特許第5665037号(P5665037)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5665037二元系アルミニウム合金粉末焼結材とその製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5665037
(24)【登録日】2014年12月19日
(45)【発行日】2015年2月4日
(54)【発明の名称】二元系アルミニウム合金粉末焼結材とその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 1/04 20060101AFI20150115BHJP
   B22F 1/00 20060101ALI20150115BHJP
   C22C 21/00 20060101ALI20150115BHJP
【FI】
   C22C1/04 C
   B22F1/00 N
   B22F1/00 V
   C22C21/00 M
   B22F1/00 E
【請求項の数】2
【全頁数】36
(21)【出願番号】特願2009-509121(P2009-509121)
(86)(22)【出願日】2008年3月25日
(86)【国際出願番号】JP2008055602
(87)【国際公開番号】WO2008123258
(87)【国際公開日】20081016
【審査請求日】2011年2月9日
(31)【優先権主張番号】特願2007-78283(P2007-78283)
(32)【優先日】2007年3月26日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】独立行政法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 利夫
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 泰祐
(72)【発明者】
【氏名】宝野 和博
(72)【発明者】
【氏名】向井 敏司
【審査官】 河口 展明
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−145921(JP,A)
【文献】 特開平04−026742(JP,A)
【文献】 特開平07−258702(JP,A)
【文献】 特開平08−283921(JP,A)
【文献】 特開平04−028833(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 1/04
B22F 1/00−9/30
C22C 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムと鉄からなる二元系アルミニウム合金であるAl−5at.%Fe合金の粉末焼結材であって、アルミニウムマトリックス中に、粒径1μm以上で体積率が5%未満の粗大粒α−Al相と、ナノ結晶相として、ナノ結晶α−Al相の他に、結晶粒サイズが70〜92nmであり、体積率が3.3%〜19.0%であるAl6Fe相または体積率が8.8%〜17.1%のAl13Fe4相の少なくともいずれか一つの相が混在し、かつAl6Fe相とAl13Fe4相の体積%の合計が23%〜27%であることを特徴とする二元系アルミニウム合金粉末焼結材。
【請求項2】
請求項1に記載の二元系アルミニウム合金であるAl−5at.%Fe合金の粉末焼結材の製造方法であって、アルミニウムと鉄を不活性ガス中でメカニカルアロイニング法によりナノレベルに粉砕しながら混合し、鉄をアルミニウム中に強制的に固溶させ、次いで、混合粉末を真空または不活性ガス中で焼結することを特徴とする二元系アルミニウム合金粉末焼結材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウムに主に鉄のみを含有させた二元系アルミニウム合金に関する。さらに詳しくは、本発明は、希土類元素フリーでありながら優れた高強度を有し、高延性とのバランスの取れた二元系アルミニウム合金粉末焼結材とその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
上記二元系アルミニウム合金には各種のものが知られている。
【0003】
しかしながら、特許文献12−13に記載された溶解、熱処理または加工熱処理プロセスによって達成することのできる強度には限界がある。
【0004】
また、特許文献1−13の記載から確認されるように、2種類の構成元素のみで強度が1GPa程度のバルク形状を有する高強度合金は得られていない。
【0005】
強度の改善のために、特許文献1−5および8−11には、希土類元素を含有させることが記載されているが、鉄よりはるかに希少な元素を用いることは、汎用性を阻害するという欠点がある。
【0006】
また、特許文献1−2に記載されたアルミニウム合金は、比較的高い強度を有するものの、急冷凝固薄帯形状を有するため、現状での実用性は低く、実用化に資するためにはバルク化が必要である。
【0007】
特許文献3−4には、急冷凝固薄帯のバルク化を行うことが記載されているが、そのプロセスは非常に複雑であり、実用性がない。
【0008】
また、特許文献6−7に記載された合金粉末の作製プロセス中における粉末の酸化処理は合金の延性を著しく損なうおそれがある。
【0009】
さらに、特許文献7に記載された分散材の添加は、添加量が過度な場合、機械的特性、特に延性を大きく損なうおそれがある。特許文献12に記載された予備成形、SPSは、二アネットシェイプ成形が可能であるにもかかわらず、その後の超塑性鍛造により成形品を得るので、SPSの特長を十分に活用し切れていない。特許文献11および13に記載された電子ビーム蒸着法は、合金の肉厚を厚くすることが困難なプロセスである。
【0010】
さらにまた、特許文献1−5および9に記載された合金は、アモルファスまたは準結晶相という非平衡組織を有するため、高温における組織の安定性に欠ける。
【特許文献1】特開平5−331584号公報
【特許文献2】特開平5−331586号公報
【特許文献3】特開平1−275732号公報
【特許文献4】特開平6−41702号公報
【特許文献5】特開平6−184712号公報
【特許文献6】特開平7−268401号公報
【特許文献7】特開平9−31567号公報
【特許文献8】特開平8−232032号公報
【特許文献9】特開平9−111313号公報
【特許文献10】特開平6−17180号公報
【特許文献11】特開平8−283921号公報
【特許文献12】特開平11−209839号公報
【特許文献13】特開2003−277866号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、このような事情に鑑み、希土類元素フリーでありながら完全な結晶質の微細組織が形成され、上記の問題を解決した高強度アルミニウム合金粉末焼結材とその製造方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の二元系アルミニウム合金粉末焼結材は、アルミニウムと鉄からなる二元系アルミニウム合金であるAl−5at.%Fe合金の粉末焼結材であって、アルミニウムマトリックス中に、粒径1μm以上で体積率が5%未満の粗大粒α−Al相と、ナノ結晶相として、ナノ結晶α−Al相の他に、結晶粒サイズが70〜92nmであり、体積率が3.3%〜19.0%であるAl6Fe相または体積率が8.8%〜17.1%のAl13Fe4相の少なくともいずれか一つの相が混在し、かつAl6Fe相とAl13Fe4相の体積%の合計が23%〜27%であることを特徴としている。
【0013】
【0014】
本発明の二元系アルミニウム合金粉末焼結材の製造方法は、上記の特徴を有する二元系アルミニウム合金であるAl−5at.%Fe合金の粉末焼結材の製造方法であって、アルミニウムと鉄を不活性ガス中でメカニカルアロイニング法によりナノレベルに粉砕しながら混合し、鉄をアルミニウム中に強制的に固溶させ、次いで、混合粉末を真空または不活性ガス中で焼結することを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明の二元系アルミニウム合金粉末焼結材は、希土類元素フリーでありながら、1GPaまたはそれを超える極めて高い降伏強度を示す。また、圧縮ひずみに対して0.2以上の延性を示し、他の結晶性アルミニウム合金における強度−延性バランスを凌駕する実用性の高いものである。これらの特性は、第2相または第2相とともに第3相が含まれること、そして、それぞれの相の結晶粒がナノスケールにまで微細化されていることによる。
【0016】
また、本発明の二元系アルミニウム合金粉末焼結材は、350℃において500MPa程度の強度を有し、従来のアルミニウム合金の高温における強度を大きく上回るものである。粗大粒α−Al相の体積率を低減させることによって達成される。AlFe相は、600℃程度までは安定な相なので、たとえばエンジン燃焼室内の構造材などに使用しても、上記特性を維持することができると考えられる。
【0017】
本発明の二元系アルミニウム合金粉末焼結材は、Al13Fe4相と少量のAl6Fe相を分散させる形態で強化を図っていた従来のアルミニウム合金と異なり、純Al相より硬く、想定しうる使用温度域(350℃程度)でも安定な金属間化合物相であるAl6Fe相を大量に析出させること、そして結晶粒サイズを70〜92nmにまで微細化することにより、強化を図ったものである。
【0018】
本発明の二元系アルミニウム合金粉末焼結材の製造方法によれば、室温だけではなく、高温環境下においても高い強度と延性を兼ね備える、上記の通りの二元系アルミニウム合金粉末焼結材が作製される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施例1および2ならびに参考例1および2の固化成形プロセスのフローチャートである。
図2】実施例1および2ならびに参考例1および2のAl-5at.%FeのX線回折結果である。
図3】実施例1による焼結体の微細組織を示したSEM像である。
図4】実施例1による焼結体の微細組織を示したBF-TEM像である。
図5】実施例1による焼結体の結晶粒サイズ分布を示したヒストグラムである。
図6】実施例1による焼結体の微細組織を示したFe mapである。
図7】実施例1および2ならびに参考例1および2による焼結体の圧縮応力−ひずみ曲線である。
図8】実施例1および2ならびに参考例1および2による焼結体の破壊後の合金表面を示したSEM像である。
図9参考による焼結体の微細組織を示したSEM像である。
図10参考による焼結体の微細組織を示したBF-TEM像である。
図11参考による焼結体の微細組織を示したDF-TEM像である。
図12参考による焼結体の結晶粒サイズ分布を示したヒストグラムである。
図13参考による焼結体の微細組織を示したSEM像である。
図14参考による焼結体の微細組織を示したBF-TEM像である。
図15参考による焼結体の微細組織を示したDF-TEM像である。
図16参考による焼結体の微細組織を示したFe mapである。
図17参考による焼結体の微細組織の変形が集中した状態を示したSEM像である。
図18参考による焼結体の微細組織の変形を示したSEM像である。
図19参考による焼結体の微細組織の界面剥離を示したSEM像である。
図20参考による焼結体の微細組織の脆性的な破壊をする領域を示したSEM像である。
図21】実施例による焼結体の微細組織を示したSEM像である。
図22】実施例による焼結体の微細組織を示したBF-TEM像である。
図23】実施例による焼結体の微細組織を示したDF-TEM像である。
図24】実施例による焼結体の微細組織を示したDF-TEM像である。
図25】実施例による焼結体の高温における圧縮応力ひずみ曲線である。
図26】表2のNo. 14の焼結体の微細組織を示したSEM像である。
図27】表2のNo. 14の焼結体の微細組織を示したBF-TEM像である。
図28】表2のNo. 14の焼結体の微細組織を示したDF-TEM像である。
図29】表2のNo. 14の微細組織を示したDF-TEM像である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下の記載において、時間表示は10時間を一単位(なお、分での表示は除外)、温度は10℃を一単位として表示している。
(1)微細組織の構成
下記表2に示した各相の体積率およびサイズは以下のように推定したものである。
<体積率>
1)粗大粒α−Al相:試料のSEM像の面積率から画像解析ソフト(Gatan digitalmicrograph)を用いて推定した。
2)Al6Fe相: メカニカルアロイング後の粉末X線回折パターンを解析し、Alマトリックスに固溶しているFeの濃度を推定し、Al6Fe相の体積率を下記式1を用いて算出した。メカニカルアロイングの際にアルミニウム中に固溶したFeは全てAl6Fe相として析出すると仮定している。
(式1)
【0021】
3)Al13Fe4相:マトリックス中に固溶したFeの推定結果を元に、下記式2を用いて算出した。Al6Fe相を形成しなかったFeはAl13Fe4相の形成に供すると仮定している。
(式2)
【0022】
<サイズ>
全ての相において透過型電子顕微鏡像により解析した。
【0023】
ところで、メカニカルアロイングの時間を長時間化することによって、焼結体に見られる主たる第2相粒子は、Al13Fe4相から準安定相であるAl6Fe相へと変化する(表2参照)。
【0024】
Al6Fe相は、600℃程度まで加熱しない限りAl13Fe4相への相変態は起こらないので、Al6Fe相を第2相として含む材料は、ピストン部などの自動車部品に使用された際に想定されるような350℃程度の使用環境においてはAl6Fe相を含む組織であっても問題はない。
【0025】
また、ナノ結晶相の結晶粒径およびAl6Fe相の結晶粒径は、メカニカルアロイングの時間を長時間化することおよび添加するエタノールの量を増加することで微細化する。メカニカルアロイングの時間を長時間化にともない、粗大粒α−Al相の体積率が大きくなる。
【0026】
室温において高強度および高い圧縮延性を達成するためには、表2に示したように、結晶粒の微細化が要求されるが、Al6Fe相の体積率が特に10%程度の場合、80nm程度の結晶粒を分散させることによって、Al-5at.%Fe合金は1GPaに迫る強度を発現する。
【0027】
一方、さらなる結晶粒の微細化は逆に延性の低下を招きやすいので、強度と延性のバランスを取るためには、70〜92nmの結晶粒サイズとする。
【0028】
350℃において0.5GPa程度の強度も発現させるためには、粗大粒α−Al相の体積率を5%未満、好ましくは4%未満、より好ましくは3%以下、さらに好ましくは2%以下にするのが適当である。
【0029】
なお、下記の実施例では、メカニカルアロイングによって強制固溶させることができる最大量のFeを添加し、その後の焼結中において析出しうるAl6Fe相の体積率を最大限に高め、析出による強化の効果を最大限に活用している。
(2)メカニカルアロイングを施す時間
メカニカルアロイングの実施時間を60時間に設定した場合、No. 3(実施例1に相当)についての図3−4および6から明らかなように、延性を損なう原因となるナノ結晶相の集合体よりなる数十μm程度の粗大なAl13Fe4相が多く析出する。メカニカルアロイングを行う時間が短いと、AlとFeの混合が十分に行われないために、FeまたはFe-richの金属間化合物相(AlFe相など)が形成し、焼結後、それらが粗大なAl13Fe4相となり、延性が損なわれる。一方、各相はナノスケールにまで微細化されるので、1GPaに近い高強度が発現する。
【0030】
メカニカルアロイングを100時間(No. 14)、150時間(No. 8、参考に相当)まで延長して行った後、焼結して得られる微細組織は、図26−29および9−12に例示される。
【0031】
図26から確認されるように、100時間のメカニカルアロイングを施した場合、Al13Fe4相は微細化されている。150時間メカニカルアロイングを行った後、焼結して得られる微細組織では、図9のSEM像に見られるように、粗大粒α−Al相(粒径1μm以上)の存在を示唆する黒いコントラストの体積率が10%程度に増加している。
【0032】
また、図27−29および10−12に確認されるように、Nos. 8および14のナノ結晶相の微細組織は、ともにナノ結晶α-Al相とAl6Fe相からなる複相組織である。メカニカルアロイングを施す時間により組織には、構成相に変化が現れることに加え、結晶粒の微細化および第2相であるAl13Fe4相やAl6Fe相の体積率が変化する。
【0033】
結晶粒の微細化によって、さらなる強化が期待されるが、表2に示したように、300時間のメカニカルアロイングの後、焼結した材料は全く延性を示さなくなることから、必要以上の結晶粒の微細化は、同時に塑性変形能を低下させる原因にもなりうる。
(3)メカニカルミリングの際に添加するエタノールの量
表1および2中のNos. 3および5の比較から確認されるように、メカニカルアロイングの時間を60時間に固定し、エタノールの添加量を4,8%と変化させた場合、室温における硬さおよび強度は、エタノールの添加量の増大とともに、上昇する傾向にある。このことから、添加量が多い方が、室温において高い強度を得るために効果的であると考えられる。メカニカルアロイングの時間を60時間より短時間または長時間行った場合にも同じ結果が得られることは推測可能であり、実際に、Nos. 6および8の比較ならびにNo. 12-14の比較から、メカニカルアロイングの時間を150時間および100時間に設定しても推測通りの結果が得られていることが確認される。
【0034】
一方、エタノールの添加量は、強度よりも延性に大きな影響を与えるので、特に延性の維持という観点からは添加量の最適化が必要とされる。表1および2中のNos. 6および8の圧縮特性の比較およびNos. 12-14の圧縮特性の比較から確認されるように、延性維持のためには8%のエタノールを添加することは好ましくない。
【0035】
メカニカルアロイングの時間を長時間化させた場合、エタノールの添加量によっては、粉末がメカニカルアロイング中にCold weldingによって粉末が固化またはポットの内壁に固着してしまうので、良好な粉末を得ることができなくなる場合がある。たとえば、100-150時間のメカニカルアロイングを2%のエタノールを加えて行ったとき、粉末が固化、ポットの内壁に固着してしまい、良好な粉末を得る事ができなかった。エタノールの添加量を4%にしてメカニカルアロイングを行うと、良好な粉末が得られ、しかも固化成形材が高い強度と延性を有する。このことから、室温において延性を保つための最適なエタノール添加量は、粉末総質量の2%超−8%未満、好ましくは4−6%が一応の目安として例示される。
(4)放電プラズマ焼結時の温度および時間
焼結温度および時間については、高密度かつ高い強度−延性バランスを有する焼結体を得るために必要最小限とされる温度および時間を設定することが肝要である。
【0036】
表2のNo. 1のように420℃で5分焼結を行った材料は、Nos. 1-3の比較において最も密度が低いが、圧縮特性については、1GPaに迫る高い強度を示すものの、弾性域内で破壊してしまう。したがって、420℃における焼結は、密度および延性を損なうことになる。また、Nos. 1および3の比較から、焼結温度の上昇によって焼結体は緻密化されるが、硬度は低下する傾向にあり、さらなる焼結温度の上昇は、材料の強度の低下を招くことが推測される。これらのことから、また、使用するタングステンカーバイドのダイスおよびパンチの使用限界に近づくことも考慮すれば、480℃が限界かつ適当な焼結温度の候補として例示される。
【0037】
焼結時間を15分と長くすると、密度に大きな上昇は起こらず、硬度が低下するのみであり、強度を維持することは難しいことが、Nos. 1および2の比較から確認される。硬度の低下の原因は、組織の粗大化であると考えられる。したがって、必要以上の時間をできるだけ避けるべきであると理解される。下記参考で採用している焼結温度480℃のときの焼結時間5分が、メカニカルアロイングを施す時間を踏まえて最適な焼結時間の目安として例示される。
[表1]
【0038】
[表2]
【0039】
[実施例1]
表1および2のNo. 3が実施例1である。
【0040】
図1に示したように、純度99.9%のアルミニウム粉および純度99.99%の純鉄粉を出発材として、メカニカルアロイングを実施した。メカニカルアロイングでは、市販の遊星ボールミルを使用し、ポットおよびボールはステンレス鋼とした。
【0041】
ステンレスボールと混合粉末の質量比が10:1となるように混合粉末を秤量し、粉末質量に対して8%のエタノールを加えた後、アルゴン雰囲気中で容器を密閉後、メカニカルアロイングを開始した。メカニカルアロイングの条件は、毎分300回転、合計60時間とした。
【0042】
メカニカルアロイングの後、粉末を内径10mmのタングステンカーバイド型に入れ、市販の放電プラズマ焼結装置(SPSシンテックス製)を用いて固化を実施した。固化は、10-3Pa以下の真空中において、付加加重を35kN(固化応力として440MPaに相当)とし、保持時間5分、温度480℃として実施した。
【0043】
固化後に得られたバルク材についてX線回折による観察を行ったところ、図2に示したように、メカニカルアロイング直後の粉末には見られなかったAl13Fe4相のピークが確認された。また、図3に示したように、組織は、アルミニウムマトリックス中に数十μm〜1μm程度の集合体となったナノ結晶のAl13Fe4相が分布したものとなっていた。
【0044】
図4および5に示したように、アルミニウムマトリックスは、およそ60 nm程度の結晶粒径を有している。一方、アルミニウムマトリックス中に鉄の存在を確認することができず、図6に示したアルミニウムマトリックス中からのEDS分析においても鉄を検出することができなかった。このことから、ほぼ全ての鉄がAl13Fe4相の形成に供していると理解される。また、図4図中に矢印で示した暗いコントラストを有するナノ結晶相は、図6と照合するとAl13Fe4相であることがわかり、Al13Fe4相はナノ結晶よりなる集合体であることもわかる。
【0045】
また、バルク材について圧縮試験を行ったところ、図7に示したように、およそ960MPaの高い圧縮強度を示したが、4.5%の圧縮ひずみを示した後に破断し、高い延性を得ることはできなかった。また、図8に破壊後の合金の表面のSEM像を示したが、粗大なAl13Fe4相が破壊されており、この破壊が亀裂の進展を促進し、圧縮ひずみの低下の原因となっていると考えられる。
【0046】
なお、得られた固化材の硬さ、圧縮特性ならびに構成する相の体積率およびサイズを表2に示した。Nos. 1, 2, 4, 5は、メカニカルアロイングの時間を実施例1と同じ時間に設定した試験例であり、焼結時間およびエタノール添加の影響が比較から確認される。
参考
表1および2のNo. 6が参考である。
【0047】
実施例1におけるプロセス条件の内、メカニカルアロイングの実施時間のみを150時間に変更し、その他は実施例1と同様の条件においてバルク材を作製した。
【0048】
バルク材についてX線回折による観察を行ったところ、メカニカルアロイングの実施時間を60時間とした場合と異なり、図2に示したように、Al13Fe4相に加えて、メカニカルアロイング直後の粉末には見られなかったAl6Fe相のピークが確認された。
【0049】
組織には、図9に示したように、60時間の場合とは異なり、灰色のコントラストの周囲に黒いコントラストである粗大粒α-Al相が存在し、また、1μm以下の微細なAl13Fe4相が分散している。粗大粒α-Al相の体積率はおよそ9%程度である。図10に示したように、灰色のコントラストの示す領域は、ナノ結晶相からなっている。この領域は、図11および12から、50 nm程度の結晶粒径を有するナノ結晶α-Al相とAl6Fe相からなる複相組織となっていることがわかる。
【0050】
また、バルク材について圧縮試験を行ったところ、図7に示したように、1.2 GPa程度の極めて高い降伏強度を発現し、弾性変形後に即破断した。また、破断時の破壊応力は1.3 GPa近い値となった。破断後は粉砕してしまった。
【0051】
なお、得られた固化材の硬さ、圧縮特性ならびに構成する相の体積率およびサイズを表2に示した。
参考
表1および2のNo. 8が参考である。
【0052】
参考におけるプロセス条件の内、メカニカルアロイングの前に粉末に添加するエタノールの添加量を粉末質量の4%に変更して、参考と同様の条件においてバルク材を作製した。
【0053】
バルク材についてX線回折による観察を行ったところ、メカニカルアロイングの実施時間を60時間とした場合と異なり、図2に示したように、Al13Fe4相に加えて、メカニカルアロイング直後の粉末には見られなかったAl6Fe相のピークが確認された。
【0054】
組織は、図13に示したように、参考のバルク材と非常に類似した組織である。黒いコントラストの粗大粒α-Al相の体積率はおよそ8.8%程度である。
【0055】
図14に示したように、粗大粒α-Al相は結晶2-3μm程度の結晶粒径を有し、灰色のコントラストの示す領域は、図15および16から、80 nm程度の結晶粒径を有するナノ結晶α-Al相を母相とし、Al6Fe相が母相に分散した複相組織となっていることがわかる。複相組織におけるAl6Fe相、Al13Fe4相の占める体積率は、合計で27%程度である。
【0056】
また、バルク材について圧縮試験を行ったところ、図7に示したように、1.0 GPa程度の極めて高い降伏強度を発現し、0.2以上の圧縮ひずみを示した。バルク材の変形過程および破壊面をSEMで観察したところ、図17に示したように、破壊に先立ち、矢印で示すような圧縮方向に45°傾いた向きに変形が集中した。変形が集中する領域では、図18に示したように、まず粗大α-Al相が変形し、その後、図19に示したように、粗大α-Al相とナノ結晶相との界面に剥離が生じて破壊する。
【0057】
図20図中に楕円状に囲んだ領域の破面様相から、脆性的な破壊をするナノ結晶領域の周囲を粗大粒α−Al相から生じたと思われるディンプルが囲んでいることが確認され、粗大粒α−Al相の変形が大きな塑性ひずみをもたらしたものと考えられる。
【0058】
なお、得られた固化材の硬さ、圧縮特性ならびに構成する相の体積率およびサイズを表2に示した。
[実施例
表1および2のNo. 13が実施例である。
【0059】
参考におけるプロセス条件の内、メカニカルアロイングの前に粉末に添加するエタノールの添加量を粉末重量の6%に、メカニカルアロイングの時間を100時間に変更して、実施例1ならびに参考例1および2と同様の条件においてバルク材を作製した。
【0060】
バルク材についてX線回折による観察を行ったところ、メカニカルアロイングの実施時間を60時間とした場合と異なり、図2に示したように、Al13Fe4相に加えて、メカニカルアロイング直後の粉末には見られなかったAl6Fe相のピークが確認された。
【0061】
組織は、図21に示したように、参考およびのバルク材と非常に類似した組織である。一方、参考およびのバルク材と異なり、黒いコントラストの粗大粒α-Al相の体積率は3%以下である。粗大粒α-Al相は、粒径が1μm程度となっている。
【0062】
図22に示したように、図21における灰色のコントラストの示す領域はナノ結晶相からなっている。図23および24から、76nm程度の結晶粒径を有するナノ結晶α-Al相を母相とし、90 nm程度のAl6Fe相が母相に分散した複相組織となっていることがわかる。複相組織におけるAl6Fe相、Al13Fe4相の占める体積率は、合計で23%程度である。
【0063】
また、バルク材について圧縮試験を行ったところ、図7に示したように、1.1GPa程度の極めて高い降伏強度を発現するとともに、0.15程度の圧縮ひずみを示した。350℃における圧縮試験では、図25に示したように、488 MPaの降伏応力、510 MPaの最大応力を示した。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の二元系アルミニウム合金粉末焼結材は、軽量化を要する自動車のエンジン周りの部品である、ピストン、ロータ、ベーン、などに応用が可能である。また、本発明の二元系アルミニウム合金粉末焼結材の製造方法は、上記二元系アルミニウム合金粉末焼結材の製造に有効である。
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