(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
(実施の形態1)
図1と
図2はそれぞれ本発明の実施の形態1における弾性波素子6の上面図と断面模式図である。弾性波素子6は、例えば、CDMA標準規格のBand1用のアンテナ共用器であり、フィルタ7、8を備える。フィルタ7は、2110MHz〜2170MHzの受信の周波数帯域の信号を通過させる受信フィルタである。フィルタ8は、受信の周波数帯域より低い1920MHz〜1980MHzの送信の周波数帯域の信号を通過させる送信フィルタである。
【0012】
弾性波素子6は、圧電体9と、圧電体9の上面9A上に設けられたインターディジタルトランスデューサ(IDT)電極10、11と、圧電体9の上面9A上に設けられてIDT電極10、11を覆う誘電体層12とを備える。IDT電極10は互いに対向する櫛歯電極110、210を備える。櫛歯電極110は、バスバー110Aと、互いに平行にバスバー110Aから延びる複数の電極指110Bとを有する。櫛歯電極210は、バスバー210Aと、バスバー210Aから互いに平行に延びかつ複数の電極指110Bと交差する複数の電極指210Bとを有する。櫛歯電極111は、バスバー111Aと、バスバー111Aから互いに平行に延びる複数の電極指111Bとを有する。櫛歯電極211は、バスバー211Aと、バスバー211Aから互いに平行に延びかつ複数の電極指111Bと交差する複数の電極指211Bとを有する。
【0013】
受信フィルタであるフィルタ7は、アンテナ端子13に接続された直列共振器10Aと、直列共振器10Aに接続点710で直列接続された直列共振器10Bと、直列共振器10Bに接続された出力端子14と、接続点710と接地端子712との間に接続された並列共振器10Cとを備える。IDT電極10は共振器10A〜10Cを構成するIDT電極として機能する。
【0014】
送信フィルタであるフィルタ8は、アンテナ端子13に接続された直列共振器11Aと、直列共振器11Aに接続点711で直列接続された直列共振器11Bと、直列共振器11Bに接続された入力端子15と、接続点711と接地端子713との間に接続された並列共振器11Cとを備える。IDT電極11は共振器11A〜11Cを構成するIDT電極として機能する。
【0015】
IDT電極10が構成するフィルタ7は、受信の周波数帯域の信号を通過させる受信フィルタである。IDT電極11が構成するフィルタ8は、受信の周波数帯域より低い送信の周波数帯域の信号を通過させる送信フィルタである。したがって、IDT電極10を伝搬する弾性波の波長λ1は、IDT電極11を伝搬する弾性波の波長λ2より短い。
【0016】
圧電体9は、ニオブ酸リチウム系の圧電材料よりなるが、例えば、水晶、タンタル酸リチウム系、又はニオブ酸カリウム系等の他の圧電材料より形成されていてもよい。
【0017】
IDT電極10、11は、銅を主成分とする金属からなるが、例えば、アルミニウム、銀、金、チタン、タングステン、白金、クロム、モリブデンの少なくとも一種からなる単体金属、又はこれらを主成分とする合金等の他の金属より形成されていてもよい。
【0018】
IDT電極10、11が銅を主成分とする金属よりなる場合には、例えば、IDT電極10の膜厚TAは1550Å以上1650Å未満であり、IDT電極11の膜厚TBは1650Å以上1750Å未満である。すなわち、IDT電極11の膜厚TBをIDT電極10の膜厚TAよりも厚くする。これにより、IDT電極10の膜厚TAを弾性波の波長λ1で割って規格化して得られる規格化膜厚を、IDT電極11の膜厚TBを波長λ2で割って規格化して得られる規格化膜厚と実質的に等しくすることができ、弾性波素子6の電気機械結合係数を向上させることができる。
【0019】
誘電体層12は、圧電体9とは逆の周波数温度特性を有する酸化ケイ素等の誘電材料よりなる。これにより、弾性波素子6の周波数温度特性を向上することができる。酸化ケイ素は、圧電体9を伝搬する横波の速度よりも遅い速度の横波が伝搬する媒質である。
【0020】
図10に示す従来の弾性波素子1では、誘電体層5の上面は、IDT電極3の上方からIDT電極4の上方に渡って平坦に形成されている。したがって、送信フィルタのIDT電極4の膜厚T502が厚いので誘電体層5の膜厚T504が受信フィルタの誘電体層5の膜厚T503より薄いので、送信フィルタは温度特性が劣り、受信フィルタは電気機械結合係数が劣る。
【0021】
誘電体層12が酸化ケイ素よりなる場合、例えば、IDT電極10の真上方における誘電体層12の上面12Aの圧電体9の上面9Aからの高さTCは3950Å以上4050Å未満である。IDT電極11の真上方における誘電体層12の上面12Aの圧電体9の上面9Aからの高さTDは4050Å以上4150Å未満である。すなわち、IDT電極11の真上方における誘電体層12の部分212の上面12Aの圧電体9の上面9Aからの高さTDは、IDT電極10の真上方における誘電体層12の部分112の上面12Aの圧電体9の上面9Aからの高さTCより高い。これにより、誘電体層12の部分212の膜厚TFを、誘電体層12の部分112の膜厚TEと実質的に等しく、例えば2400Åとすることができ、弾性波素子6の温度特性と電気機械結合係数を共に良好にすることができる。
【0022】
誘電体層12の部分212の膜厚TFは部分112の膜厚TE(例えば2400Å)以上である。かつ、誘電体層12の部分212の膜厚TFを波長λ2で割って規格化して得られる規格化膜厚は、部分112の膜厚TEを波長λ1で割って規格化して得られる規格化膜厚以下であることが望ましく、すなわち膜厚TFを例えば2550Å以下とすることが望ましい。これにより、弾性波素子6の温度特性と電気機械結合係数とをさらに向上することができる。
【0023】
特に、誘電体層12の部分212の膜厚TFは部分112の膜厚TE(例えば2400Å)より大きく、かつ、誘電体層12の部分212の膜厚TFを波長λ2で割って規格化して得られる規格化膜厚は、部分112の膜厚TEを波長λ1で割って規格化して得られる規格化膜厚(例えば2550Å)未満であることがより望ましい。これにより、弾性波素子6の温度特性と電気機械結合係数とをさらに向上することができる。
【0024】
図3は実施の形態1における他の弾性波素子1001の断面模式図である。
図3において、
図1と
図2に示す弾性波素子6と同じ部分には同じ参照番号を付す。弾性波素子1001では、誘電体層12の上面12AはIDT電極10の真上方に位置する凸部16と、IDT電極11の真上方に位置する凸部17を有する。凸部16、17はそれぞれ
図1に示すIDT電極10、11に沿って延びる。凸部16の根元から上面までの高さTGは1500Å以上1600Å未満であり、凸部17の根元から上面までの高さTHは1600Å以上1700Å未満である。このように、凸部17の高さTHを凸部16の高さTGより高くすることにより、弾性波素子6の温度特性と電気機械結合係数とをさらに向上させることができる。送信フィルタであるフィルタ8のIDT電極11にはパワーアンプで増幅された送信信号が入力されるので、IDT電極11が発熱して劣化する場合がある。IDT電極11の真上方に位置する凸部17の高さTHをIDT電極の真上方に位置する凸部16の高さTGより高くすることにより、IDT電極11を効率よく放熱させることができる。
【0025】
図4は誘電体層12の凸部16、17を示す弾性波素子1001の拡大断面図である。凸部16は、頂部29と、根元部30と、頂部29と根元部30に繋がる側面16Cを有する。側面16Cの断面は窪んだ曲線形状を有することが望ましい。側面16C若しくは側面16Cの延長線と、頂部29を含む圧電体9の上面9Aに平行な直線とが交わる点同士の間の距離である頂部29の幅TL1は、IDT電極10の電極指110B、210Bの幅TW1よりも小さい。これにより、凸部16において誘電体層12のうちの電極10の周囲の部分の質量が連続的かつ緩やかに変化する。その結果、誘電体層12の形状に起因する不要な反射を発生させることを抑制しつつ、弾性波素子6の電気的特性を向上することができる。
【0026】
凸部17は、頂部129と、根元部130と、頂部129と根元部130に繋がる側面17Cを有する。側面17Cの断面は窪んだ曲線形状を有することが望ましい。側面17C若しくは側面17Cの延長線と、頂部129を含む圧電体9の上面9Aに平行な直線とが交わる点同士の間の距離である頂部129の幅TL2は、IDT電極11の電極指111B、211Bの幅TW2よりも小さい。これにより、凸部17において誘電体層12の質量が連続的かつ緩やかに変化する。その結果、誘電体層12の形状に起因する不要な反射を発生させることを抑制しつつ、弾性波素子6の電気的特性を向上することができる。
【0027】
凸部16の頂部29の幅TL1は、IDT電極10の電極指110B、210Bの幅TW1の1/2以下であることが望ましい。また、頂部29の中心316は、電極指110B、210Bの中心310の真上方に位置していることが望ましい。これにより、質量付加効果により電極指110B、210Bでの反射率が更に高まり、弾性波素子6の電気的特性が向上する。
【0028】
凸部17の頂部129の幅TL2は、IDT電極11の電極指111B、211Bの幅TW2の1/2以下であることが望ましい。また、頂部129の中心317は、電極指111B、211Bの中心311の真上方に位置していることが望ましい。これにより、質量付加効果により電極指111B、211Bでの反射率が更に高まり、弾性波素子6の電気的特性が向上する。
【0029】
凸部16、17の高さTG、THとIDT電極10の膜厚TA、IDT電極11の膜厚TBと波長λ1、λ2は、0.03×λ1<TG≦TA、0.03×λ2<TH≦TBを満たすことが望ましい。凸部16の高さTGが0.03×λ1より大きいもしくは凸部17の高さTHが0.03×λ2より大きいと、
図10に示す従来の弾性波素子1より反射率が大きくなり、より優れた性能が得られる。一方、凸部16の高さTGがIDT電極10の膜厚TAより大きくなる、もしくは凸部17の高さTHがIDT電極11の膜厚TBより大きくなると、誘電体層12を作成する為の新たな工程を追加することが必要となり、製造方法が煩雑となる。
【0030】
図5A〜
図5Hは弾性波素子1001の製造工程を示す断面図である。
【0031】
まず、
図5Aに示すように、圧電体31の上面にAlまたはAl合金を蒸着またはスパッタさせることで電極または反射器となる電極膜32を成膜する。
【0032】
そして、
図5Bに示すように、電極膜32の上面にレジスト膜33を形成する。
【0033】
さらに、
図5Cに示すように、所望の形状となるようにレジスト膜33を露光・現像してレジスト膜33を加工する。
【0034】
さらに、
図5Dに示すように、ドライエッチング技術等を用いて電極膜32をIDT電極10、11や反射器等、所望の形状に加工した後、レジスト膜33を除去する。
【0035】
次に、
図5Eに示すように、電極膜32を覆うように酸化ケイ素を蒸着またはスパッタすることにより誘電体層34を形成する。凸部16、17を得るために、圧電体31にバイアス電圧を印加しながら酸化ケイ素をスパッタリングさせるバイアススパッタリング法を用いた。
【0036】
例えば酸化ケイ素のターゲットをスパッタリングすることにより圧電体31上に誘電体層34を堆積させると同時に、バイアスにより圧電体31上の誘電体層34の一部をスパッタリングして削る。つまり誘電体層34を堆積させながらその一部を削ることにより、誘電体層34の形状をコントロールする。誘電体層34を堆積させる途中で圧電体31に印加するバイアスとスパッタリング電力の比を変化させることで、誘電体層34の形状をコントロールしてもよい。また、成膜の初期は圧電体31にバイアスをかけずに成膜し、途中から成膜と同時にバイアスを印加することで、誘電体層34の形状をコントロールすることができる。この際、圧電体31の温度も管理する。
【0037】
さらに、
図5Fに示すように誘電体層34の表面にレジスト膜35を形成する。
【0038】
さらに、
図5Gに示すように、レジスト膜35を露光・現像してレジスト膜35を所望の形状に加工する。
【0039】
次に、
図5Hに示すように、ドライエッチング技術等を用いて、電気信号取出しのためのパッド36等、誘電体層34の不要な部分を取り除き、その後レジスト膜35を除去する。
【0040】
最後にダイシングにより圧電体31を分割して弾性波素子1001を得る。
【0041】
図6は実施の形態1によるさらに他の弾性波素子1002の断面模式図である。
図6において、
図1と
図2に示す弾性波素子6と同じ部分には同じ参照番号を付す。弾性波素子1002は、誘電体層12の上面12A上に設けられた誘電体層18をさらに備える。誘電体層18では第1誘電体層12を伝搬する横波の速度よりも速い横波が伝搬する。誘電体層18は、例えば、ダイアモンド、シリコン、窒化シリコン、窒化アルミニウム、または酸化アルミニウム等の誘電材料よりなる。誘電体層18の膜厚は誘電体層12の膜厚TCまたは膜厚TDより大きく、主要波であるShear Horizontal(SH)波の波長の0.8倍以上である。これにより、主要波を、弾性波素子1002の中に閉じ込めることができる。誘電体層18の膜厚が主要波であるSH波の波長以上である場合には、主要波を弾性波素子1002の中にほぼ完全に閉じ込めることができる。弾性波素子1002は、誘電体層18の上面18Aに設けられてIDT電極10に電気的に接続された外部端子51と、誘電体層18の上面18Aに設けられてIDT電極11に電気的に接続された外部端子52とをさらに備えている。IDT電極10の真上方における誘電体層18の部分118の上面18Aの高さとIDT電極11の真上方における誘電体層18の部分218の上面18Aの高さの差TJは、IDT電極10の真上方における誘電体層12の部分112の高さTCとIDT電極11の真上方における誘電体層12の部分212の高さTDの差TKより小さいことが望ましい。これにより、外部端子51、52の高さの差を小さくすることができるので、外部端子51、52を介して弾性波素子1002をマザーボードに高信頼性でバンプ接続することができる。
【0042】
図7Aは実施の形態1によるさらに他の弾性波素子1003の断面模式図である。
図7Aにおいて、
図3に示す弾性波素子1001と同じ部分には同じ参照番号を付す。弾性波素子1003は誘電体層12の上面12A上に設けられた誘電体層18と、外部端子51、52をさらに備える。弾性波素子1003は凸部16、17による
図6に示す弾性波素子1002と同様の効果を有する。
【0043】
尚、実施の形態1において、フィルタ7は受信フィルタであり、フィルタ8は送信フィルタである。フィルタ7が送信フィルタであり、フィルタ8が受信フィルタであってもよい。また、フィルタ7、8は共に受信フィルタであってもよく、又は共に送信フィルタであってもよい。
【0044】
図7Bは実施の形態1における電子機器2001のブロック図である。電子機器2001は、実施の形態1における弾性波素子6(1001、1002、1003)と、弾性波素子に接続された半導体集積回路素子やスピーカ等の電子部品2001Aとを備える。半導体集積回路素子は弾性波素子6(1001、1002、1003)に接続され、スピーカは半導体集積回路素子に接続されている。
【0045】
(実施の形態2)
図8と
図9はそれぞれ実施の形態2における弾性波素子1004の上面図と断面模式図である。
図8と
図9において、
図1と
図2に示す弾性波素子6と同じ部分には同じ参照番号を付す。
【0046】
弾性波素子1004は、CDMA標準規格のBand1用のアンテナ共用器における送信フィルタに含まれるラダー型フィルタであり、直列共振器19A、19Bと並列共振器20とを備える。直列共振器19A、19Bは接続点910で直列に接続されている。弾性波素子1004は、直列共振器19Aに接続された入力端子21と、直列共振器19Bに接続された出力端子22と、並列共振器20に接続された接地端子23とを備える。並列共振器20は接続点910と接地端子23との間に接続されている。直列共振器19A、19Bは2050MHzの共振周波数を有する。並列共振器20は、直列共振器19A、19Bの共振周波数より低い1960MHzの共振周波数を有する。
【0047】
並列共振器20は
図1に示すIDT電極11で構成されている。直列共振器19A、19Bは
図1に示すIDT電極10で構成されている。
図2に示す弾性波素子6と同様に、IDT電極11の膜厚TBはIDT電極10の膜厚TAより厚い。例えば、IDT電極10、11が銅を主成分とする金属よりなる場合、IDT電極10の膜厚TAは1650Å以上1680Å未満であり、IDT電極11の膜厚TBは1730Å以上1760Å未満である。圧電体9を伝搬する直列共振器19A、19Bの共振周波数の弾性波は波長λ1を有し、並列共振器20の共振周波数の弾性波は波長λ2を有する。波長λ1は波長λ2より短い。直列共振器19A、19BのIDT電極10の膜厚TAを波長λ1で割って規格化して得られた規格化膜厚は、並列共振器20のIDT電極11の膜厚を波長λ2で割って規格化して得られた規格化膜厚と実質的に同じにすることができ、弾性波素子1004の電気機械結合係数を向上させることができる。
【0048】
また、IDT電極11の真上方における誘電体層12の部分212の上面12Aの圧電体9からの高さTDは、IDT電極10の真上方における誘電体層12の部分112の上面12Aの圧電体9からの高さTCより高い。これにより、誘電体層12の部分212の膜厚TFを、誘電体層12の部分112の膜厚TE(2400Å)と実質的に同じにすることができ、弾性波素子1004の温度特性と電気機械結合係数とを共に向上させることができる。
【0049】
実施の形態1、2において、「上面」「下面」「真上方」等の方向を示す用語は、弾性波素子の構成部材の相対的な位置関係にのみ依存する相対的な方向を示し、鉛直方向等の絶対的な方向を示すものではない。