特許第5665788号(P5665788)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5665788
(24)【登録日】2014年12月19日
(45)【発行日】2015年2月4日
(54)【発明の名称】二次電池用正極活物質前駆体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/58 20100101AFI20150115BHJP
   C01B 33/32 20060101ALI20150115BHJP
【FI】
   H01M4/58
   C01B33/32
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-74658(P2012-74658)
(22)【出願日】2012年3月28日
(65)【公開番号】特開2013-206727(P2013-206727A)
(43)【公開日】2013年10月7日
【審査請求日】2014年5月16日
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077562
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 登志雄
(74)【代理人】
【識別番号】100096736
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100117156
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100111028
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 博人
(72)【発明者】
【氏名】石原 四穂
(72)【発明者】
【氏名】山下 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 務
【審査官】 ▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−193087(JP,A)
【文献】 特開2008−066019(JP,A)
【文献】 特開2012−033480(JP,A)
【文献】 鳥山隆浩 他,水熱合成法によるLi2FeSiO4の合成,日本セラミックス協会2008年年会講演予稿集,社団法人日本セラミックス協会,2008年 3月20日,Page208(2P110)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/58
C01B 33/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遷移金属M(MはFe、Mn、Al、又はZrを示す)を含むオリビン型シリケート化合物及び硫黄を含有する二次電池用正極活物質前駆体の製造方法であって、
MSO4(式中、MはFe、Mn、Al、又はZrを示す)で表される遷移金属硫酸塩、並びに亜硫酸水素イオンを含有する還元性硫黄化合物を用い、遷移金属硫酸塩とは別に、リチウム化合物、ケイ酸化合物及び還元性硫黄化合物を含有する塩基性水分散液を予め調製し、該水分散液と遷移金属硫酸塩とを混合し、得られた混合物を水熱反応させることを特徴とする、二次電池用正極活物質前駆体の製造方法。
【請求項2】
リチウム化合物が、水酸化リチウム、炭酸リチウム、硝酸リチウム、酢酸リチウム、硫酸リチウムから選ばれるものである請求項1に記載の二次電池用正極活物質前駆体の製造方法。
【請求項3】
ケイ酸化合物が、非晶質シリカ及びNa4SiO4から選ばれるものである請求項1又は2に記載の二次電池用正極活物質前駆体の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の水熱反応後、得られた二次電池用正極活物質前駆体にカーボン担持し、次いで焼成することを特徴とする、二次電池用正極活物質前駆体を含む二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法により得られる二次電池用正極活物質前駆体であって、二次電池用正極活物質前駆体中に硫黄を0.01〜50質量%含有する二次電池用正極活物質前駆体。
【請求項6】
請求項5に記載の二次電池用正極活物質前駆体を含む二次電池用正極活物質を用いた二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池用正極活物質を得るための二次電池用正極活物質前駆体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池等の二次電池は、非水電解質電池の1種であり、携帯電話、デジタルカメラ、ノートPC、ハイブリッド自動車、電気自動車等広い分野に利用されている。リチウムイオン電池は、正極材料としてリチウム金属酸化物を用い、負極材料としてグラファイトなどの炭素材を用いるものが主流となっている。
【0003】
この正極材料としては、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、マンガン酸リチウム(LiMnO2)、リン酸鉄リチウム(LiFePO4)、ケイ酸鉄リチウム(Li2FeSiO4)等が知られている。このうち、LiFePO4やLi2FeSiO4等は、オリビン構造を有し、高容量のリチウムイオン電池用正極材料として有用である。なかでも、LiFePO4等のリン酸リチウム金属系正極材料は、得られる電池物性のさらなる向上を図るべく、オリビン型リン酸リチウム金属化合物に硫黄を添加又は含有させてなる正極材料も知られている(特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4525474号公報
【特許文献2】特開2010−161038号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、Li2FeSiO4等のケイ酸リチウム金属系正極材料、いわゆるオリビン型シリケート化合物の製造方法としては、固相法や水熱合成を用いることは知られているものの、得られる電池物性の向上を図るにあたり、かかるオリビン型シリケート化合物にさらに硫黄を添加又は含有させることについては、何ら検討がなされていない。
【0006】
したがって、本発明の課題は、非常に有用な二次電池用正極活物質を得るための、Li2FeSiO4等のオリビン型シリケート化合物と硫黄を含有してなる二次電池用正極活物質前駆体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで本発明者らは、水熱反応を利用しつつ特定の化合物を用いることで、オリビン型シリケート化合物と硫黄を含有する二次電池用正極活物質前駆体が得られることを見出し、さらに鋭意検討を進めた結果、得られる二次電池用正極活物質前駆体中でオリビン型シリケート化合物の粒子が針状を呈するため、これを用いた二次電池用正極活物質であれば、非常に優れた電池物性を有する二次電池が得られることに着目し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、遷移金属M(MはFe、Mn、Al、又はZrを示す)を含むオリビン型シリケート化合物及び硫黄を含有する二次電池用正極活物質前駆体の製造方法であって、
MSO4(式中、MはFe、Mn、Al、又はZrを示す)で表される遷移金属硫酸塩又は(R)2M(式中、Rは有機酸残基を示し、MはFe、Mn、Al、又はZrを示す)で表される有機酸遷移金属塩を用い、リチウム化合物、ケイ酸化合物及び還元性硫黄化合物を含有する塩基性水分散液を水熱反応させることを特徴とする、二次電池用正極活物質前駆体の製造方法を提供するものである。
また、本発明は、上記の製造方法により得られる二次電池用正極活物質前駆体であって、二次電池用正極活物質前駆体中に硫黄を0.01〜50質量%含有する二次電池用正極活物質前駆体を提供するものである。
さらに本発明は、上記の二次電池用正極活物質前駆体から得られる二次電池用正極活物質を有する二次電池を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法によれば、オリビン型シリケート化合物及び硫黄を含有してなる二次電池用正極活物質前駆体を容易に得ることができ、これから得られる正極活物質を用いれば、優れた電池物性を有する二次電池を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1で得られた二次電池用正極活物質前駆体に含有されるオリビン型シリケート化合物の粒子のSEM像を示す。
図2】実施例2で得られた二次電池用正極活物質前駆体に含有されるオリビン型シリケート化合物の粒子のSEM像を示す。
図3】実施例3で得られた二次電池用正極活物質前駆体を用いたリチウムイオン二次電池の充放電曲線を示す。
図4】比較例1で得られた二次電池用正極活物質前駆体を用いたリチウムイオン二次電池の充放電曲線を示す。
図5】実施例1〜3及び比較例1で得られた二次電池用正極活物質前駆体を用いたリチウムイオン二次電池の充放電曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明で用いるオリビン型シリケート化合物は、遷移金属M(MはFe、Mn、Al、又はZrを示す)を含む。遷移金属Mを含むオリビン型シリケート化合物は、具体的には下記式(1)〜(4)のいずれかで表わされる。
Li2FexMnyZrzSiO4 ・・・(1)
(式中、x、y及びzは、0≦x<1、0≦y<1、0<z<1、x+y+z=1、及びx+y≠0を満たす数を示す。)
Lia'FexMnyAlzSiO4 ・・・(2)
(式中、a'、x、y及びzは、1<a'≦2、0≦x<1、0≦y<1、0<z<1、a'+2x+2y+3z=4、及びx+y≠0を満たす数を示す。)
Lia"FexMnyZrzSiO4 ・・・(3)
(式中、a"、x、y及びzは、1<a"≦2、0≦x<1、0≦y<1、0<z<1、a"+2x+2y+(2〜5)z=4、及びx+y≠0を満たす数を示す。)
【0012】
該オリビン型シリケート化合物を水熱反応に付すにあたっては、遷移金属(M)源を用い、リチウム化合物、ケイ酸化合物及び還元性硫黄化合物を含有する塩基性水分散液を作製するのがよい。
【0013】
遷移金属(M)源としては、例えば、MSO4(式中、MはFe、Mn、Al、又はZrを示す)で表される遷移金属硫酸塩又は(R)2M(式中、Rは有機酸残基を示し、MはFe、Mn、Al、又はZrを示す)で表される有機酸遷移金属塩、或いは(R)2M(式中、Rは有機酸残基を示し、MはFe、Mn、Al、又はZrを示す)で表される有機酸遷移金属塩が挙げられる。
【0014】
遷移金属硫酸塩MSO4の具体例としては、FeSO4、MnSO4、Al2(SO43、ZrSO4が挙げられ、これらは1種でも2種以上を混合して用いてもよい。これらのうち、FeSO4、MnSO4、Al2(SO43がより好ましく、FeSO4がさらに好ましい。遷移金属硫酸塩を用いる場合、副反応を抑制する点から、遷移金属硫酸塩とは別に、リチウム化合物、ケイ酸化合物及び還元性硫黄化合物を含有する塩基性水分散液を予め調製しておくのが好ましい。この場合、該水分散液と遷移金属硫酸塩とを混合し、水熱反応に付す。遷移金属硫酸塩の添加量は、反応混合液中0.15〜1.50mol/lとなる量が好ましく、さらに0.50〜0.75mol/lとなる量が好ましい。なお、この場合における反応混合液中のSi及びLiの含有量は、Mに対して2モル以上が好ましい。
【0015】
有機酸遷移金属塩(R)2MのRで示される有機酸としては、炭素数1〜20の有機酸が好ましく、炭素数2〜12の有機酸がより好ましい。より具体的な有機酸としては、シュウ酸、フマル酸等のジカルボン酸、乳酸等のヒドロキシカルボン酸、酢酸等の脂肪酸が挙げられる。有機酸遷移金属塩を用いる場合、リチウム化合物、ケイ酸化合物及び還元性硫黄化合物を含有し、さらに有機酸遷移金属塩を含有する塩基性水分散液を調製するのが好ましい。通常、有機酸塩は固相法に用いられる原料であるが、水熱反応に用いることにより副反応を抑制することができる。なお、この場合における反応混合液中のSi及びLiは、遷移金属に対してモル比で2倍以上用いることが好ましく、Si:Li:Mが1:1:2.5〜1:1:3程度がより好ましい。
【0016】
リチウム化合物としては、水酸化リチウム(例えばLiOH・H2O)、炭酸リチウム(Li2CO3)、硫酸リチウム、酢酸リチウムが挙げられるが、水酸化リチウム、炭酸リチウムが特に好ましい。水分散液中のリチウム化合物の濃度は、0.30〜3.00mol/lが好ましく、さらに1.00〜1.50mol/lが好ましい。
【0017】
ケイ酸化合物としては、反応性のあるシリカ化合物であれば特に限定されず、非晶質シリカ、Na4SiO4(例えばNa4SiO4・H2O)が好ましい。このうちNa4SiO4を用いた場合、水分散液が塩基性になるので、より好ましい。水分散液中のケイ酸化合物の濃度は、0.15〜1.50mol/lが好ましく、さらに0.50〜0.75mol/lが好ましい。
【0018】
還元性硫黄化合物としては、亜ジチオン酸イオン(S242-)、亜硫酸イオン(SO32-)、亜硫酸水素イオン(HSO3-)又はチオグリコール酸イオン(C23SO2-)を含有する化合物が挙げられる。具体的には、例えば、亜ジチオン酸ナトリウム(Na224)、亜ジチオン酸カリウム、亜ジチオン酸アンモニウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素アンモニウム、チオグリコール酸ナトリウム、チオグリコール酸カルシウム、チオグリコール酸アンモニウム等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。なかでも、亜ジチオン酸イオンを含有する化合物が好ましく、亜ジチオン酸ナトリウムがより好ましい。水分散液中の還元性硫黄化合物の含有量は、多量に添加するとオリビン型シリケート化合物の生成を抑制してしまうため、遷移金属に対してモル比で0.001〜1が好ましく、0.1〜0.8がさらに好ましい。
【0019】
遷移金属源として遷移金属硫酸塩MSO4(式中、MはFe、Mn、Al、又はZrを示す)を用いる場合、副反応を抑制する点から、遷移金属硫酸塩とは別に、リチウム化合物、ケイ酸化合物及び還元性硫黄化合物を含有する塩基性水分散液を予め調製しておくのが好ましい。この場合、該水分散液と遷移金属硫酸塩とを混合し、水熱反応に付す。該水分散液の調製にあたって、リチウム化合物、ケイ酸化合物及び還元性硫黄化合物の添加順序は特に限定されず、これらの3成分を水に添加してもよい。
【0020】
該水分散液は、副反応を防止し、ケイ酸化合物を溶解する点から、塩基性とするのがよい。具体的には、該水分散液のpHは、12.0〜13.5であるのが好ましい。該水分散液のpHの調整は、塩基、例えば、水酸化ナトリウムを添加することにより行ってもよいが、ケイ酸化合物としてNa4SiO4を用いるのが好ましい。
【0021】
水熱反応は、100℃以上であればよく、130〜180℃が好ましく、さらに140〜160℃が好ましい。水熱反応は耐圧容器中で行うのが好ましく、130〜180℃で反応を行う場合この時の圧力は0.3〜0.9MPaとなり、140〜160℃で反応を行う場合の圧力は0.3〜0.4MPaとなる。水熱反応時間は1〜24時間が好ましく、さらに3〜12時間が好ましい。
【0022】
当該水熱反応により、オリビン型シリケート化合物及び硫黄を含有する二次電池用正極活物質前駆体が高収率で得られ、その結晶度も高い。かかる二次電池用正極活物質前駆体は、ろ過後、乾燥することにより単離できる。乾燥手段は、凍結乾燥、真空乾燥が用いられる。
【0023】
二次電池用正極活物質前駆体に含まれるオリビン型シリケート化合物の粒子は、針状を呈しており、得られる二次電池用正極活物質において充放電特性を高めるのに大きく寄与するものである。
【0024】
また二次電池用正極活物質前駆体の硫黄の含有量は、二次電池用正極活物質前駆体中に、好ましくは0.01〜50質量%であり、より好ましくは0.01〜20質量%であり、さらに好ましくは0.01〜10質量%である。
【0025】
得られた二次電池用正極活物質前駆体は、カーボン担持し、次いで焼成することにより、二次電池用正極活物質とすることができる。カーボン担持は、二次電池用正極活物質前駆体に常法により、グルコース、フルクトース、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、サッカロース、デンプン、デキストリン、クエン酸等の炭素源及び水を添加し、次いで焼成すればよい。焼成条件は、不活性ガス雰囲気下又は還元条件下に400℃以上、好ましくは400〜800℃で10分〜3時間、好ましくは0.5〜1.5時間行うのが好ましい。かかる処理により二次電池用正極活物質前駆体表面にカーボンが担持された正極活物質とすることができる。炭素源の使用量は、二次電池用正極活物質前駆体 100質量部に対し、炭素源に含まれる炭素として3〜15質量部が好ましく、炭素源に含まれる炭素として5〜10質量部がさらに好ましい。
【0026】
得られた正極活物質は、放電容量の点で優れており、二次電池の正極材料として有用である。本発明の正極活物質を適用できる二次電池としては、リチウムイオン二次電池であればよく、正極と負極と電解液とセパレータを必須構成とするものであれば特に限定されない。
【0027】
ここで、負極については、リチウムイオンを充電時には吸蔵し、かつ放電時には放出することができれば、その材料構成で特に限定されるものではなく、公知の材料構成のものを用いることができる。たとえば、リチウム金属、グラファイト又は非晶質炭素等の炭素材料等である。そしてリチウムを電気化学的に吸蔵・放出し得るインターカレート材料で形成された電極、特に炭素材料を用いることが好ましい。
【0028】
電解液は、有機溶媒に支持塩を溶解させたものである。有機溶媒は、通常リチウムイオン二次電池の電解液の用いられる有機溶媒であれば特に限定されるものではなく、例えば、カーボネート類、ハロゲン化炭化水素、エーテル類、ケトン類、ニトリル類、ラクトン類、オキソラン化合物等を用いることができる。
【0029】
支持塩は、その種類が特に限定されるものではないが、LiPF6、LiBF4、LiClO4及びLiAsF6から選ばれる無機塩、該無機塩の誘導体、LiSO3CF3、LiC(SO3CF32及びLiN(SO3CF32、LiN(SO2252及びLiN(SO2CF3)(SO249)から選ばれる有機塩、並びに該有機塩の誘導体の少なくとも1種であることが好ましい。
【0030】
セパレータは、正極及び負極を電気的に絶縁し、電解液を保持する役割を果たすものである。たとえば、多孔性合成樹脂膜、特にポリオレフィン系高分子(ポリエチレン、ポリプロピレン)の多孔膜を用いればよい。
【実施例】
【0031】
以下、本発明について、実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
なお、硫黄の含有量は、炭素硫黄分析装置を用いて、酸素気流中燃焼−赤外線吸収法により測定した。
【0032】
[実施例1]
LiOH・H2O 4.20g(0.1mol)、Na4SiO4・nH2O 6.99g(0.025mol)、Na224 4.35g(0.025mol)に超純水75cm3を加えて混合した(この時のpHは約12.5)。この水分散液にFeSO4・7H2O6.95g(0.025mol)を添加し、混合した。得られた混合液をオートクレーブに投入し、150℃で16hr水熱反応を行った。反応液をろ過後、凍結乾燥し(約12時間)、粉末を得た。得られた凍結乾燥粉末8.4gにグルコース(炭素濃度として10%)及び超純水10cm3を加え、還元雰囲気下、600℃で1hr焼成した。得られた焼成物100質量%中の硫黄の含有量は、4.0質量%であった。
【0033】
[比較例1]
Na224を加えなかった以外、実施例1と同様にして、凍結乾燥粉末を得、得られた凍結乾燥粉末を同様にして焼成した。得られた焼成物100質量%中の硫黄の含有量は、0.001質量%であった。
【0034】
[実施例2]
LiOH・H2O 4.20g(0.1mol)、Na4SiO4・nH2O 6.99g(0.025mol)、Na2SO3 6.3g(0.05mol)に超純水75cm3を加えて混合した(この時のpHは約12.5)。この水分散液にFeSO4・7H2O6.95g(0.025mol)を添加し、混合した。得られた混合液をオートクレーブに投入し、150℃で16hr水熱反応を行った。反応液をろ過後、凍結乾燥し(約12時間)、粉末を得た。得られた凍結乾燥粉末8.4gにグルコース(炭素濃度として10%)及び超純水10cm3を加え、還元雰囲気下、600℃で1hr焼成した。得られた焼成物100質量%中の硫黄の含有量は、1.5質量%であった。
【0035】
[実施例3]
LiOH・H2O 4.20g(0.1mol)、Na4SiO4・nH2O 6.99g(0.025mol)、NaHSO3 5.20g(0.05mol)に超純水75cm3を加えて混合した(この時のpHは約12.5)。この水分散液にFeSO4・7H2O6.95g(0.025mol)を添加し、混合した。得られた混合液をオートクレーブに投入し、150℃で16hr水熱反応を行った。反応液をろ過後、凍結乾燥し(約12時間)、粉末を得た。得られた凍結乾燥粉末8.4gにグルコース(炭素濃度として10%)及び超純水10cm3を加え、還元雰囲気下、600℃で1hr焼成した。得られた焼成物100質量%中の硫黄の含有量は、1.4質量%であった。
【0036】
《試験例1》
実施例1〜3及び比較例1で得られた凍結乾燥粉末のSEM観察を行った。このときのSEM像を図1(実施例1)、図2(実施例2)、図3(実施例3)及び図4(比較例1)に示す。
図1〜4によれば、オリビン型シリケート化合物の粒子がほぼ球状に近似している比較例1に対し、実施例1〜3のオリビン型シリケート化合物の粒子は針状を呈していることがわかる。
【0037】
《試験例2》
実施例1〜3及び比較例1で得られた焼成物を用い、リチウムイオン二次電池の正極を作製した。実施例1〜3及び比較例1で得られた焼成物、ケッチェンブラック(導電剤)、ポリフッ化ビニリデン(粘結剤)を重量比75:15:10の配合割合で混合し、これにN−メチル−2−ピロリドンを加えて充分混練し、正極スラリーを調製した。正極スラリーを厚さ20μmのアルミニウム箔からなる集電体に塗工機を用いて塗布し、80℃で12時間の真空乾燥を行った。その後、φ14mmの円盤状に打ち抜いてハンドプレスを用いて16MPaで2分間プレスし、正極とした。
【0038】
次いで、上記の正極を用いてコイン型リチウムイオン二次電池を構築した。負極には、φ15mmに打ち抜いたリチウム箔を用いた。電解液には、エチレンカーボネート及びエチルメチルカーボネートを体積比1:1の割合で混合した混合溶媒に、LIPF6を1mol/lの濃度で溶解したものを用いた。セパレータには、ポリプロピレンなどの高分子多孔フィルムなど、公知のものを用いた。これらの電池部品を露点が−50℃以下の雰囲気で常法により組み込み収容し、コイン型リチウム二次電池(CR−2032)を製造した。
【0039】
製造したリチウムイオン二次電池を用いて定電流密度での充放電を4サイクル行った。このときの充電条件は電流0.1CA(33mA/g)、電圧4.5Vの定電流定電圧充電とし、放電条件は電流0.1CA、終止電圧1.5Vの定電流放電とした。温度は全て30℃とした。これら実施例1〜3及び比較例1の正極材で構築した電池の充放電曲線を図5に示す。
【0040】
図5より、オリビン型シリケート化合物及び硫黄を含有する二次電池用正極活物質前駆体を用いたリチウムイオン二次電池は、優れた電池物性を有することがわかる。
図5
図1
図2
図3
図4