特許第5665274号(P5665274)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5665274フェーズドアレイレーダシステム及びそのサブアセンブリ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5665274
(24)【登録日】2014年12月19日
(45)【発行日】2015年2月4日
(54)【発明の名称】フェーズドアレイレーダシステム及びそのサブアセンブリ
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/02 20060101AFI20150115BHJP
   G01S 7/03 20060101ALI20150115BHJP
【FI】
   G01S7/02 F
   G01S7/03 C
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2008-543300(P2008-543300)
(86)(22)【出願日】2006年11月8日
(65)【公表番号】特表2009-517692(P2009-517692A)
(43)【公表日】2009年4月30日
(86)【国際出願番号】US2006043485
(87)【国際公開番号】WO2007064451
(87)【国際公開日】20070607
【審査請求日】2009年11月4日
(31)【優先権主張番号】11/292,847
(32)【優先日】2005年12月1日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】503455363
【氏名又は名称】レイセオン カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100101373
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(72)【発明者】
【氏名】アドラーステイン,マイケル・ジー
(72)【発明者】
【氏名】ケイパー,ヴァリー・エス
【審査官】 中村 説志
(56)【参考文献】
【文献】 特表2004−527946(JP,A)
【文献】 特表平05−508060(JP,A)
【文献】 特開平05−300015(JP,A)
【文献】 特開平10−294763(JP,A)
【文献】 特開2003−304136(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/099086(WO,A1)
【文献】 Xiangdong Zhang, et al.,“Full 360°Phase Shifting of Injection-Locked Oscillators”,IEEE MICROWAVE AND GUIDED WAVE LETTERS,1993年 1月,Vol.3,No.1,p.14-16
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S7/00−7/42
G01S13/00−13/95
H01P1/10−1/195
H01Q3/00−3/46
H01Q21/00−25/04
H03H7/18−7/21
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移相器であって、
周波数fを有する入力信号源と、
前記入力信号が供給される結合器であって、前記周波数fを有するとともに、mπ/2ラジアンの相対的な位相差を有する一対の信号を与える一対の出力端子を有し、mは奇数である、結合器と、
一対の入力を有するスイッチであって、該一対の入力のそれぞれ1つは、前記結合器の前記一対の出力端子の対応する1つに結合され、前記スイッチが1つの出力を有し、前記スイッチに供給される第1の制御信号に応じて、前記スイッチの一対の入力の一方が前記スイッチの前記1つの出力に選択的に結合される、スイッチと、
前記スイッチの出力に結合される同調可能な共振回路であって、前記周波数fの2倍の公称共振周波数を有し、前記共振回路の周波数は、前記同調可能な共振回路に供給される第2の制御信号に応答して、前記公称周波数から離調する、同調可能な共振回路と、
を備える移相器。
【請求項2】
第2の信号の周波数f/MをM倍して、前記周波数fを有する前記入力信号を生成する周波数乗算器を備え、Mは1よりも大きい整数である、請求項1に記載の移相器。
【請求項3】
前記周波数乗算器は位相ロックループを含み、該位相ロックループは、
前記第2の信号が供給される第1の入力を有する位相検出器と、
前記入力信号を生成するように前記位相検出器によって制御される発振器と、
を備え、前記位相検出器は、前記発振器によって生成される前記信号の一部が供給される第2の入力を有する、請求項2に記載の移相器。
【請求項4】
前記位相ロックループは、前記発振器によって生成される前記信号の一部が供給される周波数分周器を含み、該周波数分周器の出力は、前記位相検出器の前記第2の入力に供給され、該周波数分周器は、前記発振器によって生成される前記信号の前記周波数を係数Mで分周する、請求項3に記載の移相器。
【請求項5】
送信/受信モジュールであって、
(A)請求項1に記載の移相器を有する送信経路であって、
前記同調可能な共振回路によって生成される信号から、送信信号が導出される、送信経路と、
(B)受信経路であって、前記送信信号の反射、及び前記同調可能な共振回路によって生成される前記信号の一部が供給されるミクサを備える、受信経路と、
を備える送信/受信モジュール。
【請求項6】
送信/受信モジュールであって、
(A)請求項2に記載の移相器を有する送信経路であって、
前記同調可能な共振回路によって生成される信号から、送信信号が導出される、送信経路と、
(B)受信経路であって、前記送信信号の反射、及び前記周波数乗算器から導出される前記信号が供給されるミクサを備える、受信経路と、
を備える送信/受信モジュール。
【請求項7】
前記周波数乗算器は位相ロックループを備え、該位相ロックループは、
前記第2の信号が供給される第1の入力を有する位相検出器と、
前記入力信号を生成するように前記位相検出器によって制御される発振器と、
を備え、前記位相検出器は、前記発振器によって生成される前記信号の一部が供給される第2の入力を有する、請求項6に記載の送信/受信モジュール。
【請求項8】
請求項2に記載の移相器であって、
前記結合器は、ハイブリッドジャンクションであり、出力のうち一方の出力において、他方の出力の信号に対して固定された90度の位相差を有する信号を与え、前記ハイブリッドジャンクションは前記周波数乗算器に結合される入力を有する、移相器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概括的にはフェーズドアレイレーダシステム及びそのサブアセンブリに関し、より詳細には、その中で用いられ、集積回路製造に適しているビームフォーミング送信素子及び受信素子に関する。
【背景技術】
【0002】
当該技術分野において知られているように、電子移相器を組み込むマイクロ波フェーズドアレイ素子は多種多様な用途を有する。そのような用途の1つは、フェーズドアレイシステムの中にある。より詳細には、ビームフォーミング装置を用いて、電磁放射ビームが形成される。ビームの形状は、その装置のアパーチャを横切って受信又は送信される信号に与えられる位相及び振幅の分布に関連する。たとえば、フェーズドアレイアンテナでは、アパーチャは複数のアンテナ素子を含む。アンテナ素子はそれぞれ、複数の可変移相器−可変利得モジュールのうちの対応するものを通じて、給電構造に接続される。その給電構造として、コーポレート給電(corporate feed)構造を用いることができるか、又は空間給電フェーズドアレイシステムの場合のような透過照射(through illumination)構造を用いることができる。いずれにしても、コリメートされた指向放射ビームを与えるために、そのモジュールはビームステアリングコンピュータからの信号によって制御される。たとえば、ブロードサイド(すなわち、ボアサイト)ビームの場合、各アンテナ素子から生じる信号の位相シフトは任意の基準に対して0である。素子間の位相シフトが、或る一定の量だけ0から異なる場合には、それに応じて、主放射ローブの方向がブロードサイドからシフトされる。
【0003】
レーダエネルギーを送信するために用いられるときに、送信されるパルスは搬送波周波数fを有し、各モジュールはこの同じ周波数fにおいて動作する。したがって、アレイが適当に動作するために、給電構造を通じて、共通の基準周波数が各素子に供給されなければならない。
【0004】
集積回路を製造するのに適したモジュールを有することが望ましいことも当該技術分野において知られている。今日、モジュールの増幅器部分は、多くの用途の場合に、III−V技術(たとえば、GaAs、GaN、InP)材料で構成せざるを得ない。そのモジュールの移相器部分は、ほとんどの場合に、放射されることになるマイクロ波周波数において動作する別個の切替式移相器を用いてモノリシックに構成される。最近のシリコンCMOS技術の進歩によって、位相シフト機能をアナログ方式で実施できるようになっている。その利点の中には、アレイ素子の位相シフト及び周波数制御のための自由度が高くなること、及びコストが下がることが含まれる。提案されている1つの技法が、Xiangdong Zhang著の論文「Full 360°Phase Shifting of Injection-Locked Oscillators」(IEEE MICROWAVE AND GUIDED WAVE LETTERS, VOL. 3, No. 1, JANUARY 1993)に記述されている。この技法の短所は、ビームステアリングと同時に、望ましくない周波数シフトが生じる可能性があることである。さらに別の短所は、レーダにおいて用いるために必要とされるような、効率的で、自由度のある受信経路が欠落していることである。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、移相器が提供される。移相器は、周波数fを有する入力信号が供給される。入力信号が供給される結合器(カプラ)が備えられる。当該結合器は、周波数fを有するとともに、mπ/2ラジアンの相対的な位相差を有する一対の信号を与える一対の出力端子を有し、mは整数である。一対の入力を有するスイッチであって、当該一対の入力はそれぞれ、結合器の一対の出力端子のうちの対応する出力端子に接続される、スイッチが備えられる。当該スイッチは1つの出力を有し、当該スイッチに供給される第1の制御信号に応じて、当該スイッチの一対の入力のうちの一方が選択的に当該スイッチの出力に接続される。同調可能な共振回路がスイッチの出力に接続される。当該同調可能な共振回路は、周波数fの整数倍である公称共振周波数を有し、共振回路の周波数は、同調可能な共振回路に供給される第2の制御信号に応答して、スイッチの出力における信号の高調波に対して公称共振周波数をシフトするように、当該公称周波数から離調する。
【0006】
一実施の形態では、第2の信号の周波数f/MをM倍に乗算して、周波数fを有する入力信号を生成する周波数乗算器が備えられる。
一実施の形態では、周波数乗算器は位相ロックループ(位相同期ループ)を備え、位相ロックループは、第2の信号によって周波数乗算器に供給される第1の入力を有する位相検出器(検波器)と、入力信号を生成するように位相検出器によって制御される発振器とを備える。位相検出器は、発振器によって生成される信号の一部が供給される第2の入力を有する。
【0007】
一実施の形態では、位相ロックループは、発振器によって生成される信号の一部が供給される周波数分周器を備える。当該周波数分周器の出力は、位相検出器の第2の入力に結合される。当該周波数分周器は、発振器によって生成される信号の周波数をM分周する。
【0008】
一実施の形態では、送信/受信モジュールが提供される。当該モジュールは、(A)移相器を有する送信経路と、(B)送信信号経路から結合される電力が供給される混合器(ミクサ)を有する受信経路とを備える。
【0009】
一実施の形態では、入力信号の周波数f/(2M)(ただし、Mは1より大きな整数である)を変換して、周波数f/2を有する第1の出力信号を生成する周波数乗算器と、周波数乗算器に結合され、公称周波数nf/2(ただし、nは1以上の整数である)を有する第2の出力信号を生成する同調可能な共振回路とを有する移相器が提供され、同調可能な共振回路に制御信号が供給されるのに応答して、第2の出力信号の位相が、その公称位相から離調する。
【0010】
一実施の形態では、移相器は、一対の出力を有するハイブリッド結合器であって、一対の出力は、一方の出力において、他方の出力の信号に対して固定された90度の位相シフトを有する信号を与え、そのようなハイブリッド結合器は周波数乗算器に結合される入力を有する、ハイブリッド結合器と、スイッチ制御信号に従って、一対の出力のうちの一方を選択的に同調可能な共振回路に接続するためのスイッチとを備える。
【0011】
そのような構成、すなわち、周波数乗算器と、その後段のインジェクションロック発振器又は増幅器のような同調可能な共振回路とを用いる構成によれば、周波数が一定に保持されるのを確実にする移相器が提供される。その構成は、周波数乗算器内の周波数分周器の係数M及びnを変更することによって、アップコンバージョン比を選択する際の自由度を提供する。n=2である場合に、同調可能な共振回路と共に、90度ハイブリッド及びスイッチを用いることによって、完全に走査可能なフェーズドアレイアンテナの用途によって必要とされるような±180度の位相シフト範囲が提供される。
【0012】
本発明は、送信周波数において動作するマイクロ波ビームフォーミングネットワークを必要とすることなく、ビーム方向をデジタル制御できるようにする送信フェーズドアレイ素子のための上記のアーキテクチャを提供する。それらの機能は、放射される周波数に合理的に関連付けられる、分周調波の周波数において実施されるので、回路のほとんどをCMOS回路において実装することができる。その設計によれば、基準データで周波数及び多重化を制御できるようになる。
【0013】
一実施の形態では、戻り信号(反射信号)のための受信経路は、送信中及び受信中の両方において同じ所望の位相シフトを有する送信経路から導出される1つ又は複数の局部発振器信号を用いる。それにより、そのシステムは、ベースバンドへのシングルコンバージョンを選択できるようになり、ベースバンドにおいて、アナログ−デジタル変換を実施することができる。別法では、ダブルコンバージョンを実施することができ、同相(I)位相処理及び直交(Q)位相処理を含む他の検出方式を可能にする。この実施の形態によれば、受信経路において位相を個別に設定することを必要とすることなく、受信モードにおいて送信ビームパターンを保持できるようになる。
【0014】
本発明の1つ又は複数の実施形態の細部が、添付の図面及び以下の説明において述べられる。本発明の他の特徴、目的及び利点は、その説明及び図面から、さらには特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【0015】
種々の図面における類似の参照符号は、類似の素子を指示する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
ここで図1を参照すると、ビームフォーミングネットワークを通じてレーダシステムプロセッサ14に結合されるアンテナ素子12a〜12nのアレイを有するフェーズドアレイレーダシステム10が示されている。ビームフォーミングネットワークは、複数の同じ可変送信/受信位相シフト及び振幅調整モジュール16a〜16nへのインターフェースを含む。
【0017】
各可変送信/受信位相シフト及び振幅調整モジュール16a〜16nは、レーダシステムプロセッサ14によってライン18上に生成される共通の基準周波数信号が供給される位相ロックループ(PLL)19を含む。ライン18上の信号の周波数は、f=fant/(2M)として表される。ただし、Mは1よりも大きな整数であり、典型的には2の累乗である。ここで、この例では、M=16であり、fantは10GHzである。したがって、ライン18上の基準信号は625MHzである。この周波数は比較的低いので、通常のビームフォーミングネットワークの代わりに、従来のUHF伝送媒体(たとえば、同軸ケーブル、プリントトレース又は復調された光信号)を用いることができることに留意されたい。
【0018】
PLL19は、ライン18上の基準信号、及び後に説明するマスター発振器22から導出されるフィードバック信号が供給される位相検出器(PD)20を備える。位相検出器20の出力は、ローパスフィルタ24に供給される。ローパスフィルタ24の出力は、電圧制御発振器22を制御するために用いられるDC信号である。電圧制御発振器22の出力は、fant/2の公称周波数を有する(すなわち、公称周波数fant/2は、ローパスフィルタ24によって生成されるDC信号のレベルが0であるときに生成される)。電圧制御発振器22によって生成される出力信号の一部は、カプラ(結合器)26及び周波数分周器28を通じて、位相検出器20にフィードバックされる。周波数分周器28は、結合器26からのフィードバック信号の周波数fant/2をM分周し、周波数fant/(2M)を有する信号を生成する。ただし、Mは整数である。したがって、PLL19は、ライン18上の基準信号の周波数fをM倍(ただし、Mは整数である)に乗算し、PLL19の出力30において、周波数f/2を有する信号を生成する周波数乗算器を提供する。
【0019】
PLL19の出力の大部分はバッファ増幅器32に供給される。バッファ増幅器32の出力は90度ハイブリッド結合器34に供給される。ハイブリッド結合器34は、端子0度及び90度として一対の出力信号を生成する。そのような出力信号は振幅が等しく、90度の位相差を有する。
【0020】
ハイブリッド結合器34の出力はスイッチ36に供給される。スイッチ36は、レーダシステムプロセッサ14によってライン39上に生成される制御信号に応答して動作する。ライン39上の制御信号は2つのDC状態を有する。一方の状態では、ライン39上の制御信号は、0度から180度への位相変化を得るために、インジェクションロック発振器38の入力に端子0度の信号を結合するようにスイッチ36を動作させるのに対して、他方の状態では、ライン39上の制御信号は、180度から360度への位相シフト変化を得るために、インジェクションロック発振器(ILO)38の入力に端子90度の信号を結合するようにスイッチ36を動作させる。その理由は後述する。
【0021】
インジェクションロック(すなわちスレーブ)発振器38は、レーダシステムプロセッサ14によってライン42上に生成される信号によって電圧制御される。より詳細には、図に示されるように、発振器38は、フィードバックするように、その周囲に同調可能な共振回路41(すなわち、コンデンサ、ここでは可変コンデンサ(C)−コイル(L)共振回路)が接続されている増幅器37を備える。同調可能な共振回路は、たとえば、並列共振回路のような他の形をとることもできることに留意されたい。ここで、同調可能な共振回路41の共振は、可変コンデンサCの静電容量を変更する、ライン42上の電圧によって制御される。インジェクションロック発振器38の出力は可変利得増幅器44又は減衰器に供給され、場合によって利得であることも減衰であることもあるが、それはレーダシステムプロセッサ14によってライン46上に生成される制御信号(通常DC)によって制御される。可変利得/減衰デバイス44の出力は、結合器52を通じて、高電力増幅器50に供給される。増幅器の出力は、周波数fantを有し、送信中に、たとえば、モジュール16aの場合には、送信/受信スイッチ56を通じてアンテナ素子12aに供給される。
【0022】
インジェクションロック発振器38(本明細書では、スレーブ発振器と呼ばれることもあり、発振器22はマスター発振器と呼ばれることもある)によって生成される周波数は、マスター発振器22によって生成される周波数の2倍であることに留意されたい。それゆえ、スレーブ発振器38の位相は、マスター発振器22の第2高調波を基準にする。この高調波は、スレーブ発振器38がもともと非線形であることによって生成される。スレーブ発振器38の位相は、基準位相(すなわち、マスター発振器22の第2高調波)に対して±90度だけ変更することができる。1つの状態では、基準位相は、スイッチ36を0度に設定することによって得られる。ベクトル表現では、スレーブ発振器38の出力の位相の出力は、180度の半円として表すことができる。しかしながら、任意のフェーズドアレイ素子を動作させるには、位相は±180度の範囲にわたって変更可能である必要がある。完全な360度の円を形成するために必要とされる隣接する半円は、スイッチ36を90度極性に設定することによって果たされる。この結果として、スレーブ発振器38内の位相基準信号の位相が180度だけシフトする。したがって、スレーブ発振器38において取り得る全ての位相状態が、対を成す逆の極性を有する。その際、フェーザ(出力位相ベクトル)は、所望の360度範囲に広がる。別の言い方をすると、端子0度の信号がインジェクションロック発振器、すなわちスレーブ38の入力に結合されるとき、スレーブ発振器38の出力において、−90度から+90度への位相シフト変化が得られるのに対して、スイッチ36が、端子90度の信号をインジェクションロック発振器(ILO)、すなわちスレーブ38の入力に結合するとき、スレーブ発振器38の出力において、位相シフト変化が+90度から+270度に増加する。
【0023】
T/Rスイッチ56は、レーダシステムプロセッサ14によってライン47上に生成される制御信号によって操作されることに留意されたい。また、送信するためのRFエネルギーのパルスは、たとえば、レーダシステムプロセッサ14からのXMTコマンド信号に応答して、高電力増幅器50をパルス変調することによって生成されることにも留意されたい。
【0024】
可変利得/減衰デバイス44によって生成される信号のわずかな部分が、結合器52を通じて、ミクサ60に供給される。この信号は、局部発振器としての役割を果たし、その位相は、プロセッサ14によって制御ライン39及び42上に生成される信号によって制御される。こうして、受信モード中に、アンテナ素子12a〜12nによって受信されるエネルギーは、増幅器62を介して、対応するモジュール16a〜16n内のミクサ60に供給される。ミクサ60の出力は、図に示されるように、ローパスフィルタ64を介して、さらにアナログ−デジタル変換器66を介して、レーダシステムプロセッサ14に戻される。直交検出(すなわち、同相(I)チャネル及び直交(Q)チャネル)を伴う方式を含む、他の検出方式をベースバンドにおいて用いることもできる。
【0025】
アンテナ素子12a〜12nによって生成されるビームの形状は、複数の同じ可変送信/受信位相シフト及び振幅調整モジュール16a〜16nによって入力信号に与えられる相対的な位相及び振幅の分布に関連付けられる。ライン18上の基準信号は、それぞれ「マスター」及び「スレーブ」と呼ばれる一対の電圧制御発振器22、38で用いられることに留意されたい。ライン18上の基準信号は位相検出器20に供給され、それはマスター発振器位相ロックループ(PLL)回路19の一部である。PLLの周波数分周器及びローパスフィルタ(LPF)部分は、従来どおりにマスター発振器22に位相ロックするための役割を果たす。この位相ロックは、発振器22の共振タンク回路(図示せず)に含まれるDCバラクタ(図示せず)へのループ入力によって、又はマスター発振器タンク回路(図示せず)内のインジェクションロック発振器の位相制御の任意の他の手段によって果たされる。マスター発振器22の自走周波数は、この例ではf/2であり、ここではf/2は5GHzである。発振器22の後段のバッファ増幅器32は、電力利得と、発振器22のための一定の負荷とを提供する。
【0026】
マスター発振器22を含む構成要素の組み合わせは、低い位相雑音を保持し、コンパクトな直交ハイブリッド結合器34への入力を与えるように設計される。先に言及したように、ハイブリッド結合器34の2つの出力端子は、振幅が等しく、位相が90度だけ異なる。スイッチ36は、fant/2の信号を通し、スレーブ発振器38に入力される位相の方向を選択する。
【0027】
自走発振器の場合、発振器の周波数は、出力信号の位相の結果として、利得素子の入力に最適な正帰還がかかるように決定されることに留意されたい。その位相は、発振器内に存在する共振器及びフィードバック経路によって決定される。バラクタとコイルを組み合わせた共振器のように、共振器が同調可能である場合には、所望のフィードバック位相を保持するために、周波数が変化する。インジェクションロック発振器では、図1aの場合のように、信号、ここではスイッチ36からの信号が、フィードバック経路、すなわち同調可能な共振回路41に注入される。
【0028】
注入される信号が自走周波数にあるものと仮定する。その際、R. Adler著の論文「A study of locking phenomena in oscillators」(Proceeding of IRE vol. 34, pp. 351-357)に記述されるように、入力される信号と出力信号とのベクトル和が、発振を持続するための望ましいフィードバック位相を与えるように、発振器位相が調整されるであろう。さらに、発振器の共振周波数が、バラクタを変化させることによって変更されるものと仮定する。その際、発振を持続するために、出力信号の位相を調整し直して、共振器41を同調し直すことによって位相シフトに対応しなければならない。注入される信号が十分に強い場合には、発振器の動態によって、周波数がシフトしなくなるであろう。
【0029】
ビームステアリングのために±180度が必要とされるが、このようにして生成された位相シフトは±90度に制限されることは明らかである。この問題は、先に言及したように、ハイブリッド結合器34及びスイッチ36を設けることによって解決される。
【0030】
本発明によれば、スイッチ36の出力は、周波数fant/2を有する信号であり、スレーブ発振器38に直接的に注入される。発振器38そのものは極めて非線形なデバイスであり、それゆえ、内部で第2の高調波信号を生成し、その高調波信号は、自走周波数において注入される信号のように挙動する。信号が注入される結果として、分数調波周波数がスレーブ発振器38のfantにロックするようになる。
【0031】
注入される高調波の位相に対して、上記の古典的な効果は、±90度の位相シフトを可能にする。これらの位相設定のいずれの場合でも、基準信号の急峻な90度の位相シフトは、第2高調波の180度の位相シフトに対応する。この結果として、発振器38からの出力信号において180度の位相シフトが生じる。この位相は、バラクタチューナ、すなわち共振器41を変化させるだけでは達成されない。基準における急峻な90度シフトは、逆のハイブリッドブランチのスイッチを選択することに起因する。
【0032】
出力変化の電圧感度は、スレーブ発振器38からの出力電力に対するマスター発振器22から注入される入力電力の比による。スレーブ発振器38内の共振器41のQも、位相シフトの電圧感度に関与する。したがって、注入される電力、Q及び位相雑音の間にもトレードオフがある。
【0033】
ライン42上でスレーブ発振器38に与えられる位相制御電圧及びライン39上でスイッチ36を操作するために用いられる電圧は、レーダシステムプロセッサ14によって与えられる。1つの方式はデータのD/A変換を用いることであり、そのデータは、ライン18上で基準UHF信号に多重化される。このデータは、RF信号の位相(それゆえ、ビーム方向)を制御することができるだけなく、周波数変化も引き起こすことができる。これは、位相ロックループ内の分周器設定(すなわち、Mの選択)、及びスレーブ発振器38を同期させる周波数の分数調波の次数nの種々の組み合わせを用いることによって果たされる。
【0034】
上記の発明によれば、基準信号の周波数fant/(2M)を、周波数fant/2を有する第1の出力信号に変換するために、マスター発振器22を有する周波数乗算器、ここではPLL19によって位相シフト動作が行われる。ただし、Mは1よりも大きな整数(通常、2の累乗)である。スレーブ発振器38は、周波数乗算器に接続され、公称周波数nfant/2を有する出力信号を生成する。ただし、nは1よりも大きな整数であり、ここではnは2であり、出力信号の位相は、ライン42を介してスレーブ発振器38に供給される制御信号に応答して、その公称位相から離調する。
【0035】
フェーズドアレイにおいて重要なのは、fantの周波数においてビームをステアリングできることであり、それは、或る特定のアンテナ素子の0位相に対して、アレイアンテナ素子12a〜12nの間に相対的な位相シフトを導入できることを意味する。たとえば、アンテナ素子12aが基準位相として定義される、或る位相において送信する場合を考える。次のアンテナ素子12b(図示せず)は、fantの周波数にあり、アンテナ素子12aの位相に対して位相Xを有するように、モジュール12b(スイッチ36及びハイブリッド36を備えるインジェクションロック発振器ILO42)(図示せず)によって位相が調整される。次のアンテナ素子12c(図示せず)は、再びアンテナ素子12aの位相に対して2Xの位相シフトを有する。それ以降も同様であり、アンテナ素子12nは、アンテナ素子12aに対して位相シフトnXを有する。周波数fant/(2M)のライン18上の信号は、共通の基準信号としての役割を果たす。この構成では、fantにおけるアレイ内のアンテナ素子12a〜12n間の瞬時位相不確定性の大きさを理解することが重要である。PLL19及びILO38におけるアップコンバージョン過程に起因して、この不確定性(又は位相誤差)は2M×Δφcommonである。ただし、Δφcommonは、fant/(2M)の周波数における、アンテナ素子12a〜12nへの入力間の位相誤差である。そのシステムは、アレイの初期較正を用いて、そのような系統誤差を考慮に入れる。
【0036】
ここで、受信動作を考えると、受信モードでは、T/Rスイッチ56がモジュール16a〜16n内のアンテナ素子12a〜12nを、そのようなモジュール16a〜16n内の対応する受信経路に接続する。送信チェーン内のスレーブ発振器38は、受信経路内のダイレクトコンバージョンミクサ60のための局部発振器(LO)としての役割を果たす。受信される信号のアンテナ素子間の位相関係は、そのコンバージョンにおいて保持される。それゆえ、LO位相は送信中と同じ位相シフトモジュール16aから16nから導出されるので、アンテナローブの方向は送信ローブの方向と同じである。ミクサ60は、両方の方向において、LOポートとRFポートとの間のアイソレーションを与えるように設計される。低雑音増幅器62の出力を正確に整合させることによって、このアイソレーションが補われる。
【0037】
受信チェーンにおけるアップコンバージョンの別の要件は、ミクサ60に入るLO位相が、アンテナ素子間でコヒーレントであることである。この要件は、上記のように、送信モードにおいて動作している同じ機構によって対処される。ミクサが任意の素子間位相シフトを導入する場合には、ビーム方向を保持するために、送信モードから受信モードに移行する際に、スレーブ発振器38の位相を調整し直すことができる。
【0038】
ここで図2を参照すると、図1に示されるモジュールの送信部が2チップ構成で示される。一方のチップ92はCMOS製造に適しているシリコンであり、他方のチップ90はRF性能にとって最適であるIII−V族材料を用いる。したがって、そのような構成によれば、ビーム方向をデジタル制御できるようになり、マイクロ波ビームフォーマが不要になり、放射される周波数の分数調波において機能が実施されるので、回路のほとんどをCMOS回路で実装することができる。その設計によれば、レーダシステムコマンドを通じて、周波数及び多重化を制御できるようになる。
【0039】
ここで図3を参照すると、可変送信/受信位相シフト及び振幅調整モジュールの別の実施形態、ここではモジュール16’aが示される。ここでは、ローパスフィルタ64の出力がミクサ70に供給される。ここでは、モジュール16a内の周波数分周器28(図1)の代わりに、一対の分周器28a及び28bが用いられる。周波数分周器28aは、周波数fant/(M/2)を有する信号を生成し、この信号は結合器72を介してミクサ70の第2の入力に供給される。周波数分周器28bは、周波数fant/2を有する信号を生成し、この信号は、位相検出器20に供給される。したがって、ミクサ70の出力は、ライン74においてレーダシステムプロセッサ14(図1)によって処理するために周波数fant/Mにアップコンバートされる。したがって、レーダシステムプロセッサ14への受信機チャネルによって生成される周波数は、レーダシステムプロセッサ14からモジュール16’への信号、すなわち、fant/(2M)の送信周波数基準とは異なる。
【0040】
結果として実施されるアップコンバージョンによれば、元の基準信号fant/2をアレイ素子に搬送するUHFシステム/素子インターフェースを再利用できる可能性がある。位相が引き込まれるのを避けるために、受信UHF経路と送信UHF経路との間にアイソレーションを与えることに注意を払わなければならない。このアイソレーションを達成するのに、数多くの代替の方法がある。
【0041】
1.良好なUHF方向性結合器を用いて、ライン18上の入力信号及びミクサ70からの出力信号をルーティングしなければならない。
2.図3に示すように、別個の受信経路UHF伝送線路74が、送信基準ライン18に対して平行に延在することができる。
【0042】
3.受信チェーンアップコンバータ(すなわち、ミクサ70)において用いられるPLL内のフィードバック信号からの局部発振器周波数を、図に示されるように、マスター発振器PLL内の任意の中間分周器段から導出することができる。たとえば、最後の2分周段の前にLOを取り出すことによって、fant/Mの局部発振器周波数がもたらされるであろう。これは、fant/(2M)の送信周波数基準とは異なる。
【0043】
4.受信チェーン内のダイレクトコンバージョンミクサのベースバンド出力をデジタル化し、他の素子からの信号と多重化することができる。
5.光ファイバ上での光の変調を用いて、アレイ素子との間でUHF信号を搬送することができる。
【0044】
本発明の多数の実施形態について説明したが、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、種々の変更を加えることができることは理解されよう。したがって、他の実施形態も特許請求の範囲に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
図1】本発明によるレーダシステムのブロック図である。
図2】本発明による、図1のレーダシステムにおいて用いられる複数の同じ可変送信/受信位相シフト及び振幅調整素子の1つの例示的な素子の送信部のブロック図である。
図3】複数の集積回路チップで実装される、図1のレーダシステムにおいて用いられる複数の同じ可変送信/受信位相シフト及び振幅調整モジュールのうちの1つの例示的な素子のブロック図である。
図1
図2
図3