(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
回転軸の片持ち端面側に設けられシリンダ内で回転するロータが、該ロータの片側に配された軸受によって前記回転軸を介して片持ち状態に支持され、気体を前記シリンダ内へ吸気して圧縮された気体を前記シリンダから排気する回転ポンプにおいて、
前記シリンダの軸方向に両端を構成する端壁部のうち前記回転軸が挿通されない片持ち端面側の端壁部に、圧縮された気体の一部を逃がすことができる逃がし孔が前記回転軸の軸方向に開口して設けられ、
前記シリンダの圧縮された気体を排気する排気口からの排気と前記逃がし孔からの排気とを合流させて消音させる空間を形成するサイレンサ部を備えることを特徴とする回転ポンプ。
シリンダ内で回転するロータを備える回転軸の軸方向について、前記シリンダと前記ロータとによる単位ポンプ構成が複数段に設けられ、各段の前記単位ポンプ構成について、気体を前記シリンダ内へ吸気して圧縮された気体を前記シリンダから排気する回転ポンプにおいて、
気体を最も高圧に圧縮する最終段の前記単位ポンプ構成における前記回転軸の片持ち端側に設けられた最終段のロータが、該最終段の単位ポンプ構成と前段の単位ポンプ構成の間に配された軸受によって前記回転軸を介して片持ち状態に支持され、
前記最終段の単位ポンプ構成であって、前記シリンダの軸方向に両端を構成する端壁部のうち前記回転軸が挿通されない自由端側の端壁部に、圧縮された気体の一部を逃がすことができる逃がし孔が前記回転軸の軸方向に開口して設けられ、
前記シリンダの圧縮された気体を排気する排気口からの排気と前記逃がし孔からの排気とを合流させて消音させる空間を形成するサイレンサ部を備えることを特徴とする回転ポンプ。
【背景技術】
【0002】
回転ポンプとしては、クローロータを搭載する非接触型の真空ポンプであるクローポンプがある。例えば、本出願人が先に提案したクローポンプの排気構造及び排気方法によれば、ポンプ室を形成するシリンダと、シリンダの端面を塞ぐ一方のサイドプレート及び他方のサイドプレートと、シリンダ内で平行に位置するように配されて反対方向に回転される二つの回転軸と、その二つの回転軸のそれぞれに一体的に固定されて設けられ、相互に非接触状態で噛合って吸入した気体を圧縮できるように鉤形の爪部が形成された二つのロータと、回転駆動装置と、シリンダ内の気体が圧縮されないポンプ室の部分に連通する吸気口と、一方のサイドプレート及び他方のサイドプレートの両方にシリンダ内の気体が圧縮されるポンプ室の部分に開口する排気口を具備する(特許文献1参照)。これによれば、排気効率を高めることで、クローポンプのポンプ性能を向上させることができる。
【0003】
このようなクローポンプにおいては、圧縮工程があり、吸入気体(空気)を圧縮することで排気効率が向上する。このような回転ポンプの到達運転時は、吸入空気量が無いため、原理的にはポンプの空気輸送及び圧縮が無く、ポンプとしての仕事はゼロである。しかし、実際は到達運転時でも僅かな隙間からの漏れにより吸入空気は存在し、且つロータとシリンダで形成される排気開放直前の空間(密閉空間)が排気口を通じて外部(ポンプ内部から排出された大気圧以上の空気がある空間)と連通した際に、排気開放直前の空間は負圧であるため大気圧以上の排気空気がポンプ内部へ逆流する。逆流した空気は再圧縮され再度外部へ排出される。ここで無駄な工程が発生し、動力負荷及びポンプ内部温度が上昇する。なお、到達運転とは、到達圧力での運転のことで、その到達圧力とは、そのポンプの真空をつくる最大の能力である真空ポンプの吸入口を締め切ったとき(排気流量が0となったとき)に到達できる圧力のことである。
【0004】
すなわち、この到達運転時などのポンプ内部へ逆流する排気空気によれば、動力負荷が上昇して運転効率が悪化する。また、その逆流する排気空気によれば、ポンプ内部温度が上昇することで、熱膨張によるロータ接触、オイルシールやベアリングなど重要部品の劣化が生じやすくなり、ポンプ装置の信頼性が低下する。これに対しては、逆流空気量を抑制するように、単純に排気開放直前の容積を減少させると、排気流量の多い場合の大気開放側(吸入される空気の圧力が大気圧に近い状態での運転がされる場合)が過圧縮状態となる。また、ポンプ内部容積の減少による流量の減少が発生するという問題が生じる。なお、排気開放直前の容積が存在する限り、逆流空気は必ず発生することになり、以上の問題を合理的に緩和することが課題になる。この課題に対して、従来は、運転条件に所要の制約をかけることによって対応しており、運転効率をより向上させることができなかった。
【0005】
なお、先に本出願人は、ベーンを持つロータリー式の真空ポンプ(ベーンポンプ)について、次の構成を提案してある。真空ポンプには、気体の排気孔が設けられていて、その排気孔には第1逆止弁が備えられている。加えて、この真空ポンプの内の外気圧以上に圧縮された気体を外気中に逃がして、真空ポンプの動力ロスを少なく抑えるための圧力逃がし孔が設けられていて、その圧力逃がし孔には、第2逆止弁が備えられている。この排気孔と圧力逃がし孔とは、真空ポンプの気体の排気口を構成している(特許文献2参照)。
これによれば、シリンダを形成する壁部のうちの周壁部に逃がし孔が設けられており、圧縮されるポンプ内部が過圧縮になって温度が上昇することを抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る形態例を、添付図面に基づいて説明する。
図1は、本発明に係る回転ポンプの上位概念としての形態例を示すように符号を付した断面図であり、先ず、この
図1に基づいて本発明の上位概念としての形態例を説明する。
【0016】
なお、本形態例は、回転ポンプのうち、容積型ポンプであって、二軸回転ポンプに属するものとなっている。二軸回転ポンプとしては、例えば、ロータ非接触型のポンプであるクローポンプ、スクリューポンプやルーツポンプなどが挙げられる。また、一軸の回転ポンプとしては、ベーンポンプなどがある。このような回転ポンプは、例えば、電動モータによって駆動され、真空ポンプやブロアなどの空気圧装置として使用される。
【0017】
本形態例は、二つのロータ30、30同士が微小なクリアランスを保って非接触で回転されると共に、二つのロータ30、30がシリンダ50の内面にも微小なクリアランスを保って非接触で回転されるように、そのロータ30、30を備える二つの回転軸20、20が軸受40、40によって支持されて設けられ、気体をシリンダ50内へ吸気して圧縮された気体をシリンダ50から排気する二軸回転ポンプになっている。
【0018】
この二軸回転ポンプは、クローポンプであり、ロータ30、30は、鉤形の爪部を備えている(
図5参照)。本形態例のロータ30では、二つ(複数)の鉤形の爪部を備えているが、クローポンプのロータの形態はこれに限定されることなく、一つの爪部の場合や、三つ以上の爪部を備える場合もある。なお、クローポンプでは、気体を高圧に圧縮できるため、ポンプ内部の温度が上昇しやすい。
また、本形態例のクローポンプは、シリンダ50と二つのロータ30、30とによる単位ポンプ構成10が、二つの回転軸20、20の軸方向について複数段(二段)に設けられている多段の二軸回転ポンプになっている。
【0019】
複数の単位ポンプ構成10のうち少なくとも一つについて、シリンダ50の両端部を構成する端壁部52、52の少なくとも一方に、圧縮された気体の一部を逃がすことができるように、逃がし孔70(
図4、7など参照)が、回転軸20、20の軸方向に開口して設けられている。
本形態例では、その逃がし孔70(
図4、7など参照)が、端壁部52に複数設けられている。また、その逃がし孔70が設けられた端壁部(後段シリンダの他方の端壁部52D(
図4、7など参照))に、シリンダ50の圧縮された気体を排気する排気口(後段の排気口55B(
図4、7など参照))が設けられている。
なお、逃がし孔70に係る形状、大きさ、数量、配置などの形態は、本形態例に限定されるものではない。例えば、多数の逃がし孔70のうち少なくとも一部(複数)が、シリンダ50の内面に帯状に連続するように溝状に加工・形成された帯溝状凹部の内底面に開口されることで、その複数の逃がし孔70が、そのシリンダ50の内面の側では、その帯溝状凹部に連通して一体化され、一つの大きな孔として機能できるようにしてもよい。この場合でも、シリンダ50の外面(排気側の面)には、後述する逆止弁(リード弁71)を、各逃がし孔70に対応させて個々に設けてもよい。
【0020】
この逃がし孔70によれば、クローロータを搭載する非接触型真空ポンプなどの回転ポンプにおいて、大気開放側の過圧縮を抑制できる。過圧縮が抑制できるため、排気開放直前の容積を減少させるように排気口(後段の排気口55B)を小さくして圧縮比を上げることが可能となる。排気開放直前の容積を減少させることで、ポンプ内部へ逆流する排気の気体量を抑制できる。この逆流する気体量を抑制できることで、真空ポンプの到達運転時における動力負荷低減による省エネができ、到達運転時のポンプ内部温度の上昇を抑制することができることで熱膨張抑制及び重要部品の長寿命化が可能となる。
【0021】
そして、端壁部52に設けられた逃がし孔70は、回転軸20、20の軸方向へ開口して形成されているため、その深さは端壁部52の厚みに相当する短いものであり、逃がし孔70としての応答性に優れた形態となっている。すなわち、過圧縮の気体を、タイムラグが短い状態で逐次に排気できる。しかも、この逃がし孔70は、端壁部52の面において最適位置に容易に配置でき、その機能を最適に発揮させるように設けることができる。
また、逃がし孔70が、端壁部52に複数設けられることで、気体圧縮の工程中において過圧縮の気体をバランスよく適時に排気でき、その機能性をより向上できる。
【0022】
11はオイルバスカバーであり、駆動側の回転軸20A(
図3参照)に一体的に固定された駆動歯車21と従動側の回転軸20B(
図3参照)に一体的に固定された従動歯車22とが内蔵されるオイルバス部を構成している。なお、11aはオイルゲージであり、オイルバス部内の潤滑油の油量を確認できるように配置されている。
【0023】
23は従動プーリであり、駆動側の回転軸20Aの一端部に一体的に固定されている。この従動プーリ23に駆動ベルトが掛け回されて、例えば電動モータからの動力が伝達されることで、本形態例の二軸回転ポンプが駆動されるように設けられている。なお、駆動力の伝達手段はこれに限定されるものではなく、例えば、駆動側の回転軸20Aと電動モータの駆動軸を直列的に配置して、カップリングによって連結する形態としてもよい。
【0024】
また、本形態例は、オイルカバー11、前段のポンプ本体12、前段のサイドプレート13、後段のポンプ本体15、後段のサイドプレート16、及びマフラーケース17が回転軸20の軸方向に連結されて外郭が構成されるように設けられている。本形態例のオイルカバー11によって形成されているオイルバス部は、動力が伝達される側に設けられており、駆動歯車21と従動歯車22は、それぞれが片持ちに軸受40によって支持された回転軸20の後端側に一体的に固定された構成となっている。
また、前段のポンプ本体12及び後段のポンプ本体15に備えられている各シリンダ50は、両端の端壁部52、52と周壁部53とによって形成されている。
【0025】
60はサイレンサ部であり、シリンダ50の圧縮された気体を排気する排気口(後段の排気口55B(
図4、7など参照))からの排気と逃がし孔70(
図4、7など参照)からの排気とを合流させて消音させる空間としてマフラーケース17によって形成されている。これによれば、排気音を効果的に合流消音させることができる。
すなわち、このサイレンサ部の構造は、常に開放している排気口(例えば後段の排気口55B)からの通常排気と、逆止弁71が開状態で逃がし孔70から排気される過圧縮防止排気との2系統の排気を合流させて消音する1つのマフラーになっており、合理的で且つ安価な構成となっている。
【0026】
次に、
図2〜10に基づいて、本発明にかかる多段(二段)の単位ポンプ構成を備える二軸回転ポンプであって、クローポンプである形態例について、より具体的に説明する。
本形態例では、複数(二段)の単位ポンプ構成10A、10Bのうちの少なくとも一つ(単位ポンプ構成10A)が、
図3に示すように、二つの回転軸20A、20Bについてロータ30A、30Bの両側に軸受40A、40B、40C、40Dを配することで両端が支持されることで構成されている。なお、本形態例によれば、単位ポンプ構成10Aが気体の流れの前段に配され、単位ポンプ構成10Bが気体の流れの後段に配された構成になっている。
【0027】
また、本形態例では、
図3に示すように、複数の単位ポンプ構成10A、10Bのうち回転軸20A、20Bの軸方向の両端面に位置する少なくとも一方(単位ポンプ構成10B)が、二つの回転軸20A、20Bについてロータ30C、30Dの片側であって隣接する単位ポンプ構成10Aとの間に配された軸受40C、40Dによって片持ち状態に支持されることで構成されている。なお、この軸受40C、40Dとしては、アンギュラ複列玉軸受を用いることができる。
【0028】
これによれば、軸受40C、40Dを基準にして、一方にロータ30A、30Bが配置され、他方にロータ30C、30Dが配置された形態となっている。このため、熱膨張が軸受40C、40Dを基準にして回転軸の軸方向の両サイドに分かれて生じる形態となっている。従って、ロータ30とシリンダの端壁部52とのクリアランスであるサイドクリアランスに関する熱膨張の影響は、一方のロータ30A、30B側と他方のロータ30C、30D側へ分散されることになる。このため、従来の軸方向に複数のロータを備える回転軸を、その複数のロータを二つの軸受で挟むように両端支持する構造とした多段ポンプの場合に比較して、サイドクリアランスに関する熱膨張の影響は小さくて済むことになる。従って、サイドクリアランスをより小さくして、気体漏れの発生をより小さくすることが可能となり、ポンプ性能を向上させることができる。
【0029】
さらに、本形態例では、気体を最も高圧に圧縮する最終段の前記単位ポンプ構成10Bにおける回転軸20A、20Bの片持ち端面側に設けられた最終段のロータ30C、30Dが、その最終段の単位ポンプ構成10Bと前段の単位ポンプ構成10Aの間に配された軸受40C、40Dによって回転軸20A、20Bを介して片持ち状態に支持されている。
【0030】
すなわち、回転軸20A、20Bに設けられ片持ち状態に支持されたロータ30C、30Dを備える単位ポンプ構成10Bが、気体を最も高圧に圧縮する最終段の単位ポンプ構成になっている。
このように単位ポンプ構成10Bが最終段になっている場合、一段目の単位ポンプ構成10Aのロータ30A、30Bは、容積の大きい気体が前段のシリンダ50Aに導入されるため、幅が広くてより質量の大きなものになっており、両端で支持されている。そして、最終段(本形態例では2段目)の単位ポンプ構成10Bのロータ30C、30Dは、気体が圧縮されて後段のシリンダ50Bに導入される関係から、幅が狭くてより質量の小さなものになっており、片持ち状態に支持されている。
両端支持では、荷重が分散し、質量の大きなものにも容易に対応できるため、一段目のロータ30A、30Bについては、その両端支持が適している。これに比較して、片持ち支持では、質量の大きなものには対応しにくいため、より質量の小さな最終段のロータ30C、30Dについては、片持ち支持が適している。従って、本形態例のように、多段のポンプ構造を合理的に構成することができる。
【0031】
さらに、本形態例では、その最終段の単位ポンプ構成10Bであって、後段のシリンダ50Bの両端部を構成する端壁部52C、52Dのうち回転軸20A、20Bが挿通されない片持ち端面側の端壁部52Dに、圧縮された気体の一部を逃がすことができる逃がし孔70(
図4、7など参照)が、回転軸20A、20Bの軸方向に開口して設けられている。
この逃がし孔70によれば、排気開放直前の容積の減少のために排気口を小さくしても大気開放側過圧縮を抑制できる。従って、この逃がし孔70は、大気開放側過圧縮を抑制することのできる過圧縮抑制機構の構成要素の一例となっている。
【0032】
また、端壁部52Dについては回転軸20A、20Bが挿通されないため、端壁部52Dの面においては逃がし孔70の配置に関する制約がほとんど無く、その逃がし孔70を所要の位置に適切且つ容易に設けることができる。これによっても、ポンプ性能を向上できる。
つまり、回転軸20A、20B(シャフト)がサイドプレートを貫通している従来のような両端支持構造の場合、逃がし孔70を配置できてもシャフトが邪魔をして逆止弁71を最適位置に配置することが困難である。これに対してサイドプレートにシャフトを貫通させない片持ち支持構造とした場合、そのような制約がなく好適に逆止弁71を配置・構成できる。なお、ポンプ構成を多段化した場合は、多段のポンプのうち最終段をサイドプレートにシャフトを貫通させない片持ち支持構造とすればよい。
【0033】
この逃がし孔70には、シリンダ50A、50B内の圧力が、所定の圧力よりも高圧の場合には開き、所定の圧力よりも低圧の場合には閉じる逆止弁71(
図4、6など参照)が設けられている。この逆止弁71は、逃がし孔70から高真空となっているシリンダ内へ逆流する排気気体を抑制する逆流抑制機構として機能する。排気気体の高真空となっているシリンダ内への逆流を極力防止できるため、ポンプ効率を向上させることができる。
【0034】
本形態例の逆止弁は、リード弁71によって構成されている。このリード弁71は、先端が半円形の短冊板状に形成され、後端側で片持ち状態に保持・固定され、先端側が自由端になっており、逃がし孔70を開閉できるようになっている。また、リード弁71は、ボルト穴72aに螺合する逆止弁固定ボルト72によって固定されている。このリード弁71は、逃がし孔70の排気側に固定された逆止弁であり、その排気側の圧力と、圧縮空間内の圧力との差圧が、リード弁のバネ力(弾性)を上回った場合に開となる。このリード弁71による逆止弁は、簡単な構造であり、コンパクト且つ安価に構成でき、容易に装着できると共に、メンテナンスも容易に行うことができる。また、逆止弁としては、本形態例のようなリード弁71に限らず、例えば、ゴムやシリコン等の弾性体を用いるもの、スプリング(バネ)を用いてその弾性で開閉するものを用いることができる。
【0035】
以上の構成は、単段の単位ポンプ構成を備える一軸の回転ポンプにも応用できる。すなわち、回転軸20の片持ち端面側に設けられシリンダ50内で回転するロータ30が、そのロータ30の片側に配された軸受40によって回転軸20を介して片持ち状態に支持され、気体をシリンダ50内へ吸気して圧縮された気体をシリンダ50から排気する回転ポンプにも好適に適用できる。
【0036】
この場合にも、シリンダ50の軸方向に両端を構成する端壁部52、52のうち回転軸が挿通されない片持ち端面側の端壁部52Dに、圧縮された気体の一部を逃がすことができる逃がし孔70を、回転軸20の軸方向に開口して設けることができる。
端壁部52Dについては回転軸20が挿通されないため、この端壁部52Dの面においては逃がし孔70の配置に関する制約がほとんど無く、その逃がし孔70を所要の位置に適切且つ容易に設けることができる。これによっても、ポンプ性能を向上できる。
【0037】
また、以上の構成は、多段の単位ポンプ構成を備える一軸の回転ポンプにも応用できる。すなわち、シリンダ50とロータ30とによる単位ポンプ構成10が、回転軸20の軸方向について複数段に設けられている場合にも、気体を最も高圧に圧縮する最終段のシリンダ50Bを構成する片持ち端面側の端壁部52Dに、逃がし孔70が設けることができる。これによっても、前述した内容と同様の効果を奏する。
【0038】
さらに、本形態例では、前段のシリンダ50Aのシリンダの筒部を構成するシリンダの周壁部53A(
図5参照)に、圧縮された気体の一部を逃がすことができる逃がし孔70が設けられている。この逃がし孔70からの逃がし気体は、シリンダの周壁部53Aの外側に設けられたエスケープボックス61へ排出され、さらに、エスケープボックスの出口61a(
図4参照)とマフラーケース17のエスケープパイプ接続口17cとの間を接続するエスケープパイプ62を介して、サイレンサ部60へ排出される。そして、その排気は、サイレンサ部60で後述する排気口55A、55Bからの排気などと合流されて消音され、マフラーケースの排気口17a(
図2参照)から外部へ放出される。
【0039】
このシリンダの周壁部53Aに設けた逃がし孔70によっても、前述したように、ポンプ内部の圧縮空間51Aが過圧縮になることを抑制でき、ポンプ性能を向上できる。
但し、シリンダの周壁部53Aに逃がし孔70を設けた場合、その深さが前述したような端壁部52に設けた場合より長くなるため、逃がし孔70としての応答性については若干劣るもの考えられる。また、シリンダの周壁部53Aに逃がし孔70を設ける場合は、その穿設位置に制約がかかり易く、前述したような端壁部52に設ける場合と比較すると若干の難点がある。例えば、ロータ幅が小さい場合は確保できる逃がし孔70の数が少なく、十分に適用できない場合もある。
【0040】
また、本形態例では、前段の単位ポンプ構成10Aの排気口55Aから後段の単位ポンプ構成10Bの吸気口(後段の吸気口35B)に接続される接続通気路65(
図4参照)を構成する通気路壁部66aに、圧縮された気体の一部を逃がすことができる逃がし孔70が設けられている。なお、接続通気路65は、接続ケースの入口66c及び接続ケースの出口66dを備える接続ケースのベース部66bと、通気路壁部66aを構成する蓋板状部とで形成されている接続ケースの本体部66によって設けられている。
【0041】
この逃がし孔70からの逃がし気体は、通気路壁部66aの外側に固定された接続ケースのカバー部67内へ排出され、さらに、接続ケースのエスケープ出口67a(
図4参照)とマフラーケース17のエスケープホース接続口17b(
図2参照)との間を接続するエスケープホース68(
図2参照)を介して、サイレンサ部60へ排出される。そして、その排気は、サイレンサ部60で排気口55A、55Bからの排気などと合流されて消音され、マフラーケースの排気口17aから外部へ放出される。
【0042】
また、36は吸気ケースであって、36aは吸気ケースの吸気口であり、前段の単位ポンプ構成10Aに開口する前段の吸気口35Aに連通している。43はオイルシールであり、45は軸シールになっている。
【0043】
次に、
図10及び
図11に基づいて、複数の逃がし孔70を設ける場合の形態例について詳細に説明する。なお、
図10はクローポンプの構成を示すと共に排気状態の形態を示し、
図11(a)は
図10のクローポンプにおける気体の圧縮工程の初期状態を示し、
図11(b)は気体の圧縮工程の中途で排気口55Bがロータ30Cの側面によって余裕を持って塞がれた状態を示し、
図11(c)は気体の圧縮工程が終わる直前の状態を示している。また、
図11に記載した矢印は、ロータの回転方向を示している。
本形態例では、シリンダ(後段のシリンダ50B)を構成するシリンダの壁部(後段シリンダの一方の端壁部52C、後段シリンダの他方の端壁部52D、後段の周壁部53B)であって気体の圧縮工程で圧縮空間を構成する壁部の部位(後段シリンダの他方の端壁部52Dの一部)に、圧縮された気体の一部を逃がすことができる複数の逃がし孔70が設けられている。なお、本形態例の逃がし孔70は、回転軸20A、20Bの軸方向に開口されて設けられている。
【0044】
そして、シリンダ(後段のシリンダ50B)の内部での圧縮工程を通じて、その圧縮工程の圧縮比の増大に応じて減少する圧縮空間の容積に対し、複数の逃がし孔70の開いているシリンダに面する総面積の割合が徐々に増大するように、その複数の逃がし孔70が配置されている。すなわち、気体の圧縮比と逃がし孔の開口している総面積との積が、圧縮工程の圧縮開始から圧縮終わりまでの間で徐々に大きくなり、圧縮終わりの際には最大になるように、複数の逃がし孔70が配置されている。なお、気体の最大の圧縮比は、圧縮を開始する瞬間の容積と、排気が開始する瞬間の容積との比となる。
【0045】
このように複数の逃がし孔70を配置するには、排気口55Bから遠い範囲の逃がし孔70による開口された面積よりも、排気口55Bにより近い範囲の逃がし孔70による開口された面積が大きくなるように設定すればよい。従って、複数の同じ大きさ(同径)の逃がし孔70を配置する場合には、前記端壁部52Dの排気口55Bに近い部位ほど、その逃がし孔70の数が多く設けられているとよい。すなわち、排気口55Bに近いところほど、逃がし孔70の存在する密度が高くなるように設けられているとよい。さらに、前記端壁部52Dの排気口55Bに近い部位ほど、逃がし孔70のサイズを大きくすることで、上記の条件を満たすことも可能である。
【0046】
なお、本形態例では、後段のシリンダ50Bにかかる複数の逃がし孔70の全数が、後段シリンダの他方の端壁部52Dに設けられている。しかしながら、上述したような条件を満たせば、これに限定されることはなく、複数の逃がし孔70の一部が、シリンダ(前段のシリンダ50A、後段のシリンダ50B)の両端部を構成する端壁部(前段シリンダの一方の端壁部52A、前段シリンダの他方の端壁部52B、後段シリンダの一方の端壁部52C、後段シリンダの他方の端壁部52D)の少なくとも一方に設けられている形態であってもよい。さらに、シリンダ50の内部での圧縮工程を通じて、その圧縮工程の圧縮比の増大に応じて減少する圧縮空間の容積に対し、複数の逃がし孔70の開いている総面積の割合が徐々に増大するという条件を満たせば、複数の逃がし孔70をシリンダの周壁部53に設けてもよい。
【0047】
また、逃がし孔70に取り付けられた逆止弁71は、排気口55Bの開口前にポンプ内部の圧力が正圧になった状態で開くように設けられている。なお、ここで「正圧」とは、逃がし孔70の排気側の圧力よりも、圧縮空間内の圧力が上回った状態の圧力のことを意味しており、大気圧より高い圧力に限定されない。そして、排気側の圧力と、圧縮空間内の圧力との差圧が、逆止弁(リード弁71)のバネ力(弾性)を上回った場合にそのリード弁71が開となる。真空ポンプにおいて、吸気された負圧空気は、クロー形状ロータにより圧縮され、正圧(逆止弁71が動作する圧力)で逆止弁71が開き、逃がし孔70からの排気が行われる。そのため、逃がし孔70は、ロータ形状により形成される回転軌道の圧縮工程内でポンプ内部が正圧になる位置に、配置する必要がある。なお、排気口に近い位置ほど圧縮工程が進んで内部が高圧状態にあるため、逆止弁71は動作し易く、且つ、圧縮工程時間が長い位置ほど逆止弁71の動作時間が長く、大気開放側での過圧縮抑制効果が大きい。また、本形態例では、逆止弁71がリード弁によって構成されており、その硬度・板厚を変えることで、動作圧力を変更・調整できる。
【0048】
以上のように大気開放側の過圧縮を抑制するための逃がし孔70の配置条件を最適に設定することで、大気開放側の過圧縮抑制にかかる効果を最大限に発揮可能とすることができる。
さらに、この逃がし孔70については、孔数、孔径、及び孔の面取りなどの形状を、適宜選択的に最適化すればよい。
【0049】
本形態例によれば、クローロータを搭載する非接触型真空ポンプなどの回転ポンプにおいて、逃がし孔70による過圧縮抑制機構を設けており、この逃がし孔70の効果について、その作用の連鎖に注目して、以下に詳細に説明する。
この過圧縮抑制機構(逃がし孔70)によれば、排気流量の多い大気開放側(吸入される空気の圧力が大気圧に近い状態での運転がされる場合)の過圧縮を抑制でき、高真空となっているシリンダ内へ逃がし孔70から逆流する排気気体の進入は、逃がし孔70を塞ぐ逆止弁71による逆流抑制機構で抑制することができる。
【0050】
これによれば、上記のように過圧縮が抑制できるため、排気開放直前の容積を減少させるように排気口を小さくして圧縮比を上げることが可能となる。排気開放直前の容積を減少させることで、ポンプ内部へ逆流する排気の気体量を抑制できる。この逆流する気体量を抑制できることで、真空ポンプの到達運転時における動力負荷及びポンプ内部の温度の上昇を抑制することができる。
【0051】
すなわち、本形態例によれば、排気開放直前の容積減少により、逆流気体量を抑制し、動力負荷及び温度上昇を抑制することを可能とし、さらに過圧縮抑制機構(逃がし孔70)で大気開放側の過圧縮を抑制し、且つ高真空となっているシリンダ内側は逆流抑制機構(逆止弁71)で逃がし孔70からの逆流気体を抑制することで、流量を減少すること無く、且つ単段ポンプで圧力フルレンジの使用が可能な高真空圧側の高効率ポンプ構造を実現でき、且つ、その効果を最大限に発揮可能な構造になっている。
【0052】
なお、排気開放直前の容積を減少させるには、排気口を小さくし、且つできる限りポンプ内部空気が圧縮された状態の位置に排気口を設けるとよい。つまり、圧縮比を上げるように排気口を設ける。逆流する排気の気体量の抑制には、他に、多段構造によって前段ポンプの排気を後段ポンプで引くこと、排気口に逆止弁を付ける方法がある。
【0053】
さらに、以上の作用効果について逆の見地から説明すれば、排気開放直前の容積を減少させるために圧縮比を上げたことで、結果的に排気流量が多い大気開放側が過圧縮となることを抑制する過圧縮抑制機構としての逃がし孔70が設けられていることになる。また、高真空となっているシリンダ内へ逃がし孔70から逆流する排気気体を抑制する逆流抑制機構としての逆止弁71が設けられていることになる。
【0054】
以上、本発明につき好適な形態例を挙げて種々説明してきたが、本発明はこの形態例に限定されるものではなく、発明の精神を逸脱しない範囲内で多くの改変を施し得るのは勿論のことである。