特許第5665328号(P5665328)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5665328-板厚制御方法及び圧延装置 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5665328
(24)【登録日】2014年12月19日
(45)【発行日】2015年2月4日
(54)【発明の名称】板厚制御方法及び圧延装置
(51)【国際特許分類】
   B21B 37/18 20060101AFI20150115BHJP
   B21B 37/48 20060101ALI20150115BHJP
   B21C 47/00 20060101ALI20150115BHJP
【FI】
   B21B37/02 ZBBN
   B21B37/00 128Z
   B21C47/00 F
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2010-25433(P2010-25433)
(22)【出願日】2010年2月8日
(65)【公開番号】特開2011-161470(P2011-161470A)
(43)【公開日】2011年8月25日
【審査請求日】2013年1月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】714003416
【氏名又は名称】日新製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128923
【弁理士】
【氏名又は名称】納谷 洋弘
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 敏明
(72)【発明者】
【氏名】岡野 正樹
【審査官】 佐藤 健史
(56)【参考文献】
【文献】 特開平01−205815(JP,A)
【文献】 特開2005−279738(JP,A)
【文献】 特開昭61−027120(JP,A)
【文献】 特開平10−034204(JP,A)
【文献】 特開2008−264804(JP,A)
【文献】 特開2002−263733(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B37/00〜37/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被圧延材の圧延を行う圧延ロールと、当該被圧延材を巻き取るリールと、当該圧延ロールと当該リールとの間に配設されて当該被圧延材の経路を変更するデフレクタロールと、を備える圧延装置において、前記被圧延材の張力変動量が減少する位置に前記デフレクタロールを移動させることにより、当該被圧延材の板厚を制御する板厚制御方法であって、
前記リールの回転量が第1の回転量であるときに圧延された前記被圧延材の前記板厚に基づいて、当該第1の回転量からn周期後(nは1以上の整数)の第2の回転量における前記デフレクタロールの位置を制御する、板厚制御方法。
【請求項2】
前記リールにおける前記被圧延材の巻き取り量に基づいて前記デフレクタロールの位置を制御する、請求項1に記載の板厚制御方法。
【請求項3】
被圧延材の圧延を行う圧延ロールと、当該被圧延材を巻き取るリールと、当該圧延ロールと当該リールとの間に配設されて当該被圧延材の経路を変更するデフレクタロールと、を備える圧延装置において、前記被圧延材の張力変動量が減少する位置に前記デフレクタロールを移動させることにより、当該被圧延材の板厚を制御する板厚制御方法に関し、
前記リールにおける前記被圧延材の巻き取り量に基づいて前記デフレクタロールの位置を制御し、更に前記リールの回転量が第1の回転量であるときに圧延された前記被圧延材の前記板厚にも基づいて、当該第1の回転量からn周期後(nは1以上の整数)の第2の回転量における前記デフレクタロールの位置を制御する、板厚制御方法であって、
前記リールの回転量と、前記リールにおける被圧延材の巻き取り量の増加に伴う前記リールの半径変化量との対応関係に基づいて前記第2の回転量における前記半径変化量を算出し、
前記リールの回転量が前記第1の回転量であるときに圧延された被圧延材の板厚に基づいて前記第2の回転量における前記リールの半径変動量を算出し、
前記第2の回転量における前記半径変化量と前記第2の回転量における前記半径変動量とを加算することにより前記第2の回転量における前記リールの合計の半径変化量を算出し、
前記合計の半径変化量に基づいて前記第2の回転量における前記デフレクタロールの位置を示す制御量を算出し、
前記制御量に基づいて、前記被圧延材の張力変動量が減少する位置に前記デフレクタロールを移動させる、板厚制御方法。
【請求項4】
被圧延材の圧延を行う圧延ロールと、
前記被圧延材を巻き取るリールと、
前記圧延ロールと前記リールとの間に配設されて前記被圧延材の経路を変更するデフレクタロールと、
前記デフレクタロールを移動させる移動手段と、
前記被圧延材の張力変動量が減少する位置に前記デフレクタロールを移動させるよう前記移動手段を制御する板厚制御手段と、を備える圧延装置であって、
前記リールの回転量を検出する回転量検出手段と、
前記板厚を計測する板厚計測手段と、を更に備え、
前記板厚制御手段は、前記リールの回転量が第1の回転量であるときに圧延された前記被圧延材の前記板厚に基づいて、当該第1の回転量からn周期後(nは1以上の整数)の第2の回転量における前記デフレクタロールの位置を制御する、圧延装置。
【請求項5】
前記板厚制御手段は、前記リールにおける前記被圧延材の巻き取り量に基づいて前記デフレクタロールの位置を制御する、請求項4に記載の圧延装置。
【請求項6】
被圧延材の圧延を行う圧延ロールと、
前記被圧延材を巻き取るリールと、
前記圧延ロールと前記リールとの間に配設されて前記被圧延材の経路を変更するデフレクタロールと、
前記デフレクタロールを移動させる移動手段と、
前記被圧延材の張力変動量が減少する位置に前記デフレクタロールを移動させるよう前記移動手段を制御する板厚制御手段と、を備える圧延装置に関し、
前記リールの回転量を検出する回転量検出手段と、
前記板厚を計測する板厚計測手段と、を更に備え、
前記板厚制御手段は、前記リールにおける前記被圧延材の巻き取り量に基づいて前記デフレクタロールの位置を制御し、更に前記リールの回転量が第1の回転量であるときに圧延された前記被圧延材の前記板厚にも基づいて、当該第1の回転量からn周期後(nは1以上の整数)の第2の回転量における前記デフレクタロールの位置を制御する、圧延装置であって、
前記リールの回転量と、前記リールにおける被圧延材の巻き取り量の増加に伴う前記リールの半径変化量との対応関係を記憶した記憶手段を、更に備え、
前記板厚制御手段は、
前記リールの回転量が前記第1の回転量であるときに圧延された被圧延材の板厚に基づいて前記第2の回転量における前記リールの半径変動量を算出する板厚反映手段と、
前記記憶手段を参照して得られる前記第2の回転量における前記半径変化量と前記板厚反映手段で算出された前記第2の回転量における前記半径変動量とを加算することにより前記第2の回転量における前記リールの合計の半径変化量を算出する半径変化量算出手段と、
前記合計の半径変化量に基づいて前記第2の回転量における前記デフレクタロールの位置を示す制御量を算出する制御量算出手段と、を有し、
前記移動手段は、前記制御量に基づいて、前記被圧延材の張力変動量が減少する位置に前記デフレクタロールを移動させる、圧延装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧延装置において被圧延材の板厚を制御する板厚制御方法及び当該板厚制御方法を実行する圧延装置に関する。
【背景技術】
【0002】
冷間圧延において、溶融めっき鋼帯などのストリップ(被圧延材)は、リールに巻き取られながら圧延機で圧延される。巻き取り時には、回転軸方向に沿ってリールの外周曲面に形成された溝状のグリップにストリップの先端を差し込んでおくことにより、ストリップを固定することができる。しかし、グリップを使ってストリップを固定すると、グリップ付近でストリップが急激に屈曲することにより、ストリップがリール表面から若干浮いた状態となって膨らみを生じる。更に、膨らみ部分にストリップが巻かれていくと膨らみが何層にもわたって転写される。
【0003】
特許文献1には、リール表面に嵌挿された段付きスリーブの段差部に、ストリップの先端を合わせることによってストリップ先端付近における段差の発生及び段差の転写を抑制する方法が開示されている。更に、特許文献1には、リールの回転速度を制御することにより、段付きスリーブの段差部とストリップの先端の位置合わせ精度を高め、ストリップ先端付近における段差の発生及び段差の転写を抑制する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−263733号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の方法を使用してもストリップ先端付近における段差の発生を完全に無くすことはできず、そもそも、グリップを使用してストリップを固定する場合に発生するようなストリップ先端の膨らみを無くすことはできない。また、特許文献1は、ストリップ先端の位置合わせを行うのみであるため、一度、ストリップに膨らみが発生してしまうと、途中で膨らみの転写を抑制することはできない。
【0006】
本発明者らの検討したところによれば、ストリップに膨らみが生じた場合には、リールの回転に伴って周期的にパルス状の急激な張力変動がストリップに加わるため、ストリップに周期的に板厚変動が生じる。厳しい精度要求を満足するためには圧延時にストリップに加わる張力を一定にして板厚変動を抑制する必要があるため、グリップを使用してストリップ先端を固定する場合のようにストリップの膨らみが避けられない状況では、ストリップに加わる張力を一定にする新たな手段が必要となる。
【0007】
本発明は、ストリップをリールに巻き取る際に、リールの回転に伴ってストリップに生じる張力変動を抑制することにより、ストリップの板厚を安定させることができる板厚制御方法及び当該板厚制御方法を実行する圧延装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の板厚制御方法は、被圧延材の圧延を行う圧延ロールと、被圧延材を巻き取るリールと、圧延ロールとリールとの間に配設されて被圧延材の経路を変更するデフレクタロールとを備える圧延装置において被圧延材の張力変動量が減少する位置にデフレクタロールを移動させることにより、被圧延材の板厚を制御する板厚制御方法であって、リールの回転量が第1の回転量であるときに圧延された被圧延材の板厚に基づいて、第1の回転量からn周期後(nは1以上の整数)の第2の回転量におけるデフレクタロールの位置を制御するものである。
【0009】
本発明の第1の圧延装置は、被圧延材の圧延を行う圧延ロールと、被圧延材を巻き取るリールと、圧延ロールとリールとの間に配設されて被圧延材の経路を変更するデフレクタロールと、デフレクタロールを移動させる移動手段と、被圧延材の張力変動量が減少する位置にデフレクタロールを移動させるよう移動手段を制御する板厚制御手段と、を備えるものであって、リールの回転量を検出する回転量検出手段と、板厚を計測する板厚計測手段と、を更に備えている。更に、板厚制御手段は、リールの回転量が第1の回転量であるときに圧延された被圧延材の板厚に基づいて、第1の回転量からn周期後(nは1以上の整数)の第2の回転量におけるデフレクタロールの位置を制御する。
【0010】
第1の板厚制御方法及び第1の圧延装置によれば、リールの回転に伴って被圧延材に生じる張力変動及び板厚変動を抑制することができる。特に、リールのグリップに固定された被圧延材の先端に膨らみが生じた場合のように、リールの構成によっては無くすことができない張力変動及び板厚変動を抑制することができる。
【0011】
更に、第1の板厚制御方法及び第1の圧延装置によれば、慣性力が大きく応答の遅いリールの駆動モータを制御する場合に比較して、リールの回転に伴う張力変動を応答性よく抑制することができる。第1の板厚制御方法及び第1の圧延装置によれば、応答の遅い圧下装置の制御により板厚を制御する場合に比較して、リールの回転に伴う張力変動を応答性よく抑制することができる。リールの回転に伴う張力変動を応答性よく抑制することができるため、リールの回転に伴って周期的に急激に変化する張力変動を効果的に抑制することができる。
【0012】
なお、第1の板厚制御方法を実行する圧延装置及び第1の圧延装置は、加工後の被圧延材に高い品質が求められる冷間圧延装置であることが好ましい。圧延装置は、リバース式であってもよいし非リバース式であってもよい。圧延装置は、往復で板厚を制御するものであってもよいし片道のみ実行するものであってもよい。リールは、巻き取り専用であってもよいし、巻き取りと払い出しの両方に使用されるものであってもよい。
【0013】
デフレクタロールは、被圧延材の張力が増加するときに被圧延材を押し付ける力を弱める方向に移動し、被圧延材の張力が減少するときに被圧延材を押し付ける力を強める方向に移動することが好ましい。デフレクタロールの移動方向は、上下方向であってもよいし、水平方向であってもよく、被圧延材の張力を増減することができれば他の方向であってもよい。デフレクタロールを移動させる方法として、油圧シリンダをサーボ制御する方法が例示される。
【0016】
また、第1の板厚制御方法及び第1の圧延装置によれば、リールの回転に伴って周期的に発生する張力変動を安定して抑制することができる。特に、デフレクタロールの移動によって張力変動を制御することにより、周期的に急激に発生する張力変動を応答性よく抑制することができる。周期的に発生する張力変動の原因として、被圧延材の先端を係止するリールのグリップ部付近でストリップに形成及び転写された膨らみが例示される。なお、デフレクタロールの位置の制御に使用する板厚は、板厚そのものの寸法であってもよいし、板厚の変動量であってもよい。圧延後の板厚を計測する場合には、計測タイミングと実際の圧延タイミングとを補正することが好ましい。デフレクタロールの制御は、第2の回転量に達するよりも前に開始されることが好ましい。第2の回転量として、第1の回転量の後の一の回転量が選択されるものであってもよいし、複数の回転量が選択されるものであってもよい。
【0017】
本発明の第2の板厚制御方法は、第1の板厚制御方法において、リールにおける被圧延材の巻き取り量に基づいてデフレクタロールの位置を制御するものである。
【0018】
本発明の第2の圧延装置では、第1の圧延装置の板厚制御手段がリールにおける被圧延材の巻き取り量に基づいてデフレクタロールの位置を制御するよう構成されている。
【0019】
第2の板厚制御方法及び第2の圧延装置によれば、リールの回転に伴って被圧延材に定常的に発生する張力変動を抑制することができる。定常的に発生する張力変動として、リールに巻き取られた被圧延材の厚さの増加による張力変動が例示される。
【0020】
本発明の第3の板厚制御方法は、被圧延材の圧延を行う圧延ロールと、被圧延材を巻き取るリールと、圧延ロールとリールとの間に配設されて被圧延材の経路を変更するデフレクタロールとを備える圧延装置において被圧延材の張力変動量が減少する位置にデフレクタロールを移動させることにより、被圧延材の板厚を制御する板厚制御方法に関し、リールにおける被圧延材の巻き取り量に基づいてデフレクタロールの位置を制御し、更にリールの回転量が第1の回転量であるときに圧延された被圧延材の板厚にも基づいて、第1の回転量からn周期後(nは1以上の整数)の第2の回転量におけるデフレクタロールの位置を制御する、板厚制御方法である。更に、リールの回転量と、リールにおける被圧延材の巻き取り量の増加に伴うリールの半径変化量との対応関係に基づいて第2の回転量における半径変化量を算出し、リールの回転量が第1の回転量であるときに圧延された被圧延材の板厚に基づいて第2の回転量におけるリールの半径変動量を算出し、第2の回転量における半径変化量と第2の回転量における半径変動量とを加算することにより第2の回転量におけるリールの合計の半径変化量を算出し、合計の半径変化量に基づいて第2の回転量におけるデフレクタロールの位置を示す制御量を算出し、その制御量に基づいて、被圧延材の張力変動量が減少する位置にデフレクタロールを移動させるものである。
【0021】
本発明の第3の圧延装置は、被圧延材の圧延を行う圧延ロールと、被圧延材を巻き取るリールと、圧延ロールとリールとの間に配設されて被圧延材の経路を変更するデフレクタロールと、デフレクタロールを移動させる移動手段と、被圧延材の張力変動量が減少する位置にデフレクタロールを移動させるよう移動手段を制御する板厚制御手段とを備える圧延装置に関し、リールの回転量を検出する回転量検出手段と、板厚を計測する板厚計測手段と、を更に備え、板厚制御手段は、リールにおける被圧延材の巻き取り量に基づいてデフレクタロールの位置を制御し、更にリールの回転量が第1の回転量であるときに圧延された被圧延材の板厚にも基づいて、第1の回転量からn周期後(nは1以上の整数)の第2の回転量におけるデフレクタロールの位置を制御する、圧延装置である。更に、リールの回転量と、リールにおける被圧延材の巻き取り量の増加に伴うリールの半径変化量との対応関係を記憶した記憶手段を更に備えている。更に、板厚制御手段は、リールの回転量が第1の回転量であるときに圧延された被圧延材の板厚に基づいて第2の回転量におけるリールの半径変動量を算出する板厚反映手段と、記憶手段を参照して得られる第2の回転量における半径変化量と板厚反映手段で算出された第2の回転量における半径変動量とを加算することにより第2の回転量におけるリールの合計の半径変化量を算出する半径変化量算出手段と、合計の半径変化量に基づいて第2の回転量におけるデフレクタロールの位置を示す制御量を算出する制御量算出手段とを有している。更に、移動手段は、その制御量に基づいて被圧延材の張力変動量が減少する位置にデフレクタロールを移動させる。
【0022】
第3の板厚制御方法及び第3の圧延装置によれば、板厚の変動によって検出される張力変動量と、リールにおける被圧延材の巻き数の増加によって生じる張力変動量とを、共にリールの半径の変動量に置き換えて演算することにより、制御量の演算を簡素化することができる。なお、回転量と半径変化量との対応関係の参照元として、予め対応関係を記憶した表、対応関係を算出する計算式、及び、リールの半径を計測する計測器が例示される。半径変動量の算出方法としては、対応関係を算出する計算式及び予め対応関係を記憶した表が例示される。制御量は、デフレクタロールの位置を直接数値で示すものであってもよいし、デフレクタロールの移動量を示すものであってもよいし、間接的にデフレクタロールの位置を示すものであってもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、被圧延材をリールに巻き取る際に、リールの回転に伴って被圧延材に生じる張力変動を抑制することにより、被圧延材の板厚を安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、本実施形態の圧延装置の概略構成及び機能ブロックの一部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は、本実施形態の圧延装置1の概略構成図である。圧延装置1は、主要な構成要素として、圧延スタンド10、左リール11、右リール12、左デフレクタロール13及び右デフレクタロール14を備えている。本明細書中で左右方向は相対的な位置関係を示すにすぎない。
【0026】
なお、本実施形態では圧延装置1を冷間リバース圧延装置としたときの板厚制御方法について説明するが、本発明の板厚制御方法を実行する圧延装置は本実施形態の圧延装置1に限られるものではない。例えば、圧延装置1は、1方向にのみ圧延する圧延装置であってもよい。
【0027】
本実施形態の圧延スタンド10は、直接ストリップ15に接触するワークロールをバックアップロールと中間ロールで圧下しながら圧延するが、他の構造を持つ圧延装置であってもよい。圧延スタンド10は、シングルスタンドであってもよいし、ダンデム方式で圧延するものであってもよい。
【0028】
左リール11は圧延スタンド10の左側に配設され、右リール12は圧延スタンド10の右側に配設されている。左リール11と右リール12は、それぞれ、ストリップ15を払い出すペイオフリールとして機能するとともに、ストリップ15を巻き取るテンションリールとして機能する。左リール11と右リール12の一方がペイオフリールとして機能するとき、他方がテンションリールとして機能する。
【0029】
左リール11と圧延スタンド10の間には、ストリップ15の経路を変更する左デフレクタロール13が配設されている。右リール12と圧延スタンド10の間には、ストリップ15の経路を変更する右デフレクタロール14が配設されている。
【0030】
左リール11及び右リール12が時計回りに回転すると、ストリップ15が右リール12の左下付近で右リール12から離れて左上方向に送られ、右デフレクタロール14によって水平面に沿うように経路変更され、圧延スタンド10に送られる。圧延スタンド10で圧延されたストリップ15は、左デフレクタロール13で左下方向に経路変更され、左リール11の右下付近の巻き取り開始位置16において左リール11上のストリップ15に接触し、左リール11に巻き取られる。左リール11及び右リール12が反時計回りに回転すると、時計回りの場合と逆の経路で左リール11から右リール12にストリップ15が移動しながら圧延される。左リール11と右リール12の間でストリップ15を複数回往復させることにより、ストリップ15は所望の厚さまで圧延される。本実施形態のストリップ15は、最終的に0.8mmから0.3mm程度まで圧延されるが、ストリップ15の板厚はこれらに限られるものではない。
【0031】
ストリップ15の先端は、左リール11のグリップ部17により固定されている。グリップ部17は、左リール11表面のスリットから内部に挿入されたストリップ15の先端を挟持する。ストリップ15は、グリップ部17から出たところで屈曲するため、左リール11表面から若干浮いた状態の膨らみ18を生じる。巻き取りが進んでストリップ15がストリップ15の最先端部の膨らみ18に重なるように巻き取られると、内側のストリップ15の膨らみ18が外側のストリップ15に転写される。圧延時にストリップ15に加わる張力は、ストリップ15を含む左リール11全体の巻き取り半径に依存し、特に、巻き取り開始位置16における巻き取り半径に大きく依存する。
【0032】
なお、左リール11は、ストリップ15の先端を内側に挿入するグリップ部17を持つものに限られない。本実施形態では、グリップ部17により生じた膨らみ18が板厚変動を引き起こす場合でも、このように引き起こされた板厚変動を抑制することができるが、当初から膨らみ18の発生を抑えておくことにより、更に板厚変動を抑制することができる。例えば、左リール11は、ストリップ15の先端を左リール11の表面に平面的に押し付けながらストリップ15を巻き取るものであってもよく、表面に段付きスリーブを搭載し、ストリップ15先端の段差を抑制したものであってもよい。
【0033】
左デフレクタロール13が固定されている状態では、左リール11が時計回りに回転するとき、巻き取り開始位置16に膨らみ18が来ていない間は、巻き取り半径は略一定であるか又は滑らかに増大する。巻き取り開始位置16に膨らみ18が到達すると、巻き取り半径が急激に増大することによりストリップ15に加わる張力が急激に増大する。ストリップ15に加わる張力が大きくなると、圧延スタンド10で圧延されているストリップ15の板厚が急激に薄くなる。従って、左リール11の回転に伴って、膨らみ18が周期的に巻き取り開始位置16に到達し、ストリップ15に加わる張力が周期的に急激な増大を示し、同時に圧延中のストリップ15の板厚が周期的に急激に薄くなる。
【0034】
圧延装置1は、左リール11の回転に伴う張力変動を抑制する板厚制御方法を実行するために、更に、油圧シリンダ20、サーボ弁21、板厚計22、角度検出器23、上位コンピュータ24、入力部25及び板厚制御部26を備えている。なお、以下、差分を示すデルタをΔで示す。
【0035】
油圧シリンダ20は、左デフレクタロール13を上下に移動させる。サーボ弁21は、移動量Δdが入力されると油圧シリンダ20の油量を制御し、移動量Δd分、左デフレクタロール13を上下方向に移動させる。左デフレクタロール13の位置は、油圧シリンダ20からサーボ弁21にフィードバックされる。サーボ弁21は、負の移動量Δdが入力されると、左デフレクタロール13を下方に移動させることによりストリップ15の張力を緩和する。サーボ弁21は、正の移動量Δdが入力されると、左デフレクタロール13を上方に移動させることによりストリップ15の張力を高める。
【0036】
板厚計22は、圧延スタンド10の左側出口付近でストリップ15の板厚偏差Δhを計測する。板厚偏差Δhは、圧延スタンド10における圧延目標の板厚からの偏差を表す。膨らみ18の影響がない場合には板厚偏差Δhは0となり、膨らみ18の影響がある場合には板厚が薄くなるので板厚偏差Δhは負の値となる。板厚計22として、X線厚み計が例示される。
【0037】
角度検出器23は、左リール11の駆動モータに取り付けられたパルスジェネレータ(PLG)であり、左リール11が1回転する間に所定数Tのパルスを出力する。
【0038】
上位コンピュータ24は、圧延装置1全体を制御すると共に予測値記憶部27を備えている。予測値記憶部27は、左リール11の初期位置からの回転角度を示すパルス数と、左リール11の巻き取り半径の定常的な変化量との対応を表す関数f1を示している。巻き取り半径の変化量は、巻き取り量が0の状態からの半径方向の厚みで表されている。パルス数が増加すると、ストリップ15が徐々に巻き取られることにより、巻き取り半径の変化量は段階的又は連続的に増加する。本実施形態の関数f1は、テーブルの形式で記憶されているが、数式の形式で記憶されていてもよい。関数f1は、ストリップ15の複数のパラメータによって特定される圧延条件ごとに用意されている。パラメータとしては、被圧延材の種類、目標板厚、板幅、圧延回数、ストリップ15の移動方向が例示される。関数f1は、シミュレーションによって予測されたものであっても良いし、過去の実績に基づいて予測されたものであってもよい。入力部25は、関数f1を作業者が変更するためのインタフェースであり、例えば、汎用PCで構成される。
【0039】
図1に示すように板厚制御部26は、角度検出器23から入力されたパルス、板厚計22から入力された板厚偏差Δh、及び、予測値記憶部27から読み出した関数f1に基づいて、サーボ弁21に制御量Δdを出力する。板厚制御部26は、左リール11の巻き取り半径の増加に伴う張力変動を関数f1に基づいて緩和するとともに、膨らみ18により周期的に発生する張力変動を板厚偏差Δhに基づいて緩和する。左リール11の回転角度を示すパルス数がpのときに板厚偏差Δhが発生した場合、左リール11が更に一回転してパルス数がp+Tとなるときに左デフレクタロール13を移動させる。
【0040】
実際には、パルス数がpのときに板厚計22で計測された板厚変動は、パルス数pよりも時間的に前に圧延スタンド10で発生したものである。更に、パルス数がp+Tのときに制御量Δdを出力したのではサーボ弁21による油圧シリンダ20の制御が遅れる。従って、板厚制御部26は、板厚偏差の発生と計測のタイミングのずれ、及び、油圧シリンダ20の制御の遅れを見越して、板厚偏差の発生から左リール11の一回転後に左デフレクタロール13が目標位置に移動するように制御する。
【0041】
以下、本実施形態の板厚制御部26の具体的な構成及び動作について説明する。板厚制御部26は、予測値読出部30、予測値修正部31、シフトバッファ32、板厚反映部33、半径変化量算出部34及び制御量算出部35を備えている。本実施形態の板厚制御部26は、PLC(programmable logic controller)により実現されているが、同様の機能を実現するものであればPLCに限られるものではない。本実施形態の板厚制御部26の各構成要素は、板厚制御部26の機能を機能ブロックとして記述したものであり、同様の機能が実現できれば各構成要素が分離している必要はない。
【0042】
予測値読出部30は、上位コンピュータ24の予測値記憶部27から圧延条件に合った関数f1を読み出す。圧延条件は、予測値読出部30から上位コンピュータ24に要求するものであってもよいし、上位コンピュータ24の制御に従って予測値読出部30に送信するものであってもよい。予測値修正部31は、予測値読出部30に読み出された関数f1を、入力部25で作業員が入力した情報に従って修正し、修正後の関数f2を作成する。予測値修正部31を備えることによって、作業員の経験や圧延環境を反映してより正確な関数f2を作成することができる。
【0043】
シフトバッファ32は、左リール11が一回転する間に、角度検出器23から出力されたパルスに合わせ、一定間隔で板厚偏差Δhをm回読み込む(mは正の整数)。例えば、角度検出器23が一回転で320パルスを出力する場合、シフトバッファ32は、m=320であればパルス毎に板厚偏差Δhを読み込み、m=32であれば10パルス毎に板厚偏差Δhを読み込む。m個の板厚偏差Δhはリング状にシフトしながら保持される。新たに読み込まれた板厚偏差Δh(θ)は、一回転前の板厚偏差Δh(θ−T)を更新する。但し、新たに読み込まれた板厚偏差Δhが0であればΔh(θ−T)は維持される。例えば、1周目に検出された板厚偏差Δhは2周目以降も維持される。シフトバッファ32から板厚偏差Δh(θ)が出力されるのは、k個後の板厚偏差Δh(θ+k)が読み込まれたときである。圧延スタンド10で板厚偏差Δh(θ)が実際に発生してから、左リール11が一回転し、次に板厚偏差Δh(θ+T)が発生すると予測されるタイミングに合わせて左デフレクタロール13が目標位置に移動するように、kが設定されている。
【0044】
板厚反映部33は、シフトバッファ32から、板厚偏差Δh(θ)が入力されると、パルス数θから一回転後のパルス数(θ+T)における巻き取り半径の変動量f3(θ+T)を算出する。関数f3に相当する制御ゲインは、シミュレーション及び実測値に基づいて予め設定されている。膨らみ18の影響によって板厚が薄くなると板厚偏差Δhが負の値となる。板厚偏差Δhの絶対値が大きいほど巻き取り半径の変動量が大きくなる。
【0045】
半径変化量算出部34は、予測値修正部31から、パルス数(θ+T)に発生すると予測される巻き取り量の増加に伴う半径変化量f2(θ+T)を読み出す。更に、半径変化量算出部34は、板厚反映部33から、パルス数(θ+T)に発生すると予測される膨らみ18による半径変動量f3(θ+T)を入力する。更に、半径変化量算出部34は、巻き取り半径変化量f2(θ+T)と半径変動量f3(θ+T)とを加算することにより、板厚偏差Δh(θ)が検出されてから一回転後における左リール11の合計の巻き取り半径変化量f4(θ+T)を算出する。
【0046】
制御量算出部35は、合計の巻き取り半径変化量f4(θ+T)に基づいて、ストリップ15に加わる張力が一定となるように制御量Δd(θ+T)を算出する。制御量算出部35の制御ゲインは、シミュレーション及び実測値に基づいて設定されている。制御量算出部35は、算出した制御量Δd(θ+T)をサーボ弁21に出力する。
【0047】
サーボ弁21は、入力された制御量Δd(θ+T)に従って油圧シリンダ20を制御し、左デフレクタロール13を移動させる。左デフレクタロール13が移動することによって、ストリップ15の巻き取り量の増加に伴う張力の変動、及び、膨らみ18が巻き取り開始位置16に到達したときにストリップ15に加わる張力の変動が共に抑制される。サーボ弁21に制御量Δdが出力されるタイミングは、シフトバッファ32以外の構成要素によって更に調整されるものであってもよい。
【0048】
以上のように、圧延装置1は、左デフレクタロール13の移動によってストリップ15の張力を一定に保つことができるため、左リール11の回転速度や回転トルクを制御したり、左リール11の回転軸を移動させたり、圧延スタンド10における圧下力を制御したりする場合に比較して、応答性良く板厚変動を抑制することができる。圧延装置1は、パルス数θのタイミングで圧延されたストリップ15に板厚変動Δh(θ)が発生した場合、当該板厚変動Δh(θ)に基づいて、パルス数(θ+T)のタイミングで圧延されるストリップ15に加わる張力を一定に保つことにより、板厚変動Δh(θ+T)の発生を抑制することができる。即ち、周期的な板厚変動を応答性良く抑制することができる。圧延装置1によれば、左リール11の回転に伴ってストリップ15に定常的に発生する張力変動を抑制することができる。
【0049】
板厚変動は膨らみ18により発生するものに限られるものではない。膨らみ18などの周期的に張力変動を発生させる要因は、ストリップ15の全長にわたって一定に発生しつづけるものでなくてもよく、ストリップ15の巻き取りが進むにつれて小さくなるものであってもよい。周期的に張力変動を発生させる要因は、ストリップ15の巻き取りの途中から発生するものであってもよく、巻き取りの途中で解消されるものであってもよい。圧延装置1によれば、周期的に張力変動を発生させる要因の発生周期がTからずれた場合であっても、ずれが生じた1周期後には張力変動を抑制することができる。
【0050】
なお、本実施形態の圧延装置1は、左リール11でストリップ15を巻き取る際に左デフレクタロール13を移動させることによって板厚を制御しているが、右リール12でストリップ15を巻き取る際に右デフレクタロール14を移動させることによって板厚を制御するものであってもよく、左右両側で板厚を制御するものであってもよい。本実施形態の圧延装置1は、左デフレクタロール13を上下方向に移動させるものであるが、左デフレクタロール13を水平方向など他の方向に移動させるものであってもよい。左デフレクタロール13は、油圧シリンダ20以外の他の機器によって移動するものであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、リールによってストリップを巻き取りながら圧延する各種圧延装置であって、リールがストリップに加える張力の変動によって板厚が変動する圧延装置の板厚制御に適用できる。
【符号の説明】
【0052】
1 圧延装置
10 圧延スタンド
11 左リール
12 右リール
13 左デフレクタロール
14 右デフレクタロール
15 ストリップ
16 巻き取り開始位置
17 グリップ部
18 膨らみ
20 油圧シリンダ
21 サーボ弁
22 板厚計
23 角度検出器
24 上位コンピュータ
25 入力部
26 板厚制御部
27 予測値記憶部
30 予測値読出部
31 予測値修正部
32 シフトバッファ
33 板厚反映部
34 半径変化量算出部
35 制御量算出部
図1