特許第5665325号(P5665325)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5665325
(24)【登録日】2014年12月19日
(45)【発行日】2015年2月4日
(54)【発明の名称】直交補償方法
(51)【国際特許分類】
   G01C 19/5719 20120101AFI20150115BHJP
【FI】
   G01C19/56 219
【請求項の数】7
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2010-18594(P2010-18594)
(22)【出願日】2010年1月29日
(65)【公開番号】特開2010-175543(P2010-175543A)
(43)【公開日】2010年8月12日
【審査請求日】2013年1月28日
(31)【優先権主張番号】10 2009 000 475.0
(32)【優先日】2009年1月29日
(33)【優先権主張国】DE
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】390023711
【氏名又は名称】ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(74)【代理人】
【識別番号】100112793
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 佳大
(72)【発明者】
【氏名】ヨハネス クラッセン
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ ガウガー
【審査官】 岸 智史
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第06230563(US,B1)
【文献】 特表2002−515976(JP,A)
【文献】 特開2008−122371(JP,A)
【文献】 特開2001−330442(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 19/00−19/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロメカニカル構造体(1)の直交補償方法であって、
前記マイクロメカニカル構造体(1)は、主延在面(100)を有する基板(2)と、ばね部材により前記基板(2)に固定されている振動質量体(3)と、前記基板(2)と接続されている第1の補償電極(40)と、前記基板(2)と接続されている第2の補償電極(50)とを有し、前記第1の補償電極(40)と前記振動質量体(3)との間における第1の直交電圧(U40)の印加により、前記振動質量体(3)に対する第1の補償力(41)が生じ、前記第2の補償電極(50)と前記振動質量体(3)との間における第2の直交電圧(U50)の印加により、前記振動質量体(3)に対する第2の補償力(51)が生じる、直交補償方法において、
前記第1の直交電圧(U40)の平方と前記第2の直交電圧(U50)の平方の和が常に一定であるように前記第2の直交電圧(U50を調整することを特徴とする、直交補償方法。
【請求項2】
前記第2の直交電圧(U50)を前記第1の直交電圧(U40)の関数として算出し、該関数は少なくとも前記第1の直交電圧(U40)の最小電圧(U40,min)と前記第1の直交電圧(U40)の最大電圧(U40,max)との間で単調に降下する、請求項記載の方法。
【請求項3】
前記第2の直交電圧(U50)を前記第1の直交電圧(U40)の平方根関数に依存して調整する、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記平方根関数の独立変数を少なくとも、第1の定数の平方と前記第1の直交電圧(U40)の平方の差として算出し、前記第1の定数は前記最大電圧(U40,max)を含む、請求項記載の方法。
【請求項5】
前記平方根関数の独立変数を第1の加数の平方と第2の加数の平方と第3の加数の平方との和から算出し、前記第1の加数は前記最大電圧(U40,max)とオフセット電圧(Uoff)の差を含み、前記第2の加数は前記最小電圧(U40,min)と前記オフセット電圧(Uoff)の差を含み、前記第3の加数は前記第1の直交電圧(U40)と前記オフセット電圧(Uoff)の差を含み、前記平方根関数に前記オフセット電圧(Uoff)を加算する、請求項記載の方法。
【請求項6】
前記第1の補償力(41)によって一つの補償方向に沿った前記振動質量体(3)の第1の補償運動を生じさせ、前記第2の補償力(51)によって、前記補償方向と平行であるが向きが逆である方向に、前記振動質量体(3)の第2の補償運動を生じさせ、前記補償方向は前記主延在面(100)に対して垂直、もしくは平行に配向されている、請求項1からまでのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
マイクロメカニカル回転レートセンサの補償調整に使用する、請求項1からまでのいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロメカニカル構造体が、主延在面を有する基板と、ばね部材により基板に固定されている振動質量体と、基板と接続されている第1の補償電極と、基板と接続されている第2の補償電極とを有し、第1の補償電極と振動質量体との間における第1の直交電圧の印加により、振動質量体に対する第1の補償力が生じ、第2の補償電極と振動質量体との間における第2の直交電圧の印加により、振動質量体に対する第2の補償力が生じる、直交補償方法に関する。
【背景技術】
【0002】
その種の方法は一般的に公知である。例えば、特許文献1からは、基板およびコリオリ素子を備えた回転レートセンサが公知であり、コリオリ素子は第1の軸に対して平行に振動するために励起される。コリオリ力に起因してコリオリ素子は第1の軸に対して垂直な第2の軸に変位する。また、回転レートセンサは基板とコリオリ素子との間に補償構造体の形態の力伝達手段を有し、この補償構造体は直交補償(quadratur compensation)のために設けられている。コリオリ素子は振動質量体を有し、この振動質量体は複数の部分を有する。補償構造体は第1の電極および第2の電極を有し、これらの電極は固定的に基板と接続されており、また基板の表面に対して垂直にそれぞれが枠の部分に突入している。この部分の内側領域は非対称に構成されているので、第1の電極または第2の電極の相応の接続によって枠の第1の補償力または第2の補償力が基板に相対的に検出方向に対して平行である一方の方向または検出方向に対して逆平行である他方の方向において生じる。補償力は駆動振動の変位に比例して増大する。したがってそれぞれの補償力を生じさせるためには、その都度第1の電極および第2の電極のうちの一方のみが接続され、第1の電極および第2の電極のうちの他方の電極は接続されない、もしくは僅かに接続される。これらのそれぞれの補償力によって、駆動運動によって生じる、検出方向に対して平行な枠における不所望な横方向の力(以下では直交力と称する)を補償することができる(直交補償)。この種の直交力は製造時のセンサ構造内の欠陥に起因し、また駆動周波数を有するコリオリ検出信号の変調を生じさせ、したがって検出ブランチ内に不所望なオフセット信号も生じさせる。不利なことに、外部の影響(例えば温度変化またはパッケージングストレスに起因する基板の歪曲)によって直交が変化するので、第1の電極および第2の電極を接続するための第1の直交電圧および第2の直交電圧を回路によって相応に上昇させるか、低下させなければならない。しかしながらこれによって、一方では検出ばねの機械的な剛性に依存し、他方では検出回路内の全ての電極の電気的な接続、すなわち殊に直交電圧にも依存する、検出構造体の効果的なばね剛性も変化し、これによって検出モードの共振周波数もやはりシフトする。これを以下では正帰還結合と称する。したがって回転レートセンサの完全な共振モードのために、すなわち検出周波数を駆動周波数と等しくするために、検出電圧は相応に適合されなければならない。これにより殊に、正帰還結合作用が比較的大きい場合には製造公差と相互作用して、回転レートセンサの完全な共振モードをいかなる時点においても保証できなくなり、したがって検出感度ないし回転レートセンサの信号雑音比が損なわれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO 03/058 167 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって本発明の課題は、検出感度ないし回転レートセンサの信号雑音比が損なわれることなく、いかなる時点においても回転レートセンサの完全な共振モードを保証できる直交補償方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この課題は、マイクロメカニカル構造体が、主延在面を有する基板と、ばね部材により基板に固定されている振動質量体と、基板と接続されている第1の補償電極と、基板と接続されている第2の補償電極とを有し、第1の補償電極と振動質量体との間における第1の直交電圧の印加により、振動質量体に対する第1の補償力が生じ、第2の補償電極と振動質量体との間における第2の直交電圧の印加により、振動質量体に対する第2の補償力が生じる、マイクロメカニカル構造体の直交補償方法において、第2の直交電圧が第1の直交電圧に依存して調整されることにより解決される。
【0006】
請求項1に記載されている本発明による直交補償方法は従来技術に対して、正帰還結合の変化が相応の直交電圧の変化の際に大幅に抑制されるという利点を有する。このことは、第2の直交電圧が第1の直交電圧に依存して調整ないし変更されることによって達成される。すなわち、振動質量体についての一方の方向への補償力のみが形成されるべき場合であっても、第1の直交電圧も第2の直交電圧も接続される。第1の直交電圧および第2の直交電圧は相互的な関係で調整される。有利には、第1の直交電圧と第2の直交電圧の適切な比率を選択することによって所望の補償力が形成され、それと同時に第1の直交電圧の変化および第2の直交電圧の変化によってばね部材のばね定数に及ぼされる影響は、このばね定数が実質的に一定であるように補償される。このことは、第1の直交電圧の第1の変化による正帰還結合作用の第1の変化が、第2の直交電圧の相応の第2の変化による正帰還結合作用の逆方向の第2の変化によって補償調整されることによって達成され、その結果、正帰還結合作用の全体のバランスは実質的に一定になる。これにより、検出回路における他の電圧レベルの比較的煩雑な追従制御は必要なくなり、したがって簡単なやり方でマイクロメカニカル構造体の完全な共振モードが保証されていることになる。したがって殊に、同一の評価回路を用いて、補償電極の正帰還結合能力と、検出回路内で有効なその他の電極の総正帰還結合能力との全く異なる比率で、マイクロメカニカル構造体を確実に完全な共振状態において作動させることができる。
【0007】
本発明の有利な実施形態および改善形態は従属請求項および図面を参照した説明から得られる。
【0008】
有利な実施形態によれば、第2の直交電圧が同期式に、または持続的に第1の直交電圧に依存して調整されるので、有利にはほぼ永続的に、マイクロメカニカル構造体の直交補償が第1の補償電極および第2の補償電極の相応の変更または接続によって実施される。
【0009】
別の有利な実施形態によれば、第1の直交電圧の平方と第2の直交電圧の平方の和が実質的に常に一定であるように第2の直交電圧が調整される。したがって殊に有利には、正帰還結合作用は実質的に、第1の直交電圧の平方と第2の直交電圧の平方の和にのみ依存するので、正帰還結合作用の変化がその都度の個々の第1または第2の直交電圧に依存せずに最小化される。それと同時に、第1の直交電圧および第2の直交電圧の相応の調整によって直交補償が実現される。何故ならば、直交補償は正帰還結合作用とは異なり、実質的に第1の直交電圧の平方と第2の直交電圧の平方の差に依存するからである。
【0010】
別の有利な実施形態によれば、第2の直交電圧が第1の直交電圧の関数として算出され、この関数は少なくとも第1の直交電圧の最小電圧と第1の直交電圧の最大電圧との間で単調に降下する。したがって殊に有利には、第2の直交電圧が第1の直交電圧に対して逆方向性であり、一方の直交電圧が高まった際(第1の直交電圧の正帰還結合作用の上昇)には、他方の直交電圧が自動的に低減され(第2の直交電圧の正帰還結合作用の低減)、したがって2つの直交電圧の平方の和は正帰還結合作用の変化を最小にするために実質的に一定に維持される。
【0011】
別の有利な実施形態によれば、第2の直交電圧が第1の直交電圧の平方根関数に依存して調整されるので、有利には、第1の直交電圧および第2の直交電圧を調整するための比較的簡単に実現できる解析割り当て規則が得られる。それと同時に上述の算術的な条件、すなわち第1の直交電圧の平方と第2の直交電圧の平方の和が実質的に常に一定であるべきであるという条件は少なくとも近似的に自動的に満たされており、したがって正帰還結合作用の変化は最小化されている。殊に有利には、平方根関数の値は「マッピングテーブル」の形態で格納され、このマッピングテーブルから第1の直交電圧と第2の直交電圧の関係が得られる。したがって殊に有利には、マイクロメカニカル構造をASICにおいて実現する場合、ASICにおける解析平方根計算が必要となる。値の等級分けは相応に小さく選定されなければならない。
【0012】
別の有利な実施形態によれば、平方根関数の独立変数は少なくとも、第1の定数の平方と第1の直交電圧の平方の差として算出される。この際、第1の定数は殊に最大電圧を含む。したがって殊に有利には、割り当て規則が第1の補償電極において最大限に調整可能な電圧について正規化される。この場合、最小電圧として0ボルトが採用される。
【0013】
別の有利な実施形態によれば、平方根関数の独立変数が第1の加数の平方と第2の加数の平方と第3の加数の平方との和から算出され、第1の加数は最大電圧とオフセット電圧の差を含み、第2の加数は最小電圧とオフセット電圧の差を含み、第3の加数は第1の直交電圧とオフセット電圧の差を含む。平方根関数には殊にオフセット電圧が加算される。したがって以下の割り当て規則が得られる。
【0014】
【数1】
【0015】
したがって殊に有利には、第1の直交電圧と第2の直交電圧の関数的な関係の偏差を、正帰還結合作用の変化を最小にするために、オフセット電圧の相応の調整によって比較的簡単なやり方で補正することができる。殊に、評価回路の比較的複雑なクロックパターンによって生じる偏差を補正することができる。比較的小さい直交値を有する直交電極に関しては、択一的に、最大電圧がより小さい電圧値に代替されるので、全体の正帰還結合が低減される。択一的に、直交電極の全体の正帰還結合作用の上昇が所望される場合には、最小電圧をより大きい電圧値で代替することができる。電圧値はこれらいずれの場合にも、例えばマイクロメカニカル構造体を補償調整することによって、別個にそれぞれの直交電極に関して決定することができる。
【0016】
別の有利な実施形態によれば、第1の補償力によって一方の補償方向に沿った振動質量体の第1の補償運動が生じ、また第2の補償力によって他方の方向、すなわち前述の一方の方向に実質的に逆平行の補償方向における振動質量体の第2の補償運動が生じる。補償方向は有利には主延在面に対して垂直および/または平行に配向されている。したがって殊に有利には、直交補償、すなわち検出振動からの駆動振動の少なくとも近似的な分離が実現されるので、駆動振動のコリオリ検出信号への直接的なクロストークは抑制される。殊に有利には、本発明による方法を、主延在面に対して垂直な検出方向を有するマイクロメカニカル構造体にも、主延在面に対して平行な検出方向を有するマイクロメカニカル構造体にも適用することができる。
【0017】
別の有利な実施形態によれば、本方法がマイクロメカニカル回転レートセンサの補償調整に使用される。殊に回転レートセンサにおいては、妨害信号を低減するための直交補償が正帰還結合作用の変化に起因する周波数シフトを生じさせ、その結果回転レートセンサが完全な共振領域から外れる危険が存在する。したがって、殊に回転レートセンサにおいては、同時に正帰還結合作用も一定に維持する直交補償方法が殊に有利である。
【0018】
本発明の実施例を図面に示し、以下において詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1a】従来技術によるマイクロメカニカル構造体の概略的な平面図を示す。
図1b】従来技術によるマイクロメカニカル構造体の概略的な平面図を示す。
図1c】従来技術によるマイクロメカニカル構造体の概略的な平面図を示す。
図2a】従来技術によるマイクロメカニカル構造体における直交補償の概略的な経過を示す。
図2b】従来技術によるマイクロメカニカル構造体における正帰還結合の概略的な経過を示す。
図3】本発明の第1の実施形態によるマイクロメカニカル構造体における第2の直交電圧の概略的な経過を示す。
図4】本発明の第2の実施形態によるマイクロメカニカル構造体における直交の概略的な経過を示す。
図5】本発明の第2の実施形態によるマイクロメカニカル構造体における正帰還結合の概略的な経過を示す。
図6】本発明の第2の実施形態によるマイクロメカニカル構造体における第2の直交電圧の概略的な経過を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
種々の図面において同一の部分には常に同一の参照番号が付されており、したがって通常は各部分について一度しか説明しない。
【0021】
図1a〜1cには従来技術によるマイクロメカニカル構造体1の概略的な平面図が示されており、マイクロメカニカル構造体1は主延在面100を備えた基板2と振動質量体3とを有する。殊に図1a,1bおよび1cには、直交補償に使用される振動質量体3の一部しか図示されていない。振動質量体3は図示されていないばね部材によって基板2に弾性に固定されている。振動質量体3は殊に回転レートセンサの駆動フレームを含む。振動質量体3は駆動振動のために主延在面100に対して平行に図示していない櫛状駆動部によって励起される。駆動振動は駆動周波数を含む。さらにこの場合、振動質量体3には図示していないコリオリ素子が別のばね部材を介して固定されており、このコリオリ素子は主延在面100に対して垂直または平行な角速度が生じた際に、駆動振動に垂直且つ角速度に垂直な周期的なコリオリ加速を受ける。周期的なコリオリ加速は相応の検出周波数を有する検出振動を含む。信号雑音比を最大にするために、回転レートセンサは完全に共振して駆動される。すなわち、駆動モードの周波数と検出モードの周波数は一致する。駆動振動の開始時に振動質量体3は製造時の欠陥に起因して駆動方向に垂直な振動補償も受けるので、回転レートセンサは信号雑音比を高めるために直交補償されなければならない。このことは第1の補償電極40および第2の補償電極50を適切に第1の直交電圧U40および第2の直交電圧U50と接続することによって行われる。このために第1の補償電極40および第2の補償電極50は固定的に基板2と接続されており、主延在面100に対して垂直に振動質量体3の第1の部分4および第2の部分4’へとそれぞれ突入している。第1の部分4および第2の部分4’は実質的に矩形の内側輪郭を有し、第1の部分4および第2の部分4’の一方の側には段が設けられている。第1の部分4および第2の部分4’は相互に鏡面対象に配置されており、第1の補償電極40は第1の部分4内に配置されており、第2の補償電極50は第2の部分4’内に配置されている。図1aには、駆動電圧無しの静止状態にある振動質量体3が示されている。図1bにおいて、振動質量体3は駆動電圧によって第1の方向xに沿って移動する。第1の補償電極40と振動質量体3との間の第1の直交電圧U40は第1の部分4における縁に基づき、第2の方向yに沿った第1の補償力41を生じさせる。他方では、第2の補償電極50と振動質量体3との間の第2の直交電圧U50は第2の部分4’における反対方向の縁に基づき第2の方向yに沿っており、且つ第1の補償力41の方向とは反対の方向に沿った第2の補償力51を生じる。同様に図1cにおいては、振動質量体3が第1の方向xに沿って反対方向に変位しており、相応に第1の補償力41および第2の補償力51の符号は反転している。従来技術によれば、このようにして第1の補償電極40または第2の補償電極50の一方が直交補償のために接続される。
【0022】
従来技術によるマイクロメカニカル構造体1の構成は単に例示的な特性を有しているに過ぎず、直交補償のための本発明による方法の適用可能性をこの種のマイクロメカニカル構造体1に制限するものではない。むしろ本発明による方法を、主延在面100に対して垂直な検出方向を有するマイクロメカニカル構造体1についても実施することができ、この場合、第1の補償電極40および第2の補償電極50は有利には主延在面100に対して垂直に、基板2と振動質量体3との間に配置されているので、第1の補償力41および第2の補償力51は同様に、主延在面100に対して実質的に垂直に振動質量体3に作用する。
【0023】
図2aおよび2bには、第1の直交電圧U40と直交補償および正帰還結合との関係が概略的に示されている。図2aにおいて横軸200には第1の直交電圧U40がプロットされており、縦軸201には補償された直交が「フルスケール」単位でプロットされている。第1の曲線203は、従来技術に従って一定とみなされる第2の直交電圧U50による第2の直交を示す。第2の曲線204は第1の直交電圧U40による上昇する第1の直交を示す。全体の直交補償は第3の曲線205によって示されている。第2の直交電圧U50は全体の直交補償に殆ど寄与していないことが分かる。同様に図2bにおいて横軸206には第1の直交電圧U40がプロットされており、縦軸207には正帰還結合が周波数の単位でプロットされている。第4の曲線208は、従来技術に従って一定とみなされる第2の直交電圧U50による第2の正帰還結合を示す。第5の曲線209は第1の直交電圧U40による上昇する第1の正帰還結合を示し、他方では全体の正帰還結合が第6の曲線210によって示されている。全体の正帰還結合は第1の直交電圧U40によってのみ決定されることが分かる。
【0024】
図3には、本発明の第1の実施形態によるマイクロメカニカル構造体1における第2の直交電圧U50の概略的な経過が示されている。この第2の直交電圧U50の概略的な経過は第1の直交電圧U40の平方根関数として表される。横軸300には第1の直交電圧U40がプロットされており、縦軸301には第2の直交電圧U50がプロットされている。第2の直交電圧U50は第1の直交電圧U40が上昇するにつれ大きく単調に降下していることが分かる。比較のために第7の曲線302として、一定であり、且つ第1の直交電圧に依存しない、従来技術による第2の直交電圧を示している。
【0025】
図4には、本発明の第2の実施形態によるマイクロメカニカル構造体1における直交の概略的な経過が示されており、横軸400には第1の直交電圧U40がプロットされており、縦軸401には直交補償が「フルスケール」単位でプロットされている。この場合、第2の直交電圧U50は第1の直交電圧U40と以下の関数関係を有する:
【数2】
【0026】
第8の曲線402は第1の直交電圧U40による第1の直交補償を示し、第9の曲線403は第2の直交電圧U50による第2の直交補償を示す。直交補償の和は全体の直交補償として第10の曲線404によって表されている。全体の直交補償は第1の直交電圧U40によっても第2の直交電圧U50によっても行われることが分かる。
【0027】
図5には、本発明の第2の実施形態によるマイクロメカニカル構造体1における正帰還結合の概略的な経過が示されており、横軸500には第1の直交電圧U40がプロットされており、縦軸501には正帰還結合が周波数単位でプロットされている。第11の曲線502は、第1の直交電圧U40の上昇と共に低下していく第2の直交電圧U50による第2の正帰還結合を示す。第12の曲線503は第1の直交電圧U40による第1の正帰還結合を示す。第1の正帰還結合は第1の直交電圧U40の上昇と共に大きくなるので、第2の正帰還結合の低下は第1の正帰還結合の上昇によって即座に補償される。したがって、第13の曲線によって示されている全体の正帰還結合は一定である。
【0028】
図6には、本発明の第2の実施形態によるマイクロメカニカル構造における第2の直交電圧U50の概略的な経過が示されている。横軸600には第1の直交電圧U40がプロットされており、縦軸601には第2の直交電圧U50がプロットされている。図6は、マイクロメカニカル構造体1の補償調整時に個別に選択することができる、第1の直交電圧U40および種々の最大電圧U40,maxと第2の直交電圧U50の曲線群602との関係を示す。
図1a
図1b
図1c
図2a
図2b
図3
図4
図5
図6