(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下,本発明の実施形態の例を図面に基づいて詳細に説明する。
〔実施の形態1〕
図1は本発明の実施の形態1に係るX線CT装置の正面模式図である。なお
図1において紙面左右方向、上下方向、および垂直方向をそれぞれX、Y、Z方向とする。本実施の形態1に係るX線CT装置は、X線管1a、1b、コリメータ2a、2b、散乱線除去コリメータ3、X線検出器4,回転板5,寝台天板6,スリット7,補助X線検出器8、ガントリー9、コンソール(CNS)301,モニタ(MON)302,制御装置(CNT)303、計算機(CPU)304、メモリ(MEM)305等から構成される。X線管1aおよび1bは、それぞれのX線焦点Sa, SbがXY方向の同一位置であると共に、Z方向に異なる位置となるように回転板5上に設置されている。また回転板5上にはX線管1a、1bの他にもコリメータ2a、2b、X線検出器4、X線検出器4の前面に固定された散乱線除去コリメータ3、スリット7および補助X線検出器8等が設置してあり、以下ではこれらのデバイスを総称して撮影系と呼ぶ。撮影系は回転板5により回転できるようになっている。回転板5および撮影系はガントリー9の内部に格納されている。
【0017】
ガントリー9の中央部には開口部11が設けられており,開口部11の中心付近には被検体10が配置される。本実施の形態1では被検体10として人体を想定しており,被検体10は寝台天板6上に横たわった状態で計測される。回転板5は図示しない駆動装置によって回転し,被検体10の全周方向からのX線透過像を撮影する。回転板5は開口部11の中心を通りZ軸に平行な回転軸を中心に回転する。また寝台天板6は図示しない駆動装置によって、その位置をZ方向に移動できる。上記回転板5の回転と上記寝台天板6の移動を同時に行うことで、公知の螺旋スキャンを行うことも可能である。
【0018】
図1において,X線管1a、1bのX線発生点とX線検出器4のX線入力面との距離の代表例は1040 [mm]である。また開口部11の直径の代表例は650 [mm]である。回転板5の回転速度の代表例は3 [回転/秒]であり、撮影系は様々な回転角度から被検体10のX線透過像を撮影する。撮影系の1回転における撮影回数の代表例は2000回であり,回転板5が0.18度回転する毎に1回の撮影が行われる。また撮影はX線管1aおよび1bから交互に照射されるパルスX線を用いて行われる。即ち撮影時には、回転板5の0.18度の回転毎にX線管1a、X線管1b、X線管1a、・・・という順番でパルスX線が照射され、一方のX線管からのX線照射がオンになっている期間は他方のX線管からのX線照射はオフとなる。
【0019】
コリメータ2a、2bはそれぞれX線管1a、1bから照射されるX線12a、12bの一部をXY面方向およびZ方向に遮蔽し、X線照射領域13a、13bを形成する。XY面方向に関しては、X線照射領域13a、13bはX線検出器4の撮影視野と同一になるように形成される。またZ方向のX線照射領域13a、13bの形成方法については後述する。
【0020】
補助X線検出器8は、X線管1bから照射されるX線12bのうちスリット7を通過したX線を検出する。スリット7および補助X線検出器8は、これらがX線焦点Sbから照射されてX線検出器4に入射するX線を遮ることがないよう、X方向の端部に配置されている。補助X線検出器8で検出した信号は、X線焦点SbのZ方向の位置を計算するために利用される。スリット7、補助X線検出器8および上記位置計算方法の詳細については後述する。
【0021】
X線検出器4はシンチレータおよびフォトダイオード等から構成される公知のX線検出器である。X線検出器4は、多数のX線検出素子をマトリクス状に配列した2次元入力面を有しており、前記入力面がX線管1a、1bに対向するように配置されている。前記配列数の代表例は900素子(XY面方向)×160素子(Z方向)である。上記X線検出素子は、X線発生点Sa、Sbに対してXY面方向に略等距離となる円弧上に配置されている。各X線検出素子のXY面方向およびZ方向のサイズの代表例は1[mm]である。
【0022】
散乱線除去コリメータ3は多数のX線遮蔽板から構成される公知の散乱線除去コリメータであり、X線検出器4の入力面上に固定されている。上記X線遮蔽板はその板面がX線検出器4の入力面に対して垂直になるように、X線検出素子のXY面方向の各素子間に配置されており、X線検出器4の入力面上でZ方向に多数のスリットを形成する。上記スリットは被検体10の内部で散乱した散乱X線のうち、XY面方向に入射角度の大きいX線のX線検出器4への入射を遮断する。従って散乱X線に起因する計測精度の低下や量子ノイズの増加を防止できる。
【0023】
次に,本実施の形態に係るX線CT装置の動作を説明する。
【0024】
まず検者は被検体10を寝台天板6の上に配置した後に、コンソール301を介して撮影条件を設定する。撮影条件の代表的なものには、被検体10の撮影位置、スキャン方式(静止スキャン、ステップスキャン、または螺旋スキャンの選択)、ソースモードの選択(シングルソースモード、またはマルチソースモード)、X線管1a、1bの管電圧および管電流、撮影系の回転速度等があり、これらは公知の方法を用いて設定される。次に検者はコンソール301を介して撮影開始を指示する。撮影開始が指示されると同時に,制御装置303は回転板5の回転を開始する。回転板5の回転は、後述する所定の低回転速度に達するまで回転速度を増加し、上記低回転速度に達した時点で一定速度を保持する。制御装置303はまた、回転板5の回転を開始すると同時に、X線管1bの移動を開始してZ方向の所定位置に移動すると共に、寝台天板6の移動を開始して被検体10を予め設定した撮影位置に配置する。詳細については後述するが、X線管1bの上記移動に際しては、まずX線管1bが所定の位置付近に粗配置されると同時にコリメータ2bが遮蔽される。次にX線管1bからX線が照射され、スリット7を通過したX線が補助X線検出器8により検出される。上記検出信号はメモリ305に記録される。計算機304はメモリ305に記録された上記検出信号に基づいてX線管1bのZ方向の位置を計算し、上記計算結果に基づいて制御装置303はX線管1bの位置を修正する。X線管1bの移動および被検体10の配置が共に終了すると、次に制御装置303は、回転板5の回転速度を増加して高回転速度に変更する。回転板5の回転が所定の定速状態に入った時点で制御装置303はX線管1a、1bからのX線照射およびX線検出器4の信号検出を指示し、撮影を開始する。撮影中にX線検出器4から出力された検出信号のデータはメモリ305に順次格納される。上記データの格納が開始されると同時に計算機304は公知の再構成アルゴリズムを用いて被検体10のCT像を計算し,計算結果をメモリ305に記録する。また計算機304は上記計算されたCT像をモニタ302に表示する。データの取得からCT像の表示に至る上記の一連の動作は、予め指定された撮影範囲における撮影が全て終了するまで順次繰り返される。
【0025】
図2は本実施の形態1に係るX線CTにおける、X線焦点Sa, SbとX線検出器4との位置関係を説明するための斜視図である。また
図3〜7は本実施の形態1に係るX線CT装置における、X線焦点SaのX線照射領域13aとX線焦点SbのX線照射領域13bとの位置関係を説明するための側面図である。まず、マルチソースCTの原理と、X線焦点Sa、SbとそれぞれのX線照射領域13a、13b、およびX線検出器4との位置関係について、
図2〜7を用いて説明する。
【0026】
図2はマルチソースCTにおける、X線焦点Sa,SbとX線検出器4との位置関係を説明するための斜視図である。本例ではアレイ状の検出素子を有する1台のX線検出器4に対して、2台のX線源(X線管1a、1b)が対向配置される。各X線源のX線焦点Sa,Sbは回転軸方向であるZ軸方向の異なる位置に配置される。また、上記X線焦点Sa,Sbは回転面(Z軸に垂直な面)方向には同一位置に配置されている。X線焦点Sa,Sbからそれぞれ照射されたX線13a,13bは、被検体10を透過した後にX線検出器4に入射する。
【0027】
図3はマルチソースCTにおいて、X線焦点SaのX線照射領域13aとX線焦点SbのX線照射領域13bとの位置関係の一例を説明するための側面図である。
図3では、Z軸方向を紙面の上下方向に描いているので、Z軸方向を上下方向と便宜上表現する。本例ではX線焦点Sa, SbはそれぞれX線検出器4のZ軸方向の上端、下端位置と同一となるように配置される。またX線焦点SaのX線照射領域の上端13a1、およびX線焦点SbのX線照射領域の下端13b1は、それぞれX線検出器4のZ軸方向の上端、下端位置に垂直に入射するようにコリメータ2a, 2bによってそれぞれ制限されている。このため本例では、撮影領域は図中太線で示した領域30の内部に制限される。一方、X線焦点SaのX線照射領域の下端13a2、およびX線焦点SbのX線照射領域の上端13b2は、撮影系の回転軸であるZ軸上にて交差するようにコリメータ2a, 2bによってそれぞれ制限されている。X線焦点Sa, Sbからは同時にX線照射されることがないよう、異なるタイミングでX線照射が行われ、それぞれX線検出器4により検出される。上記タイミングは、例えば時間的にパルス状のX線をX線焦点Sa,Sbから交互に照射することで実現できる。このときX線焦点Saから照射されたX線照射領域13aに対しては、X線検出器4上でX線が検出されない非検出領域33aが生じる。また同様に、X線焦点Sbから照射されたX線照射領域13bに対しては、X線検出器4上でX線が検出されない非検出領域33bが生じる。本例のマルチソースCTでは撮影領域30中の外部にはX線が照射されないため、従来のシングルソースCTで課題になっていた無効被曝が発生しない利点がある。なお、本図に示したような同一投影角度方向のX線焦点Sa, Sbに対しては、撮影領域30中にX線が照射される計測領域31と照射されない非計測領域32が生じる。
【0028】
図4は
図3に示したマルチソースCTにおいて、X線焦点SaのX線照射領域13aと180度回転したX線焦点SbのX線照射領域13bとの位置関係を説明するための側面図である。
図3中に示した非計測領域32は、撮影系の回転によりX線焦点Sbが180度回転した位置におけるX線照射領域13bに包含されるため、結局撮影系の1回転で計測される全データを利用すれば、撮影領域30中の全域を計測できる。また、上記のように撮影領域30中のZ軸方向の中央部付近の領域ではX線焦点SaおよびSbから照射された両撮影データの情報を用いてCT像を再構成できるため、従来のシングルソースCTで課題になっていたコーンビームアーチファクトを低減できる利点がある。
【0029】
図5は
図3に示したマルチソースCTにおいて、X線焦点Saの拡張されたX線照射領域13aと、180度回転したX線焦点Sbの拡張されたX線照射領域13bとの位置関係を説明するための側面図である。
図3、4に示した例では、X線検出器4上の非検出領域33a、33bはX線焦点SaのX線照射領域の下端13a2、およびX線焦点SbのX線照射領域の上端13b2が、撮影系の回転軸であるZ軸上にて交差するようにコリメータ2a, 2bによって決定されていた。しかし
図5に示したように、非検出領域33a、33bが
図3および4に示した例より狭くなるようにコリメータ2a, 2bの配置を変えてもよい。この場合、撮影領域30中に重複して計測される領域50が生じて、X線焦点SaおよびSbから照射された両撮影データの情報を用いてCT像を再構成できる領域が増加するため、コーンビームアーチファクトを低減できる領域を拡大できる。
【0030】
以上
図2〜5を用いて説明したように、マルチソースCTでは従来のシングルソースCTで課題になっていた静止スキャンにおける無効被曝の発生をなくし、同時にコーンビームアーチファクトを低減できる利点がある。
【0031】
なお本実施の形態1に係るX線CT装置においては、
図6に示すようにX線焦点SbのZ軸方向の位置を移動できる機能を有している。詳細を説明すると、
図6は
図3に示したマルチソースCTにおいて、X線焦点SbのZ軸方向の位置を変えた場合のX線焦点Sbと撮影領域60との位置関係を説明するための側面図である。本図ではX線焦点位置SbのZ軸方向の位置が当初の位置61より上方に移動している。本図に示されるように、撮影領域60のZ軸方向の幅はX線焦点SaとSbの間の距離と等しくなる。従ってX線焦点Sbの位置を可変にすることで、撮影領域60のZ軸方向の幅を撮影対象に応じて自由に変えることができる。
【0032】
一方マルチソースCTにおいても、場合によっては1つのX線焦点を利用する従来のシングルソース撮影を行いたいというニーズが発生する場合が想定される。X線焦点SbのZ軸方向の位置を可変にした場合、以下に説明するように、シングルソース撮影においてコーンビームアーチファクトを低減できるという別の利点も生じる。
【0033】
図7に示すようにX線焦点Sbのみを用いたシングルソーススキャンの撮影機能を有している。詳細を説明すると、
図7は
図3に示したマルチソースCTにおいて、X線焦点Sbのみを用いてシングルソース撮影を行う際のX線照射領域13bとX線検出器4の位置関係を説明するための側面図である。マルチソースCTにおいてシングルソース撮影を行う場合、X線焦点Sbの位置を当初の位置61に配置したままで撮影することも可能である。しかしこの場合、X線焦点SbとX線検出器4の上端部との間の距離が長くなるため、Z軸上方位置においてCT像中のコーンビームアーチファクトが大きくなる問題が生じる。一方、本図のようにX線焦点SbのZ軸方向の位置をX線検出器4の視野中心に配置した場合、X線焦点SbとX線検出器4の両端部との距離を短くできるのでコーンビームアーチファクトによる画質劣化をより少なくできる利点がある。
【0034】
以上のように、マルチソースCTにおいてZ軸方向の撮影領域を撮影対象に応じて変化させたり、シングルソース撮影におけるコーンビームアーチファクトを低減するためには、少なくとも1つのX線焦点に対して、そのZ軸方向の位置を可変にする機構を設ける必要がある。これを解決する本発明の手段をまとめると、以下のようになる。
【0035】
(手段1)
複数のX線発生部と、X線発生部から照射されるX線の照射範囲を制限するコリメータ部と、照射範囲を制限されたX線を検出する1つ以上のX線検出部と、X線発生部とX線検出部を支持する支持部と、支持部を所定の回転軸を中心に回転させる回転機構部と、複数のX線発生部のうち1つ以上のX線発生部の支持部に対する位置を回転軸方向に移動する移動機構部と、X線検出部で検出された信号を信号処理する信号処理部とを有することを特徴とするX線CT装置である。これにより、マルチソースCTにおいてX線源の高精度かつ高速な移動を実現でき、被検体の無効被曝を発生させることなく高精度なCT計測を実現できる。
【0036】
X線焦点のZ軸方向の移動を実現する方法としては、例えば特許文献1に記載されているようなX線源全体をZ軸方向に移動する機構を設ける方法が考えられる。しかし、上記特許文献1に記載の方法を採用する場合、以下のような課題が生じうる。
【0037】
課題1:特許文献1の例ではX線管回転陽極の熱膨張に伴うX線焦点位置のシフトを修正するためにX線源を移動する。このとき必要な移動ストロークは高々数百μmであるのに対し、マルチソースCTにおいては数cm〜十数cmの移動ストロークが必要となる。従って移動距離が大幅に長いため移動に時間がかかり、検査のスループットが低下する。マルチソースCTにおいて、移動ストロークが長くなる理由は、
図6、
図7に示したように撮影対象に応じて撮影範囲が変化させる必要があり、その変更範囲が数cm〜十数cmに及ぶためである。
【0038】
課題2:X線焦点の位置ずれは被検体の無効被曝やCT像中におけるアーチファクトの発生要因となる。このため特許文献1の例と同様、マルチソースCTにおいてもX線焦点の移動には高い位置精度が必要とされ、一般的に公差を±数十μmとする必要がある。
【0039】
課題3:検査スループットを向上するためには撮影準備期間中に行われる撮影系の助走回転とX線源の移動を同時に行い、撮影準備期間を短縮する方法が考えられるが、撮影系の回転中はX線源に大きな遠心力がかかるため、移動には大きな駆動力が必要とされる。
【0040】
特許文献1に記されたX線源の移動機構には、通常、ステッピングモーター等で駆動された移動ステージが用いられる。このとき、課題1、3への対策としてそれぞれ高速移動、高駆動力を実現しようとすると、大型のモーターが必要となり低コスト化および省スペース化が困難となる。また課題2への対策として高精度化を実現しようとすると、上記高速移動が困難となる。
上記課題を解決する手段の概略を、下記に纏める。
【0041】
(手段2)
複数のX線発生部と、前記X線発生部から照射されるX線の照射範囲を制限するコリメータ部と、前記照射範囲を制限されたX線を検出する1つ以上のX線検出部と、前記X線発生部と前記X線検出部を支持する支持部と、前記支持部を所定の回転軸を中心に回転させる回転機構部と、前記複数のX線発生部のうち1つ以上のX線発生部の前記支持部に対する位置を前記回転軸方向に移動する移動機構部と、前記X線検出部で検出された信号を信号処理する信号処理部とを有し、被写体に対して種々の角度から撮影したX線透過像に基づいて前記被写体のCT画像を生成するX線CT装置において、前記移動機構部による移動期間中において前記回転機構部による回転の速度を所定値以下に保つ機能を有することを特徴とするX線CT装置。これにより、X線発生部の移動期間中にX線発生部にかかる遠心力を所定値より小さくできるため、比較的小型の移動機構部を用いて高速にX線発生部を移動できる。また回転機構部による回転と移動機構部による移動を同時に行えると共に、移動機構部による移動の終了後に回転機構部による回転速度を速やかに高速に変更できるので、撮影準備期間に要する時間を短縮して検査スループットを向上できる。
【0042】
(手段3)
手段2に記載のX線CT装置において、前記移動機構部により変更される前記X線発生部の位置をプリセットされた複数の所定位置の中から選択して指示する機能を有することを特徴とする。これにより、検者はプリセットされた複数の撮影視野の中から所望の撮影視野を選択できるため、検者による撮影条件の設定を簡易化できる。
【0043】
(手段4)
手段3に記載のX線CT装置において、撮影に先立って被写体の撮影領域を指定する機能と、前記複数のプリセット位置のうち前記撮影領域をカバーする最小の撮影視野を実現するプリセット位置を自動選択する機能を有することを特徴とする。これにより、検者が所望の撮影領域を指定するだけで、最適な撮影視野が自動的に選択できるため、検者による撮影条件の設定を簡易化できる。
【0044】
(手段5)
手段3に記載のX線CT装置において、前記X線発生部の前記プリセット位置において予め計測したX線キャリブレーション信号を記録する記録部を有することを特徴とする。これにより、X線発生部のプリセット位置毎に予め計測した最適なX線キャリブレーションデータを利用できるため、不適正なキャリブレーションデータの利用に起因するX線CT画像中のアーチファクトの発生を防止できる。
【0045】
(手段6)
手段2および3に記載のX線CT装置において、前記プリセット位置付近にて前記X線発生部から照射されるX線を検出する補助X線検出部を有し、前記補助X線検出部の検出信号に基づいて前記X線発生部の位置の前記プリセット位置からのずれ量を計算する機能と、前記ずれ量に基づいて前記X線発生部の位置を修正する機能を有することを特徴とする。これにより、被写体の撮影中においてX線発生部の位置を正確な位置に修正できるため、X線発生部の位置ずれに起因する無効被曝の発生およびCT画像中のアーチファクトの発生を防止できる。
【0046】
(手段7)
手段6に記載のX線CT装置において、前記ずれ量が所定値より小さくなるまで前記コリメータ部を閉じて被写体へのX線照射を遮断する機能を有することを特徴とする。これにより、被写体の撮影に先立ってX線発生部の位置を正確な位置に修正できるため、X線発生部の位置ずれに起因する無効被曝の発生およびCT画像中のアーチファクトの発生を防止できる。
【0047】
(手段8)
手段2および3に記載のX線CT装置において、前記プリセット位置付近にて前記X線発生部から照射されるX線を検出する補助X線検出部を有し、前記補助X線検出部の検出信号に基づいて前記X線発生部の位置の前記プリセット位置からのずれ量を計算する機能と、前記ずれ量に基づいて前記X線発生部から前記X線検出部に照射されるX線の照射範囲が所定の位置となるように前記コリメータ部の位置を修正する機能を有することを特徴とする。これにより、回転機構部による回転が高速であるため移動機構部によるX線発生部の移動が困難な場合も、X線発生部の位置ずれに起因するX線照射範囲のずれを修正できるため、無効被曝の発生およびCT画像中のアーチファクトの発生を防止できる。
【0048】
(手段9)
手段6および8に記載のX線CT装置において、前記複数のプリセット位置のそれぞれに対して前記補助X線検出部が個別に設けられていることを特徴とする。これにより、全てのプリセット位置に対してX線発生部の位置ずれを精度よく計測し、位置を修正できる。
【0049】
(手段10)
手段6および8に記載のX線CT装置において、前記複数のプリセット位置の一部または全部に対して前記補助X線検出部が共通に設けられていることを特徴とする。これにより、補助X線検出部の個数および/または面積を減少して製造コストを低減できる。
【0050】
(手段11)
手段3に記載のX線CT装置において、前記複数のX線発生部により被写体に対して重複照射されるX線照射範囲の一部に非照射範囲を設けるように前記コリメータ部の位置を制御してX線照射範囲を制限する機能と、前記X線検出部上の前記X線照射範囲および前記非照射範囲においてそれぞれ検出された信号に基づいて前記X線発生部の位置の前記プリセット位置からのずれ量を計算する機能と、前記ずれ量に基づいて前記X線発生部の位置を修正する機能を有することを特徴とする。これにより、補助X線検出部を用いることなくX線発生部の位置を正確な位置に修正できるため、X線発生部の位置ずれに起因する無効被曝の発生およびCT画像中のアーチファクトの発生を防止すると共に、製造コストを抑えることができる。
【0051】
(手段12)
手段3に記載のX線CT装置において、前記複数のX線発生部により被写体に対して重複照射されるX線照射範囲の一部に非照射範囲を設けるように前記コリメータ部の位置を制御してX線照射範囲を制限する機能と、前記X線検出部上の前記X線照射範囲および前記非照射範囲においてそれぞれ検出された信号に基づいて前記X線発生部の位置の前記プリセット位置からのずれ量を計算する機能と、前記ずれ量に基づいて前記X線発生部から前記X線検出部に照射されるX線の照射範囲が所定の位置となるように前記コリメータ部の位置を修正する機能を有することを特徴とする。これにより、回転機構部による回転が高速であるため移動機構部によるX線発生部の移動が困難な場合も、補助X線検出部を用いることなくX線発生部の位置ずれに起因するX線照射範囲のずれを修正できるため、無効被曝の発生およびCT画像中のアーチファクトの発生を防止すると共に、製造コストを抑えることができる。
【0052】
(手段13)
手段2に記載のX線CT装置において、前記複数のX線発生部により被写体に対して重複照射されるX線照射範囲の一部に非照射範囲を設けるように前記コリメータ部の位置を制御してX線照射範囲を制限する機能と、前記X線検出部の検出信号のうち前記非照射範囲にて検出された信号に基づいて前記X線照射範囲にて検出された信号中に含まれる散乱X線成分量を計算して除去する機能を有することを特徴とする。これにより、X線照射範囲中に含まれる散乱X線成分を除去できるため、散乱X線に起因して発生するCT画像中のCT値の変動やアーチファクトの発生を低減できる。
【0053】
図8は本実施の形態1に係るX線CT装置の撮影系の構造を説明するための側面断面図である。また
図9は本実施の形態1に係るX線CT装置の撮影系の構造を説明するための、X線管1b位置における正面断面図である。
図1に示した回転板5は回転板5aおよび5bの2層構造となっており、両者はZ方向に円柱形状を有するドラム型フレーム80の両端面を挟むように配置されている。X線管1a、1bはそれぞれX線管支持フレーム86a、86bの内部に固定されており、X線管支持フレーム86aは回転板5aおよびドラム型フレーム80の内部に固定されている。またX線管支持フレーム86bは移動ステージ85の上に配置されており、移動ステージ85はドラム型フレーム80の内部に固定されている。移動ステージ85は図示しないモーターと移動テーブルから成る公知の移動ステージであり、X線管支持フレーム86b全体をZ軸方向に移動する。X線管支持フレーム86a、86bの内部には、線質補償フィルタ88a、88bがそれぞれ固定されている。線質補償フィルタ88a、88bはX線管1a、1bから照射されるX線の被検体10透過時におけるエネルギースペクトルの変化を補償するために用いられる公知のフィルタである。
【0054】
X線管支持フレーム86a、86bの内部にはまた、公知の移動ステージ84a、84bがそれぞれ固定されている。移動ステージ84a、84bは、同じくX線管支持フレーム86a、86bの内部にそれぞれ配置されたコリメータ2a、2bのZ軸方向の位置および開口幅を変化させる機能を有する。
【0055】
X線管支持フレーム86aの内部には、位置検出ユニット87aが配置されている。位置検出ユニット87aは、
図13に示すようにスリット7、補助X線検出器8およびこれらを支持するフレーム等から構成されている。X線管1aの回転陽極の熱膨張に伴うX線焦点SaのZ軸方向の位置シフトは、位置検出ユニット87aの検出信号に基づいて後述する方法により計算される。また上記計算結果に基づいて、X線焦点Saから照射されるX線の照射位置が適正になるようにコリメータ2aの位置が修正される。
【0056】
X線管支持フレーム86bの上面および下面には、位置検出ユニット支持フレーム81を貫通するための孔82、83がそれぞれ設けられている。位置検出ユニット支持フレーム81の両端はそれぞれX線管支持フレーム86aおよび回転板5bに固定されている。位置検出ユニット支持フレーム81には、4つの位置検出ユニット87b1〜87b4がZ方向の異なる位置に配置されている。本実施の形態1に係るX線CT装置では、X線焦点SbのZ方向位置として、予めプリセットされた4つの位置Z1〜Z4が用意されており、検者は撮影対象に応じて後述する方法で所望の位置を選択できる。基本的には両方を動かす必要はないが、両方を同時に動かすことで高速移動が可能となる等の利点が生じる。このため、発明の実施の形態の最後の部分に補足の説明を追加した。
【0057】
位置検出ユニット87b1〜87b4は上記プリセット位置Z1〜Z4にそれぞれ対応して配置されたものであり、各位置におけるX線焦点Sbのプリセット位置からのずれを計測するために用いられる。本実施の形態1では、特にプリセット位置Z4はX線検出器4のZ方向の下端位置に、プリセット位置Z1はX線検出器4のZ方向の中央位置にそれぞれ配置されている。またプリセット位置Z2、Z3は上記Z1とZ4の間を等分割するように配置されているが、プリセット位置の数および配置は本例に限定されるものではない。なおプリセット位置Zn(n=1〜4)においてマルチソース撮影を実施した場合、Z方向の撮影視野であるスキャン幅はDn=(Z0−Zn)となる。ただしZ0はX線焦点SaのZ軸方向の位置である。
【0058】
図10は本実施の形態1に係るX線CT装置の撮影手順を説明するためのフローチャートである。以下、本フローチャートを用いて撮影手順を説明する。CT撮影に先立って、まず公知のスキャノグラム撮影が行われる(ステップS1)。スキャノグラム撮影は、撮影系を回転させないで静止したまま被検体10を載せた寝台天板6をZ方向に移動し、被検体10のX線透過像を計測するものである。次に検者はモニタ302上に表示された設定画面を用いて、コンソール301を介して撮影条件を指定する(ステップS2)。ステップS2で指定される主な撮影条件としては、スキャン方式の選択(静止スキャン、ステップスキャン、螺旋スキャン)、ソースモードの選択(シングルソースモード、またはマルチソースモード)、スキャン幅の設定、X線管の管電圧および管電流の設定、撮影系の回転速度の設定等がある。なお、スキャン幅はX線検出器4のZ方向の撮影視野であり、マルチソースモードにおいては上記のようにプリセット位置に応じてスキャン幅Dn(n=1〜4)が決まる。
【0059】
次に検者はモニタ302上に表示されたスキャノグラムの画像を用いて、後述する方法でコンソール301を介して撮影領域を指定する(ステップS3)。次に検者はコンソール301を介してCT撮影の開始を指定する(ステップS4)。このとき、計算機304はX線管1bのプリセット位置への移動が必要かどうか判断し(ステップS5)、必要な場合は撮影系の低速回転が開始される(ステップS6)。また必要でない場合は撮影系の高速回転が開始される(ステップS9)。
【0060】
ステップS6に進んだ場合、回転板5の回転は徐々に加速され、所定の低回転速度に至った時点で上記回転速度を維持する。なお、低速回転の回転速度の代表例は0.5 [回転/秒]である。ステップS6において撮影系の回転が開始されると同時に、次に移動ステージ85はX線管1bを所定のプリセット位置に移動して粗配置する(ステップS7)。上記粗配置では、移動ステージの位置精度不足やX線管1bの回転陽極の熱膨張に伴うX線焦点SbのZ軸方向の位置シフトにより、X線焦点Sbは所定のプリセット位置からずれている場合がある。従って次に、X線焦点Sbの上記位置ずれを修正するためにX線管1bの位置調整が行われる(ステップS8)。なお、上記位置調整方法の詳細は後述する。
【0061】
X線管1bの位置調整が終了すると、次に撮影系の高速回転が開始される(ステップS9)。高速回転の回転速度の代表例は3 [回転/秒]である。撮影系が所定の高回転速度に至った時点で、次に撮影が開始される(ステップS10)。撮影中においてはX線管1a、1bから照射されるX線の一部は位置検出ユニット87a、87bにより検出され、回転陽極の熱膨張に伴うX線焦点Sa、SbのZ軸方向の位置シフト量が計算機304によって計算される。また上記計算結果に基づき、後述する方法でコリメータ2a、2bの位置が修正される(ステップS11)。なお上記ステップS11の過程は撮影中においてX線が照射されている間は何度も繰り返し実施され、X線焦点Sa、Sbの位置ずれが随時修正される。撮影データは順次メモリ305に格納される。計算機304は上記メモリ305に格納された撮影データを順次読み出して後述する手順でCT像を作成する(ステップS12)。最後に撮影領域の全ての計測が終了した時点で、X線照射を停止し撮影を終了する(ステップS13)。
【0062】
以上のように、本実施の形態1に係るX線CT装置ではX線管1bのプリセット位置への移動中は撮影系の回転速度が低速に保たれるため、X線管1bにかかる遠心力を所定値以下に抑えることができる。このため、移動ステージ85の駆動機構の小型化、低コスト化、および移動の高速化が可能である。また撮影準備中の低速回転から撮影時の高速回転に速やかに移行できるため、撮影準備時間を短縮して撮影のスループットを向上できる。
【0063】
図11は本実施の形態1に係るX線CT装置において、撮影領域の指定方法を説明するための図である。特に本図は
図10に示したフローチャート中のステップS3について、具体的な実施方法を説明するためのものである。
図10のステップ1にて取得された被検体10のスキャノグラム像110は、モニタ302上に表示される。検者は、上記スキャノグラム像110を見ながら、コンソール301を介して撮影希望領域の上端位置112および下端位置113を指定できる。このとき、もしステップS2の撮影条件設定において静止スキャンおよびマルチソースモードが選択されている場合、計算機304は上記撮影希望領域全域をカバーする最小のスキャン幅Dnの撮影領域を計算して、撮影領域候補111としてスキャノグラム像110上に表示する。また、撮影希望領域全域をカバーできるスキャン幅が存在しない場合は、最大スキャン幅D4の撮影領域を撮影領域候補としてスキャノグラム110上に表示する。検者は上記表示された撮影領域候補111に基づき、撮影領域の位置を種々変更できる。また必要であればステップS2に戻って、スキャン方式、ソースモード、スキャン幅等の撮影条件を変更することもできる。
【0064】
図12は本実施の形態1に係るX線CT装置において、X線管1bの位置調整手順を説明するためのフローチャートである。特に本図は
図10に示したフローチャート中のステップS8について、具体的な実施方法を説明するためのものである。ステップS7でX線管1bの粗配置が終了すると、まず移動ステージ84を移動してコリメータ2bを閉じる(ステップT1)。これは引続き行われるX線焦点Sbの位置計測のためのX線照射において、被検体10が被曝することがないよう、X線を遮蔽するためである。
【0065】
次にX線照射が開始される(ステップT2)。このとき位置検出ユニット87で検出された信号はメモリ305に記録され、計算機304は上記メモリ305に記録された検出信号に基づき、後述する方法でX線焦点Sbの位置を計算する(ステップT3)。次に計算機304は上記計算結果に基づき、所定のプリセット位置からのX線焦点Sbのずれを計算し、上記位置ずれが許容誤差以内にあるかどうかを判断する(ステップT4)。なお上記許容誤差の代表例は50[μm]である。もし位置ずれが許容誤差以内に入っていない場合は、X線管1bの位置を移動して位置ずれを修正し(ステップT5)、その後ステップT3に戻って再びX線焦点Sbの位置を再計算する。
【0066】
また、ステップT4でもし位置ずれが許容誤差以内に入っていた場合は、X線照射を終了する(ステップT6)。引続きステップT1で閉じたコリメータ2bを再び開き(ステップT7)、その後ステップS9の高速回転に移行する。なお、本フローチャートではステップT5においてX線管1bの位置ずれを修正した後にステップT3に戻る手順となっているが、撮影準備期間を短縮するためにステップT6に進んでも良い。
【0067】
図13は本実施の形態1に係るX線CT装置において、位置検出ユニット87の内部構成を説明するための図である。位置検出ユニット87はスリット7、補助X線検出器8、およびこれらを支持するフレーム130等から構成されている。スリット7はスリット部以外に入射するX線を遮蔽するための公知ものであり、スリットの長手方向がX方向に平行となるように配置される。また補助X線検出器8は、Z方向に4列の検出素子P1〜P4を有する公知のアレイ型X線検出器である。上記スリット7を通過したX線のZ方向の分布は、上記4列の検出素子P1〜P4により検出される。
【0068】
図14は本実施の形態1に係るX線CT装置において、位置検出ユニット87の検出信号の一例を示す図である。X線焦点SbのZ方向の位置が本来のプリセット位置ZP0からずれていると、スリット7を通過して補助X線検出器8に入射するX線の分布140はZP0に対して左右非対称になる。このため、上記X線の分布140に基づいてX線焦点Sbのプリセット位置ZP0からのずれΔZを計算できる。例えば、ΔZは次式を用いて数1で計算できる。
【0070】
ただしDXはX線焦点Sbとスリット7のX方向の距離、dXはスリット7と補助X線検出器8の入力面のX方向の距離とする。またZGはX線の分布140のZ方向の重心位置であり、数2にて計算できる。
【0072】
ただしZPn(n=1〜4)を検出素子PnのZ方向の位置、qnを検出素子Pn(n=1〜4)の検出信号とする。
【0073】
図15〜17は本実施の形態1に係るX線CT装置において、位置検出ユニットの別の構成例を示す図である。ただし
図15〜17にはX線管1bに対して5つの異なるプリセット位置Z1〜Z5を想定した例を示しているが、プリセット位置の配置や個数は本例に限定されるものではない。
図8に示した例ではプリセット位置Z1〜Z4に対してそれぞれ位置検出ユニット87b1〜87b4が個別に配置されていたが、
図15に示した例では、プリセット位置Z1〜Z5に対して共通の補助X線検出器150が配置されている。このような補助X線検出器としては、公知のX線ラインセンサ等を用いることができる。補助X線検出器150は共通のフレーム151の中に配置されており、フレーム151の前面にはプリセット位置Z1〜Z5と同一のZ位置にそれぞれスリットA1〜A5が配置されている。このように補助X線検出器150を共通化することで、配置調整作業の低減やコスト低減が可能である利点がある。
【0074】
また
図16に示した例では、比較的距離の近いプリセット位置Z1〜Z3に対してのみ、補助X線検出器160を共通化させている。補助X線検出器160として、比較的小型の汎用的なX線アレイセンサ等を用いることができる利点がある。更に
図17に示した例では、
図16に示した補助X線検出器160の代わりに小型の補助X線検出器170を用いている。上記小型化を実現するために、プリセット位置Z1〜Z3から照射されたX線のスリット像がそれぞれ補助X線検出器170上に結像するように、スリットC1〜C3が配置されている。補助X線検出器170として、プリセット位置Z4、Z5用の補助X線検出器171、172と同一の、小型X線アレイセンサを使用する。これにより、補助X線検出器の部品を共通化してコストを低減できる利点がある。
【0075】
図18、19は本実施の形態1に係るX線CT装置において、コリメータ2a、2bの位置調整方法を説明するための図である。特に本図は
図10に示したフローチャート中のステップS11について、具体的な実施方法を説明するためのものである。
図18に示すように、X線焦点SbのZ方向の位置が本来のプリセット位置ZoからZbにずれている場合、X線照射領域13bがX線検出器4の検出領域180からずれてしまう。このようなX線照射領域13bのずれは、被検体の無効被曝を発生すると共に、再構成されるCT像中にアーチファクト発生させる原因となる。このため
図19に示すように、移動ステージ84bはコリメータ2bの位置を修正して、X線照射領域13bと検出領域180を一致させる。また同様の調整は、コリメータ2aに対しても実施される。コリメータ2a、2bはX線管1a、1bに比べて軽量であるため、撮影系が高速回転して強い遠心力がかかっている場合にも比較的小さな力で移動できる。このため、移動ステージ84a、84bの駆動機構として比較的小型のものを使用できるため、省スペース化や低コスト化が可能である。
【0076】
図20は本実施の形態1に係るX線CT装置において、CT像の作成手順を説明するためのフローチャートである。特に本図は
図10に示したフローチャート中のステップS12について、具体的な実施方法を説明するためのものである。X線管1a、1bから交互に照射されるX線に対してX線検出器4でそれぞれ検出された撮影データa、bは、順次メモリ305中に記録される。計算機304は、まず始めに上記撮影データa、bをメモリ305から読み出して、散乱線補正計算を実施する(ステップU1)。ただし散乱線補正計算は撮影データa、b中に含まれる散乱X線成分を推定して除去する計算であり、その具体的な方法については後述する。次に計算機304はメモリ305からエアデータを読み出して、公知のエアキャリブレーション演算を行う(ステップU2)。ただしエアデータは被検体10の撮影に先立って被検体10を配置しない状態で計測した撮影データであり、予めメモリ305に記録されている。エアデータは、X線管1a、1bのそれぞれに対して計測される。特にX線管1bに対しては、各プリセット位置Z1〜Z4においてそれぞれエアデータb1〜b4が計測され、メモリ305に記録される。計算機304は、被検体10の撮影時におけるX線管1bのプリセット位置に応じて、同一位置で計測されたエアデータbをメモリ305から読み出して、エアキャリブレーション演算を行う。
【0077】
次に計算機304はメモリ305から吸収係数補正データを読み出して、公知の吸収係数補正演算を行う(ステップU3)。吸収係数補正は、X線のビームハードニング現象に起因して被写体サイズに応じて被写体のX線吸収係数が変化するのを防止するための補正であり、補正データの取得および補正演算には例えば特公昭61−54412に記載された公知の方法を用いることができる。エアデータの場合と同様、吸収係数補正データは被検体10の撮影に先立って計測されたものが予めメモリ305に記録されている。また吸収係数補正データは、X線管1a、1bのそれぞれに対して計測され、特にX線管1bに対しては、各プリセット位置Z1〜Z4においてそれぞれ吸収係数補正データb1〜b4が計測され、メモリ305に記録される。計算機304は、被検体10の撮影時におけるX線管1bのプリセット位置に応じて、同一位置で計測された吸収係数補正データbをメモリ305から読み出して、吸収係数補正演算を行う。次に計算機304は、吸収係数補正演算後の撮影データを用いて公知の方法で画像再構成演算を行い、被検体10のCT像を作成する(ステップU4)。画像再構成演算方法としては、例えば非特許文献1に記載の方法が利用できる。最後に計算機304は、作成されたCT像を公知の方法を用いてモニタ302上に表示する(ステップU5)。
【0078】
図21は本実施の形態1に係るX線CT装置において、X線検出器4の入力面上における非検出領域33a、33bの位置を示す図である。
図5を用いて説明したように、マルチソースモードにおいてはX線管1a、1bから直接照射されるX線が入射しない非検出領域33a、33bが生じる。非検出領域33a、33bでは被検体10の内部で散乱したX線が計測されるため、これらの計測データを用いて後述する散乱線補正計算を行うことができる。なお、
図5中に示した重複計測領域50を最大にすると非検出領域33a、33bの面積が0となり、上記散乱線のデータが計測できなくなってしまうため、散乱線補正を実施する際には最小限の非検出領域33a、33bとして、例えばZ方向にそれぞれ5画素程度の領域を予め確保しておく必要がある。
【0079】
図22は本実施の形態1に係るX線CT装置において、X線検出器4の計測信号のZ方向のプロファイル220a、220bの例を示した図ある。また
図23はプロファイル220a、220bに基づいて散乱X線分布231を推定する方法を説明するための図である。特に
図23は
図20に示したフローチャート中のステップU1について、具体的な実施方法を説明するためのものである。
図22において、X線管1aから照射されたX線のプロファイル220aにおいては、非検出領域33aの信号が散乱X線の信号に相当する。またX線管1bから照射されたX線のプロファイル220bにおいては、非検出領域33bの信号が散乱X線の信号に相当する。ここで散乱X線のZ方向の分布は比較的緩やかに変化する性質を利用すれば、非検出領域33a、33bで計測された信号をZ方向に線形補間する等して、上記非検出領域33a、33b以外の領域230における散乱X線プロファイル231を推定できる。こうして求めた散乱X線プロファイル231をそれぞれプロファイル220a、220bから減算することで、散乱線補正を実施できる。また上記の散乱線補正は、
図21中に示したX方向の全ての画素位置xiにおいて実施される。
【0080】
以上のように、本実施の形態1に係るX線CT装置ではX線管1bの位置をZ方向に種々変更できるため、マルチソースモード撮影においてZ方向に撮影視野を変更したり、シングルソースモード撮影においてZ方向の撮影視野を拡大したりできる効果がある。また、撮影準備期間中において撮影系を低速回転してX線管1bにかかる遠心力を抑えることで、X線管1bの高速移動や、低速回転から高速回転への速やかな移行が可能となり、撮影準備期間を短縮して検査のスループットを向上できる効果がある。更に、位置検出ユニット87を用いてX線焦点Sa、Sbの位置をモニタリングすることで、撮影準備期間中におけるX線管1bの位置修正や、撮影期間中におけるコリメータ2a、2bの位置修正ができるため、被検体10の無効被曝の発生やCT像中のアーチファクトの発生を低減できる効果がある。
【0081】
(実施の形態2)
実施の形態2に係るX線CT装置は,その構成の大部分が実施の形態1と同一であるため,以下では相違点を中心に実施の形態2に係るX線CT装置を説明する。
【0082】
図24は本発明の実施の形態2に係るX線CT装置の正面模式図である。本X線CT装置の構成の大部分は、実施の形態1において
図1に示したX線CT装置と同一であるため説明を省略するが、相違点はX線焦点Sa、SbのZ方向の位置ずれを計測するために用いられていたスリット7および補助X線検出器8が本X線CT装置には存在しないことである。本X線CT装置では、X線焦点Sa、SbのZ方向の位置ずれを許容するかわりにコリメータ2a、2bの位置を修正して、X線照射領域13がX線検出器4に対して一定位置に保たれるようにする。また後述するようにコリメータ2a、2bの適正な位置修正量を、X線検出器4の検出信号に基づいて計算する。このため、本X線CT装置では実施の形態1において使用されていたスリット7、補助X線検出器8、およびこれらにより構成されていた位置検出ユニット87、および位置検出ユニット支持フレーム86等を省略できるので、これらの配置調整作業や製造にかかるコストを低減できる利点がある。
【0083】
図25は本実施の形態2に係るX線CT装置の撮影手順を説明するためのフローチャートである。本X線CT装置の撮影手順の大部分は、実施の形態1において
図10に示した撮影手順と同一であるため説明を省略するが、相違点は
図10にて行っていたX線管1b位置調整(ステップS8)が、本X線CT装置の撮影手順では省略されていることにある。すなわち、X線管1bの粗配置(ステップV7)が終了した直後に撮影系の高速回転を開始し(ステップV8)、その後撮影が開始される(ステップV9)。また撮影中は後述する方法でコリメータ2a、2bの位置調整が行われる(ステップV10)。X線管1bの位置調整を省略したため、撮影開始直後においてX線照射領域13の位置がX線検出器4上の所定の適正位置からずれる可能性があるが、ステップV10において直ちに上記位置の修正を行うことで、被検体10の無効被曝の発生やCT像中のアーチファクト発生を最小限に抑えることができる。またX線管1bの位置調整を省略したことにより、撮影準備期間を短縮して検査のスループットを向上できる効果がある。
【0084】
図26は本実施の形態2に係るX線CT装置において、コリメータ2a、2bのZ方向の位置ずれ量を計測するためにX線検出器4の入力面上に設けられた位置ずれ検出領域260、261の位置を示す図である。本図に示すように、位置ずれ検出領域260、261はX線検出器4のX方向の両端部に設けられる。通常X線検出器4の撮影視野サイズは被検体10に対して十分大きく設計されているため、被検体10の撮影時においても位置ずれ検出領域260、261ではエアデータが計測される。従って、上記エアデータを用いることで実施の形態1に示したような補助X線検出器を用いずにコリメータ2a、2bの位置ずれ量を計測できる。なお上記位置ずれ量は、検出領域180aと非検出領域33a、および検出領域180bと非検出領域33bとの境界付近で測定されるX線照射領域13の端部位置のZ方向へのシフト量に基づいて計算される。このため、コリメータ2a、2bの位置ずれ量の計測を行うためには、最小限の非検出領域33a、33bとして、例えばZ方向にそれぞれ5画素程度の領域を予め確保しておく必要がある。
【0085】
図27は本実施の形態2に係るX線CT装置において、X線検出器4上の位置ずれ検出領域260、261において計測されたエアデータのZ方向のプロファイル270の例を示した図である。なお、本プロファイル270は位置ずれ検出領域260、261に属する全てのX方向の画素位置Xiにおいて計測されたプロファイルの平均値として計算される。また本図では特にX線管1bに対する撮影データの例を示してある。X線焦点SbにZ方向の位置ずれが発生すると、
図18において説明したようにX線照射領域13がZ方向にシフトする。このときプロファイル270中におけるX線照射領域13の端部位置271が非検出領域33bと検出領域180の境界位置273に対してZ方向にずれるので、上記ずれ量に基づき下記の方法でコリメータ2bの適正位置への修正量を計算できる。
【0086】
図28は
図27に示したプロファイル270のZ方向の1次微分の絶対値を示した図である。本図に示すように、1次微分の絶対値を計算することでX線照射領域13の端部位置271、272において信号ピーク280、281が生じるので、これらの重心位置ZGを上記端部位置271、272とすればよい。重心位置ZGの計算には数2を用いることができる。ただし、数2においてZP0を境界位置273とし、計測データのサンプル数nを境界位置273付近の適正なサンプル数に変更する。上記重心位置ZGが求まれば、コリメータ2bの適正位置への修正量ΔZは数1で計算できる。ただし、数1においてDXをX線焦点Sbとコリメータ2bのX方向の距離、dXをX線焦点SbとX線検出器4の入力面のX方向の距離とする。X線焦点Saに対しても同様の方法で、コリメータ2aの適正位置への修正量ΔZを計算できる。
【0087】
以上のように、本実施の形態2に係るX線CT装置では実施の形態1に示したX線CT装置で使用していた位置検出ユニット87等の構成部品を省略できるため、その配置調整作業や製造に必要なコストを低減できる効果がある。また撮影準備期間を短縮して検査のスループットをより一層向上できる効果がある。
【0088】
以上、本発明に係るX線CT装置の実施の形態の例を示したが,本発明は本例に限定されるものではなく,その要旨を逸脱しない範囲において種々変更しうることはいうまでもない。例えば、上記実施の形態1および2においては、X線焦点SbのみのZ方向位置を移動する構成を示したが、X線焦点SaおよびSbの両方を移動しても良い。このとき2つのX線焦点を同時に移動することで、移動時間を短縮できる利点がある。また例えば、特許文献3に示されるような2つのX線源−X線検出器の対を有するマルチソースCTに対して、本発明のような低速回転中のX線管の移動機構を設けても良いことは言うまでもない。