(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
エチレンテレフタレートを主たる構成成分とし、全ポリエステル樹脂成分中において非晶質成分となりうる1種以上のモノマー成分を7モル%以上含有しているポリエステル系樹脂からなる熱収縮性ポリエステル系フィルムであって、
下記要件(1)〜(5)を満たすことを特徴とする熱収縮性ポリエステル系フィルム。(1)80℃のグリセリン中で10秒間に亘って処理した場合における幅方向のグリセリン収縮率が10%以下であること
(2)100℃のグリセリン中で10秒間に亘って処理した場合における長手方向のグリセリン収縮率が0%以上10%以下かつ幅方向のグリセリン収縮率が20%以上40%以下であることであること
(3)120℃のグリセリン中で10秒間に亘って処理した場合における幅方向のグリセリン収縮率が40%以上70%以下であること
(4)温度60℃・相対湿度40%の雰囲気下で672時間エージング後のフィルムの幅方向収縮率(所謂、自然収縮率)が1.5%以下であること
(5)温度60℃・相対湿度40%の雰囲気下で672時間エージング後、引張試験機を用いてチャック間距離を100mmとし、フィルム長手方向に引張試験を10回繰り返し、5%引張時までに破断する回数である初期破断回数が2回以下であること
温度60℃・相対湿度40%の雰囲気下で672時間エージング後のフィルムの80℃、100℃、120℃における各々の温度におけるグリセリン中で10秒間に亘って処理した場合における幅方向のグリセリン収縮率が、エージング前フィルムの同じ温度のグリセリン収縮率に比較し差が10%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
ポリエステル樹脂が、エチレンテレフタレート単位を50モル%以上含有し、非晶質成分となり得るモノマーが、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、イソフタル酸から選ばれる1種以上であり27モル%以下含有されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
ポリエステル樹脂が、エチレンテレフタレート単位を50モル%以上含有し、非晶質成分となり得るモノマーが、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、イソフタル酸から選ばれる1種以上であり27モル%以下含有されており、ガラス転移点(Tg)を60〜80℃に調節されたものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
エチレンテレフタレートを主たる構成成分とし、全ポリエステル樹脂成分中において非晶質成分となりうる1種以上のモノマー成分を7モル%以上含有しているポリエステル系樹脂からなる未延伸ポリエステル系フィルムを用いて、請求項1〜5のいずれかに記載の熱収縮性ポリエステル系フィルムを製造するための製造方法であって、縦延伸後、横延伸し、その後、前記横延伸温度+15℃以上40℃以下の温度で最終熱処理する工程を含むことを特徴とする熱収縮性ポリエステル系フィルムの製造方法。
請求項1〜5のいずれかに記載の熱収縮性ポリエステル系フィルムを基材とし、ミシン目あるいは一対のノッチが設けられたラベルを少なくとも外周の一部に被覆して熱収縮させてなることを特徴とする包装体。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明で使用するポリエステルは、エチレンテレフタレート単位を主たる構成成分とするものである。すなわち、エチレンテレフタレート単位を50モル%以上含有することが好ましく、更に好ましくは60モル%以上である。本発明のポリエステルを構成する他のジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、オルトフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸、および脂環式ジカルボン酸等を挙げることができる。また、エチレンテレフタレート単位は93モル%以下含有することが好ましい。
【0012】
脂肪族ジカルボン酸(たとえば、アジピン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸等)を含有させる場合、含有率は3モル%未満であることが好ましい。これらの脂肪族ジカルボン酸を3モル%以上含有するポリエステルを使用して得た熱収縮性ポリエステル系フィルムでは、高速装着時のフィルム腰が低くなりやすく、あまり好ましくない。
【0013】
また、3価以上の多価カルボン酸(たとえば、トリメリット酸、ピロメリット酸およびこれらの無水物等)を含有させないことが好ましい。これらの多価カルボン酸を含有するポリエステルを使用して得た熱収縮性ポリエステル系フィルムでは、所望の収縮率を達成しにくくなる。
【0014】
本発明で使用するポリエステルを構成するジオール成分としては、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール等の脂肪族ジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等の脂環式ジオール、ビスフェノールA等の芳香族系ジオール等を挙げることができる。
【0015】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムに用いるポリエステルは、1,4−シクロヘキサンジメタノール等の環状ジオールや、炭素数3〜6個を有するジオール(たとえば、1−3プロパンジオール、1−4ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール等)のうちの1種以上を1モル%以上20モル%以下含有させて、ガラス転移点(Tg)を60〜80℃に調整したポリエステルが好ましい。特に好ましいジオールは、1−3プロパンジオール又は1−4ブタンジオールであり、ポリトリメチレンテレフタレートポリマーやポリブチレンテレフタレートポリマーの形でポリエステル樹脂中に混合してもよい。
【0016】
また、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムに用いるポリエステルは、全ポリステル樹脂中における多価アルコール成分100モル%中あるいは多価カルボン酸成分100モル%中の非晶質成分となりうる1種以上のモノマー成分の合計が7モル%以上27モル%以下であることが好ましく、9モル%以上25モル%以下であることがより好ましい。
ここで、非晶質成分となりうるモノマーとしては、たとえば、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、イソフタル酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,2−ジエチル1,3−プロパンジオール、2−n−ブチル2−エチル1,3−プロパンジオール、2,2−イソプロピル1,3−プロパンジオール、2,2−ジn−ブチル1,3−プロパンジオール、、ヘキサンジオールを挙げることができるが、その中でも、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノールやイソフタル酸を用いるのが好ましい。
【0017】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムに用いるポリエステル中には、炭素数8個以上のジオール(たとえばオクタンジオール等)、または3価以上の多価アルコール(たとえば、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、グリセリン、ジグリセリン等)を、含有させないことが好ましい。これらのジオール、または多価アルコールを含有するポリエステルを使用して得た熱収縮性ポリエステル系フィルムでは、所望の収縮率を達成しにくくなるので好ましくない。
【0018】
また、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムに用いるポリエステル中には、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコールをできるだけ含有させないことが好ましい。特に、ジエチレングリコールは、ポリエステル重合時の副生成成分のため、存在し易いが、本発明で使用するポリエステルでは、ジエチレングリコールの含有率が4モル%未満であることが好ましい。
【0019】
また、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムを形成する樹脂の中には、必要に応じて各種の添加剤、たとえば、ワックス類、酸化防止剤、帯電防止剤、結晶核剤、減粘剤、熱安定剤、着色用顔料、着色防止剤、紫外線吸収剤等を添加することができる。本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムを形成する樹脂の中には、滑剤として微粒子を添加することによりポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムの作業性(滑り性)を良好なものとするのが好ましい。微粒子としては任意のものを選択することができるが、たとえば、無機系微粒子としては、シリカ、アルミナ、二酸化チタン、炭酸カルシウム、カオリン、硫酸バリウム等を挙げることができる。また、有機系微粒子としては、たとえば、アクリル系樹脂粒子、メラミン樹脂粒子、シリコーン樹脂粒子、架橋ポリスチレン粒子等を挙げることができる。微粒子の平均粒径は、0.05〜3.0μmの範囲内(コールターカウンタにて測定した場合)で、必要に応じて適宜選択することができる。
【0020】
熱収縮性ポリエステル系フィルムを形成する樹脂の中に上記粒子を配合する方法としては、たとえば、ポリエステル系樹脂を製造する任意の段階において添加することができるが、エステル化の段階、もしくはエステル交換反応終了後、重縮合反応開始前の段階でエチレングリコール等に分散させたスラリーとして添加し、重縮合反応を進めるのが好ましい。また、ベント付き混練押出し機を用いてエチレングリコールまたは水等に分散させた粒子のスラリーとポリエステル系樹脂原料とをブレンドする方法、または混練押出し機を用いて、乾燥させた粒子とポリエステル系樹脂原料とをブレンドする方法等によって行うのも好ましい。
【0021】
さらに、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムには、フィルム表面の接着性を良好にするためにコロナ処理、コーティング処理や火炎処理等を施したりすることも可能である。
【0022】
また、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、任意の温度に加熱されたグリセリン中に無荷重状態で10秒間に亘って処理したときに、収縮前後の長さから、下式1により算出した。80℃でのフィルム幅方向熱収縮率は10%以下であることが好ましい。
熱収縮率={(収縮前の長さ−収縮後の長さ)/収縮前の長さ}×100(%)・・・式1
【0023】
エージング前後で測定された熱収縮率低下が大きいことは、エージングの影響を強く受けてしてしまっていることを意味し好ましくない。即ち、エージング温度を60℃とすれば、エージング温度+20℃である80℃グリセリン熱収縮率が10%を上回ると、エージング後の80℃グリセリン熱収縮率が低下し、エージング前後の収縮率差が大きくなり好ましくない。従ってフィルム幅方向の80℃グリセリン熱収縮率の上限値は、10%以下であると好ましく、8%以下であるとより好ましく、更に好ましくは7%以下である。またフィルム幅方向の80℃グリセリン熱収縮率は−3%以下であると、フィルム収縮時に一度伸びてしまう為、収縮仕上り性が悪く好ましくない。よってフィルム幅方向の80℃グリセリン熱収縮率の下限値は−2%以上であると好ましく、−1%以上であるとより好ましく、更に好ましくは0%以上である。
【0024】
また、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、100℃に加熱されたグリセリン中で無荷重状態で10秒間に亘って処理したときに、収縮前後の長さから、上式1により算出したフィルムの長手方向の熱収縮率(すなわち、100℃のグリセリン熱収縮率)が、0%以上10%以下であることが好ましく、1%以上8%以下であるとより好ましく、2%以上6%以下であると特に好ましい。
【0025】
100℃における長手方向のグリセリン熱収縮率が0%未満であると(すなわち、収縮率が負の値であると)、ボトルのラベルとして使用する際に良好な収縮外観を得ることができづらいので好ましくなく、反対に、100℃における長手方向のグリセリン熱収縮率が10%を上回ると、ラベルとして用いた場合に熱収縮時に収縮に歪みが生じ易くなるので好ましくない。なお、100℃における長手方向の熱収縮率の下限値は、1%以上であるとより好ましく、3%以上であると特に好ましい。また、100℃における長手方向の熱収縮率の上限値は、8%以下であるとより好ましく、6%以下であると特に好ましい。
【0026】
また、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、100℃に加熱されたグリセリン中で無荷重状態で10秒間に亘って処理したときに、収縮前後の長さから、上式1により算出したフィルムの幅方向の熱収縮率(すなわち、100℃のグリセリン熱収縮率)が、20%以上であることが好ましく、22%以上であるとより好ましく、24%以上以下であると特に好ましい。
【0027】
100℃における幅方向のグリセリン熱収縮率が20%を下回ると、収縮量が小さいために、熱収縮した後のラベルにシワやタルミが生じてしまうので好ましくない。反対に、100℃における幅方向のグリセリン熱収縮率はある程度大きいことも好ましいが、80℃の熱収縮率を10%以下に抑制すると、100℃における熱収縮率は40%が上限である。
【0028】
また、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、120℃に加熱されたグリセリン中で無荷重状態で10秒間に亘って処理したときに、収縮前後の長さから、上式1により算出したフィルムの幅方向の熱収縮率(すなわち、120℃のグリセリン熱収縮率)が、40%以上70%以下であることが好ましく、42%以上68%以下であるとより好ましく、44%以上66%以下であると特に好ましい。
【0029】
120℃における幅方向のグリセリン熱収縮率が40%を下回ると、収縮量が小さいために、熱収縮した後のラベルにシワやタルミが生じてしまうので好ましくない。反対に、120℃における幅方向のグリセリン熱収縮率が70%を上回ると、ラベルとして用いて場合に熱収縮時に収縮に歪みが生じ易くなったり、いわゆる“飛び上がり”が発生してしまうので好ましくない。
【0030】
また、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、以下の方法で長手方向の引張破壊強さを求めたときに、その引張破壊強さが80MPa以上300MPa以下であることが好ましい。
【0031】
[引張破壊強さの測定方法]
JIS−K7113に準拠し、所定の大きさの短冊状の試験片を作製し、万能引張試験機でその試験片の両端を把持して、引張速度200mm/分の条件にて引張試験を行い、フィルムの長手方向の引張破壊時の強度(応力)を引張破壊強さとして算出する。
【0032】
長手方向の引張破壊強さが80MPaを下回ると、ラベルしてボトル等に装着する際の“腰”(スティフネス)が弱くなるので好ましくない。引張破壊強さの下限値は、90MPa以上であるとより好ましく、100MPa以上であると特に好ましい。また、引張破壊強度の上限値は、高いほど腰が強くなるので好ましいが、当該引張破壊強さの上限は原料や製造方法から300MPaが限界であると考えている。
【0033】
また、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、温度60℃・相対湿度40%で672時間エージング後のフィルム幅方向の収縮率(所謂、自然収縮率)が、以下の方法で求めたときに、1.5%以下であることが好ましい。
【0034】
[自然収縮率の測定方法]
フィルム長手方向に20mm、フィルム幅方向に240mmの長さでサンプリングし、フィルム幅方向の長さが200mmとなるように標線を入れる。表線間の長さをエージング前の長さ(mm)とした。概フィルムを温度60℃・相対湿度40%に設定されたギアオーブンで672時間エージングした後、表線間の長さをエージング後の長さ(mm)として以下の式2より求めた。
自然収縮率={(エージング前の長さ−エージング後の長さ)/エージング前の長さ}
×100(%)・・・式2
【0035】
幅方向の自然収縮率が1.5%より高いと、生産直後と保管後のフィルム製品幅が変わり、印刷等の加工工程で寸法が異なってくるので好ましくない。自然収縮率の上限値は、1.3%以下であるとより好ましく、1.1%以下であると特に好ましい。また、自然収縮率の下限値は、0%が好ましいが、当該原料や生産方式から0.4%が限界であると考えている。
【0036】
また、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、温度60℃・相対湿度40%で672時間エージング後のフィルム長手方向の初期破断回数が10回中2回以下であることが好ましい。
【0037】
[初期破断回数の測定方法]
エージング後のフィルムを長手方向に140mm、幅方向に20mmの長方形にサンプリングした。そのフィルムを万能引張試験機で長手方向の試験片の両端を把持して(片側チャックの噛み位置20mm、チャック間距離100mm)、温度23℃、引張速度200mm/分の条件にて引張試験を行い、サンプル数10で引張試験を繰り返し、フィルムの長手方向の5%伸長以下の時点で破断した回数を求め、初期破断回数とした。
【0038】
フィルム長手方向のエージング後の初期破断回数が2回より多いと、エージング後のフィルムロールを印刷等で巻出して張力がかかる際にフィルムが破断して工程異常となる確率が高くなるので好ましくない。長手方向のエージング後の初期破断回数の下限値は、1回以下であれば更に好ましく、0回が最も好ましい。
【0039】
また、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、上式1より求める80℃、100℃、120℃における各々の温度におけるグリセリン中で10秒間に亘って処理した場合におけるフィルム幅方向のグリセリン収縮率について、エージング前と温度60℃・相対湿度40%で672時間でエージング後のフィルムの差を以下より求めたときに、10%以下であることが好ましい。
【0040】
[エージング前後の熱収縮率差の測定方法]
上式1より、エージング前後のフィルムの各々の所定温度のグリセリン中でフィルム幅方向の熱収縮率を測定した。それを下式3より求めた。
エージング前後の熱収縮率差
=エージング前の熱収縮率−エージング後の熱収縮率・・・式3
【0041】
幅方向のエージング前後の熱収縮率差が10%より高いと、生産直後と保管後のフィルムの熱収縮率差が大きいので、ラベル等にする際の熱収縮させる温度条件が異なり、収縮仕上り性が悪くなるので好ましくない。幅方向のエージング前後の熱収縮率差の上限値は、8%以下であるとより好ましく、6%以下であると特に好ましい。また、幅方向のエージング前後の熱収縮率差の下限値は、0%好ましいが、当該原料や生産方式から2%が限界であると考えている。
【0042】
さらに、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムの厚みは、特に限定するものではないが、ラベル用熱収縮性フィルムとして5〜200μmが好ましく、10〜70μmがより好ましい。
【0043】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムの製造方法は特に限定されないが、例を挙げて説明する。本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、エチレンテレフタレートを主たる構成成分とし、全ポリエステル樹脂成分中において非晶質成分となりうる1種以上のモノマー成分をトータルで7モル%以上含有しているポリエステル系原料を押出機により溶融押出しして未延伸フィルムを形成し、その未延伸フィルムを以下に示す所定の方法により二軸延伸して熱処理することによって得ることができる。
【0044】
原料樹脂を溶融押し出しする際には、ポリエステル原料をホッパードライヤー、パドルドライヤー等の乾燥機、または真空乾燥機を用いて乾燥するのが好ましい。そのようにポリエステル原料を乾燥させた後に、押出機を利用して、200〜300℃の温度で溶融しフィルム状に押し出す。かかる押し出しに際しては、Tダイ法、チューブラー法等、既存の任意の方法を採用することができる。
【0045】
そして、押し出し後のシート状の溶融樹脂を急冷することによって未延伸フィルムを得ることができる。なお、溶融樹脂を急冷する方法としては、溶融樹脂を口金より回転ドラム上にキャストして急冷固化することにより実質的に未配向の樹脂シートを得る方法を好適に採用することができる。
【0046】
さらに、得られた未延伸フィルムを、後述するように、所定の条件で長手方向に延伸し、その縦延伸後のフィルムを急冷した後に、一旦、熱処理し、その熱処理後のフィルムを所定の条件で冷却した後に、所定の条件で幅方向に延伸し、再度、熱処理することによって本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムを得ることが可能となる。以下、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムを得るための好ましい製膜方法について、従来の熱収縮性ポリエステル系フィルムの製膜方法との差異を考慮しつつ詳細に説明する。
【0047】
[本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムの製膜方法]
上述したように、通常、熱収縮性ポリエステル系フィルムは、未延伸フィルムを収縮させたい方向(すなわち、主収縮方向、通常は幅方向)のみに延伸することによって製造される。本発明者らが従来の製造方法について検討した結果、従来の熱収縮性ポリエステル系フィルムの製造においては、以下のような問題点があることが判明した。
・単純に幅方向に延伸するだけであると、上述の如く、長手方向の機械的強度が小さくなる。その為、60℃でのエージング処理後のフィルム長手方向の初期破断が多くなり好ましくなく、長手方向に延伸して機械的強度を上げるべきである。
・幅方向に延伸した後に長手方向に延伸する方法を採用すると、どのような延伸条件を採用しても、幅方向の収縮力を十分に発現させることができない。さらに、長手方向の収縮力が同時に発現してしまい、ラベルとした際に収縮装着後の仕上がりが悪くなる。
・長手方向に延伸した後に幅方向に延伸する方法を採用すると、幅方向の収縮力は発現させることができるものの、長手方向の収縮力が同時に発現してしまい、ラベルとした際に収縮装着後の仕上がりが悪くなる。
【0048】
さらに、上記従来の熱収縮性ポリエステル系フィルムの製造における問題点に基づいて、本発明者らが、温度60℃・相対湿度40%でエージング後の物性が良好で、生産性の高い熱収縮性ポリエステル系フィルムを得ることについてさらなる考察を進めた結果、次のような知見を得るに至った。
・エージング後のフィルム熱収縮率の低下を小さくするには、エージング温度+20℃迄の熱収縮率を10%以下にして、エージング前後の収縮率変化を小さくすべきであると考えられること
・エージング後の初期破断を良好なものとするためには、長手方向へ配向した分子をある程度残しておくべきであると考えられること
・ラベルとした際の収縮装着後の仕上がりを良好なものとするためには、長手方向への収縮力を発現させないことが不可欠であり、そのためには長手方向へ配向した分子の緊張状態を解消すべきであると考えられること
【0049】
そして、本発明者らは、上記知見から、良好なエージング後のフィルム物性と収縮仕上がり性を同時に満たすためには、2つのことに注目した。1つは“長手方向に配向しつつ収縮力に寄与しない分子”をフィルム中に存在させるべきであり、もう1つはエージング温度+20℃はエージング後の収縮率低下が大きいので80℃の熱収縮率を10%以下にすべきであると考えた。どのような延伸を施せば“長手方向に配向しつつ収縮力に寄与しない分子”をフィルム中に存在させることができるかに注目して試行錯誤した。その結果、長手方向に延伸した後に幅方向に延伸する所謂、縦−横延伸法によるフィルム製造の際に、以下の手段を講じることにより、“長手方向に配向しつつ収縮力に寄与しない分子”をフィルム中に存在させることを実現し、良好な長手方向の機械強度と収縮仕上がり性を同時に満たす熱収縮性ポリエステル系フィルムを得ることが可能となった。また80℃での熱収縮率を小さくすることで本発明を案出するに至った。
(1)縦延伸条件の制御
(2)縦延伸後に長手方向へのアニール処理
(3)縦延伸後における中間熱処理
(4)中間熱処理後のフィルムの強制冷却
(5)横延伸条件の制御
(6)横延伸後の最終熱処理
以下、上記した各手段について順次説明する。
【0050】
(1)縦延伸条件の制御
本発明の縦−横延伸法によるフィルムの製造においては、本発明のフィルムロールを得るためには、縦延伸を二段で行うことが好ましい。すなわち、実質的に未配向(未延伸)のフィルムを、まずTg以上(Tg+30℃)以下の温度で2.2倍以上3.0倍以下の倍率となるように縦延伸し(一段目の延伸)、次にTg以下に冷却することなく、(Tg+10)以上(Tg+40℃)以下の温度で1.2倍以上1.5倍以下の倍率となるように縦延伸する(二段目の延伸)ことにより、トータルの縦延伸倍率(すなわち、一段目の縦延伸倍率×二段目の縦延伸倍率)が2.8倍以上4.5倍以下となるように縦延伸することが好ましい。トータルの縦延伸倍率は3.0倍以上4.3倍以下となるように縦延伸するとより好ましい。
【0051】
また、上記の如く二段で縦延伸する際には、縦延伸後のフィルムの長手方向の屈折率が1.600〜1.630の範囲内となり、縦延伸後のフィルムの長手方向の熱収縮応力が10MPa以下となるように、縦延伸の条件を調整するのが好ましい。そのような所定の条件の縦延伸を施すことにより、後述する中間熱処理、横延伸、最終熱処理時にフィルムの長手方向・幅方向への配向度合い、分子の緊張度合いをコントロールすることが可能となり、ひいては、最終的なフィルムのミシン目開封性を良好なものとすることが可能となる。
【0052】
上記の如く縦方向に延伸する際に、トータルの縦延伸倍率が高くなると、長手方向の収縮率が高くなってしまう傾向にあるが、上記の如く縦方向に二段で延伸することにより、長手方向の延伸応力を小さくすることが可能となり、長手方向の収縮率を低く抑えることが可能となる。また、トータルの縦延伸倍率が高くなると、幅方向の延伸時の応力が高くなってしまい、最終的な横方向の収縮率のコントロールが難しくなる傾向にあるが、二段で延伸することにより、横方向の延伸応力も小さくすることができ、横方向の収縮率のコントロールが容易なものとなる。
【0053】
さらに、トータルの縦延伸倍率が高くなると、フィルム長手方向の引張破壊強さが高くなる。また、縦方向に二段で延伸することにより、生産速度が速くなる事で生産性が高くなる。
【0054】
また、縦方向に二段で延伸することにより、長手方向の延伸応力が小さくなるため、長手方向の厚み斑および幅方向の厚み斑が大きくなる傾向にあるが、トータルの縦延伸倍率を高くすることにより、長手方向の厚み斑を小さくすることができ、それに伴ってヘイズも低減することができる。加えて、トータルの縦延伸倍率を高くすることによって、横延伸時の応力が高くなるため、幅方向の厚み斑も低減することができる。
【0055】
(2)縦延伸後に長手方向へのアニール処理
上述の如く、“長手方向に配向しつつ収縮力に寄与しない分子”をフィルム内に存在させるためには、長手方向に配向した分子を熱緩和させることが好ましい。縦延伸後フィルムの長手方向の残留収縮応力が高いと、横延伸後のフィルム長手方向の温湯収縮率が高くなり収縮仕上り性が悪くなる欠点がある。横延伸工程で熱処理を加えることがフィルム長手方向の温湯収縮率を下げるのに有効であるが、熱による緩和だけでは十分にフィルム長手方向の温湯収縮率を下げることができるとはいえず、高い熱量が必要となる。そこで、発明者らは、横延伸工程前に少しでも縦延伸後フィルムの長手方向の残留収縮応力を下げる手段を検討した。そして、縦延伸後のフィルムに赤外線ヒータで過熱しながらロール間の速度差を利用して長手方向にリラックスを実施することで、長手方向の配向の減少より残留収縮応力の減少が大きく、残留収縮応力が半減以上することが分かった。
【0056】
赤外線ヒータだけで加熱してリラックスを用いないと、配向は減少しないが長手方向の収縮応力の減少は十分でない。赤外線ヒータで加熱しないでリラックスのみ実施すると、ロール間で十分にフィルムがリラックスできずにたるんでしまい、ロールに巻き付くという悪さがある。リラックス率は長手方向に10%以上50%以下が好ましい。10%より低いリラックス率では、縦延伸後フィルムの長手方向の収縮応力を半減させることが難しい。リラックス率について更に好ましくは15%以上である。また、50%より高いリラックス率では、縦延伸後のフィルム収縮応力は非常に小さくなるが、長手方向の配向も減少し十分な長手方向の機械強度があるフィルムを得ることは困難である。リラックス率について更に好ましくは45%以下である。
【0057】
アニール処理時の赤外線ヒータの過熱はフィルム温度が(Tg+10℃)以上(Tg+40℃)以下が好ましい。(Tg+10℃)より低いと十分に加熱しているとはいえずリラックス時にフィルムがたるみ、ロールへの巻きつきやシワが発生する。(Tg+40℃)より高く加熱すると、フィルムの結晶化が進み、次工程の横延伸が困難となる。アニール処理工程でのフィルム加熱手段は、赤外線ヒータで無くても熱風ドライヤー等の他の加熱手段でも良いが、設備の省スペース化には赤外線ヒータが適している。
【0058】
(3)縦延伸後における中間熱処理
上述の如く、“長手方向に配向しつつ収縮力に寄与しない分子”をフィルム内に存在させるためには、長手方向に配向した分子を熱緩和させることが好ましいが、従来、フィルムの二軸延伸において、一軸目の延伸と二軸目の延伸との間において、高温の熱処理をフィルムに施すと、熱処理後のフィルムが結晶化してしまうため、それ以上延伸することができない、というのが業界での技術常識であった。しかしながら、本発明者らが試行錯誤した結果、縦−横延伸法において、ある一定の条件で縦延伸を行い、その縦延伸後のフィルムの状態に合わせて中間熱処理を所定の条件で行い、さらに、その中間熱処理後のフィルムの状態に合わせて所定の条件で横延伸を施すことによって、横延伸時に破断を起こさせることなく、“長手方向に配向しつつ収縮力に寄与しない分子”をフィルム内に存在させ得る、という驚くべき事実が判明した。
【0059】
すなわち、本発明の縦−横延伸法によるフィルムの製造においては、未延伸フィルムを縦延伸した後に、テンター内で幅方向の両端際をクリップによって把持した状態で、130℃以上190℃以下の温度で1.0秒以上9.0秒以下の時間にわたって熱処理(以下、中間熱処理という)することが好ましい。かかる中間熱処理を行うことによって、“長手方向に配向しつつ収縮力に寄与しない分子”をフィルム内に存在させることが可能となり、ひいては、ラベルとした場合にミシン目開封性が良好で収縮斑が生じないフィルムを得ることが可能となる。なお、どのような縦延伸を行った場合でも、“長手方向に配向しつつ収縮力に寄与しない分子”をフィルム内に存在させることが可能となるわけではなく、前述した所定の縦延伸を実施することによって、中間熱処理後に、初めて“長手方向に配向しつつ収縮力に寄与しない分子”をフィルム内に存在させることが可能となる。そして、後述する所定の自然冷却、強制冷却、横延伸を施すことによって、フィルム内に形成された“長手方向に配向しつつ収縮力に寄与しない分子”を保持したまま、幅方向へ分子を配向させて幅方向への収縮力を発現させることが可能となる。
【0060】
なお、中間熱処理の温度の下限は、140℃以上であるとより好ましく、150℃以上であると更に好ましい。また、中間熱処理の温度の上限は、180℃以下であるとより好ましく、170℃以下であると更に好ましい。一方、中間熱処理の時間は、1.0秒以上9.0秒以下の範囲内で原料組成に応じて適宜調整することが好ましく、3.0秒以上7.0秒以下の範囲内で調整するのがより好ましい。
【0061】
上記の如く中間熱処理する際に、処理温度を130℃以上に保つことにより、長手方向へ収縮する応力を低減することが可能となり、長手方向の収縮率を極めて低くすることが可能となる。また、中間熱処理の温度を190℃以下にコントロールすることによって、横方向の収縮率のバラツキを低減することが可能となる。
【0062】
また、処理温度を130℃以上に保つことにより、長手方向の配向を高くすることが可能となり、長手方向の引張破壊強度を高く保つことが可能となる。また、中間熱処理の温度を190℃以下にコントロールすることによって、フィルムの結晶化を抑えて長手方向の引張破壊強度を高く保つことが可能となる。
【0063】
さらに、中間熱処理の温度を190℃以下にコントロールすることによって、長手方向の厚み斑を小さく保つことが可能となる。加えて、中間熱処理の温度を190℃以下にコントロールすることによって、フィルムの結晶化を抑えて横延伸時の応力のばらつきに起因する幅方向の厚み斑を小さく保つことが可能となる。
【0064】
また、中間熱処理の温度を190℃以下にコントロールすることによって、フィルム収縮斑の発生に起因するフィルムの破断を抑えて、良好なスリット性を保つことが可能となる。加えて、中間熱処理の温度を190℃以下にコントロールすることによって、フィルムが結晶化することに起因して高くなるフィルムのヘイズを低く抑えることが可能となる。
【0065】
上述したように縦延伸を実施して、中間熱処理後に“長手方向に配向しつつ収縮力に寄与しない分子”をフィルム内に存在させることでフィルム分子配向度が増す。その結果、エージング後のフィルムの分子配向低下が小さくなり、エージング後の物性変化が小さくなる。
【0066】
(4)中間熱処理後のフィルムの強制冷却
本発明の縦−横延伸法によるフィルムの製造においては、上記の如く中間熱処理したフィルムをそのまま横延伸するのではなく、フィルムの温度が80℃以上120℃以下となるように積極的に強制冷却することが好ましい。かかる強制冷却処理を施すことによって、横方向の熱収縮率や厚み斑を良好にすることが可能となる。なお、強制冷却後のフィルムの温度の下限は、85℃以上であるとより好ましく、90℃以上であると更に好ましい。また、強制冷却後のフィルムの温度の上限は、115℃以下であるとより好ましく、110℃以下であると更に好ましい。
【0067】
上記の如くフィルムを強制冷却する際に、強制冷却後のフィルムの温度が120℃を上回ったままであると、フィルムの幅方向の収縮率が低くなってしまい、ラベルとした際の収縮性が不十分となってしまうが、冷却後のフィルムの温度が120℃以下となるようにコントロールすることによって、フィルムの幅方向の収縮率を高く保持することが可能となる。
【0068】
また、フィルムを強制冷却する際に、強制冷却後のフィルムの温度が120℃を上回ったままであると、冷却後に行う横延伸の応力が小さくなり、幅方向の厚み斑が大きくなり易い傾向にあるが、冷却後のフィルムの温度が120℃以下となるような強制冷却を施すことによって、冷却後に行う横延伸の応力を高めて、幅方向の厚み斑を小さくすることが可能となる。
【0069】
さらに、フィルムを強制冷却する際に、強制冷却後のフィルムの温度が80℃を下回ると、冷却後に行う横延伸の応力が高くなり、幅方向の厚み斑が小さくなるが、横延伸応力が高い為に破断しやすくなり生産性を悪化させる可能性が高くなって好ましくない。
【0070】
(5)横延伸条件の制御
本発明の縦−横延伸法によるフィルムの製造においては、縦延伸、アニール、中間熱処理、自然冷却、強制冷却の後のフィルムを所定の条件で横延伸して最終的な熱処理を行うことが好ましい。すなわち、横延伸は、テンター内で幅方向の両端際をクリップによって把持した状態で、(Tg+10℃)以上(Tg+50℃)以下の温度、例えば80℃以上120℃以下の温度で2.0倍以上6.0倍以下の倍率となるように行うことが好ましい。かかる所定条件での横延伸を施すことによって、縦延伸および中間熱処理によって形成された“長手方向に配向しつつ収縮力に寄与しない分子”を保持したまま、幅方向へ分子を配向させて幅方向の収縮力を発現させることが可能となり、フィルム長手方向の引張破壊強さを高くする事が可能となる。なお、横延伸の温度の下限は、85℃以上であるとより好ましく、90℃以上であると更に好ましい。また、横延伸の温度の上限は、115℃以下であるとより好ましく、110℃以下であると更に好ましい。一方、横延伸の倍率の下限は、2.5倍以上であると好ましく、3.0倍以上であるとより好ましい。また、横延伸の倍率の上限は、5.5倍以下であると好ましく、5.0倍以下であるとより好ましい。
【0071】
上記の如く横方向に延伸する際に、延伸温度を高くすると、長手方向の引張強さが大きくなり良好なものとなる。
【0072】
また、延伸温度が120℃を上回ると、フィルム幅方向の収縮率が低くなってしまうが、延伸温度を120℃以下にコントロールすることによって、幅方向の収縮率を保持することが可能となる。
【0073】
また、延伸温度が120℃を上回ると、幅方向の厚み斑が大きくなり易い傾向にあるが、延伸温度を120℃以下にコントロールすることによって、幅方向の厚み斑を小さくすることができる。
【0074】
一方、延伸温度が80℃を下回ると、幅方向への配向が高くなりすぎて、横延伸時に破断し易くなったりするが、延伸温度を80℃以上にコントロールすることによって、横延伸時における破断を低減する。
【0075】
(6)横延伸後の最終熱処理
横延伸後のフィルムは、テンター内で幅方向の両端際をクリップで把持した状態で、横延伸温度+15℃以上45℃以下の温度で、例えば100℃以上160℃以下の温度で、5秒以上10秒以下の時間にわたって最終的に熱処理されることが好ましい。
温度が160℃より高いと幅方向の収縮率が低下し、100℃の熱収縮率が20%より低くなり好ましくない。また100℃より低いと、幅方向へ充分に弛緩できず、80℃の熱収縮率が10%より高くなり、最終的な製品を常温下で保管した時に、経時で幅方向の収縮(いわゆる自然収縮率)が大きくなり好ましくない。また、熱処理時間は長いほど好ましいが、あまりに長いと設備が巨大化するので、10秒以下の時間が好ましい。
【0076】
横延伸後の最終熱処理工程でフィルム幅方向に弛緩してもエージング後の自然収縮率は小さくできる。しかし弛緩により配向の分子鎖が緩和される。従ってエージング後の収縮率低下や強度を保つ為には、定長で熱処理した方が配向の分子鎖が増して好ましいが、本発明においては弛緩をしても目標とする範囲のフィルムを得ることができる。
【0077】
前記延伸中、延伸前または延伸後にフィルムの片面または両面にコロナ処理を施し、フィルムの印刷層および/または接着剤層等に対する接着性を向上させることも可能である。
【0078】
また、上記延伸工程中、延伸前または延伸後にフィルムの片面または両面に塗布を施し、フィルムの接着性、離型性、帯電防止性、易滑性、遮光性等を向上させることも可能である。
【0079】
本発明の包装体は、前記の熱収縮性ポリエステル系フィルムを基材とし、包装体の対象物としては、飲料用のペットボトルをはじめ、各種の瓶、缶、菓子や弁当等のプラスチック容器、紙製の箱等を挙げることができる(以下、これらを総称して包装対象物という)。なお、通常、それらの包装対象物に、熱収縮性ポリエステル系フィルムを基材とするラベルを熱収縮させて被覆させる場合には、当該ラベルを約2〜15%程度熱収縮させて包装体に密着させる。なお、包装対象物に被覆されるラベルには、印刷が施されていても良いし、印刷が施されていなくても良い。
また包装対象物は近年の環境対応によりラベルを剥がして廃棄することが多い。その為、ラベルを剥がし易くするようにミシン目やノッチを予め入れて、当該ラベルを約2〜15%程度熱収縮させて包装体に密着させても良い。
【0080】
ラベルを作成する方法としては、長方形状のフィルムの片面の端部から少し内側に有機溶剤を塗布し、直ちにフィルムを丸めて端部を重ね合わせて接着してラベル状にするか、あるいは、ロール状に巻き取ったフィルムの片面の端部から少し内側に有機溶剤を塗布し、直ちにフィルムを丸めて端部を重ね合わせて接着して、チューブ状体としたものをカットしてラベル状とする。接着用の有機溶剤としては、1,3−ジオキソランあるいはテトラヒドロフラン等の環状エーテル類が好ましい。この他、ベンゼン、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン等の芳香族炭化水素、塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素やフェノール等のフェノール類あるいはこれらの混合物が使用できる。
【実施例】
【0081】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、これらの実施例に限定されるものではない。
【0082】
本発明のフィルムの評価方法は下記の通りである。
【0083】
[熱収縮率(グリセリン熱収縮率)]
フィルムを10cm×10cmの正方形に裁断し、所定温度±0.5℃に加熱されたグリセリンの中において、無荷重状態で10秒間処理して熱収縮させた後、フィルムの縦および横方向の寸法を測定し、下式1にしたがって、それぞれ熱収縮率を求めた。測定回数2回の熱収縮率の平均値を算定した。
熱収縮率={(収縮前の長さ−収縮後の長さ)/収縮前の長さ}×100(%)・・・式1
【0084】
[エージング後の熱収縮率(グリセリン熱収縮率)]
長手方向に20cm幅方向に30cmにカットしたフィルム試料を、温度60℃・相対湿度40%に設定されたギアオーブンで672時間エージングした。その後、エージングしたフィルムから10cm×10cmの正方形に2枚ずつ裁断し、所定温度±0.5℃に加熱されたグリセリンの中において、無荷重状態で10秒間処理して熱収縮させた後、フィルムの縦および横方向の寸法を測定し、上式1にしたがって、それぞれ熱収縮率を求めた。各熱収縮処理温度について測定回数の2回の熱収縮率の平均値を算定した。
【0085】
[引張破壊強さの測定方法]
JIS−K7113に準拠し、所定の大きさの短冊状の試験片を作製し、万能引張試験機でその試験片の両端を把持して、引張速度200mm/分の条件にて引張試験を行い、フィルムの長手方向の引張破壊時の強度(応力)を引張破壊強さとして算出する。
【0086】
[自然収縮率の測定方法]
フィルム長手方向に20mm、フィルム幅方向に240mmの長さでサンプリングし、フィルム幅方向の長さが200mmとなるように標線を入れる。表線間の長さをエージング前の長さ(mm)とした。前記フィルムを温度60℃・相対湿度40%に設定されたギアオーブンで672時間エージングした後、表線間の長さをエージング後の長さ(mm)として以下の式2より求めた。測定回数2回の自然収縮率の平均値を算定した。
自然収縮率={(エージング前の長さ−エージング後の長さ)/エージング前の長さ}
×100(%)・・・式2
【0087】
[エージング前後の熱収縮率差の測定方法]
上式1より、エージング前後のフィルムの各々の所定温度のグリセリン中でフィルム幅方向の熱収縮率を測定した。それを下式3より求めた。
エージング前後の熱収縮率差(%)
=エージング前の熱収縮率(%)−エージング後の熱収縮率(%)・・・式3
【0088】
[初期破断回数の測定方法]
フィルムを長手方向に20cm幅方向に30cmにカットしたフィルム試料を、温度60℃・相対湿度40%に設定されたギアオーブンで672時間エージングした。その後、エージング後のフィルムを長手方向に140mm、幅方向に20mmの長方形にサンプリングした。そのフィルムを万能引張試験機で長手方向の試験片の両端を把持して(片側チャックの噛み位置20mm、チャック間距離100mm)、温度23℃、引張速度200mm/分の条件にて引張試験を行った。1枚のエージングフィルム試料からサンプル数10枚を採取し、引張試験を繰り返し、フィルムの長手方向の5%伸長以下の時点で破断した回数を求め、初期破断回数とした。
【0089】
[Tg(ガラス転移点)]
セイコー電子工業株式会社製の示差走査熱量計(型式:DSC220)を用いて、未延伸フィルム5mgを、−40℃から120℃まで、昇温速度10℃/分で昇温し、得られた吸熱曲線より求めた。吸熱曲線の変曲点の前後に接線を引き、その交点をTg(ガラス転移点)とした。
【0090】
[収縮仕上り性]
エージング後の熱収縮性フィルムに、予め東洋インキ製造(株)の草・金・白色のインキで3色印刷を施した。そして、印刷したフィルムの両端部をジオキソランで接着することにより、円筒状のラベル(熱収縮性フィルムの主収縮方向を周方向としたラベル)を作成した。しかる後、協和電機株式会社製 シュリンクトンネル(熱風) 型式;K−20
00を用い、通過時間10秒、ゾーン温度150℃で、500mlのPETボトル(胴直径 62mm、ネック部の最小直径25mm)に熱収縮させることにより、ラベルを装着した。なお、装着の際には、ネック部においては、直径50mmの部分がラベルの一方の端になるように調整した。収縮後の仕上がり性の評価は目視で行い、基準は下記の通りとした。
◎:シワ、飛び上り、収縮不足の何れも未発生で、かつ色の斑も見られない
○:シワ、飛び上り、または収縮不足が確認できないが、若干、色の斑が見られる
△:シワが発生するが、飛び上がりや収縮不足は発生無
×:シワ、飛び上り、収縮不足が発生
【0091】
[ラベル密着性]
上記した収縮仕上り性の測定条件と同一の条件でラベルを装着した。そして、装着したラベルとPETボトルとを軽くねじったときに、ラベルが動かなければ○、すり抜けたり、ラベルとボトルがずれたりした場合には×とした。
【0092】
また、実施例、比較例で使用したポリエステル原料の性状、組成、実施例、比較例におけるフィルムの製造条件(延伸・熱処理条件等)を、それぞれ表1、表2に示す。
【0093】
<ポリエステル原料の調製>
撹拌機、温度計及び部分環流式冷却器を備えたステンレススチール製オートクレーブに、二塩基酸成分としてジメチルテレフタレート(DMT)100モル%と、グリコール成分としてエチレングリコール(EG)100モル%とを、グリコールがモル比でメチルエステルの2.2倍になるように仕込み、エステル交換触媒として酢酸亜鉛を0.05モル%(酸成分に対して)を用いて、生成するメタノールを系外へ留去しながらエステル交換反応を行った。その後、重縮合触媒として三酸化アンチモン0.025モル%(酸成分に対して)添加し、280℃で26.6Pa(0.2トール)の減圧条件下、重縮合反応を行い、固有粘度0.70dl/gのポリエステル(A)を得た。このポリエステルはポリエチレンテレフタレートである。なお、上記ポリエステル(A)の製造の際には、滑剤としてSiO
2(富士シリシア社製サイリシア266)をポリエステルに対して8,000ppmの割合で添加した。また、上記と同様な方法により、表1に示すポリエステル(B、C、E)を合成した。なお、表中、NPGはネオペンチルグリコール、BDは1,4−ブタンジオール、CHDMは1,4−シクロヘキサンジメタノールである。ポリエステルA、B、C、D、Eの固有粘度は、それぞれ、0.72dl/g、0.72dl/g、0.72dl/g、1.15dl/g、0.72dl/gであった。なお、各ポリエステルは、適宜チップ状にした。
【0094】
【表1】
【0095】
[実施例1]
上記したポリエステルAとポリエステルBとポリエステルCとを重量比5:20:75で混合して押出機に投入した。しかる後、その混合樹脂を280℃で溶融させてTダイから押出し、表面温度30℃に冷却された回転する金属ロールに巻き付けて急冷することにより、厚さが305μmの未延伸フィルムを得た。このときの未延伸フィルムの引取速度(金属ロールの回転速度)は、約20m/minであった。また、未延伸フィルムのTgは75℃であった。
【0096】
そして、上記の如く得られた未延伸フィルムを、複数のロール群を連続的に配置した縦延伸機へ導き、ロールの回転速度差を利用して、縦方向に二段階で延伸した。すなわち、未延伸フィルムを、予熱ロール上でフィルム温度が78℃になるまで予備加熱した後に、表面温度78℃に設定された低速回転ロールと表面温度78℃に設定された中速回転ロールとの間で回転速度差を利用して2.6倍に延伸した(1段目の縦延伸)。さらに、その縦延伸したフィルムを、表面温度95℃に設定された中速回転ロールと表面温度30℃に設定された高速回転ロールとの間で回転速度差を利用して1.4倍に縦延伸した(2段目の縦延伸)(したがって、トータルの縦延伸倍率は、3.64倍であった)。
【0097】
上記の如く縦延伸直後のフィルムを、赤外線ヒータでフィルム温度93℃に過熱しながらロール間の速度差を利用して30%長手方向にリラックスしてアニール処理を施した。
【0098】
上記の如くアニール処理後のフィルムを、表面温度30℃に設定された冷却ロール(二段目の縦延伸ロールの直後に位置した高速ロール)によって、40℃/秒の冷却速度で強制的に冷却した後に、冷却後のフィルムをテンターに導き、中間熱処理ゾーン、冷却ゾーン(強制冷却ゾーン)、横延伸ゾーン、最終熱処理ゾーンを連続的に通過させた。
【0099】
そして、テンターに導かれた縦延伸フィルムを、まず、中間熱処理ゾーンにおいて、150℃の温度で5.0秒間にわたって熱処理した後に、冷却ゾーンに導き、フィルムの表面温度が100℃になるまで、低温の風を吹き付けることによって積極的に強制冷却し、95℃で幅方向(横方向)に4.0倍に延伸した。
【0100】
しかる後、その横延伸後のフィルムを最終熱処理ゾーンに導き、当該最終熱処理ゾーンにおいて、125℃の温度で5.0秒間にわたって熱処理した後に冷却し、両縁部を裁断除去して幅500mmでロール状に巻き取ることによって、約30μmの二軸延伸フィルムを所定の長さにわたって連続的に製造した。そして、得られたフィルムの特性を上記した方法によって評価した。評価結果を表3に示す。
目標の特性となり、エージング後の物性変化が少ない良好な結果であった。
【0101】
[実施例2]
未延伸フィルムの厚みを262μmとし、縦延伸後の長手方向へのアニール処理においてリラックス率を40%とした以外は実施例1と同様の方法で、幅500mmで約30μmの二軸延伸フィルムを連続的に製造した。そして得られたフィルムの特性を上記した方法によって評価した。評価結果を表3に示す。
得られたフィルムは実施例1より引張破壊強度が低くなったが、目標の特性となり、エージング後の物性変化が少ない良好な結果であった。
【0102】
[実施例3]
ポリエステルAとポリエステルBとポリエステルCとポリエステルDとを重量比5:10:65:10で混合して押出機に投入した。しかる後、その混合樹脂を280℃で溶融させてTダイから押出し、表面温度30℃に冷却された回転する金属ロールに巻き付けて急冷することにより、厚さが305μmの未延伸フィルムを得た。このときの未延伸フィルムの引取速度(金属ロールの回転速度)は、約20m/minであった。また、未延伸フィルムのTgは67℃であった。それ以外は実施例1と同様の方法で、幅500mmで約30μmの二軸延伸フィルムを連続的に製造した。そして得られたフィルムの特性を上記した方法によって評価した。評価結果を表3に示す。得られたフィルムは実施例1よりエージング前とエージング後での収縮率差が大きいが目標の特性となり、エージング後の物性変化が少ない良好な結果であった。
【0103】
[実施例4]
ポリエステルAとポリエステルBとポリエステルCを重量比5:65:30で混合して押出機に投入した。しかる後、その混合樹脂を280℃で溶融させてTダイから押出し、表面温度30℃に冷却された回転する金属ロールに巻き付けて急冷することにより、厚さが311μmの未延伸フィルムを得た。また、未延伸フィルムのTgは75℃であった。
得られた未延伸フィルムを、複数のロール群を連続的に配置した縦延伸機へ導き、ロールの回転速度差を利用して、縦方向に二段階で延伸した。すなわち、未延伸フィルムを、予熱ロール上でフィルム温度が78℃になるまで予備加熱した後に、表面温度78℃に設定された低速回転ロールと表面温度78℃に設定された中速回転ロールとの間で回転速度差を利用して2.4倍に延伸した(1段目の縦延伸)。さらに、その縦延伸したフィルムを、表面温度95℃に設定された中速回転ロールと表面温度30℃に設定された高速回転ロールとの間で回転速度差を利用して1.2倍に縦延伸した(2段目の縦延伸)(したがって、トータルの縦延伸倍率は、2.88倍であった)。そして縦延伸直後のフィルムを、赤外線ヒータでフィルム温度93℃に過熱しながらロール間の速度差を利用して10%長手方向にリラックスしてアニール処理を施した。また横延伸後の最終熱処理温度を115にした以外は実施例1と同様の方法で、幅500mmで約30μmの二軸延伸フィルムを連続的に製造した。そして得られたフィルムの特性を上記した方法によって評価した。評価結果を表3に示す。
得られたフィルムは実施例1より横方向の収縮率が低く、収縮仕上り性に劣ったが、目標の特性となり、エージング後の物性変化が少ない良好な結果であった。
【0104】
[実施例5]
中間熱処理温度を160℃に変更した以外は、実施例1と同様の方法で、幅500mmで約30μmの二軸延伸フィルムを連続的に製造した。そして得られたフィルムの特性を上記した方法によって評価した。評価結果を表3に示す。得られたフィルムは実施例1より長手方向の収縮率が小さくなり、またエージング前後の熱収縮率差が小さくなり、良好な結果であった。
【0105】
[実施例6]
実施例1のポリエステルAをポリエステルEに変更した以外は 実施例1と同様の方法で、幅500mmで約30μmの二軸延伸フィルムを連続的に製造した。尚、未延伸フィルムのTgは74℃であった。そして得られたフィルムの特性を上記した方法によって評価した。評価結果を表3に示す。
得られたフィルムは実施例1と同等で、良好な結果であった。
【0106】
[実施例7]
最終熱処理温度を140℃に変更した以外は、実施例1と同様の方法で、幅500mmで約30μmの二軸延伸フィルムを連続的に製造した。そして得られたフィルムの特性を上記した方法によって評価した。評価結果を表3に示す。得られたフィルムは実施例1より収縮率が小さくなり、またエージング前後の熱収縮率差や自然収縮率が小さくなり、良好な結果であった。
【0107】
[実施例8]
実施例1のポリエステルBの重量を20%から10%に減少し,ポリエステルCの重量を75%から85%に変更した。また最終熱処理温度を125℃から133℃に変更した以外は、実施例1と同様の方法で、幅500mmで約30μmの二軸延伸フィルムを連続的に製造した。尚、未延伸フィルムのTgは73℃であった。そして得られたフィルムの特性を上記した方法によって評価した。評価結果を表3に示す。得られたフィルムは実施例1と同等で,良好な結果であった。
【0108】
[比較例1]
実施例1と同じ原料で厚さ120μmの未延伸フィルムを得た。概未延伸フィルムを縦
延伸、縦延伸後のアニール、中間熱処理をしないで 90℃に加熱後に横方向に80℃で4倍延伸し、110℃で5.0秒最終熱処理して、幅500mmで約30μmの一軸延伸フィルムを連続的に製造した。そして得られたフィルムの特性を上記した方法によって評価した。評価結果を表3に示す。
得られたフィルムは実施例1よりエージング後の幅方向の収縮率低下が大きく、また自然収縮率も高く、初期破断回数も高く、収縮仕上り性も劣り、好ましく無い結果であった。
【0109】
[比較例2]
横延伸後の最終熱処理温度を90℃に変更した以外は、実施例1と同様の方法で、幅500mmで約30μmの二軸延伸フィルムを連続的に製造した。そして得られたフィルムの特性を上記した方法によって評価した。評価結果を表3に示す。
得られたフィルムは実施例1よりエージング前後の幅方向の収縮率差が大きくなり、また自然収縮率も高く、好ましく無い結果であった。
【0110】
【表2】
【0111】
【表3】