【実施例】
【0045】
以下、本発明に係る化成処理液及び化成処理方法に関して実施例及び比較例を示すが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【0046】
[評価方法]
70mm×150mmのアルミニウムダイキャストパネル(JIS−ADC12、パルテック株式会社製)をアルカリ脱脂剤(商品名:ファインクリーナー315、日本パーカライジング株式会社製)2%水溶液中に60℃×2分間浸漬し、次いで、水道水の流水(常温、30秒間浸漬)にて表面を濯ぎ清浄化したものに、後述する各条件の下、化成処理を施した。化成処理した後、再度水道水の流水で洗浄し、さらに脱イオン水で洗浄(常温、30秒)したものを電気オーブンにて乾燥(100℃×3分)して、下記の実施例1〜9及び比較例1〜6の試験片を得た。得られた試験片について、以下の測定と評価を行った。
【0047】
(金属量の測定)
化成処理皮膜の金属量は、蛍光X線分析装置(株式会社リガク製、ZSX PrimusII)を用いて定量した。
【0048】
(耐食性評価)
試験片について塩水噴霧試験(JIS−Z2371)を実施し、120時間後の白錆発生面積を目視評価した。白錆発生面積比は、10%以下が良好、5%以下が極めて良好なレベルである。
【0049】
(塗料密着性評価)
試験片の表面にメラミンアルキッド系塗料(商品名:ラクミン260、株式会社佑光社製)をスプレー塗布し、130℃で30分間乾燥して、厚さ25μmの塗装を施した。その後、表面に2mm角の碁盤目カットを10×10で100マス入れ、沸騰水中に1時間浸漬し、乾燥した後、テープ剥離を行った。剥離した後の碁盤目の状態を観察し、100マス中、テープ剥離した後に残存した個数により、100を最高、0を最低として評価した。
【0050】
[実施例1]
下記化成処理液1を調製し、清浄化されたアルミダイキャストに対し、下記化成処理方法1にて化成処理を施した。
【0051】
(化成処理液1)
チタンフッ化水素酸(Tiとして):5mg/リットル
メタバナジン酸ナトリウム(Vとして):45mg/リットル
A/B=0.11(Aはチタンフッ化水素酸の濃度であり、Bはメタバナジン酸ナトリウムの濃度である。)
pH=3.9(硫酸1g/リットルを添加した後、25%アンモニア水を用いてpH調整した。)
(化成処理方法1)
処理温度:65℃
処理時間:240秒
接触方法:浸漬
【0052】
[実施例2]
下記化成処理液2を調製し、清浄化されたアルミダイキャストに対し、下記化成処理方法2にて化成処理を施した。
【0053】
(化成処理液2)
チタンフッ化カリウム(Tiとして):30mg/リットル
バナジン酸ナトリウム(Vとして):150mg/リットル
A/B=0.20(Aはチタンフッ化カリウムの濃度であり、Bはバナジン酸ナトリウムの濃度である。)
pH=3.8(硫酸1g/リットルを添加した後、25%アンモニア水を用いてpH調整した。)
(化成処理方法2)
処理温度:55℃
処理時間:60秒
接触方法:浸漬
【0054】
[実施例3]
下記化成処理液3を調製し、清浄化されたアルミダイキャストに対し、下記化成処理方法3にて化成処理を施した。
【0055】
(化成処理液3)
チタンフッ化アンモニウム(Tiとして):50mg/リットル
メタバナジン酸アンモニウム(Vとして):200mg/リットル
A/B=0.25(Aはチタンフッ化アンモニウムの濃度であり、Bはメタバナジン酸アンモニウムの濃度である。)
pH=3.5(硫酸1g/リットルを添加した後、25%アンモニア水を用いてpH調整した。)
(化成処理方法3)
処理温度:60℃
処理時間:60秒
接触方法:浸漬
【0056】
[実施例4]
下記化成処理液4を調製し、清浄化されたアルミダイキャストに対し、下記化成処理方法4にて化成処理を施した。
【0057】
(化成処理液4)
チタンフッ化ナトリウム(Tiとして):350mg/リットル
メタバナジン酸カリウム(Vとして):900mg/リットル
A/B=0.39(Aはチタンフッ化ナトリウムの濃度であり、Bはメタバナジン酸カリウムの濃度である。)
pH=2.5(硝酸1g/リットルを添加した後、5%水酸化カリウム水溶液を用いてpH調整した。)
(化成処理方法4)
処理温度:75℃
処理時間:2秒
接触方法:スプレー
【0058】
[実施例5]
下記化成処理液5を調製し、清浄化されたアルミダイキャストに対し、下記化成処理方法5にて化成処理を施した。
【0059】
(化成処理液5)
チタンフッ化水素酸(Tiとして):300mg/リットル
メタバナジン酸アンモニウム(Vとして):100mg/リットル
A/B=3.00(Aはチタンフッ化水素酸の濃度であり、Bはメタバナジン酸アンモニウムの濃度である。)
pH=2.6(硫酸1g/リットルを添加した後、25%アンモニア水を用いてpH調整した。)
(化成処理方法5)
処理温度:40℃
処理時間:120秒
接触方法:浸漬
【0060】
[実施例6]
下記化成処理液6を調製し、清浄化されたアルミダイキャストに対し、下記化成処理方法6にて化成処理を施した。
【0061】
(化成処理液6)
チタンフッ化カリウム(Tiとして):65mg/リットル
メタバナジン酸ナトリウム(Vとして):15mg/リットル
A/B=4.33(Aはチタンフッ化カリウムの濃度であり、Bはメタバナジン酸ナトリウムの濃度である。)
pH:3.5(硫酸1g/リットルを添加した後、5%水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH調整した。)
(化成処理方法6)
処理温度:60℃
処理時間:280秒
接触方法:浸漬
【0062】
[実施例7]
下記化成処理液7を調製し、清浄化されたアルミダイキャストに対し、下記化成処理方法7にて化成処理を施した。
【0063】
(化成処理液7)
チタンフッ化アンモニウム(Tiとして):55mg/リットル
メタバナジン酸アンモニウム(Vとして):12mg/リットル
A/B=4.58(Aはチタンフッ化アンモニウムの濃度であり、Bはメタバナジン酸アンモニウムの濃度である。)
pH=4.0(硝酸1g/リットルを添加した後、25%アンモニア水を用いてpH調整した。)
(化成処理方法7)
処理温度:35℃
処理時間:300秒
接触方法:浸漬
【0064】
[実施例8]
下記化成処理液8を調製し、清浄化されたアルミダイキャストに対し、下記化成処理方法8にて化成処理を施した。
【0065】
(化成処理液8)
チタンフッ化ナトリウム(Tiとして):50mg/リットル
メタバナジン酸アンモニウム(Vとして):200mg/リットル
ジルコニウムフッ化水素酸(Zrとして):50mg/リットル
A/B=0.25(Aはチタンフッ化ナトリウムの濃度であり、Bはメタバナジン酸アンモニウムの濃度である。)
pH=4.2(硫酸1g/リットルを添加した後、25%アンモニア水を用いてpH調整した。)
(化成処理方法8)
処理温度:60℃
処理時間:600秒
接触方法:浸漬
【0066】
[実施例9]
下記化成処理液9を調製し、清浄化されたアルミダイキャストに対し、下記化成処理方法9にて化成処理を施した。
【0067】
(化成処理液9)
チタンフッ化水素酸(Tiとして):20mg/リットル
バナジン酸カリウム(Vとして):100mg/リットル
ジルコニウムフッ化水素酸(Zrとして):500mg/リットル
A/B=0.20(Aはチタンフッ化水素酸の濃度であり、Bはバナジン酸カリウムの濃度である。)
pH=2.7(硫酸1g/リットルを添加した後、25%アンモニア水を用いてpH調整した。)
(化成処理方法9)
処理温度:70℃
処理時間:6秒
接触方法:スプレー
【0068】
[比較例1]
下記化成処理液10を調製し、清浄化されたアルミダイキャストに対し、下記化成処理方法10にて化成処理を施した。
【0069】
(化成処理液10)
チタンフッ化カリウム(Tiとして):1mg/リットル
メタバナジン酸ナトリウム(Vとして):50mg/リットル
A/B=0.02(Aはチタンフッ化カリウムの濃度であり、Bはメタバナジン酸ナトリウムの濃度である。)
pH=3.5(硫酸1g/リットルを添加した後、25%アンモニア水を用いてpH調整した。)
(化成処理方法10)
処理温度:60℃
処理時間:60秒
接触方法:浸漬
【0070】
[比較例2]
下記化成処理液11を調製し、清浄化されたアルミダイキャストに対し、下記化成処理方法11にて化成処理を施した。
【0071】
(化成処理液11)
チタンフッ化アンモニウム(Tiとして):50mg/リットル
メタバナジン酸アンモニウム(Vとして):7mg/リットル
A/B=7.14(Aはチタンフッ化アンモニウムの濃度であり、Bはメタバナジン酸アンモニウムの濃度である。)
pH=4.0(硫酸1g/リットルを添加した後、25%アンモニア水を用いてpH調整した。)
(化成処理方法11)
処理温度:60℃
処理時間:60秒
接触方法:浸漬
【0072】
[比較例3]
下記化成処理液12を調製し、清浄化されたアルミダイキャストに対し、下記化成処理方法12にて化成処理を施した。
【0073】
(化成処理液12)
チタンフッ化ナトリウム(Tiとして):50mg/リットル
メタバナジン酸ナトリウム(Vとして):200mg/リットル
A/B=0.25(Aはチタンフッ化ナトリウムの濃度であり、Bはメタバナジン酸ナトリウムの濃度である。)
pH=2.3(硫酸1g/リットルを添加した後、25%アンモニア水を用いてpH調整した。)
(化成処理方法12)
処理温度:60℃
処理時間:20秒
接触方法:浸漬
【0074】
[比較例4]
下記化成処理液13を調製し、清浄化されたアルミダイキャストに対し、下記化成処理方法13にて化成処理を施した。
【0075】
(化成処理液13)
チタンフッ化水素酸(Tiとして):50mg/リットル
バナジン酸ナトリウム(Vとして):200mg/リットル
A/B=0.25(Aはチタンフッ化水素酸の濃度であり、Bはバナジン酸ナトリウムの濃度である。)
pH=3.5(硫酸1g/リットルを添加した後、25%アンモニア水を用いてpH調整した。)
(化成処理方法13)
処理温度:30℃
処理時間:6秒
接触方法:浸漬
【0076】
[比較例5]
下記化成処理液14を調製し、清浄化されたアルミダイキャストに対し、下記化成処理方法14にて化成処理を施した。
【0077】
(化成処理液14)
チタンフッ化カリウム(Tiとして):500mg/リットル
メタバナジン酸カリウム(Vとして):1050mg/リットル
A/B=0.48(Aはチタンフッ化カリウムの濃度であり、Bはメタバナジン酸カリウムの濃度である。)
pH=3.0(硫酸1g/リットルを添加した後、25%アンモニア水を用いてpH調整した。)
(化成処理方法14)
処理温度:80℃
処理時間:240秒
接触方法:浸漬
【0078】
[比較例6]
クロメート化成処理剤(商標:アルクロム713建浴剤)の5%水溶液(但し、6価クロムを含有)を用い、清浄化されたアルミダイキャストに対し、40℃で20秒間浸漬処理をした。次いで、上記化成処理方法1と同様に、水洗、脱イオン水洗、乾燥した。
【0079】
[評価結果]
表1は、実施例1〜9及び比較例1〜6で用いた化成処理液と化成処理条件であり、表2は、実施例1〜9及び比較例1〜6で得られた化成処理物品の評価結果である。
【0080】
【表1】
【0081】
【表2】
【0082】
表2に示すように、実施例1〜9は本発明に係る化成処理液及び本発明に係る化成処理方法を適用したものであり、塩水噴霧試験後の白錆発生面積は10%以下の良好な性能を示していた。また、塗料密着性についても、碁盤目試験の結果は全て100であり、良好であることが確認された。なお、これらの化成処理液は、表2に示すように、クロムを一切含有するものではない。
【0083】
これに対して、比較例1は、化成処理液中のチタン錯フッ化物イオンの含有量が不足しているため、得られた化成処理皮膜は、Ti量とV量の重量合計(C+D)が3.8mg/m
2と著しく少なくなっており、耐食性、密着性共に不十分な結果となった。また、比較例2は、化成処理液中のバナジウム化合物イオン含有量が不足しているため、得られた化成処理皮膜は、Ti量とV量の重量比(C/D)が8.5と大きくなって自己修復機能を担うVが相対的に不足し、且つTi量とV量の重量合計(C+D)が19mg/m
2と少なくなっており、耐食性が不十分な結果となった。また、比較例3は、化成処理液のpHが低すぎるために試験片に対するエッチング作用が強くなり、不均一な化成処理皮膜の形成が起こっていると考えられ、また、Ti量とV量の重量比(C/D)も37.4と著しく大きくなって自己修復機能を担うVが相対的に不足して、耐食性に劣る結果となった。また、比較例4は、化成処理液の温度が低すぎたために、化成処理皮膜の形成反応が不十分となり、その結果、Ti量とV量の重量合計(C+D)が1.7mg/m
2と少なくなって耐食性、密着性共に不十分な結果となった。また、比較例5は、化成処理液中のチタン錯フッ化物イオンと、バナジウム化合物イオンとの配合量が多すぎたために、Ti量とV量の重量合計(C+D)が535mg/m
2と多くなって化成処理皮膜が脆弱となり、塗装密着性で劣る結果となった。また、比較例6は、クロメート化成処理皮膜であり、本発明の目的性能を示すものであるが、本発明は、このクロメート化成処理皮膜と遜色ない性質を有していた。