【課題を解決するための手段】
【0008】
このような問題を解決するために、鋭意検討した結果、熱可塑性樹脂と相溶性のない分散媒中に、熱可塑性樹脂及び少なくとも1種の無機粒子を添加し、得られる混合物を前記熱可塑性樹脂の融点以上の温度に加熱して混合し、分散液中の複合粒子を冷却固化することによって、有機溶剤及び、分子レベルの界面活性剤や分散安定剤等の添加剤を使用せずに熱可塑性樹脂粒子の表面に無機粒子が吸着した複合粒子を製造することができるという知見を得た。本発明は、斯かる知見に基づき完成されたものである。
【0009】
項1.熱可塑性樹脂粒子の表面に、無機粒子が吸着した複合粒子の製造方法であって、
(1)熱可塑性樹脂と相溶性のない分散媒中に、熱可塑性樹脂及び少なくとも1種の無機粒子を添加する工程、
(2)工程(1)で得られる混合物を前記熱可塑性樹脂の融点以上の温度に加熱して混合し、熱可塑性樹脂粒子の表面に、無機粒子が吸着した複合粒子を含む分散液を形成する工程、及び
(3)工程(2)における複合粒子を含む分散液を冷却し、分散液中の複合粒子を固化する工程
を含む複合粒子の製造方法。
【0010】
項2.工程(1)が、熱可塑性樹脂と相溶性のない分散媒中に少なくとも1種の無機粒子を分散させ、少なくとも1種の無機粒子を分散させた分散媒中に、さらに熱可塑性樹脂を添加する工程である項1に記載の複合粒子の製造方法。
【0011】
項3.熱可塑性樹脂の融点が0〜300℃である項1又は2に記載の複合粒子の製造方法。
【0012】
項4.工程(3)における冷却温度が、熱可塑性樹脂の融点以下であって、分散媒の凝固点以上の温度である項1〜3のいずれかに記載の複合粒子の製造方法。
【0013】
項5.工程(3)における冷却温度が−120〜+50℃である項1〜4のいずれかに記載の複合粒子の製造方法。
【0014】
項6.熱可塑性樹脂と相溶性のない分散媒が水である項1〜5のいずれかに記載の複合粒子の製造方法。
【0015】
項7.分散媒が水を主成分とする混合分散媒である項1〜5のいずれかに記載の複合粒子の製造方法。
【0016】
項8.熱可塑性樹脂がポリエステルである項1〜7のいずれかに記載の複合粒子の製造方法。
【0017】
項9.熱可塑性樹脂がポリ-ε-カプロラクトン、ポリラクチド、ラクチド-ε-カプロラクトン共重合体、ラクチド-グリコリド共重合体、ポリグリコリド、グリコリド-ε-カプロラクトン共重合体及びポリジオキサノンよりなる群から選ばれる少なくとも1種の重合体である項1〜8のいずれかに記載の複合粒子の製造方法。
【0018】
項10.無機粒子の平均粒子径が10〜1000nmである項1〜9のいずれかに記載の複合粒子の製造方法。
【0019】
項11.無機粒子がリン酸カルシウムである項1〜10のいずれかに記載の複合粒子の製造方法。
【0020】
項12.無機粒子がハイドロキシアパタイトである項1〜11のいずれかに記載の複合粒子の製造方法。
【0021】
項13.該複合粒子の平均粒子径が0.01〜2,000μmである項1〜12のいずれかに記載の複合粒子の製造方法。
【0022】
本発明は、熱可塑性樹脂粒子の表面に無機粒子が吸着した複合粒子の製造方法に関する。該製造方法は、(1)熱可塑性樹脂と相溶性のない分散媒中に、熱可塑性樹脂及び少なくとも1種の無機粒子を添加する工程、(2)工程(1)で得られる分散液を前記熱可塑性樹脂の融点以上の温度に加熱して混合し、複合粒子を含む分散液を形成する工程、及び(3)工程(2)における複合粒子を含む分散液を冷却し、分散液中の複合粒子を固化する工程により製造される。
【0023】
熱可塑性樹脂としては、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリメタクリル酸エステル、ポリアクリル酸エステル、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリアクリロニトリル、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル等が挙げられるが、生体親和性や生体適合性において優れる点から、ポリエステルであることが好ましく、生体適合性に優れているという点から生分解性ポリマーが好ましく、具体的には脂肪族ポリエステルであることが好ましい。ポリエステルの具体例としては、ポリラクチド(PLA)、ポリグリコリド(PGA)、ラクチド-εカプロラクトン共重合体、ポリジオキサノン、グリコリド-トリメチレンカーボネート共重合体、ポリ−3−ヒドロキシ酪酸(PHB)、3−ヒドロキシ酪酸−3−ヒドロキシ吉草酸共重合体(PHBV)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリεカプロラクトン(PLC)、酢酸セルロース系(PH)重合体、ポリエチレンサクシネート(PESu)、ポリエステルアミド、変性ポリエステル等が挙げられる。これらの中で、熱可塑性樹脂がポリεカプロラクトン、ポリラクチド、ラクチド-εカプロラクトン共重合体、及びラクチド-グリコリド共重合体よりなる群から選ばれる少なくとも1種の重合体であることが好ましい。
【0024】
熱可塑性樹脂の融点は、本発明の製造方法により得られる複合粒子の使用目的に応じて適宜設定変更すればよいが、0℃以上が好ましく、25℃以上がより好ましく、37℃以上がさらに好ましく、60℃以上が特に好ましい。また、熱可塑性樹脂の融点は、熱可塑性樹脂の分解温度よりも低いものであれば、特に限定されるものではなく、通常300℃以下であればよい。なお、熱可塑性樹脂の融点とは、常圧での融点を意味する。
【0025】
無機粒子に用いられる無機化合物としては、リン酸カルシウム、シリカ、チタニア、アルミナ、ジルコニア、酸化鉄、酸化スズ、酸化亜鉛、金、銀、パラジウム、白金、カーボンブラック、炭酸カルシウム、クレイ(例えば、モンモリロナイト)、前記無機化合物の焼成体等が挙げられるが、これらの中で、生体組織に対する密着性や接着性を有する点、生体内での安全性、熱可塑性樹脂への吸着性において良好であるという観点から、リン酸カルシウムが好ましい。
【0026】
リン酸カルシウムの具体例としては、ハイドロキシアパタイト(Ca
10(PO
4)
6(OH)
2)、リン酸トリカルシウム(Ca
3(PO
4)
2)、メタリン酸カルシウム(Ca(PO
3)
2)、フッ化アパタイト(Ca
10(PO
4)
6F
2)、クロロアパタイト(Ca
10(PO
4)
6Cl
2)等が挙げられる。これらの中でも、生体適合性において優れている点、分散媒中で熱可塑性樹脂を良好に分散させることができるという点、生体内での安全性、熱可塑性樹脂への吸着性等の点からハイドロキシアパタイトが好ましく、また、耐熱性および化学的安定性等の観点から、ハイドロキシアパタイトの焼結体が好ましい。
【0027】
無機粒子の製造方法としては、特に限定されないが、例えば、原料となる無機化合物を湿式法、水熱法、熱分解法、ゾルゲル法、アルコキシド法等の製法により得られる。
【0028】
無機粒子の平均粒子径としては、熱処理工程における熱可塑性樹脂の分散安定化、生体内での安全性において良好であるという点から、10nm以上が好ましく、15nm以上がより好ましく、20nm以上がさらに好ましい。また、無機粒子の平均粒子径は、無機粒子の分散媒中での分散性において良好であるという点から、1000nm以下が好ましく、800nm以下がより好ましく、500nm以下がさらに好ましい。
【0029】
工程(1)における、熱可塑性樹脂と相溶性のない分散媒中に、熱可塑性樹脂及び少なくとも1種の無機粒子を分散させる際の熱可塑性樹脂と無機粒子の添加の順番は、特に限定されるものではないが、熱可塑性樹脂と相溶性のない分散媒中に少なくとも1種の無機粒子を分散させ、少なくとも1種の無機粒子を分散させた分散媒中に、さらに熱可塑性樹脂を分散させることが、熱可塑性樹脂表面への無機粒子の吸着状態において優れる点で好ましい。
【0030】
工程(1)において、熱可塑性樹脂及び少なくとも1種類の無機粒子が分散した分散液を調製する際に、本願発明は、毒性を示す有機溶剤を含まず、また、生体への影響が懸念されるような、分子レベルの界面活性剤や分散安定剤を使用しないことを特徴とする。
【0031】
工程(1)において分散媒として含有しない有機溶剤としては、例えば、モノクロロメタン、ジクロロメタン、トリクロロメタン(クロロホルム)、テトラクロロメタン、トリフルオロ酢酸、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール等のハロゲン系炭化水素;アセトン、テトラヒドロフラン、N,N-ジメチルホルムアミド、ジオキサン、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、N-メチル-2-ピロリドン等が挙げられる。また、工程(1)において含有しない分子レベルの界面活性剤としては、例えば、ドデシル硫酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、セチルトリメチルアンモニウム塩等が挙げられ、工程(1)において含有しない分散安定剤としては、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。
【0032】
工程(1)において使用される前記無機粒子が分散した該熱可塑性樹脂と相溶性のない分散媒の具体例としては、水、塩水溶液(例えば、食塩水)、ひまし油、植物油、オリーブオイル、メタノール、エタノール、メトキシエタノール、プロパノール、プロピレングリコール、ブタノール、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、ペンタン、ヘキサン、エチレングリコール、グリセロール等が挙げられるが、これらの中で、人体への安全性において優れるという観点から、水、エタノール、プロパノール、プロピレングリコール、ブタノール、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、ペンタンが好ましい。また、熱可塑性樹脂の加水分解制御という観点から、分散媒として水を主成分として、エタノール、プロパノール等の低級アルコール;酢酸エチル等の溶剤を、少量配合した混合分散媒であってもよい。水を主成分とする混合分散媒とする場合における水以外の溶剤の含有割合としては、混合分散媒中、1〜50重量%が好ましく、5〜40重量%がより好ましく、10〜30重量%がさらに好ましい。
【0033】
なお、例えば生分解性樹脂等の加水分解するポリマーを用いる場合には、後述する工程(2)の加熱処理により生分解性樹脂等の加水分解が早く進行するため、加水分解を起こさない分散媒を適宜用いることが好ましい。
【0034】
工程(1)において、前記分散媒に分散される無機粒子の含有割合は、熱処理工程における熱可塑性樹脂の分散安定化において良好であるという点から、分散液中、0.01重量%以上が好ましく、0.1重量%以上がより好ましく、1重量%以上がさらに好ましい。また、前記分散媒に分散される無機粒子の含有割合は、無機粒子の分散媒中での分散性において良好であるという点から、分散液中、50重量%以下が好ましく、30重量%以下がより好ましく、20重量%以下がさらに好ましい。
【0035】
工程(1)において、前記分散媒に分散される熱可塑性樹脂の含有割合は、熱可塑性樹脂の種類によって適宜変更されるが、例えば、生産性(生産効率、生産コスト等)において良好であるという点から、分散液中、0.01重量%以上が好ましく、0.1重量%以上がより好ましく、0.2重量%以上がさらに好ましい。また、前記分散媒に分散される熱可塑性樹脂の含有割合は、熱処理工程における熱可塑性樹脂の分散安定化において良好であるという点から。分散液中、70重量%以下が好ましく、60重量%以下がより好ましく、50重量%以下がさらに好ましい。
【0036】
工程(1)における分散液に含有する無機粒子及び熱可塑性樹脂について、無機粒子の添加量は、熱処理工程における熱可塑性樹脂の分散安定化において良好であるという点から、熱可塑性樹脂100重量部に対して、0.001重量部以上が好ましく、0.01重量部以上がより好ましく、0.1重量部以上がさらに好ましい。また、無機粒子の添加量は、生産性において良好であるという点から、熱可塑性樹脂100重量部に対して、30重量部以下が好ましく、20重量部以下がより好ましく、10重量部以下がさらに好ましい。
【0037】
工程(2)において、工程(1)で得られた混合物を、前記熱可塑性樹脂の融点以上の温度に加熱して混合する。前記加熱混合により、熱可塑性樹脂の微粒子が形成されるとともに、該微粒子の表面に無機粒子が吸着する。加熱処理の際に融点以上にして流動性が出るような温度であれば、適用することができ、処理温度が融点以上であって、かつ、分解点以下に設定することが必要となる。また、例えば生分解性樹脂等の加水分解するポリマーを適用する場合には、特に高温で加水分解が早く進行するため、加水分解を起こさない温度で処理する必要がある。そのような加熱温度の具体例としては、熱可塑性樹脂の融点をTmとした場合、Tm+0〜100℃が好ましく、Tm+0〜50℃がより好ましく、Tm+10〜50℃がさらに好ましい。特に加熱温度を熱可塑性樹脂の融点よりも10℃以上高く設定することにより、短時間で熱可塑性樹脂の微粒子が得られるという効果が得られる。
【0038】
なお、加熱温度が分散媒の沸点よりも高い場合には、例えば、耐圧容器を用いて高圧条件下で加熱する等により加熱することが可能である。
【0039】
撹拌方法としては、回転式撹拌機、振動式撹拌機、マグネティックスターラー、超音波照射、ローラーミル、ボールミル、コロイドミル等が挙げられる。
【0040】
工程(2)における加熱混合時間としては、熱可塑性樹脂の微粒化において良好となる点から、10分以上が好ましく、20分以上がより好ましく、30分以上がさらに好ましい。加熱混合時間は、生産性および熱可塑性樹脂の変性(加水分解)の抑制において良好となる点から、10時間以下が好ましく、5時間以下がより好ましく、1時間以下がさらに好ましい。
【0041】
工程(3)における冷却温度は、熱可塑性樹脂の融点以下であって、分散媒以上の温度であることが好ましく、また、熱可塑性樹脂の融点をTmとした場合、Tm−0〜−50℃程度がより好ましい。
【0042】
また、工程(3)における冷却する際の冷却温度は、生産性において良好であるという点から、工程(1)において使用される前記無機粒子が分散した該熱可塑性樹脂と相溶性のない分散媒の融点をTm
(disp.)とした場合、Tm
(disp.)−50℃以下が好ましく、Tm
(disp.)−40℃以下がより好ましく、Tm
(disp.)−30℃以下がさらに好ましい。
【0043】
工程(3)における冷却温度の具体例としては、−120〜+50℃が好ましい。
【0044】
工程(3)における冷却における冷却速度は、1〜20℃/分が好ましく、1〜10℃/分がより好ましく、1〜5℃/分がさらに好ましい。冷却速度1℃/分以上とすることによって、生産性が向上するという効果が得られ、また、冷却速度20℃/分以下とすることによって、冷却時において容器内の液体/気体間の温度差を小さくすることで突沸を防止するという効果が得られる。
【0045】
工程(3)における冷却する際の冷却時間は、冷却において良好であるという点から、30分以上が好ましく、45分以上がより好ましく、1時間以上がさらに好ましい。また、冷却時間は、生産性において良好であるという点から、24時間以下が好ましく、12時間以下がより好ましく、6時間以下がさらに好ましい。
【0046】
工程(3)における冷却方法としては、例えば、自然冷却、送風、液冷(水冷、油冷)等が挙げられる。
【0047】
本発明の製造方法により得られる複合粒子は、球状の微粒子となる。本発明の製造方法により得られる複合粒子の平均粒子径は、0.01〜2,000μmであることが好ましく、1〜2,000μmであることがより好ましく、10〜1,500μmであることがさらに好ましい。複合粒子の平均粒子径を0.01μm以上とすることによって、生体材料として用いた場合に細胞による貪食が回避できるという効果が期待でき、一方、複合粒子の平均粒子径を2,000μm以下とすることによって、充填剤として用いた場合により密に充填できるという効果が期待できる。なお、平均粒子径については、円相当径をもって表すことができる。
【0048】
本発明の製造方法により得られる複合粒子の形状は、円形度を測定することにより評価される。円形度は、{4π×投影面積/(周囲の長さの二乗)}で表される値であり、1に近づくほど複合粒子が真球に近いことを意味し、球状の微粒子が得られていることを意味する。円形度は、0.70〜1が好ましく、0.75〜1がより好ましい。
【0049】
本発明の製造方法により得られる複合粒子は、医用材料として好適に適用することができ、具体的には、細胞培養材料、骨充填剤、軟組織充填剤、細胞担持材料(細胞のキャリア)等の用途として適用することが可能となる。