(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5665544
(24)【登録日】2014年12月19日
(45)【発行日】2015年2月4日
(54)【発明の名称】5−アミノレブリン酸若しくはその誘導体、又はそれらの塩を有効成分とする成人病の予防・改善剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/197 20060101AFI20150115BHJP
A61K 33/26 20060101ALI20150115BHJP
A61P 3/06 20060101ALI20150115BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20150115BHJP
A61P 9/12 20060101ALI20150115BHJP
A61P 29/02 20060101ALI20150115BHJP
A61P 15/12 20060101ALI20150115BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20150115BHJP
A61P 3/04 20060101ALI20150115BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20150115BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20150115BHJP
【FI】
A61K31/197
A61K33/26
A61P3/06
A61P3/10
A61P9/12
A61P29/02
A61P15/12
A61P17/00
A61P3/04
A61P9/00
A61P1/00
【請求項の数】3
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2010-535656(P2010-535656)
(86)(22)【出願日】2009年10月27日
(86)【国際出願番号】JP2009005651
(87)【国際公開番号】WO2010050179
(87)【国際公開日】20100506
【審査請求日】2012年8月28日
(31)【優先権主張番号】特願2008-275914(P2008-275914)
(32)【優先日】2008年10月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】508123858
【氏名又は名称】SBIファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】田中 徹
【審査官】
安藤 公祐
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2006/025286(WO,A1)
【文献】
特開2008−255059(JP,A)
【文献】
特開2002−080376(JP,A)
【文献】
特開平05−252898(JP,A)
【文献】
特表2001−506262(JP,A)
【文献】
国際公開第2007/089571(WO,A1)
【文献】
特開2006−069963(JP,A)
【文献】
特開平08−081381(JP,A)
【文献】
特開平10−295325(JP,A)
【文献】
特開2004−131482(JP,A)
【文献】
特開平06−065031(JP,A)
【文献】
特開2002−027929(JP,A)
【文献】
特開2002−138027(JP,A)
【文献】
特開2007−238441(JP,A)
【文献】
F. B. McGillion, et al.,Some pharmacological effects of δ-aminolaevulinic acid on blood pressure in the rat and on rabbit isolated ear arteries,Clinical and Experimental Pharmacology and Physiology,1975年,2(5),365-71
【文献】
兵頭明,更年期障害,中医臨床,1993年,14(4),422-5
【文献】
板倉弘重,メタボリックシンドロームと酸化ストレス,臨床栄養,2006年,108(6),777-83
【文献】
中尾彰英,慢性腎不全と酸化ストレス −酸化ストレスの役割:腎症外の進行から透析まで,酸化ストレス フリーラジカル医学生物学の最前線Ver.2,医歯薬出版株式会社,2006年,322-5
【文献】
Jeremy JY, et al.,Reactive oxygen species and erectile dysfunction: possible role of NADPH oxidase,Int J Impot Res.,2007年,19(3),265-80
【文献】
ZHAO,L. et al,Effects of dietary iron on metabolism in diet-induced obese rats,Zhongguo Gonggong Weisheng,2006年,22(1),74-76
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/197
A23L 1/30
A23L 1/304
A61K 33/26
A61P 1/16
A61P 3/04
A61P 3/06
A61P 3/10
A61P 9/12
A61P 13/12
A61P 15/10
A61P 15/12
A61P 29/02
A61P 43/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
5−アミノレブリン酸(ALA)、又はALAエチルエステル、ALAプロピルエステル、ALAブチルエステル、ALAペンチルエステルから選ばれる1種若しくは2種以上のエステル誘導体、あるいはそれらの塩を含有することを特徴とする高脂血症、糖尿病、高血圧、肩こり、更年期障害、白髪、しわ、肥満、冷え性、及び便秘からなる群から選ばれる1種又は2種以上の成人病の予防・改善組成物。
【請求項2】
さらに、クエン酸第一鉄、クエン酸第一鉄ナトリウム、クエン酸鉄ナトリウム、クエン酸鉄アンモニウム、ピロリン酸第二鉄、ヘム鉄、デキストラン鉄、乳酸鉄、グルコン酸第一鉄、DTPA鉄、ジエチレントリアミン五酢酸鉄ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸鉄アンモニウム、エチレンジアミン四酢酸鉄ナトリウム、エチレンジアミン五酢酸鉄アンモニウム、トリエチレンテトラアミン鉄、ジカルボキシメチルグルタミン酸鉄ナトリウム、ジカルボキシメチルグルタミン酸アンモニウム鉄アンモニウム、ラクトフェリン鉄、トランスフェリン鉄、塩化第二鉄、三二酸化鉄、鉄クロロフィリンナトリウム、フェリチン鉄、フマル酸第一鉄、ピロリン酸第一鉄、含糖酸化鉄、酢酸鉄、シュウ酸鉄、コハク酸第一鉄、コハク酸クエン酸鉄ナトリウム、硫酸鉄、及び硫化グリシン鉄から選ばれる1種又は2種以上の鉄化合物を含有することを特徴とする請求項1記載の成人病の予防・改善組成物。
【請求項3】
請求項1又は2記載の組成物を、高脂血症、糖尿病、高血圧、肩こり、更年期障害、白髪、しわ、肥満、冷え性、及び便秘からなる群から選ばれる1種又は2種以上の成人病の予防・改善剤の調製に使用する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、5−アミノレブリン酸(以下「ALA」ともいう)若しくはその誘導体、又はそれらの塩を有効成分とする成人病の改善・予防剤に関し、詳しくは、経口、静脈注射、舌下錠、腹腔投与、経腸輸液、経皮剤、座薬等で投与する糖尿病、高脂血症、高血圧等の成人病の予防・改善組成物や、予防・改善方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
成人病は、糖尿病や、高脂血症や、高血圧や、肝機能障害や、腎不全や、肥満や、勃起不全や、更年期障害や、肩こりや腰痛などを含めた疾病・病状の総称であり、かつては加齢により発症するとされていたが、近年になって、いわゆる生活習慣病として、長年の生活習慣が発症に深く関与していることが解明されてきた。それぞれの疾患の発症や進行のメカニズムが互いに関連していると考えられており、高血圧、高脂血症、糖尿病と肥満が複合している状態について、特にメタボリックシンドロームと命名され、注意が喚起されているが、特に一定の治療剤や治療方法、予防剤、予防方法があるわけではなく、医療現場や患者をいたずらに混乱させているのが現状である。
【0003】
成人病は、患者の生活の質を著しく低下させ、合併症を引き起こすおそれがあり、特に先進国で患者が急増し、成人病を予防・改善するための医薬品はすでに数多く開発されているが、いずれも、糖尿病の血糖値を低下させる、血圧を低下させる、コレステロール値を低下させるなどの個々の症状に対する改善剤であり、作用メカニズムも特定の酵素等の阻害であることが多い。
【0004】
例えば、糖尿病については、現在の糖尿病の多くはインシュリン抵抗性のいわゆるII型であるが、糖代謝の阻害剤や、食品からの吸収抑制剤が開発されている。これらの阻害剤や吸収抑制剤は一定の治療効果をあげているとされるが、糖尿病の本来の発症原因は細胞における糖の吸収能の低下であるから、細胞や血液への糖の供給を抑えるアプローチは、本質的な改善策ではなく患者の生活活性を低下させると考えられる。
【0005】
高脂血症については、脂肪の吸収抑制を図る健康食品や、コレステロールの代謝阻害剤(いわゆるスタチン剤)が市場ニーズを満たしているが、スタチン剤等は、体内において、動脈硬化につながるといわれるコレステロールを有意に下げると同時に基礎代謝に関係するユビキノン等の供給も抑えてしまうことが知られており、疫学的にも心筋梗塞のリスクは多少下げるが、一方でがん等の発症率を上げ、死亡率を上げてしまうという結果について報告されており問題視されている。
【0006】
高血圧については、古くからのカルシウム拮抗剤に加え各種の阻害剤で血圧を下げる降圧剤が販売され大きな市場となっているが、対処療法にすぎず、根本的な原因を取り除くアプローチではない。降圧剤についても疫学的有効性や副作用について、服用の有効性が議論されている。
【0007】
肝機能障害については、ウイルス性肝機能障害についてはインターフェロンによる治療が効果を示すことが知られているが、ウイルス性でない一般的な肝機能の低下に対しては有効な手段が無く、栄養剤や民間療法に頼っているのが現状である。漢方薬から発展した熊の胆などは経験的に一定の効果が知られているが作用機構はおろか有効成分すら特定されていない。しじみやウコンに効果があるとして多数の健康食品が販売されているが効果は証明されていない。また、プロトポルフィリンナトリウムを主成分とする肝機能改善剤も古くから使われているが効果が十分でないとされ、また、副作用として光傷害が知られている。
【0008】
腎不全については、治療において透析がしばしば行われるが、腎臓の機能を人工的に行わせるものであり、対処療法の最たるもので、腎臓の機能改善とは関係がない。腎臓の機能改善については肝臓同様栄養剤や民間療法の域を出ないものに頼っているのが現状である。また、透析は、医療費高騰の最大要因ともなっている。
【0009】
肥満は、すべての成人病の元凶とも言われて忌み嫌われているが、適切な医薬品はなく、やはり吸収、消化を抑えるダイエット健康食品や運動が推奨され、巨大なマーケットを形成しているが、金銭的のみならず精神的にも負担が大きい。同じだけの食事をとっても加齢に伴い、若いときより確実に太るが、これは加齢に伴い吸収・消化が増えるわけではなく、運動不足が主因でもなく基礎代謝が低下しているためである。基礎代謝を改善することで肥満を解消しようというアプローチは知られていない。
【0010】
勃起不全については、バイアグラという卓効のある医薬品が開発され、勃起不全に悩む多くの患者の生活を改善したが、その作用機構は血管拡張であり、投与により物理的な勃起現象を引き起こすが、本来の感情に伴う勃起ではなく、また、同時に心臓病などのリスクを引き起こす。当該分野においてもまむし、サイの角、オットセイ、すっぽんなどの民間薬が幅をきかせているが、科学性は全くなく、むしろ健康に害を及ぼす例も多数知られている。つまり、加齢に伴い勃起が弱くなる現象に着目した根本的なアプローチは知られていない。
【0011】
更年期障害については、一般に閉経後の女性のホルモンバランス不調により引き起こされる倦怠感や鬱などの症状を総合したものといわれるが、最近では男性にも更年期があり女性同様に倦怠感や鬱などの症状が現れることが知られている。重篤な場合には男女ともにホルモン補充療法が施され効果が見られるが、女性の場合は、長期投与で乳がんや子宮がんなどのリスクが上昇すること、心筋梗塞や脳卒中のリスクが上昇することが問題視されている。男性の場合にも前立腺がんのリスク上昇などが問題視されている。
【0012】
肩こりや腰痛などのこりは、正確には病名ではなく症状であるが、加齢に伴い肩こりや腰痛などの症状に悩む人は多く、鍼灸、柔術、マッサージ、温泉療法等の施術、湿布剤等の薬剤などは一大産業となっている。肩こりや腰痛などのこりの原因はいくつもあるが主因の一つに血流の滞りを挙げることができ、既存の施術や薬剤もこの血流改善に主眼をおいている。様々な手法が提案されているにもかかわらず、有効な手段が未だ見いだされていないのは、加齢に伴うこれらの症状に悩む大勢の人々がいることから明らかである。
【0013】
以上、成人病の実態と現状の治療薬や治療方法を概説したが、総合的に言えば成人病は加齢に伴い低下する基礎代謝を共通の原因、遠因とし、基礎代謝が落ちるが故の糖や脂肪の血中への残存、エネルギー生産系の不全による活性酸素の漏洩とそれに起因する遺伝子異常の蓄積であると再定義できるともいえる。ゆえに成人病の根本的な治療や予防は、いかに基礎代謝を健全に保つかにあるが、既に見たように西洋医学は成人病の一つ一つの現象に対し、生化学的阻害剤をもって対処しようとする試みであり、あくまでも対処療法に過ぎず、根治的な治療法ではない。東洋医学や伝統医学には根本的な基礎代謝を保つことが大切であるとの基本理念をもっているが、具体的な対策としては、呼吸法や体操、伝統的な薬草の使用の域を出ず、効果も十分ではない。
【0014】
かかる実情において、単なる対処療法ではなく、基礎代謝向上を目指した真に有効な成人病の治療剤、治療方法、予防剤、予防方法が科学的裏付けをもって開発されることが切望されてきた。
【0015】
一方、ALAは、色素生合成経路の中間体として知られており、動物や植物や菌類に広く存在し、通常は5−アミノレブリン酸シンセターゼにより、スクシニルCoAとグリシンとから生合成される。それ自身は光増感作用を有さないが、色素生合成経路を経てプロトポルフィリンIX(PpIX)を誘導するとされている。ALAを塗布し、光を照射することで皮膚がんの治療ができることが報告(例えば、非特許文献1参照)されて以来、ALAを用いた様々な部位の病変部等の診断及び治療方法が報告されており、例えば、ALA若しくはその誘導体又はこれらの塩(以下、「ALA類」ともいう)を体内に投与すると、腫瘍親和性を有するとされるPpIXが生合成され、腫瘍細胞に蓄積したPpIXが光照射されることにより周囲の酸素分子を光励起し、その結果生成する一重項酸素が、その強い酸化力による殺細胞効果を有するとされることから開発された腫瘍診断・治療剤等が提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0016】
また、膀胱においては、尿道からALA類を含む増感剤溶液を膀胱に充填し、一定時間を経たのちに光を照射し膀胱鏡にて蛍光を観察することで、膀胱がんの検出が可能であることが知られており(例えば、非特許文献2参照)、その他、5−アミノレブリン酸、その塩、及びそれらのエステル誘導体から選ばれる1種又は2種以上の化合物と鉄化合物とを有効成分として含有することを特徴とする、育毛剤(例えば、特許文献4参照)や、肌荒れ予防・改善剤(例えば、特許文献5参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特許第2731032号公報
【特許文献2】特開2006−124372号公報
【特許文献3】特表2002−512205号公報
【特許文献4】特許第3810018号公報
【特許文献5】特許第3991063号公報
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】J.C Kennedy, R.H Pottier and DC Pross, Photodynamictherapy with endogeneous protoprophyrin IX: basic principles and present clinical experience, J. Photochem., Photobiol. B: Biol., 6 (1990) 143-148.
【非特許文献2】5−アミノレブリン酸(5−ALA)膀胱内注入による蛍光膀胱鏡を用いた膀胱癌の光力学的診断、井上 啓史、辛島 尚、鎌田 雅行、 執印 太郎、倉林 睦、大朏 祐治、日本泌尿器科學會雜誌、Vol.97、pp. 719-729.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の課題は、加齢に伴い低下する基礎代謝を改善することにより成人病を改善し又は予防することができる薬剤組成物、すなわち、既存の生化学反応阻害型による成人病の治療薬と異なり、基礎代謝の向上を作用メカニズムとする、いわば代謝の若返りが作用メカニズムであり、副作用が無く、成人病の薬剤耐性が生じない薬剤組成物や、それを用いた成人病の予防・治療方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
ALAは36億年前の原始の地球で大気に落雷のエネルギーが与えられて生成した有機化合物の一つであるとされている。ALAが8分子からなる、テトラピロール化合物は非常に長い共鳴系を持ち、また、非常に高い分子の対称性を持つ。故にエネルギーを保持することが可能で、例えば光のエネルギーを吸収することが可能である。
【0021】
今日でも生物のエネルギー変換系にはテトラピロール化合物が関与する反応が多く知られており、ALAは生命の根源物質であると考えられている。多くのテトラピロール化合物が生命反応に関与しており、例えばクロロフィルは中心にマグネシウムを持つテトラピロール化合物であり、光のエネルギーを吸収する。酸素を運搬するヘモグロビンの反応中心は中心に鉄を配位されたテトラピロール化合物ヘムである。このクロロフィルやヘムの生合成の律速段階はALA生合成であるため、ALAとマグネシウムを含有する肥料は光合成を活発にするし、ALAと鉄を子豚の餌に添加すると子豚の貧血が改善する。既に発明者らはこれらの発明をなし、一部には製品化している。
【0022】
人とALAの研究は古いが、遺伝病であるポルフィリン症の患者の尿にALAが多いことから神経毒性が疑われ研究された経緯がある。また、重金属中毒患者の尿にALAが多いことから労働安全衛生管理上の指標にも使われている。このようにALAはどちらかというと病気の指標で体に悪いものであるとのイメージが強かった。
【0023】
ALAを人に投与する試みでは、ALA投与でプロトポルフィリンIXをがんに蓄積させ、光照射と組み合わせたがんの診断薬、治療薬が有名であり、それぞれ光動力学的診断、光動力学的治療と呼ばれ既に実用化されている。この場合も、ALAはがん細胞を殺すどちらかというと毒物として知られており、基礎代謝を向上させることで成人病に対する改善効果や予防効果を予想する者はいなかった。
【0024】
人体の中でALAは、ミトコンドリア内でアミノレブリン酸合成酵素によりグリシンとスクシニルCoAの縮合で生合成される。生合成されたALAは一度細胞質に移送され、細胞室内のアミノレブリン酸脱水素酵素(ポルフォビリノーゲン合成酵素)により2分子が縮合しピロール環を形成、ポルフォビリノーゲンを形成する。このポルフォビリノーゲン4分子がポルフィリン環を形成してテトラピロール構造を形成し、順次細胞質内の酵素で変換されコプロポルフィリノーゲンIIIとなる。コプロポルフィリノーゲンIIIはABCトランスポーターでミトコンドリアに取り込まれ、プロトポルフィリンIXにまで順次酸化され、フェロキラターゼによって2価の鉄が配位されヘムやシトクロムとなる。
【0025】
ヘムやシトクロムを作る上でミトコンドリアと体細胞が協調しながら作業をするこの様子は16億年前とも言われるミトコンドリア共生による真核生物の誕生とその後の進化に関係していると思われ興味深い。それはともかく、外生的に投与したALAも内生的なALAと同様に細胞質でコプロポルフィリノーゲンに変換されミトコンドリア内に到達する。ミトコンドリア内でALAから誘導されたヘムやシトクロムは様々な重要な役割を果たす。一部は再度細胞質に運搬されタンパク質と会合してそれぞれの役割を果たすが、ミトコンドリア内で働くヘムやシトクロムの最も重要な役割は電子伝達系の形成である。ヘムやシトクロムは電子伝達系を構成する複合体のII、III、IVの構成要素であり、また、シトクロムCは複合体IIIからIVに直接電子を運搬する。一般に人の寿命は電子伝達系の寿命特に複合体IVの酵素活性で規定されていると言われている。エネルギー獲得系である電子伝達系の重要性を表す良い例であるがこの電子伝達系の反応中心はALAより誘導されるシトクロムとヘムである。
【0026】
以上が加齢に伴いミトコンドリア内のALA生合成能が低下することが老化の原因であり、成人病の根本的な原因そのものであり、ALAの投与で成人病が改善する基本的メカニズムであると仮定した。さらに各症状に対する想定されるメカニズムを以下に考察した。
【0027】
対象とする成人病がメタボリックシンドロームである場合、ALA、好ましくはALAと鉄を投与することにより電子伝達系のヘムやシトクロムが増強され、いわゆる基礎代謝が向上することが一番の作用メカニズムであると考えた。
【0028】
対象とする成人病が糖尿病である場合、ALA、好ましくはALAと鉄を投与することにより電子伝達系のヘムやシトクロムが増強され、いわゆる基礎代謝が向上することが一番の作用メカニズムであると考えた。電子伝達系が活発化されてはじめてTCA回路がうまく働く。TCA回路が働けば基質であるアセチルCoAが要求され、解糖系にて糖が消費されるため糖尿病の改善につながると推測した。
【0029】
対象とする成人病が高脂血症である場合、ALA、好ましくはALAと鉄を投与することにより電子伝達系のヘムやシトクロムが増強され、いわゆる基礎代謝が向上することが一番の作用メカニズムであると考えた。電子伝達系が活発化されてはじめてTCA回路がうまく働く。TCA回路が働けば基質であるアセチルCoAが要求され、β酸化にて脂肪酸が消費されるため高脂血症の改善につながると推測した。脂肪酸はアシルCoAとしてミトコンドリアに取り込まれ、ミトコンドリア中でβ酸化を受ける。また、過剰に糖がある場合、細胞質中では脂肪酸の合成反応が起こるが、ALAと鉄の投与で糖の消費も抑えられるため脂肪酸の合成も低下することが期待できる。
【0030】
対象とする成人病が高血圧である場合、基礎代謝向上に加え、血管拡張因子であるNOの生成がALA、好ましくはALAと鉄から誘導されるヘム酵素により活発化することも作用メカニズムであると思われる。
【0031】
対象とする成人病が肝機能障害である場合、基礎代謝向上に加え、肝機能の重要な働きである毒物の分解がALA、好ましくはALAと鉄から誘導されるヘムを反応中心に持つP450によるものであり、ALA、好ましくはALAと鉄の投与で毒物分解能が向上することが作用メカニズムであると推定される。
【0032】
対象とする成人病が腎不全(腎機能障害)である場合、基礎代謝向上や血管拡張による血流改善に加え、ALA、好ましくはALAと鉄の投与により誘導されるヘムやシトクロムの上昇が腎臓の重要な役割であるイオンポンプの活動を活発化することが作用メカニズムであると考えられる。
【0033】
対象とする成人病が肥満である場合、ALA、好ましくはALAと鉄を投与することによる電子伝達系のヘムやシトクロムが増強され、いわゆる基礎代謝が向上することが一番の作用メカニズムであると考えられる。基礎代謝向上で加齢に伴い億劫であった運動が再開されやすくなることも肥満の改善に役立つと思われる。
【0034】
対象とする成人病が勃起不全である場合、基礎代謝向上や血管拡張が主な作用メカニズムであるが、ALAは加齢に伴い低下する男性ホルモンの分泌を高める作用を有していると類推される。男性ホルモンの代謝の律速段階はミトコンドリアにあるシトクロムP450sccによるヒドロキシル化であり、ALA、好ましくはALAと鉄の投与により同酵素の活性が向上していると推察される。
【0035】
対象とする成人病が更年期障害である場合、基礎代謝向上が主な作用メカニズムであるが、ALAは加齢に伴い低下する性ホルモンの分泌を高める重要な作用を有していると類推される。性ホルモンの代謝の律速段階は男性ホルモン、女性ホルモンともにミトコンドリアにあるシトクロムP450sccによるヒドロキシル化であり、ALA、好ましくはALAと鉄の投与により同酵素の活性が向上していると推察される。
【0036】
対象とする成人病が肩こりや腰痛などのこりである場合、ALA、好ましくはALAと鉄の投与による、基礎代謝の向上や血管の拡張作用による鬱血の改善が、顕著な治療効果につながっていると推察される。
【0037】
上述したように、本発明者等は、成人病とは何か、加齢現象とは何か、老化とは何か、加齢に伴う基礎代謝の低下は何故起こるのかといった、多くの生化学者が避けてきた根本的な問題に正面から取り組み、ミトコンドリア活性の低下、さらに詳しく述べればミトコンドリアの電子伝達系の弱体化がエネルギーの獲得効率を落とし、ひいてはTCA回路の活性を低下させることで、糖や脂肪の吸収を低下させ、糖尿病、高脂血症、肥満、メタボリックシンドロームなどの成人病を引き起こしているのではないかとの仮説を立てるに至った。本発明者らはさらに深く思考を重ね、電子伝達系の活性低下は電子伝達系の電子の通り道に相当するヘム化合物やシトクロムが加齢に伴うミトコンドリアのALA生産能力の低下に起因するのではないかとの仮説を立てた。発明者らは大胆にもヘムやシトクロムの前駆体で、その生合成がヘムやシトクロムの律速段階でもあり、やはり加齢に伴いその生産量が低下していることが知られるALAの添加が成人病の治療薬、予防薬として有効で、これらを用いて成人病の治療方法、予防方法を確立できるのではないかとの仮説を確かめるべく、ALAの投与方法や組み合わせるミネラルの種類や量に関して諸処検討を重ね、ALA類を含む組成物が成人病の治療・予防効果を有することを確認し、本発明を完成するに至った。
【0038】
すなわち本発明は、(1)5−アミノレブリン酸(ALA)
、又はALAエチルエステル、ALAプロピルエステル、ALAブチルエステル、ALAペンチルエステルから選ばれる1種若しくは2種以上のエステル誘導体、
あるいはそれらの塩を含有することを特徴とする高脂血症、糖尿病、高血圧、肩こり、更年期障害
、白髪、しわ、肥満、冷え性、及び便秘からなる群から選ばれる1種又は2種以上の成人病の予防・改善組成物や、(2)さらに、クエン酸第一鉄、クエン酸第一鉄ナトリウム、クエン酸鉄ナトリウム、クエン酸鉄アンモニウム、ピロリン酸第二鉄、ヘム鉄、デキストラン鉄、乳酸鉄、グルコン酸第一鉄、DTPA鉄、ジエチレントリアミン五酢酸鉄ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸鉄アンモニウム、エチレンジアミン四酢酸鉄ナトリウム、エチレンジアミン五酢酸鉄アンモニウム、トリエチレンテトラアミン鉄、ジカルボキシメチルグルタミン酸鉄ナトリウム、ジカルボキシメチルグルタミン酸アンモニウム鉄アンモニウム、ラクトフェリン鉄、トランスフェリン鉄、塩化第二鉄、三二酸化鉄、鉄クロロフィリンナトリウム、フェリチン鉄、フマル酸第一鉄、ピロリン酸第一鉄、含糖酸化鉄、酢酸鉄、シュウ酸鉄、コハク酸第一鉄、コハク酸クエン酸鉄ナトリウム、硫酸鉄、及び硫化グリシン鉄から選ばれる1種又は2種以上の鉄化合物を含有することを特徴とする上記(1)記載の成人病の予防・改善組成物に関する。
【0039】
また、本発明は、(3)上記(1)又は(2)記載の組成物を、
高脂血症、糖尿病、高血圧、肩こり、更年期障害、白髪、しわ、肥満、冷え性、及び便秘からなる群から選ばれる1種又は2種以上の成人病の予防・改善剤の調製に使用する方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】糖尿病モデルマウスを用いたALA投与による血糖値の変化を示す図である。
【
図2】糖尿病モデルマウスを用いたALA投与による糖負荷試験の結果をを示す図である。
【
図3】糖尿病モデルマウスを用いたALA投与による脂質の変化を示す図である。
【
図4】糖尿病モデルマウスを用いたALA投与によるインシュリン分泌量の変化を示す図である。
【
図5】糖尿病患者のALA投与による空腹時血糖の変化を示す図である。
【
図6】境界域糖尿病患者のALA投与による糖化ヘモグロビンの変化を示す図である。
【
図7】境界域糖尿病患者のALA投与による糖化ヘモグロビンの変化を示す図である。
【
図8】糖尿病患者のALA投与有無による糖化ヘモグロビンの変化を示す図である。
【
図9】健常人安全性試験でのALA投与による層別の糖化ヘモグロビンの変化を示す図である。
【
図10】健常人安全性試験でのALA投与による層別の血糖値の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本発明の成人病の予防・改善組成物(予防・改善剤)としては、ALAやその誘導体やそれらの塩から構成されるALA類を有効成分や主成分として含有するものであれば特に制限されず、上記ALAは、δ−アミノレブリン酸ともいい、式HOOC−(CH
2)
2−(CO)−CH
2−NH
2で表されるアミノ酸の一種である。これらALA類は、化学合成、微生物による生産、酵素による生産等のいずれの公知の方法によっても製造することができる。
【0042】
ALA類のうち、ALAの誘導体としては、例えば、ALAのエステル基とアシル基を有するものを挙げることができ、好ましくはメチルエステル基とホルミル基、メチルエステル基とアセチル基、メチルエステル基とn−プロパノイル基、メチルエステル基とn−ブタノイル基、エチルエステル基とホルミル基、エチルエステル基とアセチル基、エチルエステル基とn−プロパノイル基、エチルエステル基とn−ブタノイル基の組合せを例示することができる。
【0043】
ALA類のうち、ALA又はその誘導体の塩としては、例えば塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、リン酸塩、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、トルエンスルホン酸塩、コハク酸塩、シュウ酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、グリコール酸塩、メタンスルホン酸塩、酪酸塩、吉草酸塩、クエン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩等の酸付加塩、及びナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩等の金属塩、アンモニウム塩、アルキルアンモニウム塩等を挙げることができる。なお、これらの塩は使用時において溶液として用いられ、その作用は、ALAの場合と同効なものが好ましい。これらの塩類は、水和物又は溶媒和物を形成していてもよく、またいずれかを単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0044】
本発明において成人病とは、長年の生活習慣が発症に深く関与している生活習慣病をいい、メタボリックシンドローム、糖尿病、高脂血症、高血圧、肝機能障害、腎不全、肥満、勃起不全、更年期障害、肩こり、腰痛等を好適に例示することができる。
【0045】
本発明の成人病予防・改善組成物は、有効成分として、さらに鉄化合物を含有するものが好ましい。本発明における鉄化合物としては、鉄を分子内に有する化合物であれば特に制限されず、例えば、クエン酸第一鉄、クエン酸第一鉄ナトリウム、クエン酸鉄ナトリウム、クエン酸鉄アンモニウム、ピロリン酸第二鉄、ヘム鉄、デキストラン鉄、乳酸鉄、グルコン酸第一鉄、DTPA鉄、ジエチレントリアミン五酢酸鉄ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸鉄アンモニウム、エチレンジアミン四酢酸鉄ナトリウム、エチレンジアミン五酢酸鉄アンモニウム、トリエチレンテトラアミン鉄、ジカルボキシメチルグルタミン酸鉄ナトリウム、ジカルボキシメチルグルタミン酸アンモニウム鉄アンモニウム、ラクトフェリン鉄、トランスフェリン鉄、塩化第二鉄、三二酸化鉄、鉄クロロフィリンナトリウム、フェリチン鉄、フマル酸第一鉄、ピロリン酸第一鉄、含糖酸化鉄、酢酸鉄、シュウ酸鉄、コハク酸第一鉄、コハク酸クエン酸鉄ナトリウム、硫酸鉄、及び硫化グリシン鉄を挙げることができるが、なかでもクエン酸第一鉄やクエン酸鉄ナトリウムが好ましい。これらの鉄化合物は、それぞれ単独でも、2種以上を混合しても用いてもよい。本発明の成人病予防・改善組成物に含有される鉄化合物は、通常、ALAの投与量に対してモル比で0〜100倍であればよく、好ましくは0.1倍〜8倍である。
【0046】
本発明の成人病の予防・改善組成物は成人病の予防・改善剤として有用であり、経口投与剤型又は静脈注射剤型として用いることができる。経口投与剤型の予防・改善剤の剤型としては、粉末、顆粒、錠剤、カプセル剤、シロップ剤、懸濁液等を挙げることができ、静脈注射剤型の予防・改善剤の剤型としては、注射剤、点滴剤等を挙げることができる。本発明の成人病の予防・改善組成物を注射剤等の水溶液として調製する場合には、ALA類の分解を防ぐため、水溶液がアルカリ性とならないように留意して調製することが好ましい。アルカリ性となってしまう場合は、酸素を除去することによって有効成分の分解を防ぐことができる。
【0047】
本発明の予防・改善組成物には、必要に応じて他の薬効成分、栄養剤、担体等の他の任意成分を加えることができる。任意成分として、例えば結晶性セルロース、ゼラチン、乳糖、澱粉、ステアリン酸マグネシウム、タルク、植物性及び動物性脂肪、油脂、ガム、ポリアルキレングリコール等の、薬学的に許容される通常の担体、結合剤、安定化剤、溶剤、分散媒、増量剤、賦形剤、希釈剤、pH緩衝剤、崩壊剤、可溶化剤、溶解補助剤、等張剤などの各種調剤用配合成分を添加することができる。
【0048】
本発明の成人病の予防・改善剤に含まれるALA類のうち、もっとも望ましいものは、ALA、ALAメチルエステル、ALAエチルエステル、ALAプロピルエステル、ALAブチルエステル、ALAペンチルエステル、これらALAエステル類等の塩酸塩、リン酸塩、硫酸塩などである。
【0049】
本発明の成人病の予防・改善剤の望ましい投与法としては、舌下投与も含む経口投与及び点滴を含む静脈注射、発布剤、座薬等による経皮投与を挙げることができ、これら予防・改善剤に含まれるALA類の量は、ALA塩酸塩換算で成人1人1日当たり、0.1mg〜1000mgであればよく、望ましくは0.3mg〜300mg、さらに望ましくは1mg〜100mgである。また、本発明の成人病の予防・改善剤の望ましい投与時期は特に制限されず、朝でも夕方でもよいが、投与量が多い場合は複数回に分けて投与する方がよい。
【0050】
本発明の成人病の予防・改善組成物は他の成人病の予防剤や改善剤や治療剤と組み合わせて使うこともできる。本発明の投与予防・改善組成物は既存の当該分野の医薬品が特定の反応の阻害剤であり、基礎代謝を高めるという本剤の作用メカニズムと異なるため、相加的な、場合によっては相乗的な効果が期待できる。
【0051】
本発明の成人病の予防・改善用食品又は食品素材としては、上記本発明の成人病の予防・改善組成物を添加したものであれば特に制限されず、ALA類を含む本発明の組成物を飲食品に添加することにより成人病の予防・改善用の食品又は食品素材とすることができる。また、本発明の使用方法としては、上記本発明の成人病の予防・改善組成物を成人病の予防・改善剤の調製に使用方法であれば特に制限されず、予防・改善剤の調製にALA類を含む本発明の組成物を使用する方法には、ALA類に前記任意成分を配合して経口投与剤型や静脈注射剤型の予防・改善剤を調製する方法を例示することができる。さらに、本発明の成人病の予防・改善方法としては、上記本発明の成人病の予防・改善組成物を投与する方法であれば特に制限されず、投与法としては、前記のように、経口投与、静脈注射、経皮投与を挙げることができる。
【0052】
上記本発明の成人病の予防・改善用食品又は食品素材の実施態様として、ALA類を添加したことを特徴とし、成人病の予防・改善のために用いられるものである旨の表示が付された食品又は食品素材;ALA類を添加した食品又は食品素材を、成人病の予防・改善用の食品又は食品素材として使用する方法;ALA類を、成人病の予防・改善用の食品又は食品素材の配合剤として使用する方法;ALA類を食品又は食品素材に添加することを特徴とする成人病の予防・改善用の食品又は食品素材の製造方法等を挙げることができる。
【0053】
本発明の成人病の予防・改善用の食品又は食品素材としては、例えば、ヨーグルト、ドリンクヨーグルト、ジュース、牛乳、豆乳、酒類、コーヒー、紅茶、煎茶、ウーロン茶、スポーツ飲料等の各種飲料や、プリン、クッキー、パン、ケーキ、ゼリー、煎餅などの焼き菓子、羊羹などの和菓子、冷菓、チューインガム等のパン・菓子類や、うどん、そば等の麺類や、かまぼこ、ハム、魚肉ソーセージ等の魚肉練り製品や、みそ、しょう油、ドレッシング、マヨネーズ、甘味料等の調味類や、チーズ、バター等の乳製品や、豆腐、こんにゃく、その他佃煮、餃子、コロッケ、サラダ等の各種総菜、栄養食品などを挙げることができる。なお、成人病の予防・改善用とは、食品又は食品素材の包装容器や説明書等に、成人病の予防・改善に有効である旨表示されている場合などALA類の使用用途が成人病の予防・改善に向けられていることを意味する。
【0054】
以下に実施例にて本発明を補足するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0055】
61歳男性にアミノレブリン酸リン酸塩(5−アミノレブリン酸リン酸塩)5mgとクエン酸第一鉄ナトリウム2.87mgを含むカプセルを朝夕各1カプセル摂取したところ2週間で下記の生化学値の改善を見た。
TG 314 → 132
GOT 19 → 19
GPT 17 → 15
γ−GTP 60 → 48
HbA1c 6.2 → 5.9
脂質代謝、肝機能、糖代謝ともに改善している。とりわけ脂質代謝は正常値に改善され明らかな治療効果が示された。本例よりALA投与が各種成人病に有効であることが示された。
【実施例2】
【0056】
60歳男性にアミノレブリン酸リン酸塩5mgとクエン酸第一鉄ナトリウム2.87mgを含むカプセルを1日1カプセル摂取したところ1ヶ月後下記の生化学値の改善を見た。
TC 264 → 260
LDL 192 → 173
HDL 65 → 58
本例によりALA投与が脂質代謝と肝機能に改善に有効であることが示された。
【実施例3】
【0057】
73歳の男性にアミノレブリン酸リン酸塩5mgとクエン酸第一鉄ナトリウム2.87mgを含むカプセルを1日1カプセル摂取したところ高血圧が改善し1ヶ月後にはこれまで続けてきた降圧剤の投薬を中止したが血圧は正常値に保たれている。この例によりALA投与が高血圧に有効であることが示された。
【実施例4】
【0058】
70歳の境界域糖尿病患者である男性にアミノレブリン酸リン酸塩5mgとクエン酸第一鉄ナトリウム2.87mgを含むカプセルを1日1カプセル摂取したところ1ヶ月、2ヶ月後、3ヶ月後に下記の生化学値の改善を見た。
開始前 1ヶ月後 2ケ月後 3ヶ月後
HbA1c 7.4 7.2 6.9 6.8
本例によりアミノレブリン酸の投与が糖尿病の改善及び予防に有効であることが示された。
【実施例5】
【0059】
68歳男性がアミノレブリン酸リン酸塩5mgとクエン酸第一鉄ナトリウム2.87mgを含むカプセルを1日1カプセル摂取したところ摂取1週間後から長年の肩こりに改善が見られた。本例によりアミノレブリン酸の投与が肩こりなどのこりに有効であることが示された。
【実施例6】
【0060】
42歳男性がアミノレブリン酸リン酸塩5mgとクエン酸第一鉄ナトリウム23mgを含むカプセルを1日1カプセル摂取したところ摂取翌日から40歳過ぎから悩まされてきた偏頭痛に改善が見られ摂取1週間で完全に偏頭痛が治癒した。このことよりアミノレブリン酸の投与が男性更年期障害に有効であることが示された。
【実施例7】
【0061】
47歳男性がアミノレブリン酸リン酸塩5mgとクエン酸第一鉄ナトリウム2.87mgを含むカプセルを1日2カプセル摂取したところ翌朝絶えて久しかった勃起が起きた。摂取翌日には1年ぶりの性交を持ち、その後平均2週間に1回の性交が継続している。このことよりアミノレブリン酸投与が勃起不全に有効であり老化に伴う気力の減退防止にも有効であることが示された。
【実施例8】
【0062】
45歳男性がアミノレブリン酸リン酸塩5mgとクエン酸第一鉄ナトリウム23mgを含むカプセルを1日2カプセル摂取したところ摂取翌日より体力及び気力の充実を感じ摂取3日目に半年ぶりの性交を持ち、その後平均1週間に2回の性交が継続している。このことよりアミノレブリン酸投与が勃起不全に有効であり老化に伴う気力の減退防止にも有効であることが示された。
【実施例9】
【0063】
47歳男性がアミノレブリン酸リン酸塩50mgとクエン酸第一鉄ナトリウム57.4mgを含むカプセルを1日1カプセル摂取したところ摂取翌日より体力及び気力の充実を感じた。婦人体温計にて体温を測定したところ摂取前後で0.1〜0.2℃の上昇をみた。摂取3ヶ月で体重が79kgから74kgへと5kg減少し、白髪やしわなどの改善もみた。このことよりアミノレブリン酸の投与がメタボリックシンドローム等の成人病に有効であることが示された。
【実施例10】
【0064】
冷え性に悩む46歳女性がアミノレブリン酸リン酸塩5mgとクエン酸第一鉄ナトリウム2.87mgを含むカプセルを1日1カプセル摂取したところ2日後より四肢に暖かさを感じ冷え症が改善し便秘もしなくなった。このことよりアミノレブリン酸投与が冷え性や便秘にも有効であることが示された。
【実施例11】
【0065】
更年期障害に悩む55歳女性が、アミノレブリン酸リン酸塩5mgとクエン酸第一鉄ナトリウム23mgを含むカプセルを1日2カプセル摂取したところ、摂取1週間頃から体力の改善や皮膚の若返りを感じ、体の火照りやイライラなどの更年期障害の症状が消失した。このことよりアミノレブリン酸の投与が更年期障害に有効であることが示された。
【実施例12】
【0066】
肩こりに悩む47歳男性がアミノレブリン酸リン酸塩とDTPA鉄(ジエチレン・トリアミン・ペンタ・アセティックアシド)−Fe)をそれぞれ重量で1%を腰痛や肩こりの部位に1日1回塗布すると1週間で肩こりが無くなった。
【実施例13】
【0067】
試験開始前に参加の同意が得られた22歳以上63歳以下の男女30例を対象にALAリン酸塩、及びALAリン酸塩とクエン酸第1鉄を含むカプセルを摂取させる二重盲検試験を実施した。1群にはALAリン酸塩を5mg含む、2群にはALAリン酸塩を15mg含む、3群にはALAリン酸塩5mgとクエン酸第1鉄2.87mgを含有するソフトカプセルをそれぞれ1日1カプセル、4週間連続摂取させた。摂取開始から2週間後、4週間後及び試験終了後2週間後に血液生化学検査を実施した。血液生化学検査で有意な変動を示した項目は、以下の通りであった。
1) ALP
・2群の2週後で18.0±23.2U/L低下した(195.2±74.7 vs 177.2±55.2 U/L)。
2) 総タンパク
・2群の4週後で0.29±0.22g/dL低下した(7.28±0.48 vs 6.99±0.47g/dL)。
3) アルブミン
・3群の2週後で0.12±0.11g/dL低下した(4.43±0.26 vs 4.31±0.26g/dL)。
4) クレアチニン
・2群の4週後で0.040±0.037mg/dL低下した(0.701±0.134 vs 0.661±0.109mg/dL)。
5) 総コレステロール
・3群の2週後で13.2±15.0mg/dL低下した(204.1±21.0 vs 190.9±30.3mg/dL)。
6) HDL−コレステロール
・1群の4週後で3.7±4.9mg/dL低下した(64.6±17.3 vs 60.9±15.8mg/dL)。
・3群の2週後で2.6±2.8mg/dL低下した(67.8±12.4 vs 65.2±11.7mg/dL)。
・終了2週後で2.8±3.7mg/dL低下した(67.8±12.4 vs 65.0±11.4mg/dL)。
7) LDL−コレステロール
・3群の2週後で10.7±7.8mg/dL低下した(122.5±20.6 vs 111.8±25.9mg/dL)。
8) Na
・3群の終了2週後で0.7±0.7mEq/L上昇した(140.4±1.6 vs 141.1±1.5mEq/L)。
【0068】
ALPの低下は、肝機能が改善される良い変化であり、総タンパク、アルブミン、クレアチニンの低下はタンパク代謝の向上を意味する。さらに、総コレステロール、HDL−コレステロール、LDL−コレステロールの低下は脂質代謝が改善される方向に向かう良い変動であった。ナトリウムの上昇は細胞からのナトリウム排出に関連していると推定され腎機能改善を予想させる。
【0069】
以上の試験は、健常人を対象に行われたが、成人病に関係する代謝が良い方向に進んでいることを示しており、本発明の成人病の予防・改善効果が示された。
【実施例14】
【0070】
自然発症型のII型糖尿病モデルマウスKK−Ayマウスを定法に従い飼育し、肥満とした後に体重1kgあたり5−アミノレブリン酸リン酸塩(ALA)10mgとクエン酸第一鉄ナトリウム(クエン酸鉄)92mg及びALA30mgとクエン酸鉄276mgを投与した場合の血糖値を
図1に、糖負荷試験の結果を
図2に、この間の中性脂肪の推移を
図3に、インシュリンの分泌量の経緯を
図4に示す。実験は各区10匹で行った。
図より明らかなように、ALAと鉄の投与で血糖値が下がり、糖付加能力が向上し、脂質代謝も向上してインシュリンの分泌も回復していることがわかり糖尿病、高脂血漿に有効であることがわかる。一般の糖尿病改善剤は脂質代謝を悪くするがALAと鉄はミトコンドリアの電子伝達系を活発化し、連鎖するTCA回路の回転を改善するため、いわゆる基礎代謝の改善が見られ、糖、脂質とともにその消費が改善したものと考えられる。
【実施例15】
【0071】
53歳男性のII型糖尿病患者はインシュリン治療中で朝10単位、昼5単位、夜10単位のインシュリンを投与されている。この患者に1日当たりでALAリン酸塩25mgとモル比でALAの0.5倍のクエン酸鉄を摂取させた場合の空腹時血糖の変化を
図5に示す。
空腹時血糖は前日の食生活などで変化が大きく、上下はするものの、平均的には補助線に示されるよう1ヶ月で15mg/dl程度低下しており、糖尿病の改善に有効であることがわかる。
【実施例16】
【0072】
実施例4の男性が継続して同条件で摂取を続けたところ、摂取開始より5ヶ月後にはHbA1cが5.9に、8ヶ月後には5.2に低下し、完全に糖尿病から離脱した。結果を
図6に示す。
【実施例17】
【0073】
II型糖尿に悩む72歳女性は医師の指導の元、食生活や運動に気をつけた生活を行ってきたが徐々にHbA1cが上昇していた。2008年11月7日に1日当たりALAリン酸塩50mgとモル比でALAの0.5倍のクエン酸鉄の摂取を開始したところ、HbA1cに急速な改善が見られ半年で改善した。この間の経緯を
図7に示す。ちなみに摂取開始時の11月7日の空腹時血糖は195mg/dl、翌年5月9日の107mg/dlに改善していた。
【実施例18】
【0074】
II型糖尿病の69歳女性が1日当たりALAリン酸塩15mgとモル比でALAの0.5倍のクエン酸鉄の摂取を開始し、一度摂取を中断し、再度摂取を再開した。
図8にこの間のHbA1cの変化を示す。太い矢印で示すのが摂取期間である。摂取によりHbA1cが改善している。また、中止するとHbA1cが上昇することから、ALAの効果で有ることが明確となった。
【実施例19】
【0075】
安全性試験として健常人にALAリン酸塩25mgとモル比でALAの0.5倍のクエン酸鉄の摂取を開始し4週間摂取してもらい、摂取前、摂取中止2週間も含め2週間毎に血液を検査したが平均値には有意な変化は見られなかった。さらに、健常者を摂取前のHbA1cが4.8より高い群と4.8以下の群に層別化した結果を
図9に示す。
図9よりわかるように、HbA1cが4.8を越える群には若干の低下傾向が見られるが4.8以下の群はむしろ上昇の傾向が見られ、正常人に影響を与えない安全性の高い効果であることがわかる。同様に開始時の空腹時血糖が90以上の群と90より低い群に層別化した場合の血糖値変化を
図10に示す。
図10より明らかなように正常範囲でも高めに属する群では緩やかな低下がみられるが、低い群にはほとんど変化がみられず、正常人に低血糖を引き起こさない安全な効果であることがわかる。
【実施例20】
【0076】
境界型糖尿病男性6名のALA摂取量、期間、HbA1cの変化を表1に示す。6名全員のHbA1cが改善しており、本発明の蓋然性が高い事がわかる。
【0077】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明によれば、加齢に伴い低下する基礎代謝を改善することにより成人病を改善又は予防することができる。本発明は既存の生化学反応阻害型による成人病の治療薬と異なり、基礎代謝の向上を作用メカニズムとする、いわば代謝の若返りが作用メカニズムであり、副作用が無く、成人病の薬剤耐性が生じない。また、既存薬と作用メカニズムが異なるため既存薬と併用することでより効果を高めることも期待される。