(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5665738
(24)【登録日】2014年12月19日
(45)【発行日】2015年2月4日
(54)【発明の名称】改善された熱電性能指数を有するSiGeマトリックスナノコンポジット物質
(51)【国際特許分類】
H01L 35/14 20060101AFI20150115BHJP
B82Y 30/00 20110101ALI20150115BHJP
B82Y 99/00 20110101ALI20150115BHJP
H01L 35/34 20060101ALI20150115BHJP
【FI】
H01L35/14
B82Y30/00
B82Y99/00
H01L35/34
【請求項の数】12
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2011-517251(P2011-517251)
(86)(22)【出願日】2008年7月11日
(65)【公表番号】特表2011-527517(P2011-527517A)
(43)【公表日】2011年10月27日
(86)【国際出願番号】IB2008002794
(87)【国際公開番号】WO2010004360
(87)【国際公開日】20100114
【審査請求日】2011年6月22日
【審判番号】不服2013-24976(P2013-24976/J1)
【審判請求日】2013年12月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】506423291
【氏名又は名称】コミサリア ア レネルジィ アトミーク エ オ ゼネ ルジイ アルテアナティーフ
【氏名又は名称原語表記】COMMISSARIAT A L’ENERGIE ATOMIQUE ET AUX ENERGIES ALTERNATIVES
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ミンゴ ビスケルト ナタリオ
(72)【発明者】
【氏名】小林 伸彦
(72)【発明者】
【氏名】プリソニエ マルク
(72)【発明者】
【氏名】シャコーリ アリ
【合議体】
【審判長】
鈴木 匡明
【審判官】
加藤 浩一
【審判官】
松本 貢
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−261046(JP,A)
【文献】
特表2002−530874(JP,A)
【文献】
特表2008−523579(JP,A)
【文献】
国際公開第2008/140596(WO,A2)
【文献】
特表2010−512011(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B82B 1/00-3/00
H01L 27/16
H01L 35/00-37/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノコンポジット物質を作製する方法であって、
前記ナノコンポジット物質は、
ナノ介在物がランダムにまたはパターンに従って内部に分散しているSiGeマトリックスを含むナノコンポジット物質であって、
前記ナノ介在物が、下記の式(I):
SinGemAp (I)
に対応する物質から作製され、
ここで、Aは、遷移金属、ランタニド、アクチニドから選択される化合物、n、m、pは整数であり、
n≧0、m>0、p>0であり、
前記方法は、
SiGeからなる緩衝層を基板上に成長させるステップと、
前記式(I)SinGemAp (I)からなる物質から作製された前記ナノ介在物を含むナノコンポジット構造を、分子線エピタキシー及び化学蒸着から選択される方法によって前記緩衝層の上に成長させるステップとを含み、
前記緩衝層を成長させるステップと前記ナノコンポジット構造を成長させるステップとの間で熱処理は行なわれない、
ナノコンポジット物質の作製方法。
【請求項2】
前記マトリックスが、下記の式:
SixGe(1-x)
で表すことができるSiGe合金ベースであり、ここで、xは、0〜1の間に含まれる数であり、0<x<1である
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
0.3≦x≦0.8である
請求項2に記載の方法。
【請求項4】
0.4≦x≦0.7である
請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ナノ介在物が、ナノ粒子である
請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
ナノ粒子が、100nm以下の大きさを有する
請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
ナノ粒子が、1nm〜100nm以下の大きさを有する
請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記SiGeマトリックス体積に対する前記ナノ粒子の体積比Vfが、下記の範囲:
0.1%≦Vf≦10%
に含まれる、請求項4〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
熱伝導率が、前記マトリックス物質から作製される均質な合金に対して1/2以下である
請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
熱伝導率が、前記マトリックス物質から作製される均質な合金に対して1/5以下である
請求項9に記載の方法。
【請求項11】
熱電性能指数(ZT)が、室温において0.5以上である
請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記基板がSi基板である、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改善された熱電エネルギ変換能を有する、SiGeマトリックスベースのナノコンポジット物質に関する。
【背景技術】
【0002】
熱電物質は下記の2つのタイプのデバイスの構成要素である(G.S.Nolas、J.Sharp及びH.J.Goldsmid、Thermoelectrics:Basic Principles and New Materials Developments、Springer(2006)):
1−熱流を使用可能な電力に変換することができる熱電発電体、及び
2−電流の使用のみによって物体を冷却することができる熱電冷却体。
【0003】
これらのデバイスが技術的に非常に興味深いのは、純粋に固体状態ベースだからである。これは、これらのデバイスが可動部を有しないこと、すなわち、これらのデバイスは振動がなく、信頼性があり、コンパクトであり、かつ軽量であることを意味する。これによりこれらのデバイスが、例えば、航空宇宙用途又はマイクロエレクトロニクス用途に理想的なものになる。しかしながら、それらの効率は、機械的なエネルギ変換デバイスの効率よりもはるかに低い。このために、それらの適用性が、例えば、通常の台所用冷蔵庫のようなより従来的な分野に制限される。
【0004】
ある物質が熱電デバイスの一部となり得るかの直接的な尺度が、TσS
2/κとして定義されるその無次元の熱電性能指数ZTによって与えられ、この式の中では、それぞれ、Tは温度であり、σは電気伝導率であり、Sはゼーベック係数であり、κは材料の熱伝導率である(G.S.Nolas、J.Sharp及びH.J.Goldsmid、Thermoelectrics:Basic Principles and New Materials Developments、Springer(2006))。熱電冷却及び熱電発電の性能が、現在知られている物質のZTが低いことによって妨げられる。現在、最も良いバルク熱電物質は、ZTの値が室温において1前後である。ナノ構造化された物質によりは、約2のより大きい室温ZTのヒントが2つの刊行物において示されている(Venkatasubramanian,R.他、「大きい室温性能指数を有する薄膜熱電デバイス」、Nature、第413巻(2001年10月11日)、597頁〜602頁;T.C.Harman、P.J.Taylor、M.P.Walsh、B.E.LaForge、量子ドット超格子の熱電物質及び熱電デバイス、Science、297、2229頁(2002))。熱電(サーモエレクトリックス、thermoelectrics)研究の一般的かつ意欲的な目標が、ZTが室温において3を超える物質を製造することである。そのような物質は、圧力ベースの冷却の効率に匹敵する効率を有する熱電冷却を可能にすると考えられるため、工業的な熱電冷却の市場を開拓すると考えられる。
【0005】
より小さいが、非常に重要な熱電冷却の用途が、マイクロエレクトロニクスにおけるホットスポットを冷却することにある。ホットスポットは、熱が十分に速く消散しないデバイスの領域であり、その結果、その温度が高くなりすぎて、性能に影響を及ぼす。この問題に対する解決策の1つが、集積された熱電マイクロ冷却体(Integrated Thermoelectric Microcooler)によってその領域から積極的に熱をくみ出すことである(A.Shakouri、チップ上でのナノスケールの熱輸送及びマイクロ冷却器、Proceedings of IEEE、94、1613(2006))。Shakouri A.は、SiGe合金ベースのマイクロ冷却器をチップ上に使用して、この問題を実験的に調べた(Proceeding of the IEEE、第94巻、第8号、2006、1613〜1638)。
【0006】
電子的ホットスポットの冷却及び関連した用途のために好適な集積されたマイクロ冷却器を作製しようとするとき、いくつかの問題が存在する。第一に、そのような冷却器はシステムにおいて、モノリシックに集積され、その結果、熱がホットスポットから冷却器に十分に流れ得るように、また、それらの間における寄生的な界面熱抵抗が最小限に抑えられるようにしなければならない。シリコンを基盤とする現在の産業では、このことが利用可能な物質を、Si技術と適合し得る物質だけに制限している。
【0007】
知られている熱電物質、例えば、Bi
2Te
3など、又は、III族〜V族の半導体は、集積されることには適していない。冷却器用の明白な材料選択の1つがSiGe合金である。しかしながら、SiGeは、その室温ZTがわずか0.1前後にすぎないので、ほとんどのホットスポット冷却用途には十分に効率的でないことが、Shakouriのグループによって示されている(A.Shakouri、チップ上でのナノスケールの熱輸送及びマイクロ冷却器、Proceedings of IEEE、94、1613(2006))。SiGe合金のZTを室温において0.5にまで増大させることができるならば、マイクロ冷却器における最大可能冷却が、4Kから、少なくとも15Kにまで増大し、また、ZTの増大が力率強化に起因するならば、25Kまでに増大し得ることが、さらに、モデル化によって示された。Shakouriによれば、15度の冷却はマイクロ冷却体を、ホットスポット用として、はるかにより有用にし(4は依然として不十分である)、また、ZTが室温において約0.5であるSiGe系物質を開発することが、マイクロエレクトロニクスの領域におけるある種の革命をもたらすと考えられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明が解決しようとする課題は、チップ上でのマイクロ冷却器用としての使用に好適な、室温における約0.5のZTを有する、Si系技術にモノリシックに集積化可能なSiGe系物質を見出すことである。
【0009】
物質のZTを高めるための1つの方策が、「ナノコンポジット(nanocomposite)」を形成するために、ナノ粒子(サイズが1nmから数十nmにまで及ぶ粒子)をその物質の中に含むことである。包埋物質(Embedding Material)は「マトリックス」として知られており、ナノ粒子は「フィラー」と呼ばれる。この方法は、ErAsナノ粒子をフィラーとして使用して、InGaAs合金のZTを高めるために、Shakouri及び共同研究者によって問題なく使用された (Kim,W.、Zide,J.、Gossard,A.、Klenov,D.、Stemmer,S.、Shakouri,A.及びMajumdar,A.、「ナノ粒子を結晶性半導体に埋め込むことによる熱伝導率の低下及び熱電性能指数の増大」、Phys.Rev.Lett.、96、045901(2006))。この方法により向上したZTを達成するためには、ナノ粒子が、電気伝導率に負の影響を及ぼし、ZTを低下させる欠陥または転位を生じさせることなく、マトリックス内に十分に混ざることが非常に重要なようである(A.Shakouri、チップ上でのナノスケールの熱輸送及びマイクロ冷却器、Proceedings of IEEE、94、1613(2006))。しかし、この条件がたとえ満たされたとしても、ナノコンポジットのZTが元のマトリックスよりも高くなるという保証が全くない。単にナノ粒子を埋め込むことだけでは十分でない。すなわち、それらのサイズ、組成及び濃度は、熱伝導率、電気伝導率及びゼーベック係数に対するそれらの影響が実際にZTを効果的に高めるようなものでなければならない。
【0010】
米国特許出願公開第2006/0102224号は、ナノ粒子の介在物(Inclusion)が分散されているマトリックスから作製されるナノ構造化物質を開示している。その中、マトリックス及びナノ粒子が異なる組成を有し、かつ、両方がGe及び/又はSi系物質である。
【0011】
しかしながら、実験結果は、SiGeナノ構造化物質におけるZTの改善を何も示していない(A.Shakouri、Proceedings of the IEEE、94、1613、(2006))。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、SiGeマトリックスを含んでいる新しい材料を提供することによって、先行技術の様々な問題を解決する。このSiGeマトリックスは、該マトリックスに分散した例えばシリサイドナノ粒子及び/又はゲルマニドナノ介在物のようなナノ粒子を有する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
Chen H.C.他(Thin Solid Films、461、2004、44〜47)は、エピタキシャルβ−FeSi
2のナノドットがその表面に成長した、Si/Si
0.8Ge
0.2の(001)基板から作製された物質を開示している。
【0015】
Wu W.W.他(Applied Physics Letters、83(9)、2003、1836〜1838)は、NiSi量子ドットアレイがその表面に成長した、(001)Siマトリックス上のSi
0.7Ge
0.3から作製された物質を開示している。
【0016】
しかしながら、これらの物質は、シリサイドナノ粒子の表面層を単に含むだけである。本発明は、集積化された熱電エネルギ変換デバイスをマイクロエレクトロニクスにおいて実現させるために、Si技術と適合し得る物質を見出すという課題を解決する。本発明は、少なくとも15Kの冷却を可能にするため、今までのところ明らかにされている4Kよりも優れている、熱電マイクロ冷却体用に好適な物質を見出すという課題を解決する。本発明は、また、一般的な意味でSiGe系物質の性能指数を高めるという課題を解決する。
【0017】
本発明の第1の目的が、SiGeマトリックスと、該マトリックス内に分布する多数のナノサイズの介在物とを含むナノコンポジット物質である。
【0018】
マトリックスは、下記の式によって記述することができるSiGe合金ベースであり:
Si
xGe
(1−x)
式中、xは、厳密に0〜1の間に含まれる数であり、すなわち、0<x<1である。好ましくは、0.3≦x≦0.8であり、より好ましくは0.4≦x≦0.7である。
【0019】
用語「ナノサイズの介在物(Nanosized Inclusion)」は、本明細書中で使用される場合、その大きさが約100nmに等しいか、又は、好ましくは約100nm未満である、例えばナノ粒子など、物質内の一部分を一般に意味する。例えば、ナノサイズの介在物は、平均断面直径が約1nm〜約100nmの範囲にあるか、又は約3nm〜約30nmの範囲にあるナノ粒子を指すことができる。
【0020】
ナノサイズの介在物はコンポジット内にランダムに分布させることができる。または、ナノサイズの介在物は所定のパターンに従って分布させることができる。
【0021】
好ましくは、ナノ介在物はナノ粒子であり、これは、それらの形状が多少なりとも規則的であること、また、球状、卵形、偏平な球体、偏平な卵形、又は、棒として記述され得ることを意味する。
【0022】
本発明のナノコンポジット物質は、ナノ粒子の最大直径の半分である半径r、及び、マトリックス内のナノ介在物の体積分率V
fによって特徴づけることができる。
【0023】
より正確には、V
fは、SiGeマトリックス体積に対する、ナノ介在物の体積比である。
【0024】
r及びV
fの範囲が
図1に例示され、好ましい領域が点線の内側の領域によって定義される。
【0025】
体積分率V
fは好ましくは、下記の範囲内に含まれる:
0.1%≦V
f≦10%。
【0026】
様々な異なる物質を、ナノ介在物を形成するために用いることができる。一般的な様式において、ナノ介在物は、遷移金属、ランタニド(lanthanides)及びアクチニド(actinides)から選択される化合物のシリサイド及び/又はゲルマニドとして定義することができる。
【0027】
用語「遷移金属」により、周期表の3族〜12族における原子が定義される。遷移金属は、21から30まで、39から48まで、71から80まで、及び、103から112までの40種の化学元素である。
【0028】
「ランタニド」は、57から71までの15種の元素を示す。
【0029】
「アクチニド」は、89から103までの15種の元素を示す。
【0030】
遷移金属、ランタニド及びアクチニドからなる群から選択される特に好ましい化合物は、ナノ粒子のバンド端オフセットがマトリックスのバンド端オフセットに関して正側である半導体である。
【0031】
それらの化合物のシリサイド及び/又はゲルマニドが、下記の式(I)に対応する物質である:
Si
nGe
mA
p (I)
式中、Aは、遷移金属、ランタニド、アクチニドから選択される化合物であり、n、m、pは整数;
n≧0、m≧0、p>0で、n及びmはともに0となることができない。
【0032】
m=0であるとき、式(I)の分子はシリサイドと呼ばれ、下記の式に対応する:
Si
nA
p (II)
式中、n及びpはともに、厳密に正の整数である。
【0033】
これは本発明の特に好ましい実施形態の1つである。
【0034】
特に好ましいシリサイド(silicide)は、Aが、Mg、Ti、V、Ni、Mo、Er、Yb、W、Fe、Cr、Co、Mn、Ru、Os及びIrからなる群から選択されるシリサイドであり、より好ましくは、Aが、Ir、Ru、Fe、Ni、W及びCoの群から選択されるシリサイドである。
【0035】
ナノ介在物物質は、Mg
2Si、TiSi
2、VSi
2、NiSi
2、MoSi
2、ErSi
2、YbSi
2、WSi
2、β−FeSi
2、CrSi
2、MnSi
2、RuSi
3、OsSi
2、Ir
3Si
5、Os
2Si
3及びOsSiから選択されることが好ましい。
【0036】
加えて、マトリックス物質及びナノ介在物物質の一方又は両方は、n型ドーパント又はp型ドーパントのようなドーパントによりドープ処理することができる。ドーパントがこれらの材料の一方又は両方に含まれるとき、マトリックス又はナノ介在物に関して、その濃度は好ましくは重量割合で1%未満である。例えば、ホウ素はp型ドーパントとして使用することができ、リンはn型ドーパントとして使用することができる。
【0037】
ナノ介在物がマトリックス内に存在することにより、熱伝導率が、そのマトリックス物質から作製される均質な合金に対して、1/2〜1/10の範囲というように1/2以下に低下し、好ましくは1/5以下に低下することを示すナノコンポジット物質が得られる。
【0038】
加えて、本発明のナノコンポジット物質は、室温において0.5以上である熱電性能指数を示す。本発明の教示によれば、本発明のナノコンポジット熱電物質は好ましくは、下記のように定義される向上した熱電性能指数(Z)を示す:
Z=(S
2σ)/k
式中、Sはゼーベック係数であり、σはコンポジット物質の電気伝導率であり、kはその熱伝導率である。性能指数(Z)は、ケルビンの逆数の単位を有する。多くの場合、Zと平均デバイス温度(T)との積として得られる無次元の性能指数(ZT)が用いられる。本発明の教示によるナノコンポジット熱電組成物は、室温において約0.5を超えることができる熱電性能指数(ZT)を示すことができる。バルクSiGeのZTは温度とともに増大するので、ZTが1200Kでは1の値に達する。したがって、その低下した熱伝導率のために、本発明のシリサイドSiGeナノコンポジット物質は、1200K前後のような高い温度では、ZT=2に達し得る。
【0039】
本発明の別の利点は、ナノコンポジット物質が、マトリックス物質の電気伝導率(σ)に非常に近い電気伝導率(σ)を有することである。ナノコンポジットのゼーベック係数(S)がマトリックス物質のゼーベック係数と同等以上である。
【0040】
本発明の別の目的が、緩衝層を基板上に成長させるステップ、及び、この緩衝層上にナノコンポジット構造を成長させるステップを含む、本発明によるナノコンポジット物質を作製する方法である。
【0041】
基板がSi基板であることが好ましい。
【0042】
緩衝層は、ひずみを低下させるために、Si基板のメッシュパラメータ(mesh parameter)をナノコンポジット物質のメッシュパラメータと一致させることを目的とする。第1の特に好ましい変形によれば、緩衝層は連続し、かつSiGe組成を規則的に改変することによって、SiからSiGeへのメッシュパラメータの勾配を有することができる。第2の特に好ましい変形によれば、緩衝層は、SiGe組成がSi層の組成からナノコンポジット物質の組成まで変化する多層物質から作製することができる。
【0043】
その場合によれば、ナノ介在物は結晶性構造又は固溶体(Solid Solution)構造を有する。結晶性構造が好ましい。
【0044】
第1の特に好ましい変形によれば、方法は好ましくは、ナノコンポジット構造を化学蒸着(CVD)によって成長させるステップを含む。
【0045】
サンプルは、CVDシステムを使用して、Si基板上に成長させた。
【0046】
本発明のナノコンポジット物質は、Si
nGe
mA
pを、Si
xGe
(1−x)マトリックスの成長期間中に、所望の原子分率に対応する選択された成長速度で同時に堆積させることによって成長させた。
【0047】
パターン化された構造が所望されるときには、Si
nGe
mA
p層及びSi
xGe
(1−x)層の交互の成長が、適切な層間隔と組み合わされる。
【0048】
好ましくは、本発明のナノコンポジット構造が化学蒸着(CVD)法によって成長される。CVDプロセスにおいて、Si基板が、基板表面で反応及び/又は分解して、所望の堆積物(蒸着物)を生じさせる1つ又は複数の揮発性前駆体にさらされる。
【0049】
CVD法が、ナノコンポジット構造の工業的規模での製造にはより適切である。
【0050】
Si及びGeの好適な前駆体が、種々のシラン、種々のジクロロシラン、GeH
4である。
【0051】
金属の供給源が一般には、そのような金属の塩化物又はフッ化物であり、例えば、RuF
6、WF
6、MoCl
5である。
【0052】
ランダム分布のナノコンポジットについては、所望の原子分率に対応する成長速度が選択される。パターン化された構造が期待されるときには、Si
nGe
mA
p層及びSi
xGe
(1−x)層の交互の成長が、適切な層間隔と組み合わされる。
【0053】
様々なプロセスパラメータが、選択されているナノ粒子サイズ及び体積分率を得るために制御される。それらのパラメータの中で、例えば、温度、時間、PH
3、B
2H
6のような界面活性剤使用を挙げることができる。
【0054】
別の変形によれば、本発明のナノコンポジット構造の成長のための別の特に好ましい方法が分子線エピタキシー(MBE)である。
【0055】
本発明のナノコンポジット物質は、ナノ介在物が、欠陥又は転位を生じさせることなく、マトリックス内に十分に混ざるという性質を有するために、SiGe合金の場合に匹敵するか、又は、それよりも大きい改善された熱電性能指数(ZT)及び力率を有する。
【0056】
本発明の別の目的は、本発明のナノコンポジット物質の少なくとも1つの層を含む電子部品である。
【0057】
そのような電子部品は、熱電発電体及び熱電冷却体から選択されることが好ましい。
【0058】
本発明の熱電ナノコンポジット物質は、冷却及び発電の両方において用途が見出されることが好ましい。例えば、本発明の熱電ナノコンポジット物質は、マイクロエレクトロニクスデバイス及びフォトニックデバイスの熱管理において利用することができる。本発明の熱電ナノコンポジット物質は、また、熱エネルギを高い効率で電気エネルギに直接に変換するための熱電発電体として用いることができる。例えば、
図2は、モジュール(例えば、(2)及び(3)など)からなる熱電素子のアセンブリとして組み立てられる熱電冷却体(1)を概略的に示す。これらの素子は直列に電気的に接続され(しかし、これらの素子はまた、並列で接続することができ、又は、直列接続及び並列接続の組合せとして接続することができ、接続タイプは必要性及び電力供給に依存する)、電流が、交互的にp型の脚及びn型の脚を通って流れる。脚が本発明のナノコンポジットから形成される。
【0059】
デバイスの脚(2)及び脚(3)は、カスケード様式で隣接する脚への電気伝導性架橋(4)によって電気的に接続される。電流を加えることにより、熱電冷却体の一方の側からもう一方の側への熱の移動が生じ、それにより、一方の側の温度が下がり、同時に、反対側の温度が上がる。
【実施例】
【0060】
プロセスが、SiGe層と、その表面におけるMoSiシリサイドドットとを提供する2つの逐次工程に分けられる。その後、これらの2つの逐次工程が、MoSi介在物を有するSiGeナノコンポジットを形成するために数回繰り返される。
【0061】
第1の逐次工程:
SiGeナノコンポジット層を減圧化学蒸着(RP−CVD)によって成長させる。この蒸着技術は、超格子を実現するために文献において既に使用されている(Venkatasubramanian,R.他、Nature、第413巻、2001年10月11日、597頁〜602頁;A.Shakouri、Proceedings of IEEE、94、1613(2006);Kim,W.他、Phys.Rev.Lett.、96、045901(2006))。CVDは高品質の層を提供し、かつ、インシチュ・ドーピングの使用を可能にする。成長圧力が常に10Torrであった。H
2キャリアガスの流量を、およそ10標準リットル/分〜15標準リットル/分の間の一定の値に設定した。純シラン(SiH
4)をSiの供給源として使用し、H
2で10%に希釈されたゲルマン(GeH
4)をGeの供給源として使用した。ドーピング源が、p型及びn型として、それぞれ、H
2で1%に希釈されたジボラン(B
2H
6)及びホスフィン(PH
3)である。
【0062】
第2の逐次工程:
ケイ化モリブデン(Molybdenum Silicide)のナノ介在物を、2sccm〜3sccmのMoCl
5前駆体を注入することによって成長させる。
【0063】
MoC
5粉末は、150℃に設定された専用の気化チャンバにおいて気化させる。その後、蒸気をN
2キャリアガスとともにチャンバ内に導入する。次に、MoCl
5前駆体を、H
2キャリアの流れのもと、1000℃でSiGe表面で化学分解させ、SiH
4をMoSi形成のためのSiの供給源として使用する。数秒後、(層合体前に)、MoCl
5及びSiH
4を停止する。
【0064】
H
2形成ガス下でのシリサイド形成は、同じCVDチャンバにおいて1000℃で行う。
【0065】
シリサイドの後、SiGe蒸着の新しい工程が行われる。新しいSiGe層がMoSiナノドットを封入する。
【0066】
これらのプロセス工程は2回〜100回繰り返すことができる。
【0067】
この一連の操作の後、本発明者らは、(温度の関数として)300Kまで、ZT=0.5である、100層の10nmのSiGe/MoSi
2を含む物質を製造した。