(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本願の開示する電源回生装置および電力変換装置の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0012】
図1を参照しながら、本実施形態に係る電源回生装置、および同電源回生装置を備える電力変換装置を説明する。
図1は、実施形態に係る電源回生装置および電力変換装置の構成を示す説明図である。なお、実施形態に係る電源回生装置は、電源回生コンバータの一例に相当する。
【0013】
図1に示すように、本実施形態に係る電力変換装置5は、電源回生装置1およびインバータ装置3によって構成されている。電源回生装置1は、モータ4を駆動させるための電力をインバータ装置3側に供給する力行運転状態と、インバータ装置3側から供給された電力を3相交流電源2へ回生する回生運転状態とを切り替えて実行する。電力変換装置5は、電源回生装置1およびインバータ装置3を協調制御している。
【0014】
例えば、本実施形態に係る電力変換装置5は、3相交流電源2から比較的に長い距離(例えば、数Km)離隔して設けられており、3相交流電源2との間には所定量に達する配線経路のリアクタンス分L
srcが存在する。
【0015】
力行運転時には、電源回生装置1はコンバータ装置として機能し、3相交流電源2から供給される交流電力を直流電力へ変換する。インバータ装置3は、電源回生装置1によって変換された直流電力を交流電力へ変換してモータ4を駆動する。
【0016】
一方、回生運転時には、インバータ装置3は、モータ4の減速によってモータ4に生じる誘導起電力を直流電力へ変換するように、後述するインバータ装置3内部のスイッチング素子を駆動し、直流電力を電源回生装置1へ供給する。電源回生装置1は、インバータ装置3から供給される直流電力を交流電力へ変換して3相交流電源2へ供給することによって電源回生を行う。
【0017】
電源回生装置1は、3相交流電源2とインバータ装置3との間に配置される電力変換部10と、電力変換部10を制御する制御部20と、3相交流電源2の各相と電力変換部10との間に配置される電流平滑用のフィルタ30とを備える。
【0018】
電力変換部10は、三相ブリッジ回路12と、平滑コンデンサC1とを備える。三相ブリッジ回路12は、例えば、後で詳述する
図2に示すように、6個のダイオードD1〜D6を三相ブリッジ接続し、それぞれのダイオードD1〜D6ごとにスイッチング素子Q1〜Q6を逆並列に接続して構成される。
【0019】
三相ブリッジ回路12は、力行運転時において3相交流電源2から供給される交流電圧を整流し、三相ブリッジ回路12によって整流された電圧は平滑コンデンサC1によって平滑される。かかる動作によって、平滑コンデンサC1に直流電力が蓄積され、インバータ装置3へ直流電力が供給される。
【0020】
また、三相ブリッジ回路12は、モータ4からインバータ装置3を介して供給される電力を3相交流電源2へ供給する電源回生を行う機能を備える。すなわち、三相ブリッジ回路12は、インバータ装置3から供給されて平滑コンデンサC1に蓄積された直流電力を交流電力へ変換して3相交流電源2へ供給することができる。
【0021】
かかる三相ブリッジ回路12は制御部20によって制御される。制御部20は、図示するように、電圧検出部21と、位相検出部25と、駆動制御部27とを備える。
【0022】
電圧検出部21は、3相交流電源2から出力される交流電圧の瞬時値を繰り返し継続して検出し、検出結果に応じた検出信号(以下、交流検出信号と記載する)を位相検出部25へ出力する。かかる交流検出信号は、3相交流電源2の電圧波形に対応した波形の信号である。
【0023】
位相検出部25は、電圧検出部21から出力される交流検出信号に基づき、3相交流電源2の位相を検出する。
【0024】
駆動制御部27は、位相検出部25によって検出された3相交流電源2の位相に基づいて、三相ブリッジ回路12内のスイッチング素子Q1〜Q6(
図2参照)を駆動することによって、運転状態に応じた電力変換を行う。
【0025】
また、図示するように、本実施形態に係る駆動制御部27は、位相補正部68を備えている。例えば、3相交流電源2と電源回生装置1とを結ぶ経路の距離が比較的長い場合、リアクタンス分L
srcが増大することにより、電源回生時に、好ましくない低周波擾乱が発生することがある(
図3を参照)。
【0026】
かかる位相補正部68は、低周波擾乱の発生を抑制するものであり、長距離配線のリアクタンス分L
srcに起因した低周波擾乱によって、位相検出部25で検出した電圧位相検出値θに位相ずれ(位相の検出誤差)が生じた場合、そのずれを補正する機能を有する。
【0027】
このように、位相補正部68を設けたことで、例えば、3相交流電源2と電源回生装置1との間にダンピング抵抗を挿入したり、あるいは、電流調整器のゲインを調整することなく、簡単に低周波擾乱を抑制することが可能となる。なお、位相補正部68は、本実施形態において要部をなすものであり、詳しくは後述する。
【0028】
(第1の実施形態)
ここで、第1の実施形態に係る電源回生装置1の具体的構成の一例について、
図2を参照しながら説明する。
【0029】
図示するように、3相交流電源2と電力変換部10との間には、フィルタ30と電流検出部40とが設けられている。フィルタ30は、3相交流電源2の各相と電力変換部10との間にそれぞれ2つずつ直列に接続された6つのACリアクトルL
filと、各相のACリアクトルL
filの中間点と仮想中性点との間にそれぞれ接続された3つのコンデンサC2とにより構成される。また、電流検出部40は、各相電流値をI
R、I
S、I
Tとして検出する。なお、フィルタ30の構成は
図2に示す構成に限定されるものではない。
【0030】
電源回生装置1の制御部20は、
図2に示すように、電源電圧検出部21aと、3相/2相変換部21bと、位相検出部25と、駆動制御部27とを備える。なお、電源電圧検出部21aおよび3相/2相変換部21bが電圧検出部21の一例に相当する。
【0031】
電源電圧検出部21aは、3相交流電源2の電圧を検出する。具体的には、電源電圧検出部21aは、フィルタ30の近傍において3相交流電源2のR相、S相およびT相の各相電圧の瞬時値を検出し、交流検出信号V
R、V
S、V
Tを出力する。
【0032】
3相/2相変換部21bは、交流検出信号V
R、V
S、V
Tを固定座標上の直交した2軸のαβ成分へ変換して、α軸方向の交流検出信号Vαとβ軸方向の交流検出信号Vβとをベクトル成分とするαβ軸座標系の固定座標電圧ベクトルを求める。そして、かかる交流検出信号Vα、Vβを位相検出部25へ出力する。
【0033】
位相検出部25は、3相/2相変換部21bから出力される交流検出信号Vα、Vβに基づいて、3相交流電源2の電圧位相を検出し、電圧位相検出値θとして出力する。例えば、位相検出部25は、交流検出信号Vα、Vβをd−q軸直交座標系のdq成分へ変換した場合、d軸成分が零になるように3相交流電源2の電圧位相を演算する。位相検出部25は、このように演算した3相交流電源2の電圧位相に応じた電圧位相検出値θを出力する。
【0034】
なお、電圧検出部21及び位相検出部25の構成は、
図2の構成に限定されるものではない。例えば、各相ACリアクトルL
filの中間点(直列接続されたACリアクトル同士の接続点)あるいは電力変換部10の交流側端子における交流電圧を検出し、前記検出した交流電圧に交流側端子を流れる電流及び該当するACリアクトル部分のインピーダンスの乗算値を加算演算し、該演算で得た3相交流電源の交流電圧に基づいてその位相を推定するようにしてもよい。
【0035】
駆動制御部27は、実効値算出器51と、A/D変換器52と、3相/2相変換器53と、dq座標変換器54と、直流母線電圧検出器55と、減算器56とを備える。なお、3相/2相変換器53およびdq座標変換器54が座標変換部の一例に相当する。
【0036】
また、駆動制御部27は、q軸電流指令出力器57と、q軸電流偏差演算器58と、q軸電流調整器59と、q軸電圧指令補正器60と、d軸電流指令出力器61と、d軸電流偏差演算器62と、d軸電流調整器63とを備える。また、駆動制御部27は、電圧振幅指令生成器64と、電圧位相指令生成器65と、加算器66と、制御信号生成部としてのPWM制御器67とを備える。さらに、駆動制御部27は、位相補正部68を構成する位相変換器68aと符号切替部68bとを備える。
【0037】
実効値算出器51は、3相/2相変換部21bから出力される交流検出信号Vα、Vβに基づいて、3相交流電源2の実効電圧値Vseを検出する。
【0038】
A/D変換器52は、電流検出部40によって検出された相電流検出値I
R、I
S、I
TをA/D変換によってデジタル値に変換する。なお、相電流検出値I
Rは、R相電流の瞬時値であり、相電流検出値I
Sは、S相電流の瞬時値であり、相電流検出値I
Tは、T相電流の瞬時値である。なお、電流検出部40として、例えば、磁電変換素子であるホール素子を利用して電流を検出する電流センサを用いることができる。
【0039】
3相/2相変換器53は、相電流検出値I
R、I
S、I
Tを固定座標上の直交した2軸のαβ成分へ変換して、α軸方向の電流値Iαとβ軸方向の電流値Iβとをベクトル成分とするαβ軸座標系の固定座標電流ベクトルを求める。
【0040】
dq座標変換器54は、位相検出部25によって検出された電圧位相検出値θに基づき、3相/2相変換器53から出力されるαβ軸座標系の成分を変換することでd−q軸回転座標系のq軸成分およびd軸成分を演算する。これにより、dq座標変換器54は、q軸電流値Iqとd軸電流値Id(=無効電流成分となる)とを求める。すなわち、dq座標変換器54は無効電流成分検出部として機能する。
【0041】
直流母線電圧検出器55は、電力変換部10のインバータ装置3(
図1を参照)側の直流電圧を検出する。具体的には、直流母線電圧検出器55は、平滑コンデンサC1の端子間電圧値を直流電圧値Vpnとして検出し、減算器56へ出力する。
【0042】
減算器56は、直流母線電圧検出器55から出力される直流電圧値Vpnを電圧指令Vpn
*から減算し、差分電圧値Vgとしてq軸電流指令出力器57へ出力する。
【0043】
q軸電流指令出力器57は、減算器56から入力される差分電圧値Vgに基づきq軸電流指令Iq*を生成し、q軸電流偏差演算器58へ出力する。q軸電流指令Iq
*は、有効電流の目標電流値である。なお、減算器56とq軸電流指令出力器57が、AVR(自動電圧調整装置)を構成する。
【0044】
q軸電流偏差演算器58は、q軸電流指令Iq*と、dq座標変換器54から出力されたq軸電流値Iqとの偏差であるq軸電流偏差を演算してq軸電流調整器59へ出力する。
【0045】
q軸電流調整器59は、q軸電流指令Iq*とq軸電流値Iqとの偏差を零とするようにq軸電圧指令Vq1*を調整し、q軸電圧指令補正器60へ出力する。なお、q軸電流偏差演算器58とq軸電流調整器59が、ACRq(q軸電流制御器)を構成する。
【0046】
q軸電圧指令補正器60は、q軸電流調整器59から出力されるq軸電圧指令Vq1
*に実効値算出器51から出力される実効電圧値Vseを加算し、q軸電圧指令Vq
*として電圧振幅指令生成器64および電圧位相指令生成器65へ出力する。
【0047】
d軸電流指令出力器61は、d軸電流指令Id*を生成してd軸電流偏差演算器62へ出力する。d軸電流指令Id
*は、無効電流の目標電流値であり、例えば、力率を1とする場合、d軸電流指令Id
*は零に設定される。
【0048】
d軸電流偏差演算器62は、d軸電流指令Id
*とd軸電流値Idとの偏差であるd軸電流偏差を演算してd軸電流調整器63へ出力する。d軸電流調整器63は、d軸電流指令Id
*とd軸電流値Idとの偏差を零とするようにd軸電圧指令Vd
*を調整し、電圧振幅指令生成器64および電圧位相指令生成器65へ出力する。なお、d軸電流偏差演算器62とd軸電流調整器63が、ACRd(d軸電流制御器)を構成する。
【0049】
電圧振幅指令生成器64は、q軸電圧指令補正器60から出力されたq軸電圧指令Vq
*と、d軸電流調整器63から出力されたd軸電圧指令Vd
*とに基づき、出力電圧指令V
*を求める。例えば、電圧振幅指令生成器64は、以下の式(1)から出力電圧指令V
*を求める。
出力電圧指令V
*=(Vd
*2+Vq
*2)
1/2 ・・・(1)
【0050】
電圧位相指令生成器65は、q軸電圧指令補正器60から出力されたq軸電圧指令Vq
*とd軸電流調整器63から出力されたd軸電圧指令Vd
*とに基づき、出力位相指令θa
*を求める。例えば、電圧位相指令生成器65は、以下の式(2)から出力位相指令θa
*を求める。
出力位相指令θa
*=tan
-1(Vq
*/Vd
*) ・・・(2)
【0051】
第2演算器70は、位相検出部25から出力される電圧位相検出値θから、位相変換器68aから出力される位相補正値Δθを減算する。加算器66は、電圧位相指令生成器65から出力される出力位相指令θa
*に、第2演算器70の減算値を加算して、位相θpを演算する。
【0052】
制御信号生成部であるPWM制御器67は、電圧振幅指令生成器64から出力される出力電圧指令V
*と、加算器66によって演算された位相θpとに基づいて、3相交流電圧指令、すなわち、3相交流電源2の各相に対する出力電圧指令V
R*、V
S*、V
T*を求める。例えば、PWM制御器67は、以下の式(3)〜(5)から、R相の出力電圧指令V
R*、S相の出力電圧指令V
S*、およびT相の出力電圧指令V
T*を求める。
V
R*=V
*×sin(θp) ・・・(3)
V
S*=V
*×sin(θp−(2π/3)) ・・・(4)
V
T*=V
*×sin(θp+(2π/3)) ・・・(5)
【0053】
そして、PWM制御器67は、出力電圧指令V
R*、V
S*、V
T*に基づいて、電力変換部10の各スイッチング素子Q1〜Q6を制御するPWM信号S1〜S6を生成する。これにより、電力変換部10の交流側出力端子から出力電圧指令V
R*、V
S*、V
T*に応じた3相交流電圧が出力される。なお、スイッチング素子Q1〜Q6として、例えば、IGBTやMOSFETなどの自己消弧形の半導体素子が用いられる。
【0054】
次に、かかる電源回生装置1による低周波擾乱の発生を抑制する位相補正部68について説明する。すなわち、前述したように、配線のリアクタンス分L
srcに起因して、位相検出部25で検出した電圧位相検出値θに位相ずれ(真の位相値と検出値とのずれ)が生じた場合、位相補正部68はそのずれを補正して、低周波擾乱の発生を抑制することができる。
【0055】
位相検出部25の説明をする前に、長距離配線した場合に電源電圧Vsが低周波で擾乱する現象(
図3を参照)について考察する。なお、
図3は、電源電圧の擾乱現象を示す説明図であり、定格周波数60Hz、AC440Vの場合を示す。
【0056】
低周波擾乱の発生原因は、以下に説明するサイクルに基づくものと考えられる。
(1)外的要因により、電源電流が乱れる。
(2)3相交流電源2と電源回生装置1との間のリアクタンス分L
srcに乱れた電源電流が流れることにより、乱れた逆起電圧が発生する。
(3)乱れた逆起電圧を電圧検出部21が検出し、位相検出がずれる。
(4)位相検出がずれたため、電流制御器(ACR)による電流制御が難しくなる。
(5)さらに、リアクタンス分L
srcが大きいため、電流制御器(ACR)を含めた電流ループの応答性が設計値よりも遅くなる。
(6)その結果、電流制御器(ACR)が乱れた電圧指令を出力してしまうため、乱れた電流が流れることになる。
(7)上記(1)〜(6)の事象が繰り返され、擾乱が発生する。
【0057】
次に、擾乱の現象が発生する原因について、図面や数式を用いて、より具体的に説明する。擾乱原因のうち、大きな要因は以下の2点が考えられる。
【0058】
(A)1つは、上記(5)に係るもので、特に、電源経路のリアクタンス分L
srcの増大による電流制御応答の劣化である。
(B)また、もう1つは、電源位相検出の推定の擾乱である。
【0059】
(A)に関して説明すると、電源経路のリアクタンス分L
srcが増大すると、ACRを含めた電流ループの応答が設計値より遅くなる。電流ループの制御応答角周波数(ω)は、一般的には以下の式(6)で表される。式(6)より、「L→大」の場合「ω→小」となることが分かる。
【0061】
そして、電流ループが遅くなる場合、AVR(減算器56およびq軸電流指令出力器57)による母線電圧の制御も正常にできなくなるため、AVRの出力であるq軸電流指令Iq
*が擾乱してしまう。
【0062】
特にAVRの時定数と電流ループの応答(時定数)が近づく場合(想定していなかった配線のリアクタンス分L
srcの存在により、電流ループの応答性が低下して近づく場合)、q軸電流指令Iq*は発振し易くなる。
【0063】
図4は、フィルタ30と配線のリアクタンス分L
srcを含む回路を示す説明図である。なお、便宜上、コンデンサによる影響は無視(∵低周波擾乱成分のみ対象とするため)している。電源回生装置1は、図示するように、フィルタ30近傍の3相交流電圧(V
cnv_r’)を検出することにより電源位相を検出する。また、3相交流電源からの供給電圧(V
src=V
s)と、配線のリアクタンス分L
srcおよびフィルタ30のACリアクトルL
fil(但し、6個のACリアクトル全てのインダクタンスを等しくしている)と、電力変換部10の交流側端子電圧(V
cnv=V
d_cnv+V
q_cnv)と電流とから方程式をたててd−q変換すると、下記の式(8)を得る。(8)式において、3相交流電源と同位相になる軸をq軸、q軸に対して90度の位相遅れとなる軸をd軸とし、電圧及び電流はどちらも3相交流電源側から供給する方向を正としている。
【0065】
なお、V
d_cnv及びV
q_cnvは電力変換部10の交流側端子電圧のd軸成分及びq軸成分、Id及びIqは電力変換部10の交流側端子を流れる電流のd軸成分及びq軸成分である。また、L(インダクタンス値)=L
src+2・L
filとしている。
【0066】
式(8)の関係から描いたブロック図が
図5である。
図5は、干渉項の説明図である。
【0067】
図5に示すように、q軸電流Iqが擾乱する場合、干渉項により、符号i1で示すように、電源回生装置1のd軸電流側に干渉する。一方、d軸電流Idが擾乱する場合、干渉項により、符号i2で示すように、電源回生装置1のq軸電流側に干渉する。すなわち、図示するように、d軸電流、q軸電流それぞれに、干渉項により、擾乱成分ω*Lを乗じた成分が重畳され、電源電圧が擾乱することになる。
【0068】
また、電圧の関係を分かりやすくするために、式(8)を移項して式(9)を得る。そして、式(9)をブロック図としたものが
図6である。
図6は、電流と、系統の電源回生装置1側の電圧との関係を示す説明図である。
【0070】
ここで、擾乱は低周波である点に着目すると、微分演算子「s」は零と近似でき、また線間抵抗「R」も十分小さいとすると、
図6は
図7のように書き換えられる。
【0071】
すなわち、前述したように、q軸電流値Iqの擾乱と、それに干渉して発生するd軸電流値Idの擾乱は、
図7に示すように、配線のリアクタンス分L
srcは電力変換部10の交流端子側の電圧(Vd_cnv、Vq_cnv)に影響を及ぼし、擾乱の原因となる。
【0072】
図8は、電流の擾乱と電圧の擾乱との関係を示す説明図である。3相交流電源に位相同期させようとした場合、フィルタ30近傍の3相交流電圧を検出している関係上、位相検出部25は、フィルタ30近傍の3相交流電圧に追従する。そのため、実際の電源電圧よりずれた箇所を検出することになり、電圧擾乱が起こる場合、Case(1)〜(4)に示すような電圧の動きに追従することになる。
【0073】
なお、
図8において、Case(1):Id<0,Iq>0、Case(2):Id>0,Iq>0、Case(3):Id<0,Iq<0、Case(4):Id>0,Iq<0という状態にある。Case(1)においては、d軸について(Iq×ωL)という正の干渉電圧が発生し、q軸については(−Id×ωL)という正の干渉電圧がVsに重畳される。Case(2)においては、d軸について(Iq×ωL)という正の干渉電圧が発生し、q軸については(−Id×ωL)という負の干渉電圧がVsに重畳される。Case(3)においては、d軸について(Iq×ωL)という負の干渉電圧が発生し、q軸については(−Id×ωL)という正の干渉電圧がVsに重畳される。Case(4)においては、d軸について(Iq×ωL)という負の干渉電圧が発生し、q軸については(−Id×ωL)という負の干渉電圧がVsに重畳される。
図8は、このような干渉電圧の影響を示したものである。
【0074】
次に、擾乱発生の原因の1つである(B)について説明する。すなわち、電源位相検出の推定の擾乱に関するものである。
図9は、擾乱が位相検出に与える影響を示す説明図であり、これは
図3の一部を切り取ったものである(但し、説明のため位相補正部68を除去している)。図示するように、検出箇所における電源電圧(Vr、Vs、Vt)が擾乱した場合、結果的に、電源電圧の位相検出にも擾乱成分が重畳され、有効電流成分(q軸電流値Iq)、無効電流成分(=d軸電流値Id)の算出が正常にできず、電流制御も正常な状態ではなくなる。このことにより、電源電圧の擾乱が強く発生することになる。
【0075】
上述してきた擾乱の原因に鑑み、本実施形態に係る電源回生装置1および電力変換装置5は、
図2に示すように、駆動制御部27に、位相変換器68aと符号切替部68bとを備える位相補正部68(
図1参照)を設けている。こうして、電流検出の際のd−q変換時に位相の検出誤差を補正するとともに、電力変換部10の交流側端子電圧指令の位相補正も行うようにしている。
【0076】
具体的には、図示するように、d軸電流偏差演算器62とd軸電流調整器63からなるACRd(d軸電流制御器)側と、位相検出部25とdq座標変換器54とを結ぶ経路との間に位相変換器68aおよび符号切替部68bを設けている。そして、位相検出部25とdq座標変換器54とを結ぶ経路中に設けた第1演算器69において、位相検出部25で検出された位相値θに対して、符号処理を施した位相変換器68aからの補正量Δθを減算している。ここで、補正量Δθは、d軸電流の制御誤差(d軸電流偏差演算器62の出力)に基づいて演算した位相補正量であり、例えば、d軸電流偏差演算器62の出力をK倍したものである。なおd軸電流は零に制御されるのが一般的なので、d軸電流偏差に代えて、検出したd軸電流を直接使用するようにしてもよい。
【0077】
dq軸座標変換器54には、位相検出部25で検出された位相値θに対して、符号処理を施した位相変換器68aからの補正量Δθを減算して得た位相値(第1演算器69の出力)が入力される。一方、加算器66においては、電圧位相指令生成器65からの出力位相指令θa
*に、位相検出部25で検出された位相値θに対して位相変換器68aからの補正量Δθ(但し、符号処理はされてない)を減算して得た値を加算し、該加算結果が位相θpとしてPWM制御器67に入力される。
【0078】
なお、位相検出部25から出力される位相値θは、あくまでも推定位相であり、d軸電流の制御誤差にゲイン倍した補正量Δθを、位相値θから減算することにより、推定位相の安定化を図ることができる。
【0079】
図10に回生時(Iq<0)の電流ベクトル図を示す。擾乱により、検出位相が実際の電源位相に対して進み方向にずれている場合、図示するように、真のIdは零であるにも関わらずq軸電流の一部がd’軸においてId’(<0)として検出される。なお、d−q軸が理想的な検出電圧の位相とするのに対し、d’−q’軸は、電源回生装置1(電源回生コンバータ)が検出している位相である。
【0080】
d軸の電流指令を、例えば「零」として、d’軸で得られる電流誤差Id_err(=−Id’>0)が発生すると、位相変換器68aから補正量Δθ(>0)が出力され、第1演算器69によって位相検出部25から出力される位相値θはΔθだけ減算されるので(遅れ方向に補正されるので)、誤差を解消する方向に位相が補正される。
【0081】
図11は、力行運転時(Iq>0)の電流ベクトル図である。すなわち、回生時にはq軸電流の符号は負であったが、電動時においては、回生時とは異なりq軸電流の符号は正である。したがって、軸ずれの方向は同じ進み方向でありながらもd’軸に発生する電流誤差Id_err(<0)の符号は異なる。
【0082】
そのため、回生時と同様に補正してしまうと、軸ずれが拡大する方向(進み方向)に補正されることになる。そこで、本実施形態に係る位相補正部68は、符号切替部68bを備える構成としており、力行時は符号切替部68bを介して符号の反転処理を行い、Δθの符号を反転することで補正量Δθの補正方向を切り替えている。
【0083】
なお、電動・回生の切替は、q軸電流の符号により行うとよい。その場合、q軸電流指令値の符号により、もしくはq軸電流検出値の符号により切替を実行することができる。また、q軸電流の絶対値が小さい場合、零クロス点での切替ミスを防止するため、
図12に示すように、不感帯を設けておき、かかる不感帯では補正量Δθを「零」にするようにするとよい。
【0084】
第2演算器70においては、位相変換器68aの出力Δθに対する符号切替処理は不要である。検出位相が実際の電源位相に対して進み方向にずれている場合、回生時(Iq<0)には負のd軸電流が誤検出される(
図10参照)ので位相変換器68aの出力Δθは正となり、交流電圧指令の位相θpをΔθ分だけ遅らせることになる(交流電圧指令はΔθ分だけ時計方向に回転移動する)。その結果、負のd軸電流を抑制させる方向に交流電圧指令が出力されるようになるので、擾乱の発生が抑制される。同様の場合、力行時(Iq>0)には正のd軸電流が誤検出される(
図11参照)ので位相変換器68aの出力Δθは負となり、交流電圧指令の位相θpをΔθ分だけ進ませることになる(交流電圧指令はΔθ分だけ反時計方向に回転移動する)。その結果、正のd軸電流を抑制させる方向に交流電圧指令が動くので、擾乱の発生が抑制される。したがって、いずれの場合においても、位相変換器68aの出力Δθに対する符号切替処理は不要となる。
【0085】
(第2の実施形態)
次に、
図13および
図14を参照しながら、第2の実施形態に係る電源回生装置1の具体的構成の一例について説明する。
図13は、第2の実施形態に係る電源回生装置1の制御部20の具体的構成の一例を示す説明図、
図14は、同第2の実施形態における回生時の電流ベクトル図である。なお、第2の実施形態が第1の実施形態と異なるのは、位相補正部68の具体的な構成のみであり、その異なる点のみを説明する。また、第1実施形態と同一の構成要素については同一の符号を付して、その説明は省略する。
【0086】
図13に示すように、第2の実施形態に係る電源回生装置1の制御部20は、電力変換部10の交流側端子電圧指令の出力電圧位相の補正のみを行うようにして、d軸電流の制御を向上させ、d軸電流の安定性を向上させている。
【0087】
具体的には、図示するように、dq座標変換器54に対しては位相検出部25の出力θがそのまま入力されており、位相補正部68による位相値θの補正は、交流側端子電圧指令の出力電圧位相に対してのみ行われる。
【0088】
かかる構成でも、
図14に示すように、電力変換部10の交流側端子電圧指令は、前述のとおりd軸電流誤差を抑制させる方向に補正されるため、d軸電流の安定性を向上させることができる。
【0089】
なお、第1の実施形態としてdq座標変換部54(第1演算器69)及び交流電圧指令θp(第2演算器70)の双方に対して位相補正を行う実施例を提示し、第2の実施形態として交流電圧指令θp(第2演算器70)に対してのみ位相補正を行う実施例を提示したが、実施形態はこれらに限られるものではない。例えば第3の実施形態として、dq座標変換部54(第1演算器69)に対してのみ位相補正を行う実施形態も容易に導き出すことができる。
【0090】
以上、説明してきたように、実施形態に係る電源回生装置1および電力変換装置5によれば、3相交流電源2と電源回生装置1とを結ぶ経路間に存在する配線のリアクタンス分L
srcに起因して発生する低周波擾乱を、ロバスト性の高い手段によって、きわめて簡単かつ効果的に抑制することができる。
【0091】
なお、さらなる効果や、例えば、電源回生装置及びインバータ装置を備えた電力変換装置を、AC−AC直接変換を特徴とするマトリクスコンバータ装置にしたものなどのさらなる変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。このため、本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付の特許請求の範囲およびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。