(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5665076
(24)【登録日】2014年12月19日
(45)【発行日】2015年2月4日
(54)【発明の名称】GaAsの液相エピタキシャル成長法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/208 20060101AFI20150115BHJP
C30B 29/42 20060101ALI20150115BHJP
C30B 19/10 20060101ALI20150115BHJP
G02F 1/015 20060101ALI20150115BHJP
【FI】
H01L21/208 L
C30B29/42
C30B19/10
G02F1/015 501
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2010-122759(P2010-122759)
(22)【出願日】2010年5月28日
(65)【公開番号】特開2011-249650(P2011-249650A)
(43)【公開日】2011年12月8日
【審査請求日】2013年5月28日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用 平成21年12月21日 http://jjap.ipap.jp(The Japan Society of Applied Physics)を通じて発表
(73)【特許権者】
【識別番号】500433225
【氏名又は名称】学校法人中部大学
(74)【代理人】
【識別番号】100087723
【弁理士】
【氏名又は名称】藤谷 修
(72)【発明者】
【氏名】脇田 紘一
(72)【発明者】
【氏名】高橋 誠
【審査官】
境 周一
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭63−131513(JP,A)
【文献】
特開昭62−030693(JP,A)
【文献】
特開平01−133994(JP,A)
【文献】
特開平10−053488(JP,A)
【文献】
特開昭60−115271(JP,A)
【文献】
T.AMANO(他3名),Ultrahigh Purity Liquid Phase Epitaxial Growth of GaAs,Japanese Journal of Applied Physics,日本,応用物理学会,1993年 9月,Vol.32, Part 1, No.9A,pp.3692-3699
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/02−21/98
C30B 1/00−35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ga及びGaAsを設置した試料台を反応管内部に挿入して、加熱してGa及びGaAsを溶液とした後、冷却させながら、試料台上に設けられたGaAs半導体基板に、溶液を接触させて、該GaAs半導体基板の表面にGaAsのエピタキシャル成長層を形成するGaAsの液相成長法において、
前記試料台上に、Ga及びGaAsを配置して、少なくとも水素を含むキャリアガスを流した雰囲気において、第1温度で加熱する高純度化工程と、
前記高純度化工程の後に、冷却した後、前記反応管から試料台を取り出し、GaAs半導体基板を、その表面が前記融液に触れる前には環境に曝されないように、その表面を他のGaAs基板で覆った状態で、前記試料台に設置して、前記反応管に戻した後、前記キャリアガスを流した雰囲気において、前記エピタキシャル成長層の成長を開始させる成長開始温度以上の第2温度で加熱する前加熱工程と、
雰囲気温度を前記第2温度から冷却させながら、雰囲気温度が798℃±30℃の温度範囲のうちの前記成長開始温度に達した時に、前記GaAs半導体基板を前記他のGaAs基板に対してスライドさせて、前記GaAs半導体基板の表面を露出させて、前記Ga及びGaAsの溶液を前記GaAs半導体基板の表面に接触させて、GaAsのエピタキシャル成長を開始させる成長工程と、
を有し、
前記高純度化工程における処理時間を、77Kにおける前記エピタキシャル成長層の移動度が、18.5×104 cm2 /V・s 以上、31.2×104 cm2 /V・s 以下となる時間であって、該処理時間と前記エピタキシャル成長層の移動度との関係において、最大移動度が得られる極限時間の0.96倍以上、極限時間以下の時間範囲の値としたことを特徴とするGaAsの液相成長法。
【請求項2】
前記高純度化工程における処理時間を、24時間以上、25時間以下としたことを特徴とする請求項1に記載のGaAsの液相成長法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GaAsの液相エピタキシャル成長法に関する。特に、高移動度を実現するGaAsの液相エピタキシャル成長法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光通信分野や情報処理分野において、高速応答、低電圧駆動、高消光比を実現した空間半導体光変調器の実現が要請されている。その一つとして、本発明者らによる下記特許文献1に開示されているように、ノンドープInGaAs/InAlAs多重量子井戸構造を、n−InAlAsクラッド層、p−InAlAsクラッド層で挟んだ構造の光吸収型の空間光変調器が知られている。この変調器は、多重量子井戸構造の層に平行に光を伝搬させ、多重量子井戸構造に対して垂直方向に、逆バイアス電圧(n−InAlAsクラッド層側をp−InAlAsクラッド層に対して正電位とする)を印加するものである。そして、この変調器は、ノンドープInGaAs/InAlAs多重量子井戸構造に印加された電界により、重量子閉じ込めシュタルク効果を発生させて、吸収端を長波長側にシフトさせて、光の吸収係数を変化させる半導体光変調器である。
【0003】
また、2次元配置のスイッチ素子や素子の集積化を目指す場合には、上述した性能を有した、主面に垂直な方向から光を入射させる平面型半導体空間光変調器の実現が要請されている。平面型半導体空間光変調器の例としては、下記非特許文献1に開示の変調器が知られている。この変調器は、p−AlGaAs、i−GaAs、n−AlGaAsを1単位とする周期構造において、層の主面に垂直に光を伝搬させて、i−GaAs層に、逆方向に電界を印加させて、量子閉じ込めシュタルク効果により、吸収係数を変化させる変調器である。
【0004】
その他、本発明者らの下記非特許文献2、3に開示されている平面型半導体空間光変調器が知られている。この変調器は、n−GaAs基板上に、i−GaAsの液相成長によるエピタキシャル層を形成し、i−GaAs層の面に垂直に光を入射させて、光の透過率を変化させるものである。そして、その変調器では、i−GaAs層に、逆バイアス電圧を印加して、空乏層を拡大し、i−GaAs層にかかる電界により、光吸収端を長波長側に変移させて、光吸収係数を増大させるフランツ・ケルディッシュ効果が用いられている。
【0005】
このi−n接合を用いた光吸収型変調器においては、駆動電圧の低電圧化、高消光比を実現するためには、光の信号方向の空乏層の幅が低電圧でより長くなることが必要である。また、i−GaAs層の面上において、一様に、均一な幅の空乏層が形成されることが必要である。このためには、i−GaAs層を高純度化してキャリア濃度を真性半導体の理論値まで、出来る限り低減させることが必要である。そのためには、i−GaAsのエピタキシャル成長層を、高純度、高品質で得ることが要請されている。
【0006】
高純度のi−GaAs層を成長させる方法として、下記特許文献2に開示の液相成長法が知られている。この方法では、周囲を覆うボートに対して摺動可能なスライダを設け、そのスライダ上にボートで覆われた基板と、スライダ上にボートで区画された領域にGaを設けたスライダと、ボートとが準備される。そして、このスライダとボートが、反応管内部に挿入されて、水素ガス、トリメチル砒素ガスを流して、結晶成長温度まで、加熱する。その後、スライダを移動させて、基板面をボートから露出させて、雰囲気の有機金属ガスからAsが取り込まれたGa溶液を基板面に接触させ、冷却しながら、基板上にGaAsを液相成長させる方法である。この液相成長法は、スライディングボート方式として知られている。
【0007】
また、下記非特許文献4、5には、それぞれ、GaAs、GaInAsを、スライディングボート方式により、反応管内部において、成長温度から冷却させつつ、Ga及びGaAs溶液と、GaAs基板とを接触させて、半導体層をエピタキシャル成長させる方法が開示されている。これらの文献では、半導体層をエピタキシャル成長させる前の工程として、水素ガスを流した状態で、Ga及びGaAsを所定時間加熱して、原料を高純度化する工程が設けられている。そして、この高純度化工程の時間と、エピタキシャル成長層の移動度との関係が測定されている。また、非特許文献4においては、高純度化時間が長くなると、n型からp型に変化することも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3273494号公報
【特許文献2】特開平9−115842号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】桑村有司、他,"平面型半導体光変調器の特性改良",電子情報通信学会論文誌,C,Vol.J85-C,No.12,pp.1230-1231,Dec.2002.
【非特許文献2】松波育生、他,"超高純度GaAsエピを用いた低電圧駆動空間変調器",2009年秋季第70回応用物理学会学術講演会(2009 年9 月8 日-11 日) 予稿集 ,11a-P8-13,pp.1100.
【非特許文献3】松波育生、他,"超高純度GaAsエピを用いた低電圧駆動空間変調器の試作",2009年電気関係学会東海支部連合講演会(2009 年9 月11日) 予稿集
【非特許文献4】Toshimasa Amano, etal.,"Ultrahigh Purity Liquid Phase Epitaxial Growth of GaAs",Jpn.J.Appl.Phys.Vol.32(1993)pp.3692-3699,Part1,No.9A,Sep.1993.
【非特許文献5】Toshimasa Amano, etal.,"Effective Techniques for Ultra-high Purity Liquid Phase Epitaxial Growth of Ga0.47 n 0.53 s",Jpn.J.Appl.Phys.Vol.31(1992)pp.2185-2194,Part1,No.7,July 1992.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、非特許文献4に開示の成長方法によっても、GaAsのエピタキシャル成長層の移動度は、77Kにおいて、18.7×10
4 cm
2 /V・s 、電子濃度は、2.6×10
12/cm
3 である。これらの値は、低電圧駆動の平面型空間変調器を実現するには、移動度としては低い。
そこで、本発明は、この課題を解決するために成されたものであり、その目的は、さらに、高純度のGaAsのエピタキシャル成長層を、GaAs基板上に得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための第1の発明は、Ga及びGaAsを設置した試料台を反応管内部に挿入して、加熱してGa及びGaAsを溶液とした後、冷却させながら、試料台上に設けられたGaAs半導体基板に、溶液を接触させて、該GaAs半導体基板
の表面にGaAsのエピタキシャル成長層を形成するGaAsの液相成長法において、試料台上に、Ga及びGaAsを配置して、少なくとも水素を含むキャリアガスを流した雰囲気において、第1温度で加熱する高純度化工程と、高純度化工程の後に、冷却した後、反応管から試料台を取り出し
、GaAs半導体基板を
、その表面が融液に触れる前には環境に曝されないように、その表面を他のGaAs基板で覆った状態で、試料台に設置して、反応管に戻した後、キャリアガスを流した雰囲気において、エピタキシャル成長層の成長を開始させる成長開始温度以上の第2温度で加熱する前加熱工程と、雰囲気温度を第2温度から冷却させながら、雰囲気温度が
798℃±30℃の温度範囲のうちの成長開始温度に達した時に、
GaAs半導体基板を他のGaAs基板に対してスライドさせて、GaAs半導体基板の表面を露出させて、Ga及びGaAsの溶液をGaAs半導体基板
の表面に接触させて、GaAsのエピタキシャル成長を開始させる成長工程と、を有し、高純度化工程における処理時間を、
77Kにおけるエピタキシャル成長層の移動度が、18.5×104 cm2 /V・s 以上、31.2×104 cm2 /V・s 以下となる時間であって、該処理時間とエピタキシャル成長層の移動度との関係において、最大移動度が得られる極限時間の0.96倍以上、極限時間以下の時間範囲の値としたことを特徴とするGaAsの液相成長法である。
【0012】
液相エピタキシャル成長したGaAs層の移動度の大きさは、成長に先立つ、高純度化工程における処理時間に、大きく依存することを、本発明者らは初めて発見した。すなわち、本発明者らは、高純度化工程における処理時間が、
77Kにおけるエピタキシャル成長層の移動度が、18.5×104 cm2 /V・s 以上、31.2×104 cm2 /V・s 以下となる時間であって、最大移動度が得られる極限時間以下、その極限時間の0.96倍以上、とすると、GaAsエピタキシャル成長層の移動度が顕著に増加することを発見した。この極限時間を越えて、処理時間を長くすると、伝導型は、p型を示し、移動度は急激に低下する。したがって、本発明では、高純度化工程の処理時間は、この最大移動度が得られる時間を上限とする。また、極限処理時間×0.96の時間を越えると、移動度は、急激に増大する。また、この処理時間は、成長開始温度よりも高い第2温度、例えば、800℃に維持する時間である。高純度化工程においては、GaAs半導体基板は試料台上にはない。これは、GaAs半導体基板が、第2温度で長時間保持されると、表面からAsが抜け、表面の結晶品質が劣化するためのである。また、前加熱工程では、GaAs半導体基板が試料台上に設けられた後に、第2温度まで加熱されるが、この前加熱工程においては、原料の高純度化は、実質上、行われないので、この前加熱工程の時間は、高純度化工程における処理時間には含まれない。また、GaAs半導体基板の表面は、前加熱工程においてAsが抜けるのを防止するために、成長工程において、初めて露出するように他のGaAs結晶
で覆われている。試料台としては、一例として、スライディングボートや、回転ボートが用いられるが、これらに、限定されるものではない。
成長開始温度は798℃±30℃とする。
【0013】
第2の発明は、高純度化工程における処理時間を、24時間以上、25時間以下としたことを特徴と
する。
【発明の効果】
【0014】
上記の構成により、GaAs基板上に液相成長させたGaAa層を、77Kにおいて、移動度31.2×10
4 cm
2 /V・s 、電子濃度5.84×10
12/cm
3 と、高純度にすることができた。この結果、厚さ30μmのi−GaAs半導体とn−GaAs半導体とを接合させた電界吸収型の平面型半導体空間光変調器において、33Vの逆バイアス電圧を印加した場合に、約−40dBの消光比を得ることができた。これにより、低電圧駆動、高消光比の平面型半導体光変調器を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施例方法を実現する試料台の構成を示した断面図。
【
図2】本発明の実施例方法を実現する成長装置の構成図。
【
図3】本発明の実施例方法における温度と時間との関係を示した特性図。
【
図4】本発明の実施例方法により製造されたGaAsエピタキシャル成長層の移動度及び電子濃度と、高純度化工程における処理時間との関係を測定した特性図。
【
図5】本発明の実施例方法により製造された平面型空間光変調器の構成を示す斜視図。
【
図6】その平面型空間光変調器の印加逆バイアス電圧と、透過率との関係を測定した特性図。
【
図7】本発明の実施例方法により製造された他の平面型空間光変調器の構成を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を具体的な実施例に基づいて説明するが、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0017】
図1は、反応管の内部に挿入するホルダ10(試料台)を示している。ホルダ10は、カーボン製のスライダー11と、そのスライダー11を覆うボート12で構成されている。スライダー11の上面には、凹部13が形成されている。凹部13には、GaAs半導体基板16が設置される。ただし、後述するように、高純度化工程では、GaAs半導体基板16は、設置されない。また、ボート12には、スライダー11の表面が露出した窓17が形成されており、ボードの側壁18bと底面18aとで、この空間18が形成されている。この空間18に、Gaと原料である多結晶GaAsが設置される。高純度化工程においては、GaAs、Gaが、それぞれ、設けられたホルダ10が、成長装置100の反応管101の内部に挿入される。前加熱工程おいては、GaAs半導体基板16と、空間18において、高純度化されたGaAsが保持された、ホルダ10が、反応管101の内部に挿入される。
【0018】
成長装置100は、
図2に示す構成をしており、反応管101と、電気炉102と、水素ガスを供給するキャリアガス供給系統103と、排気系統104とを有している。キャリアガス供給系統103は、パラジウムを用いたH
2 高純度化装置113を有しており、タンク(図示略)から供給された水素ガスは、H
2 高純度化装置113により高純度化されて、反応管101の内部に導入される。また、高純度化された窒素ガスは、成長終了後に、反応管101やH
2 高純度化装置113の内部を、水素ガスと置換するために用いられる。高純度化工程においては、水素ガス
だけを反応管101に流し、窒素ガスは流されない。排気系統
104は、回転ポンプ114と拡散ポンプ124を有し、反応管101の内部は、これらのポンプにより高真空に排気される。
【0019】
次に、成長方法について説明する。まず、スライダー11の空間18には、原料のGaAsと金属Gaを設置した。原料のGaAsには、電子濃度が1−8×10
15/cm
3 の多結晶GaAsが用いられた。Gaは、6g、GaAsは、35mgとした。原料のGaAsとGaを保持したホルダ10を反応管101の中に挿入して、反応管101の中を10
-8Torrに、回転ポンプ114と拡散ポンプ124により減圧し、電気炉102に通電して、雰囲気の温度が第2温度である800℃になるまで加熱した。この工程が、
図3に示す排気工程Aである。次に、水素ガスを、59sccmで流した。この工程が
図3に示すパージ工程Bである。次に、この状態で、反応管101の内部を800℃に維持し、水素ガスを流した状態で、24時間保持し、GaとGaAsとの混合溶液を生成し、混合溶液に含まれる不純物を水素ガスにより排出させるようにした。この工程が、
図3に示す高純度化工程Cである。
【0020】
次に、反応管101を室温まで低下させて、ホルダ10を反応管101から取り出し、スライダー11の凹部13の上に(100)面の半絶縁性単結晶のGaAs半導体基板16を設置した。この時、GaAs半導体基板16の表面が、GaAs溶液に触れる前には、環境に曝されないように、GaAs半導体基板16の表面を上部から他のGaAs基板19で覆うようにした。次に、空間18に固化したGaAs、凹部13にGaAs半導体基板16が設けられたホルダ10を、反応管101の中に戻した。次に、反応管101の内部を10
-8Torrに、回転ポンプ114と拡散ポンプ124により減圧し、電気炉102に通電して、雰囲気の温度が第2温度である800℃になるまで加熱した(排気工程)。次に、水素ガスを59sccmで流した(パージ工程)。この工程が、
図3における前加熱工程Dである。本実施例では、1.5時間とした。この工程では、800℃で保持される時間が短いことから、高純度工程において、既に、高純度化されて、空間18に保持されているGaAsの高純度化は、実質上行われない。この後、雰囲気温度を2℃/minの速度で冷却を開始した。この工程が
図3の冷却開始工程Eである。
【0021】
次に、雰囲気温度が、GaAsの成長開始温度である798℃に雰囲気温度が達した時に、スライダー11の凹部13と空間18とが一致する位置まで、スライダー11をボート12に対して移動させた。これにより、凹部13に設置されたGaAs半導体基板16の表面上に、GaAs溶液が接触する。その後、2℃/minの速度で冷却を継続した。冷却過程において、過飽和になったGaAsがGaAs半導体基板16上に成長することになる。このようにして、GaAs半導体基板16上にGaAsを液相成長させた。この工程が
図3の成長工程Fである。この成長工程は、成長開始温度798℃以下、成長終了温度753℃以上の範囲であり、成長時間は45分である。
【0022】
次に、上記の高純度化工程における処理時間(以下、「高純度化時間」という)を、変化させて、77KにおけるGaAs半導体基板16上に成長させたGaAsのエピタキシャル成長層のキャリア濃度と、移動度を測定した。その結果を、
図4に示す。高純度化時間が18h、21h、24h、25h、25.5h、27hにおいて、移動度、電子濃度は、それぞれ、11.3×10
4 cm
2 /V・s 、97.1×10
12/cm
3 、15.2×10
4 cm
2 /V・s 、42.9×10
12/cm
3 、18.5×10
4 cm
2 /V・s 、10.0×10
12/cm
3 、31.2×10
4 cm
2 /V・s 、5.84×10
12/cm
3 、4.360cm
2 /V・s 、6.4×10
12/cm
3 、1.920cm
2 /V・s 、1.4×10
12/cm
3 、とすることができた。
【0023】
この特性図から明らかなように、高純度化時間が24時間を過ぎると、77Kにおける移動度が18.5×10
4 cm
2 /V・s から急激に大きくなる。また、高純度化時間が25時間を越えると、77Kにおける移動度が最大値31.2×10
4 cm
2 /V・s から急激に減少する。すなわち、移動度に関して、高純度化時間24、25時間は、臨界的意義を有した時間となる。したがって、高純度化時間は、移動度が最大値となる極限時間25時間の0.96倍に当たる24時間以上、25時間以下とすることで、臨界的に変化する移動度を得ることができる。成長開始温度は、798℃としているが、成長工程の温度範囲をGaAsが液相成長する温度にすれば、成長開始温度は任意である。例えば、成長開始温度は、798℃±30℃とすることが望ましい。また、
図4の特性は、水素ガスの流量には、大きくは依存しないと考えられる。水素ガスの流量は、45sccm以上、80sccm以下において、
図4の特性が得られるものと考えられる。
【実施例2】
【0024】
次に、上記の液相成長法を用いて、平面型空間光変調器50を製造した。
図5に示すように、厚さ350μmの電子濃度3〜5×10
18 cm
3、(100)面n−GaAs半導体基板40の上に、厚さ30μmのi−GaAs半導体層42(エピタキシャル成長層)を上記の液相成長法により成長させた。ただし、高純度時間を24hとして、i−GaAs半導体層42の移動度は、31.2×10
4 cm
2 /V・s 、電子濃度は5.84×10
12/cm
3 とした。i−GaAs半導体層42の光入力面には、Auをリング状に蒸着して、厚さ300nmのショットキー電極43を形成した。中心部の直径300μmの窓47には、Auは蒸着されておらず、この窓47から光がi−GaAs半導体層42の面に垂直に入力される。また、n−GaAs半導体基板40の光出力面には、同様に、中心部に直径300μmの窓49を残して、厚さ0.3μmに、一様に、Ni/Au/Geを蒸着して、オーミック電極45を形成した。この窓49から光がn−GaAs半導体基板40の外部に出力される。
【0025】
この平面型空間光変調器50のショットキー電極43、オーミック電極45の間に、n−GaAs半導体基板40側が正電位となるように、逆バイアス電圧を印加して、波長897nmのレーザ光をi−GaAs半導体層42の光入力面の窓47から入射させて、n−GaAs基板40の光出力面の窓49から出力される光をスペクトル分析して、光の透過率を測定した。その結果を
図6に示す。波長897nmにおいて、33Vの電圧の印加により、−37dBの透過率が得られていることが分かる。したがって、本実施例の空間光変調器50により、33Vの電圧により、約40dB程度の消光比が得られている。使用される光の波長897nmは、印加電圧が零の時のi−GaAs半導体層42の吸収端波長869nmよりも、吸収端波長の3.2%程、長波長である。
【実施例3】
【0026】
実施例2の空間光変調器は、光が通過する領域には、ショットキー電極43、オーミック電極45を形成せずに、窓47、49を設けている。この構成の場合には、電極による光の伝送損失はないが、窓47、49の全体に空乏層を形成するための電圧が必要とするため駆動電圧が大きくなる。そこで、窓47、49を設ける代わりに、ショットキー電極43、オーミック電極45を、透明電極とした。この空間光変調器60を
図7に示す。すなわち、厚さ350μmの電子濃度3〜5×10
18 cm
3、(100)面n−GaAs基板61の上に、厚さ30μmのi−GaAs半導体層62を上記の液相成長法により成長させた。ただし、高純度時間を24hとして、i−GaAs半導体層62の移動度は、31.2×10
4 cm
2 /V・s 、電子濃度は5.84×10
12/cm
3 とした。i−GaAs半導体層62の光入力面には、面上全体に、一様に厚さ30nmのAuからショットキー電極63と厚さ1μmのITOから成る透明電極64とを形成した。また、n−GaAs半導体基板61の光出力面には、面上全体に一様に、厚さ1μmのITOから成る透明電極65を形成した。このようにして、透明電極64と透明電極65との間に、逆バイアス電圧を印加して、光の透過率を低減させる。この場合には、光の伝搬経路に沿ってショットキー電極63の直下から空乏層がGaAs基板61に向けて形成されるので、印加電圧がそのまま空乏層の形成に寄与するので、実施例2の場合よりも、同一の消光比を得るのに、さらに、低電圧とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、電気通信分野における光スイッチ、ディスプレイなどの光変調器に用いることができる。
【符号の説明】
【0028】
10…ホルダ
11…スライダー
12…ボート
13…凹部
18…空間
16…GaAs半導体基板
40,61…n−GaAs半導体基板
42,62…i−GaAs半導体層
43…ショットキー電極
45…オーミック電極
47,49…窓
64,65…透明電極