【実施例】
【0068】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0069】
<<被覆cBN工具の製造>>
図1は、実施例における被覆cBN工具の構成の一例を示す断面図である。また
図2は、実施例における被覆cBN工具の要部の構成の一例を示す断面図である。
【0070】
<cBN焼結体の製造>
以下のようにして表1に示す組成を有するcBN焼結体A〜Iを製造した。なお、表1中「X線検出化合物」の欄に示す化合物は、cBN焼結体の断面または表面をX線回折(XRD:X‐ray diffraction)装置によって定性分析した際に検出された化合物である。
【0071】
(cBN焼結体Aの製造)
まず、原子比でTi:N=1:0.6となるように平均粒径1μmのTiN粉末と平均粒径が3μmのTi粉末とを混合することにより混合物を得た。該混合物を真空中1200℃で30分間熱処理してから粉砕した。これによりTiN
0.6からなる金属間化合物粉末を得た。
【0072】
次に、質量比でTiN
0.6:Al=90:10となるように、TiN
0.6からなる金属間化合物粉末と平均粒径が4μmのAl粉末とを混合することにより混合物を得た。該混合物を真空中1000℃で30分間熱処理した。熱処理により得られた化合物を、直径が6mmの超硬合金製ボールメディアを用いて、ボールミル粉砕法により均一に粉砕した。これにより、結合相の原料粉末を得た。
【0073】
続いて、cBN焼結体におけるcBN粒子の含有率が30体積%となるように平均粒径が1.5μmのcBN粒子と結合相の原料粉末とを配合し、直径が3mmの窒化硼素製ボールメディアを用いて、ボールミル混合法により均一に混合して粉末状の混合物を得た。そして、該混合物を超硬合金製支持基板に積層してからMo製カプセルに充填した。次いで、超高圧装置を用いて、圧力5.5GPa、温度1300℃で30分間焼結した。これによりcBN焼結体Aを得た。
【0074】
(cBN焼結体B〜Gの製造)
表1に示すように、cBN粒子の体積含有率および平均粒径を変更する以外は、cBN焼結体Aと同様にして、cBN焼結体B〜Gを得た。
【0075】
(cBN焼結体Hの製造)
まず、原子比でTi:C:N=1:0.3:0.3となるように平均粒径1μmのTiCN粉末と平均粒径が3μmのTi粉末とを混合することにより混合物を得た。該混合物を真空中1200℃で30分間熱処理してから粉砕した。これによりTiC
0.3N
0.3からなる金属間化合物粉末を得た。
【0076】
次に、質量比でTiC
0.3N
0.3:Al=90:10となるように、TiC
0.3N
0.3からなる金属間化合物粉末と平均粒径が4μmのAl粉末とを混合することにより混合物を得た。該混合物を真空中1000℃で30分間熱処理した。熱処理により得られた化合物を、直径が6mmの超硬合金製ボールメディアを用いて、ボールミル粉砕法により均一に粉砕した。これにより、結合相の原料粉末を得た。そして、該結合相の原料粉末を用い、表1に示すように、cBN粒子の体積含有率および平均粒径を変更する以外は、cBN焼結体Aと同様にして、cBN焼結体Hを得た。
【0077】
(cBN焼結体Iの製造)
まず、原子比でTi:C=1:0.6となるように平均粒径1μmのTiC粉末と平均粒径が3μmのTi粉末とを混合することにより混合物を得た。該混合物を真空中1200℃で30分間熱処理してから粉砕した。これによりTiC
0.6からなる金属間化合物粉末を得た。
【0078】
次に、質量比でTiC
0.6:Al=90:10となるように、TiC
0.6からなる金属間化合物粉末と平均粒径が4μmのAl粉末とを混合することにより混合物を得た。該混合物を真空中1000℃で30分間熱処理した。熱処理により得られた化合物を、直径が6mmの超硬合金製ボールメディアを用いて、ボールミル粉砕法により均一に粉砕した。これにより、結合相の原料粉末を得た。そして、該結合相の原料粉末を用い、表1に示すように、cBN粒子の体積含有率および平均粒径を変更する以外は、cBN焼結体Aと同様にして、cBN焼結体Iを得た。
【0079】
【表1】
【0080】
<試料1の製造>
以下のようにして試料1に係る被覆cBN工具を製造した。
【0081】
<基材の形成>
形状がISO規格のDNGA150408であり、超硬合金材料(K10相当)からなる基材本体を準備した。該基材本体の刃先(コーナ部分)に上記のcBN焼結体A(形状:頂角が55°であり当該頂角を挟む両辺がそれぞれ2mmである二等辺三角形を底面とし、厚さが2mmの三角柱状のもの)を接合した。なお接合には、Ti−Zr−Cuからなるロウ材を用いた。次いで、接合体の外周面、上面および下面を研削し、刃先にネガランド形状(ネガランド幅が150μmであり、ネガランド角が25°)を形成した。このようにして、切れ刃部分がcBN焼結体Aからなる基材3を得た。
【0082】
<被膜の形成>
(成膜装置)
ここで、以降の工程において、被膜の形成に用いる成膜装置について説明する。当該成膜装置には真空ポンプが接続されており、装置内部に真空引き可能な真空チャンバーを有している。真空チャンバー内には、回転テーブルが設置されており、該回転テーブルは治具を介して基材がセットできるように構成されている。真空チャンバー内にセットされた基材は、真空チャンバー内に設置されているヒーターにより加熱することができる。また、真空チャンバーにはエッチングおよび成膜用のガスを導入するためのガス配管が、流量制御用のマスフローコントローラ(MFC:Mass Flow Controller)を介して、接続されている。さらに、真空チャンバー内には、エッチング用のArイオンを発生させるためのタングステンフィラメント、必要な電源が接続された成膜用のアーク蒸発源もしくはスパッタ源が配置されている。そして、アーク蒸発源もしくはスパッタ源には、成膜に必要な蒸発源原料(ターゲット)がセットされている。
【0083】
(基材のエッチング)
上記のようにして得られた基材3を、成膜装置の真空チャンバー内にセットし、チャンバー内の真空引きを行なった。その後、回転テーブルを3rpmで回転させながら基材3を500℃に加熱した。次いで、真空チャンバー内にArガスを導入し、タングステンフィラメントを放電させてArイオンを発生させ、基材3にバイアス電圧を印加し、Arイオンにより基材3のエッチングを行なった。なお、このときのエッチング条件は次のとおりである
Arガスの圧力 :1Pa
基板バイアス電圧:−500V。
【0084】
(D層の形成)
次に、上記の成膜装置内でD層20を基材3上に形成した。具体的には次に示す条件で厚さ0.1μmとなるように蒸着時間を調整してD層を形成した
ターゲット :Al(70原子%)、Ti(30原子%)
導入ガス :N
2
成膜圧力 :3Pa
アーク放電電流 :120A
基板バイアス電圧:−50V
テーブル回転数 :3rpm。
【0085】
(B層の形成)
D層20に続いて、上記の成膜装置内でD層20の上にB層30を形成した。具体的には、以下に示す条件で、B1化合物層31とB2化合物層32とをそれぞれ交互に100回ずつ繰り返して形成することにより、合計層数が200層であり、厚さ1.0μmのB層30を形成した。B層の形成においては、B1化合物層のアーク蒸着源とB2化合物層のアーク蒸着源とを同時に点弧し、回転テーブルのテーブル回転数を調整することにより、B1化合物層31の厚さを4nm、B2化合物層32の厚さを6nmとした。なお、試料1において、B層の最下層はB1化合物層31であり、最上層はB2化合物層32である。
【0086】
(B1化合物層の形成)
B1化合物層は次に示す条件で形成した
ターゲット :Ti(80原子%)、Si(20原子%)
導入ガス :N
2
成膜圧力 :3Pa
アーク放電電流 :120A
基板バイアス電圧:−50V。
【0087】
(B2化合物層の形成)
B2化合物層は次に示す条件で形成した
ターゲット :Al(70原子%)、Ti(30原子%)
導入ガス :N
2
成膜圧力 :3Pa
アーク放電電流 :160A
基板バイアス電圧:−50V。
【0088】
(A層の形成)
B層30を形成した後、次に示す条件でB層30の上にA層50を形成した。このとき、導入ガス(N
2およびCH
4)の流量はA層50においてC:N=3:7となるように調整した。そして、蒸着時間を調整することにより、厚さ0.1μmのA層を形成した
ターゲット :Ti
導入ガス :N
2、CH
4
成膜圧力 :2Pa
アーク放電電流 :130A
基板バイアス電圧:−450V
テーブル回転数 :3rpm。
【0089】
以上のようにして、基材3の上に、D層20とB層30とA層50とがこの順で積層されてなる被膜10を備えた、試料1に係る被覆cBN工具を得た。
【0090】
<試料2〜6の製造>
蒸着時間を調整することにより、表2に示すように、各試料においてA層の厚さを変化させる以外は、試料1と同様にして試料2〜6に係る被覆cBN工具を得た。
【0091】
<試料7〜52の製造>
表2および3に示すように、cBN焼結体A〜Iを使用して、試料7〜52に係る被覆cBN工具を製造した。表2および3中、左端列に「*」が付された試料が実施例に係る被覆cBN工具である。
【0092】
これらの試料においては、表2および3に示す各層が得られるように、次に示す成膜条件の範囲内で適宜調整を行ない、被膜を形成した。
【0093】
(成膜条件)
ターゲット :表2および3の各層の組成の欄に示す金属元素
導入ガス :Ar、N
2およびCH
4から1種以上を適宜選択
成膜圧力 :0.1〜7Pa
アーク放電電流 :60〜300A
基板バイアス電圧:−700〜−25V
テーブル回転数 :2〜10rpm。
【0094】
【表2】
【0095】
【表3】
【0096】
<試料7〜13の製造>
cBN焼結体Dを用い、試料1と同様にして基材を得、成膜条件を適宜調整して、表2および3に示す構成のD層およびB層をこの順で該基材上に積層した。
【0097】
(試料7:A層の形成:Ti
0.9Si
0.1CN
*)
試料7では、厚さ方向(基材側から被膜表面へ向かう方向)にCおよびNの組成がステップ状または傾斜状に変化するTi
0.9Si
0.1CN層を含むA層を、B層の上に積層した。表2中、当該A層の組成を、便宜上「Ti
0.9Si
0.1CN
*」と記している。当該A層の具体的な構成を表4に示す。また、当該A層は次のようにして形成した。
【0098】
まず、導入ガスとしてN
2のみを使用し、成膜圧力を1.8Paとして、Ti
0.9Si
0.1N層を0.2μm形成した。次に、導入ガス中のCH
4の流量を徐々に増加させながら、組成がTi
0.9Si
0.1NからTi
0.9Si
0.1C
0.3N
0.7へ傾斜状に変化する層を0.5μm形成した。その後、さらにCH
4の流量を増加させながら、組成がTi
0.9Si
0.1C
0.3N
0.7からTi
0.9Si
0.1C
0.5N
0.5へ傾斜状に変化する層を0.3μm形成した。続いて、N
2とCH
4流量比を固定して、Ti
0.9Si
0.1C
0.5N
0.5層を0.5μm形成し、再び導入ガスをN
2のみに戻してTi
0.9Si
0.1N層を0.2μm形成した。
【0099】
【表4】
【0100】
(試料8:A層の形成:Ti
0.95Si
0.05CN
*)
試料8では、厚さ方向(基材側から被膜表面へ向かう方向)にCおよびNの組成がステップ状または傾斜状に変化するTi
0.95Si
0.05CN層を含むA層を、B層の上に積層した。表2中、当該A層の組成を、便宜上「Ti
0.95Si
0.05CN
*」と記している。当該A層の具体的な構成を表4に示す。また、当該A層は上記試料7のA層の形成において、A層の金属元素の組成をTi:Si=0.9:0.1からTi:Si=0.95:0.05とする以外は、試料7のA層と同様にして形成した。
【0101】
(試料9:A層の形成:Ti
0.99Si
0.01CN
*)
試料9では、厚さ方向(基材側から被膜表面へ向かう方向)にCおよびNの組成がステップ状または傾斜状に変化するTi
0.99Si
0.01CN層を含むA層を、B層の上に積層した。表2中、当該A層の組成を、便宜上「Ti
0.99Si
0.01CN
*」と記している。当該A層の具体的な構成を表4に示す。また、当該A層は上記試料7のA層の形成において、A層の金属元素の組成をTi:Si=0.9:0.1からTi:Si=0.99:0.01とする以外は、試料7のA層と同様にして形成した。
【0102】
(試料10〜13:A層の形成:TiCN
*1)
試料10〜13では、厚さ方向(基材側から被膜表面へ向かう方向)にCおよびNの組成がステップ状または傾斜状に変化するTiCN層を含むA層を、B層の上に積層した。表2中、当該A層の組成を、便宜上「TiCN
*1」と記している。当該A層の具体的な構成を表5に示す。また、当該A層は上記試料7のA層の形成において、A層の金属元素の組成をTiのみとし、A層形成時の基材の加熱温度を変化させる以外は、試料7のA層と同様にして形成した。ここで、基材の加熱温度は試料10においては試料7と同様に500℃とし、試料11は600℃、試料12は650℃、試料13では700℃とした。
【0103】
以上のようにして、試料7〜13に係る被覆cBN工具を得た。
【0104】
【表5】
【0105】
<試料14の製造>
cBN焼結体Bを用い、試料1と同様にして基材を得、成膜条件を適宜調整して、表2に示す構成のD層を該基材上に形成した。
【0106】
(B層の形成)
続いて、次に示す条件で、B1化合物層とB2化合物層とを交互に3回ずつ繰り返して形成することにより、合計層数が6層であり、合計厚さ1.1μmのB層を、D層の上に積層した。
【0107】
(B1化合物層の形成)
B1化合物層は次に示す条件で、蒸着時間を調整することにより、1層の厚さが120nmとなるように形成した
ターゲット :Ti
導入ガス :N
2
成膜圧力 :3.5Pa
アーク放電電流 :140A
基板バイアス電圧:−35V。
【0108】
(B2化合物層の形成)
B2化合物層は次に示す条件で、蒸着時間を調整することにより、1層の厚さが240nmとなるように形成した
ターゲット :Al(60原子%)、Cr(40原子%)
導入ガス :N
2
成膜圧力 :3.5Pa
アーク放電電流 :140A
基板バイアス電圧:−60V。
【0109】
(C層の形成)
B層を形成した後、次の条件で、蒸着時間を調整することにより、厚さ0.02μmのC層をB層の上に積層した
ターゲット :Ti
導入ガス :N
2
成膜圧力 :0.5Pa
アーク放電電流 :150A
基板バイアス電圧:−500V。
【0110】
(A層の形成)
さらに、成膜条件を適宜調整して、表2に示す構成のA層をC層の上に積層し、被膜を形成した。これにより、試料14に係る被覆cBN工具を得た。
【0111】
<試料15〜20の製造>
B1化合物層を形成する際のターゲットを表3に示す金属元素に変更する以外は、試料14と同様にして、試料15〜20に係る被覆cBN工具を得た。
【0112】
<試料21〜26の製造>
cBN焼結体Cを用い、試料1と同様にして基材を得、成膜条件を適宜調整して、表2および3に示す構成のD層、B層およびA層をこの順で該基材上に積層し、被膜を形成することにより、試料21〜26に係る被覆cBN工具を得た。なおこの際B層は、試料21〜23では試料1と同様の方法で形成し、試料24〜26では試料14と同様の方法で形成した。
【0113】
<試料27〜31の製造>
cBN焼結体Eを用い、試料1と同様にして基材を得、成膜条件を適宜調整して、表2および3に示す構成のD層、B層をこの順で該基材上に積層した。なおこの際B層は、試料1と同様の方法で形成した。
【0114】
(A層の形成:TiCN
*2)
試料27〜31では、厚さ方向にCおよびNの組成がステップ状に変化するTiCN層を含むA層を、B層の上に積層した。表2中、当該A層の組成を、便宜上「TiCN
*2」と記している。当該A層の具体的な構成を表5に示す。表5に示すように、当該A層は、基材側(cBN焼結体側)から、所定厚さ(ステップ)毎に、段階的に導入ガスの組成を変更して形成した。これによりB層の上に、厚さ方向にCおよびNの組成がステップ状に変化するTiCN層を含むA層が積層されてなる被膜を得た。そしてこれにより、試料27〜31に係る被覆cBN工具を得た。
【0115】
<試料32〜37の製造>
cBN焼結体Fを用い、試料1と同様にして基材を得、成膜条件を適宜調整して、表2および3に示す構成のD層、B層、C層およびA層をこの順で該基材上に積層し、被膜を形成することにより、試料32〜37に係る被覆cBN工具を得た。なおB層は、試料32〜34では試料1と同様の方法で形成し、試料35〜37では試料14と同様の方法で形成した。
【0116】
<試料38〜43の製造>
cBN焼結体Gを用い、試料1と同様にして基材を得、成膜条件を適宜調整して、表2および3に示す構成のD層、B層およびA層をこの順で該基材上に積層し、被膜を形成することにより、試料38〜43に係る被覆cBN工具を得た。なおB層は、試料1と同様の方法で形成した。
【0117】
<44〜49の製造>
cBN焼結体Hを用い、試料1と同様にして基材を得、成膜条件を適宜調整して、表2および3に示す構成のD層、B層をこの順で該基材上に積層した。なお、この際B層は、試料1と同様の方法で形成した。
【0118】
(A層の形成:TiCN
*3)
試料46〜49では、厚さ方向にCおよびNの組成がステップ状または傾斜状に変化するTiCN層を含むA層を、B層の上に積層した。表2中、当該A層の組成を、便宜上「TiCN
*3」と記している。当該A層の具体的な構成を表5に示す。表5に示すように、当該A層は、基材側(cBN焼結体側)から、傾斜状に導入ガスの組成を変化させた後、ステップ状に導入ガスの組成を変更して形成した。
【0119】
試料46では、まず導入ガス中のN
2およびCH
4の流量比を形成される層においてC:N=1:9となるように調整し、TiC
0.1N
0.9層を1.0μm形成した(ステップ1)。次にCH
4の流量比を徐々に増加させながらNの組成が傾斜状に減少する(Cの組成が傾斜状に増加する)TiCN層を1.0μm形成した(ステップ2)。
【0120】
試料47では試料46と同様にステップ2までを実行し、その後導入ガス中のN
2およびCH
4の流量比を形成される層においてC:N=4:6となるように調整し、TiC
0.4N
0.6層をさらに2.0μm形成した(ステップ3)。
【0121】
試料48ではステップ1〜3を実行した後、再びその上からステップ1〜3に係る層を形成し、合計厚さ8μmのA層を形成した。表5中、このようにステップ1〜3を1周期とし、それを2回繰り返す態様を「2周期」と記している。そして、これと同様に試料49ではステップ1〜3を3回繰り返し、合計厚さ12μmのA層を形成した。
【0122】
以上のようにして、B層の上に、厚さ方向にCおよびNの組成がステップ状また傾斜状に変化するTiCN層を含むA層が積層されてなる被膜を形成し、試料44〜49に係る被覆cBN工具を得た。
【0123】
<試料50の製造>
cBN焼結体Dを用い、試料1と同様にして基材を得、成膜条件を適宜調整して、表2に示す構成のA層を該基材上に形成することにより、試料50に係る被覆cBN工具を得た。
【0124】
<試料51の製造>
cBN焼結体Dを用い、試料1と同様にして基材を得、成膜条件を適宜調整して、表2および3に示す構成のD層、B層をこの順で該基材上に形成することにより、試料51に係る被覆cBN工具を得た。なおB層は試料1と同様の方法で形成した。
【0125】
<試料52の製造>
cBN焼結体Dを用い、試料1と同様にして基材を得、成膜条件を適宜調整して、表2および3に示す構成のD層、B層およびA層をこの順で該基材上に形成することにより、試料52に係る被覆cBN工具を得た。なおB層は試料1と同様の方法で形成した。
【0126】
<<評価>>
以上のようにして得られた試料1〜52に係る被覆cBN工具の切削性能および面粗度寿命を、焼入鋼の高速連続切削により評価した。
【0127】
<粒径の測定>
各試料を切断し、被膜の断面をTEMで観察することにより、A層、B層およびC層に含まれる結晶粒の形状を確認した。そして前述の方法に従って、粒径Wa、WbおよびWcを計測した。その結果を表2および3に示す。
【0128】
<逃げ面摩耗量VBおよび面粗度Rzの測定>
各試料の工具を用い、次に示す切削条件に従って、切削距離4kmの切削加工を行なった。そして、光学顕微鏡を使用して工具の逃げ面摩耗量VBを測定した。また、「JIS B 0601」に準拠して、加工後の被削材の「十点平均粗さ(μm)」(すなわち、Rzjis)を測定し、面粗度Rzとした。結果を表6に示す。表6中、逃げ面摩耗量VBが小さいほど、耐逃げ面摩耗性に優れる。また、Rzが小さいほど耐境界摩耗性に優れ、高精度加工が可能であることを示している。
【0129】
(切削条件)
被削材 :SCM415H(HRC60)、外径φ30、ワーク1個当たりの切削距離が6.28mのもの
切削速度:200m/min
送り量 :f=0.1mm/rev
切込み :ap=0.1mm
切削油 :エマルジョン(商品名「システムカット96」、製造元「(株)日本フルードシステム」)を20倍希釈したもの(湿式切削)。
【0130】
<面粗度寿命の測定>
次に、寿命判定基準をRz=3.2μmとして、高精度加工における面粗度寿命を測定した。すなわち、上記の切削条件で繰り返し加工を行ない、ワーク1個の加工(切削距離:6.28m)が終了する度に表面粗さ計を使用して加工後ワークの面粗度Rzを測定し、Rzが3.2μmを超えた時点で試験終了とした。そして、6.28m×ワーク個数から総切削距離(km)を算出した。さらに、Rzを縦軸、切削距離を横軸とする散布図を作成し、該散布図上において終了点と終了直前の点との2点を結ぶ直線上で、Rzが3.2μmに達する切削距離を面粗度寿命と判定した。その結果を表6に示す。
【0131】
【表6】
【0132】
<<結果と考察>>
表6中、左端列に「*」が付された試料が実施例に係る被覆cBN工具である。表1〜6より明らかなように、上記構成(1)〜(10)を備える実施例の被覆cBN工具は、かかる条件を満たさない工具に比し、耐逃げ面摩耗性および耐境界摩耗性に優れ、焼入鋼の高精度加工において優れた工具寿命を有することが確認された。
【0133】
さらに、各試料の構成と評価結果を詳細に分析することにより判明した事項を以下に記す。
【0134】
<A層の厚さ>
試料2〜5および45〜48の評価結果から、A層の厚さが1μm以上3μm以下である試料3、45および46は、特に優れた面粗度寿命を示す傾向が確認された。したがって、A層の厚さは1μm以上3μm以下であることが好ましい。
【0135】
<A層を構成する柱状晶の粒径Wa>
試料8〜12の評価では、A層を構成する柱状晶の粒径Waが50nm以上300nm以下である試料9〜11は、かかる条件を満たさない試料8および12に比し優れた面粗度寿命を示す傾向が確認された。したがって、Waは50nm以上300nm以下であることが好ましい。
【0136】
<B層を構成する柱状晶の粒径Wb>
試料15〜19の評価では、B層を構成する柱状晶の粒径Wbが7nm以上40nmである試料16〜18は、かかる条件を満たさない試料15および19に比し優れた面粗度寿命を示す傾向が確認された。したがって、Wbは7nm以上40nm以下であることが好ましい。
【0137】
<B2化合物層の組成>
試料28〜30の評価では、B2化合物層に含まれる(Al
1-xb2M2
xb2)(C
1-zb2N
zb2)において、M2がTiおよびCrの少なくとも1つを表わし、M2の組成xb2が0.25以上0.5以下である試料29および30は、かかる条件を満たさない試料28に比し、優れた面粗度寿命を示した。したがって、M2の組成xb2は0.25以上0.5以下であることが好ましい。
【0138】
<B1化合物層およびB2化合物層の厚さ>
試料22〜25および試料33〜36の評価では、B層が30nm未満の化合物層を含む場合(試料22、23、33、34)、面粗度寿命が向上する傾向が確認された。したがって、B層は一部または全部が30nm未満の層で構成されることが好ましい。
【0139】
<B層全体の厚さ>
試料39〜42の評価では、B層全体の厚さの範囲が0.1μm以上4μm以下であり、これらのうち該厚さが0.5μmである試料40と該厚さが1.0μmである試料41は特に優れた面粗度寿命を示した。したがって、B層全体の厚さは好ましくは0.1μm以上4μm以下であり、より好ましくは0.5μm以上4μm以下である。
【0140】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述した各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0141】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。