(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、建築物の外壁や室内壁の装飾のひとつとして、石材のコバ積み工法が採られていた。多くの場合、このコバ積み工法では、
図13及び
図14に示すように、サイズや形状等の異なった複数種の小片状のフラット石材51や、同じくサイズや形状等の異なった複数種の小片状のコーナ石材52が用いられる。そして、
図15及び
図16に示すように、コンクリート等の壁本体53の表面に接着剤またはモルタル等の貼着層54が設けられるとともに、その貼着層54上に石材51,52がコマ積み貼着されていた。
【0003】
ところが、この従来のコバ積み工法においては、作業者が壁本体53の表面に貼着層54を介して、小片状の石材51,52を1つ1つ手作業で重ねる必要があるため、多大な労力と時間がかかって、施工コストの高騰を招く。また、このコバ積み工法には作業者の高度な技能や長い経験が必要であるため、作業者によって施工精度にバラつきが生じやすくて、施工精度の不均一により石材51,52の剥離等の不具合や仕上がり外観の低下等を生じるおそれがあった。
【0004】
一方、特許文献1には、石やレンガ等を配列して構成された壁パネルが開示されている。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1実施形態)
以下に、この発明を具体化した第1実施形態を、
図1〜
図8に従って説明する。本発明は、建築物,モニュメント,道路の橋脚,ダム,港湾のドッグ等の各種の構造物において実施される。
【0015】
図1及び
図2に示すように、この実施形態の壁パネル21は、御影石よりなる横長四角平板状の原材パネル22の表面に長さ方向に延びる複数条の平行な溝23を形成するとともに、その溝23の内側面に刻削部24を形成することにより構成されている。すなわち、この壁パネル21は以下のようにして製造される。まず、図示しない円盤状の溝切りカッタを用いて、
図2(a)に示すように、御影石の原材パネル22の表面に複数条の溝23が所定間隔おきで平行に形成される。続いて、図示しない刻削工具としてののみを用いて、
図2(b)に示すように、原材パネル22上の各溝23の内側面を手作業によって刻削し、各溝23の内側面に刻削部24が設けられる。このようにすれば、
図2の紙面と直交する方向に延びる断面ほぼ山形状の突条27が形成される。そして、この複数条の溝23と刻削部24とによって形成された突条27により、壁パネル21の表面に対して複数の板状の自然石をコバ積みしたような風合いが醸し出される。
【0016】
図1に示すように、前記壁パネル21の上下端縁部及び左右端縁部には、後述する取付金具35,43の係止板41を収容するための各一対の凹部25A,25B、及び取付金具35,43の取付ピン42を挿入可能な各一対のピン孔26A,26Bが、必要に応じて適宜に形成されている。すなわち、
図4及び
図5に示すように、後述する壁32の最上段に取り付けられる壁パネル21Aにおいては、その下端縁部に凹部25Aが形成されるとともに、その凹部25A内の位置にピン孔26Aが形成されている。また、この壁パネル21Aにおいては、その
図1における右端縁部に凹部25B及びピン孔26Bが形成されるとともに、左端縁部には凹部が形成されることなくピン孔26Bのみが形成されている。これに対して、壁32の上から二段目以下に取り付けられる壁パネル21Bにおいては、下端縁部に凹部25A及びピン孔26Aが形成されるとともに、上端縁部には凹部が形成されることなく、ピン孔26Aのみが形成されている。そして、壁パネル21A,21Bの上端縁部及び下端縁部の凹部25A及びピン孔26Aは、壁パネル21Aが並設された状態で
図4の水平方向において等間隔となる位置に形成されている。なお、凹部25A,25Bの深さd(
図1参照)は、後述の係止板41の厚さt(
図6参照)と等しい。前記凹部25A,25B及びピン孔26A,26Bは、後述の取付金具35,43を固定するための固定部を構成する。
【0017】
次に、前記のような構成の壁パネル21を用いた構造物について説明する。なお、この実施形態では、
図3及び
図4に示すように、ビル等の建築物31の外において建築物31の外周部に沿って配置された目隠し用の壁32に具体化されている。
【0018】
図5及び
図7に示すように、建築物31の近傍において、地面33には鉄筋コンクリートよりなる壁本体34が立設されている。壁本体34における建築物31と反対側の外側表面34aの全体、及び建築物31側の内側表面34bの両端部(全体でもよい)には、複数枚の壁パネル21が上下左右に並設されている。すなわち、壁本体34における建築物31側の内側表面34bにおいて、人目に付きにくい部分等には、
図7に示すように、壁パネル21の並設されていない部分が存在している。そして、
図4に示すように、複数枚の壁パネル21を横長方向に使用して水平方向へ一線状に並べることにより壁パネル列21Lが鉛直方向に複数段構成されている。そして、各壁パネル列21Lの各壁パネル21が鉛直方向に隣接する他の壁パネル列21Lの壁パネル21に対して壁パネル21の配列ピッチの半ピッチ分ずつ水平方向へずらした状態になっている。
【0019】
図5及び
図7に示すように、前記壁本体34の外側表面34a及び内側表面34bにおいて、各壁パネル列21Lの各壁パネル21の下端縁部と対応する位置には、各一対の第1取付金具35が設けられている。
図6及び
図8に示すように、この第1取付金具35は、壁本体34の外側表面34aまたは内側表面34bに埋設されたアンカーボルト36と、そのアンカーボルト36の先端のネジ部36aに対してナット37により取り付けられた側面形ほぼL字状の取付板38と、その取付板38上にボルト39及びナット40により取り付けられた係止板41と、その係止板41の先端の上面または下面の少なくとも一方に突設された取付ピン42とから構成されている。
【0020】
この場合、
図5に示すように、最上段の壁パネル列21Lにおける各壁パネル21Aの下端縁部と対応する位置に設けられた第1取付金具35では、係止板41の下面に取付ピン42が突設されている。また、最下段の壁パネル列21Lにおける各壁パネル21Bの下端縁部と対応する位置に設けられた第1取付金具35では、係止板41の上面に取付ピン42が突設されている。さらに、各壁パネル列21Lにおける各壁パネル21Bのその他の下端縁部と対応する位置に設けられた第1取付金具35では、係止板41の上面及び下面に取付ピン42がそれぞれ突設されている。
【0021】
図5及び
図7に示すように、前記壁本体34の外側表面34a及び内側表面34bにおいて、最上段の壁パネル列21Lにおける各壁パネル21Aの右端縁部(
図1及び
図4おける右側)と対応する位置には、各一対の第2取付金具43が設けられている。この第2取付金具43は、前記第1取付金具35とほぼ同様に、アンカーボルト36、取付板38、係止板41、取付ピン42等から構成されている。なお、この第2取付金具43では、取付板38及び係止板41が前記第1取付金具35の場合よりも幅狭となるように形成されるとともに、取付ピン42が係止板41の先端の両側面に突設されている。
【0022】
図5及び
図7に示すように、前記壁本体34の上端縁の中央部には、雨水を流すための凹溝44が壁本体34の延長方向に沿って延びるように形成されている。最上段の壁パネル列21Lにおける壁パネル21Aの上端縁部と壁本体34の上端縁との間には、壁パネル21と同材の御影石よりなる笠石45が配設されている。この笠石45は、先端縁が壁パネル21の突条27と相似形状をなしている。この笠石45は、壁本体34の外側表面34a及び内側表面34bに壁パネル21を施工した後に、接着剤46及びシール材47を介して、最上段の壁パネル21A及び壁本体34の上端縁間に取り付けられる。この状態では、笠石45の先端縁は、前記突条27の先端縁と整列される。笠石45の上面には、雨水を壁本体34上の凹溝44に導くための傾斜面45aが形成されている。なお、笠石45と上端の壁パネル21Aとの間には鎹48が介在されている。この場合、鎹48は、笠石45及び壁パネル21Aに形成された溝49内に収容されている。
【0023】
次に、前記のように構成された壁パネル21を壁本体34に取り付けて、目隠し用の壁32を形成する施工方法について説明する。
この目隠し用の壁32の施工に際しては、設置箇所の地面33に壁本体34を打設する。このとき、壁本体34の外側表面34a及び内側表面34bにおいて、複数の壁パネル21の取付箇所に第1取付金具35または第2取付金具43のアンカーボルト36を埋設する。そして、各アンカーボルト36のネジ部36aに対して、ナット37により取付板38を取り付ける。この状態で、壁本体34の外側表面34a及び内側表面34bに対して、
図4に示す最下段の壁パネル列21L、その上段の壁パネル列21L、・・・・、最上段の壁パネル列21Lの順で、壁パネル21A,21Bを取り付ける。
【0024】
この場合、最下段の壁パネル列21Lにおける壁パネル21Bの取り付け時には、その下側に配列された第1取付金具35の各取付板38に対して、上面に取付ピン42を突設した係止板41をボルト39及びナット40にて取り付ける。そして、各係止板41上の取付ピン42に、壁パネル21Bの下端縁部のピン孔26Aを係合させる。この係合により、各壁パネル21Bの下端縁部が第1取付金具35を介して、壁本体34の外側表面34aまたは内側表面34bに係止保持される。このとき、
図5及び
図8に示すように、第1取付金具35の係止板41が壁パネル21Bの下端縁部の凹部25A内に収容配置される。
【0025】
次に、最下段及び最上段以外の中間の壁パネル列21Lにおける壁パネル21Bの取り付け時には、その下側に配列された第1取付金具35の各取付板38に対して、上面及び下面に取付ピン42を突設した係止板41をボルト39及びナット40にて取り付ける。この場合、取付板38に対する係止板41の取り付けに先立って、係止板41の下面の取付ピン42を、既設状態の下側壁パネル列21Lにおける壁パネル21Bの上端縁部のピン孔26Aに係合させる。この係合により、下側壁パネル列21Lにおける壁パネル21Bの上端縁部が第1取付金具35を介して、壁本体34の外側表面34aまたは内側表面34bに係止保持される。
【0026】
その後、前記最下段の壁パネル列21Lの場合と同様に、中間の壁パネル列21Lにおける壁パネル21Bの下端縁部のピン孔26Aを、各係止板41の上面の取付ピン42に係合させる。この係合により、中間の壁パネル列21Lにおける各壁パネル21Bの下端縁部が第1取付金具35を介して、壁本体34の外側表面34aまたは内側表面34bに係止保持される。この場合にも、
図5及び
図8に示すように、第1取付金具35の係止板41が壁パネル21Bの下端縁部の凹部25A内に収容配置される。
【0027】
さらに、最上段の壁パネル列21Lにおける壁パネル21Bの取り付け時には、その取り付けに先立って、下側に配列された第1取付金具35の各取付板38に対して、下面に取付ピン42を突設した係止板41をボルト39及びナット40にて取り付ける。この場合にも、前記中間の壁パネル列21Lの場合と同様に、取付板38に対する係止板41の取り付けに先立って、係止板41の下面の取付ピン42を、既設状態の下側壁パネル列21Lにおける壁パネル21Bの上端縁部のピン孔26Aに係合させる。この係合により、下側壁パネル列21Lにおける壁パネル21Bの上端縁部が第1取付金具35を介して、壁本体34の外側表面34aまたは内側表面34bに係止保持される。
【0028】
続いて、最上段の壁パネル列21Lにおいては、
図4に示す壁本体34の右側から左側に向かって壁パネル21Aを1枚ずつ順に取り付ける。すなわち、各壁パネル21Aの取り付け時には、その右側(
図1の右側)に配置された一対の第2取付金具43の取付板38に対して、左右両側面に取付ピン42を突設した係止板41をボルト39及びナット40にて取り付ける。この場合、取付板38に対する係止板41の取り付けに先立って、係止板41の右側面の取付ピン42を、既設状態の右側壁パネル21Aの左端縁部のピン孔26Bに係合させる。これにより、右側壁パネル21Aの左端縁部が第2取付金具43を介して、壁本体34の外側表面34aまたは内側表面34bに係止保持される。
【0029】
その後、新たに取り付ける壁パネル21Aの右端縁部のピン孔26Bを、各係止板41の左側面の取付ピン42に係合させる。これにより、壁パネル21Bの右端縁部が第2取付金具43を介して、壁本体34の外側表面34aまたは内側表面34bに係止保持される。この場合、
図5に示すように、第2取付金具43の係止板41が壁パネル21Aの右端縁部の凹部25B内に収容配置される。
【0030】
このように、壁本体34の外側表面34a及び内側表面34bに壁パネル21を取り付けた後、最上段の壁パネル21A及び壁本体34の上端縁間に、接着剤46及びシール材47を介して笠石45を取り付けるとともに、壁パネル21との間に鎹48を介在させることにより、目隠し用の壁32の施工が完了する。
【0031】
従って、この実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1) この壁パネルにおいては、原材パネル22の表面に形成された平行な溝23と、その溝23の内側面に設けられた手作業による刻削部24により、あたかも自然石をコバ積みしたような風合いとともに、水平方向に平行に延びる複数の突条27により規則的な統制のとれた美観を醸すことができる。しかも、刻削部24が手作業によって形成されているため、機械的ではない自然な風合いを併せて演出でき、独特な外観を与えることができる。
【0032】
(2) この壁パネルにおいては、壁パネル21を壁面に取付施工する際には、従来のコバ積み工法とは異なり、作業者が小片状の石材を1つ1つ手作業で貼着するという面倒な作業を行う必要がない。よって、壁パネル21を壁面に対して短時間で簡単に取り付けることができて、施工コストの低減を図ることかできる。
【0033】
(3) この壁パネルにおいては、壁パネル21の取付施工に作業者の高度技能や長い経験を必要としないため、作業者によって施工精度にバラつきが生じることを抑制することができる。従って、施工精度の不均一により、壁パネル21の剥離等の不具合が生じるおそれを防止することもできる。
【0034】
(4) この壁パネルにおいては、前記原材パネル22が御影石により構成されている。よって、壁パネル21に対して石材のコバ積み風合いを効果的に醸し出させることができる。
【0035】
(5) この壁パネルにおいては、その端縁部に、取付用の取付金具35,43の取付ピン42に係合可能なピン孔26A,26Bが形成されている。このため、壁パネル21を壁面に取付施工する際には、壁面に設けられた取付金具35,43の取付ピン42に壁パネル21のピン孔26A,26Bを係合させるという簡単な作業により、壁パネル21を壁面に対して簡単かつ堅固に取り付けることができる。
【0036】
(6) この壁パネルにおいては、溝23や突条27の形成において、バーナの熱を用いないため、御影石の材質の劣化を防止できる。従って、耐久性に優れた壁パネルとすることができる。
【0037】
(第2実施形態)
次に、この発明を具体化した壁パネル及び壁の第2実施形態を、前記第1実施形態と異なる部分を中心に説明する。
【0038】
さて、この第2実施形態においては、
図9及び
図10に示すように、壁本体34の上端縁が凹溝44を設けることなく平面状に形成されている。そして、壁本体34の外側表面34a及び内側表面34bに取り付けられた壁パネル21の上端部を覆うように、壁本体34の上端縁にその上端縁全体を覆う1枚の平板状の笠石45が接着剤46を介して固定されている。
【0039】
この場合、
図9に示すように、壁本体34の外側表面34a及び内側表面34bに壁パネル21が取り付けられている箇所においては、笠石45の上面が水平面状に形成されて、雨水が壁本体34の両側に流れるようになっている。これに対して、
図10に示すように、壁本体34の外側表面34aのみに壁パネル21が取り付けられている箇所においては、笠石45の上面に
図10の右下がりの傾斜面45aが形成されて、雨水が壁本体34の内側に流れるようになっている。
【0040】
従って、この第2実施形態においても、前記第1実施形態における(1)〜(6)に記載の効果とほぼ同様な効果を得ることができる。
(変更例)
なお、この実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
【0041】
・ 壁パネル21の溝23及び突条27が鉛直方向に延びるように壁パネル21を縦長方向に設置すること。
・ 前記実施形態では、本発明が目隠し用の壁32に壁パネル21を取り付ける構成に具体化されているが、壁パネル21を例えば建築物の外壁や室内壁、柱等の躯体に取付けたり、あるいはモニュメント等の他の構造物の本体に取付けたりしてもよい。
【0042】
・ 壁パネル21として、大谷石,大理石等、御影石以外の材質のものを用いること。
・ 笠石45に変えて、同部に金属板を設けること。この場合、金属板を屋根形状にすることが好ましい。
【0043】
・
図11に示すように、突条27の頂面を刻設することなく、平坦に形成するとともに、突条27がほぼほぼ四角形をなすようにすること。あるいは、
図12に示すように、突条27がほぼ台形をなすようにすること。