(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0003】
多くのガラス材料は、化学的及び生物学的に不活性、機械的耐久性(長持ち)、機械的安定性または剛性及び透明性を含む、いくつかの望ましい特性を有する。ガラスは熱衝撃または大きな熱勾配への耐性も有し得る。これらの特性は、まとまって、ガラスを多くの用途に対して魅力のある材料にする。そのような用途の1つがマイクロフルイディクスである。
【0004】
本明細書で理解されるようなマイクロ流体デバイスは、一般に、マイクロメートル未満から数ミリメートルの範囲の寸法を少なくとも1つ、普通はさらに多く有する流路または流体チャンバを有するデバイスである。ある程度は、そのような流路または流体チャンバの特徴的な小総プロセス流体体積及び特徴的な高表面積対容積比のため、マイクロ流体デバイスは、困難であるか、危険であるか、または不可能でさえあり得る化学反応及びプロセスを、安全で、効率的であり、環境に優しい態様で、また100ml/分程度ないしさらにかなり高い連続流量になり得るスループットレートで、行うために有用であり得る。
【0005】
しかし、不活性及び耐久性のような、多くの用途に対してガラスを魅力的にする同じ特性のいくつかは、硬度及び脆性のような他の特性とともに、ガラスの成形を困難にする。
【0006】
ガラスでつくられたマイクロ流体デバイスは、化学的または物理的なエッチングによって得られている。エッチングはガラス基板に溝を形成するために用いることができ、そのような溝は、例えばガラスリッドでシールすることができる。しかし、そのような手法は完全には満足できるものではない。等方性化学エッチングでは大きなアスペクト比を得ることができず、物理的エッチングは、コストがかかり、生産能力が限られていることから、実施が困難である。開放溝を閉じるため、リッドの張付けまたはシールに最も多く用いられる手法はイオン接合である。しかし、この手法は費用がかかり、塵埃に極めて敏感であるために実施が困難である。さらに、高品質シールを得るためにはそれぞれの層の表面が極めて平坦でなければならない。
【0007】
2つないしさらに多くの基板の間のリセスまたは通路を定める構造化固結フリットで形成されたマイクロ流体デバイスが、例えば名称を「マイクロ流体デバイス及びその作成(Microfluidic Device and Manufacture Thereof)」とする特許文献1及び関連する特許明細書または特許出願公開明細書に開示されるように、本発明の発明者等及び同僚によって従前の研究において開発されている。これらの先行特許文献に開示される方法は、第1の基板を提供する工程、第2の基板を提供する工程、第1の基板の対面表面上に第1のフリット構造を形成する工程、第2の基板の対面表面上に第2のフリット構造を形成する工程、及び第1の基板の第1のフリット構造と第2の基板の第2のフリット構造を、第1の基板と第2の基板の間に1つないしさらに多くの固結フリットで定められるリセスまたは通路が形成されるように、対面表面を互いに向けて固結し合わせる工程を含む、様々な工程を含む。このタイプのデバイスでは、固結フリットが通路を定めるため、非ガラス基板が用いられていても、固結フリットのガラスまたはガラス−セラミック材料で通路を内張りすることができる。
【0008】
例えば特許文献2に開示される、ガラスマイクロ流体デバイス作成の別の手法は、作成されるべき形状に対する雌型としてはたらくように形づくられた仮基板の表面上のガラスの気相成長を含む。気相成長による表面上のガラス形成後、ウエットエッチングによって仮基板がガラスから除去される。気相成長及びエッチングは、比較的時間がかかり、費用がかかり、また環境に優しくないプロセスである。
【0009】
本発明の発明者等及び/または同僚は、例えば特許文献3に示されるように、薄いガラスシートが真空成形されてシートの両面上に交互するチャネル構造が形成され、次いで1枚ないしさらに多くの別の真空成形シートまたは平坦シートによって融着することで閉じられるマイクロ流体デバイスの形成方法を開発した。特許文献3に開示される方法は本明細書に説明される目的に有用であるが、この真空成形手法によって可能であるよりも、鋭利な溝角度(例えば90°)並びにさらに多様なチャネル形状及び寸法を含む、さらに一層微細で、さらに複雑な構造を形成できることが望ましい。
【0010】
長年にわたり、様々なホットプレス及び熱成形手法も様々な用途に対してガラスを成形するために用いられてきた。微細な、またはごく微細な造作を形成できるそのような手法の内のほとんどは、困難であるか、費用がかかるか、または環境に負担をかける。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書及び添付される特許請求の範囲において、以下の意味を持つように定義される多くの術語が参照されるであろう。
【0015】
本明細書を通して、文脈がそうではないことを要求しない限り、「含む(comprise)」またはその三人称形(comprises)または現在分詞(comprising)のような変化形は、言明された特徴または工程あるいは特徴または工程の群の包含を意味するが、その他のいかなる特徴または工程あるいは特徴または工程の群の排除も意味しないと了解されるであろう。
【0016】
本明細書及び添付される特許請求の範囲に用いられるように、単数形‘a’,‘an’及び‘the’は、そうではないことを文脈が明白に規定されていない限り、複数の指示対象を含む。すなわち、例えば単数形の「ガラス材料」は2つないしさらに多くのそのような材料の混合物を含み、以下同様である。
【0017】
一態様において、ガラス含有マイクロ流体デバイスを作成する方法は、
パターン付成形面を有する硬質非付着性材料の構造を提供する工程、
第1のガラス含有組成物塊を提供する工程、
第1のガラス含有組成物塊をパターン付成形面と接触させる工程、
パターン付成形面と第1のガラス含有組成物塊をプレスし合わせる工程、
硬質非付着性材料構造及び第1のガラス含有組成物塊をともに、パターン付成形面が第1のガラス含有組成物塊に転写されて、第1のガラス含有組成物塊が第1の成形ガラス含有品を形成するように第1のガラス含有組成物塊を軟化させるに十分に加熱する工程、
第1の成形ガラス含有成形品を少なくとも2つの別のガラス含有品と積み重ねる工程、及び
少なくとも1つの通過流路を有するマイクロ流体デバイスを作成するために熱処理によって積重ね品をシールし合わせる工程、
を含む。
【0018】
本発明に有用なガラス含有材料は、加熱時に粘性材料に転換され得るいずれかのガラス含有材料である。ガラス含有材料は、充填剤入りフリットを含む、フリットの形態にあることができる。ガラス含有材料はシートの形態にあることもできる。シートの大きさは数100平方μmから数10cm平方まで変わることができ、数100μmから数cmまでのシート厚を有することができる。ガラス含有ガラスには、ガラス質ガラス、ガラス−セラミックまたはガラス複合材を含めることができる。石英ガラスが現在好ましいが、本発明の方法は、Ge,Al,B,P等のようなその他のガラス網目組織形成剤の使用を含むこともできる。
【0019】
ガラス組成物はガラスフリット及び充填剤を含むことができる。組成物は、ガラスフリットと充填剤を均質に混合することによって、フリット形態で、作成することができる。得られたフリット組成物すなわちは充填剤入りフリットは、次いで本発明の成形方法におけるガラス含有材料として直接用いることができ、あるいは初めにガラスシートに形成することができる。いずれの場合も、充填剤は複合材全体にわたって均等に分散されているかまたは組み込まれていることが望ましい。これは、ガラスシート全体がシート全体にわたって適度に一貫した特性(例えば平均熱伝導度)を有することを保証するに役立つ。本発明に有用ないくつかのガラスフリット材料及び充填剤材料を以下で説明する。
【0020】
ガラスフリットは加熱すると粘性材料に転換され得るいずれかのガラス材料である。様々な材料を本発明に用いることができる。一態様において、ガラスフリットはSiO
2及び、少なくとも1つの他の、アルカリ酸化物、アルカリ土類酸化物、遷移金属酸化物、非金属酸化物(例えばアルミニウムまたはリンの酸化物)
またはこれらの組合せを含有する。別の態様において、ガラスフリットは、ケイ酸アルカリ、ケイ酸アルカリ土類またはこれらの組合せを含有する。ガラスフリットとして有用な材料の例には、ホウケイ酸ガラス、ジルコニウム含有ホウケイ酸ガラスまたはナトリウムホウケイ酸ガラスがあるがこれらには限定されない。
【0021】
充填剤に目を向ければ、充填剤の熱的及び機械的な特性を保つため、充填剤はガラスフリットに対してほぼまたは完全に不活性であることが望ましい。充填剤がガラスフリットに対してほぼまたは完全に不活性であれば、充填剤/フリットマトリクス内での充填剤の反応は全くおこらないかまたは最小限に抑えられ、よって、本質的に、発泡、新しい相の形成、クラック発生及び固結を阻害するその他のいかなるプロセスもおこらない。そのような条件下では、多孔度が最小の複合材の作成が可能である。
【0022】
充填剤は一般に、無孔であるかまたは多孔度が最小であって、表面積が小さいことも望ましい。充填剤は、技術で一般に用いられる有機化合物のように焼結中に燃え尽きることはない。充填剤は熱処理中に、硬質のままであるか、軟化するか、あるいは溶融さえし得る。一態様において、充填剤はガラスフリットより高い軟化点または融点を有する。充填剤の選択に依存して、充填剤は、最終複合材への充填剤の一体化を容易にするであろう、酸化物を形成することができる。
【0023】
充填剤は複合材の平均熱伝導度を高めることが望ましい。一態様において、充填剤は2W/m/K以上、3W/m/K以上、4W/m/K以上または5W/m/K以上の平均熱伝導度を有する。本発明に有用な充填剤の例には、炭化シリコン、窒化アルミニウム、炭化ホウ素、窒化ホウ素、臭化チタン、ムライト、アルミナ、銀、金、モリブデン、タングステン、炭素、ケイ素、ダイアモンド、ニッケル、白金またはこれらのいずれかの組合せがあるが、これらには限定されない。
【0024】
充填剤の量は、とりわけ、選ばれるガラスフリットのタイプ及び所望の平均熱伝導度に依存して、変わり得る。一態様において、充填剤の量は複合材の体積で5%以上である。別の態様において、充填剤の量は複合材の体積で15%〜60%である。
【0025】
金型を作成するために用いられる材料に関しては、ガラスに対する金型材料のCTE/ヤング率に加えて、金型の多孔度及び化学的安定性が考慮されるべきである。多孔度に関し、金型は、熱処理中に発生するガスが多孔質金型を通って溶融ガラスから抜け出すことができてガラス内に閉じ込められることのないように、ある程度の多孔度を有することが最も望ましい。一態様において、金型は5%より多い開放気孔を有する、すなわち金型の体積の5%より多くが外気に通じている。別の態様において、金型は少なくとも10%の多孔度を有する。
【0026】
金型材料の選択に際しての別の問題は、金型が高温、特にガラス組成物を十分に軟化させるに必要な温度において化学的に安定であるべきであることである。金型材料に関して本明細書で用いられるような術語「化学的に安定」は、不活性材料から溶融ガラスと相互作用できる材料への転換に対する金型材料の耐性として定義される。例えば、窒化ホウ素が用いられ得るであろうが、窒化ホウ素は700℃より高温で酸化ホウ素に転換され得る。酸化ホウ素はガラスと化学的に相互作用でき、この結果、ガラスが金型に付着する。すなわち、本発明の一態様にしたがえば、窒化ホウ素は用いられ得るが、好ましくはない。
【0027】
金型材料はカーボンからなることがさらに望ましく、Carbone Lorraineで製造されたグレード2450PTグラファイトのような多孔質カーボンが最も望ましい。このグレードのグラファイトは300℃で25×10
−7/℃のCTE及び約10%の開放多孔度レベルを有する。CNC加工、ダイアモンド超高速加工、放電加工またはこれらの組合せを特定の成形面の作成に用いることができる。成形面の模様は所望の造作にしたがって変わり得る。以下で詳細に論じるように、本明細書に説明される方法により、アスペクト比が高く(高さ/幅>3)、絶対高が数マイクロメートルから数mmまでの成形面の使用が可能になる。絶対高及びアスペクト比は単一の値に限定されず、成形面の様々な領域で互いに変わり得る。成形面は、マイクロ流体デバイスに望ましい、多種多様な三次元(3D)溝構造(例えば、チャネル、キャビティ)及び突構造(例えば、壁、柱)を有することができる。さらに、金型上の溝構造または突構造に90°の離型角が可能であり、この妥当性は以下でさらに詳細に説明する。
【0028】
次に
図1を参照して成形ガラス含有品を作成するための一実施形態を説明する。この場合はシート2の形態の、第1のガラス含有組成物塊が、第1の構造1の平上面12のような第1の面と第2の構造3の、成形面14のような、パターン付の第2の面の間に配される。ガラス含有組成物がシート2の形態にある場合、シート2は一般に高平坦度を有することが望ましい。第1の面12及び第2の面すなわち成形面14は同じかまたは異なる材料で構成することができる。一態様において、第1の面12はカーボン、窒化ホウ素セラミックまたはこれらの組合せからなる。別の態様において、第1の面12及び第2の面14は同じ材料で構成され、その材料はカーボン、望ましくは、例えばCarbon Lorraineで製造されたグレード2450PTグラファイトのような、多孔質カーボンである。
【0029】
必要に応じて、離型剤を用いることができる。離型剤は、所望に応じて、第2の面114,ガラス含有組成物2及び第1の面12のいずれにも施すことができる。施し得る離型剤の量は変わり得る。第2の面14の材料と離型剤が同様の特性を有するかまたは第2の面14と離型剤が同様の材料からなることが望ましい。例えば、第2の面すなわち成形面14がグラファイトからなる場合、離型剤はカーボンスートであることが望ましい。
【0030】
ガラス含有組成物2と第2の面14の間の界面に圧力が印加されることが望ましい。これは、加熱中の第2の面すなわち成形面14のガラス含有組成物2への食い込みを容易にするために第2の構造3上に置かれた加重錘4によって達成することができる。第1の構造1,ガラス含有組成物2,第2の構造3及び加重錘4は合わせて積重ね構造体10を形成する。加重錘は、高温(すなわちガラス含有組成物2を十分に軟化させるに必要な温度)に耐えることができる、いずれかの材料で作成することができる。加重錘の重量はガラス含有組成物2の重量または厚さ及び第2の面すなわち成形面14の組成物への所望の食込み量に依存して変わり得る。
【0031】
第1の構造、ガラス含有組成物、第2の構造及び必要に応じる加重錘で構成される積重ね構造体10が形成されると、積重ね構造体10はガラス含有組成物2の粘性流動が生じるに十分な温度まで加熱される。そのような加熱を実施するため、積重ね構造体10はオーブン内に置くことができる。加熱に先立ち、オーブン内の空気が真空排気され、窒素のような不活性ガスがオーブンに導入されることが望ましい。1つないしさらに多くの積重ね構造体をオーブン内に入れることができると考えられる。
【0032】
コンベアベルトを用いて一連の積重ね構造体をオーブン内に入れることができ、積重ね構造体は1つより多くのガラス含有組成物塊を有することができる。そのような態様が
図2に示され、
図2では、一連の積重ね構造体20がコンベアベルト22によって窒素ガス雰囲気の下でオーブン21に送り込まれ、それぞれの積重ね構造体20は6個のガラス含有組成物塊2を有する。積重ね構造体20がオーブン内を通過する速度は1分から1時間まで変わり得る。
図2に示されるプロセスは、複数の出発ガラス含有組成物塊2から大量の成形品を生産するための効率的な方法である。例えば、ガラス含有組成物塊2を有する積重ね構造体が、2時間の熱サイクルに対して5m/時間でオーブンに送り込まれ、オーブン長が12mであれば、オーブンは1時間当たり60組の積重ね構造体を熱処理することができ、これは1時間当たり600個の成形品生産に相当する。
【0033】
図3は加重錘のない積重ね構造体10の断面図を示す。第2の構造3に関し、パターン付面すなわち成形面14は、成形が完了したときに、
図4に示されるように、第1の構造の第1の面に接触する表面14の1つないしさらに多くの領域すなわち造作31を有することができる。この場合は第2の面すなわちパターン付面14の周縁から隔てられた領域の形態にある、領域すなわち造作31は、熱処理時にガラス含有組成物2に食い込み、
図5に示されるように、成形品51に貫通孔16を形成できるように、図において垂直方向に、面14の主要領域から十分に離されている。領域31の形状は、円形、矩形または長円形のような、いかなる形状もとることができる。熱処理中の貫通孔の形成によって、費用がかかり、成形品に損傷を与えるかまたは破壊し得る、成形品のドリル孔開けが回避される。第2の面すなわちパターン付面14の必要に応じて設けられる別の造作として、第2の構造3は成形完了時に第1の構造の第1の面12と接触し、必要に応じて第2の構造3の第2のパターン付面14を囲む別の領域である、第2のパターン付面14の周縁の領域32も有する。そのような周囲突領域は、構造1と構造3の間からの溶融ガラスの漏出を防止するための流動体保持具としてはたらくことができる。そのような流動体保持具は処理中のガラスの一様厚及び均一性の確保にも役立ち得る。
【0034】
図3に示されるように、構造3の面14上に複数の突領域33があり、これらの突領域33は最終的に成形造作をガラス含有組成物に形成する。
図4を参照すれば、加熱時に、ガラス含有組成物は軟化状態すなわち粘性状態に転換され、このときに領域31及び領域33がガラス含有組成物に食い込む。
図5は処理及び面14からの取外し後の成形品51を示す。
【0035】
積重ね構造体10または20の熱処理の温度及び持続時間は、ガラス含有組成物の粘度、面14のアスペクト比及び面14の複雑さを含むがこれらには限定されない、いくつかのパラメータにしたがって変わり得る。ガラス成形面を作成するための一般的な手法は、面への溶融ガラスの付着を避けるため、短い加熱時間に限定される。この結果、形成される成形面は単純なものとなる。本明細書に説明される方法により、処理中の成形面への溶融ガラスの付着が回避される。すなわち、本明細書に説明される方法によってより長い加熱時間が可能になり、軟化ガラス含有組成物は複雑な成形面のそれぞれの開口領域に侵入することができる。この結果、最終的に、一層複雑な成形ガラス含有品が成形される。すなわち、積重ね構造体は1分から1時間ないしさらに長く加熱することができ、これは現行の熱成形法よりもかなり広い範囲である。
【0036】
加熱工程後、積重ね構造体は少なくとも100℃まで、望ましくは時間をかけて完全に室温まで、徐冷される。本明細書に説明される方法は、1つまたは複数の成形面への軟化ガラス含有組成物の付着を防止するだけでなく、本明細書に説明される方法は、成形面にガラスを凝固(すなわち付着)させずに、ガラス含有組成物と成形面をともに徐冷することも可能にする。徐冷することで、第2の構造及び成形面におけるクラックの形成を防止することができ、よって第2の構造及びその成形面を再使用できる。さらに、成形品に成形面が付着することはないから、第2の構造及びその成形面14は成形品から、エッチングのような技術上普通に用いられる手法によるのではなく、手で取り外すことができる。これは、生産コスト及び成形品の総合品質に極めて有益な効果を有する。
【0037】
上述したように、本明細書に説明される方法によって、複雑で細かい造作をもつ成形ガラス含有品の生産が可能になる。例えば、成形面は、100μmより大きい深さ及び100μmより広い幅でガラス含有組成物に食い込むことができる領域を複数有することができる。別の態様において、深さは100μmから10mmまでとすることができ、幅は100μmから10mmまでとすることができる。別の態様において、成形面は3より大きいアスペクト比を有し、ここで、アスペクト比は[面14の領域または造作の(図において垂直方向の)高さ]/[領域または造作の幅]である。
図5を参照すれば、離型角52は一実験において105°であった。正確に90°の離型角は、従来の既知の手法を用いると、ガラス含有組成物が成形面に付着するために、一般に不可能である。しかし、本明細書に説明される方法ではガラス含有組成物と成形面の間の付着が避けられることから、90°に近い離型角が可能である。さらに、90°に近い離型角をともなう高アスペクト比も可能である。さらにまた、軟化ガラス含有組成物が成形面に付着しないことから、より長い加熱時間が可能であり、この結果、アスペクト比が高められ、離型角が90°に近づけられる。これはマイクロ流体デバイスのようなある種の用途に望ましいことであり得る。
【0038】
図1の第1の構造の第1の面12は平面であるが、別途に、第1の面12もパターン付面とすることができる。
図6を参照すれば、ガラス含有組成物60が第1の構造61と第2の構造62の間に挿入される。この態様においては、第1の構造61の第1の面12及び第2の構造62の第2の面14はいずれもパターン付であり、突領域の数及び寸法に関しては異なっている。熱処理後、成形品の両面が成形面圧痕を有する成形ガラス含有品63が形成される。すなわち、成形ガラス含有品の両側に同じかまたは異なる圧痕を有することが可能である。
【0039】
別の態様において、ガラス含有組成物の同じ表面上に2つないしさらに多くの第1または第2の構造を配することができ、構造は同じかまたは異なるパターン付面を有する。
図7において、成形ガラス含有品70は、得られる成形パターン71と73が同じで、得られる成形パターン72と74が同じ、4つの第2の構造で成形されている。特定のガラス含有組成物塊の横方向広がり及びそれにパターンを付けるために用いられる1つないしさらに多くの構造に依存して、それぞれが成形面を有する、いくつかの構造をガラス含有組成物の表面上に並べて配置し、得られた積重ねを熱処理にかけることが可能である。
【0040】
上述した手法は複数の(すなわち2つないしさらに多くの)成形ガラス含有品の同時作成にも有用である。一態様において、本方法は、
第1の面を有する第1の構造を提供する工程、
第2の面及び第2の面と表裏をなす面を有する第2の構造を提供する工程、ここで第2の面はパターン付であり、多孔質である、
第1の面と第2の面の間に第1のガラス含有組成物塊を配する工程、
第3の面を有する第3の構造を提供する工程及び第3の面と、第2の面と表裏をなす、面の間に第2のガラス含有組成物塊を配する工程、ここで第2の面と表裏をなす面及び第3の面の内の1つはパターン付である、
第1の構造、第2の構造及び第3の構造並びに第1のガラス含有組成物塊及び第2のガラス含有組成物塊をともに、第1の構造と第2の構造及び第2の構造と第3の構造が重力または別途に印加される力の下で互いに近づき、よって、第1のガラス含有組成物塊及び第2のガラス含有組成物塊が、それぞれにそれぞれのパターン付面によってパターンが付けられている、第1の成形品及び第2の成形品を形成するように、第1のガラス含有組成物塊及び第2のガラス含有組成物塊を軟化させるに十分に加熱する工程、
を含む。
【0041】
図8を参照すれば、ガラス含有組成物塊81,83,85,87及び89が構造80と構造82,84,86,88及び90の間に配される、すなわち挟み込まれる。構造82,84,86及び88の場合、構造のパターン付面は異なっている。すなわち、複数の成形ガラス含有品を1つの積重ね構造体で作成することができる。
図8に示されるように、5個のガラス含有成形品91,93,95,97及び99が、熱処理及び成形品の取外し後に作成される。上述したように、短時間で多数の成形品を生産することが可能である。構造82,84,86及び88のそれぞれは2つの同じパターン付面を有するが、2つより多くの異なる面を有する構造を同様に積み重ねて複数の異なる成形品を同時に作成できると考えられる。
【0042】
本明細書に説明される方法で作成される成形ガラス含有品は、超小型反応器のようなマイクロ流体デバイスの作成に有用である。連携対面構造を有する複数の成形品を積層し、シールすることができる。一態様において、積重ね成形品を空気中高温でシールすることができる。加熱の温度及び持続時間は成形品の作成に用いられる材料に依存して変わるであろう。加熱の持続時間は接触している成形品のそれぞれの間に完全なシールが形成されることが保証されるに十分に長い。超小型反応器の場合、これは、反応体が系から全く漏出しないように、また超小型反応器内の内圧を維持するためにも、重要である。
【0043】
成形品の両面に構造を形成することができ、形成される構造は互いにある程度独立であるから、本方法ではガラスマイクロ流体デバイスまたは超小型反応器、特に複数の層をもつガラス超小型反応器の作成に必要なガラスコンポーネントの数が最小限に抑えられる。
【0044】
別の態様において、成形ガラス含有品のガラスではない基板への取付けが望ましいことがあり得る。例えば、高熱伝導基板にシールされた成形ガラス含有品は得られる超小型反応器の伝熱を向上させることができる。一態様において、基板に用いられる材料は成形されるべきガラス含有組成物のCTEと同様のCTEを有し、処理温度に耐えることができる。本発明に有用な基板の例には、シリコン、炭化シリコン、アルミナ及び同様の材料があるが、これらには限定されない。一態様において、成形ガラスを基板上に取り付ける方法は、
第1の面を有する第1の構造を提供する工程、
第2の面を有する第2の構造を提供する工程、ここで第2の面はパターン付であり、多孔質である、
第1の面と第2の面の間に第1のガラス含有組成物塊を配する工程、
第1の構造及び第2の構造並びに第1のガラス含有組成物塊及び第2のガラス含有組成物塊をともに、第1の構造と第2の構造が重力または別途に印加される力の下で互いに近づき、よって第1の組成物塊に第2の面のパターンが形成されるように、第1のガラス含有組成物塊を軟化させるに十分に加熱する工程、
を含み、
加熱する工程は、第1のガラス含有組成物塊を第1の面に融着して、第1の基板とともに、成形ガラス含有を形成する第1のガラス含有組成物塊を得る工程を含む。
【実施例】
【0045】
パターン付面(成形面)の作成
図9に示される面のような成形面14の作成を、例えば、面14を有する構造3を形成するため、1個のグラファイトブロック(仏国ジェヌビリエ(Gennevilliers)、ジャン・ジョーレ通り(rue Jean-Jaures)42番地のCarbone Lorraineで製造されたグレードC25)からCNC加工によって達成した。このグレードは300℃において33×10
−7/℃の熱膨張及び、処理中のガラスからガスを脱出させて気泡形成の防止を可能にする、約10%の開放気孔レベルを有する。
図9の成形面の模様は超小型反応路に用いられる構造を表す。ここで、金型の造作の高さは100μmから1.5mmまで変わり、幅は100μmから7mmまで変わる。
図9を参照すれば、金型は、蛇行構造(高さ=1mm,幅=4mm)、混合器領域に対応する多分割構造及び様々なアスペクト比をもついくつかの柱及び同心円を有する。
【0046】
成形ガラスシートの作成
図1を参照すれば、
図9に示されるような第2のパターン付面14を有する、第2の構造3をBorofloat(商標)ガラスのシートの形態のガラス含有組成物2の上に置いた。第1の構造1の第1の面12によってガラスシートを下から支持した。第1及び第2の構造はカーボンで形成した。加熱中のパターン付面14の造作または領域のガラスへの食い込み速度を高めるため、NS30耐熱金属から加工した金属錘の形態の加重錘4を第2の構造3の上面上に置いた。錘の重量及び直径は1.5kg及び100mmとした。本プロセスの特有の価値の1つは大きな圧力が必要ではないことであり、重力と単純な錘で良好な結果を得ることができる。詳しくは、成形面とガラス含有組成物の間の圧力は100kPa未満であることが望ましく、10kPa未満,さらには1kPa未満であることが一層望ましい。
【0047】
積重ね構造体10をオーブンに入れ、窒素を流しながら加熱した。窒素を入れる前に、オーブン内の空気を真空排気した。面14のリセスに合わせたガラスシートの粘性変形を誘起するため、炉の温度を2時間かけて900℃まで上げた。1時間半の滞留に続いて5時間かけて室温まで冷却した。第1及び第2の構造と成形ガラスシートを手で分解した。
図10及び11は上述した手順で形成した成形Borofloatガラスシート51(3.5mm厚)を示す。成形面14の造作は全て、最も複雑な造作でさえも、ガラスの表面に完璧に転写された。さらに、
図11からわかるように、CNC装置の工具の作動によって生じた金型の金型加工欠陥に対応する造作53さえもガラスシートの表面に転写された。
【0048】
マイクロ流体デバイスの組立
マイクロ流体コンポーネント57を作成するため、上述した手順で作成した2枚の成形ガラスシートを合わせて空気中800℃でシールした。
図12を参照すれば、この図では蛇行造作(暗色)として見られる、流路55の高さは2mmであり、幅は4mmである。このアセンブリは約60バール(6×10
6Pa)の加圧値に耐えた。シール界面に弱点は全く見られなかった。
【0049】
マイクロ流体デバイスに対する特定の価値の1つは、本発明の工程にしたがって作成された3つないしさらに多くの成形品の組立において、特に初期成形プロセスの一部として全ての貫通孔が形成されている場合に、見られる。例えば、成形された構造91,93,95,97及び99を積重ね、合わせてシールして、多層マイクロ流体デバイスを形成することができる。