜ方法において、骨材に配合水を加えて練り混ぜする第一練り混ぜ工程と、その後、水硬性物質粉体を加えて練り混ぜする第二練り混ぜ工程とを備え、前記第二練り混ぜによって骨材表面の均一な水と前記水硬性物質粉体とが次第に練り混ぜられ、水セメント比がフェニキュラー状態から増大してブリーディング率が極小値となるキャピラリー状態に移行し、その後、更に水セメント比を大きくすることでブリーディング率を低減させるようにしたことを特徴とする。
本発明による一括練り混ぜ方法によれば、予め骨材に配合水を加えて第一練り混ぜすることで、骨材の表面全体を水で均等に且つ万遍なく分布させて濡らすことができ、その後にセメント等の水硬性物質粉体を供給して第二練り混ぜすると、骨材表面の均一な水とセメント粉体の塊とが混ざることで、水セメント比がキャピラリー状態より小さいフェニキュラー状態の部分が多く発生でき、更にこれらを練り混ぜすることでセメント混練物がセメントのない骨材表面と接触して水セメント比を次第に大きくしながらセメント粉体が広がってゆき、水セメント比が均一化していく(図1参照)。そして、この過程でセメント混練物がフェニキュラー状態からキャピラリー状態になる練り混ぜが行われる部分が増加することで、ブリーディング率を改善することができる。
【0011】
ここで、本発明による練り混ぜ方法において、コンクリートやモルタルのブリーディング発生の主要因となるセメントペーストがフェニキュラー状態からキャピラリー状態になる練り混ぜ方法がブリーディング率を減少させることについて説明する。
セメントと水のペーストにおいて、配合水の一部(初期水)を供給して練り混ぜた混練物に残りの配合水を加えて練り混ぜた練り混ぜ方法における、ブリーディング率と一部の配合水(初期水)との関係を図2に示す。図2に示すグラフにおいて、一部の配合水(初期水)とセメントとの比W1/Cが約25%付近でブリーディング率が極小値をとる。この約25%の水セメント比(W1/C)で練られた混練物をキャピラリー状態という。
このことから、一度、キャピラリー状態の練り混ぜを経たスラリー状のペーストはブリーディング率が極小値をとることが分かる。
【0012】
そして、最初にペーストの水セメント比W/Cが25%未満のフェニキュラー状態で練り混ぜを行い、さらに練り混ぜながら水を加えていくことで水セメント比W/Cが増大し、W/C=25%でのキャピラリー練り混ぜを行うと例えばW/C=50%としたスラリー状のペーストのブリーディング率は極小値を維持し、最初の配合水(初期水)が水セメント比W/Cが25%を超えたキャピラリー状態でないスラリー状態に設定して練り混ぜを行ったペーストよりブリーディング率が小さい、という現象を呈する。
【0013】
このことを確認するために試験を行った結果を示す図3に基づいて説明する。
図3には配合水の一部を加えて練り混ぜを行い、さらに何度かに分けて水を追加して練り混ぜた混練物の累積した配合水セメント比(Wn/C)と水とセメントの比がW/C=50%となるよう最後に水を加え練り混ぜたペーストのブリーディング率を示している。
例えば、図3の凡例で示すように、初めに加えた一部の配合水(初期水)とセメントの比W/Cを10%、30%、35%の3種に設定した場合について説明する。この場合、図3において、W/C=10%の場合では、最初に配合水の一部(Wnとする)をセメントに対して水セメント比がWn/C =10%となるよう加えて一次練り混ぜを行った。そして、このWn/C =10%の混練り物の一部を取り出して、これに残りの水(W−Wn)を何度かに分けてまたは連続して加えて二次練り混ぜを行い、得られたW/C=50%のセメントペーストのブリーディング率は7.1%であった。
【0014】
次に、残余の水セメント比Wn/C =10%のセメントペーストに、さらにセメント量の5%の配合水を追加して練り混ぜを行った。そして、このWn/C=15%の混練り物の一部を取り出して、これに残りの配合水(W−Wn)を加えて練り混ぜを行い、得られたW/C=50%のセメントペーストのブリーディング率は3.5%であった。
このような手順で混練り物に順次配合水を追加して練り混ぜ、その都度、混練り物の一部を取り出して残りの配合水を加えて練り混ぜを行い、最終的に得られた各W/C=50%のセメントペーストのブリーディング率を求めてそれぞれを図3に示すグラフにプロットした。なお、図の横軸は5%ずつ加水した累積の一次水量(Wn)とセメント(C)の比(Wn/C)であり、縦軸は配合水を全て加えて得られたセメントペーストのブリーディング率である。
【0015】
また、図3において、同様の手順で最初に加えた配合水の水セメント比Wn/C=30%と35%の場合におけるセメントペーストのブリーディング率との関係を示す。
最初に加えた配合水の量がWn/C=25%の場合(キャピラリー状態)より小さいと、徐々に配合水を加えて練り混ぜることによりブリーディング率は低減し、Wn/C=25%のキャピラリー状態を過ぎて増大してもブリーディング率は極小値より増加しないで極小値を維持する。
一方、最初の水の量がWn/C=30%や35%のようにW/C=25%(キャピラリー状態)より大きいと、ブリーディング率はW/C=25%の極小値より大きくなるという現象を呈する。
【0016】
そのため、セメント等の水硬性物質粉体は水と練り混ぜられてペーストになるとき、水硬性物質粉体と最初に供給される配合水との割合W/Cの値が25%以下か、25%を超えているかによって、その後さらに水を加えて得られたセメントペーストのブリーディング率(量)が決定されるといえる。
即ち、W/C=25%(キャピラリー状態)かこれより少ない配合水を加えたフェニキュラー状態から、これらの骨材と配合水を練り混ぜながら徐々に残りの配合水を加えると、W/C=25%(キャピラリー状態)より累積の配合水の量が多くなっても(この状態をスラリー状態という)ブリーディング率はキャピラリー状態より増加しない。
【0017】
図2および図3に示す結果から、従来の一括練り混ぜ方法のように、全量の配合水とセメントを同時にミキサーに投入すると水塊とセメントが遭遇して、スラリー状態で練り混ぜられる部分が多くなり、この部分のブリーディングは減少できない。
一方、配合水を骨材の表面に均等に分布させて、その骨材の一部にセメントを団塊状で遭遇させると、水セメント比W/Cが25%より小さいフェニキュラー状態の部分が多くできる。さらに練り混ぜて残りの配合水を加えることにより、配合水が均一に分散する過程でブリーディング率の小さいモルタルやコンクリートを製造できる。
【0018】
そのため、セメント等の水硬性物質粉体は水と練り混ぜられてペーストになるとき、水硬性物質粉体と最初に供給される配合水との割合W/Cの値が25%以下か、25%を超えているかによって、その後さらに練り混ぜながら残りの配合水を加えて得られたセメントペーストのブリーディング率(量)が決定されるといえる。
【0019】
また、本発明による一括練り混ぜ装置は、骨材(木片を除く)とセメント等の水硬性物質粉体(急硬性セメントを除く)と必要な配合水とをそれぞれミキサーに加えて練り混ぜてモルタルまたはコンクリートを固定式のミキサーを用いて製造する一括練り混ぜ装置において、骨材と配合水をミキサーに加える第一供給手段と、水硬性物質粉体をミキサーに加える第二供給手段とを備え、第一供給手段で骨材と配合水をミキサーに加えて練り混ぜた後、第二供給手段で骨材表面の均一な水と水硬性物質粉体とを次第に練り混ぜ、水セメント比がフェニキュラー状態から増大してブリーディング率が極小値となるキャピラリー状態に移行し、その後、更に水セメント比を大きくすることでブリーディング率を低減させるようにしたことを特徴とする。
本発明によれば、第一供給手段によってミキサー内に骨材と配合水を加えて第一練り混ぜすることで、骨材の表面全体に水を均等に分布させることができ、その後にセメントを含む水硬性物質粉体を第二供給手段によってミキサーに加えて、第二練り混ぜすることで、骨材表面の均一な水とセメント粉体の塊とが混ざり水セメント比がキャピラリー状態より小さいフェニキュラー状態の部分が多く発生し、更にセメント混練物がセメントのない水に濡れた骨材表面と接触して水セメント比を次第に大きくしながらセメント粉体が広がってゆき、水セメント比が均一化していくためにブリーディング率を改善することができる。
【0020】
なお、本発明による練り混ぜ方法と練り混ぜ装置において、第一練り混ぜと第二練り混ぜは連続して行ってもよく、その練り混ぜ工程の途中で水硬性物質粉体を供給してもよい。或いは、第一練り混ぜと第二練り混ぜとの間で練り混ぜ処理を中断させ、その間で水硬性物質粉体をミキサーに投入するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明による一括練り混ぜ方法と一括練り混ぜ装置によれば、先に骨材と配合水を第一練り混ぜして骨材の表面全体に水を均等に分布させた後でセメント等の水硬性物質を投入して更に第二練り混ぜすることで、ブリーディング率を低減させた高強度なコンクリートやモルタルを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施形態による練り混ぜ方法を示すフローチャートである。
図2】本発明の原理を示すものであり、初期の水セメント比と水セメント比50%でのペーストのブリーディング率との関係を示す図である。
図3】本発明の原理を示すものであり、累積の水セメント比と水セメント比50%でのペーストのブリーディング率との関係を示す図である。
図4】本発明の実施形態による練り混ぜ装置を示す概略構成図である。
図5図4に示す練り混ぜ装置において練り混ぜを行う制御部のブロック図である。
図6】本発明の実施形態と従来例による一括練り混ぜ方法における、コンクリートでのブリーディング率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
まず、本発明の実施形態による練り混ぜ方法の原理について説明する。
ブリーディング率の小さいモルタルやコンクリートは、振動時の流動性に優れると共に分離しにくい等の優れた特性を呈するため強度が高いことが知られている。そのため、ブリーディング率はモルタル及びコンクリートの品質の指標として重要な要素になっている。特に一般的な一括練り混ぜ方法において、骨材とセメントと配合水の全量Wを一度に投与して練り混ぜして得られるモルタルやコンクリートは、分割練り混ぜ工法と比較して、製造が簡単でしかも短時間で製造できるが、ブリーディング率は比較的大きく強度が比較的小さいことが知られている。
【0024】
このような一般的に用いられているモルタルまたはコンクリートの一括練り混ぜ方法であっても、本発明による練り混ぜ方法によれば、ブリーディング率が小さくセメントのダマが少ないモルタルまたはコンクリートが得られる。
即ち、本発明による練り混ぜ方法では、図1のフローチャートに示すように、まず最初に投入時間が長くかかる骨材を投入し、骨材に配合水の全量を投入して第一練り混ぜを行う。これによって骨材の表面全体に満遍なく均一に水が付着する。
【0025】
次にセメント等の水硬性物質粉体Cをミキサーに投入して第二練り混ぜを行うと、骨材表面に均一に付着した水とセメントを含む水硬性物質粉体とが混ざることで、水セメント比W/Cがキャピラリー状態より小さい部分が発生すると考えられ、これらが攪拌されることでセメント混練物がセメントのないまたは少ない骨材表面と接触して、水セメント比を大きくしながらセメント粉体が広がり、水セメント比W/Cが均一化する。そして、この過程で、キャピラリー状態となる練り混ぜが行われる部分が増大することでブリーディング率が改善し、しかもセメントのダマがなくなる。
なお、このような練り混ぜ方法を骨材・水先練り法というものとする。
【0026】
本発明による一括練り混ぜ方法では、セメント等の水硬性物質粉体を骨材に投入する前に骨材と水を良く練り混ぜることで、骨材表面全体に水が均一に付着するため、水と水硬性物質粉体との練り混ぜが良く行われて、ブリーディング率が改善し、しかもセメントのダマを減少させることができて、有効にセメントが水和反応してモルタルまたはコンクリートの特性を改善できる。
【0027】
ここで、本明細書で用いる用語について説明すると、水硬性物質の粉体とは、水と水和反応により硬化して水に溶けない物質となる粉体をいうものである。水硬性物質としてセメントが代表的であるが、他にも採用され得るものがある。即ち、水硬性物質粉体のうち、水硬性反応が早いものとしてセメント、水硬性反応が比較的遅いものとして高炉スラグ、フライアッシュ、シリカフューム等がある。水硬性反応がないものとして石灰石微粉末等がある。これらは混和剤である。これらセメント以外の適宜の水硬性物質をセメントに混ぜて全体を水硬性物質として用いることができる。
本実施形態における水硬性物質粉体は、セメント単独からなるもの、或いはセメントに加えて、高炉スラグ、フライアッシュ、シリカフューム、石灰石微粉末のうちの少なくとも1または複数の種類を添加して混合させた混合粉体からなるもののいずれかを用いるものとする。そのため、混和剤粉末サイロにはセメントに代えて混合材料からなる水硬性物質粉体が貯留されていてもよく、本明細書ではセメントのみの場合を含めて水硬性物質粉体という。
【0028】
なお、キャピラリー状態とは、骨材表面に付着した水とセメントの水粉体比が小さいペーストの粒子間が水で満たされ、粒子間の結合力が最も強くなり、練り混ぜエネルギーが最大になる状態をいう。そのため、ミキサーによる練り混ぜトルクも大きくなる。
また、フェニキュラー状態とは、キャピラリー状態より粉体粒子間に含まれる水分が少なく気泡等が残留可能であり、粒子間の結合力がキャピラリー状態より小さい状態をいう。
【0029】
次に上述した本発明の原理に基づく、実施の形態による練り混ぜ装置1と練り混ぜ方法について添付図面を参照して説明する。
図4は本発明の実施形態による練り混ぜ装置1を示すものである。
図4に示す練り混ぜ装置1は、コンクリートまたはモルタルを本発明による練り混ぜ方法によって製造するためのバッチャープラントであり、例えばタンクローリー車から供給される水硬性物質粉体としてのセメントを貯留するセメントサイロ2と、同じく水硬性物質粉体に含まれる混和剤粉末を貯留する混和剤粉末サイロ3とを備えている。セメントサイロ2のホッパと混和剤粉末サイロ3のホッパから供給されるセメントと混和剤粉末をスクリュウフィーダ4を介して水硬性物質粉体計量ホッパ5に供給することになる。
【0030】
また、天井クレーン7等で搬送される細骨材である砂を細骨材貯留ホッパ8に貯留し、更にベルトコンベアを介して細骨材計量ホッパ9に供給する。更に、天井クレーン7等で搬送される粗骨材である砂利を粗骨材貯留ホッパ10に貯留し、ベルトコンベアを介して粗骨材計量ホッパ11に供給する。また、水タンク13に貯留された水は水計量ホッパ14(水計量手段)に貯留する。混和剤タンク16に貯留された混和剤は計量タンク17を介して水計量ホッパ14に供給することになる。
これら水硬性物質粉体計量ホッパ5、細骨材計量ホッパ9、粗骨材計量ホッパ11、水計量ホッパ14では、計量された各材料を制御手段18によって選択的にミキサー20に供給してミキシングを行うようになっている。ミキサー20は例えば二軸強制練りミキサーを備えている。
【0031】
水計量ホッパ14には、例えばモルタルまたはコンクリートの練り混ぜのための総量である配合水(全水)Wが貯留されており、配合水Wは、供給される骨材とセメント等の水硬性物質の各量に対応する配合水の量Wを決定してミキサー20に供給するように、図示しないロードセル等で計量してバルブを開閉制御する。
【0032】
また、図5において、制御手段18には、骨材供給手段22と水硬性物質粉体供給手段23と水供給手段24とを備えている。骨材供給手段22は、調整練り混ぜのために、細骨材計量ホッパ9において所定量の砂を計量してミキサー20に供給させる細骨材供給手段26と、所定量の砂利を計量してミキサー20に供給させる粗骨材供給手段27とを備えている。また、水硬性物質粉体供給手段23では、練り混ぜの際に水硬性物質粉体計量ホッパ5でセメントや混和剤粉末等を計量してミキサー20に供給させる。
【0033】
そして、水供給手段24において、水量設定手段29では、予め決定された骨材とセメントを含む水硬性物質粉体とに応じて設定された配合水の全量Wを予め決定しておくものとする。水量設定手段29で設定された配合水Wの指示信号を配合水供給手段30によって水計量ホッパ14に送信して配合水Wを計量してミキサー20に供給させる。
また、骨材供給手段22と配合水供給手段30によって骨材と配合水Wをミキサー20に供給した状態で、ミキサー20を第一練り混ぜするミキサー作動手段31を備えている。ミキサー作動手段31では、水硬性物質粉体供給手段23から水硬性物質粉体Cをミキサー20に供給した状態で、ミキサー20を第二練り混ぜすることでモルタルまたはコンクリートを製造するようにしている。
【0034】
本実施形態による練り混ぜ装置1は上述の構成を備えており、図1に示すフローチャートに沿って本実施形態による練り混ぜ方法について説明する。
本実施形態による練り混ぜ装置1によって例えばコンクリートを製造する場合、骨材の供給に時間がかかるため、所要量の砂と砂利の供給量を決定して細骨材供給手段26と粗骨材供給手段27からの指示信号によって、細骨材計量ホッパ9と粗骨材計量ホッパ11で所要量の砂と砂利を計量してミキサー20に投入する(ステップ101)。
【0035】
そして、骨材供給手段22と水硬性物質粉体供給手段23でそれぞれ決定した骨材と水硬性物質粉体Cの量に対応する配合水の量Wを水量設定手段29で決定する。水量設定手段29で決定された配合水Wを配合水供給手段30の指示信号によって水計量ホッパ14で計量してミキサー20に供給する(ステップ102)。ミキサー20では、これらの骨材と配合水Wを第一練り混ぜする(ステップ103)。
第一練り混ぜによって、セメント等の水硬性物質粉体の投入前に、配合水Wを細骨材や粗骨材の表面全体にそれぞれ均一に付着させることができる。
【0036】
次に、第一練り混ぜ工程が終了した後、水硬性物質粉体供給手段23によって投与量が設定されたセメントに混和剤等を含む水硬性物質粉体を水硬性物質粉体計量ホッパ5で計量して、ミキサー20に供給し(ステップ104)、第二練り混ぜを行う(ステップ105)。
骨材に水を加えて練り混ぜた上で水硬性物質粉体を投入すると、骨材表面に均等に水が付着しているため、キャピラリー状態の練り混ぜ部分を多くすることができる。
【0037】
即ち、セメント等の水硬性物質粉体をミキサー20に投入した時、骨材表面に均一に付着した水とセメント粉体の塊とが混ざると水セメント比がキャピラリー状態より小さい、例えばフェニキュラー状態の部分が発生すると考えられる。これらが撹拌されて、セメント混練物がセメントのない骨材表面と接触して、水セメント比W/Cを大きくしながらセメント粉体が広がり、次第に水セメント比W/Cが均一化する。そしてこの過程でキャピラリー練り混ぜが行われる部分が増加することで、製造されるモルタルやコンクリートのブリーディング率の改善が行われる。
【実施例】
【0038】
次に、本実施形態による練り混ぜ方法の試験例について説明する。
まず、セメントを含む水硬性物質粉体の量Cと配合水Wの比である水セメント比W/Cを55%と65%の2種類製造するものとした。
従来例として、骨材にセメントを含む水硬性物質粉体Cと全配合水Wとを同時にミキサー20に投入して、これらを一括して練り混ぜした。この場合、図6に示すように、コンクリートのブリーディング率は、水セメント比W/Cが55%の場合には2.8%、65%の場合には3.4%であった。
【0039】
これに対し、本実施例(骨材・水先練り方法)では、まず最初に骨材を投入すると共に全配合水Wをミキサー20に投入して第一練り混ぜを所定時間行った。次に、セメントCをミキサー20に投入して第二練り混ぜを所定時間行った。各材料の配合量は従来例と実施例とで同一である。得られたコンクリートのブリーディング率は、水セメント比W/Cが55%の場合には1.3%、水セメント比W/Cが65%の場合には1.8%であった。
なお、上述の実施形態や実施例では、コンクリートの製造方法について説明したが、粗骨材を含まないモルタルの場合でも同様にブリーディング率の低いモルタルを製造することができる。
【0040】
上述したように、本実施形態による練り混ぜ装置1と練り混ぜ方法によれば、セメントを骨材に投入する前に骨材と水を練り混ぜすることで、ブリーディングが減少するだけでなくセメントのダマも減少させることができ、有効にセメントが水和反応してモルタルまたはコンクリートの特性を改善して高強度のモルタルまたはコンクリートを製造できる。
また、ブリーディング率を極小に維持してモルタルまたはコンクリートの振動時における流動性が高く且つ分離せず、セメントのダマを減少させて、もったり感のある高強度のモルタルまたはコンクリートが得られる。
【0041】
なお、本発明による練り混ぜ方法と練り混ぜ装置1は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜の変更や置換等を行うことができ、これらはいずれも本発明の範囲に含まれる。
【0042】
例えば、上述した実施形態による水計量ホッパ14と水量設定手段29は、水計量ホッパ14として一体の容器と計量手段を設置し、水量設定手段29で演算した配合水Wを水計量ホッパ14のロードセルで水量を計量してミキサー20に供給するようにしたが、本発明はこのような手段に限定されない。
例えば、予め計量した配合水Wを水タンク13に投入しておいて、配合水供給手段30によってミキサー20に全量を投入するようにしてもよい。
また、本発明による練り混ぜ装置1において、第一供給手段は骨材供給手段22と水供給手段24とを含み、第二供給手段は水硬性物質粉体供給手段23を含むものとする。
【0043】
なお、上述した実施形態による練り混ぜ方法においては、骨材をミキサー20に投入して、その後に配合水を供給するようにしたが、これに代えて骨材と配合水を同時にミキサー20に投入してもよいし、或いは配合水をミキサー20に供給した後に骨材を投入することで、その後に第一練り混ぜを行うようにしてもよい。
また、本発明による練り混ぜ方法と装置1において、第一練り混ぜと第二練り混ぜは連続して行ってもよく、その練り混ぜ工程の途中で水硬性物質粉体を供給してもよい。或いは、第一練り混ぜと第二練り混ぜとの間で練り混ぜ処理を中断させてもよく、その間で水硬性物質粉体をミキサー20に投入するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0044】
1 練り混ぜ装置
2 セメントサイロ
3 混和材粉末サイロ
5 水硬性物質粉体計量ホッパ
9 細骨材計量ホッパ
11 粗骨材計量ホッパ
14 水計量ホッパ
18 制御手段
20 ミキサー
22 骨材供給手段
23 水硬性物質粉体供給手段
24 水供給手段
29 水量設定手段
30 配合水供給手段
31 ミキサー作動手段
【要約】
【課題】練り混ぜ方法において、ブリーディング率を改善すると共にセメントのダマをなくしてコンクリートやモルタルの強度を改善できるようにした。
【解決手段】本発明による練り混ぜ方法は、細骨材と粗骨材からなる骨材を所定量ミキサーに投入すると共に、配合水をミキサーに加えて第一練り混ぜを行う。その後、セメント等を含む水硬性物質粉体をミキサーに加えて第二練り混ぜを行うことで、コンクリートまたはモルタルを製造する。これによって、従来例よりもブリーディング率が小さくセメントのダマのないコンクリートまたはモルタルを製造できる。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6