(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して、本願の開示する電源回生コンバータおよび電力変換装置の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0013】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る電源回生コンバータの構成例を示す図である。
図1に示すように、第1の実施形態に係る電源回生コンバータ1は、3相交流電源2とインバータ装置3との間に配置され、3相交流電源2とインバータ装置3との間の電力変換を行う。かかる電源回生コンバータ1は、交流電力から直流電力への変換、および、直流電力から交流電力への変換の双方向の電力変換を行うことができる。
【0014】
電源回生コンバータ1およびインバータ装置3によって電力変換装置5が構成され、かかる電力変換装置5は、モータ4を駆動させる力行運転状態と、3相交流電源2へ電源回生を行う回生運転状態とを切り替えて実行する。
【0015】
力行運転時には、電源回生コンバータ1はコンバータ装置として機能し、3相交流電源2から供給される交流電力を直流電力へ変換する。インバータ装置3は、電源回生コンバータ1によって変換された直流電力を交流電力へ変換してモータ4へ供給することによってモータ4を駆動する。
【0016】
一方、回生運転時には、インバータ装置3は、モータ4の減速によってモータ4に生じる誘導起電力を直流電力へ変換するように内部のスイッチング素子を駆動し、直流電力を電源回生コンバータ1へ供給する。電源回生コンバータ1は、インバータ装置3から供給される直流電力を交流電力へ変換して3相交流電源2へ供給することによって電源回生を行う。
【0017】
電源回生コンバータ1は、電力変換部10と、LCLフィルタ20と、電流検出部21と、電源電圧検出部22と、直流母線電圧検出部23と、制御部30とを備える。
【0018】
電力変換部10は、3相交流電源2とインバータ装置3との間に配置される。かかる電力変換部10は、複数のスイッチング素子Q1〜Q6と、複数のダイオードD1〜D6と、平滑コンデンサC1とを備える。
【0019】
複数のスイッチング素子Q1〜Q6は三相ブリッジ接続され、スイッチング素子Q1〜Q6毎にそれぞれダイオードD1〜D6が逆並列に接続される。なお、スイッチング素子Q1〜Q6として、例えば、IGBTやMOSFETなどの自己消弧形の半導体素子が用いられる。
【0020】
LCLフィルタ20は、低域通過特性を持つフィルタであり、電力変換部10と3相交流電源2との間を流れる入出力電流を滑らかにする。かかるLCLフィルタ20は、3相交流電源2のR相、S相およびT相の相毎に、直列接続された複数のリアクトルとリアクトルの直列接続点に一端が接続されたコンデンサとを有し、各相のコンデンサの他端が共通に接続される。
【0021】
具体的には、R相と電力変換部10との間には、直列接続された複数のリアクトルL1r、L2rと、リアクトルL1r、L2rの直列接続点に一端が接続されたコンデンサC1rとが配置される。S相と電力変換部10との間には、直列接続された複数のリアクトルL1s、L2sと、リアクトルL1s、L2sの直列接続点に一端が接続されたコンデンサC1sとが配置される。T相と電力変換部10との間には、直列接続された複数のリアクトルL1t、L2tと、リアクトルL1t、L2tの直列接続点に一端が接続されたコンデンサC1tとが配置される。そして、コンデンサC1r、C1s、C1tの他端が共通に接続される。このようなコンデンサ間の接続をY結線という。なお、コンデンサの接続構成はこれに限られるものではなく、例えば、リアクトルL1rおよびL2rの直列接続点とリアクトルL1sおよびL2sの直列接続点との間にコンデンサC1rを接続し、リアクトルL1sおよびL2sの直列接続点とリアクトルL1tおよびL2tの直列接続点との間にコンデンサC1sを接続し、リアクトルL1tおよびL2tの直列接続点とリアクトルL1rおよびL2rの直列接続点との間にコンデンサC1tを接続するようにしてもよい。このようなコンデンサ間の接続をΔ結線という。
【0022】
電流検出部21は、3相交流電源2のR相、S相およびT相のそれぞれと電力変換部10との間に流れる電流を検出し、かかる検出結果を制御部30に出力する。電流検出部21として、例えば、磁電変換素子であるホール素子を利用して電流を検出する電流センサを用いることができる。
【0023】
電源電圧検出部22は、3相交流電源2から出力される交流電圧の瞬時値を繰り返し継続して検出する。具体的には、電源電圧検出部22は、3相交流電源2のR相、S相およびT相の各相とLCLフィルタ20との間の接続点を監視し、3相交流電源2の各相電圧の瞬時値を検出し、交流電圧検出値V
R、V
S、V
Tとして出力する。交流電圧検出値V
Rは、R相電圧の瞬時値であり、交流電圧検出値V
Sは、S相電圧の瞬時値であり、交流電圧検出値V
Tは、T相電圧の瞬時値である。
【0024】
直流母線電圧検出部23は、電力変換部10のインバータ装置3側の直流電圧の瞬時値を繰り返し継続して検出する。具体的には、直流母線電圧検出部23は、平滑コンデンサC1の端子間電圧値を検出し、直流電圧値Vdcとして制御部30に出力する。
【0025】
制御部30は、位相検出部31と、A/D変換部32と、DCリンク電圧制御部33と、電流制御部34と、駆動制御部35とを備え、電力変換部10を制御する。
【0026】
位相検出部31は、電源電圧検出部22から出力される交流電圧検出値V
R、V
S、V
Tに基づいて、3相交流電源2の電圧位相を検出し、電圧位相検出値θrstとして出力する。この電圧位相検出値θrstは電流制御部34に出力され、電流制御部34における電流制御に用いられる。なお、交流電圧検出値V
R、V
S、V
Tから3相交流電源2の位相を演算する技術は公知であり、位相検出部31は、例えば、PLL(Phase Locked Loop)等により構成される。
【0027】
A/D変換部32は、電流検出部21によって検出されたR相電流、S相電流、T相電流をA/D変換によってデジタル値である相電流検出値I
R、I
S、I
Tに変換する。相電流検出値I
Rは、R相電流の瞬時値であり、相電流検出値I
Sは、S相電流の瞬時値であり、相電流検出値I
Tは、T相電流の瞬時値である。
【0028】
DCリンク電圧制御部33は、図示しない上位コントローラからの直流電圧指令Vdc
*を受け付け、かかる直流電圧指令Vdc
*に基づき、平滑コンデンサC1の端子間電圧を一定に保つように電流指令を出力する。DCリンク電圧制御部33は、電圧調整器(Automatic Voltage Regulator:AVR)であり、直流電圧値Vdcと直流電圧指令Vdc
*とを比較し、例えば、PI制御を行うことによって、d軸電流指令Id
*およびq軸電流指令Iq
*を生成する。q軸電流指令Iq
*は、有効電流の目標電流値であり、d軸電流指令Id
*は、無効電流の目標電流値である。なお、力率を1とする場合、d軸電流指令Id
*はゼロに設定される。
【0029】
電流制御部34は、DCリンク電圧制御部33から出力されるd軸電流指令Id
*およびq軸電流指令Iq
*に応じたd軸電流およびq軸電流が流れるように制御演算し、電圧指令V
R*、V
S*、V
T*を生成する。
【0030】
駆動制御部35は、電流制御部34から出力される電圧指令V
R*、V
S*、V
T*に基づき、各スイッチング素子Q1〜Q6を駆動するPWM信号S1〜S6を生成する。かかるPWM信号S1〜S6は、Highレベルのときにスイッチング素子Q1〜Q6をオン状態にするオン指令になる。
【0031】
第1の実施形態に係る電流制御部34では、LCLフィルタ20を構成するコンデンサC1r、C1s、C1tの端子電圧Vc(リアクトルによる直列接続点の電圧であり、以下、コンデンサ電圧Vcと記載する場合がある)に応じた補償値を演算し、かかる補償値を電圧指令に加算する。これにより、LCLフィルタ20の共振に起因した電流や電圧の振動を抑制することができ、同時に、長距離配線に伴う線路インダクタンス(電源インピーダンス)に起因した電流や電圧の振動をも抑制することができる。以下、電流制御部34について具体的に説明する。
【0032】
図2は、第1の実施形態に係る電流制御部34の構成例を示す図である。
図2に示すように、電流制御部34は、3φ/dq変換器40と、減算器41、42と、電流調整器43、44と、加算器45、46、51、52と、コンデンサ電圧検出器47、48と、乗算器49、50と、dq/3φ変換器53とを備える。なお、加算器45、46と、コンデンサ電圧検出器47、48と、乗算器49、50とを含む構成が、電圧指令補償部の一例に相当する。
【0033】
3φ/dq変換器40は、相電流検出値I
R、I
S、I
Tからq軸電流値Iqとd軸電流値Idとを演算する。具体的には、3φ/dq変換器40は、相電流検出値I
R、I
S、I
Tを固定座標上の直交した2軸のαβ成分へ変換する。そして、3φ/dq変換器40は、位相検出部31によって検出された電圧位相検出値θrstに基づき、αβ軸座標系の成分をdq軸回転座標系のq軸成分およびd軸成分に変換する。
【0034】
減算器41は、q軸電流指令Iq
*とq軸電流値Iqとの偏差であるq軸電流偏差を演算して電流調整器(Automatic Current Regulator:ACR)43へ出力する。電流調整器43はq軸電流偏差を例えばPI制御することによってq軸電流偏差をゼロとするようなq軸電圧指令Vq1
*を生成し、加算器45へ出力する。
【0035】
加算器45は、q軸電圧指令Vq1
*に乗算器49から出力されるq軸補償値Vcmqを加算してq軸電圧指令Vq2
*を生成し、加算器51へ出力する。加算器51は、q軸電圧指令Vq2
*と、図示しない非干渉化制御器によって生成された非干渉化補償値とを加算し、かかる加算結果をq軸電圧指令Vq
*としてdq/3φ変換器53に出力する。
【0036】
なお、加算器51において、例えば、3相交流電源2の実効電圧をq軸電圧指令Vq2
*に加算することで、EMF補償制御を行うこともできる。また、加算器51に対してはω(L+Lg)Idを、加算器52に対しては−ω(L+Lg)Iqをそれぞれ加えることで非干渉化補償を行なうこともできる。非干渉化補償やEMF補償を行わない場合には、電流制御部34に加算器51および加算器52を設けないようにもできる。
【0037】
コンデンサ電圧検出器47は、q軸電圧指令Vq2
*とq軸電流値Iq(q軸電流指令Iq
*で代用することも可)とに基づき、コンデンサ電圧Vcのq軸成分に応じた補償値Vcmq1を生成する。乗算器49は、補償値Vcmq1にゲイン係数Kを乗算してq軸補償値Vcmqを生成する。
【0038】
減算器42は、d軸電流指令Id
*とd軸電流値Idとの偏差であるd軸電流偏差を演算して電流調整器44へ出力する。電流調整器44はd軸電流偏差を例えばPI制御することによってd軸電流偏差をゼロとするようなd軸電圧指令Vd1
*を生成し、加算器46へ出力する。
【0039】
加算器46は、d軸電圧指令Vd1
*に乗算器50から出力されるd軸補償値Vcmdを加算してd軸電圧指令Vd2
*を生成し、加算器52へ出力する。加算器52は、d軸電圧指令Vd2
*と、図示しない非干渉化制御器によって生成された非干渉化補償値とを加算し、かかる加算結果をd軸電圧指令Vd
*としてdq/3φ変換器53に出力する。
【0040】
コンデンサ電圧検出器48は、d軸電圧指令Vd2
*とd軸電流値Id(d軸電流指令Id
*で代用することも可)とに基づき、コンデンサ電圧Vcのq軸に応じた補償値Vcmd1を生成する。乗算器50は、補償値Vcmd1にゲイン係数Kを乗算してd軸補償値Vcmdを生成する。
【0041】
dq/3φ変換器53は、q軸電圧指令Vq
*およびd軸電圧指令Vd
*に基づいて、電圧指令V
R*、V
S*、V
T*を生成して、駆動制御部35に出力する。具体的には、dq/3φ変換器53は、例えば、以下の式(1)、(2)に基づき、電圧指令V
*および位相指令θa
*を演算する。
電圧指令V
*=(Vd
*2+Vq
*2)
1/2 ・・・(1)
位相指令θa
*=tan
-1(Vq
*/Vd
*) ・・・(2)
【0042】
dq/3φ変換器53は、位相指令θa
*に電圧位相検出値θrstを加算して、位相θpを演算する。そして、dq/3φ変換器53は、電圧指令V
*と位相θpとに基づいて、電圧指令V
R*、V
S*、V
T*を求める。例えば、dq/3φ変換器53は、以下の式(3)〜(5)から、R相電圧指令V
R*、S相電圧指令V
S*、およびT相電圧指令V
T*を求める。
V
R*=V
*×sin(θp) ・・・(3)
V
S*=V
*×sin(θp−(2π/3)) ・・・(4)
V
T*=V
*×sin(θp+(2π/3)) ・・・(5)
【0043】
このように、実施形態に係る制御部30は、LCLフィルタ20を構成するコンデンサの端子電圧Vcに応じたq軸補償値Vcmqおよびd軸補償値Vcmdをq軸電圧指令Vq1
*およびd軸電圧指令Vd1
*に加算する。これにより、LCLフィルタ20の共振に起因する、および電源インピーダンスに起因する3相交流電源2側の電流や電圧の振動を抑制することが可能になる。
【0044】
ここで、コンデンサ電圧Vcの検出について説明する。
図3は、3相交流電源2と電力変換部10との間の電流および電圧の関係を示す図である。
図3では、リアクトルL1r、L1s、L1tのインダクタンスを「Lg」、リアクトルL2r、L2s、L2tのインダクタンスを「L」、コンデンサC1r、C1s、C1tのキャパシタンスを「C」、3相交流電源2とLCLフィルタ20との間を接続している線路のインダクタンスLpr、Lps、Lpt(
図1参照)、を「Ls」としている。
【0045】
また、電力変換部10とLCLフィルタ20との間に流れる電流を「I」とし、LCLフィルタ20と3相交流電源2との間に流れる電流を「Ig」としている。また、3相交流電源2とLCLフィルタ20との接続点の電圧を「Vgrid」とし、電力変換部10の交流電圧指令を「Vpwm」とし、3相交流電源2の電圧を「Vgrid’」としている。
【0046】
図3(制御部30において補償値による電圧指令の補正を行わない場合)に示されたLCLフィルタ20のモデルは、下記式(7)のように表すことができる。なお、下記式(7)は、
図4に示すブロック図のように表すことができる。
図4は、
図3に示されたLCLフィルタモデルのブロック図である。
【数1】
なお、キャパシタンスCのコンデンサ3個をΔ結線した回路は、キャパシタンスC/3のコンデンサ3個をY結線した回路と等価である。したがって、コンデンサC1r、C1s、C1tをΔ結線した場合には、コンデンサC1r、C1s、C1tのキャパシタンスの1/3に相当する値を、式(7)記載のキャパシタンスCに代入すればよい。
【0047】
上記式(7)において、LCLフィルタ20におけるリアクトルL2r、L2s、L2tの内部抵抗の抵抗値R
nを無視しない場合、下記式(8)のように表すことができる。
【数2】
【0048】
上記式(8)から、コンデンサ電圧Vcは、下記式(9)のように表すことができる。
【数3】
【0049】
上記式(9)のラプラス変換に基づき、コンデンサ電圧検出器47、48を推定器として下記式(10)のように構成することができる。なお、コンデンサ電圧検出器47、48にはローパスフィルタを挿入しており、ω
nは、コンデンサ電圧検出器47、48に挿入されたローパスフィルタのカットオフ周波数である。
【数4】
【0050】
ここで、コンデンサ電圧検出器47、48の構成について説明する。コンデンサ電圧検出器47とコンデンサ電圧検出器48とは同様の構成であるため、以下においては、コンデンサ電圧検出器47の構成について説明する。
図5は、コンデンサ電圧検出器47の構成例を示す図である。
【0051】
図5に示すように、コンデンサ電圧検出器47は、乗算器61、62、65と、減算器63、66と、加算器64とを備える。
【0052】
乗算器61は、q軸電流値Iqに対してリアクトルL2r、L2s、L2tの内部抵抗値R
nを乗算し、乗算結果IqR
nを出力する。乗算器62は、q軸電流値Iqに対してω
nLを乗算し、乗算結果Iqω
nLを出力する。
【0053】
減算器63は、q軸電圧指令Vq2
*から乗算器61の乗算結果IqR
nを減算し、加算器64は、減算器63の減算結果に乗算器62の乗算結果Iqω
nLを加算する。乗算器65は、加算器64の加算結果にω
n/(s+ω
n)を乗算する。減算器66は、乗算器65の乗算結果から乗算器62の乗算結果を減算する。
【0054】
かかる減算器66の減算結果がコンデンサ電圧検出器47の出力である。コンデンサ電圧検出器47の出力である補償値Vcmq1は、下記式(11)のように表すことができる。かかる式(11)は、上記式(10)に対応する式であり、q軸成分の電圧指令であるq軸電圧指令Vq1
*に対する補償値である。かかる補償値Vcmq1は、q軸成分のコンデンサ電圧Vcqにカットオフ周波数ω
nのローパスフィルタでフィルタリング処理を施した値の推定値である。
【数5】
【0055】
このように、実施形態に係る制御部30では、コンデンサ電圧Vcに応じた補償値を演算し、かかる補償値を電圧指令に加算する。これにより、LCLフィルタ20の共振に起因する電流や電圧の振動、および電源インピーダンスに起因する電流や電圧の振動を抑制することができる。
【0056】
3相交流電源2側の電流や電圧の振動には、LCLフィルタ20の共振に起因する振動と、3相交流電源2とLCLフィルタ20との間の配線距離が長い場合に生じる線路インダクタンスに起因した振動とがある。実施形態に係る電源回生コンバータ1では、共振起因の振動と線路インダクタンス起因の振動とを共に抑制することができる。
【0057】
まず、共振起因の振動が抑制される原理について説明する。制御部30において補償値による電圧指令の補正を行わない場合、LCLフィルタ20のモデルは、上述したように、式(7)のように表すことができる。
【0058】
3相交流電源2とLCLフィルタ20との接続点の電圧Vgridは、3相交流電源2側の線路インダクタンス(以下、電源インピーダンスと記載する)が小さい場合には、振動せず、Vgrid=0(変動成分のみ抽出し、それを上記式(7)で表した場合)である。かかる条件において、上記式(7)をラプラス変換すると、LCLフィルタモデルは、下記式(12)に示すように表すことができる。
【数6】
【0059】
さらに、上記式(12)は、Vc、I、Icを消去すると、下記式(13)のように表すことができる。
【数7】
【0060】
そして、電力変換部10の交流電圧指令Vpwmから、3相交流電源2の電流Ig(以下、系統電流Igと記載する)までの伝達関数Gs1(s)は、下記式(14)のように表すことができる。
【数8】
【0061】
上記伝達関数Gs1(s)は、2次の係数がゼロであることから、減衰が効かない系、すなわち、振動が収まらない系である。そのため、LCLフィルタ20の共振に起因して振動が発生すると考えられる。
【0062】
一方、コンデンサ電圧Vcを推定し、かかるコンデンサ電圧VcにK/(Ts+1)を乗じて、交流電圧指令(
図6のVpwm’)に加算補正を加えるようにすると、LCLフィルタ20のモデルは、
図6に示すブロック図のように表すことができ、また、下記式(15)のように表すことができる。
【数9】
【0063】
上記式(15)から、下記式(16)、(17)が得られる。
【数10】
【0064】
上記式(16)、(17)から、加算補正後の交流電圧指令Vpwmを消去して、下記式(18)が得られる。
【数11】
【0065】
したがって、交流電圧指令Vpwm’から、系統電流Igまでの伝達関数Gs2(s)は、下記式(19)のように表すことができる。
【数12】
【0066】
かかる伝達関数Gs2(s)では、次数sに対して全ての係数が存在する。したがって、減衰のある系、すなわち振動が収まる系であり、減衰の程度は、係数TとKで調整することができ、共振起因の振動を抑制することが可能である。なお、上記式(19)においては、(LT+LgT)sによってダンピング効果を得ることができる。
【0067】
なお、3相交流電源2側の電圧や電流が共振に起因して振動する場合、3相交流電源2側の電圧Vgridを検出し、かかる電圧Vgridをフィードバック制御して共振振動を抑制することが考えられる。しかし、電源インピーダンスが小さい場合、3相交流電源2側の電圧Vgridには、共振成分が現れにくいことから、共振抑制が容易ではない。一方、コンデンサ電圧Vcを推定または直接検出する場合には、電圧Vgridを検出する場合と比較して3相交流電源2側の状態(例えば、電源インピーダンスの大小)に依存しないことから、共振起因の振動を容易に抑制することができる。
【0068】
次に、電源インピーダンス(線路インダクタンス)起因の振動が抑制される原理について説明する。制御部30においてコンデンサ電圧Vcに応じた補償値による電圧指令の補正を行わない場合、電源回生コンバータ1の制御構成は
図7のように表される。
図7は、電圧指令の補正を行わない場合の電源回生コンバータ1の制御構成を示す図である。
【0069】
図7に示すように、電源回生コンバータ1は、DCリンク電圧(直流母線電圧)を制御する電圧調整器(AVR)、電源回生コンバータ1の入出力電流(交流電流)を制御する電流調整器(ACR)および3相交流電源2から供給される交流電圧の位相検出器(PLL)の各制御器から構成される。かかる構成においては、各制御器の応答帯域が干渉しないようにすることで、電源インピーダンスに起因した制御干渉によって生じる振動を抑制できる。
【0070】
例えば、電流調整器が任意の周波数応答ωsを得るように設計されたとすると、電圧調整器の応答はωsの1/5倍、位相検出器の応答はωsの5倍というように設定することで、それぞれ応答帯域の干渉を避けることができる。
【0071】
電流制御の対象になる回路モデルは、上述した
図3に示すように表すことができる。かかる電流制御の対象としては基本波成分のみを考慮する場合、Icに含まれる高調波成分は無視でき(∵電源インピーダンスに起因して生じる振動は低周波である)、Icの基本波成分も小さいことから、I=Igridとみなすことができる。この場合、電流制御のモデル式は、下記式(20)のように表すことができる。なお、Lg’は、LsとLgを加算したインダクタンスである。また、RはリアクトルL(
図1に示すL2r、L2s、L2t)の内部抵抗、R
0は3相交流電源2(Vgrid’)とコンデンサ端子(Vc)との間に存する抵抗分である。
【数13】
【0072】
仮に電源インピーダンスが既知である場合は、電流調整器におけるPI制御は、該応答周波数をωsに設定するためには、インダクタンス(Lg’+L)および内部抵抗(R+R
0)から、以下のように設定することが望ましい。なお、KpはPI制御の比例ゲイン、TiはPI制御の積分時間を表す。
【数14】
【0073】
しかしながら、通常、電源回生コンバータ1は様々な場所に設置されることが想定されるので、電源回生コンバータ1に接続される電源インピーダンスは同じではなく、未知である。そのため、Lを基準に設計してKp=Lωs、Ti=L/Rにする方法が用いられるが、かかる方法では、上記式(22)と比較してゲインKpはLg’の分だけ小さくなり、応答が遅くなる。そのため、インダクタンスLg’(特に、想定外の電源インピーダンスLs)は電流制御系の応答性を低下させることになり、電圧調整器との間で制御干渉を生じさせる要因となってしまう。
【0074】
一方、コンデンサ電圧Vcを推定して交流電圧指令に加算補正した場合、コンデンサ電圧Vcは、3相交流電源2の電源電圧Vgrid’と3相交流電源2側のインダクタンスLg’による電圧変動分となり、下記式(24)のように表すことができる。
【数15】
【0075】
かかるコンデンサ電圧Vcを、交流電圧指令Vpwmに足し合わせると、電流制御のモデル式は、上記式(20)から、下記式(25)のように表すことができる。
【数16】
【0076】
上記式(25)は、上記式(24)から、下記式(26)のように表すことができる。
【数17】
【0077】
上記式(26)を整理すると、下記式(27)のように表すことができる。
【数18】
【0078】
上記式(27)には、電源電圧Vgrid’や3相交流電源2側のインダクタンスLsが含まれていない。そのため、電流制御の設計値は、Kp=Lωs、Ti=L/Rのままに設定することで、電源インピーダンスの有無とは関わりなく、電流応答を設計値ωsどおりに設定することができる。
【0079】
以上のように、本実施形態に係る電源回生コンバータ1は、コンデンサ電圧Vcに応じた補償値を交流電圧指令Vpwm(電圧指令Vq1
*、Vd1
*)に加算する。これにより、電流応答は任意の設計値ωsとすることができ、電流制御系の応答劣化および制御干渉による振動を防ぐことができる。なお、コンデンサ電圧Vcに応じた補償値の加算は、電圧指令Vq1
*、Vd1
*ではなく、例えば、電圧指令Vq
*、Vd
*、あるいは電圧指令V
R*、V
S*、V
T*に対して行うようにしてもよい。
【0080】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態に係る電源回生コンバータについて説明する。第1の実施形態に係る電源回生コンバータ1がコンデンサ電圧Vcを推定するものであるのに対し、第2の実施形態に係る電源回生コンバータ1Aは、コンデンサ電圧Vcを検出するコンデンサ電圧検出部71を備える。なお、第1の実施形態に係る電源回生コンバータ1と同一機能を有する構成要素については同一符号を付し、重複する説明は省略する。また、説明の便宜上、一部の構成は図示していない。
【0081】
図8は、第2の実施形態に係る電源回生コンバータ1Aの構成例を示す図である。
図8に示すように、電源回生コンバータ1Aは、コンデンサ電圧検出部71と、制御部30Aとを備える。
【0082】
コンデンサ電圧検出部71は、コンデンサC1r、C1s、C1tの端子電圧Vcr、Vcs、Vctを検出する。コンデンサ電圧検出部71は、かかる検出結果を固定座標上の直交した2軸のαβ成分へ変換し、さらに、電圧位相検出値θrstに基づきq軸回転座標系のq軸成分およびd軸成分に変換する。q軸成分がq軸コンデンサ電圧検出値Vcqであり、d軸成分がd軸コンデンサ電圧検出値Vcdである。
【0083】
コンデンサ電圧検出部71は、制御部30Aの電流制御部34Aに対して、q軸コンデンサ電圧検出値Vcqおよびd軸コンデンサ電圧検出値Vcdを出力する。電流制御部34Aは、コンデンサ電圧検出器47、48に代えて、ローパスフィルタ(LPF)72、73を備える。
【0084】
LPF72は、q軸コンデンサ電圧検出値Vcqをカットオフ周波数ω
nでフィルタリングして補償値Vcmq1を生成し、LPF73は、d軸コンデンサ電圧検出値Vcdをカットオフ周波数ω
nでフィルタリングして補償値Vcmd1を生成する。そして、乗算器49は、補償値Vcmq1にゲイン係数Kを乗算してq軸補償値Vcmqを生成し、乗算器50は、補償値Vcmd1にゲイン係数Kを乗算してd軸補償値Vcmdを生成する。その他の処理は、第1の実施形態に係る制御部30と同様である。
【0085】
このように、電源回生コンバータ1Aは、検出したコンデンサ電圧Vc(Vcr、Vcs、Vct)をカットオフ周波数ωnでフィルタリングしてゲイン係数Kを乗算して得られる補償値Vcmq、Vcmdを電圧指令Vq1
*、Vd1
*に加算する。これにより、電源回生コンバータ1Aは、電源回生コンバータ1と同様に、電流応答は任意の設計値ωsとすることができ、電流制御系の応答劣化および制御干渉による振動を防ぐことができる。なお、LPF72、73と、乗算器49、50とを含む構成が、電圧指令補償部の一例に相当する。
【0086】
上述した電源回生コンバータ1、1Aでは、さらに、電流調整器43、44におけるPI制御の比例ゲインを調整することで減衰係数を調整できる。このようにすることで、より適切な減衰係数の調整を行うことができる。
【0087】
また、電源回生コンバータ1、1Aでは、非干渉化補償やEMF補償を行うこともできる。
【0088】
コンデンサ電圧Vcを得る方法としては、
図2に記載された電源電圧検出部22によって3相交流電源2とLCLフィルタ20との接続点の電圧(
図3に記載されたVgrid)を検出し、これにインダクタンスLgと系統電流Ig(但し、系統電流Igを検出するための電流検出器を準備しておく)との乗算値を加算する方法も考えられる。
【0089】
さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。このため、本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付の特許請求の範囲およびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。