特許第5663882号(P5663882)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5663882
(24)【登録日】2014年12月19日
(45)【発行日】2015年2月4日
(54)【発明の名称】構造体、耐震補強方法
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/02 20060101AFI20150115BHJP
   E04H 9/02 20060101ALI20150115BHJP
   E04B 1/18 20060101ALI20150115BHJP
【FI】
   E04G23/02 F
   E04H9/02 321A
   E04B1/18 A
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2010-12433(P2010-12433)
(22)【出願日】2010年1月22日
(65)【公開番号】特開2011-149229(P2011-149229A)
(43)【公開日】2011年8月4日
【審査請求日】2012年12月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】辻 靖彦
(72)【発明者】
【氏名】今井 孝
【審査官】 五十幡 直子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−228473(JP,A)
【文献】 特開平10−046664(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3150509(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/02
E04H 9/02
E04B 1/18−1/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下の梁間に1本の間柱が剛接合された構造体であって、
少なくとも一の階層の梁の上方に剛接合された間柱の当該梁への接合位置が、当該梁の下方に剛接合された間柱の当該梁への接合位置に対して、前記梁の長さ方向に柱間スパンの1/3の長さだけ離間していることを特徴とする構造体。
【請求項2】
上下の梁間に2本の間柱が剛接合された構造体であって、
少なくとも一の階層の梁の上方に剛接合された間柱の当該梁への接合位置が、当該梁の下方に剛接合された間柱の当該梁への接合位置に対して、前記梁の長さ方向に柱間スパンの1/5の長さだけ離間していることを特徴とする構造体。
【請求項3】
上下の梁間に本の間柱を剛接合することにより構造体を耐震補強する方法であって、
少なくとも一の階層の梁の上方に剛接合された間柱の当該梁への接合位置を、当該梁の下方に剛接合された間柱の当該梁への接合位置に対して、前記梁の長さ方向に柱間スパンの1/3の長さだけ離間させることを特徴とする構造体の耐震補強方法。
【請求項4】
上下の梁間に本の間柱を剛接合することにより構造体を耐震補強する方法であって、
少なくとも一の階層の梁の上方に剛接合された間柱の当該梁への接合位置を、当該梁の下方に剛接合された間柱の当該梁への接合位置に対して、前記梁の長さ方向に柱間スパンの1/5の長さだけ離間させることを特徴とする構造体の耐震補強方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、間柱を有する構造体及び構造体の耐震補強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば、鉄筋コンクリート造の柱梁架構において、耐震性を向上する方法として、耐震壁を設けることが行われている。しかし、耐震壁により柱梁により囲まれる空間を閉鎖してしまうと、内部空間の利用が制限されてしまう。また、鉄骨造の柱梁架構において、同様の効果を得るためブレースを設けることが行われていが、ブレースの場合も柱梁により囲まれる空間を閉鎖してしまうので、内部空間の利用が制限されてしまう。
【0003】
そこで、図10に示すように、柱梁架構110において上下方向に一列に並ぶように各階の上下の梁121の間に間柱130を介装することが行われている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000―257300号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、上記のように上下方向に一列に並ぶように各階の上下の梁の間に間柱を介装させる方法では、柱梁架構により高い耐震性を求める場合には、間柱を太くしたり、間柱の本数を増やしたりする必要があり、室内空間が削られるとともに内部空間の利用が制限される。
【0006】
本発明は、上記の問題に鑑みなされたものであり、その目的は、間柱などの補強部材を太くしたり、補強部材の本数を増やしたりすることなく、構造体の耐震性をより向上することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の構造体は、上下の梁間に1本の間柱が剛接合された構造体であって、少なくとも一の階層の梁の上方に剛接合された間柱の当該梁への接合位置が、当該梁の下方に剛接合された間柱の当該梁への接合位置に対して、前記梁の長さ方向に柱間スパンの1/3の長さだけ離間していることを特徴とする。
また、本発明の構造体は、上下の梁間に2本の間柱が剛接合された構造体であって、少なくとも一の階層の梁の上方に剛接合された間柱の当該梁への接合位置が、当該梁の下方に剛接合された間柱の当該梁への接合位置に対して、前記梁の長さ方向に柱間スパンの1/5の長さだけ離間していることを特徴とする。
なお、上記の剛接合とは、ピン接合を除く接合方法であって、水平荷重及び曲げ荷重が伝達可能な接合方法をいう。また、補強部材の梁への接合位置とは、補強部材の梁への接合された部分の面をいい、梁の長さ方向に幅を持つものである。さらに、上下の補強部材の梁への接合位置は、当然、梁の高さ分だけ上下に離間することになるが、この接合位置が「梁の長さ方向に離間している」とは、上下方向の離間は考慮せず、梁の長さ方向における位置が同方向に離間していることを意味する。
【0009】
また、本発明の耐震補強方法は、上下の梁間に本の間柱を剛接合することにより構造体を耐震補強する方法であって、少なくとも一の階層の梁の上方に剛接合された間柱の当該梁への接合位置を、当該梁の下方に剛接合された間柱の当該梁への接合位置に対して、前記梁の長さ方向に柱間スパンの1/3の長さだけ離間させることを特徴とする。
また、本発明の耐震補強方法は、上下の梁間に本の間柱を剛接合することにより構造体を耐震補強する方法であって、少なくとも一の階層の梁の上方に剛接合された間柱の当該梁への接合位置を、当該梁の下方に剛接合された間柱の当該梁への接合位置に対して、前記梁の長さ方向に柱間スパンの1/5の長さだけ離間させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、梁の上下の階層に設けられる補強部材を、それぞれ梁の長さ方向に離間した位置において、梁に剛接合することとしたため、梁の可撓長さが短くなる。これにより、梁の座屈荷重および曲げ剛性を向上することができるため、補強部材を太くしたり、補強部材本数を増やしたりすることなく、構造体の耐震性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態の柱梁架構を示し、(A)は平面図、(B)は(A)におけるI−I断面図である。
図2】上下方向に一列に並ぶように各階の上下の梁の間に間柱を介装させた柱梁架構を示す図である。
図3】(A)は各階層に二本ずつ間柱を介装させる場合の梁の上下に接続される間柱を梁の長さ方向に離間させた柱梁架構を示す図であり、(B)は各階層に二本ずつ間柱を介装させる場合の上下方向に一列に並ぶように間柱を設けた柱梁架構を示す図である。
図4】間柱に代えて傾斜した補強部材を設けた柱梁架構を示す図である。
図5】一部の間柱を省略した柱梁架構を示す図である。
図6】(A)は各層に間柱を柱間スパンの中央に上下方向に直線状に配置した二次元解析モデル(比較例1)を示し、(B)は奇数階の間柱と偶数階の間柱とを梁の長さ方向に異なる位置に設けた二次元解析モデル(実施例1)を示す図である。
図7】比較例1の剛性に対する実施例1の剛性の比率を示し、(A)はグラフ、(B)は表である。
図8】(A)は各階層に間柱を二本ずつ上下方向に直線状に配置した二次元解析モデル(比較例2)を示し、(B)は間柱を傾斜させた場合の二次元解析モデル(実施例2)を示す図である。
図9】比較例1に対する比較例2及び実施例2についての剛性を示す表である。
図10】従来技術である上下方向に一列に並ぶように各階の上下の梁の間に間柱を介装させた柱梁架構を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の構造体の一実施形態である柱梁架構を図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本実施形態である柱梁架構10を示し、(A)は平面図、(B)は(A)におけるI−I断面図である。本実施形態では、(A)におけるI−I断面における面内水平方向の剛性を向上する場合について説明する。同図(B)に示すように、本実施形態の柱梁架構10において、各階層の上下の梁21の間には、それぞれ一本ずつ間柱30が設けられ、その上下が梁21に剛接されている。なお、柱梁架構10としては、鉄筋コンクリート造、鉄骨造、鉄骨鉄筋コンクリート造、木造のいずれであってもよい。
【0013】
これら間柱30は、柱20間のスパン長を3等分にした位置に、下階から上階に向かって図中左右交互に設けられている。これにより、各階層の梁21には、柱20間のスパン長を3等分にする2箇所に上方又は下方の階層の間柱30は、それぞれ接続されることとなる。これにより、梁21の可撓長さ(柱20の側面と間柱30の側面との距離、又は、間柱30の側面間の距離)が柱間スパンLの約3分の1の長さとなる。
【0014】
これに対して、図2に示すように、従来技術の欄に記載した上下方向に一列に並ぶように各階の上下の梁121の間に間柱130を介装させる方法では、梁121を挟んで上下の間柱130は、梁121の同じ位置に接続されることとなる。このため、例えば、同図に示すように、柱120間スパンの中央に間柱130を配置したとすると、梁121の可撓長さは柱間スパンの2分の1となる。また、間柱130を中央からずらして設ける場合には、梁121の可撓長さは、長い方が柱間スパンの約2分の1以上となる。
このように、本実施形態によれば、可撓長さが従来よりも短くなる。
【0015】
地震力が作用すると、各梁21には軸方向に水平力が作用することとなる。これに対して、上記のように梁21の可撓長さが短くなることで、梁21の座屈荷重および曲げ剛性が向上される。このため、間柱30を太くしたり、間柱30の本数を増やしたりすることなく、図2に示すように、上下方向に一列に並ぶように各階の上下の梁121の間に間柱130を介装した場合(図2)に比べて柱梁架構10の耐震性が向上できる。
【0016】
以上説明したように、本実施形態によれば、上下の階層の間柱30を梁21の長さ方向に離間した位置にそれぞれ剛接合することとしたため、梁21の可撓長さが短くなる。これにより、梁21の座屈荷重および曲げ剛性を向上することができるため、間柱30を太くしたり、間柱30の本数を増やしたりすることなく、柱梁架構10の耐震性を向上することができる。
また、間柱30を梁21の長さ方向に離間して設けているため、各層の間柱30のサイズに制約が無い。すなわち、間柱30の要求性能に応じて、間柱30のせい、幅、設けられるフランジ板の幅や厚さを適宜変更することができる。
【0017】
なお、本実施形態では、各階層に一本ずつ間柱30を介装させる場合について説明したが、各階層に二本ずつ間柱30を介装させる場合には、図3(A)に示すように、柱間スパンを五等分するような位置に間柱30を設ければよい。例えば、図3(B)に示すように、柱間スパンを三等分するような位置に上下方向に一列に並ぶように間柱30を設ける場合には、梁21の可撓長さが柱間スパンLの約1/3であるが、図3(A)に示す柱梁架構10によれば、梁21の可撓長さが柱間スパンLの約1/5と短くなるため、柱梁架構10の剛性を向上することができる。
【0018】
また、図4に示すように、各層に間柱に代えて、柱梁架構10の面内において鉛直方向から傾斜するように補強部材40を配し、補強部材40を上下の梁21に剛接してもよい。かかる構成によれば、梁21の上下において補強部材40が接続される位置が離間することとなり、これにより、梁21の可撓長さが短くなり、梁21の座屈荷重および曲げ剛性が向上されるため、柱梁架構10の耐震性が向上できる。
また、本実施形態では、柱梁架構の一方向の剛性を向上する場合について説明したが、これに限らず、当然他の方向の剛性を向上する場合にも本発明を適用できる。
【0019】
また、本実施形態では、各階層に同本数の間柱30が設けられている場合について説明したが、これに限らず、図5に示すように、上階など十分な剛性を有する階層については間柱30を省略することも可能であり、下層については間柱30の本数を増やしてもよい。要するに、柱梁架構10において、連続した複数階層に間柱30が設けられており、これら複数階層のうち何れかの階層において、梁21の上下に接続された間柱30が梁21の長さ方向に離間していればよい。また、間柱30は必ずしも柱梁で囲まれる面内に設ける必要はなく、面外方向にずらして設けることとしてもよい。
【0020】
また、本実施形態では、梁21の上下に接続される間柱30の剛接位置の距離を柱間スパンLの約1/3としたが、これに限らず、梁21への上下の間柱30の剛接合位置が梁の長さ方向に離間していればよい。
また、本実施形態では、間柱30を梁21に剛接合するものとしたが、これに限らず、水平荷重及び曲げ荷重を伝達可能とすることにより、梁の可撓長さを短くすることができればよく、ピン接合以外の方法で接合すればよい。すなわち、間柱30と梁21との固定度を下げることができる。さらに、間柱30の上端あるいは下端と梁21との間に、摩擦材等エネルギー吸収材を介在させておき、設定荷重までは固定とし、設定荷重を超える場合には摩擦材がすべりエネルギーを吸収するようにすることも可能である。なお、このようなエネルギー吸収材を、間柱30内の端部近傍に介在させてもよい。
【0021】
ここで、本願発明者らは、梁21の上下に剛接合される間柱30の剛接合位置を梁の長さ方向にずらすことで柱梁架構10の耐震性が向上されることを数値解析により確認したので、以下説明する。
【0022】
本実験では、図6(A)に示すような各層に間柱130を柱間スパンの中央に上下方向に直線状に配置した二次元解析モデル210(以下、比較例1という)と、同図(B)に示すような奇数階の間柱30と偶数階の間柱30とを梁21の長さ方向に異なる位置に設け、間柱間隔を複数通りに設定した二次元解析モデル220(以下、実施例1という)とについて、剛性を調べた。
【0023】
なお、解析条件としては、各解析モデルとも以下のように設定した。
構造種別:鉄骨造(ラーメン構造)
高さ:16m
階高:4m
柱間スパン:14m
鋼材:490N級(基準強度325N/mm)、ヤング係数E=2.05×10N/mm
柱:□600×600×22、I=2.84×1010mm
梁:BH 600×300×12×22、I=1.27×1010mm
耐震間柱:BH 600×600×14×22、I=2.41×1010mm
支持条件:固定
解析方法としては、各層に水平荷重(P=500kN)を作用させ、その時の水平変位量から各層の水平剛性を算出した。
【0024】
図7は、比較例1の剛性に対する実施例1の剛性の比率を示し、(A)はグラフ、(B)は表である。同図に示すように、実施例1の間柱間隔がスパンの0.5倍以下である場合には、比較例と比べて剛性が向上している。特に、実施例1の間柱間隔がスパンの0.2〜0.35倍程度で各階層の剛性が最も向上されていることがわかる。これに対して、実施例1の間柱間隔がスパンの0.5倍以上となると、比較例に比べて剛性が低下している。これは、実施例1の間柱間隔がスパンの0.5倍以上となると梁の可撓長さが比較例に比べて長くなるためである。
【0025】
さらに、図8(A)に示すように、各階層に間柱130を二本ずつ上下方向に直線状に配置した二次元解析モデル230(以下、比較例2という)と、図8(B)に示すように、各階層に傾斜させた補強部材40を設けた場合の二次元解析モデル240(以下、実施例2という)とについて剛性を調べた。
【0026】
図9は、比較例1に対する比較例2及び実施例2についての剛性を示す表である。同図に示すように、比較例1と実施例2とは、各階層に補強部材(間柱)をそれぞれ1本ずつ設ける点で共通しているにも係わらず、実施例2の剛性は、比較例1に比べて非常に大きい。さらに、実施例2は、各階層に間柱をそれぞれ2本ずつ設けている比較例2と比べて、1F,2Fでは若干低いものの、3F、4Fでは比較例2と略同程度の剛性が得られることが確認された。
【0027】
以上のように、本実施形態によれば、上下方向に一列に並ぶように間柱を設ける場合に比べて剛性を向上することができることが確認された。
【符号の説明】
【0028】
10 柱梁架構
20 柱
21 梁
30 間柱
40 補強部材
図1
図2
図3
図4
図5
図7
図9
図10
図6
図8