(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第1の方向に沿って長尺に形成された複数のP型熱電薄膜素子および当該第1の方向に沿って長尺に形成された複数のN型熱電薄膜素子が当該第1の方向と交差する第2の方向に沿って交互に並んで支持基板の一面側に配設されると共に、当該支持基板の当該第1の方向における両端部のうちの一方の側において1つの前記P型熱電薄膜素子における当該一方の側の端部および当該1つのP型熱電薄膜素子に当該第2の方向のうちの一方の方向側において隣接する1つの前記N型熱電薄膜素子における当該一方の側の端部を相互に電気的に接続する第1の電極部と、当該第1の方向における両端部のうちの他方の側において当該1つのN型熱電薄膜素子における当該他方の側の端部および当該1つのN型熱電薄膜素子に当該一方の方向側において隣接する1つの前記P型熱電薄膜素子における当該他方の側の端部を相互に電気的に接続する第2の電極部とを有し、前記複数のP型熱電薄膜素子および前記複数のN型熱電薄膜素子が直列接続されるように前記第1の電極部と前記第2の電極部とが前記第2の方向に沿って交互に形成された本体部が構成され、
前記各P型熱電薄膜素子および前記各N型熱電薄膜素子は、前記第1の電極部および前記第2の電極部によって支持された状態で前記支持基板の前記一面側に配設され、
前記第1の電極部は、前記P型熱電薄膜素子および前記N型熱電薄膜素子と前記支持基板との双方に固着され、
前記第2の電極部は、前記P型熱電薄膜素子および前記N型熱電薄膜素子に固着されると共に前記支持基板に対する前記第1の方向に沿った摺動を許容された状態で当該支持基板によって支持されている平面型の熱電モジュール。
前記第2の電極部は、少なくとも、前記支持基板に接触する接触面と前記一方の側に位置する側面との角部、および当該接触面と前記他方の側に位置する側面との角部が丸みを帯びるように形成されている請求項1記載の熱電モジュール。
前記P型熱電薄膜素子および前記N型熱電薄膜素子と前記支持基板との間に配設されて当該P型熱電薄膜素子および当該N型熱電薄膜素子の前記第1の方向に沿った摺動を許容しつつ当該P型熱電薄膜素子および当該N型熱電薄膜素子を支持する支持部材を備えている請求項1または2記載の熱電モジュール。
【背景技術】
【0002】
この種の熱電モジュールとして、N型熱電薄膜層およびP型熱電薄膜層が絶縁薄膜層を挟んで交互に積層されると共に、N型熱電薄膜層およびP型熱電薄膜が電極薄膜層によって交互に直列に接続された熱電モジュールが特開2008−205181号公報に開示されている。この熱電モジュールの製造に際しては、まず、基板の上に形成した犠牲層の上にスパッタ法によって絶縁薄膜層を形成する。次いで、この絶縁薄膜層の上に熱電薄膜層(P型熱電薄膜層およびN型熱電薄膜層のいずれか一方)をスパッタ法によって形成する。この際には、一例として、PドープSi層およびノンドープSiGe層を交互に複数層形成することによってN型熱電薄膜層を形成する。続いて、N型熱電薄膜層を構成するPドープSi層およびノンドープSiGe層の一端側の端面を相互に接続する電極薄膜層を犠牲層の上にスパッタ法によって形成する。
【0003】
次いで、N型熱電薄膜層及び電極薄膜層の上に絶縁薄膜層をスパッタ法によって形成した後に、この絶縁薄膜層の上に熱電薄膜層(P型熱電薄膜層およびN型熱電薄膜層のいずれか他方)をスパッタ法によって形成する。この際には、一例として、ノンドープSi層およびBドープSiGe層を交互に複数層形成することによってP型熱電薄膜層を形成する。続いて、N型熱電薄膜層(PドープSi層およびノンドープSiGe層の積層体)およびP型熱電薄膜層(ノンドープSi層およびBドープSiGe層の積層体)の他端側の端面を相互に接続する電極薄膜層を絶縁薄膜層の上にスパッタ法によって形成する。以上の工程と同様の工程を複数回に亘って繰り返して実行することにより、絶縁薄膜層、N型熱電薄膜層、絶縁薄膜層およびP型熱電薄膜層の積層体を基板上の犠牲層の上に複数形成する。
【0004】
続いて、上記の積層体の側面に絶縁性の保護層を形成することにより、各電極薄膜層を保護層によって覆う。次いで、酸・アルカリなどの溶媒に浸漬して犠牲層を除去することにより、上記の積層体から基板を剥離する。この後、純水によって洗浄することにより、熱電モジュールが完成する。この場合、上記の熱電モジュールの製造方法では、各N型熱電薄膜層、各P型熱電薄膜層、各絶縁薄膜層および各電極薄膜層を同一薄膜製膜装置内において真空チャンバーから取り出すことなく連続的に成膜している。したがって、完成した熱電モジュールでは、各N型熱電薄膜層、各P型熱電薄膜層、各絶縁薄膜層および各電極薄膜層が互いに密着して一体化した状態となっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、従来の熱電モジュールには、以下の問題点がある。すなわち、従来の熱電モジュールでは、同一薄膜製膜装置内において真空チャンバーから取り出すことなく各層を順次形成することで、各N型熱電薄膜層、各P型熱電薄膜層、各絶縁薄膜層および各電極薄膜層が互いに密着して一体化した状態となっている。一方、この種の熱電モジュールを発電モジュールとして使用する際には、モジュールの一端側および他端側に温度差を生じ
させるために、一端側および他端側のいずれかを十分に加熱する必要がある。この場合、この種の熱電モジュールの各層を構成する構成材料は、その熱膨張率が互いに相違している。このため、従来の熱電モジュールにおいても、各N型熱電薄膜層、各P型熱電薄膜層、各絶縁薄膜層および各電極薄膜層の熱膨張率が互いに相違した状態となっている。
【0007】
したがって、熱膨張率が互いに相違する各層が密着して一体化している従来の熱電モジュールでは、発電に際して一端側および他端側のいずれかを加熱したときに、熱膨張率が高い層が熱膨張率が低い層を引っ張るようにして熱膨張することとなる。このため、従来の熱電モジュールでは、熱膨張率が高い層、および熱膨張率が低い層の双方に物理的な負荷が掛かり、最悪の場合には、熱膨張率が高い層、および熱膨張率が低い層のいずれか、または双方が熱電モジュール内において破損することがあるという問題点が存在する。
【0008】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、熱電モジュールを構成する各層に係る負荷を十分に軽減し得る熱電モジュールを提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成すべく、本発明に係る熱電モジュールは、第1の方向に沿って長尺に形成された複数のP型熱電薄膜素子および当該第1の方向に沿って長尺に形成された複数のN型熱電薄膜素子が当該第1の方向と交差する第2の方向に沿って交互に並んで支持基板の一面側に配設されると共に、当該支持基板の当該第1の方向における両端部のうちの一方の側において
1つの前記P型熱電薄膜素子における当該一方の側の端部および
当該1つのP型熱電薄膜素子に当該第2の方向のうちの一方の方向側において隣接する1つの前記N型熱電薄膜素子における当該一方の側の端部を相互に電気的に接続する第1の電極部と、当該第1の方向における両端部のうちの他方の側において
当該1つのN型熱電薄膜素子における当該他方の側の端部および当該1つのN型熱電薄膜素子に当該一方の方向側において隣接する1つの前記P型熱電薄膜素子における当該他方の側の端
部を相互に電気的に接続する第2の電極部とを有し、
前記複数のP型熱電薄膜素子および
前記複数のN型熱電薄膜素子が直列接続されるように前記第1の電極部と前記第2の電極部とが前記第2の方向に沿って交互に形成された本体部が構成され、前記各P型熱電薄膜素子および前記各N型熱電薄膜素子は、前記第1の電極部および前記第2の電極部によって支持された状態で前記支持基板の前記一面側に配設され、前記第1の電極部は、前記P型熱電薄膜素子および前記N型熱電薄膜素子と前記支持基板との双方に固着され、前記第2の電極部は、前記P型熱電薄膜素子および前記N型熱電薄膜素子に固着されると共に前記支持基板に対する前記第1の方向に沿った摺動を許容された状態で当該支持基板によって支持されている。
【0010】
また、本発明に係る熱電モジュールは、前記第2の電極部は、少なくとも、前記支持基板に接触する接触面と前記一方の側に位置する側面との角部、および当該接触面と前記他方の側に位置する側面との角部が丸みを帯びるように形成されている。
【0011】
さらに、本発明に係る熱電モジュールは、前記P型熱電薄膜素子および前記N型熱電薄膜素子と前記支持基板との間に配設されて当該P型熱電薄膜素子および当該N型熱電薄膜素子の前記第1の方向に沿った摺動を許容しつつ当該P型熱電薄膜素子および当該N型熱電薄膜素子を支持する支持部材を備えている。
【0012】
また、本発明に係る熱電モジュールは、前記支持基板の上に前記本体部が複数積層されている。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る熱電モジュールによれば、各P型熱電薄膜素子および各N型熱電薄膜素子を第1の電極部および第2の電極部によって支持した状態で支持基板の一面側に配設し、第1の電極部をP型熱電薄膜素子およびN型熱電薄膜素子と支持基板との双方に固着し、第2の電極部をP型熱電薄膜素子およびN型熱電薄膜素子に固着すると共に支持基板に対
する第1の方向に沿った摺動を許容した状態で支持基板によって支持したことにより、支持基板、P型熱電薄膜素子、N型熱電薄膜素子、第1の電極部および第2の電極部の熱膨張率が相違し、これに起因して、加熱時や冷却時におけるこれらの変形量が互いに相違することで、P型熱電薄膜素子やN型熱電薄膜素子が支持基板に対して相対的に移動する力が生じたときに、第2の電極部が本体部に対して摺動するようにP型熱電薄膜素子やN型熱電薄膜素子が支持基板に対して自由に伸び縮みする結果、熱電モジュールの加熱時や冷却時に、支持基板、P型熱電薄膜素子、N型熱電薄膜素子、第1の電極部および第2の電極部に負荷が掛かる事態を回避することができ、これにより、これらの破損を防止することができる。
【0014】
また、本発明に係る熱電モジュールによれば、少なくとも、支持基板に接触する接触面と一方の側に位置する側面との角部、および接触面と他方の側に位置する側面との角部が丸みを帯びるように第2の電極部を形成したことにより、第2の電極部が支持基板に対して引っ掛かりを生じさせることなくスムーズに摺動する結果、支持基板、P型熱電薄膜素子、N型熱電薄膜素子、第1の電極部および第2の電極部に負荷が掛かる事態を確実に回避することができ、これにより、これらの破損を確実に防止することができる。
【0015】
さらに、本発明に係る熱電モジュールによれば、P型熱電薄膜素子およびN型熱電薄膜素子の第1の方向に沿った摺動を許容しつつP型熱電薄膜素子およびN型熱電薄膜素子を支持する支持部材をP型熱電薄膜素子およびN型熱電薄膜素子と支持基板との間に配設したことにより、長手方向の中央部が支持基板に向かって凹むような変形がP型熱電薄膜素子やN型熱電薄膜素子に生じる事態が回避されるため、P型熱電薄膜素子やN型熱電薄膜素子の破損を一層確実に回避することができる。
【0016】
また、本発明に係る熱電モジュールによれば、支持基板の上に本体部を複数積層したことにより、支持基板の上に本体部を1層だけ配設して構成した熱電モジュールと比較して、加熱または冷却時に、より大きな電圧を生じさせることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照して、本発明に係る熱電モジュールの実施の形態について説明する。
【0019】
図1,2に示す熱電モジュール1は、その一端部側および他端部側のいずれか(両図における左方側および右方側のいずれか)を加熱または冷却して一端部側および他端部側の間に温度差を生じさせることによって電流を生成して出力する発電モジュールとして使用可能に構成されている。この熱電モジュール1は、支持基板B、本体部2、スペーサSおよびケーシングCを備えている。支持基板Bは、本体部2やスペーサSを支持する支持体であって、一例として、厚みが1〜2mm程度で、一辺の長さが10〜50mm程度の平面視矩形状に形成されている。この支持基板Bとしては、平板状のシリコンの表面に酸化膜を形成した板体や、エンジニアリングプラスチックおよびセラミックなどの非導電性材料で形成された板体を使用することができる。
【0020】
本体部2は、複数のP型熱電薄膜素子4、複数のN型熱電薄膜素子5および複数の電極
部6,7を備えている。各P型熱電薄膜素子4および各N型熱電薄膜素子5(以下、総称して「熱電薄膜素子4,5」ともいう)は、薄膜状に形成されることによって量子井戸構造に形成された熱電素子であって、一例として、厚みが0.1〜1.0μm程度で、長尺方向の長さが8〜45mm程度で、短尺方向の長さ(幅)が1〜8mm程度に形成されている。なお、熱電薄膜素子4,5における長尺方向の長さや短尺方向の長さ(幅)については、熱電モジュール1に求められる仕様に応じて適宜規定される。
【0021】
P型熱電薄膜素子4は、一例として、Bi2Te3/Sb2Te3層と、Bi0.5Sb1.5Te3層とが交互に積層された薄膜を長尺帯状に切断することにより、支持基板Bの表面に沿った第1の方向(この例では、
図1,2に示す矢印Xの方向)に沿って長い長尺帯状に形成されている。N型熱電薄膜素子5は、一例として、Bi2Te3層と、Bi2Se3層とが交互に積層された薄膜を長尺帯状に切断することにより、支持基板Bの表面に沿った第1の方向(この例では、矢印Xの方向)に沿って長い長尺帯状に形成されている。なお、熱電薄膜素子4,5を構成する層は、上記の例示に限定されるものではない。例えば、SiGe層およびSi層が交互に積層された薄膜を長尺帯状に切断することでP型熱電薄膜素子4を形成すると共に、PドープSi層およびノンドープSiGe層が交互に積層された薄膜を長尺帯状に切断することでN型熱電薄膜素子5を形成することができる。
【0022】
また、各熱電薄膜素子4,5は、上記の第1の方向と交差する第2の方向(この例では、
図2に示す矢印Yの方向:第1の方向である矢印Xの方向と直交する方向)に沿って交互に並んだ状態で支持基板Bの一面側(
図1における上面側)に配設されて、電極部6,7およびスペーサSによって支持されている。この場合、各熱電薄膜素子4,5は、電極部6,7によって交互に直列接続されている。
【0023】
電極部6は、「第1の電極部」の一例であって、支持基板Bの第1の方向における両端部のうちの一方の側(この例では、
図1,2における左方側)において熱電薄膜素子4,5における一方の側の端部(この例では、両図における左方側の端部)を相互に電気的に接続する。電極部7は、「第2の電極部」の一例であって、支持基板Bの第1の方向における両端部のうちの他方の側(この例では、
図1、2における右方側)において熱電薄膜素子4,5における他方の側の端部(この例では、両図における右方側の端部)を相互に電気的に接続する。この電極部6,7は、一例として、CuやAu等の導電性材料によって厚み1mm程度の平面視矩形状に形成されている。
【0024】
この場合、この熱電モジュール1では、
図3に示すように、導電性を有する接着剤Zによって電極部6が熱電薄膜素子4,5および支持基板Bの双方に固定的に接着され(固着され)、かつ、接着剤Zによって電極部7が熱電薄膜素子4,5に固定的に接着されると共に(固着されると共に)支持基板Bに対する第1の方向(同図における矢印Xの方向)に沿った摺動を許容された状態で支持基板Bによって支持されている。なお、電極部6,7や、後述する電極部8の固着については、接着剤Zによる接着に代えて、熱溶着によって固着させることもできる。また、この熱電モジュール1では、電極部7が、支持基板Bに接触する接触面(同図における下面)と一方の側に位置する側面(この例では、同図における左側の側面)との角部、および接触面と他方の側に位置する側面(この例では、同図における右側の側面)との角部が丸みを帯びるように形成されている。
【0025】
また、
図2に示すように、この熱電モジュール1では、電極部6,7によって交互に直列接続された熱電薄膜素子4,5における直列接続の両端部に電極部8がそれぞれ接続されると共に、支持基板Bの一端側(この例では、同図における左端側)に取り付けられた出力端子9と、上記の電極部8とが接続用導体9aを介して相互に電気的に接続されている(「本体部が一方の側において出力端子に接続された」との構成の一例)。この場合、
上記の電極部8は、上記の電極部6,7と同様にして、一例として、CuやAu等の導電性材料で厚み厚み1mm程度に形成されている。
【0026】
スペーサSは、「支持部材」の一例であって、
図1に示すように、熱電薄膜素子4,5と支持基板Bとの間に配設されて熱電薄膜素子4,5の第1の方向に沿った摺動を許容しつつ、熱電薄膜素子4,5を支持可能に構成されている。このスペーサSは、一例として、エンジニアリングプラスチックやセラミックなどの非導電性材料によって電極部6,7と同等の厚み1mm程度の平板状に形成されている。ケーシングCは、支持基板B上に形成された本体部2を保護するための筐体であって、厚み1mm程度のエンジニアリングプラスチック等の耐熱性材料で全体として底面開口の箱形に形成されている。
【0027】
この熱電モジュール1の製造に際しては、一例として、製造用支持基板(図示せず)の上にBi2Te3/Sb2Te3層と、Bi0.5Sb1.5Te3層とを交互に形成することにより、P型熱電薄膜素子4を製造するためのP型熱電薄膜(図示せず)を製造する。同様にして、製造用支持基板(図示せず)の上にBi2Te3層と、Bi2Se3層とが交互に形成することにより、N型熱電薄膜素子5を製造するためのN型熱電薄膜(図示せず)を製造する。次いで、P型熱電薄膜およびN型熱電薄膜を所望のサイズに切断すると共に、上記の製造用支持基板から剥離する。これにより、熱電薄膜素子4,5が製造される。次いで、例えばCuの板体を所望のサイズに切断することにより、電極部6,7,8を製造する。この際に、電極部7として使用する切断片については、支持基板Bに接触する接触面と一方の側に位置する側面との角部、および接触面と他方の側に位置する側面との角部が丸みを帯びるように加工する。
【0028】
次いで、支持基板B上の予め規定された位置に接着剤Zによって各電極部6,8およびスペーサSを接着すると共に、支持基板B上の予め規定された位置に各電極部7を配置した状態において、各熱電薄膜素子4,5を電極部6,7,8の表面に接着剤Zによって接着する。これにより、電極部6が熱電薄膜素子4,5と支持基板Bとの双方に接着剤Zによって固定的に接着され、かつ、電極部7が熱電薄膜素子4,5に接着剤Zによって固定的に接着されると共に支持基板Bに対する第1の方向(
図1〜3における矢印Xの方向)に沿った摺動を許容された状態で支持基板Bによって支持された状態となり、支持基板Bの上に本体部2が形成される。この後、電極部8と出力端子9とを接続用導体9aによって接続すると共に、本体部2を覆うようにして支持基板BにケーシングCを取り付けることにより、
図1に示すように、熱電モジュール1が完成する。
【0029】
この熱電モジュール1の使用に際しては、両出力端子9,9を図示しない接続用ケーブルによって電流供給対象体に接続した状態において、一例として、出力端子9,9が設けられている側の端部(電極部6によって熱電薄膜素子4,5が相互に接続されている側の端部)を熱源に接近させ、かつ、出力端子9,9が設けられていない側の端部(電極部7によって熱電薄膜素子4,5が相互に接続されている側の端部)を大気中に突出させる。この場合、出力端子9,9が設けられていない側の端部を熱源に接近させ、かつ、出力端子9,9が設けられている側の端部を大気中に突出させてもよい。これにより、熱電モジュール1における熱源側の端部が加熱されて、熱源側の端部と、大気中に突出させられている側の端部との間に温度差が生じる結果、ゼーベック効果によって本体部2において電位差が生じて出力端子9,9から電流供給対象体に電流が出力される。なお、上記のゼーベック効果については公知のため、その詳細な説明を省略する。
【0030】
この場合、この熱電モジュール1では、前述したように、熱電薄膜素子4,5、電極部6〜8、支持基板BおよびスペーサSなどが互いに相違する材料で形成されている。このため、この熱電モジュール1では、これらの熱膨張率が互いに相違している。したがって、出力端子9,9が設けられている側の端部が熱源に接近させられることで熱電モジュー
ル1が加熱され、熱電薄膜素子4,5、電極部6〜8、支持基板BおよびスペーサSなどが熱膨張する際には、これらの変形量が互いに相違することとなる。
【0031】
また、
図3に示すように、この熱電モジュール1では、電極部6が熱電薄膜素子4,5および支持基板Bの双方に固着されているため、熱電薄膜素子4,5における出力端子9,9側の端部(電極部6によって相互に接続されている側の端部:左方側の端部)の支持基板Bに対する移動が規制されている。したがって、構成材料の熱膨張率の相違に起因して、支持基板BやスペーサSよりも熱電薄膜素子4,5の方が大きく変形する場合には、熱電薄膜素子4,5における他方側の端部(電極部7によって相互に接続されている側の端部)が支持基板Bに対して矢印X1で示す向きに移動することとなる。また、熱電薄膜素子4,5よりも支持基板BやスペーサSの方が大きく変形する場合には、熱電薄膜素子4,5における他方側の端部(電極部7によって相互に接続されている側の端部)が支持基板Bに対して矢印X2で示す向きに相対的に移動することとなる。
【0032】
この際に、この熱電モジュール1では、電極部7が熱電薄膜素子4,5に固着されると共に、支持基板Bに対する矢印Xの方向に沿った摺動を許容された状態で支持基板Bによって支持されている。したがって、各部の熱膨張に伴って、熱電薄膜素子4,5の他方側の端部を矢印X1,X2の向きで支持基板Bに対して移動させようとする力が生じたときには、電極部7が支持基板Bの表面を矢印X1,X2の向きで摺動する結果、熱電薄膜素子4,5および支持基板Bに負荷が掛かる事態が回避される。また、電極部7における底面側の角部が丸みを帯びるように加工されているため、電極部7の支持基板Bに対する引っ掛かりが生じる事態も回避される。
【0033】
このように、この熱電モジュール1によれば、各P型熱電薄膜素子4および各N型熱電薄膜素子5を電極部6,7によって支持した状態で支持基板Bの一面側に配設し、電極部6をP型熱電薄膜素子4およびN型熱電薄膜素子5と支持基板Bとの双方に固着し、電極部7をP型熱電薄膜素子4およびN型熱電薄膜素子5に固着すると共に支持基板Bに対する第1の方向に沿った摺動を許容した状態で支持基板Bによって支持したことにより、支持基板B、P型熱電薄膜素子4、N型熱電薄膜素子5および電極部6〜8の熱膨張率が相違し、これに起因して、加熱時や冷却時におけるこれらの変形量が互いに相違することで、P型熱電薄膜素子4やN型熱電薄膜素子5が支持基板Bに対して相対的に移動する力が生じたときに、電極部7が本体部2に対して摺動するようにP型熱電薄膜素子4やN型熱電薄膜素子5が支持基板Bに対して自由に伸び縮みする結果、熱電モジュール1の加熱時や冷却時に、支持基板B、P型熱電薄膜素子4、N型熱電薄膜素子5および電極部6〜8に負荷が掛かる事態を回避することができ、これにより、これらの破損を防止することができる。
【0034】
また、この熱電モジュール1によれば、少なくとも、支持基板Bに接触する接触面と一方の側に位置する側面との角部、および接触面と他方の側に位置する側面との角部が丸みを帯びるように電極部7を形成したことにより、電極部7が支持基板Bに対して引っ掛かりを生じさせることなくスムーズに摺動する結果、支持基板B、P型熱電薄膜素子4、N型熱電薄膜素子5および電極部6〜8に負荷が掛かる事態を確実に回避することができ、これにより、これらの破損を確実に防止することができる。
【0035】
さらに、この熱電モジュール1によれば、P型熱電薄膜素子4およびN型熱電薄膜素子5の第1の方向に沿った摺動を許容しつつP型熱電薄膜素子4およびN型熱電薄膜素子5を支持するスペーサSをP型熱電薄膜素子4およびN型熱電薄膜素子5と支持基板Bとの間に配設したことにより、長手方向の中央部が支持基板Bに向かって凹むような変形がP型熱電薄膜素子4やN型熱電薄膜素子5に生じる事態が回避されるため、P型熱電薄膜素子4やN型熱電薄膜素子5の破損を一層確実に回避することができる。
【0036】
なお、熱電モジュールの構成は、上記の熱電モジュール1の構成に限定されない。例えば、上記の熱電モジュール1では、板状の導体(この例では、Cuの板体)を所定形状に切断して製造した電極部6〜8を備えているが、「第1の電極部」や「第2の電極部」は、その全体を導体で構成したものに限定されない。具体的には、一例として、
図4に示す熱電モジュール1Aにおける本体部2aの電極部6a(「第1の電極部」の他の一例)や電極部7a(「第2の電極部」の他の一例)のように、エンジニアリングプラスチックやセラミック等で形成した小片11の一面にCuやAu等の導電性材料によって厚み0.5〜3.0μm程度の導体層12を形成した構成を採用することもできる。なお、この熱電モジュール1Aや、後述する熱電モジュール1B(
図5参照)において上記の熱電モジュール1と同様の構成要素については、同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0037】
この熱電モジュール1Aにおける本体部2aのように形成した電極部6a,7aにおいても、上記の導体層12を接着剤Zによって熱電薄膜素子4,5に接着することによって、電極部6,7と同様に機能させることができる。また、この電極部7aでは、支持基板Bに接触する接触面(同図における下面)と一方の側に位置する側面(この例では、同図における左側の側面)との角部、および接触面と他方の側に位置する側面(この例では、同図における右側の側面)との角部が丸みを帯びるように小片11が加工されている。したがって、上記の電極部7と同様にして、支持基板Bに対して引っ掛かりを生じさせることなくスムーズに摺動させることができる結果、支持基板B、P型熱電薄膜素子4、N型熱電薄膜素子5および電極部6〜8に負荷が掛かる事態を確実に回避することができ、これにより、これらの破損を確実に防止することができる。
【0038】
また、
図3,4に示すように、スペーサSにおける電極部6(6a)の近傍(出力端子9,9が設けられている側の端部寄り)において、例えば非導電性の接着剤ZaによってスペーサSに熱電薄膜素子4,5を点的に固着させて支持させてもよい。このような構成を採用することにより、電極部6,7(6a,7a)と熱電薄膜素子4,5との固着部位や、電極部6(6a)と支持基板Bとの固着部位(上記の例では、接着剤Zによって接着した部位)にストレスが集中する事態を回避することができる結果、上記の固着部位に剥がれが生じる事態を回避することができる。
【0039】
さらに、熱電薄膜素子4,5において少なくとも電極部6,7(6a,7a),8が固着される領域に、CuやAu等の導電性材料によって厚み0.5〜3.0μm程度の導体層を形成し、熱電薄膜素子4,5に形成した導体層と、電極部6,7(6a,7a),8とを、接着剤Zによる接着、または、熱溶着によって相互に固着させることもできる(図示せず)。このような構成を採用することにより、熱電薄膜素子4,5と、電極部6,7(6a,7a),8との電気的な接続を一層良好な状態とすることができる。
【0040】
また、支持基板Bの上に本体部2(または、本体部2a)を1層だけ配設して構成した熱電モジュール1,1Aを例に挙げて説明したが、熱電モジュール1の構成はこれに限定されず、
図5に示す熱電モジュール1Bのように、支持基板Bの上に本体部2aを複数積層した構成を採用することができる。この場合、この熱電モジュール1Bでは、各本体部2aが並列接続されている。具体的には、この熱電モジュール1では、各本体部2aの電極部8が出力端子9に並列接続(共通的に接続)されている。このように、支持基板Bの上に本体部2aを複数積層して構成した熱電モジュール1Bによれば、加熱または冷却時に、支持基板Bの上に本体部2(または、本体部2a)を1層だけ配設して構成した熱電モジュール1,1Aと比較して、加熱または冷却時に、より大きな電圧を生じさせることができる。
【0041】
さらに、各熱電薄膜素子4,5と支持基板Bとの間に1枚の平板状のスペーサSを配設
して1枚のスペーサSを各熱電薄膜素子4,5によって共用する構成を例に挙げて説明したが、各P型熱電薄膜素子および各N型熱電薄膜素子毎に別個独立して「支持部材」としてのスペーサを設けることもできる(図示せず)。さらに、各P型熱電薄膜素子および各N型熱電薄膜素子と支持基板との間に支持部材を配設することなく、各P型熱電薄膜素子および各N型熱電薄膜素子を第1の電極部および第2の電極部だけで支持する構成を採用することもできる。
【0042】
また、平面視矩形状の電極部6,7(6a,7a)を備えた例について説明したが、第1の電極部および第2の電極部の平面視形状はこれに限定されない。さらに、「第1の電極部」としての電極部6(6a)の側において本体部2(2a)の両端部を接続用導体9a,9aによって出力端子9,9に接続した構成を例に挙げて説明したが、接続用導体として十分にフレキシブルな導体を使用することにより、電極部6(6a)を「第1の方向に沿った摺動を許容された状態で支持基板によって支持される第2の電極部」として構成し、その電極部6(6a)の側において、接続用導体9aによって熱電薄膜素子4,5を出力端子9に接続する構成を採用することもできる(図示せず)。