(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5665500
(24)【登録日】2014年12月19日
(45)【発行日】2015年2月4日
(54)【発明の名称】水晶発振器
(51)【国際特許分類】
H03B 5/32 20060101AFI20150115BHJP
【FI】
H03B5/32 H
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2010-258512(P2010-258512)
(22)【出願日】2010年11月19日
(65)【公開番号】特開2012-109886(P2012-109886A)
(43)【公開日】2012年6月7日
【審査請求日】2013年10月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232483
【氏名又は名称】日本電波工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100093104
【弁理士】
【氏名又は名称】船津 暢宏
(72)【発明者】
【氏名】宇野 基
【審査官】
橋本 和志
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−357019(JP,A)
【文献】
特開2010−035079(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03B5/30−5/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックパッケージの両面に凹部が設けられ、一方の凹部に水晶片が搭載され、他方の凹部にICチップが搭載されたH型構造の水晶発振器であって、
前記水晶片によって覆われる領域で凹部の中央部に形成された2つのビアホールと、
前記水晶片の一短辺を前記凹部に固定する2つの水晶保持端子と、
前記2つの水晶保持端子と前記ICチップとを前記2つのビアホールを介して接続する2本の金属配線とを備え、
前記2つの水晶保持端子から引き出された前記2本の金属配線が、一旦前記短辺の中央方向に向かって形成され、前記短辺の中央付近から前記2つのビアホールに向かって、互いに並行して形成されていることを特徴とする水晶発振器。
【請求項2】
前記2つのビアホールが、水晶片及びICチップに挟まれる領域で凹部の中央部に形成されていることを特徴とする請求項1記載の水晶発振器。
【請求項3】
水晶発振器が温度補償型水晶発振器であることを特徴とする請求項1又は2記載の水晶発振器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水晶発振器に係り、特に外部からの熱の影響を受けにくくして、安定した周波数が得られる水晶発振器に関する。
【背景技術】
【0002】
[先行技術の説明]
従来、表面と裏面の2つの凹部を備えたセラミックパッケージに水晶片とICチップとを搭載したH型と呼ばれる構造の水晶発振器がある。H型の水晶発振器では、表面の水晶片と裏面のICチップとが金属配線によって接続されている。
また、TCXO(Temperature Compensated Crystal Oscillator;温度補償型水晶発振器)では、ICチップが、検出した温度に応じて出力周波数の変化を補償し、周囲の温度変化があっても安定した周波数が得られるようにしている。
【0003】
[従来の水晶発振器の構成:
図3]
従来のH型の水晶発振器の構成について
図3を用いて説明する。
図3(a)は、従来の水晶発振器の平面図であり、(b)は、模式断面図である。
図3(a)及び(b)に示すように、従来の水晶発振器は、セラミックパッケージ1の一方の面(ここでは表面、上面)に設けられた凹部内に水晶片2が搭載され、他方の面(ここでは裏面、下面)に設けられた凹部内にICチップ3が搭載されている。水晶片2は、2つの凹部を分離する分離部に設けられた水晶保持端子4a及び4bに導電性接着剤7で固定されている。
【0004】
そして、水晶片2とICチップ3とを接続する金属配線5aは、水晶保持端子4aから引き出され、セラミックパッケージ1の側面に設けられたキャスタレーション(図示せず)を介して裏面に延びて形成され、下面のICチップ3に接続されている。
金属配線5bは、水晶保持端子4bから引き出されてセラミックパッケージ1の凹部の端部に形成されたビアホール6を介して下面に接続し、下面においてICチップ3に接続されている。ビアホール6には、金属ペーストが充填されて形成されている。
つまり、従来の水晶発振器では、水晶片2とICチップ3とを接続する金属配線5a及び5bは、主としてセラミックパッケージ1の凹部の端部や側面に配置されていた。
【0005】
また、上記水晶発振器は、チップセット等他の電子部品と共に基板実装されて製品に搭載されるが、チップセットは大きな熱源であり、基板実装された水晶発振器に対する熱の影響が懸念される。
特に、金属配線5a、5bは熱伝導率が高く、外部の熱源の影響を受けやすいため、実装位置によっては水晶片2とICチップ3との間で温度差が生じ、十分な温度補償ができない恐れがある。
【0006】
[関連技術]
尚、水晶発振器に関する技術としては、特開2010−135995号公報「表面実装水晶発振器」(出願人:日本電波工業株式会社、特許文献1)、特開2008−294585号公報「表面実装用の水晶発振器」(出願人:日本電波工業株式会社、特許文献2)がある。
特許文献1には、H型構造の水晶発振器において、水晶片と電子部品との間の熱伝導層を備え、電源投入直後の周波数変動を抑制する表面実装水晶発振器が記載されている。
特許文献2には、容器に設けられ、ICチップの端子と接続する回路端子の少なくても1つを、容器の中央領域に長手方向に沿って設け、ICチップの放熱の影響を小さくすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−135995号公報
【特許文献2】特開2008−294585号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の水晶発振器では、H型パッケージの両面に設けられた凹部内に格納された水晶片とICとを金属配線で接続するためのビアホールが、セラミックパッケージの周辺部や端部に設けられており、チップセット等の大きな熱源が近くに実装された場合にはその影響を受けやすく、水晶片とICチップとの間に温度差が生じ、出力周波数が不安定になりやすいという問題点があった。
【0009】
本発明は、上記実状に鑑みて為されたもので、外部の熱源による温度変動の影響を受けにくくして、安定した出力周波数を得ることができる水晶発振器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記従来例の問題点を解決するための本発明は、セラミックパッケージの両面に凹部が設けられ、一方の凹部に水晶片が搭載され、他方の凹部にICチップが搭載されたH型構造の水晶発振器であって、
水晶片によって覆われる領域で凹部の中央部に形成された2つのビアホールと、水晶片の一短辺を凹部に固定する2つの水晶保持端子と、2つの水晶保持端子とICチップとを2つのビアホールを介して接続する2本の金属配線とを備え、2つの水晶保持端子から引き出された2本の金属配線が、
一旦短辺の中央方向に向かって形成され、短辺の中央付近から2つのビアホールに向かって、互いに並行して形成されていることを特徴としている。
【0011】
また、本発明は、上記水晶発振器において、
2つのビアホールが、水晶片及びICチップに挟まれる領域で凹部の中央部に形成されていることを特徴としている。
【0013】
また、本発明は、上記水晶発振器において、水晶発振器が温度補償型水晶発振器であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、セラミックパッケージの両面に凹部が設けられ、一方の凹部に水晶片が搭載され、他方の凹部にICチップが搭載されたH型構造の水晶発振器であって、
水晶片によって覆われる領域で凹部の中央部に形成された2つのビアホールと、水晶片の一短辺を凹部に固定する2つの水晶保持端子と、2つの水晶保持端子とICチップとを2つのビアホールを介して接続する2本の金属配線とを備え、2つの水晶保持端子から引き出された2本の金属配線が、
一旦短辺の中央方向に向かって形成され、短辺の中央付近から2つのビアホールに向かって、互いに並行して形成されている水晶発振器としているので、金属配線をセラミックパッケージの周辺部ではなく
できるだけセラミックパッケージの内側の領域に形成し、また、熱伝導率の高い金属配線を熱伝導率の低いセラミックパッケージと水晶片とで挟んで形成することができ、外部の熱源の影響を抑えて、水晶片とICチップとの温度差を小さくし、安定した出力周波数を得ることができる効果がある。
【0015】
また、本発明によれば、
2つのビアホールが、水晶片及びICチップに挟まれる領域で凹部の中央部に形成されている上記水晶発振器としているので、更に、金属配線をセラミックパッケージとICチップとで挟んで形成することができ、外部の熱源の影響を一層抑制して、水晶片とICチップとの温度差を小さくし、安定した出力周波数を得ることができる効果がある。
【0017】
また、本発明は、水晶発振器が温度補償型水晶発振器である上記水晶発振器としているので、外部の温度変動によって生じたICチップと水晶片との温度差を小さくすることで、安定した出力周波数を得ることができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】(a)は、本発明の実施の形態に係る水晶発振器の平面図であり、(b)は、模式断面図である。
【
図2】外部の温度変動によって生じた水晶発振器における水晶片とICチップとの温度差を示す説明図である。
【
図3】(a)は、従来の水晶発振器の平面図であり、(b)は、模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
[実施の形態の概要]
本発明の実施の形態に係る水晶発振器は、H型構造の水晶発振器において、セラミックパッケージの上部の凹部に水晶片が搭載され、下部の凹部にICチップが搭載され、水晶片とICチップとが両凹部を分離する分離部に形成されたビアホールを介して金属配線で接続され、当該ビアホールが凹部領域の中央部に形成されているものであり、水晶片とICチップとを接続する金属配線がセラミックパッケージの周辺部に配置されないため、外部の熱源の影響を受けにくく、水晶片とICチップとの温度差を小さくし、出力周波数を安定させることができるものである。
【0020】
また、本発明の実施の形態に係る水晶発振器は、分離部の両面に形成され、水晶片とICチップとを接続する金属配線を接続するビアホールが、当該ビアホールの少なくとも一方の開口部が水晶片又はICチップに覆われる領域に設けられているものであり、金属配線をできるだけセラミックパッケージの中央部に形成して、外部の熱源の影響を低減し、水晶片とICチップとの温度差を小さくし、出力周波数を安定させることができるものである。
【0021】
また、本発明の実施の形態に係る水晶発振器は、分離部の両面に形成され、水晶片とICチップとを接続する金属配線を接続するビアホールが、当該ビアホールの開口部が水晶片及びICチップに覆われる領域に設けられていているものであり、金属配線をできるだけセラミックパッケージの中央部に形成して、外部の熱源の影響を低減し、水晶片とICチップとの温度差を小さくし、出力周波数を安定させることができるものである。
【0022】
また、本発明の実施の形態に係る水晶発振器は、水晶片の短辺の一つを凹部に固定する水晶保持端子を2つ備え、水晶保持端子から引き出された金属配線が、一旦当該短辺に沿って当該短辺の中央部付近まで形成され、凹部の中央部付近に設けられたビアホールに向かってほぼ平行に形成されたものであり、金属配線をセラミックパッケージの中央に近い部分に略対称の形状に形成することにより、外部からの熱の影響を受けにくくして更に両配線の熱伝導の差を小さくでき、出力周波数を安定させることができるものである。
【0023】
[本発明の実施の形態に係る水晶発振器:
図1]
本発明の実施の形態に係る水晶発振器の構成について
図1を用いて説明する。
図1(a)は、本発明の実施の形態に係る水晶発振器の平面図であり、(b)は、模式断面図である。
図1(a)及び(b)に示すように、本発明の実施の形態に係る水晶発振器(本発振器)は、
図3に示した従来の水晶発振器と同様に、セラミックパッケージ1の一方の面(ここでは上面、表面)に設けられた凹部内に水晶片2が搭載され、他方の面(ここでは下面、裏面)に設けられた凹部内にICチップ3が搭載されている。水晶片2は、上面の凹部底面に設けられた水晶保持端子4a及び4bに導電性接着剤7で固定されている。
【0024】
また、セラミックパッケージ1の両凹部の底面に相当し両凹部を分離する分離部には、分離部を貫通して分離部の両面に形成された金属配線を接続するビアホール6a及び6bが形成されている。ビアホール6a,6bには、タングステン等の金属が充填されている。
そして、本発振器の特徴として、ビアホール6a、6bは両凹部の周辺部や端部ではなく中央部付近に設けられており、金属配線5a、5bが、当該ビアホール6a、6bを介して水晶片2とICチップ3とを接続している。
【0025】
ビアホール6a、6bの位置について具体的に説明する。
本発振器のビアホール6a及び6bは、セラミックパッケージ1の凹部の底面に相当する領域の内、水晶片2又はICチップ3の一方若しくは両方によってビアホールの開口部が覆われる位置に形成されている。
図1(a)の例では、ビアホールの一方の開口部が水晶片2で覆われ、他方の開口部がICチップ3によって覆われる位置となっている。このような領域は水晶片2とICチップ3とに挟まれた領域である。
【0026】
このような位置にビアホールを形成することにより、水晶片2とICチップ3とを接続する金属配線5a、5bがセラミックパッケージ1の中央部付近に配置され、周辺部に配置されないようにするものである。
図1(a)(b)に示すように、金属配線5a、5bは、主として、水晶片2とセラミックパッケージ1の上面との間と、ICチップ3とセラミックパッケージ1の下面との間に形成され、セラミックパッケージ1の周辺部には設けられない。
【0027】
このように、熱伝導率の高い金属配線5を周辺部に配置させず、且つ熱伝導率の低いセラミックパッケージ1や水晶片2で覆うようにすることで、外部からの温度変動の影響を抑えることができるものである。
例えば、金属配線5に用いられる銅の熱伝導率は、398(W/m・K)であるのに対し、セラミックパッケージ1に用いられるアルミナの熱伝導率は36(W/m・K)であり、アルミナは外部の熱源の影響を受けにくい。
【0028】
本発振器では、ビアホール6を熱伝導率の低いセラミックパッケージ1の中央部に配置することで、熱伝導率の高い金属配線5をセラミックパッケージ1の周辺部ではなく中央部に形成して、周囲からの熱源が金属配線5まで伝わりにくくして、その影響を抑え、安定した出力周波数を得られるものである。
【0029】
また、ビアホール6a、6bを、開口部が水晶片2のみによって覆われる位置に設置してもよい。この場合でも、従来に比べて金属配線5a、5bが凹部表面に露出する部分の長さを短くすることができ、温度変動の影響を小さくできるものである。
【0030】
更に、本発振器では、金属配線5a、5bは、水晶保持端子4a、4bから一旦水晶片2の短辺の中央方向に向かって引き出され、水晶片2の短辺の中央付近から、水晶片2によって覆われた凹部中央部に形成されたビアホール6aに向かってL字型に形成されている。また、金属配線5a、5bのビアホール6aに向かう部分は、略平行に配置されている。
【0031】
このように、金属配線5a、5bをセラミックパッケージの内側に形成することで、水晶保持端子4a、4bから外側方向に引き出して凹部の内壁に沿って形成し、そこから内側のビアホールに向かって形成するのに比べて、外部からの熱の影響を小さくして出力を安定させることができるものである。
更に、金属配線5a、5bを互いに近接する位置に並行して形成することで、両配線の熱の伝わり方の差を小さくし、水晶発振器内の温度のばらつきを抑えることができるものである。
【0032】
尚、
図1の水晶発振器は、水晶保持端子4a、4bが水晶片2の一短辺を保持する片持ちタイプと呼ばれる構造であるが、水晶片2の両短辺を対向して保持する両持ちタイプの構造であってもよい。
この場合も、水晶保持端子から引き出された金属配線は、できるだけセラミックパッケージ1の中央部に近い領域を通って、凹部中央部に設けられたビアホールに接続することが望ましい。
【0033】
[水晶片とICチップとの温度差の例:
図2]
次に、本発振器における水晶片2とICチップ3との温度差について
図2を用いて説明する。
図2は、外部の温度変動によって生じた水晶発振器における水晶片とICチップとの温度差を示す説明図である。
図2では、本発振器と従来の水晶発振器(いずれもTCXO)とを基板に実装し、チップセット等の熱源を発熱させた場合の水晶片とICチップとの温度差を示している。
図2に示すように、従来の水晶発振器に比べて、本発振器は水晶片とICチップとの温度差が小さいことがわかる。つまり、本発振器は、外部の温度変動の影響を受けにくくして、出力周波数を安定させることができるものである。
【0034】
[実施の形態の効果]
本発明の実施の形態に係る水晶発振器によれば、H型の水晶発振器において、セラミックパッケージ1の2つの凹部に水晶片2とICチップ3とがそれぞれ搭載され、金属配線5が凹部の中央部に設けられたビアホールを介して水晶片2とICチップ3とを接続するよう形成しているので、熱伝導率の高い金属配線5を水晶発振器の周辺部に配置せず、熱伝導率の低いセラミックパッケージ1で保護された中央部に配置することができ、外部の温度変動の影響を受けにくくして、水晶片2とICチップ3との温度差を小さくし、安定した周波数を出力することができる効果がある。
【0035】
また、本発振器によれば、ビアホール6を、当該ビアホール6の両開口部が水晶振動子2及びICチップ3によって覆われる位置に設けるようにしているので、金属配線5を周辺部に配置しないようにすると共に、金属配線5がセラミックパッケージ1と水晶片2との間、又はセラミックパッケージとICチップ3との間に挟まれて形成される部分を長くして、外部からの熱の影響を極力抑えることができ、水晶片2とICチップ3との温度差を小さくし、安定した周波数を出力することができる効果がある。
【0036】
また、本発振器によれば、ビアホール6を、当該ビアホール6の一方の開口部が、水晶振動子2によって覆われる位置に設けるようにしているので、金属配線5を周辺部に配置しないようにすると共に、金属配線5がセラミックパッケージ1と水晶片2の間に挟まれて形成される部分を設けて、外部からの熱の影響を抑えることができ、水晶片2とICチップ3との温度差を小さくし、安定した周波数を出力することができる効果がある。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、外部からの熱の影響を受けにくくして、安定した周波数が得られる水晶発振器に適している。
【符号の説明】
【0038】
1...セラミックパッケージ、 2...水晶片、 3...ICチップ、 4...水晶保持端子、 5...金属配線、 6...ビアホール