(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5663793
(24)【登録日】2014年12月19日
(45)【発行日】2015年2月4日
(54)【発明の名称】保護膜およびそれを作製する方法
(51)【国際特許分類】
C23C 16/04 20060101AFI20150115BHJP
B32B 38/00 20060101ALI20150115BHJP
B23C 3/34 20060101ALI20150115BHJP
【FI】
C23C16/04
B32B31/12
B23C3/34
【請求項の数】20
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2011-530919(P2011-530919)
(86)(22)【出願日】2010年9月10日
(86)【国際出願番号】JP2010066111
(87)【国際公開番号】WO2011030926
(87)【国際公開日】20110317
【審査請求日】2013年6月26日
(31)【優先権主張番号】特願2009-210740(P2009-210740)
(32)【優先日】2009年9月11日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507346889
【氏名又は名称】株式会社iMott
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100093665
【弁理士】
【氏名又は名称】蛯谷 厚志
(74)【代理人】
【識別番号】100144417
【弁理士】
【氏名又は名称】堂垣 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】大竹 尚登
(72)【発明者】
【氏名】松尾 誠
(72)【発明者】
【氏名】岩本 喜直
【審査官】
植前 充司
(56)【参考文献】
【文献】
特開平02−138468(JP,A)
【文献】
特開2006−028639(JP,A)
【文献】
特開2009−090507(JP,A)
【文献】
特開2003−347407(JP,A)
【文献】
特開2009−038109(JP,A)
【文献】
特開2007−311507(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/04
B23C 3/34
B32B 38/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セグメントに分割して形成されるように膜を堆積してなるセグメント形態の保護膜を表面が3次元形状である基材上に形成させる際に、所定の形態のセグメントが得られるように描画材を用いて該基材をマスキングした後に、該保護膜を堆積し、ついでマスキング部分を除去してセグメント間の間隔を形成することにより得られる保護膜であって、該保護膜が、ダイヤモンド膜、ダイヤモンド状炭素膜、BN膜、W2C膜、CrN膜、HfN膜、VN膜、TiN膜、TiCN膜、Al2O3膜、ZnO膜、SiO2膜のいずれかまたはこれらを組み合わせたものを含んでなることを特徴とする保護膜。
【請求項2】
セグメントに分割して形成されるように膜を堆積してなるセグメント形態の保護膜を表面が3次元形状である基材上に形成させる際に、所定の形態のセグメントが得られるように切削工具を用いて該基材に溝加工をした後に、該保護膜を堆積してセグメント間の間隔を形成することにより得られる保護膜であって、該保護膜が、ダイヤモンド膜、ダイヤモンド状炭素膜、BN膜、W2C膜、CrN膜、HfN膜、VN膜、TiN膜、TiCN膜、Al2O3膜、ZnO膜、SiO2膜のいずれかまたはこれらを組み合わせたものを含んでなることを特徴とする保護膜。
【請求項3】
保護膜が気相堆積法により形成されることを特徴とする、請求項1〜2のいずれか1項に記載の保護膜。
【請求項4】
セグメント形態の保護膜において、各セグメントの上面と側面との間の角部の95%以上が、保護膜の膜厚以上の曲率半径で湾曲していることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の保護膜。
【請求項5】
描画材が導電性材料を含むことを特徴とする、請求項1または3〜4のいずれか1項に記載の保護膜。
【請求項6】
描画材が半導体材料または絶縁性材料を含むことを特徴とする、請求項1または3〜4のいずれか1項に記載の保護膜。
【請求項7】
描画材がレジスト材を含むことを特徴とする、請求項1または3〜4のいずれか1項に記載の保護膜。
【請求項8】
描画機構を備えた多関節ロボットを用いて、描画材で基板にマスキングすることを特徴とする、請求項1、3〜7のいずれか1項に記載の保護膜。
【請求項9】
基材表面にレジスト材料を塗布し、
該レジスト材料を乾燥してレジスト層を該基材表面に形成し、
多関節ロボットのアーム部に備えられた光ファイバー製光照射機構を用いて該レジスト層に光照射することにより、該レジスト層の光照射部を硬化し、
該レジスト層の非光照射部を化学洗浄により除去することにより、
該レジスト層の光照射部で該基材をマスキングし、
該マスキングされた基材に保護膜を堆積し、および
該マスキングを除去することにより得られる、請求項8に記載の保護膜。
【請求項10】
多関節ロボットのアーム部に備えられた切削工具を用いて、基材表面に溝加工をすることを特徴とする、請求項2〜4のいずれか1項に記載の保護膜。
【請求項11】
セグメントに分割して形成されるように膜を堆積して
なるセグメント形態の保護膜を表面が3次元形状である基材上に形成させる際に、所定の形態のセグメントが得られるように描画材を用いて該基材をマスキングした後に、該保護膜を堆積し、ついでマスキング部分を除去してセグメント間の間隔を形成し、ここで該保護膜が、ダイヤモンド膜、ダイヤモンド状炭素膜、BN膜、W2C膜、CrN膜、HfN膜、VN膜、TiN膜、TiCN膜、Al2O3膜、ZnO膜、SiO2膜のいずれかまたはこれらを組み合わせたものを含んでなることを特徴とする、保護膜の製造方法。
【請求項12】
セグメントに分割して形成されるように膜を堆積してなるセグメント形態の保護膜を表面が3次元形状である基材上に形成させる際に、所定の形態のセグメントが得られるように切削工具を用いて該基材に溝加工をした後に、該保護膜を堆積してセグメント間の間隔を形成し、ここで該保護膜が、ダイヤモンド膜、ダイヤモンド状炭素膜、BN膜、W2C膜、CrN膜、HfN膜、VN膜、TiN膜、TiCN膜、Al2O3膜、ZnO膜、SiO2膜のいずれかまたはこれらを組み合わせたものを含んでなることを特徴とする、保護膜の製造方法。
【請求項13】
保護膜が気相堆積法により形成されることを特徴とする、請求項11〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
セグメント形態の保護膜において、各セグメントの上面と側面との間の角部の95%以上が、保護膜の膜厚以上の曲率半径で湾曲していることを特徴とする、請求項11〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
描画材が導電性材料を含むことを特徴とする、請求項11または13〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
描画材が半導体材料または絶縁性材料を含むことを特徴とする、請求項11または13〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
描画材がレジスト材を含むことを特徴とする、請求項11または13〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
描画機構を備えた多関節ロボットを用いて、描画材で基板にマスキングすることを特徴とする、請求項11または13〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
基材表面にレジスト材料を塗布し、
該レジスト材料を乾燥してレジスト層を該基材表面に形成し、
多関節ロボットのアーム部に備えられた光ファイバー製光照射機構を用いて該レジスト層に光照射することにより、該レジスト層の光照射部を硬化し、
該レジスト層の非光照射部を化学洗浄により除去することにより、
該レジスト層の光照射部で該基材をマスキングし、
該マスキングされた基材に保護膜を堆積し、および
該マスキングを除去することを特徴とする、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
多関節ロボットのアーム部に備えられた切削工具を用いて、基材表面に溝加工をすることを特徴とする、請求項12〜14のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セグメントに分割して形成されるように膜を堆積してなるセグメント形態の保護膜、特にダイヤモンドライクカーボン(DLC)の保護膜、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、機械部品等の保護膜として、長寿命で信頼性が高く、安心して使用できる材料表面の硬質膜被覆技術の開発が求められている。この硬質膜被覆技術の分野において、硬質炭素膜、特にダイヤモンドライクカーボン(DLC)は、部品表面に形成することで、部品の摺動性を高める材料として高い評価を受けている。DLCは、炭素を主成分とし、炭素原子がグラファイトのsp
2結合、ダイヤモンドのsp
3結合を有しながら、全体として非晶質の材料で、グラファイトとダイヤモンドとの中間の物性を示す材料である。そして、その膜特性と表面平滑性から、摩擦係数が低く、耐摩耗性が高いことが知られており、摺動性を高める表面被膜として、各種機械、工具および内燃機関等の摺動面に対し、広く利用されている。
【0003】
しかしながら、耐摩耗性向上のためにDLC等の硬質膜が堆積されている基材に外力が加えられると、基材自体が変形して硬質膜に大きなひずみが加わり、硬質膜が基材から剥離することがある。これを解決するものとして、基材上に、セグメントに分割して形成された膜を堆積してなる、セグメント形態の保護膜が提案されている(特許文献1)。
【0004】
そのようなセグメント形態の保護膜を得るには、基材をタングステン線等の金網を用いてマスキングした後に、保護膜の堆積を行うことが知られている(特許文献1)。より具体的には、タングステン線等の金網を用いてマスキングすることにより金網の目に相当する部分がセグメントを構成し、格子状のセグメント膜が得られ、金網部分、すなわち金網の網線に相当する部分が隣接するセグメント間の間隔を構成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4117388号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
金網を用いたマスキングによるセグメント形状は、金網の加工性(自由度)に制限される。例えば、通常の金網の網線は太さが均一であるので、金網の目に堆積する膜の厚みは一定のものしかできない。また、通常の金網のメッシュは均一であるので、セグメントの形状を成膜する箇所ごとに変化させることが難しい。また、マスキングをする基材が平面状の場合金網のマスクでも比較的容易に適用可能であるが、基材が3次元形状の場合は、金網のマスクは適用が困難である。例えば、3次元物体を覆うには、3次元物体を構成する面ごとに平面状の金網を細かく分割し、それらをつなぎ合わせることを要し、非常に手間暇がかかる上に、バッチごとのセグメント形状の同一性維持が困難となり、保護膜の品質管理が一層難しくなる。
【0007】
本発明の目的は、セグメント形態の保護膜の形成が容易であり、保護膜の品質管理を向上させ、自由度の高い(複雑な)セグメント形態を可能とし、二次元形状のみならず三次元形状にも適用可能な、DLC膜、およびそれを成膜する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によると、以下が提供される。
(1) セグメントに分割して形成されるように膜を堆積してなるセグメント形態の保護膜を基材上に形成させる際に、所定の形態のセグメントが得られるように描画材を用いて該基材をマスキングした後に、該保護膜を堆積し、ついでマスキング部分を除去してセグメント間の間隔を形成することにより得られる保護膜。
(2) セグメントに分割して形成されるように膜を堆積してなるセグメント形態の保護膜を基材上に形成させる際に、所定の形態のセグメントが得られるように切削工具を用いて該基材に溝加工をした後に、該保護膜を堆積してセグメント間の間隔を形成することにより得られる保護膜。
(3) 基材表面が3次元形状を形成することを特徴とする、(1)または(2)に記載の保護膜。
(4) 保護膜が気相堆積法により形成されることを特徴とする、(1)〜(3)のいずれか1つに記載の保護膜。
(5) セグメント形態の保護膜において、各セグメントの上面と側面との間の角部の95%以上が、保護膜の膜厚以上の曲率半径で湾曲していることを特徴とする、(1)〜(4)のいずれか1つに記載の保護膜。
(6) 保護膜が、ダイヤモンド膜、ダイヤモンド状炭素膜、BN膜、W
2C膜、CrN膜、HfN膜、VN膜、TiN膜、TiCN膜、Al
2O
3膜、ZnO膜、SiO
2膜のいずれかまたはこれらを組み合わせたものを含んでなることを特徴とする、(1)〜(5)のいずれか1つに記載の保護膜。
(7) 描画材が導電性材料を含むことを特徴とする、(1)または(3)〜(6)のいずれか1つに記載の保護膜。
(8) 描画材が半導体材料または絶縁性材料を含むことを特徴とする、(1)または(3)〜(6)のいずれか1つに記載の保護膜。
(9) 描画材がレジスト材を含むことを特徴とする、(1)または(3)〜(6)のいずれか1つに記載の保護膜。
(10) 描画機構を備えた多関節ロボットを用いて、描画材で基板にマスキングすることを特徴とする、(1)または(3)〜(9)のいずれか1つに記載の保護膜。
(11) 基材表面にレジスト材料を塗布し、
該レジスト材料を乾燥してレジスト層を該基材表面に形成し、
多関節ロボットのアーム部に備えられた光ファイバー製光照射機構を用いて該レジスト層に光照射することにより、該レジスト層の光照射部を硬化し、
該レジスト層の非光照射部を化学洗浄により除去することにより、該レジスト層の光照射部で該基材をマスキングし、
該マスキングされた基材に保護膜を堆積し、および
該マスキングを除去することにより得られる、(10)に記載の保護膜。
(12) 多関節ロボットのアーム部に備えられた切削工具を用いて、基材表面に溝加工をすることを特徴とする、(2)〜(6)のいずれか1つに記載の保護膜。
(13) セグメントに分割して形成されるように膜を堆積してなるセグメント形態の保護膜を基材上に形成させる際に、所定の形態のセグメントが得られるように描画材を用いて該基材をマスキングした後に、該保護膜を堆積し、ついでマスキング部分を除去してセグメント間の間隔を形成することを特徴とする、保護膜の製造方法。
(14) セグメントに分割して形成されるように膜を堆積してなるセグメント形態の保護膜を基材上に形成させる際に、所定の形態のセグメントが得られるように切削工具を用いて該基材に溝加工をした後に、該保護膜を堆積してセグメント間の間隔を形成することを特徴とする、保護膜の製造方法。
(15) 基材表面が3次元形状を形成することを特徴とする、(13)または(14)に記載の方法。
(16) 保護膜が気相堆積法により形成されることを特徴とする、(13)〜(15)のいずれか1つに記載の方法。
(17) セグメント形態の保護膜において、各セグメントの上面と側面との間の角部の95%以上が、保護膜の膜厚以上の曲率半径で湾曲していることを特徴とする、(13)〜(16)のいずれか1つに記載の方法。
(18) 保護膜が、ダイヤモンド膜、ダイヤモンド状炭素膜、BN膜、W
2C膜、CrN膜、HfN膜、VN膜、TiN膜、TiCN膜、Al
2O
3膜、ZnO膜、SiO
2膜のいずれかまたはこれらを組み合わせたものを含んでなることを特徴とする、(13)〜(17)のいずれか1つに記載の方法。
(19) 描画材が導電性材料を含むことを特徴とする、(13)または(15)〜(18)のいずれか1つに記載の方法。
(20) 描画材が半導体材料または絶縁性材料を含むことを特徴とする、(13)または(15)〜(18)のいずれか1つに記載の方法。
(21) 描画材がレジスト材を含むことを特徴とする、(13)または(15)〜(18)のいずれか1つに記載の方法。
(22) 描画機構を備えた多関節ロボットを用いて、描画材で基板にマスキングすることを特徴とする、(13)または(15)〜(21)のいずれか1つに記載の方法。
(23) 基材表面にレジスト材料を塗布し、
該レジスト材料を乾燥してレジスト層を該基材表面に形成し、
多関節ロボットのアーム部に備えられた光ファイバー製光照射機構を用いて該レジスト層に光照射することにより、該レジスト層の光照射部を硬化し、
該レジスト層の非光照射部を化学洗浄により除去することにより、該レジスト層の光照射部で該基材をマスキングし、
該マスキングされた基材に保護膜を堆積し、および
該マスキングを除去することを特徴とする、(22)に記載の方法。
(24) 多関節ロボットのアーム部に備えられた切削工具を用いて、基材表面に溝加工をすることを特徴とする、(14)〜(18)のいずれか1つに記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、セグメント形態の保護膜の形成が容易であり、保護膜の品質管理を向上させ、自由度の高い(複雑な)セグメント形態を可能とし、二次元形状のみならず三次元形状にも適用可能な、DLC膜、およびそれを成膜する方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、保護膜を製造する装置の概要を示す。
【
図2】
図2は、
図1の装置内で基材に保護膜を成膜する機構の概要を示す。
【
図3】
図3は、基材を描画マスキングする多関節ロボットの概要を示す。
【
図4】
図4は、描画マスキング機構の例(インクジェットプリンタヘッド)を示す。
【
図5】
図5は、描画マスキングのプロセスフローを示す。
【
図6】
図6において、a−fは平面描画パターンの例を示し、g−jは三次元描画パターンの例を示す。
【
図7A】
図7Aは、レジスト材を描画材とする場合の態様を示す。
【
図7B】
図7Bは、レジスト材を描画材とする場合の態様の拡大部を示す。
【
図8】
図8は、本発明により得たセグメント構造のDLC膜の写真を示す。
【
図9a】
図9aは、本発明の方法の一工程を示したものであり、球状構造物の上に碁盤状に導電性インクを描画したところを示す。
【
図9b】
図9bは、本発明の方法の一工程を示したものであり、
図9aの球状構造物の上にDLC膜を堆積したところを示す。
【
図9d】
図9dは、本発明の方法の一工程を示したものであり、
図9bの球状構造物から導電性インクを除去したところを示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の保護膜は、セグメントに分割して形成されるように膜を堆積してなるセグメント形態の保護膜を基材上に形成させる際に、所定の形態のセグメントを得られるように描画材を用いて基材をマスキングした後に、保護膜を堆積し、ついでマスキング部分を除去してセグメント間の間隔を形成することを特徴とする保護膜である。
【0012】
あるいは、本発明は、セグメントに分割して形成されるように膜を堆積してなるセグメント形態の保護膜を基材上に形成させる際に、所定の形態のセグメントが得られるように切削工具を用いて該基材に溝加工をした後に、該保護膜を堆積してセグメント間の間隔を形成することにより得られる保護膜である。
【0013】
以下に、本発明の保護膜について、詳細に説明する。本発明の保護膜は、セグメントに分割して形成されるように膜を堆積してなるセグメント形態にあることを必要とする。セグメントの形状は特に制限されず、三角形、四角形、円形等を適宜選択しうる。このセグメントの大きさは1辺または外径1μm〜3mmから選ばれるのが通常である。隣接するセグメントの間隔は通常0.1μm〜1mmである。またセグメントの膜厚は1nm〜200μmであるのが通常である。
【0014】
本発明においては、所定の形態のセグメントを得られるようにセグメント間隔部分に対応する大きさ、形状で描画材を用いて基材をマスキングする。描画マスキングは、手書き、インクジェット印刷、オフセット印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷、活版印刷、スクリーン印刷、フォトリソグラフ印刷等の各種印刷技術を用いた描画機構によって行うことができる。特に、インクジェット印刷またはフォトリソグラフ印刷が好ましい。なぜなら変更自由度が高く、三次元基材への適用が容易だからである。描画(印刷)パターンは自由に設定する事が可能であり、すなわち一つの基材に異なるセグメントパターンをつけることができるので、用途に応じた最適なセグメント構造の保護膜を得ることが可能である。描画(印刷)パターンを設定する事が可能と言う事は、セグメント構造保護膜を使ってマーキングやネーミングも可能である。基材をベタに描画(印刷)しておけば、成膜後に描画材を除去(剥離)することでマーキング・ネーム抜きが可能である。さらに、セグメント構造の位置・大きさ・範囲を変化させることで、描画材を除去後の溝部の幅や曲がり方も自在に制御可能となり、溝を流路として使うことも容易に行える。また描画(印刷)は厚みの調整が可能である。描画材は重ね塗り等することで厚みを調整可能であり、これにより膜の堆積厚さを変化することも可能である。描画(印刷)はメッシュを随意的に変えられ、細かなセグメント構造と大きなセグメント構造をグラデーション的に設定可能である。このことは保護膜における光の透過量を変化させることを可能とする。自由にパターン(図形)、膜厚およびグラデーションを組み合わせることも可能である。
【0015】
描画材は、安全性、保存性、塗布性(相手材への付着具合、はじき具合、にじみ具合、濡れ具合等)等を考慮して適宜選択される。例えば、インクジェット印刷用の描画材(インク)を使用する場合、顔料の大きさは約1μm以下、粘度は約3mPa・s以下である事などが推奨される。描画(印刷)後に、描画材は、インクメーカーに指定される方法や、電気乾燥炉、温風乾燥など強制乾燥等によって、乾燥を行うことが望ましい。インクはインクタンクから供給されてもよく、インクが沈殿しやすいものである場合、描画(印刷)前に適当な混合状態になるように攪拌等を行う機構を有していてもよい。
【0016】
描画材は導電性材料を含んでもよい。導電性材料の例は、炭素含有材料およびITOインク等である。導電性材料を含む描画材は、成膜時に電気的作用を利用する場合に、導電経路として利用することができる。ここでの導電性は、電気抵抗率は約10
5Ω・m以下であることが望ましい。この電気抵抗率であれば、3kV以上の電圧が掛けられた時に導電性が確保できるからである。
【0017】
描画材は、半導体材料または絶縁性材料を含んでもよい。半導体材料の例は多結晶シリコンを含む高分子材料であって、絶縁性材料の例はシリカ粒子を含む高分子材料である。半導体の場合には描画材の電気抵抗率が10
5〜10
6Ω・mの範囲であることが好ましく、絶縁性材料の場合には描画材の電気抵抗率が10
6〜10
17Ω・mの範囲であることが好ましい。これは、DLC成膜時に、描画材の電気抵抗率が高くなるほど描画材の補助電極としての機能が低下して電流が流れにくくなり、成膜速度が低下するが、同時に基材の温度上昇を抑制できるので、基材の耐熱性を考慮して、適切な電気抵抗率を有する描画材を選択することができるからである。
【0018】
描画材は、レジスト材料を含んでもよい。レジスト材料は、感光性の高分子材料であって、光照射(描画)機構、例えば、レーザ描画装置、電子線描画装置で生成された光線によって硬化される。基材にレジスト材料を塗布し、乾燥させると、レジスト層が形成される。レジスト層に光線を照射すると、光線を照射された部分は硬化し、光線を照射しなかった部分は硬化しない。硬化しなかった部分は化学洗浄により除去することができる。非硬化部(非照射部)の除去後には、マスクパターンが形成される。レジスト材料の例は、ノボラック樹脂とジアゾナフトキノン(DNQ)化合物からなるポジ型レジスト等である。
【0019】
本発明の別の態様では、描画材によるマスキングの代わりに、切削工具を用いて基材に溝加工をした後に、保護膜を堆積してセグメント間の間隔を形成してもよい。溝の幅は、前記の隣接するセグメントの間隔0.1μm〜1mmの範囲から選択される。切削工具での溝の深さは2μm〜2mm程度の範囲から選択される。これは、切削の精度で2μm以下の溝を均一に導入するのは現状で困難であることから2μm程度が下限となり、2mm以上の溝深さになると、凸部(すなわちセグメント部)のせん断応力による変形が顕著になり、保護膜としての特性が低下するためである。溝の断面形状は任意であり、たとえばV字型、U字型等が選ばれる。切削工具としては、基材の材質、所望の溝寸法・形状に応じて適当な従来型の工具を使用することができ、例えばダイサーおよびダイヤモンドマイクロリュータ等を使用することができる。描画材でのマスキングにより作製されるセグメント構造の保護膜では、膜厚に相当する分の溝深さ、つまり数ナノメータから数百マイクロメートルの溝深さしか得られないが、切削工具を用いて基材に溝加工をする本方法によれば、1mm程度の深さを有する溝を容易に作製できる。堆積される膜厚が数ナノメータから数百マイクロメートルであり、溝の深さが2μm〜2mm程度であるので、基材に溝加工をした後に堆積される保護膜は、溝により分断されてセグメント形態の保護膜が得られる。
耐摩耗性向上のための保護膜として用いられる場合、基材に深さ1mmの溝を形成させたセグメント構造の保護膜は、描画材でのマスキングにより作製されたものに比べて耐摩耗性は1.5倍程度向上する。これは、溝加工をすることにより膜にかかる応力が減少するためである。溝加工の効果は1N以下の比較的低荷重の場合に大きく、φ6mmの球で垂直荷重が1N以上の場合には切込みのない方が有効となる。これは切込みを加えたことにより基材自身が変形するためである。
また、アブレッシブ摩耗(破壊された保護膜が摩擦剤となって残りの保護膜を攻撃して摩耗を促進させる)の抑制のためには溝に摩耗粉をトラップするのが有効であるので、本方法により作製した深溝を有する保護膜は、激しいアブレッシブ摩耗が生ずる場合に有効である。ただし、基材表面の耐せん断強度は低下するので、摺動時に垂直荷重(相手材が保護膜を押しつける力)の大きい場合、具体的には基材の降伏応力の1/10以上に相当する押しつけ力が加わる場合には本方法は適当でなく、描画材でのマスキングにより作製されたセグメント構造の保護膜を用いるのが適当である。
【0020】
本発明において用いられる基材としては、特に制限されず、たとえばアルミニウム、マグネシウム、これらの合金、鉄鋼等の金属;プラスチック;ゴム;セラミック;およびこれらの複合材料等が挙げられ、目的により適宜選択しうる。
【0021】
保護膜を堆積させる基材表面が3次元形状を形成してもよい。3次元形状とは、機械加工やプレス加工など塑性加工、鋳造などで作られた面、特に曲面である。その面は機械加工・放電加工・手仕事・研磨などの加工も使われている。それらを此処で言う3次元形状と定義する。船のスクリューなどは真鍮鋳造品を機械加工で仕上げ、細部は手仕事がなされている。また、凸レンズ・凹レンズは研磨仕上げがなされ、非球面レンズは鋳物+研磨で作られる。産業分野ごとに、様々な面が存在し、広く使用されているが、本発明の保護膜はこのような様々で複雑な3次元形状に堆積することが可能である。
【0022】
基材にマスキング描画した後に、膜の堆積を行う。マスキングされていない箇所に膜が堆積され、セグメント状の保護膜が得られる。マスキングされた箇所には膜が堆積されず、この部分が隣接するセグメント間の間隔を構成する。
【0023】
あるいは、基材に溝加工をした後に、膜の堆積を行う。
【0024】
保護膜の堆積法としては気相堆積法が好適であり、たとえば直流電源、交流電源、高周波電源もしくはパルス電源等を電源とするプラズマCVDまたはマグネトロンスパッタもしくはイオンビームスパッタ等のスパッタ法が挙げられる。
図1に、成膜装置の基本的構成を示す。チャンバー5、排気系10(ロータリーポンプ11、ターボ分子ポンプ12、真空計13、排気バルブ14等)、ガス導入系15(Ar、C
2H
2、Si(CH
3)
4)、H
2、O
2、N2、CH
4、CF
4等のガス導入バルブ)及び電源系20(主電源16、基材加熱電源17、微細粒子捕獲フィルタ電源18、余剰電子収集電源19等)を備えた装置の概要を示す。
【0025】
図2に、
図1の装置内で基材に保護膜を成膜する機構の概要を示す。本装置のチャンバー内の電極上に基材を設置し、基材にはマスキングがされている。基材設置後に、真空排気機構によりチャンバー内を排気し、次いでプラズマガス源Ar、Si(CH
3)
4、C
2H
2等を供給し、パルス電源によりパルス電圧を印加して、前記プラズマガス源がプラズマ化される。プラズマ化されたガスが、前記マスキングを介して機材上に堆積し、セグメント形態の保護膜が得られる。
【0026】
堆積される保護膜は好適には耐摩耗性を付与しうるものであり、たとえば、ダイヤモンド膜、ダイヤモンド状炭素膜、BN膜、W
2C膜、CrN膜、HfN膜、VN膜、TiN膜、TiCN膜、Al
2O
3膜、ZnO膜、SiO
2膜のいずれかまたはこれらを組み合わせたものを含んでもよい。これらの膜厚は通常1nm〜200μmから選択される。
【0027】
保護膜を堆積した後に、マスキング部分を除去する。マスキング部分(描画材)の除去は、適当な物理的・化学的手法により、基材へのダメージを与えることなく実施することができる。物理的な除去方法としては、例えば、サンドペーパーやサンドブラストを使用することが可能である。化学的な除去方法としては、例えば、描画材に対応して適宜選択される溶剤により溶解させる方法がある。
【0028】
本発明によるセグメント形態の保護膜において、各セグメントの上面と側面との間の角部(各セグメントの肩部)が、鋭利な角ではなく丸みを有する角が得られる。より具体的には、角部の95%以上が保護膜の膜厚以上の曲率半径で湾曲している。これは、保護膜がマスキングを介して堆積されるため、マスキングされた基材部分およびその近傍では堆積される膜成分(カーボン等)の飛来が遮られる結果、角部は鋭利な角ではなく丸みを有する角が得られるからである。このなだらかな丸みを有するセグメント形態の保護膜を、機械部品、特にその摺動面に用いる場合には、摺動抵抗の安定性や長寿命の効用を示す。
【0029】
本発明による保護膜は、描画機構を備えた多関節ロボットを用いて、作製してもよい。多関節ロボットには、一般に軸数が4軸、5軸、6軸のものがある。軸数は回転する関節の数を示し、数が多いほど動く可動部が増え、作業部(一般的にアーム先端に備えられる)の姿勢の自由度が増す。この多関節ロボットの作業部に、描画機構を備えつける。描画機構の例としては、筆記具、インクジェットプリンタのプリンタヘッド等がある。多関節ロボットのアームの動作と描画機構による描画作業を連動または協働させて、基材へのマスキング描画を行う。描画材(インク)を入れておくタンクは描画機構の近傍に置いてもよく、印刷やアームの動きを妨げない位置に置くことが好ましい。また描画機構への描画材供給はインクジェット方式を参考に行われる。
図3に基材を描画マスキングする多関節ロボットの概要を示す。一般的に、ロボットの位置精度は±0.08mm(80μm)、描画線の太さは50μm±10μmであるので、被印刷物と描画機構(ヘッド)の距離で線幅が変化するとしても、80+10≒100μm(0.01mm)が描画線の精度とみなせる。
図3において、ロボットアームは初期状態ではP
0(ホームポジション)にある。ティ−チングボックスの各ボタンを操作し、アームの移動と、各ポイント(P)でのイベント(動作)の指示を選択し、インプットを行う。このシーケンスを繰り返して、最後にE.O.P.(エンドオブプログラム)を入力し、プログラムを完成させる。なお、E.O.P.の時点で、アーム位置はホームポジションになくてもよい。
【0030】
図4に描画機構(インクジェット式プリンタヘッド)の取り付け例を示す。インクジェットプリンタは、インク吐出ノズル、ノズルに対してインクの吐出・停止を行わしめるドライバー(電源)、ドライバーに描画指示を与えるパターン描画ソフトウェア、インク供給用のインクカートリッジ(インクタンク)等を含んでなる印刷機構を有する。
本発明の一態様では、プリンタヘッドがロボットアーム(三次元移動機構)の動作基準点に合うようにロボットアーム先端に取り付けられてもよい。インク吐出ノズルの並び方およびロボットアームの動きについて、X−Y方向が共通する座標を採用するように、調整することができる。インクが、ドライバーの指示に従い、プリンタヘッドに供給され、ノズルから吐出され、対象物(基材)に吹き付けられ、所望のパターンが描画される。
本発明の別の態様では、プリンタヘッドのかわりに、溝加工のための切削工具を取り付けてもよい。
【0031】
図5に描画マスキングのプロセスフローの例を示す。a)基材(ワーク)を治具にセットし、b)ロボット(三次元移動機構)に描画指示を出し、c)ロボットがインクジェットヘッドをワークの所定の位置へ近づけ、インクジェットからインクを吐出して所望のパターンを描画し、d)基材(ワーク)を(治具カセットとともに)乾燥工程に移動し、e)基材(ワーク)上のインクを乾燥させ、乾燥・固着したインクがマスキングとなり、f)次いで製膜を行い、g)製膜後にマスキングを除去することにより、所望のセグメント形態の保護膜が得られる。描画のかわりに、溝加工を行ってもよい。
【0032】
図6に、a−fとして平面描画パターンの例を、g−jとして三次元描画パターンの例を示す。平面印刷パターンの例として、aは網目、bはハチの巣状網目、cはピッチが変化している線、dは円の連続を線で結んだもの、eはベタ塗りと部分の網掛け、fは模様を示している。二次元面印刷パターンの例として、gは凹レンズ(非球面など)内側面、hは馬のくら型表面、iは放物線の立体型表面、jは球への三次元印刷パターンを示す。これらのパターンは例示であって、本発明の描画パターンはこれらに限定されるものではない。描画のかわりに、溝加工によって、これらのパターンを得ることもできる。
【0033】
図7Aおよび
図7Bに、レジスト材を描画材とする場合の態様を示す。基材表面に形成されたレジスト層に、多関節ロボットのアーム部に備えられた光ファイバー製光照射機構を用いて該レジスト層に光照射することにより、該レジスト層の光照射部を硬化させてマスクとして残留させることができる。
図7Aは、6軸ロボットとレーザまたは紫外光源を用いた曲面への露光システム図である。
図7Bは、照射のモデル図である。
図7Bのシステムでは例えばA→B→C→D→Eの運動により常に基材に垂直に光を照射させることが可能である。照射されたレジストのみが硬化して残留させることが可能であり、それによりDLC成膜時のマスクとすることができる。
【0034】
本発明は、上述した本発明の保護膜の製造方法にも関する。
【実施例】
【0035】
実施例1
6軸ロボットを用いて曲面を有する試料(パイプ)の表面に格子状の線を描画した。試料の基材の材質はステンレス鋼である。描画材は高分子にケッチャンブラックを分散させたものを用いた。Teaching機能(ロボット先端を実物(被加工物)の上に持って行き、座標を実物(被加工物)から読み取る機能)を用いてプログラム上で曲面上の軌跡を円弧補完、放物線補完及び自由曲線補完により連続的に形成し、常にロボットのアーム先端が面に垂直になるように描画した。描画速度30mm/sとした。描画材を乾燥させた後に、パルスプラズマCVD法によりDLC膜の成膜を行った。成膜条件は次に示す通りである。
【0036】
成膜条件
成膜方法 パルスプラズマCVD法
圧力 3.0Pa
パルス電圧 −5.0kV
周波数 2.0kHz
パルス幅 20μs
中間層形成ガス テトラメチルシラン
DLC層形成ガス アセチレン
【0037】
成膜後に、アセトンまたはアルコールにより描画部の高分子基材料を溶解してDLC膜が実現された。
図8の写真に示すように、曲面上にセグメント構造のDLC膜が均一に成膜されていることが確認された。各セグメントの上面と側面との間の角部(各セグメントの肩部)100カ所について曲率半径を測定したところ、膜厚0.8μmに対して、10カ所とも8〜16μmの曲率半径で、測定した全ての場所で曲率半径は膜厚より大きかった。
【0038】
実施例2
基材にレジストを塗布し、超音波またはスピンコータにより約50μm厚さとし、6軸ロボット先端から、パルスQスイッチのYAGレーザ(1.06μm)から光ファイバーを経て先端で30μmに集光することにより基材に照射して、照射部のレジストを固化させた。レーザを200〜300μmの間隔で走査させることで、線状のパターンを形成した。曲面に対して、常に等距離からレーザを照射出来るように、実施例1と同様にロボットにより位置制御した。さらに直行方向で同様に走査を行うことで、碁盤の目構造を作製した。その後、非照射部を除去剤により除去し、その後高周波プラズマCVD法により次に示す条件でDLC膜の成膜を行った。その後、レジストをリフトオフすることにより、セグメント構造のDLC膜を得た。
【0039】
成膜条件
成膜方法 高周波プラズマCVD法
圧力 3.0Pa
バイアス電圧 −450V
周波数 13.56MHz
パルス幅 20μs
中間層形成ガス テトラメチルシラン
DLC層形成ガス アセチレン
【0040】
実施例3
実施例1と同様にロボットにより位置制御しながらSiウエハのダイシング用の幅20μmのダイサーで縦横に深さ20μmの溝を導入し、アセトンにより超音波洗浄した後に、次の条件でDLC膜を成膜することにより、セグメント構造を有するDLC膜を得た。
【0041】
成膜条件
成膜方法 パルスプラズマCVD法
圧力 3.0Pa
パルス電圧 −2.0kV
周波数 10kHz
パルス幅 20μs
中間層 Crスパッタリング
DLC層形成ガス アセチレン
【0042】
実施例4
実施例1〜3と同様にロボットにより位置制御しながらダイヤモンドマイクロリュータ(砥石)により幅20μm、深さ10〜20μmの溝を作製し、アセトンにより超音波洗浄した後に、実施例3と同様の条件でDLC膜を成膜することにより、セグメント構造を有するDLC膜を得た。
【0043】
実施例5
実施例1〜4と同様にロボットにより位置制御しながら、アセトンにより表面を洗浄した球状構造物(ボールスタッド=自動車部品)の上に、前記ロボットにより碁盤状に導電性インクを描画した(写真
図9a)。次にDLC膜を成膜した(写真
図9b、c)。その後、アセトンによる超音波洗浄で導電性インクを除去した(写真
図9d)。球体上には碁盤状のセグメント構造DLC膜が得られた。各工程の条件等は以下に詳細に示す。
【0044】
球状構造物(ボールスタッド(Ball Stud))は、自動車の舵切り機構部品である。その仕様は以下のとおりであった。
ボールスタッド金属材質 ;SCM435 高周波焼入れ後研磨面
ボールサイズ; 約30mm 全長70mm
【0045】
描画条件は以下のとおりであった。
セグメントサイズ;1辺 2600±100μm
溝幅(描画線幅); 180±80μm
インク1滴サイズ; 65±5μm
【0046】
DLC膜の成膜条件は以下のとおりであった。
成膜条件
成膜方法 パルスプラズマCVD法
圧力 3.0Pa
パルス電圧 −5.0kV
周波数 10kHz
パルス幅 20μs
中間層 テトラメチルシラン
DLC層形成ガス アセチレン
【0047】
導電性インクの除去(線剥離)の条件は以下のとおりであった。
線剥離 アセトン超音波洗浄 2時間
【0048】
得られたDLC膜の寸法等は以下のとおりであった。
DLC膜厚 0.96〜1.1μm
セグメントサイズ;1辺 2682μm (2.682mm)
溝幅(描画線幅); 206〜232μm
【符号の説明】
【0049】
1 ダイヤモンド状炭素膜成膜装置
2 (被成膜)基体
3 マスク材
4 基体とマスク材からなる部材
5 チャンバー
6 直流単パルス電源
7 高周波電源
8 加熱ヒータ
9 クライオソープションポンプ
10 排気系
11 ロータリーポンプ
12 ターボ分子ポンプ
13 真空計
14 リークバルブ14
15 ガス導入系15
16 主電源
17 基体加熱電源
18 微細粒子捕獲フィルタ電源
19 余剰電子収集電源
20 電源系
21 ダイヤモンド状炭素膜成膜装置内の第2の電極
22 ダイヤモンド状炭素膜成膜装置内の微細粒子捕獲フィルタ
23 光学式モニター設置用フランジ
24 光学式モニター
25 直流単パルス電源又は高周波電源のいずれかを選択するスイッチ
26 重畳用直流電源