(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5665042
(24)【登録日】2014年12月19日
(45)【発行日】2015年2月4日
(54)【発明の名称】位相保持型ラムゼー法を用いた基準信号発生器および基準信号発生方法
(51)【国際特許分類】
H01S 1/06 20060101AFI20150115BHJP
G04F 5/14 20060101ALN20150115BHJP
【FI】
H01S1/06
!G04F5/14
【請求項の数】14
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2010-196254(P2010-196254)
(22)【出願日】2010年9月1日
(65)【公開番号】特開2012-54433(P2012-54433A)
(43)【公開日】2012年3月15日
【審査請求日】2013年7月26日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用 2010年(平成22年)3月1日 社団法人 日本物理学会発行の「日本物理学会講演概要集 第65巻 第1号 第2分冊 第65回年次大会」197ページに発表 平成22年(2010年)6月23日 社団法人 電気学会主催の「精密周波数の発生と高精度分配のための次世代回路技術調査専門委員会」において文書をもって発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)独立行政法人科学技術振興機構委託「戦略的創造研究推進事業」の一環、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301022471
【氏名又は名称】独立行政法人情報通信研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100082669
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 賢三
(74)【代理人】
【識別番号】100095337
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100095061
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 恭介
(72)【発明者】
【氏名】志賀 信泰
(72)【発明者】
【氏名】竹内 誠
【審査官】
古田 敦浩
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−062554(JP,A)
【文献】
特開2002−232041(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 1/00 − 1/06
G04F 5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の原子の遷移可能な2つのエネルギー準位の重ね合わせ状態の位相変化に発振器の出力信号の位相変化をラムゼー共鳴信号を用いて同期させることで、上記2つのエネルギー準位間の遷移周波数に一致した周波数をもち継続した基準信号を発生する基準信号発生器であって、
上記の同期からのかい離を、上記準位の基底状態(または励起状態)と、該基底状態(または励起状態)との間で遷移可能な上記とは別の励起状態間の共鳴遷移特性を用いて検出する同期かい離検出手段と、
上記の同期を維持するための帰還回路を備え、
上記帰還回路は、上記共鳴特性において、上記共鳴の中心から半値半幅以上離れた周波数位置での分散特性における強度変化を帰還信号として上記発振器の発振 周波数を制御することで、上記基準信号の位相同期を繰り返し行うものであり、
上記のラムゼー共鳴は、上記原子と上記遷移周波数の上記発振器からの出力信号による電磁波との間に起こるコヒーレント振動の周期の4分の1の継続時間の上記電磁波の第1電磁波パルス(π/2パルス)を、基底状態または励起状態にある上記原子に照射して一部の原子を遷移させた後、所定の時間をおいて、第1電磁波パルスと同じ包絡線を持ち電磁波の位相が第1電磁波パルスから90度ずれた第2電磁波パルスを上記原子に照射した後、上記帰還信号を取得するものであり、
上記帰還信号を取得後に、(1)第2電磁波パルスと同じ包絡線を持ち電磁波の位相が第2電磁波パルスから180度ずれた第3電磁波パルスを上記原子に照射し、(2)所定の時間をおいて、(3)再度第2電磁波パルスを上記原子に照射して、(4)再度上記帰還信号を取得するものであり、(1)から(4)を繰り返すものであることを特徴とする位相保持型ラムゼー法を用いた基準信号発生器。
【請求項2】
上記の同期からのかい離を検出するために上記原子にレーザー光を照射し、マッハ・ツェンダー型干渉計を用いて上記の分散特性における強度変化を帰還信号とするものであることを特徴とする請求項1に記載の位相保持型ラムゼー法を用いた基準信号発生器。
【請求項3】
上記の同期からのかい離を検出するために上記原子に偏光を照射し、ファラデー回転を検出して上記の分散特性における強度変化を帰還信号とするものであることを特徴とする請求項1に記載の位相保持型ラムゼー法を用いた基準信号発生器。
【請求項4】
上記の同期からのかい離を検出するために上記原子にレーザー光を照射するものであり、上記原子は該レーザー光の共振器中に配置するものであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1つに記載の位相保持型ラムゼー法を用いた基準信号発生器。
【請求項5】
上記原子は、減圧下でイオントラップに捕らえられたイオン群であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1つに記載の位相保持型ラムゼー法を用いた基準信号発生器。
【請求項6】
上記原子は、減圧下で光格子に捕らえられた原子群であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1つに記載の位相保持型ラムゼー法を用いた基準信号発生器。
【請求項7】
上記原子は、イットリビウムであることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1つに記載の位相保持型ラムゼー法を用いた基準信号発生器。
【請求項8】
2準位のエネルギー準位間の上記遷移周波数はマイクロ波帯にあり、上記帰還信号は、上記原子にレーザー光を照射して取得するものであることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1つに記載の位相保持型ラムゼー法を用いた基準信号発生器。
【請求項9】
2準位のエネルギー準位間の上記遷移周波数はミリ波帯以上の周波数帯にあり、上記帰還信号は、上記原子にレーザー光を照射して取得するものであることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか1つに記載の位相保持型ラムゼー法を用いた基準信号発生器。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれか1つに記載の位相保持型ラムゼー法を用いた基準信号発生器において、
(1)上記原子と上記遷移周波数の電磁波との間に起こるコヒーレント振動の周期の4分の1の継続時間の上記電磁波の第1電磁波パルスを、基底状態または励起状態にある上記原子に照射して一部の原子を遷移させるステップと、
(2)所定の時間放置するステップと、
(3)第1電磁波パルスと同じ包絡線を持ち電磁波の位相が第1電磁波パルスから90度ずれた第2電磁波パルスを上記原子に照射するステップと、
(4)上記帰還信号を取得するステップと、
(5)上記帰還信号によって、上記基準信号の周波数を調整して位相同期を行うステップと、
(6)第2電磁波パルスと同じ包絡線を持ち電磁波の位相が第2電磁波パルスから180度ずれた第3電磁波パルスを上記原子に照射するステップと、
(7)上記(2)から(6)を繰り返すステップと、
を順に含むことを特徴とする位相保持型ラムゼー法を用いた基準信号発生方法。
【請求項11】
請求項1から請求項9のいずれか1つに記載の位相保持型ラムゼー法を用いた基準信号発生器において、
(1)上記原子と上記遷移周波数の電磁波との間に起こるコヒーレント振動の周期の4分の1の時間の上記遷移周波数の第1電磁波パルスを、基底状態にある上記原子に照射して励起するステップと、
(2)所定の時間放置するステップと、
(3)第1電磁波パルスと同じ包絡線を持ち電磁波の位相が第1電磁波パルスから90度ずれた第2電磁波パルスを上記原子に照射するステップと、
(4)上記帰還信号を取得するステップと、
(6)第2電磁波パルスと180度位相がずれ同じ周波数同じ継続時間をもった第3電磁波パルスを上記原子に照射するステップと、
(7)上記(2)から(6)を繰り返すステップと、
を順に含み、
(A)上記帰還信号によって、上記基準信号の周波数を調整して位相同期を行うステップを、
(6)第2電磁波パルスと180度位相がずれ同じ周波数同じ継続時間をもった第3電磁波パルスを上記原子に照射するステップ、または、
(2)所定の時間放置するステップ、
と並列に行うことを特徴とする位相保持型ラムゼー法を用いた基準信号発生方法。
【請求項12】
所定の原子の遷移可能な2つのエネルギー準位の重ね合わせ状態の位相変化に発振器の出力信号の位相変化をラムゼー共鳴信号を用いて同期させることで、上記2つのエネルギー準位間の遷移周波数に一致した周波数をもち継続した基準信号を発生する基準信号発生器であって、
上記の同期からのかい離を、上記準位の基底状態(または励起状態)と、該基底状態(または励起状態)との間で遷移可能な上記とは別の励起状態間の共鳴遷移特性を用いて検出する同期かい離検出手段と、
上記の同期を維持するための帰還回路を備え、
上記帰還回路は、上記共鳴特性において、上記共鳴の中心から半値半幅以上離れた周波数位置での分散特性における強度変化を帰還信号として上記発振器の発振 周波数を制御することで、上記基準信号の位相同期を繰り返し行う位相保持型ラムゼー法を用いた基準信号発生器において、
(1)上記原子と上記遷移周波数の電磁波との間に起こるコヒーレント振動の周期の4分の1の継続時間の上記電磁波の第1電磁波パルスを、基底状態または励起状態にある上記原子に照射して一部の原子を遷移させるステップと、
(2)所定の時間放置するステップと、
(3)第1電磁波パルスと同じ包絡線を持ち電磁波の位相が第1電磁波パルスから90度ずれた第2電磁波パルスを上記原子に照射するステップと、
(4)上記帰還信号を取得するステップと、
(5)上記帰還信号によって、上記基準信号の周波数を調整して位相同期を行うステップと、
(6)第2電磁波パルスと同じ包絡線を持ち電磁波の位相が第2電磁波パルスから180度ずれた第3電磁波パルスを上記原子に照射するステップと、
(7)上記(2)から(6)を繰り返すステップと、
を順に含むことを特徴とする位相保持型ラムゼー法を用いた基準信号発生方法。
【請求項13】
所定の原子の遷移可能な2つのエネルギー準位の重ね合わせ状態の位相変化に発振器の出力信号の位相変化をラムゼー共鳴信号を用いて同期させることで、上記2つのエネルギー準位間の遷移周波数に一致した周波数をもち継続した基準信号を発生する基準信号発生器であって、
上記の同期からのかい離を、上記準位の基底状態(または励起状態)と、該基底状態(または励起状態)との間で遷移可能な上記とは別の励起状態間の共鳴遷移特性を用いて検出する同期かい離検出手段と、
上記の同期を維持するための帰還回路を備え、
上記帰還回路は、上記共鳴特性において、上記共鳴の中心から半値半幅以上離れた周波数位置での分散特性における強度変化を帰還信号として上記発振器の発振 周波数を制御することで、上記基準信号の位相同期を繰り返し行う位相保持型ラムゼー法を用いた基準信号発生器において、
(1)上記原子と上記遷移周波数の電磁波との間に起こるコヒーレント振動の周期の4分の1の時間の上記遷移周波数の第1電磁波パルスを、基底状態にある上記原子に照射して励起するステップと、
(2)所定の時間放置するステップと、
(3)第1電磁波パルスと同じ包絡線を持ち電磁波の位相が第1電磁波パルスから90度ずれた第2電磁波パルスを上記原子に照射するステップと、
(4)上記帰還信号を取得するステップと、
(6)第2電磁波パルスと180度位相がずれ同じ周波数同じ継続時間をもった第3電磁波パルスを上記原子に照射するステップと、
(7)上記(2)から(6)を繰り返すステップと、
を順に含み、
(A)上記帰還信号によって、上記基準信号の周波数を調整して位相同期を行うステップを、
(6)第2電磁波パルスと180度位相がずれ同じ周波数同じ継続時間をもった第3電磁波パルスを上記原子に照射するステップ、または、
(2)所定の時間放置するステップ、
と並列に行うことを特徴とする位相保持型ラムゼー法を用いた基準信号発生方法。
【請求項14】
上記のラムゼー共鳴は、上記原子と上記遷移周波数の上記発振器からの出力信号による電磁波との間に起こるコヒーレント振動の周期の4分の1の継続時間の上記電磁波の第1電磁波パルス(π/2パルス)を、基底状態または励起状態にある上記原子に照射して一部の原子を遷移させた後、所定の時間をおいて、第1電磁波パルスと同じ包絡線を持ち電磁波の位相が第1電磁波パルスから90度ずれた第2電磁波パルスを上記原子に照射した後、上記帰還信号を取得するものであことを特徴とする請求項12あるいは請求項13に記載の位相保持型ラムゼー法を用いた基準信号発生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ラムゼー共鳴を用いた原子時計の安定度向上に関するものであり、特に、位相保持型ラムゼー法を用いた基準信号発生器および基準信号発生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子の遷移周波数を利用する時計には、メーザーやレーザーの様な発光型原子時計、例えばルビジウムに適用されるガスセル型原子時計、例えばセシウムを用いる原子ビーム型原子時計、あるいは、電磁的トラップを用いるトラップ型原子時計などがあり、すでに実用化されている。また、上記の発光型原子時計やガスセル型原子時計は誘導放出を用いるものであり、上記の原子ビーム型原子時計やトラップ型原子時計は、ラムゼー共鳴を用いるものである。本発明は、ラムゼー共鳴を用いる原子時計に関している。
【0003】
対象とする原子に、注目する遷移周波数を搬送波とするパルスを2回当て、その際に見られるラムゼー共鳴を観測して時間基準を得る方法はラムゼー法(Ramsey interrogation method)と呼ばれている。このラムゼー法は、上記の2つのパルス間の時間(プローブ時間)中のローカルオシレーターと原子の位相差を測定する方法である。上記プローブ時間を長くすることで、実質的に共鳴線幅を狭くすることができ、時計の安定度を上げ得ることが知られている。
【0004】
上記プローブ時間を長くするための方法としては、例えば特許文献1(米国特許第6303928B1号明細書)の開示がある。これは、傾斜磁場と円錐形の反射鏡に入射する円偏光のレーザー光とを用いて低速の連続原子ビームを生成するものである。原子ビームを低速にすることによって、上記のプローブ時間を長くすることができる。
【0005】
しかし、そのパルス間の時間の長さは、上記搬送波を発生するローカルオシレーターの出力信号に含まれる位相ノイズによって制限されていた。
【0006】
位相は−πから+πラジアンの値でのみ測定できるため、プローブ時間中に蓄積した位相差がπを超える場合は、正しいフィードバックの信号を得ることができない。つまり、一般に位相差はプローブ時間の増大と共に増大するが、それが±πラジアンを超えないという制約の中でしかプローブ時間を増やすことが出来なかった。
【0007】
本発明では、従来のラムゼー法に非破壊測定を適用して、原子の位相にローカルオシレーターの位相をロックすることを実現し、今まで達成できなかった長いプローブ時間を達成できようにした。これにより、測定時間τが決められている場合の時計の安定度は、従来の方法では測定時間τに比例した回数の測定に対して統計処理を行うため、τ
-1/2で収束するが、本発明の場合は実質的にτまでプローブ時間を長くすることができ、τ
-1で収束する。このように本発明を用いることで飛躍的な改善をもたらすことが出来る。
【0008】
また、捕獲した原子群に、その原子の持つ2準位間の遷移周波数に等しい周波数を持った基準信号による位相0°のπ/2パルスを照射し、時間τの後に、その信号が継続した信号から90度位相のずれた信号による位相90°のπ/2パルスを照射して、上記2準位間の遷移周波数と上記基準信号の周波数が一致するようにした原子時計はすでによく知られている。例えば、特許文献2(米国特許2007/0200643A1号明細書)には、CPT(coherent population trapping)時計として知られる原子時計についての記載がある。これは、原子のもつ2準位を励起し、この励起を、もう一つの準位との光学的共鳴を用いて検出するもので、その応答は、光吸収、磁気選択性、蛍光、などで検出するか、あるいは磁気的に検出するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第6303928B1号明細書
【特許文献2】米国特許2007/0200643A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来、プローブ時間中に蓄積した位相差が±πを超える場合は、正しいフィードバックの信号を得ることができない。つまり、一般に位相差はプローブ時間の増大と共に増大するが、それが±πラジアンを超えないという制約の中でしかプローブ時間を増やすことが出来なかった。
【0011】
本発明では、従来のラムゼー法に非破壊測定を適用して、実質的なプローブ時間について、今まで達成できなかった長いプローブ時間を達成できようにする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
従来は、プローブ時間中のローカルオシレーターと原子の位相差を見ることがなかった。本発明では、プローブ時間中もときどき位相差を非破壊測定によってモニターし、基準信号とのずれを、その基準信号を生成する発振器の位相にフィードバックする。このモニターは、位相差が±πに収まる間隔で行う。これにより、位相差が±πを超える領域にまで実質的なプローブ時間を伸ばすことができる。
【0013】
このため、本発明の位相保持型ラムゼー法を用いた基準信号発生器は、所定の原子の遷移可能な2つのエネルギー準位の重ね合わせ状態の位相変化に発振器の出力信号の位相変化をラムゼー共鳴信号を用いて同期させることで、上記2つのエネルギー準位間の遷移周波数に一致した周波数をもち継続した基準信号を発生する基準信号発生器であって、以下の特徴を持つものである。
まず、上記の同期からのかい離を、上記準位の基底状態(または励起状態)と、該基底状態(または励起状態)との間で遷移可能な上記とは別の励起状態間の分散特性を用いて検出する同期かい離検出手段と、上記の同期を維持するための帰還回路を備える。
また、上記帰還回路は、上記共鳴特性において、上記共鳴の中心から半値半幅以上離れた周波数位置での分散特性における強度変化を帰還信号として上記発振器の出力位相を制御することで、上記基準信号の位相同期を行うことを繰り返すものである。
【0014】
上記のラムゼー共鳴は、上記原子と上記遷移周波数の上記発振器からの出力信号による電磁波との間に起こるコヒーレント振動の周期の4分の1の継続時間の上記電磁波の第1電磁波パルスを、基底状態または励起状態にある上記原子に照射して一部の原子を遷移させた後、所定の時間をおいて、第1電磁波パルスと同じ包絡線を持ち電磁波の位相が第1電磁波パルスから90度ずれた第2電磁波パルスを上記原子に照射した後、上記帰還信号を取得するものである。
【0015】
また、上記帰還信号を取得後に、(1)第2電磁波パルスと同じ包絡線を持ち電磁波の位相が第2電磁波パルスから180度ずれた第3電磁波パルスを上記原子に照射し、(2)所定の時間をおき、この間に帰還信号によって、上記基準信号の位相同期を行い、(3)再度第2電磁波パルスを上記原子に照射して、(4)再度上記帰還信号を取得するものであり、(1)から(4)を繰り返すものである。
【0016】
上記の同期からのかい離を検出するために、上記原子にレーザー光を照射しマッハ・ツェンダー型干渉計を用いて上記の分散特性における強度変化を帰還信号とするか、或いは上記原子に直線偏光のレーザーを照射し、ファラデー回転を検出する。これによって、上記の分散特性における強度変化を帰還信号とすることができる。また、上記の同期からのかい離を検出するにあたり、特に、上記原子にレーザー光を照射する場合に、上記原子をそのレーザー光の共振器中に配置することで、帰還信号を増大させることができる。
【0017】
上記原子は、例えば、減圧下でイオントラップに捕らえられたイオン群である。あるいは、上記原子は、減圧下で光格子に捕らえられた原子群であってもよい。
【0018】
上記原子が、イットリビウムである場合に、上記2準位系の遷移周波数として、マイク口波帯のものか可視光帯のものかから選択することができる。
【0019】
2準位のエネルギー準位間の上記遷移周波数はマイクロ波帯にあり、上記帰還信号は、上記原子にレーザー光を照射し分散強度や偏光方向を観測して取得するものである。
【0020】
また2準位のエネルギー準位間の上記遷移周波数はミリ波帯以上の周波数帯にあるものを用いることで、より正確な基準信号発生器を構成することができる。この場合、上記帰還信号は、上記原子にレーザー光を照射するか、その他の波長の光を照射して取得してもよい。
【0021】
上記の位相保持型ラムゼー法を用いた基準信号発生器を用いて基準信号を発生させには、次の手順に従う。
(1)上記原子と上記遷移周波数の電磁波との間に起こるコヒーレント振動の周期の4分の1の継続時間の上記電磁波の第1電磁波パルスを、基底状態または励起状態にある上記原子に照射して半励起の重ねあわせ状態を生成する。
(2)所定の時間放置する。
(3)第1電磁波パルスと同じ包絡線を持ち電磁波の位相が第1電磁波パルスから90度ずれた第2電磁波パルスを上記原子に照射する。
(4)上記帰還信号を取得する。
(5)上記帰還信号によって、上記基準信号の位相同期を行う。
(6)第2電磁波パルスと同じ包絡線を持ち電磁波の位相が第2電磁波パルスから180度ずれた第3電磁波パルスを上記原子に照射する。
(7)上記(2)から(6)を繰り返す。
【0022】
上記の位相保持型ラムゼー法を用いた基準信号発生器を用いて基準信号を発生させには、次の手順に従ってもよい。
(1)上記原子と上記遷移周波数の電磁波との間に起こるコヒーレント振動の周期の4分の1の時間の上記遷移周波数の第1電磁波パルスを、基底状態にある上記原子に照射して励起する。
(2)所定の時間放置する。
(3)第1電磁波パルスと同じ包絡線を持ち電磁波の位相が第1電磁波パルスから90度ずれた第2電磁波パルスを上記原子に照射する。
(4)上記帰還信号を取得する。
(6)第2電磁波パルスと180度位相がずれ同じ周波数同じ継続時間をもった第3電磁波パルスを上記原子に照射する。
(7)上記(2)から(6)を繰り返す。
ここで、上記の(5)であった、
(A)上記帰還信号によって、上記基準信号の位相同期を行うことについては、
(6)第2電磁波パルスと180度位相がずれ同じ周波数同じ継続時間をもった第3電磁波パルスを上記原子に照射するステップ、または、
(2)所定の時間放置するステップ、
と並列に行うことで、上記発振器の発振周波数を調整して発振信号の位相を調整する期間を充分長くとることができる。
【発明の効果】
【0023】
従来のラムゼー法ではローカルオシレーターの位相ノイズによってプローブ時間の最大値が決まっていた。本発明では、この最大値を超えてプローブ時間を長くすることができ、より安定度の高い原子時計を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の位相保持型ラムゼー法を用いた基準信号発生器の例を示す図である。これは、線形イオントラップ10に捕獲されたイットリビウム171(
171Yb+)イオンのもつS
1/2の超微細構造の遷移周波数12.6GHzに、セシウム発振器(或いは他の参照発振器)1とダイレクトデジタルシンセサイザー(或いは他の周波数及び位相可変シンセサイザー)3の和周波数を出力するローカル発振器20の出力する基準信号の周波数を一致させるものである。この一致は、上記ローカル発振器20の出力信号を上記Ybイオンに照射してS
1/2の超微細構造間の遷移を起こし、レーザー光源5からのレーザー光を用いてそのS
1/2の基底状態とP
1/2の基底状態間の波長370nmの遷移を受光器6と同期かい離検出手段7で観測して確認する。この同期かい離検出手段7の出力を帰還信号として、ダイレクトデジタルシンセサイザー3の出力信号の周波数を調整することで位相の同期を実現する。
【
図2】対象となるイットリビウム(Yb+)イオンの量子準位とその遷移周波数あるいは遷移波長を示す図である。
【
図3】本発明の位相保持型ラムゼー法を用いた基準信号発生器を用いて基準信号を発生させる手順を示す図である。(a)では、(1)位相0°のπ/2パルスを、基底状態にある上記原子に照射して半数の原子を遷移させる。(2)所定の時間(プローブ時間1)放置する。(3)位相+90°のπ/2パルスまたは位相−90°のπ/2パルスを上記原子に照射する。(4)非破壊測定を行って帰還信号を取得する。ここで、位相+90°のπ/2パルスまたは位相−90°のπ/2パルスによって、帰還信号の極性を変えるものとする。(5)上記帰還信号によって、基準信号発生器の周波数を制御して上記基準信号の位相同期を行う。(6)(3)のパルスとは位相が180°ずれたπ/2パルスを上記原子に照射する。(7)上記(2)から(6)を繰り返す。この際、プローブ時間は、上記のプローブ時間1と同じにする必要はない。また、(b)では、初めに上記原子を励起状態にするもので、ここではπ/2パルスを2つ照射している。
【
図5】本発明の位相保持型ラムゼー法を用いた基準信号発生器における2準位系の状態の変化を示す図である。(a)基底状態にある2準位系の遷移周波数の電磁波の位相0°のπ/2パルスを照射する。このときのブロッホ球で矢印の位置は、上記遷移周波数で回転する回転座標系から見た場合、(b)に示すように赤道上であるが、これをx軸の方向とする。その後、しばらくの間(プローブ時間)放置する。上記の遷移周波数と照射する電磁波の周波数との間に僅かなずれがある場合には、プローブ時間で矢印位置と上記電磁波との間で位相のずれが発生するので、(c)に示すように、矢印位置はx軸方向からずれる。このプローブ時間中の状態密度の緩和が無視できる場合には、90度位相のずれた(例えば、進んだ、あるいは、遅れた)電磁波のπ/2パルス(以下、位相+90°のπ/2パルスあるいは位相−90°のπ/2パルスと表記)を照射することで、(d)に示すように、上記の位相のずれが、z軸上の値に転写される。(e)このz軸上の値を非破壊測定によって2準位系の状態密度分布をなるべく変えない様に行う。その後、上記電磁波の周波数を補正し、(f)上記の位相±90°のπ/2パルスから180度位相のずれた電磁波のパルス(−90°或いは+90°π/2パルス)を生成し、これを照射して、ブロッホ球の矢印位置を赤道上に戻す。この後、上記と同様に、しばらくの間(プローブ時間2)放置する。上記の周波数の補正は、このプローブ時間2に行ってもよい。また、プローブ時間1、2は、必ずしも同じである必要はない。上記周波数と上記電磁波の周波数が僅かに異なっているときには、この放置によって、矢印位置はx軸方向からずれるので、再び位相+90°のπ/2パルスあるいは位相−90°のπ/2パルスを照射して非破壊測定を行い、帰還回路8を通じて、ダイレクトデジタルシンセサイザー3に帰還信号を伝送し、電磁波の周波数を補正する。
【
図6】(b)は、同期かい離検出手段7を用いて、非破壊測定用共鳴線の中心部を避けて測定することを示す図である。(a)は、2準位系の上記基底状態|g>ともうひとつ別の励起状態|e1>間の遷移を用いて非破壊測定を行うための遷移を示す図である。この遷移による吸収スペクトルが非破壊測定の共鳴線となる。このとき用いる非破壊測定光としては、上記遷移の周波数よりも低または高エネルギー側の非破壊測定光A、または非破壊測定光Bを用いることができる。非破壊測定光としては、上記共鳴線の線幅の1/10以下程度の線幅を持ったレーザー光でよい。また、上記非破壊測定用分散曲線の左右どちらか一方でも、両方を用いてもよい。上記の非破壊測定用共鳴線と非破壊測定光とのそれぞれの中心は、上記非破壊測定用共鳴線の半値幅以上離れているものとする。このように離調させることによって、被測定用共鳴線によるエネルギーの吸収を抑制することができ、従って、上記2準位の状態密度分布を殆ど変えずに上記非破壊測定を行うことができ、さらに繰り返し上記非破壊測定を行うことができる。
【
図7】(b)は、対象となる原子がもつ分散特性の変化を検出するために、マッハ・ツェンダー型干渉計の中にイオントラップを配置したものである。(a)は、同期かい離を評価するために用いる遷移を示す。基底準位から遷移先の準位への遷移周波数に近い電磁波としては、その遷移周波数よりも高いまたは低い、非破壊測定用光AまたはBのどちらの位置の光でも適用することができる。
【
図8】(b)は、ファラデー回転を観測して同期かい離を評価するものである。ファラデー回転を観測するための構成としては、
図1の線形イオントラップ10において、イオン群がトラップされた位置にレーザー光線に沿った磁界を印加する。この磁界によって、(a)に示すように、2準位系の上記基底状態から遷移するもうひとつ別の準位でゼーマン分裂が引き起こされる。このため、基底状態からゼーマン分裂した3状態への遷移周波数に近い電磁波を用いることになるが、(a)に示す非破壊測定用光A、B、Cのどの位置の光でも適用することができる。。上記原子は、レーザー光に沿った磁界中に置くこともある。
【
図9】光格子を示す模式図である。この光格子は、対向方向から光を照射して定在波を生じさせ、その定在波で作られる光の格子状の強度分布を用いて中性原子やイオンを捕捉するものである。
【
図10】従来のCPT時計などの原理を示す図である。対象とする中性原子やイオンに、まず、2準位系の遷移周波数の電磁波のπ/2パルスを照射して、しばらくの間放置(自由緩和)した後、90度位相の遅れた電磁波のπ/2パルスを照射した後、非破壊測定を行う。この非破壊測定は、もうひとつ別の準位との遷移を観測して、2準位系の状態密度を観測するものである。
【
図11】非破壊測定用のレーザー光の共振器中に、対象となる原子が配置されるようにした線形イオントラップを示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下に、この発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の説明においては、同じ機能あるいは類似の機能をもった装置に、特別な理由がない場合には、同じ符号を用いるものとする。
【実施例1】
【0026】
図1に、本発明の位相保持型ラムゼー法を用いた基準信号発生器の例を示す。また、
図2に対象となるイットリビウム171(
171Yb+)イオンの量子準位とその遷移周波数あるいは遷移波長を示す。これは、線形イオントラップ10に捕獲されたイットリビウム(Yb+)イオンのもつS
1/2の超微細構造間の遷移周波数12.6GHzに、セシウム発振器1とダイレクトデジタルシンセサイザー3の和周波数を出力するローカル発振器20の出力する基準信号の周波数を一致させるものである。この一致は、上記ローカル発振器20の出力信号を上記Ybイオンに照射してS
1/2超微細構造間の遷移を起こし、レーザー光源5からのレーザー光を用いてそのS
1/2の基底状態とP
1/2の基底状態間の波長370nmの遷移を受光器6と同期かい離検出手段7で観測して確認する。この同期かい離検出手段7の出力を帰還信号として、ダイレクトデジタルシンセサイザー3の出力信号の周波数を調整する。これは、CPT(coherent population trapping)時計として知られる原子時計と同様な構成である。
【0027】
一般に、2準位系に、その遷移周波数を同じ周波数の電磁波を照射することで、コヒーレント振動が観測される。このコヒーレント振動の周期の1/4の継続時間のパルスは、π/2パルスと呼ばれる。また、ここで言う高周波信号のパルスとは、高周波信号の包絡線がパルスの形状のときである。
【0028】
従来のラムゼー法は、
図10に示すように、対象とする中性原子やイオンに、まず、2準位系の遷移周波数の電磁波のπ/2パルス(以下の記載との兼合いから、位相0°のπ/2パルス、と記す)を照射して、しばらくの間放置(自由緩和)した後、90度位相の遅れた電磁波のπ/2パルス(つまり、位相90°のπ/2パルス)を照射した後、射影測定を行う。この射影測定は、もうひとつ別の準位との遷移を観測して、2準位系の状態密度を観測するものである。このラムゼー法は位相差を測定するものであり、その仕組を以下に詳しく説明する。
【0029】
図4(a)は、基底状態|g>と励起状態|e>との2準位間を遷移周波数ω
0で遷移する旨を示す。原子群の状態は、よく知られているように、次のように重ね合わせで表すことができる。
【0030】
【数1】
【0031】
図4は、この状態の回転座標系からみた係数をブロッホ球の位置で表したものである。このようにブロッホ球上で2準位表現することで、z軸上に基底状態と励起状態をとり、その中間位置はその重ね合わせであり、赤道上は位相の違いを別にして同じ比重で重ねあわされた場合で、x軸を位相0°の場合、y軸は、それから90度位相がずれた場合と定義する。
【0032】
また、この2準位系が共鳴する遷移周波数ω
0の電磁波をその原子群に照射することにより、分布密度が基底状態と励起状態とで振動するコヒーレント振動が引き起こされることも知られている。この振動周期の1/4、つまりπ/2ラジアンの間の照射(以下、π/2パルス)で、上記の赤道上に分布密度を設定することができることもよく知られている。
図5(a)と
図5(b)は、この振動の周期の基底状態から赤道上の状態へ分布が変化する様子を表している。
【0033】
従来のラムゼー法は、対象とする中性原子やイオンに、まず、
図5(a)に示すように基底状態にある2準位系の遷移周波数の電磁波のπ/2パルスを照射する。このときのブロッホ球で矢印の位置は、上記遷移周波数で回転する回転座標系から見た場合、
図5(b)に示すように赤道上であるが、これをx軸の方向とする。その後、しばらくの間(プローブ時間)放置する。上記の遷移周波数と照射する電磁波の周波数との間に僅かなずれがある場合には、プローブ時間で矢印位置と上記電磁波との間で位相のずれが発生するので、
図5(c)に示すように、矢印位置はx軸方向から赤道上でずれる。このプローブ時間中の状態密度の緩和が無視できる場合には、90度位相のずれた(例えば、進んだ、あるいは、遅れた)電磁波のπ/2パルス(以下、位相+90°のπ/2パルスあるいは位相−90°のπ/2パルスと表記)を照射することで、
図5(d)に示すように、上記の位相のずれが、z軸上の値に転写される。このz軸上の値を射影測定によって測定する。この射影測定によって、位相のずれが判明し、従って、上記遷移周波数からの上記電磁波の周波数のずれが明らかとなるので、これを補正する。このπ/2パルスの照射から補正までを繰り返すことで、原子時計を実現していた。
【0034】
従来は、射影測定を用いて上記基底状態または励起状態と、もうひとつ別の準位との遷移を、観測して上記基底状態または励起状態の占有率を決定していた。この観測は、上記電磁波の周波数がその2準位系の遷移周波数と一致しているかどうかを共鳴線の中心で見るものであった。このように共鳴線の中心で観測することで、高い信号対雑音比が得られる。しかし、エネルギーの吸収を伴うので、2準位系の状態密度分布を変えてしまうため、有効な射影測定は1度限りしかできないという欠点があった。
【0035】
これに対して、本発明の測定には非破壊測定を用い、2準位系の状態密度分布を変えない様に行う。その後、上記電磁波の周波数を補正し、上記のπ/2パルスから180度位相のずれた電磁波のパルス(位相−90°または+90°のπ/2パルス)を生成し、これを照射して、ブロッホ球の矢印位置を赤道上の元の位置に戻す。この後、上記と同様にしばらくの間(プローブ時間2)放置する。上記の周波数の補正は、このプローブ時間2に行ってもよい。また、プローブ時間1、2は、必ずしも同じである必要はない。上記周波数と上記電磁波の周波数が僅かに異なっているときには、この放置によって、矢印位置はx軸方向からずれるので、再び位相+90°のπ/2パルスあるいは位相−90°のπ/2パルスを照射して転写を行い、
図1の帰還回路8を通じて、ダイレクトデジタルシンセサイザー3に帰還信号を伝送し、電磁波の周波数を補正する。ここで、上記の各種パルスは、パルス制御信号によってダイレクトデジタルシンセサイザー3を制御して、生成するものである。
【0036】
ここで、上記の非破壊測定においては、
図1の同期かい離検出手段7を用いて、
図6に示すように、非破壊測定用共鳴線の中心部を避けて測定する。
図6(a)は、2準位系の上記基底状態ともうひとつ別の励起状態と間の遷移を用いて非破壊測定を行うための遷移を示す図である。この遷移による分散スペクトルを用いて非破壊測定を行う。このとき用いる非破壊測定光としては、上記の遷移の吸収線幅の1/10以下程度の線幅を持ったレーザー光で、上記のレーザー光の周波数は遷移の共鳴周波数から上記非破壊測定用共鳴線の半値幅以上離れているものとする。このように離間させることによって、被測定用共鳴線によるエネルギーの吸収を抑制することができ、従って、上記2準位の状態密度分布を殆ど変えずに上記非破壊測定を行うことができ、さらに繰り返し上記非破壊測定を行うことができる。よって、上記2順位の状態密度分布の変化が測定系のS/Nを超えない間は測定の精度を損なうこと無くプローブ時間を長くしているに等しい効果を得ることが出来る。
【0037】
従って、上記の位相保持型ラムゼー法を用いた基準信号発生器を用いて基準信号を発生させるには、
図3(a)に示す様に、次の手順に従う。
(1)π/2パルスを、基底状態にある上記原子に照射して半励起の重ねあわせ状態を生成する。
(2)所定の時間(プローブ時間1)放置する。
(3)位相+90°のπ/2パルスまたは位相−90°のπ/2パルスを上記原子に照射する。
(4)非破壊測定を行って帰還信号を取得する。ここで、位相+90°のπ/2パルスまたは位相−90°のπ/2パルスによって、帰還信号の極性を変えるものとする。
(5)上記帰還信号によって、基準信号発生器の周波数を制御して上記基準信号の位相同期を行う。
(6)位相−90°のまたは位相+90°のπ/2パルスを上記原子に照射する。
(7)上記(2)から(6)を繰り返す。この際、プローブ時間は、上記のプローブ時間1と同じにする必要はない。
【0038】
また、
図3(b)に示す様に、当初、π/2パルスを2つ照射することによって、上記原子を励起状態にすることは容易である。この場合も、上記(1)から(7)の手順を適用することができる。
【0039】
また、
図5から明らかなように、(7)における繰り返しにおいて、位相+90°のπ/2パルスと位相−90°のπ/2パルスを交互に用いることにより、(4)の転写の過程で上記原子の受け得る摂動を交互に相殺することもできる。
【0040】
ここで、上記の(5)であった、
(A)上記帰還信号によって、上記基準信号の位相同期を行うことについては、
(6)180°π/2パルスを上記原子に照射するステップ、または、(2)所定の時間放置するステップ、
と並列に行うことで、非破壊測定を行うため帰還信号に反映されない期間を縮小し、また、上記発振器の発振周波数を調整して発振信号の位相を調整する期間を充分長くとることができる。
【実施例2】
【0041】
上記の非破壊測定では、上記基底状態または励起状態ともうひとつ別の準位との間の遷移を観測して上記基底状態または励起状態の占有率を決定するものである。ただし、この観測は、上記電磁波の周波数がその2準位系の遷移周波数と一致しているかどうかを、共鳴線の中心から半値半幅以上ずれた点で見るものであった。
【0042】
上記基底状態または励起状態ともうひとつ別の準位との間の遷移を観測して上記基底状態または励起状態の占有率を非破壊的に決定するためには、マッハ・ツェンダー型干渉計を用いる方法や、ファラデー回転を観測する方法を適用することができる。
【0043】
図7は、対象となる原子がもつ分散特性の変化を検出するために、マッハ・ツェンダー型干渉計の中に線形イオントラップを配置したものである。よく知られているように、
図6(b)に示す共鳴吸収線の位置での分散特性は、大きな波長分散を示す。非破壊測定光AまたはBの位置での屈折率の変化による位相変化を自由空間のみを通過する光の位相変化と比べるものである。上記の非破壊測定光A、Bとしては、例えば、上記の遷移の吸収線幅の1/10以下程度の線幅を持ったレーザー光で、上記のレーザー光の周波数は遷移の共鳴周波数から上記非破壊測定用共鳴線の半値幅以上離れているものとする。
【0044】
また、
図8は、ファラデー回転を観測して同期かい離を評価するものである。ファラデー回転を観測するための構成としては、
図1の線形イオントラップ10において、イオン群がトラップされた位置にレーザー光線に沿った磁界を印加する。この磁界によって、
図8(a)に示すように、2準位系の上記基底状態から遷移するもうひとつ別の準位でゼーマン分裂が引き起こされる。このため、基底状態からゼーマン分裂した3状態への遷移周波数に近い電磁波を用いることになるが、
図8(a)に示す非破壊測定用光A、B、Cのどの位置の光でも適用することができる。この波長の直線偏光を照射すると、その直線偏光が回転するという旋光性が生じる。従って、この旋光性を観測することによって、上記の非破壊測定を行うことができる。この方法は原子の量子状態を乱すことなく測定することが出来る、という特徴がある。
【0045】
この旋光性は、
図7(b)に示す様に、直線偏光の上記の遷移周波数を持った光を、イオン群に、磁界方向に沿って照射し、その透過光を、1/2波長板と偏光プリズムに通して、それぞれの偏光を光電変換し、その電気信号を差動増幅するものである。
【実施例3】
【0046】
上記の説明においては、イオントラップに捕捉されたイオン群を用いる例を示したが、中性原子を用いる場合には、
図9に例示する光格子を用いることができる。この光格子は、対向方向から光を照射して定在波を生じさせ、その定在波で作られる光の格子状の強度分布を用いて中性原子やイオンを捕捉するものである。
【0047】
このような光格子の場合、捕獲したSrやYb中性原子群を用いて原子時計とすることができる。この場合、上記の非破壊測定には、実施例2に示したファラデー回転を用いることができる。
【0048】
上記の非破壊測定において信号対雑音比(S/N)を改善することは、測定対象となる原子を光共振器中に置くこことで実現できる。これは、光強度を増大させること自体に加えて、この光強度の増大によって、分散振幅がより増大することを利用できるためである。
図11は、非破壊測定用のレーザー光の共振器中に線形イオントラップを配置した例を示す。
【産業上の利用可能性】
【0049】
原子時計が応用先である。原子時計は単に時計として情報通信の分野で用いられるだけではなく、位置の測定や長さの測定の基準になるもので、その利用例は多岐に渡る。具体的にはGPSやVLBlなどの基準となる時計に応用されたり、チップスケール原子時計に応用されたりし得る。又インターネットのタイムスタンプを正確に記録、分配する用途に使われる。
【符号の説明】
【0050】
1 光源
2 データバス
3 ダイレクトデジタルシンセサイザー
4 増幅器
5 レーザー光源
6 受光器
7 同期かい離検出手段
8 帰還回路
10 線形イオントラップ
20 ローカル発振器