特許第5665811号(P5665811)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人九州大学の特許一覧 ▶ ウシオ電機株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5665811-光誘起蛍光測定器 図000002
  • 特許5665811-光誘起蛍光測定器 図000003
  • 特許5665811-光誘起蛍光測定器 図000004
  • 特許5665811-光誘起蛍光測定器 図000005
  • 特許5665811-光誘起蛍光測定器 図000006
  • 特許5665811-光誘起蛍光測定器 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5665811
(24)【登録日】2014年12月19日
(45)【発行日】2015年2月4日
(54)【発明の名称】光誘起蛍光測定器
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/64 20060101AFI20150115BHJP
【FI】
   G01N21/64 Z
【請求項の数】5
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2012-171825(P2012-171825)
(22)【出願日】2012年8月2日
(65)【公開番号】特開2014-32064(P2014-32064A)
(43)【公開日】2014年2月20日
【審査請求日】2014年10月3日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100930
【弁理士】
【氏名又は名称】長澤 俊一郎
(72)【発明者】
【氏名】興 雄司
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 宏晃
(72)【発明者】
【氏名】森田 金市
【審査官】 田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−062349(JP,A)
【文献】 特開平11−271217(JP,A)
【文献】 特開2000−241428(JP,A)
【文献】 特表2013−518270(JP,A)
【文献】 特開2012−208134(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00−21/83
G01J 3/44
JSTPlus(JDreamIII)
JMEDPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体光源と、試料を保持する試料保持部材と、上記試料保持部材に保持された試料から放出される蛍光を検出する蛍光測定器と、上記試料から放出される蛍光を収集し上記蛍光測定器まで導光する蛍光収集光学系とからなる光誘起蛍光測定器であって、
上記試料保持部材は、励起光である該固体光源から出射する光及び上記試料から放出される蛍光に対して透明であり、
上記固体光源、試料保持部材、蛍光測定器、及び蛍光収集光学系は、上記固体光源から出射する励起光および上記試料から放出される蛍光を含む光に対して透明な樹脂内に埋設されているとともに、上記蛍光収集光学系の上記蛍光を導光する光路の少なくとも一部に上記樹脂が充填され、上記樹脂が、上記試料保持部材、蛍光測定器、及び、蛍光収集光学系を保持する筐体を構成しており、
上記励起光および試料から放出される蛍光を含む光が通過する光路を包囲する樹脂領域には、上記励起光、上記試料保持部材に上記励起光が照射される際に発生する自家蛍光、及び上記励起光が上記樹脂内を進行する際、上記樹脂から発生するラマン光を吸収する波長特性を有する顔料が含有されていて、
上記顔料の含有量が、上記励起光及び上記試料から放出される蛍光を含む光が通過する光路を含む空間において発生し該光路外へ進行する光を全て吸収する量に設定されている
ことを特徴とする光誘起蛍光測定器。
【請求項2】
上記蛍光収集光学系は、少なくとも、レンズ、ノッチフィルタ、色ガラスフィルタを含むことを特徴とする請求項1に記載の光誘起蛍光測定器。
【請求項3】
上記蛍光収集光学系には2個のレンズが設けられ、該2個のレンズが対向する空間は、上記樹脂が充填されていない空洞となっており、該空洞と該樹脂との境界面はレンズ形状に形成され、該樹脂の一部が上記レンズを構成している
ことを特徴とする請求項2に記載の光誘起蛍光測定器。
【請求項4】
上記蛍光収集光学系が、上記励起光および試料から放出される蛍光を含む光が入射する側から順に、上記固体光源から出射する励起光の波長の光を反射する第1のノッチフィルタと、上記励起光および上記試料から放出される蛍光を含む光を平行光にする第1のレンズと、上記励起光の波長の光を反射する第2のノッチフィルタと、試料から放出される蛍光以外の光を吸収する第1の色ガラスフィルタと、上記蛍光を含む光を集光する第2のレンズと、第2のレンズの光軸上であって、蛍光の集光位置近傍に配置されるアパーチャとから構成される
ことを特徴とする請求項2もしくは請求項3のいずれか一項に記載の光誘起蛍光測定器。
【請求項5】
上記試料保持部材に保持される試料は、
抗体軽鎖可変領域ポリペプチドと抗体重鎖可変領域ポリペプチドとを備え、前記抗体軽鎖可変領域ポリペプチドと抗体重鎖可変領域ポリペプチドのいずれか一方が蛍光色素により標識されたキットを含む
ことを特徴とする請求項1、請求項2、請求項3もしくは請求項4のいずれか一項に記載の光誘起蛍光測定器。





【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小型で持ち運びが容易であり、簡便で高速、高性能な測定が可能な光誘起蛍光測定器に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、物質、分子、原子の発光現象を利用した発光分析の感度は非常に高い。そのような発光を利用した分析法として、レーザ光を用いたレーザ誘起蛍光法(Laser Induced Fluorescence:LIF)が知られている。
LIFは、計測する対象である原子や分子の共鳴遷移を利用して励起準位に合致した(波長をチューニングした)レーザ光を照射して上記計測対象(原子や分子)を励起し、それによって引き起こされる発光(蛍光)を測定する手法である。
蛍光の強度から測定対象の濃度が算定され、蛍光のスペクトル分布から測定対象の温度が算定される。
【0003】
LIFは様々な技術分野で採用される。例えば、環境分野においては、特許文献1に開示されているように、大気中の窒素酸化物(NOx)の濃度測定に使用される。また、冶金分野においては、特許文献2に開示されているように、金属精錬炉内の溶融金属中の元素濃度測定に用いられる。
【0004】
上記したLIFは、特に、ライフサイエンス分野における広範囲なバイオアナリシスにおいて採用される。蛍光の使用は、バイオアナリシスにおいて有用である。レーザが照射された試料Sから放出される蛍光を検出することにより、試料Sの生化学組成、物理特性、化学特性、分光特性、生化学試料又は生体試料の構造などの情報を抽出することが可能である。蛍光状態の存続期間は、通常ps〜nsオーダーであるので、LIFを用いることにより、生体試料の生体内作用時間であるμsオーダーの時間分解能の測定を行うことができる。
【0005】
ライフサイエンス分野にLIFを採用した例としては、例えば特許文献3には、炭疽菌等の生物兵器を用いた都市でのテロルに対する早期警戒システムとして、生物兵器の検出にLIFが採用されることが開示されている。
また、特許文献4には、蛍光標識された生体試料をマイクロチップ内で電気泳動させ、当該試料をLIFにより分析する測定装置が開示されている。また、特許文献5には、抗体軽鎖可変領域ポリペプチドと抗体重鎖可変領域ポリペプチドとを備え、前記抗体軽鎖可変領域ポリペプチドと抗体重鎖可変領域ポリペプチドのいずれか一方が蛍光色素により標識されたキット、並びに、このキットと反応する抗原濃度測定が蛍光色素の蛍光強度を検出することにより行われることが開示されており、この蛍光強度の検出についてLIFを利用する例が記載されている。特許文献6には、LIFによる抗原測定装置が開示されている。
【0006】
図6に、特許文献6に開示されているLIFによる抗原測定装置の構成例を示す。詳細な説明は省略するが、測定は例えば以下のように行われる。抗体を含む試料Sを保持するバッファーバイアル102にキャピラリーカラム101および電極103a,103bが挿入される。
試料Sに抗原が導入され試料中で抗体抗原反応が発生する。そして、高電圧電源110により電力を供給すると、電気泳動により試料中から抗体抗原複合体や抗体が分離されキャピラリーカラム101中を移動する。途中、電力供給を停止し、抗体抗原複合体や抗体の酵素反応を行う。再度、電力供給を再開すると、酵素反応した抗体抗原複合体や抗体が電気泳動により、レーザ装置105からのレーザビーム111がミラー106により反射されて集光レンズ104により集光されている測定位置に移動する。測定位置に到達した酵素反応した抗体抗原複合体や抗体は、レーザビーム111が照射され蛍光を発する。
【0007】
上記蛍光は、レーザビーム111は反射するが蛍光を透過するミラー106を通過し、蛍光を反射するミラー107により反射され、光学フィルタ108を介して光電子増倍管109に入射する。これにより蛍光の強度が測定される。
なお、光学フィルタ108は、励起光であるレーザビームの散乱光をカットして、蛍光のみを選択的に透過させる機能を有し、レーザビームの散乱光が光電子増倍管109に入射するのを防止する。また、酵素反応した抗体抗原複合体と抗体は、電気泳動で進むスピードが互いに相違するので、酵素反応した抗体抗原複合体からの蛍光、酵素反応した抗体からの蛍光が光電子増倍管109に到達するタイミングは相違する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−292220号公報
【特許文献2】特開2008−215851号公報
【特許文献3】特表2009−501907号公報
【特許文献4】特表2005−535871号公報
【特許文献5】国際公開第2011/061944号A1
【特許文献6】特開2000−241428号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年、ライフサイエンス分野では、ポイントオブケア検査(POCT)の要請が高まってきており、分析が必要な現場において、検査時間が短く、かつ高精度な評価分析であるような小型かつ携帯可能な測定器の需要が大きくなっている。すなわち、LIFを利用した測定装置(以下、LIF測定装置と称する)にも、このような需要への対応が要請されている。
【0010】
LIF測定装置は、先に図6で示したように、光電子増倍管等の蛍光測定器、光学フィルタ、光学レンズ、レーザ光源等を有している。小型、かつ、携帯可能なLIF測定装置を実現するためには、例えば、電気泳動を用いた分離システムをマイクロチップ化して小型化を図ることが考えられる。この場合、当然ながらレーザ光源と蛍光測定器との距離も近くなり、測定対象へ照射される励起光であるレーザビームの装置内での反射・散乱の影響が無視できなくなる。
【0011】
すなわち、集光レンズや光学フィルタ等の光学素子や測定対象を内部に保持する光透過性のマイクロチップ等をレーザビームが通過した結果、LIF測定装置内部では、レーザビームの反射や散乱が発生する。レーザ光源1と蛍光測定器との距離が近くなると、上記したレーザビームの反射光や散乱光が蛍光測定器に到達する確率が著しく高くなる。また、LIF測定装置の小型化により、LIF測定装置の筐体(図6に示す例では省略されている)とレーザ光源1や蛍光測定器との距離も近くなり、筐体内面において発生するレーザビームの反射・散乱の影響も無視できなくなる。
【0012】
一般に、励起光であるレーザビームの強度は、測定対象からの蛍光の強度と比べると著しく大きいので、元々のレーザビームと比較すると強度が微弱なレーザビームの反射光や散乱光であっても、蛍光測定器に入力してしまうと蛍光測定器の蛍光検出感度に重大な影響を与えることになる。
【0013】
このような反射光、散乱光の影響を除去するためには、例えば、光学フィルタを複数使用することになり、LIFの光学系が複雑になる。そして、このような複雑な光学系を構成する光学素子はLIF測定装置内において光学素子ホルダーにより保持されるが、小型、かつ、携帯可能なLIF測定装置の場合、運搬時の振動や予期せぬ外部構造物との衝突による衝撃により、光学系のアライメントがずれる可能性がある。
【0014】
この場合、LIF測定装置内の光学系の再アライメントが必要となるが、上記したように、LIF装置内部に構成される光学系は複雑であるため、再アライメントを行う作業者には熟練の技能が要求される。
ポイントオブケア検査(POCT)は、例えば、救急車内での検査、患者自身が自宅などで行う自己検査、屋外での禁止薬物検査等の状況で行われる。このような検査作業者は、上記したような光学系のアライメントを実施する技能を必ずしも持ち合わせているわけではない。
【0015】
よって、光学素子ホルダーの構造も、振動や衝撃の影響を受けても光学素子のアライメントずれが抑制されるように、頑丈で大掛かりなものにする必要がある。
また、上記したように、レーザビームの反射光や散乱光の影響を小さくするため、LIFの光学系を構成する光学素子の数は多くなるので、光学素子ホルダー、光学素子からなる光学系の構造は大掛かりにならざるを得ない。
すなわち、従来は、POCTの要請に対応できるような、小型かつ携帯や運搬が可能で、迅速かつ高精度な測定性能を有するLIF測定装置を構築するのは、非常に困難であった。
【0016】
本発明は、以上のような事情に鑑みなされたものであって、その課題は、運搬時の振動や予期せぬ外部構造物との衝突による衝撃を受けたとしても内部の光学系のアライメントずれが抑制され、また、比較的簡易な光学系で、励起光の反射光や散乱光が蛍光測定器へ入射を抑制することが可能であり、ポイントオブケア検査の要請に対応可能な小型で持ち運びが容易であり、簡便で高速、高性能な測定が可能な光誘起蛍光測定器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明においては、つぎのようにして前記課題を解決する。
(1)固体光源と、試料を保持する試料保持部材と、上記試料保持部材に保持された試料から放出される蛍光を検出する蛍光測定器と、上記試料から放出される蛍光を収集し上記蛍光測定器まで導光する蛍光収集光学系とからなる光誘起蛍光測定器において、上記試料保持部材を、励起光である該固体光源から出射する光及び上記試料から放出される蛍光に対して透明とし、上記固体光源、試料保持部材、蛍光測定器、及び蛍光収集光学系を、上記固体光源から出射する励起光および上記試料から放出される蛍光を含む光に対して透明な樹脂内に埋設する。そして、上記蛍光収集光学系の上記蛍光を導光する光路の少なくとも一部に上記樹脂を充填し、上記樹脂により、上記試料保持部材、蛍光測定器、及び、蛍光収集光学系を保持する筐体を構成する。
また、上記励起光および試料から放出される蛍光を含む光が通過する光路を包囲する樹脂領域には、上記励起光、上記試料保持部材に上記励起光が照射される際に発生する自家蛍光、及び上記励起光が上記樹脂内を進行する際、上記樹脂から発生するラマン光を吸収する波長特性を有する顔料をほぼ一様に含有させ、この顔料の含有量を、上記励起光及び上記試料から放出される蛍光を含む光が通過する光路を含む空間において発生し該光路外へ進行する光を全て吸収する量に設定する。
(2)上記(1)において、上記蛍光収集光学系は、少なくとも、レンズ、ノッチフィルタ、色ガラスフィルタを含む。
(3)上記(2)において、蛍光収集光学系に2個のレンズを設け、該2個のレンズが対向する空間を、上記樹脂が充填されていない空洞とし、該空洞と該樹脂との境界面をレンズ形状に形成し、該樹脂の一部により上記レンズを構成する。
(4)上記(2)(3)において、上記蛍光収集光学系を、上記励起光および試料から放出される蛍光を含む光が入射する側から順に、上記固体光源から出射する励起光の波長の光を反射する第1のノッチフィルタと、上記励起光および上記試料から放出される蛍光を含む光を平行光にする第1のレンズと、上記励起光の波長の光を反射する第2のノッチフィルタと、試料から放出される蛍光以外の光を吸収する第1の色ガラスフィルタと、上記蛍光を含む光を集光する第2のレンズと、第2のレンズの光軸上であって、蛍光の集光位置近傍に配置されるアパーチャとから構成する。
(5)上記(1)(2)(3)(4)において、上記試料保持部材に保持される試料は、抗体軽鎖可変領域ポリペプチドと抗体重鎖可変領域ポリペプチドとを備え、前記抗体軽鎖可変領域ポリペプチドと抗体重鎖可変領域ポリペプチドのいずれか一方が蛍光色素により標識されたキットを含む。
【発明の効果】
【0018】
本発明においては、以下の効果を得ることができる。
(1)固体光源、被測定試料を保持する試料保持部材、レンズや光学フィルタ等からなる蛍光収集光学系、蛍光測定器が上記固体光源から出射する励起光および上記試料から放出される蛍光を含む光に対して透明な樹脂内に埋設された構造を有するので、光誘起蛍光測定器に振動や衝撃が加えられたとしても光学素子等の位置の変動が起こりにくく、その結果、蛍光収集光学系のアライメントずれが抑制される。
また、樹脂と光学素子の密着性は良好であり、両者の接触部分に空気が存在する場合に発生する不所望な光の反射や散乱も殆ど発生しない。
(2)固体光源から出射する励起光および試料から放出される蛍光を含む光が通過する光路を包囲する樹脂領域に、上記励起光、上記試料保持部材に上記励起光が照射される際に発生する自家蛍光、上記樹脂から発生するラマン光等を吸収する波長特性を有する顔料を含有させ、この顔料の含有量を、上記励起光および試料から放出される蛍光を含む光が通過する光路を含む空間において発生し、該光路外へ進行する光を全て吸収する量に設定することにより、装置外部に励起光や測定光である蛍光を放出することはない。また、外部からの光が蛍光収集光学系等の内部に入ることもなく、高精度な測定が可能となる。
特に、顔料を含有する樹脂(顔料含有樹脂)と、上記固体光源、試料保持部材、蛍光収集光学系等を埋設した透明な樹脂を同じ材質とすることにより、両者の屈折率は同じであるので、上記透明な樹脂が占める領域と上記顔料含有樹脂が占める領域との間には屈折率境界がない。
このため、上記透明な樹脂が占める領域を通過した光が、上記顔料含有樹脂が占める領域に入射する場合、両樹脂が接触する界面において光の反射や散乱は抑制される。また、上記励起光やその反射光・散乱光等が上記顔料含有樹脂の占める領域に入射しても、当該顔料含有樹脂に含有される顔料により吸収され、上記反射光・散乱光等の迷光が、再び、レーザ照射空間や蛍光収集光学系が構成される空間内に戻ることは殆どない。
また、レーザ光を利用する場合には人体(特に目)に対する安全性確保が一般機器仕様では重要になるが、本発明では原則光が外部に漏れないこと、ガラス製の分光光学系と異なり破損により光が外部に漏洩する危険がないこと、光が導光する領域がほとんど固体であるために人の覗き込みや鏡の挿入で光の漏洩が起きにくいこと、の3点からその危険性を著しく減じることができる。
また、迷光の複雑な多重反射は殆ど発生せず、蛍光収集光学系は、複雑な多重反射に対応する必要がない。このため、蛍光収集光学系の構成は簡便化され、結果的に本発明のレーザ誘起蛍光測定器を小型化することが可能となる。
(3)蛍光収集光学系に設けられた2個のレンズが対向する空間を、透明な樹脂が充填されていない空洞とし、該空洞と樹脂との境界面をレンズ形状に形成することにより、該樹脂の一部でレンズを構成することができ、ガラス等のレンズを別途設ける必要がなく、部品点数を少なくすることができる。
(4)励起光および試料から放出される蛍光を含む光が通過する光路を包囲する樹脂領域を顔料含有樹脂とし、蛍光収集光学系を、固体光源から出射する励起光の波長の光を反射する第1のノッチフィルタと、上記励起光および上記試料から放出される蛍光を含む光を平行光にする第1のレンズと、上記励起光の波長の光を反射する第2のノッチフィルタと、試料から放出される蛍光以外の光を吸収する第1の色ガラスフィルタと、上記蛍光を含む光を集光する第2のレンズと、蛍光の集光位置近傍に配置されるアパーチャとから構成することにより、測定対象蛍光のみを効果的に集光して、蛍光測定器に導光することができ、また、測定対象蛍光以外の光を光路の途中でほぼ吸収して測定対象蛍光以外の光が蛍光測定器に到達するのを防ぐことができる。
(5)上記試料保持部材に保持される試料として、抗体軽鎖可変領域ポリペプチドと抗体重鎖可変領域ポリペプチドとを備え、前記抗体軽鎖可変領域ポリペプチドと抗体重鎖可変領域ポリペプチドのいずれか一方が蛍光色素により標識されたキットを用い、蛍光物質で標識された抗体に抗原を注入して混合し、この混合液体に励起光を照射し発生する蛍光を測定することで、簡便に抗原と抗体の結合状態を測定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施例の光誘起蛍光測定器の全体構成を示す図である。
図2】試料を含有する試料ケースの設置を説明する図である。
図3】試料ケースのレーザビームの入射面がレーザのブリュースター角をなし、出射面が蛍光のブリュースター角をなすように構成した試料ケースを説明する図である。
図4】レーザ照射空間ならびに蛍光収集光学系の構成例を示す図である。
図5】樹脂に対して顔料の含有量が段階的に増加する様子を模式的に示した図である。
図6】LIFによる抗原測定装置の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1に、本発明の実施例の光誘起蛍光測定器の全体構成を示す。図1に示す実施例のレーザ誘起蛍光測定器は直方体であり、側面図等は省略するが、図1は、直方体の上面と略平行な断面図を示している。
本発明の実施例の光誘起蛍光測定器は、図1に示すように、固体光源(例えばレーザ光源1)、被測定試料Sを保持する試料保持部材(試料ケース2)、レンズや光学フィルタ等からなる蛍光収集光学系3、蛍光測定器(例えば光電子増倍管4)を含み、これらが樹脂6内に埋設された構造を有する。また、この樹脂6内に、必要に応じて上記固体光源および蛍光測定器に電力を供給する電力源5が埋設される。上記樹脂6は、上記試料保持部材、蛍光測定器、及び、蛍光収集光学系等を保持する筐体を構成する。
【0021】
上記固体光源としては、レーザ光源1(例えば半導体レーザあるいは半導体励起固体レーザ(Diode-pumped solid-state (DPSS) lasers)を用いることができるが、例えばLED等であってもよい。以下の説明では、固体光源がレーザ光源であり、本発明の光誘起蛍光測定器がレーザ誘起蛍光測定器である場合について説明する。なお、図1では、上記DPSSレーザは電力源5のバッテリーボックスに設置されるバッテリーにより駆動され、DPSSレーザのレーザヘッド部分のみが、試料SにレーザビームLを照射するための所定の場所に位置している。
上記樹脂6は、レーザ光源1から試料に照射される励起光(以下ではレーザビームLともいう)の波長、励起光が照射された試料Sから放出される蛍光を含む光の波長に対して、透明な特性を有するものが採用される。
【0022】
すなわち、レーザ光源1からのレーザビームLが照射される試料Sが保持される空間(レーザ照射空間7)および、試料Sから放出される蛍光を蛍光測定器である光電子増倍管4まで導光するための光路を形成する蛍光収集光学系3の空間の少なくとも一部には、上記した波長に対して透明な樹脂6が充填される。
樹脂6としては、シリコーン、アクリル、ポリカーボネート、環状オレフィン樹脂(COC(Cyclic Olefin Copolymer)、COP(Cyclic Olefin Polymer)等を用いることができる。以下に説明する実施例では樹脂6としてシリコーンを用いた場合について説明する。
【0023】
図1に示した蛍光収集光学系3においては、蛍光収集光学系3内に第1のノッチフィルタ31a、第1のレンズ32a、第2のノッチフィルタ31b、第1の色ガラスフィルタ33a、第2の色ガラスフィルタ33b、第2のレンズ32b、アパーチャ34、第3の色ガラスフィルタ33cが配置されているが、レンズ32a,32bの間の空間には樹脂6は充填されておらず、空気が封入された空洞になっており、その他の部分には、透明なシリコーン樹脂6が充填されている。
なお、レーザ照射空間7および蛍光収集光学系3内の空間全部にシリコーン樹脂6が充填されていてもよく、また、レーザ照射空間7、および/または、蛍光収集光学系3の第1のノッチフィルタ31aと第2のレンズ32bの間の空間をシリコーン樹脂が充填されていない空間としてもよい。
図1に示すようにレンズ32a,32bの間の空間にシリコーン樹脂6を充填しないように構成し、該空間と該シリコーン樹脂6との境界面をレンズ形状に形成すれば、該樹脂の一部を上記レンズとして利用することができ、ガラス等で形成されたレンズを別途設ける必要がなく、部品点数を少なくすることができる。
【0024】
上記励起光および試料から放出される蛍光を含む光が通過する光路を包囲する樹脂領域(レーザ照射空間7および蛍光収集光学系3において、励起光および試料Sからの蛍光が通過する光路を構成する空間を包囲する領域)には、上記励起光、上記試料保持部材に上記励起光が照射される際に発生する自家蛍光、及び上記励起光が上記シリコーン樹脂内を進行する際、上記シリコーン樹脂から発生するラマン光を吸収する波長特性を有する顔料がほぼ一様に含有され、上記顔料の含有量が、上記励起光及び上記試料から放出される蛍光を含む光が通過する光路を含む空間において発生し該光路外へ進行する光を全て吸収する量に設定されている。本発明のレーザ誘起蛍光測定器においては、黒色顔料が採用されている。
なお、上記励起光及び上記試料から放出される蛍光を含む光が通過する光路を含む空間において発生し該光路外へ進行する光を全て吸収可能であれば、上記樹脂領域に含有される顔料はほぼ一様でなくてもよく、例えば、濃度分布を伴って上記樹脂領域中に含有されていてもよい。また、上記樹脂領域中に部分的に含有されていてもよい。
【0025】
本発明の実施例のレーザ誘起蛍光測定器は、レンズや光学フィルタ等からなる蛍光収集光学系3が樹脂6に埋設された構造を有するので、レンズや光学フィルタといった光学素子は樹脂6により空間的に固定される。
すなわち、光学素子全体が樹脂6に包囲されているので、レーザ誘起蛍光測定器に振動や衝撃が加えられたとしても光学素子自体の位置の変動が起こりにくく、その結果、蛍光収集光学系3のアライメントずれが抑制される。
本構成により、従来、レーザ誘起蛍光測定器に加えられる振動や衝撃に対応するために用いざるを得なかった頑丈で大掛かりな光学素子ホルダーも不要となり、装置自体をコンパクトに構成することが可能となる。
また、シリコーン樹脂6に光学素子を埋設する際、樹脂6と光学素子との接触面から空気をパージしながら両者を接触させることが可能であるので、両者の密着性は良好であり、両者の接触部分に空気が存在する場合に発生する不所望な光の反射や散乱も殆ど発生しない。
【0026】
上記したように、レーザ照射空間7、蛍光収集光学系3が構成される空間は、励起光であるレーザビームLや試料Sを保持する試料ケース2にレーザビームLが照射される際に発生する自家蛍光を吸収する特性を有する顔料を含有するシリコーン樹脂6により包囲されている。
レーザ照射空間7、蛍光収集光学系3が構成される空間を構成するシリコーン樹脂6と、当該樹脂6を包囲するように構成される顔料が包含されているシリコーン樹脂61(以下、顔料含有シリコーン樹脂61ともいう)とは、樹脂自体は同じ材質であるので、両者の屈折率は同じである。すなわち、上記シリコーン樹脂6が占める領域と上記顔料含有シリコーン樹脂61が占める領域との間には屈折率境界がない。よって、上記シリコーン樹脂6が占める領域を通過した光が、上記顔料含有シリコーン樹脂61が占める領域に入射する場合、両シリコーン樹脂6が接触する界面において光の反射や散乱は抑制される。
【0027】
なお、樹脂6と当該樹脂6を包囲する顔料含有樹脂61との間の境界面近傍での屈折率分散の状態の複雑な変化により、ごく僅かではあるが上記境界面もしくは境界面近傍において光の反射が発生することも考えられる。しかし、実際には、上記樹脂6と顔料含有樹脂61の境界においては、樹脂に対して顔料の含有量が傾斜状に増加するようになると考えられ、後述するように、樹脂6と顔料含有樹脂61の境界において反射光が生じてもその強度は極めて小さく、上記反射光が樹脂6に再進入することはほとんど無い。
また、顔料含有樹脂61が他の部材と接する境界、顔料含有樹脂61の端面(空気と接する面)の近傍においても、実際には上記と同様に顔料の含有量は傾斜状に増加すると考えられ、顔料含有樹脂61の表面での反射は比較的少ないと考えられる。
【0028】
また、顔料含有シリコーン樹脂61に含有されている顔料は、励起光であるレーザビームLや、試料Sを保持する試料ケース2にレーザビームLが照射される際に発生する自家蛍光、励起光がシリコーン樹脂6内を進行する際、樹脂6において発生するラマン光を吸収する特性のものが採用されているので、例えば、蛍光収集光学系3において、励起光であるレーザビームLの反射光・散乱光が上記シリコーン樹脂6が占める領域を通過して上記顔料含有樹脂61が占める領域に入射すると、当該顔料含有シリコーン樹脂61に含有される顔料により吸収される。
【0029】
すなわち、試料Sを保持する試料ケース2にレーザビームLが照射される際に発生する自家蛍光や励起光であるレーザビームLの不所望な反射光、散乱光(以下、不所望な反射光、散乱光を総称して迷光ともいう)は、レーザ照射空間7(レーザビームLが照射される試料Sが保持される空間)、蛍光収集光学系3が構成される空間を構成する樹脂6と上記空間を包囲する顔料含有樹脂61との界面に進入した際、界面での反射は殆ど発生せず、顔料含有樹脂61に含有される顔料により殆ど吸収されるので、上記した迷光は、再び、レーザ照射空間7、蛍光収集光学系3が構成される空間内に戻ることは殆どない。
【0030】
よって、レーザ照射空間7、蛍光収集光学系3が構成される空間において、励起光であるレーザビームLの迷光や試料Sを保持する試料ケース2にレーザビームLが照射される際に発生する自家蛍光の迷光の複雑な多重反射は殆ど発生せず、蛍光収集光学系3は、上記した複雑な多重反射に対応する必要がない。よって、上記蛍光収集光学系3の構成は簡便化され、結果的に本発明のレーザ誘起蛍光測定器を小型化することが可能となる。また、外部の光は上記顔料含有樹脂61に含有される顔料により殆ど吸収されるので、外光が上記蛍光収集光学系3内に入ることを防ぐこともできる。
【0031】
なお、迷光を吸収するための顔料含有樹脂61に代えて、励起光であるレーザビームLや、試料Sを保持する試料ケース2にレーザビームLが照射される際に発生する自家蛍光を吸収する特性のある染料を樹脂に含有させることも考えられる。しかしながら、染料は顔料とは異なりシリコーン樹脂中を移動する特性がある。よって、シリコーン樹脂と染料を含有するシリコーン樹脂との境界面が曖昧となり、場合によっては、蛍光が通過する光路となるシリコーン樹脂領域6内に上記染料が染み出すという不具合が発生する可能性がある。
よって、励起光であるレーザビームLが進行する空間(レーザ照射空間7)や試料Sから放出された蛍光が蛍光測定器に入射するまでの光路を含む空間(蛍光収集光学系3が構成される空間)と、迷光を吸収するための空間との界面を安定に維持するには、迷光を吸収するための空間領域を顔料含有シリコーン樹脂61により構成することが好ましい。
【0032】
以下、本発明のレーザ誘起蛍光測定器の構成例について、具体的に説明する。
(1)シリコーン樹脂
シリコーン樹脂6としては、信越化学社製のSIM−360を使用した。このシリコーン樹脂は、室温にて固化する特性を有するポリジメチルシロキサン(Polydimethylsiloxane :PDMS)であり、レーザ光源1、被測定試料S、レンズや光学フィルタ等からなる蛍光収集光学系3、蛍光測定器である光電子増倍管4、レーザ光源1および蛍光測定器に電力を供給する電力源5といったレーザ誘起蛍光測定器の構成要素に対してパテ状に盛ることにより、当該構成要素をシリコーン樹脂6内に埋設した。
なお、シリコーン樹脂6としては上記のものに限るものではなく、別途金型を用いて上記以外のPDMSを成形して、上記構成要素を成形したPDMSに埋設するようにしてもよい。
【0033】
(2)レーザ光源
励起光であるレーザビームLを放出するレーザ光源1としては、レーザポインター等で使用されるバッテリー駆動の半導体励起固体レーザ(Diode-pumped solid-state (DPSS) lasers)を使用した。詳細には、半導体励起のNd:YVOレーザ(波長1064nm)の第2高調波である波長532nmのレーザビームを放出するグリーンレーザ装置を用いた。
【0034】
(3)電力源
電力源5としては、外部でのポイントオブケア検査(POCT)の要請に臨機応変に対応可能なように、バッテリーを使用した。バッテリーはシリコーン樹脂6に埋設されるバッテリーボックスに設置される。なお、前記したように、上記したレーザ光源1(DPSSレーザ)はバッテリーボックスに設置されるバッテリーにより駆動し、DPSSレーザのレーザヘッド部分のみ、試料SにレーザビームLを照射するための所定の場所に位置する。なお、DPSSレーザのレーザヘッドと電力源5とは給電線により接続され、当該給電線もシリコーン樹脂6内に埋設される。なお、給電線の図示は省略する。
【0035】
(4)試料(測定対象)
本実施例においては、測定用試料Sとして、抗体軽鎖可変領域ポリペプチドと抗体重鎖可変領域ポリペプチドとを備え、前記抗体軽鎖可変領域ポリペプチドと抗体重鎖可変領域ポリペプチドのいずれか一方が蛍光色素により標識されたキット(以下、このキットのことを便宜上、「蛍光物質で標識された抗体」と呼ぶことにする)を使用した。
この「蛍光物質で標識された抗体」は、抗体の末端近傍を色素で蛍光標識した組替抗体断片であり、単体では抗体内のアミノ酸により色素の蛍光は消光された状態にある。これに試料Sとなる抗原を結合させると、消光が解除され色素の蛍光強度が顕著に増大する。
すなわち、抗原と反応する前の蛍光物質で標識された抗体にレーザビームLを照射しても色素の蛍光は発生しないが、当該蛍光物質で標識された抗体と抗原とを反応させたあとにレーザビームLを抗原と結合した「蛍光物質で標識された抗体」に照射すると、色素からの蛍光の量が増大する。
【0036】
上記した試料Sを用いる場合、容器中の「蛍光物質で標識された抗体」に抗原を注入して混合し、この混合液体に励起光であるレーザビームLを照射し発生する蛍光を測定するだけで、簡便に抗原と抗体の結合状態を測定することが可能となる。すなわち、マイクロチップを用いて抗体抗原反応の度合いを測定する場合のマイクロチップにおける抗体または抗原の固相化工程や標識化合物の非特異吸着を除去する洗浄工程が不要となる、
【0037】
(5)試料ケース
図2は、試料Sを含有する試料ケースの設置を説明する図である。「蛍光物質で標識された抗体」や抗原を含む溶液を投入する試料ケース2としては、例えば、直径5mmのポリスチレン製PCRチューブを使用した。
図2に示す試料ケース2(PCRチューブ)は先端がテーパ状になっており、液体状の「蛍光物質で標識された抗体」や抗原を含む溶液を投入しても、PCRチューブ2の先端側で気泡が出来にくい。この先端側が図1に示すDPSSレーザから放出されるレーザビームLが照射される位置となるように、試料溶液が導入されたPCRチューブ2はレーザ誘起蛍光測定器本体10にセッティングされる。
【0038】
試料Sが投入された試料ケース2(PCRチューブ)は、上部に外部からの光を遮光する遮光部2cを有する遮光キャップ2bにより封止されたあと、レーザ誘起蛍光測定器本体10(シリコーン樹脂製の筐体)に設けられた試料ケース挿入部2aよりレーザ誘起蛍光測定器内部に挿入される。なお、シリコーン樹脂6と試料ケース2との間には水が介在している。これは、シリコーン樹脂6内への試料ケース2の挿入をスムーズに行う為であり、かつ、シリコーン樹脂6と試料ケース2との間の空気をパージするためである。
仮に、シリコーン樹脂6と試料ケース2との間に空気層が存在すると、空気層において光散乱が発生する。すなわち、空気層が試料ケース2のレーザ入射側に存在すると、励起光の一部が空気層により散乱され、試料ケース2内部の試料Sに照射されるレーザビームの損失が発生する。同様に、空気層が試料ケース2の蛍光放出側に存在すると、蛍光の一部が空気層により散乱され、試料ケース2から放出される蛍光の損失が発生する。
【0039】
なお、試料ケース2はPCRチューブに限るものではなく、例えば、図3に示すように、試料ケース2のレーザビームLの入射面がレーザのブリュースター角θBLをなし、試料ケース2の蛍光の出射面が蛍光のブリュースター角θBLFをなすように試料ケース2を構成してもよい。このように構成することにより、レーザ入射面におけるレーザのP偏光成分の反射や蛍光出射面における蛍光のP偏光成分の反射が抑制され、それぞれの光の損失を低減できる。
また、試料ケース2の材質はポリスチレンに限るものではなく、例えば、環状オレフィンコポリマー(Cyclic Olefin Copolymer:COC)で構成してもよい。COCの場合、ポリスチレンに比べて光照射時に発生する自家蛍光の強度が小さくなる。
【0040】
(6)顔料含有シリコーン樹脂
上記したように顔料含有シリコーン樹脂61は、レーザビームLや蛍光の光路空間である、レーザ照射空間7(レーザビームLが照射される試料Sが保持される空間)および蛍光収集光学系3が構成される空間を包囲するように構成される。また、この顔料含有シリコーン樹脂61内には、レーザ光源1、被測定試料S、蛍光測定器である光電子増倍管4、レーザ光源1および蛍光測定器に電力を供給する電力源5が埋設される。
よって、顔料含有シリコーン樹脂61は、本発明に係るレーザ誘起蛍光測定器において、直方体である樹脂から形成される筐体を構成する。
【0041】
なお、シリコーン樹脂領域に含有させる顔料としては、上記したように、黒色顔料が使用されるがこれに限るものではない。励起光であるレーザビームLや、試料Sを保持する試料ケース2にレーザビームLが照射される際に発生する自家蛍光、励起光がPDMS製シリコーン樹脂6内を進行する際PDMSから発生するラマン光を吸収する波長特性を有するものであれば、黒色顔料以外の顔料を使用することも可能である。
【0042】
また、シリコーン樹脂領域に含有させる顔料の含有量は、図4に示すレーザ照射空間7、ならびに蛍光収集光学系3において、顔料含有シリコーン樹脂61に入射する励起光による迷光、試料ケース2からの自家蛍光の迷光、シリコーン樹脂6(PDMS)から発生するラマン光が完全に吸収され、レーザ誘起蛍光測定器の外部に放出されない量に設定される。また、顔料含有シリコーン樹脂61内において、顔料はほぼ一様に分布している。
なお、上記迷光やラマン光を全て吸収可能であれば、上記シリコーン樹脂領域に含有される顔料はほぼ一様に分布していなくてもよく、例えば、濃度分布を伴って上記樹脂領域中に含有されていてもよい。また、上記シリコーン樹脂領域中に部分的に含有されていてもよい。
【0043】
(7)レーザ照射空間
図4にレーザ照射空間7ならびに蛍光収集光学系3の構成例を示す。上記したように、レーザ照射空間7は、外部より「蛍光物質で標識された抗体」と抗原が混合されて抗体抗原反応により結合してなる試料Sを内部に有する試料ケース2が挿入されている。試料ケース2中の試料Sの上下方向の位置(図4の紙面に垂直方向の位置)は、レーザ光源1(DPSSレーザヘッド)から放出される波長532nmのレーザビームLが照射される位置に設定されている。
レーザ照射空間7は、レーザビームLの波長、および試料Sから放出される蛍光波長等に透明なPDMS製シリコーン樹脂6が充填された空間であり、当該空間は、顔料含有シリコーン樹脂61、および、蛍光収集光学系3を構成する第1のノッチフィルタ31aから包囲されている。
【0044】
レーザ光源1(DPSSレーザヘッド)から放出される波長532nmのレーザビームLが試料ケース2内の試料Sに照射されると、抗原との結合により消光が解除されている「蛍光物質で標識された抗体」の色素から蛍光(波長570nm〜580nm)が放出される。
ここで、試料ケース2内の試料Sに照射され「蛍光物質で標識された抗体」の色素の励起に寄与せず、試料ケース2を通過した通過励起光は、PDMS製シリコーン樹脂6内を通過して、顔料含有シリコーン樹脂61内に入射する。上記したように、顔料含有シリコーン樹脂61内に入射した励起光(レーザビームL)は、シリコーン樹脂6と顔料含有シリコーン樹脂61との界面では殆ど反射されず、顔料含有シリコーン樹脂61に含有される顔料により吸収される。従って、上記した透過励起光は、迷光(反射光、散乱光)として、蛍光収集光学系3に入射することはない。
【0045】
一方、レーザ光源1(DPSSレーザヘッド)から試料Sに照射されるレーザビームLの一部は、試料ケース2表面において、反射、散乱され、迷光として様々な方向に進行する。また、試料ケース2のレーザビーム照射領域から、試料ケース2の材質に依存する自家蛍光が放出される。ここで、上記自家蛍光の強度は、励起光による迷光の強度と比較すると小さい。
なお、励起光がPDMS製シリコーン樹脂6内を進行する際、シリコーン樹脂6(PDMS)からのラマン光も発生する。しかしながら、PDMSから放出されるラマン光の強度は著しく小さく、仮に蛍光測定器である光電子増倍管4に入射したとしても測定結果には殆ど影響を及ぼさないレベルである。
【0046】
励起光による迷光、および、試料ケース2からの自家蛍光の迷光のうち、レーザ照射空間7を包囲する顔料含有シリコーン樹脂61内に入射したものは、シリコーン樹脂6と顔料含有シリコーン樹脂61との界面では殆ど反射されず、顔料含有シリコーン樹脂に含有される顔料により吸収される。従って、上記した透過励起光は、迷光(反射光、散乱光)として、蛍光収集光学系3に入射することはない。
また、励起光による迷光、および、試料ケース2からの自家蛍光の迷光のうち、レーザ照射空間7を包囲する顔料含有シリコーン樹脂61内に入射しなかったものは、蛍光収集光学系3を構成する第1のノッチフィルタ31aに入射する。また、上記したシリコーン樹脂6(PDMS)からのラマン光も第1のノッチフィルタ31aに入射する。
【0047】
(8)蛍光収集光学系
図4に示すように、蛍光収集光学系3は、試料側から順に、第1のノッチフィルタ31a、第1のレンズ32a、第2のノッチフィルタ31b、第1の色ガラスフィルタ33a、第2の色ガラスフィルタ33b、第2のレンズ32b、アパーチャ34、第3の色ガラスフィルタ33cから構成される。
【0048】
第1のノッチフィルタ31a、第2のノッチフィルタ31bは、励起光およびその近傍の波長領域にある光を反射し、その他の波長域の光を透過するように設定されている。すなわち、波長532nmの励起であれば、532nm近傍の光は、第1のノッチフィルタ31a、第2のノッチフィルタ31bにより反射される。
【0049】
(a)第1のノッチフィルタ
レーザ照射空間7から生じた励起光による迷光、試料ケース2からの自家蛍光の迷光、およびPDMSからのラマン光の一部が第1のノッチフィルタ31aに入射すると、波長532nmの励起光による迷光は第1のノッチフィルタ31aにより反射され、試料ケース2からの自家蛍光の迷光はそのまま第1のノッチフィルタ31aを透過する。
また、測定対象である、抗原との結合により消光が解除されている「蛍光物質で標識された抗体」の色素から蛍光(波長570nm〜580nm)もそのまま第1のノッチフィルタ31aを透過する。以下、この波長570nm〜580nmの蛍光を測定対象蛍光と呼ぶことにする。
【0050】
ここで、第1のノッチフィルタ31aは入射角度依存性が存在し、入射角0°で入射した波長532nmの光はほぼ100%近く反射するが、入射角が0°より大きい場合、波長532nmの光の一部は反射されず、そのまま透過する。
上記したように、励起光による迷光は様々な方向に進行するので、第1のノッチフィルタ31aに入射する迷光の一部の入射角は必ずしも0°ではない。よって、第1のノッチフィルタ31aに入射する迷光は、減衰するものの第1のノッチフィルタ31aを透過する。
なお、第1のノッチフィルタ31aにより一部反射された励起光による迷光はレーザ照射空間7に戻り、レーザ照射空間7を包囲する顔料含有シリコーン樹脂61内に入射し、当該顔料含有シリコーン樹脂61に含有される顔料により吸収される。
【0051】
(b)第1のレンズ
前記したように本実施例においては、第1のレンズ32aと第2のレンズ32bの間には透明なシリコーン樹脂6は充填されておらず空洞となっており、この空洞となっている空間と第1のノッチフィルタ31aとの間に充填された透明なシリコーン樹脂6の該空間側の端面がレンズ形状をしている。すなわち、上記透明なシリコーン樹脂6の端面が第1のレンズ32aを構成している。
第1のノッチフィルタ31aを透過した励起光による迷光、試料ケース2からの自家蛍光の迷光、シリコーン樹脂6(PDMS)からのラマン光、波長570nm〜580nmの測定対象蛍光は、上記第1のレンズ32aに入射する。また、第1のノッチフィルタ31aと第1のレンズ32aとの間の空間に充填されているPDMS製シリコーン樹脂6中を上記励起光による迷光が通過する際にラマン光が発生する可能性がある。
しかしながら、仮にラマン光が発生したとしても、このラマン光は上記励起光による迷光により発生したものであるので、その強度は著しく小さい。仮にラマン光が生じた場合は、このラマン光も第1のレンズ32aに入射する。
【0052】
第1のレンズ32aは集光レンズであり、ここでは、入射した光を平行光にするコリメートレンズとして機能する。すなわち、第1のレンズ32aに入射した励起光による迷光、試料ケース2からの自家蛍光の迷光、PDMSからのラマン光、波長570nm〜580nmの測定対象蛍光は、平行光として第1のレンズ32aを透過する。
【0053】
なお、第1のレンズ32a表面で一部反射された励起光による迷光、試料ケース2からの自家蛍光の迷光、PDMSからのラマン光、波長570nm〜580nmの測定対象蛍光は、第1のノッチフィルタ31aと第1のレンズ32aとの間の空間を包囲する顔料含有シリコーン樹脂61内に入射し、当該顔料含有シリコーン樹脂61に含有される顔料により吸収される。また、上記顔料含有シリコーン樹脂61内に入射せず、第1のノッチフィルタ31aに再入射した励起光による迷光、試料ケース2からの自家蛍光の迷光、測定対象蛍光の一部は、再度第1のノッチフィルタ31aにより反射されて第1のレンズ32aに向けて進行するが、これらの光の強度は著しく小さく、仮に蛍光測定器である光電子増倍管4に入射したとしても測定結果には殆ど影響を及ぼさないレベルであるので、ここでは考慮しない。また、第1のノッチフィルタ31aに再入射した上記光のうち、第1のノッチフィルタ31aを通過したものについては、レーザ照射空間7を包囲する顔料含有シリコーン樹脂61内に入射し、当該顔料含有シリコーン樹脂61に含有される顔料により吸収される。
【0054】
なお、仮に、第1のノッチフィルタ31aと第1のレンズ32aとの間の空間を包囲する顔料含有シリコーン樹脂61が存在せず、従来のように単なる壁が存在する場合は、迷光を遮光するために上記壁に凹凸のラビリンス構造を設ける必要がある。そのため、従来のレーザ誘起蛍光測定器の蛍光収集光学系3の構造は複雑、かつ、大がかりとなる。本実施例においては、第1のノッチフィルタ31aと第1のレンズ32aとの間の空間を包囲する顔料含有シリコーン樹脂61が存在するので、従来のような凹凸のラビリンス構造を設ける必要はない。よって、従来と比べて、本実施例のレーザ誘起蛍光測定器の蛍光収集光学系3の構造は小型化が可能となる。
【0055】
(c)第2のノッチフィルタ
第1のレンズ32aを透過した励起光による迷光、試料ケース2からの自家蛍光の迷光、PDMSからのラマン光、波長570nm〜580nmの測定対象蛍光は、第2のノッチフィルタ31bに入射する。第2のノッチフィルタ31bは、第1のレンズ32aの近傍に配置される。
第2のノッチフィルタ31bに入射する光はいずれも平行光であるので、第2のノッチフィルタ31bに入射する励起光による迷光の入射角は0°である。よって、第2のノッチフィルタ31bに入射する励起光による迷光の殆どは、第2のノッチフィルタ31bにより、第1のレンズ32a側へ反射される。なお、第1のノッチフィルタ31aでは、シリコーン樹脂(PDMS)により発生するラマン散乱光を削除するノッチフィルタを重ねることも適宜必要である。具体的には、532nmの波長に対して、545,550,627,630nmを選択的に反射する設計にすることが望ましい。
【0056】
この反射された励起光による迷光は、第1のノッチフィルタ31aと第1のレンズ32aとの間の空間を包囲する顔料含有シリコーン樹脂61内に入射し、当該顔料含有シリコーン樹脂61に含有される顔料により吸収される。なお、上記顔料含有シリコーン樹脂61内に入射せず、第1のノッチフィルタ31aに再入射した励起光による迷光、試料ケース2からの自家蛍光の迷光、測定対象蛍光の一部は、第1のノッチフィルタ31aにより反射されたり、第1のノッチフィルタ31aを通過したりするが、これらの光の強度は著しく小さく、仮に蛍光測定器である光電子増倍管4に入射したとしても測定結果には殆ど影響を及ぼさないレベルであるので、ここでは考慮しない。
励起光による迷光の波長532nmとは異なる波長の試料ケース2からの自家蛍光の迷光、PDMSからのラマン光、波長570nm〜580nmの測定対象蛍光は、第2のノッチフィルタ31bを通過する。
【0057】
(d)第1、第2の色ガラスフィルタ
第2のノッチフィルタ31bによって著しく減衰させられた励起光による迷光、および第2のノッチフィルタ31bを通過した試料ケース2からの自家蛍光の迷光、PDMSからのラマン光、波長570nm〜580nmの測定対象蛍光は、第1および第2の色ガラスフィルタ33a,33bに入射する。
第1の色ガラスフィルタ33aに入射したこれらの一部は、第1の色ガラスフィルタ33a表面において反射され、その一部は第1の色ガラスフィルタ33aと第2のノッチフィルタ31bとの間の空間を包囲する顔料含有シリコーン樹脂61内に入射し、当該顔料含有シリコーン樹脂61に含有される顔料により吸収される。
【0058】
ここで、前記したように、第1のレンズ32aと第2のレンズ32bの間には透明なシリコーン樹脂6は充填されておらず空洞となっており、この空洞となっている空間から、この空間を包囲するシリコーン樹脂6、顔料含有シリコーン樹脂61に入射しようとする光の一部は、樹脂表面で反射する。
これらの光の一部は、第1および第2の色ガラスフィルタ33a,33bで吸収され、残りの光が第2のレンズ32bを介して、第2のレンズ32bと第3の色ガラスフィルタ33cの間の透明なシリコーン樹脂6が充填された空間に入射するが、その空間を包囲する顔料含有シリコーン樹脂61内に入射して当該顔料含有シリコーン樹脂61に含有される顔料により吸収される。
なお、上記顔料含有シリコーン樹脂61内に入射せず、第2のノッチフィルタ31bに再入射したこれらの光は、第2のノッチフィルタ31bの表面にて反射されたり、第2のノッチフィルタ31bを通過したりするが、これらの光の強度は著しく小さく、仮に蛍光受光器である電子増倍管4に入射したとしても、測定結果にはほとんど影響を及ぼさないレベルである。
【0059】
第1および第2の色ガラスフィルタ33a,33bは、波長570nm〜580nmの測定対象蛍光を透過し、その他の波長域の光は吸収するように設計されている。よって、第1および第2の色ガラスフィルタ33a,33bに入射した第2のノッチフィルタ31bによって著しく減衰させられた励起光による迷光、および第2のノッチフィルタ31bを通過した試料ケース2からの自家蛍光の迷光、PDMSからのラマン光は、第1および第2の色ガラスフィルタ33a,33bにより吸収され、熱エネルギーに変換される。なお、色ガラスフィルタとして第1の色ガラスフィルタ33a、第2の色ガラスフィルタ33bの2枚のフィルタを使用したのは、波長570nm〜580nmの測定対象蛍光以外の光をほぼ完全に吸収するためである。第1の色ガラスフィルタ33aだけで、蛍光測定器である光電子増倍管4の測定結果への影響を無視できるまでこれらの光を吸収することが可能な場合、第2の色ガラスフィルタ33bは省略できる。
【0060】
しかしながら、第1および第2の色ガラスフィルタ33a,33bにおいて、第1および第2の色ガラスフィルタ33a,33bに入射した第2のノッチフィルタ31bによって著しく減衰させられた励起光による迷光、および第2のノッチフィルタ31bを通過した試料ケース2からの自家蛍光の迷光、PDMSからのラマン光が吸収され熱エネルギーに変換される際、第1および第2の色ガラスフィルタ33bからは2次蛍光が放出される。発明者らが使用した色ガラスフィルタから放出される上記2次蛍光は、波長が約660nm近傍の波長域に属する赤色光であった。
【0061】
上記2次蛍光は、第1の色ガラスフィルタ33aの光入射側、および第2の色ガラスフィルタ33bの光出射側のあらゆる方向に放出される。
ここで、第1の色ガラスフィルタ33aの光入射側に放射された2次蛍光の一部は、第1の色ガラスフィルタ33aと第2のノッチフィルタ31bとの間の空間を包囲する顔料含有シリコーン樹脂61内に入射し、当該顔料含有シリコーン樹脂61に含有される顔料により吸収される。
また、上記顔料含有シリコーン樹脂61に入射しようとする光の一部は、樹脂表面で反射し、これらの光の一部は、第1および第2の色ガラスフィルタ33a,33b、第2のレンズ32bを介して、第2のレンズ32bと第3の色ガラスフィルタ33cの間の透明なシリコーン樹脂6が充填された空間に入射するが、その空間を包囲する顔料含有シリコーン樹脂61内に入射して当該顔料含有シリコーン樹脂61に含有される顔料により吸収される。
なお、上記顔料含有シリコーン樹脂61内に入射せず、第2のノッチフィルタ31bに再入射したこれらの光は、第2のノッチフィルタ31b表面において反射されたり、第2のノッチフィルタ31bを通過したりするが、これらの光の強度は著しく小さく、仮に蛍光測定器である光電子増倍管4に入射したとしても測定結果には殆ど影響を及ぼさないレベルであるので、ここでは考慮しない。
【0062】
(e)空間フィルタ(第2のレンズ32b、アパーチャ34)
第2の色ガラスフィルタ33bを通過した波長570nm〜580nmの測定対象蛍光、ならびに、第1および第2の色ガラスフィルタ33a,33bから放出される2次蛍光は、第2のレンズ32bに入射する。
前記したように本実施例においては、第1のレンズ32aと第2のレンズ32bの間の空間は空洞となっており、この空間とアパーチャ34との間に充填された透明なシリコーン樹脂6の該空間側の端面がレンズ形状をしている。すなわち、上記透明なシリコーン樹脂6の端面が第2のレンズ32bを構成している。第2のレンズ32bは、第2の色ガラスフィルタ33bの近傍に配置される。
第2のレンズ32bは集光レンズであり、平行光である波長570nm〜580nmの測定対象蛍光の集光位置近傍であって、波長570nm〜580nmの測定対象蛍光の光軸上にピンホール形状のアパーチャ34が設けられる。
図4に示すように、本蛍光収集光学系3においては、アパーチャ34の開口領域はPDMS製シリコーン樹脂6が占有し、アパーチャ34の遮光領域は顔料含有シリコーン樹脂61が占有する。
【0063】
ここで、第1および第2の色ガラスフィルタ33bから放出される2次蛍光の波長は上記したように、約660nm近傍の波長域に属するので、測定対象蛍光の波長570nm〜580nmとは異なる。よって、第2の色ガラスフィルタ33bの光出射側のあらゆる方向に放出される2次蛍光のうち、入射角0°で第2のレンズ32bに入射するものは、第2のレンズ32bの色収差により、波長570nm〜580nmの測定対象蛍光の集光位置とは異なる場所に集光する。また、2次蛍光のうち、入射角0°以外の角度で入射するものは、入射角0°で入射した2次蛍光とは異なる光路を進行する。結果的に、2次蛍光の殆どは、アパーチャ34内を通過せず、アパーチャ34の遮光部分に照射される。すなわち、第2のレンズ32bとアパーチャ34は測定対象蛍光の波長570nm〜580nmを選択的に通過させる空間フィルタとして機能する。
なお、僅かながら、2次蛍光の一部も開口を通過するが、その光量は蛍光測定器である光電子増倍管4に入射したとしても測定結果には殆ど影響を及ぼさないくらいに小さい。
【0064】
(e)第3の色ガラスフィルタ
アパーチャ34を通過した波長570nm〜580nmの測定対象蛍光、および2次蛍光は、アパーチャ34の光出射側に配置された第3の色ガラスフィルタ33cに入射する。第3の色ガラスフィルタ33cの光出射側は、蛍光測定器である光電子増倍管4の受光部分と近接している。
第3の色ガラスフィルタ33cは、波長570nm〜580nmの測定対象蛍光を透過し、その他の波長域の光は吸収するように設計されている。
第3の色ガラスフィルタ33cは光電子増倍管4の保護フィルタとして機能し、波長570nm〜580nmの測定対象蛍光以外は殆ど透過しない。
【0065】
次に、上記シリコーン樹脂6と顔料含有シリコーン樹脂61との境界における光の吸収について説明する。
励起光による迷光、試料ケースからの自家蛍光の迷光、PDMSから発生するラマン光等がシリコーン樹脂6占有領域から顔料含有シリコーン樹脂61占有領域に入射すると、これらの光は、前記したように顔料含有シリコーン樹脂61に含有される顔料により急激に吸収される。ここで、シリコーン樹脂6と顔料含有シリコーン樹脂61とは屈折率自体は同一であるものの、急激に上記光が吸収される領域の近傍では屈折率分散の状態が複雑に変化すると、その境界面近傍での屈折率分散の状態の複雑な変化により、ごく僅かではあるが上記境界面もしくは境界面近傍において光の反射が発生する場合がある。
しかし、実際には、前記したように、上記樹脂6と顔料含有樹脂61の境界においては、樹脂に対して顔料の含有量が傾斜状に増加するようになると考えられ、上記光の反射は極めて少なくなる。
【0066】
図5はこの様子を模式的に示したものであり、理解を容易にするためにシリコーン樹脂6に対して顔料の含有量が傾斜状ではなく段階的に増加するように顔料含有シリコーン樹脂61a、顔料含有シリコーン樹脂61b、顔料含有シリコーン樹脂61c、顔料含有シリコーン樹脂61dが順に積層されている様子を示している。
この場合、シリコーン樹脂6に対する顔料含有シリコーン樹脂61aの顔料含有量の差、顔料含有シリコーン樹脂61aの顔料含有量と顔料含有シリコーン樹脂61bの顔料含有量との差、顔料含有シリコーン樹脂61bの顔料含有量と顔料含有シリコーン樹脂61cの顔料含有量との差、顔料含有シリコーン樹脂61cの顔料含有量と顔料含有シリコーン樹脂61dの顔料含有量との差は、いずれもシリコーン樹脂6に対する顔料含有シリコーン樹脂61dの顔料含有量の差よりも小さい。
【0067】
よって、励起光による迷光、試料ケース2からの自家蛍光の迷光、PDMSから発生するラマン光がシリコーン樹脂6から顔料含有シリコーン樹脂61aに入射する場合、これらの光の顔料含有シリコーン樹脂61aにおける吸収量は、シリコーン樹脂6から顔料含有シリコーン樹脂61dに直接入射する場合におけるシリコーン樹脂61dによる吸収量より小さい。
従って、シリコーン樹脂6と顔料含有シリコーン樹脂61aとの境界面近傍における上記光の吸収状態の変化は、シリコーン樹脂6から顔料含有シリコーン樹脂61dに直接入射する場合より小さくなるので、上記光が吸収される領域の近傍での屈折率分散の状態の変化も小さくなる。
すなわち、シリコーン樹脂6と顔料含有シリコーン樹脂61aとの境界面もしくは境界面近傍において光の反射が発生した場合、その強度は比較的小さくなる。
【0068】
一方、上記したように、上記した光の顔料含有シリコーン樹脂61aにおける吸収量は小さいので、顔料含有シリコーン樹脂61aに入射した励起光による迷光、試料ケース2からの自家蛍光の迷光、PDMSから発生するラマン光は完全には吸収されず、顔料含有シリコーン樹脂61bに入射する。
【0069】
これらの光の顔料含有シリコーン樹脂61bにおける吸収量も上記と同様に比較的小さい。従って、顔料含有シリコーン樹脂61aと顔料含有シリコーン樹脂61bとの境界面近傍における上記光の吸収状態の変化は、比較的小さくなるので、上記光が吸収される領域の近傍での屈折率分散の状態の変化も小さくなる。
すなわち、顔料含有シリコーン樹脂61aと顔料含有シリコーン樹脂61bとの境界面もしくは境界面近傍において光の反射が発生した場合、その強度はシリコーン樹脂6から顔料含有シリコーン樹脂61dに直接入射する場合より小さくなる。なお、この反射光は顔料含有シリコーン樹脂61aを再度通過することになるので、当該顔料含有シリコーン樹脂61aにより吸収され、シリコーン樹脂6占有領域には殆ど進入しない。
【0070】
一方、上記したように、上記した光の顔料含有シリコーン樹脂61bにおける吸収量は小さいので、顔料含有シリコーン樹脂61bに入射した励起光による迷光、試料ケース2からの自家蛍光の迷光、PDMSから発生するラマン光は完全には吸収されず、顔料含有シリコーン樹脂61cに入射する。なお、この顔料含有シリコーン樹脂61cに入射する光の強度は、顔料含有シリコーン樹脂61aから顔料含有シリコーン樹脂61bに入射した光の強度より小さい。
【0071】
顔料含有シリコーン樹脂61cに入射した励起光による迷光、試料ケース2からの自家蛍光の迷光、PDMSから発生するラマン光これらの光の顔料含有シリコーン樹脂61cにおける吸収量は比較的小さい。
従って、顔料含有シリコーン樹脂61bと顔料含有シリコーン樹脂61cとの境界面近傍における上記光の吸収状態の変化は、シリコーン樹脂6から顔料含有シリコーン樹脂61dに直接入射する場合より小さくなるので、上記光が吸収される領域の近傍での屈折率分散の状態の変化も小さくなる。
【0072】
すなわち、顔料含有シリコーン樹脂61bと顔料含有シリコーン樹脂61cとの境界面もしくは境界面近傍において光の反射が発生した場合、その強度はシリコーン樹脂6から顔料含有シリコーン樹脂61dに直接入射する場合より小さくなる。なお、この反射光は顔料含有シリコーン樹脂61bを再度通過することになるので、当該顔料含有シリコーン樹脂61bにより吸収され、顔料含有シリコーン樹脂61aには殆ど進入しない。また僅かながら顔料含有シリコーン樹脂61aに進入する光があったとしても、この光は顔料含有シリコーン樹脂61aを再度通過することになるので、当該顔料含有シリコーン樹脂61aにより吸収され、シリコーン樹脂6占有領域には殆ど進入しない。
【0073】
同様に、上記した光の顔料含有シリコーン樹脂61cにおける吸収量は小さいので、顔料含有シリコーン樹脂61cに入射した励起光による迷光、試料ケース2からの自家蛍光の迷光、PDMSから発生するラマン光は完全には吸収されず、顔料含有シリコーン樹脂61dに入射する。なお、この顔料含有シリコーン樹脂61dに入射する光の強度は、顔料含有シリコーン樹脂61aから顔料含有シリコーン樹脂61cに入射した光の強度より小さい。
【0074】
顔料含有シリコーン樹脂61dに入射した励起光による迷光、試料ケース2からの自家蛍光の迷光、PDMSから発生するラマン光これらの光の顔料含有シリコーン樹脂61dにおける吸収量は小さく、従って、顔料含有シリコーン樹脂61cと顔料含有シリコーン樹脂61dとの境界面近傍における上記光の吸収状態の変化は、シリコーン樹脂6から顔料含有シリコーン樹脂61dに直接入射する場合より小さくなるので、上記光が吸収される領域の近傍での屈折率分散の状態の変化も小さくなる。
【0075】
すなわち、顔料含有シリコーン樹脂61cと顔料含有シリコーン樹脂61dとの境界面もしくは境界面近傍において光の反射が発生した場合、その強度はシリコーン樹脂6から顔料含有シリコーン樹脂61dに直接入射する場合より小さくなる。なお、この反射光は顔料含有シリコーン樹脂61cを再度通過することになるので、当該顔料含有シリコーン樹脂61cにより吸収され、顔料含有シリコーン樹脂61bには殆ど進入しない。
なお、顔料含有シリコーン樹脂61dに入射する光の強度は、著しく小さくなっているので、上記反射光が発生したとしても、顔料含有シリコーン樹脂61c内でほぼ全て吸収されるものと考えられる。よって、この反射光は、シリコーン樹脂6占有領域には再進入しない。
【0076】
一方、上記したように、顔料含有シリコーン樹脂61dに入射する光の強度は著しく小さくなっているので、これらの光は全て顔料含有シリコーン樹脂61dにより吸収され、レーザ誘起蛍光測定器の外部には放出されない。
【0077】
以上では、シリコーン樹脂6に対して顔料の含有量が段階的に増加する場合について説明したが、シリコーン樹脂6に対して顔料の含有量が傾斜状に増加する場合も同様に考えることができ、シリコーン樹脂に対して顔料の含有量が傾斜状に増加するように複数の顔料含有シリコーン樹脂層が形成されることにより、各シリコーン層の界面で反射光が発生したとしても、その強度は小さく、上記反射光がシリコーン樹脂に再進入することはほとんど無いようにすることができる。
【符号の説明】
【0078】
1 レーザ光源
2 試料ケース
2a 試料ケース挿入部
2b 遮光キャップ
2c 遮光部
3 蛍光収集光学系
4 光電子増倍管
5 電力源
6 シリコーン樹脂
7 レーザ照射空間
10 レーザ誘起蛍光測定器本体
2b 遮光キャップ
2c 遮光部
31a 第1のノッチフィルタ
31b 第2のノッチフィルタ
32a 第1のレンズ
32b 第2のレンズ
33a 第1の色ガラスフィルタ
33b 第2の色ガラスフィルタ
33c 第3の色ガラスフィルタ
34 アパーチャ
61 顔料含有シリコーン樹脂
L レーザビーム
S 被測定試料
図1
図2
図3
図4
図5
図6