特許第5665296号(P5665296)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5665296
(24)【登録日】2014年12月19日
(45)【発行日】2015年2月4日
(54)【発明の名称】風力発電機タービン用の避雷装置
(51)【国際特許分類】
   F03D 11/00 20060101AFI20150115BHJP
   H01T 4/02 20060101ALI20150115BHJP
【FI】
   F03D11/00 Z
   H01T4/02 A
【請求項の数】11
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2009-215770(P2009-215770)
(22)【出願日】2009年9月17日
(65)【公開番号】特開2010-71287(P2010-71287A)
(43)【公開日】2010年4月2日
【審査請求日】2012年7月12日
(31)【優先権主張番号】08016491
(32)【優先日】2008年9月18日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】390039413
【氏名又は名称】シーメンス アクチエンゲゼルシヤフト
【氏名又は名称原語表記】Siemens Aktiengesellschaft
(74)【代理人】
【識別番号】100061815
【弁理士】
【氏名又は名称】矢野 敏雄
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(74)【代理人】
【識別番号】100112793
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 佳大
(74)【代理人】
【識別番号】100128679
【弁理士】
【氏名又は名称】星 公弘
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(72)【発明者】
【氏名】カイ オルセン
【審査官】 柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−077889(JP,A)
【文献】 特開2005−237157(JP,A)
【文献】 特開2000−265938(JP,A)
【文献】 特表2003−532836(JP,A)
【文献】 特開2006−353046(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03D 11/00
H01T 4/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
風力発電機タービンを落雷によるダメージから保護するための避雷装置であって、
該避雷装置がチョーク部材(101)を有しており、
該チョーク部材が、前記風力発電機タービンのシャフト(103)を通る、落雷によって生じた電流によって、該チョーク部材(101)内に磁束が発生するように、前記シャフト(103)の周囲に取り付けられている
避雷装置において、
前記チョーク部材(101)は導電コイル(201)を有しており、該導電コイル(201)は、前記落雷によって生じた前記シャフト(103)を通る電流の少なくとも一部を自身(201)の内部へ導くように配置されている
ことを特徴とする避雷装置。
【請求項2】
前記チョーク部材(101)によって前記シャフト(103)が落雷の電流に曝される高電位領域(H)と風力発電機タービンの保護すべきエレメント(105)へ接続された低電位領域(L)とへ分割されており、さらに前記シャフト(103)の前記高電位領域(H)からの電流の少なくとも一部を放電する分流部材(102)が設けられている、請求項1記載の避雷装置。
【請求項3】
スパークギャップ(107)を形成するために、前記分流部材(102)が前記シャフト(103)から離れて配置されている、請求項2記載の避雷装置。
【請求項4】
さらに、前記シャフト(103)と前記分流部材(102)とのあいだに電気的接続を形成するバッファ部材(104)が設けられている、請求項2または3記載の避雷装置。
【請求項5】
前記バッファ部材(104)は前記シャフト(103)に交換可能に設置されている、請求項4記載の避雷装置。
【請求項6】
前記分流部材(102)は前記シャフト(103)と前記分流部材(102)とのあいだに電気的接続を形成する金属先端部を有している、請求項2から5までのいずれか1項記載の避雷装置。
【請求項7】
前記チョーク部材(101)は複数の導電コイル(201)を有しており、各導電コイル(201)は相互に短絡されている、請求項1から6までのいずれか1項記載の避雷装置。
【請求項8】
前記チョーク部材(101)は透磁性材料を含む、請求項1からまでのいずれか1項記載の避雷装置。
【請求項9】
前記チョーク部材(101)は積層されたSiFeを含む、請求項記載の避雷装置。
【請求項10】
シャフト(103)と、請求項1からまでのいずれか1項記載の避雷装置(100)と、保護すべきエレメント(105)とを有する、
風力発電機タービンにおいて、
前記保護すべきエレメント(105)が前記シャフト(103)に電気的に結合されており、
前記シャフト(103)から前記保護すべきエレメント(105)へ流れる電流が落雷によって前記シャフト(103)に生じた電流に比べて前記避雷装置(100)を介して低減される
ことを特徴とする風力発電機タービン。
【請求項11】
風力発電機タービンを落雷によるダメージから保護する方法において、
導電コイル(201)を有するチョーク部材(101)を前記風力発電機タービンのシャフト(103)の周囲に取り付け、
該シャフト(103)を通る、落雷によって生じた電流によって、前記チョーク部材(101)内に磁束を発生させる際に、前記導電コイル(201)を、その内部へ、前記シャフト(103)を通る前記落雷によって生じた電流の少なくとも一部が導かれるように配置する
ことを特徴とする
風力発電機タービンを落雷によるダメージから保護する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は風力発電機タービンの分野に属する。特に、本発明は、屋外で使用される装置、特に風力発電機タービンを、落雷によるダメージから保護するための避雷装置に関する。さらに、本発明は、風力発電機タービン、ならびに、屋外で使用される装置、特に風力発電機タービンを落雷によるダメージから保護する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
風力発電機タービンには避雷装置を取り付け、落雷による大電流が地面へ流れてタービンの部品を損傷させないことを保証する必要がある。
【0003】
風力発電機ではタービンブレードが最も落雷に遭いやすいので、避雷装置の役割はタービンブレードから地面までの電流路を確保することである。しかし、タービンの部品はそれぞれ相対的に回転しているため、実際にこれを達成するのは困難である。特に、タービンブレードは長軸すなわちピッチ軸を中心として回転しており、同時に、ブレードを支持しているメインシャフトもタービンのナセルに対して回転している。ナセルはタービンがつねに風に正対するようにタービンの垂直軸すなわちヨー軸を中心にして回転している。このため、落雷による電流は自由回転しているベアリングを通って地面へ流れてしまう。
【0004】
ピッチ運動およびヨー運動は比較的緩慢であり、その範囲も制限されている。したがって、例えば金属のブラシまたはローラを設け、ピッチおよびヨーの運動を支承するベアリングをバイパスして導通路を形成することはそれほど難しくない。
【0005】
しかし、タービンのメインシャフトはピッチ運動およびヨー運動に対するベアリングよりも高速で連続的に回転している。メインシャフトは中実のベアリングを介してナセルの基部に支持されている。中実のベアリングは金属から成っており、落雷電流に対して自然の導通路を形成する。ただし、ベアリングの回転部分と内部溝ないし外部溝とのあいだの有効接触領域は小さいので、当該のエリアの電流密度は大きくなる。大きな電流密度により当該の接触領域に高温が生じ、ベアリングがダメージを受ける。
【0006】
欧州公開第1788241号明細書には、落雷による電流の流れ方向を変更する方法が記載されている。この方法では、落雷電流を、メインシャフトから、これに取り付けられたブレーキディスクおよびスパークギャップを介して、アース電位のダウンコンバータに結合されたローラ機構へ流れさせる。
【0007】
欧州公開第1568883号明細書には、ピラーに取り付けられたケーシング内にプロペラ駆動されるジェネレータを有する風力発電機が記載されている。当該の風力発電機はアースへ結合された導体装置によって落雷から保護されている。当該の風力発電機は、回転部および定置部のあいだに接続を形成するスリップリングおよびブラシを利用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】欧州公開第1788241号明細書
【特許文献2】欧州公開第1568883号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、落雷に強い風力発電機タービンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この課題は、本発明の風力発電機タービン用の避雷装置、風力発電機タービン、ならびに、本発明の屋外で使用される装置(特に風力発電機タービン)を落雷によるダメージから保護する方法によって解決される。本発明の有利な実施形態は従属請求項に記載されている。
【0011】
本発明の、屋外で使用される装置、特に風力発電機タービンを落雷によるダメージから保護するための避雷装置は、当該の避雷装置がチョーク部材を有しており、チョーク部材が、シャフトを通る電流によって当該のチョーク部材内に磁束が発生するように、保護すべき装置のシャフトの周囲に取り付けられていることを特徴とする。
【0012】
さらに、本発明の、屋外で使用される装置、特に風力発電機タービンを落雷によるダメージから保護する方法は、チョーク部材をシャフトの周囲に取り付け、シャフトを通る電流によってチョーク部材内に磁束を発生させることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】風力発電機タービンのシャフトに取り付けられる本発明の避雷装置の概略図である。
図2】本発明の避雷装置における導電コイルを含むチョーク部材の概略図である。
図3】シャフトの高電位領域に接続された個所に落雷があったときに保護すべき装置を流れる電流の時間特性を表したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
屋外で使用される装置とは、自然環境において使用され、落雷や嵐に直接に曝されるエレクトロニクス装置のことである。保護すべき装置の例として、落雷のダメージから保護しなければならない風力発電機タービンが挙げられる。
【0015】
チョーク部材は風力発電機タービンのシャフトの周囲に取り付けられるリング状素子を有する。ここで、チョーク部材はシャフトとのあいだに電気的接続を形成せずにシャフトへ結合される。当該のチョーク部材は、シャフト内の電流がチョーク部材内に磁束を発生させ、チョーク部材内に誘導電流が生じるように、シャフトに結合される。ただし、シャフトとチョーク部材とのあいだに電気的結合は形成されない。
【0016】
チョーク部材は、電気的接続が阻止されているかぎり、シャフトに物理的に接触していてもよいし接触していなくてもよい。チョーク部材は風力発電機タービンのケーシングまたはナセルに固定され、シャフトには物理的に接触せず、チョーク部材とシャフトとのあいだにギャップが形成される。また、チョーク部材が電気的に絶縁されている場合、チョーク部材を例えばプレスフィット接続によりシャフトに固定することもできる。この場合、チョーク部材はシャフトを完全に包囲するリングであってもよいし、一部分のみを包囲する欠落部のあるリングであってもよい。
【0017】
落雷がシャフトに生じさせた電流は急速に変化し、短時間のうちに高電流のピークに達する。電流が急速に変化するので、シャフト周囲に形成される磁界も時間で見ると不安定である。磁界が時間的に見て不安定に変化することにより、チョーク部材内に可変の磁束が生じ、これが誘導電流を生じさせる。当該の誘導電流は特には渦電流であり、この渦電流の負荷は磁束によって生じる。誘導電流としての渦電流は熱を発生させ、その熱がチョーク部材の周囲へ伝導される。こうして磁束および誘導電流から生じた全エネルギが低減される。言い換えれば、チョーク部材内に発生した磁束は全エネルギすなわちシャフトの電流ピークを低減させる。このため、電流の流れの後方、すなわち、シャフトに接続された保護すべき装置のエレメントは、チョーク部材が設けられていない場合に比べて格段に小さい電流しか受けない。こうして避雷装置が構成される。さらに、チョーク部材に生じた磁束はシャフトの磁界とは反対の磁界を形成するので、レンツの法則により、シャフトに沿った電子の流れは電流の流れ方向で見て制限される。よって、シャフトに接続されている保護すべき装置のエレメントは、チョーク部材が設けられていない場合に比べて格段に小さい電流しか受けない。
【0018】
チョーク部材による電流低減効果はチョーク部材の寸法を変更することにより調整可能である。チョーク部材が大きくなる(チョーク部材を形成する材料が多量となる)につれ、磁束および誘導電流は増大し、シャフト内の電流から大きなエネルギを分流することができる。
【0019】
本発明の有利な実施形態によれば、避雷装置はさらに分流部材を有する。ここで、シャフトはチョーク部材によって落雷の電流に曝される高電位領域と保護すべき装置のエレメントへ接続された低電位領域とへ分割され、高電位領域からの電流の少なくとも一部が分流部材によって放電される。
【0020】
チョーク部材はシャフトを高電位領域と低電位領域とに分割する。こうして、チョーク部材に、シャフトを流れる電流に起因する磁束および誘導電流が形成される。その結果、電流の流れ方向で見てチョーク部材前方の電位はチョーク部材後方の電位よりも高くなり、チョーク部材後方では電流ピークが低減される。これは、落雷電流がシャフトの各領域に電位差を生じさせるということである。つまり、シャフトのうち、電流源に近い側、例えば避雷個所に近接する側が高電位を有し、電流源から離れたチョーク部材の側は低い電位を有する。チョーク部材の内部の電気インピーダンスを増大する効果はレンツの法則に基づいており、チョーク部材の磁束および誘導電流はシャフトの磁界変化または磁束とは反対の磁界を形成する。つまり、落雷電流によって誘導されるチョーク部材の磁界はシャフトの磁界の反対となり、シャフトのうち少なくともチョーク部材の配置された領域を通過する電子に対してバリアまたはインピーダンスとして作用する。よって、チョーク部材の配置された領域の電気インピーダンスが増大し、チョーク部材前方は高電位に、チョーク部材後方は低電位になる。
【0021】
分流部材はシャフトの高電位領域に電気的に接続または結合されているか、あるいは、シャフトの高電位領域への電気的接続を形成する手段を有している。こうして、高電位領域と低電位領域とのあいだの電位差により、電流は有利には高電位領域から分流部材へ流れる。つまり、電流の少なくとも一部が高電位領域から分流部材へ流れるのである。その結果、電流の大部分が分流部材を通ってあらかじめ逃がされ、低電位領域から保護すべき装置のエレメントへ流れる電流が低減される。
【0022】
こうして落雷電流はシャフトの高電位領域から放電され、保護すべき装置のエレメントを通る電流の全てを導通する手段を設けなくて済む。例えば、分流部材による放電を行わない場合、シャフトと保護すべき装置のエレメントとの接触領域に高い電流密度および高い温度が発生する。このため、ベアリングなどのエレメントにダメージが生じる。本発明によれば、選択的な導通路が形成され、電流の大部分が分流部材を通り、保護すべき装置のエレメント(ベアリングなど)へは僅かな一部しか流れないことが保証される。分流部材は落雷電流をアースへバイパスするように構成されている。
【0023】
本発明の別の実施形態によれば、分流部材とシャフトとのあいだにスパークギャップが形成されている。シャフトの高電位領域の電位が所定のレベルを超えて増大される場合、スパークギャップを介して電気アークが形成される。当該のアークによって、例えば、シャフトの高電位領域と風力発電塔およびアースに接続されたナセルのベースプレートとが短絡される。このようにして、コンタクトフリーの避雷装置が構成される。これにより、分流部材を直接に、すなわち物理的に、シャフトへ接続する必要がなくなる。
【0024】
本発明の別の実施形態によれば、さらに、シャフトと分流部材とのあいだ、特にシャフトとこのシャフトからの電流が放電される個所とのあいだに電気的接続を形成するバッファ部材が設けられる。高電流または電気アークにより、高温が発生してシャフト材料を損なうことがある。よって、バッファ部材はシャフトを包囲する金属リングを有する。分流部材はシャフトからの放電がバッファ部材または金属リングを介して生じるように、金属リングの近傍に配置される。このように、金属リングはスパークギャップを介したシャフトからの放電を引き起こす。スパークギャップを介した放電によるダメージはシャフトそのものでなくバッファ部材で発生する。つまり、電気アークまたは放電によって生じる熱は、シャフトそのものでなくバッファ部材に作用する。
【0025】
本発明の別の実施形態によれば、バッファ部材はシャフトに交換可能に固定される。バッファ部材が数回の放電によって消耗しても、新たなバッファ部材を容易に取り付けることができ、シャフト全体の交換や複雑な組み替えなどを行う必要がない。したがって、大きなメンテナンス時間が必要なく、風力発電機タービンを長期にわたって運用できる。
【0026】
本発明の別の実施形態によれば、分流部材は自身とシャフトとのあいだに電気的接続を形成する金属頂部を有している。金属頂部は細い電気ピンであり、シャフトに対する摺動コンタクト内またはシャフトまでのあいだの空間内に配置され、電気的な接続を形成する。シャフトの表面の周囲に複数の金属頂部が設けられており、これによりシャフトの高電位領域において複数の放電部が形成される。つまり、適切かつ良好な放電効果が得られる。さらに、適切な金属頂部を用いることにより、ダメージを受けた金属頂部の交換が簡単化される。また、金属頂部が電流から生じた高温によって消耗したとしても、他の金属頂部がなお電気的接続を維持していることにより、冗長機能が達成される。
【0027】
本発明の別の実施形態によれば、チョーク部材は導電コイルを有しており、この導電コイルは誘導電流の少なくとも一部を自身の内部へ導くように配置されている。言い換えれば、チョーク部材内に生じた磁束からチョーク部材の周囲に磁界が形成され、ここから導電コイル内に磁束が生じて誘導電流が誘導される。さらに、シャフトの周囲の磁界も直接に導電コイル内へ電流を誘導する。導電コイルに生じた電流はエネルギまたは熱へ変換される。したがって、電流の一部が導電コイルを介して熱へ変換されるので、チョーク部材を通過する電流の一部が低減される。こうしてチョーク部材の保護効果が向上する。なぜなら保護すべき装置のエレメントを通る電流が低減されるからである。導電コイルは例えば銅から成るかまたは銅を含む。
【0028】
本発明の別の実施形態によれば、チョーク部材は複数の導電コイルを有しており、各導電コイルは相互に短絡されている。すなわち、或るコイルの導体の始端は同じコイルまたは他のコイルの導体の終端に接続される。チョーク部材内で迅速に変化する磁界は短絡された導電コイル内にさらに電流を誘導する。これにより、落雷によって電流が急速に増大すると、磁界も急速に増大してさらなる電流が誘導される。結果として、付加的なエネルギが排出され、チョーク部材のリングによって包囲されたシャフトのインピーダンスが増大される。高電位領域と低電位領域とが明確に分割され、高電位領域から放電される電流の一部が増大される。
【0029】
本発明の別の実施形態によれば、チョーク部材は透磁性材料を含む。ここでの透磁性材料の透磁率はμ>1である。磁性材料のなかで、強磁性材料とは透磁率μ>>1のものを云う。透磁性材料は外部磁界が印加されたときにだけ磁性を有する。常磁性材料は磁界に引きつけられたり磁界を強めたりする材料である。強磁性という語は、磁性材料が1次的な磁界なしに透磁性を発揮することを意味する。
【0030】
本発明の別の実施形態によれば、チョーク部材は積層されたケイ化鉄SiFeを含む。
【0031】
さらに、本発明は、シャフトと、上述した避雷装置と、保護すべきエレメントとを有する装置、特に風力発電機タービンに関する。本発明によれば、保護すべきエレメントがシャフトに電気的に結合されており、シャフトから保護すべきエレメントへ流れる電流が落雷によってシャフトに生じた電流に比べて避雷装置を介して低減される。
【0032】
また、保護すべき装置は風力発電機タービンのブレードまたはナセルであってよい。保護すべき装置のエレメントはシャフトの低電位領域およびナセルへ電気的に接続される。少なくとも1つのタービンブレードはシャフトの高電位領域に固定される。分流部材はタービンブレードへの落雷によって生じた電流の一部を高電位領域からナセルへ放電する。保護すべき装置のエレメントは電流の残りの部分を受けることになる。電流のうち放電される成分は残りの成分より大きい。シャフトを高電位領域と低電位領域とに分割することにより、電流の大部分は保護すべき装置のエレメントに対してバイパスされる。電流のうち保護すべき装置のエレメントの受ける部分はシャフトの低電位領域から保護すべき装置のエレメントおよびナセルへ向かう電流路を通る。保護すべき装置のエレメントにダメージを与えるおそれのある電流の大部分はバイパスされ、当該のエレメントを流れないので、タービンブレードへの落雷があっても当該のエレメントは保護される。
【0033】
本発明の各実施例を種々のテーマに即して説明する。なお、装置発明の請求項に関する実施例と方法発明の請求項に関する実施例とが存在するが、当分野の技術者であれば、特にことわりのないかぎり、装置発明に属する特徴が方法発明に属する特徴にも当てはまることは容易に理解可能なはずである。
【0034】
上述した本発明の特徴および利点を以下に図示の実施例に則して説明する。ただし本発明は図示の実施例のみに限定されない。
【実施例】
【0035】
以下に本発明の実施例を添付図に即して詳細に説明する。
【0036】
各図は概略的なものであることに注意されたい。また、各図において、参照番号の末尾の数字の共通しているものは、それぞれ同じ要素ないし同様の機能を有する要素を表している。
【0037】
図1には本発明の避雷装置の実施例が示されている。避雷装置100は、屋外で使用される装置、特に風力発電機タービンを、落雷によるダメージから保護するための装置である。避雷装置100はチョーク部材101を有する。チョーク部材101は、保護すべき装置のシャフト103を通る電流によって当該のチョーク部材の内部に磁束が生じるように、シャフト103の周囲に取り付けられている。
【0038】
さらに、図1には分流部材102が示されている。ここで、チョーク部材101は、シャフト103を、落雷の電流に曝される高電位領域Hと保護すべき装置のエレメント105へ接続される低電位領域Lとへ分割しており、分流部材102はシャフト103の高電位領域Hからの電流の少なくとも一部を放電する。
【0039】
シャフト103は保護すべき装置の1つまたは複数のエレメント105、例えばベアリング109およびその金属ケーシング108を通して、ナセル106によって支持されている。チョーク部材101はシャフト103を流れる電流のエネルギを吸収する効果を有する。つまり、シャフト103を流れる電流はチョーク部材101内に磁束を生じさせ、電流を誘導する。チョーク部材内の誘導電流から熱が発生し、チョーク部材の周囲へ伝導される。こうして、チョーク部材101を通ることによりシャフト103内の電流が低減される。
【0040】
また、チョーク部材101がシャフト103を包囲している領域では電気インピーダンスが増大する。電気インピーダンスが増大するため、シャフト103が高電位領域Hと低電位領域Lとに分割されることになる。電流源に近い側すなわちタービンブレードに近い側はシャフト103の高電位領域Hとなる。電流の流れ方向で見てチョーク部材101の後方、すなわち、電流源から遠い側は、シャフト103の低電位領域Lとなる。
【0041】
こうして、シャフト103の長手方向に沿った領域ごとに、電位差がきわめて短い時間で形成される。ここで、分流部材102はシャフト103の高電位領域Hからの電流の一部を放電する代替的な導通路を形成する。分流部材102はシャフト103の高電位領域Hに電気的に接続された導体であってよい。また、分流部材102はシャフト103の高電位領域Hに対してスパークギャップ107を置いて配置されるものであってもよい。
【0042】
図1の実施例では、バッファ部材104、例えば金属リングが、シャフト103に配置されている。これにより、シャフト103から当該のバッファ部材104を介して分流部材102への電気的接続が形成され、放電が行われる。
【0043】
分流部材102はナセル106のベースプレートに接続された複数の金属頂部を有する。シャフト103の高電位領域Hの電位が所定のレベルを超えて増大される場合、スパークギャップ107を介して電気アークが形成される。スパークギャップ107はシャフト103と分流部材102とのあいだ、また可能であればバッファ部材104と分流部材102とのあいだに形成される。分流部材102は金属頂部を有する。アークが発生してシャフト103とナセル106のベースプレートとが短絡され、シャフト103からの放電が生じる。
【0044】
シャフト103はチョーク部材101によって高電位領域Hと低電位領域Lとに分割されており、このシャフト103からの放電がスパークギャップ107を介して生じる。また、シャフト103のうち、チョーク部材101の配置された領域の電気インピーダンスは増大する。このため、チョーク部材101から低電位領域Lを介して保護すべき装置のエレメント105;108,109ひいてはナセル106へ到り最終的にアースへ通じる導通路の全インピーダンスは、高電位領域Hからスパークギャップ107および分流部材102を介してナセル106ひいてはアースへ通じる導通路の全インピーダンスよりも大きくなる。ここで、落雷電流は最も低いインピーダンスのアースへの導通路へ流れやすいという傾向がある。チョーク部材のリング状素子によりシャフト103の磁界に対して反対向きの磁界が形成され、回転するシャフト103内により高いインピーダンスが生じることが保証される。したがって、高電位領域Hに高い電荷が生じ、電流は、低電位領域Lに接続された保護すべきエレメント105へ流れるよりもスパークギャップ107を介して流れるようになる。
【0045】
さらに、図1に示されているように、バッファ部材104がシャフト103を包囲しており、スパークギャップ107ないし分流部材102での放電によるシャフト103のダメージが回避される。スパークギャップ107を介した放電により、高温に起因するダメージの生じるおそれは存在するのである。放電によって生じるダメージは交換可能なバッファ部材104を設けてこれが引き受けるようにするとよい。このようにすれば、風力発電機タービンの重要なエレメントであるシャフト103、ベアリング109またはベアリングケーシング109の損耗は回避される。
【0046】
図2にはチョーク部材の詳細図が示されている。チョーク部材101は高い透磁率、特にμ>1を有する材料、例えばSiFeから成る。さらに、チョーク部材101は1つまたは複数の導電コイル201を有している。導電コイル201は例えば銅を含む材料から成る。また、導電コイル201は相互に短絡されている。つまり、或る導電コイルの導体の端部が別の導電コイルの導体の端部に接続されている。
【0047】
図3には、風力発電機タービンのシャフトの高電位領域Hに接続されたタービンブレードないしハブに落雷があったとき、保護すべきエレメント105を通る電流の時間特性を表す曲線が示されている。
【0048】
図3の曲線Aは、チョーク部材101がシャフト103に取り付けられていない場合の電流の時間特性を表している。このとき、電流は急速に増大して数10kAの最大値に達している。当該の電流はそこからゆっくり低下して、最終的には全ての電荷がアースへ流れる。
【0049】
図3の曲線Bは導電コイル201を備えたチョーク部材101がシャフト103に取り付けられている場合の電流の時間特性を表している。このケースでは、シャフト103にはバッファ部材104も取り付けられている。落雷の電流パルスのフロントがシャフト103に達すると、チョーク部材101内に磁束ひいては誘導電流が発生し、チョーク部材101内に磁界が形成される。チョーク部材101はインダクタンスと同様に機能し、シャフト103のうちチョーク部材101によって包囲されている部分が急速な電流変化によって高いインピーダンスを有することになる。
【0050】
また、急速に変化するチョーク部材101内の磁界は短絡された導電コイル201内にも誘導電流を生じさせる。これは熱形成によって付加的なエネルギ排出部として機能し、シャフト103のうちチョーク部材101の設けられた領域のインピーダンスを増大させる。
【0051】
急速に変化する電流による高いインピーダンスには2つの効果がある。効果の第1は、保護すべき装置のエレメント105ないし低電位領域Lを通る電流の初期的な増大がチョーク部材101の設けられていないケースに比べて小さくなることである。このことはチョーク部材101を備えた装置で得られる曲線B,曲線Cに比べてチョーク部材101を備えていない装置で得られる曲線Aのほうが傾きが急峻であることから理解される。効果の第2は、落雷の電流パルスのフロントがチョーク部材101に達したとき、シャフト103の領域ごとに大きな電位差が発生することである。特に、シャフトの高電位領域Hと低電位領域Lとの電位差は大きくなる。保護すべき装置のエレメント105に近い領域は早期にアース電位ないし低電位領域Lの電位に置かれる。
【0052】
スパークギャップ107を介した電位が充分に大きくなると、スパークギャップ107に電気アークが発生する。アークはナセル106のベースプレートひいてはアースへの低インピーダンスの導通路を直接に形成する。アークが形成されると、保護すべき装置のエレメント105を通る電流が図3の曲線B,曲線Cに示されているように低下する。落雷から短時間で、電荷の大部分がスパークギャップ107を通過し、スパークギャップ107での電圧差が低減され、それ以上の放電が生じなくなる。
【0053】
短絡された導電コイル201が存在する場合、チョーク部材101内の誘導電流によってエネルギの一部が導電コイル201へ誘導され、当該の電流がさらに熱へ変換される。
【0054】
曲線Bは導電コイル201を有するチョーク部材101を設けたケースでの電流の時間特性を表している。曲線Cは導電コイル201を有さないチョーク部材101を設けたケースで放電される電流の時間特性を表している。導電コイル201が設けられている場合、曲線Bに示されているように、チョーク部材101の磁界からのエネルギの少なくとも或る程度の部分が導電コイル201内に電流を誘導することに用いられ、保護すべき装置のエレメント105へ到る残りのエネルギが低減される。
【0055】
スパークギャップ107を介した電圧差が小さくなってアークを維持できなくなってから、落雷の残留電荷は保護すべき装置のエレメント105を通過する。当該の残留電荷は落雷の全電荷に比べてきわめて小さく、保護すべき装置のエレメント105にダメージを与えるおそれは低減される。
【0056】
電気アークが消失すると、保護すべき装置のエレメント105を通る電流も短時間で低下する。落雷電荷の大部分が分流部材102を介して既にアースへ導通されているので、当該の電流はきわめて小さい。また、当該の電流は保護すべき装置のエレメント105内でさらに低減される。これは、前述したように、電流の急速な増大に起因して高いインピーダンスが生じるからである。保護すべき装置のエレメント105を通る電流の値はチョーク部材101によって低減される。したがって、保護すべき装置のエレメント105が落雷によってダメージを受けるおそれが回避される。
【0057】
本明細書中、"〜を含む"なる語はそれ以外の要素を有することを排除せず、"1つの"なる語は当該の要素が複数個設けられることを排除しない。また、各実施例について説明した要素は相互に組み合わせることもできる。また、特許請求の範囲の記載に添えられている参照番号はそれぞれの要素を限定するものでないことに注意されたい。
【符号の説明】
【0058】
100 避雷装置、 101 チョーク部材、 102 分流部材、 103 シャフト、 104 バッファ部材、 105 保護すべき装置のエレメント、 106 ナセル、 107 スパークギャップ、 108 ベアリングケーシング、 109 ベアリング、 L 低電位領域、 H 高電位領域、 201 導電コイル
図1
図2
図3