特許第5665896号(P5665896)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5665896
(24)【登録日】2014年12月19日
(45)【発行日】2015年2月4日
(54)【発明の名称】活物質材料およびリチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20150115BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20150115BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20150115BHJP
   H01G 11/30 20130101ALI20150115BHJP
   H01M 4/62 20060101ALN20150115BHJP
【FI】
   H01M4/525
   H01M4/505
   H01M4/36 A
   H01G11/30
   !H01M4/62 Z
【請求項の数】4
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-15657(P2013-15657)
(22)【出願日】2013年1月30日
(65)【公開番号】特開2014-146554(P2014-146554A)
(43)【公開日】2014年8月14日
【審査請求日】2014年1月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】504145364
【氏名又は名称】国立大学法人群馬大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】森本 英行
(72)【発明者】
【氏名】鳶島 真一
(72)【発明者】
【氏名】進藤 洋平
【審査官】 瀧 恭子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−142154(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/113515(WO,A1)
【文献】 特開2012−099323(JP,A)
【文献】 特表2006−523176(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/080722(WO,A1)
【文献】 特開2012−003928(JP,A)
【文献】 特開2008−226463(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/36−4/62
H01B 1/06
H01G 11/06、11/30
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Liイオン伝導を利用した電気化学デバイスに用いられる活物質材料であって、
Liイオンを吸蔵放出可能な活物質と、前記活物質の表面に配置され、ポリアニオン構造を有するNaイオン伝導体と、を有し、
前記Naイオン伝導体が、一般式Na1−wLi2−x(AO(Mは、Al、Fe、In、Cr、Sc、Ga、La、Yの少なくとも一種であり、Mは、Ti、Zr、Ge、Sn、Hfの少なくとも一種であり、Aは、P、Si、Ti、V、W、Nbの少なくとも一種であり、0≦x≦1、0<y、0<z、0≦w<1)で表されるものであることを特徴とする活物質材料。
【請求項2】
前記Naイオン伝導体が、ナシコン型結晶相を備えることを特徴とする請求項1に記載の活物質材料。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の活物質材料を有することを特徴とする電気化学デバイス。
【請求項4】
リチウムイオン電池であることを特徴とする請求項3に記載の電気化学デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Liイオン伝導を利用した電気化学デバイスに使用され、サイクル安定性を向上させることが可能な活物質材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年におけるパソコン、ビデオカメラおよび携帯電話等の情報関連機器や通信機器等の急速な普及に伴い、その電源として優れた電池の開発が重要視されている。また、情報関連機器や通信関連機器以外の分野では、例えば自動車産業界において、電気自動車やハイブリッド自動車に用いられる電池として、リチウムイオン電池の開発が進められている。
【0003】
このようなリチウムイオン電池は、通常、正極活物質を含有する正極活物質層と、負極活物質を含有する負極活物質層と、正極活物質層および負極活物質層の間に形成された電解質層とを有する。例えば、特許文献1では、正極活物質層が、結晶性または非晶質のリチウムイオン伝導性固体電解質を含む一次粒子を含有する固体粉末を表面に有する正極活物質を含有するリチウム二次電池が記載されている。また、上記結晶性または非晶質のリチウムイオン伝導性固体電解質としては、例えば一般式Li1+xAl2−x(PO(MはTi、GeおよびZeからなる群から選択される少なくとも1種であり、0≦x≦1)で表されるナシコン型リン酸化合物が挙げられている。また特許文献2では、多数の無機物粒子を有する混合物で形成された多孔性活性層がコートされた電極が開示されている。この無機物粒子としては、例えば一般式LiAlTi(PO(0<x<2、0<y<1、0<z<3)等が挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−226463号公報
【特許文献2】特表2009−529762号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えばリチウムイオン電池では、伝導イオンであるLiイオンの伝導経路の確保等の観点から、活物質の表面にLiイオン伝導体を配置した活物質材料を使用することがある(特許文献1等)。このような活物質材料を用いたリチウムイオン電池等においては、サイクル安定性のさらなる向上が求められている。本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、Liイオン伝導を利用した電気化学デバイスに使用され、サイクル安定性を向上させることが可能な活物質材料を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明においては、Liイオン伝導を利用した電気化学デバイスに用いられる活物質材料であって、Liイオンを吸蔵放出可能な活物質と、上記活物質の表面に配置され、ポリアニオン構造を有するNaイオン伝導体と、を有することを特徴とする活物質材料を提供する。
【0007】
本発明によれば、活物質の表面に、特定のNaイオン伝導体が配置されることで、Liイオン伝導を利用した電気化学デバイスのサイクル安定性を向上させることが可能な活物質材料とすることができる。
【0008】
上記発明においては、上記Naイオン伝導体が、一般式Na1−wLi2−x(AO(Mは、Al、Fe、In、Cr、Sc、Ga、La、Yの少なくとも一種であり、Mは、Ti、Zr、Ge、Sn、Hfの少なくとも一種であり、Aは、P、Si、Ti、V、W、Nbの少なくとも一種であり、0≦x≦1、0<y、0<z、0≦w<1)で表されるものであることが好ましい。本発明の効果をより発揮できるからである。
【0009】
上記発明においては、上記Naイオン伝導体が、ナシコン型結晶相を備えることが好ましい。ナシコン型結晶相は、空気中での安定性が良好であり、さらに高容量化を図ることができるという利点を有するからである。
【0010】
また本発明においては、上述した活物質材料を有することを特徴とする電気化学デバイスを提供する。
【0011】
本発明によれば、上述した活物質材料を用いることで、電気化学デバイスのサイクル安定性を向上させることができる。
【0012】
上記発明においては、上記電気化学デバイスが、リチウムイオン電池であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の活物質材料は、Liイオン伝導を利用した電気化学デバイスに使用され、サイクル安定性を向上させることが可能であるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の活物質材料の一例を示す概略断面図である。
図2】本発明の電気化学デバイスの一例を示す概略断面図である。
図3】本発明の活物質材料の製造方法の一例を示すフローチャートである。
図4】合成例1で得られたNaイオン伝導体のXRD測定結果である。
図5】合成例2で得られたNaイオン伝導体のXRD測定結果である。
図6】合成例1で得られたa−NaTi(PO(a−NTP)の熱重量・示差熱分析(TG−DTA)結果である。
図7】合成例1で得られたNaイオン伝導体のSEM観察結果である。
図8】本発明の活物質材料を用いた試験電極の作製方法の一例を示すフローチャートである。
図9】実施例1および比較例1で得られた評価用電池の充放電試験結果である。
図10】実施例1および比較例2で得られた評価用電池の充放電試験結果である。
図11】実施例1で得られた評価用電池のサイクリックボルタンメトリー(CV)測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の活物質材料および電気化学デバイスについて詳細に説明する。
【0016】
A.活物質材料
まず、本発明の活物質材料について説明する。本発明の活物質材料は、Liイオン伝導を利用した電気化学デバイスに用いられる活物質材料であって、Liイオンを吸蔵放出可能な活物質と、上記活物質の表面に配置され、ポリアニオン構造を有するNaイオン伝導体と、を有することを特徴とするものである。
【0017】
図1は、本発明の活物質材料の一例を示す概略断面図である。図1に例示するように、本発明の活物質材料10は、Liイオンを吸蔵放出可能な活物質1と、活物質1の表面に配置されたNaイオン伝導体2と、を有するものである。また、Naイオン伝導体2は、ポリアニオン構造を有するものである。
【0018】
本発明によれば、活物質の表面に、特定のNaイオン伝導体が配置されることで、Liイオン伝導を利用した電気化学デバイスのサイクル安定性を向上させることが可能な活物質材料とすることができる。サイクル安定性を向上させることができる理由については、次のように推測される。すなわち、本発明におけるNaイオン伝導体は、ポリアニオン構造を有するため、活物質の成分(例えば遷移金属元素)の溶出を防止できるという利点がある。具体的には、ポリアニオン構造(例えば、PO構造)は、インダクティブ効果により活物質表面の電位を部分的に上昇させていると考えられ、活物質の成分(例えば、4価のMn)の価数低下を抑制できると考えられる。その結果、活物質の成分が溶出することを抑制でき、活物質の劣化を抑制でき、これがサイクル安定性の向上に寄与すると考えられる。したがって、結晶のみならず、非晶質でも本発明の効果が得られると推測できる。
【0019】
また、本発明においては、Naイオン伝導体がポリアニオン構造を有する結晶相(例えばナシコン型結晶相)を備える場合、高容量化を図ることができるという利点がある。一般的に、活物質表面にイオン伝導体(例えば無機酸化物)を添加すると、活物質の表面反応性が落ち、抵抗が上昇する。これに対して、本発明では、活物質表面に特定のNaイオン伝導体を配置することで、活物質粒子表面におけるリチウムイオン移動の活性化エネルギーを下げる効果があると考えられる。この効果は、イオン半径の大きなNaイオンを含む結晶構造の欠陥(欠損)を利用してリチウムイオンが移動することで生じていると推察される。なお、無機フィラー添加によるイオン伝導体界面で生じる伝導率の向上に関する空間電荷層モデルが知られているが、このモデルと同様のメカニズムで、活物質表面でのリチウムイオンの移動がスムーズとなった可能性も考えられる。
【0020】
さらに、通常、Liイオン伝導を利用した電気化学デバイスに用いる活物質材料を作製する場合、Liイオン伝導経路の確保という点を考慮して、活物質の表面にLiイオン伝導体を配置することが考えられる(例えば特許文献1)。すなわち、活物質の表面にLiイオン伝導体を配置することで、Liイオンのみを選択的に伝導することができるため、Liイオンの伝導経路を十分に確保することができる。これに対して、本発明の活物質材料では、Liイオン伝導を利用した電気化学デバイスに用いられる活物質材料でありながら、活物質の表面にわざわざNaイオン伝導体を配置している。このような構成について、特許文献1、2には何らの記載もない。
以下、本発明の活物質材料について構成ごとに説明する。
【0021】
1.Naイオン伝導体
本発明の活物質材料におけるNaイオン伝導体は、後述する活物質の表面に配置され、ポリアニオン構造を有するものである。ここで、ポリアニオン構造は、通常、複数の酸素元素と共有結合をした中心元素から構成されるものである。中心元素および酸素元素が共有結合しているため、電気化学的安定性を高くすることができる。
【0022】
上記ポリアニオン構造に含まれる中心元素としては、ポリアニオン構造を形成可能なものであれば特に限定されるものではないが、例えば、P、Si、Ti、V、W、Nb等を挙げることができ、中でもP、Si、Ti、Vであることが好ましく、Pであることがより好ましい。
【0023】
本発明におけるポリアニオン構造としては、上記中心元素と複数の酸素元素とから構成されるものであれば特に限定されるものではなく、具体的にはPO、SiO、TiO、VO、WO、NbO等を挙げることができ、中でもPOであることが好ましい。
【0024】
上記Naイオン伝導体は、上述したポリアニオン構造以外に、通常、カチオンを備える。ここで、上記Naイオン伝導体はNaイオン伝導性を有するものであることから、カチオンとして少なくともNaイオンを備えることが好ましい。すなわち、上記カチオンとしては、Naイオンのみを有していても良く、NaイオンおよびLiイオンを有していても良い。Naイオン伝導体が、ある程度Liイオンを含有することで、界面においてLiイオンがさらに移動しやすくなると考えられる。
【0025】
本発明におけるNaイオン伝導体は、上述したポリアニオン構造を有するものであれば特に限定されるものではない。このようなNaイオン伝導体の組成の一例としては、例えば、一般式Na1−wLi2−x(AO(Mは、Al、Fe、In、Cr、Sc、Ga、La、Yの少なくとも一種であり、Mは、Ti、Zr、Ge、Sn、Hfの少なくとも一種であり、Aは、P、Si、Ti、V、W、Nbの少なくとも一種であり、0≦x≦1、0<y、0<z、0≦w<1)を挙げることができる。
【0026】
上記一般式Na1−wLi2−x(AOに含まれるAは、通常、P、Si、Ti、V、W、Nbの少なくとも一種であり中でもP、Si、Ti、Vの少なくとも一種であることが好ましく、Pであることがより好ましい。なお、上記一般式におけるyは、中心元素であるAの種類によって適宜設定されるものであり、通常、0より大きい値となる。また上記一般式におけるzは、例えばAO、M、Mの種類等によって適宜設定されるものであり、通常、0より大きい値となる。
【0027】
また上記一般式Na1−wLi2−x(AOに含まれるMは、通常、Al、Fe、In、Cr、Sc、Ga、La、Yの少なくとも一種であり、中でもAl、In、Feの少なくとも一種であることが好ましく、Alであることがさらに好ましい。
【0028】
また上記一般式Na1−wLi2−x(AOに含まれるMは、通常、Ti、Zr、Ge、Sn、Hfの少なくとも一種であり、中でもTi、Zr、Geの少なくとも一種であることが好ましく、Tiであることがさらに好ましい。
【0029】
また上記MおよびMは、それぞれ上述した元素の少なくとも一種であれば特に限定されるものではないが、例えば、AlおよびTiの組み合わせ、AlおよびZrの組み合わせであることが好ましい。
【0030】
上記一般式におけるMおよびMの割合としては、M:M=x:2−x(モル比)で表される。上記xの値としては、通常、0以上である。また、上記xの値としては、通常、1以下であり、中でも0.8以下であることが好ましく、0.6以下であることがより好ましく、0.4以下であることがさらに好ましい。
【0031】
また、上記Naイオン伝導体がカチオンとして、NaイオンおよびLiイオンを有する場合(混合カチオン系である場合)、上記一般式におけるwは、通常、0<w<1の範囲内であれば特に限定されるものではない。
【0032】
本発明におけるNaイオン伝導体の組成の他の例としては、例えば一般式Li3−wNa2−x(AO(Mは、Al、Fe、In、Cr、Sc、Ga、La、Yの少なくとも一種であり、Mは、Ti、Zr、Ge、Sn、Hfの少なくとも一種であり、Aは、P、Si、Ti、V、W、Nbの少なくとも一種であり、0≦x≦1、0<y、0<z、0<w≦3)等を挙げることができる。
【0033】
本発明におけるNaイオン伝導体は、ポリアニオン構造を有するものであり、結晶であっても良く、非晶質であっても良い。なお、上記Naイオン伝導体には、いわゆるガラスセラミックスも含まれる。また上記Naイオン伝導体は、ポリアニオン構造を有していれば特に限定されるものではないが、中でもポリアニオン構造を有する結晶相を備えるものであることが好ましく、上記結晶相の割合が多いことがより好ましい。具体的には、上記結晶相を主体として含有することが好ましい。ここで、「ポリアニオン構造を有する結晶相を主体とする」とは、Naイオン伝導体に含まれる全ての結晶相の中で、ポリアニオン構造を有する結晶相の割合が最も大きいことをいう。Naイオン伝導体に含まれる上記結晶相の割合は、50mol%以上であることが好ましく、60mol%以上であることがより好ましく、70mol%以上であることがさらに好ましい。また、上記Naイオン伝導体は、上記結晶相のみから構成されるもの(単相)であっても良い。なお、上記結晶相の割合は、例えば、X線回折による定量分析法(例えば、R値による定量法、リートベルト法)により決定することができる。
【0034】
また本発明においては、ポリアニオン構造を有する結晶相がナシコン型結晶相であることが好ましい。ナシコン型結晶相は、空気中での安定性が良好であるという利点を有するからである。ナシコン型結晶相の一例としては、一般式Na1−wLi2−x(AOで表される結晶相を挙げることができる。また、Naイオン伝導体は、一般式Li3−wNa2−x(AOで表される結晶相を有していても良い。なお、これらの一般式におけるA、M、Mの種類、およびx、y、z、wの数値範囲、ならびにこれらの好ましい例については上述した内容と同様である。
【0035】
また本発明におけるNaイオン伝導体は、ナシコン型結晶相以外の他の結晶相を有していても良い。他の結晶相としては、例えば、オリビン型結晶相、クリストバライト型結晶相等を挙げることができる。
【0036】
本発明におけるNaイオン伝導体は、Naイオン伝導性を有する。具体的には、10−5S/cm以上のNaイオン伝導度を有するものであることが好ましい。また、本発明におけるNaイオン伝導体は、さらにLiイオン伝導性を有することが好ましい。Liイオンの移動がより円滑になると考えられるからである。
【0037】
本発明におけるNaイオン伝導体の形状としては、後述する活物質の表面に配置可能な形状であれば特に限定されるものではないが、例えば粒子状、薄膜状等を挙げることができる。また、上記Naイオン伝導体が粒子状である場合、その平均粒径としては、後述する活物質の表面に配置可能な程度であれば特に限定されるものではないが、例えば、0.1μm〜2μmの範囲内であることが好ましく、0.2μm〜1μmの範囲内であることがより好ましく、0.3μm〜0.8μmの範囲内であることが特に好ましい。
【0038】
本発明におけるNaイオン伝導体の合成方法は、上述したNaイオン伝導体を得ることができる方法であれば特に限定されるものではない。例えば、Na源、M源、M源およびA源等の出発原料を所定の割合で混合した原料混合物を準備し、その原料混合物をメカニカルミリング処理する方法、またメカニカルミリング処理後に、さらに熱処理を行う方法等を挙げることができる。
【0039】
2.活物質
本発明における活物質は、Liイオンを吸蔵放出できるものであれば特に限定されるものではない。本発明における活物質は、正極活物質であっても良く、負極活物質であっても良い。なお、正極活物質と負極活物質とには明確な区別はなく、2種類の活物質の充放電電位を比較して貴な電位を示すものを正極に、卑な電位を示すものを負極に用いることができる。また、本発明における活物質としては、中でも酸化物活物質であることが好ましい。高容量な活物質材料とすることができるからである。
【0040】
本発明における活物質としては、具体的に、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、LiNi1/3Mn1/3Co1/3、マンガン酸リチウム(LiMn)、Li1+xMn2−x−y(x+y=2、M=Al、Mg、Co、Fe、Ni、及びZnから選ばれる少なくとも1種)で表わされる異種元素置換Li−Mnスピネル、チタン酸リチウム(LiおよびTiを含む酸化物)、リン酸金属リチウム(LiMPO、M=Fe、Mn、Co、及びNiから選ばれる少なくとも1種)、遷移金属酸化物(例えば、酸化バナジウムV、酸化モリブデンMoO等)、硫化チタン(TiS)、炭素材料(例えば、グラファイト、ハードカーボンなど)、リチウムコバルト窒化物(LiCoN)、リチウムシリコン酸化物(LiおよびSiを含む酸化物)、リチウム金属(Li)、リチウム合金(例えば、LiM;M=Sn、Si、Al、Ge、Sb、P等)、リチウム貯蔵性金属間化合物(例えば、MgおよびMを含む貯蔵性金属間化合物;M=Sn、Ge、Sb等、及び、NおよびSbを含む貯蔵性金属間化合物;N=In、Cu、Mn等)及びこれらの誘導体等を挙げることができる。
【0041】
活物質およびNaイオン伝導体の割合は特に限定されるものではないが、活物質に対するNaイオン伝導体の割合は、例えば0.1重量%〜30重量%の範囲内であることが好ましい。
【0042】
本発明における活物質の形状としては、例えば粒子形状を挙げることができる。また、その平均粒径(D50)は、例えば500nm〜100μmの範囲内、中でも1μm〜20μmの範囲内であることが好ましい。
【0043】
3.活物質材料
本発明の活物質材料は、上述した活物質の表面に、上述したNaイオン伝導体が配置されているものであれば特に限定されるものではなく、例えば、Naイオン伝導体が活物質の表面を被覆したものであっても良く、Naイオン伝導体が活物質の表面を被覆せず、単に接触しているものであっても良い。
【0044】
本発明の活物質材料が、Naイオン伝導体が活物質の表面を被覆したものである場合、活物質の表面に、Naイオン伝導体の粒子が付着するような状態で被覆していることが好ましい。活物質に対するNaイオン伝導体の割合は、例えば0.1重量%〜20重量%の範囲内であることが好ましい。
【0045】
また本発明の活物質材料は、上述したNaイオン伝導体が活物質の表面を被覆せず、単に接触しているものであっても良い。このような活物質材料は、例えばNaイオン伝導体および活物質を単に混合することで得ることができる。活物質に対するNaイオン伝導体の割合は、例えば0.1%〜30%の範囲内であることが好ましい。
【0046】
また活物質材料の形成方法としては、例えばボールミルによる混合、めのう乳鉢による混合等を挙げることができる。
【0047】
本発明の活物質材料は、通常、Liイオン伝導を利用した電気化学デバイスに用いられるものである。本発明においては、上述した活物質材料を有することを特徴とする電気化学デバイスを提供する。このような電気化学デバイスについては、「B.電気化学デバイス」の項で詳述する。
【0048】
B.電気化学デバイス
次に、本発明の電気化学デバイスについて説明する。本発明の電気化学デバイスは、上記「A.活物質材料」の項に記載した活物質材料を有することを特徴とするものである。また本発明の電気化学デバイスは、通常、Liイオン伝導を利用したものであり、例えばリチウムイオン電池、リチウムイオンキャパシタ、センサ等を挙げることができる。このような電気化学デバイスの具体的な構成については、一般的な電気化学デバイスの構成と同様である。また本発明においては、電気化学デバイスが、リチウムイオン電池であることがより好ましい。
以下、本発明の電気化学デバイスの一態様であるリチウムイオン電池について説明する。
【0049】
本態様のリチウムイオン電池は、正極活物質を含有する正極活物質層と、負極活物質を含有する負極活物質層と、上記正極活物質層および上記負極活物質層の間に形成された電解質層とを有するリチウムイオン電池であって、上記正極活物質層および上記負極活物質層のうち少なくとも一方が、上述した活物質材料を含有することを特徴とするものである。
【0050】
図2は、本発明の電気化学デバイスの一例を示す概略断面図である。図2に示されるように、電気化学デバイスの一態様であるリチウムイオン電池20は、正極活物質層11と、負極活物質層12と、正極活物質層11および負極活物質層12の間に形成された電解質層13と、正極活物質層11の集電を行う正極集電体14と、負極活物質層12の集電を行う負極集電体15と、これらの部材を収納する電池ケース16とを有するものである。リチウムイオン電池20は、正極活物質層11および負極活物質層12のうち少なくとも一方が、上記「A.活物質材料」の項に記載した活物質材料を含有することを特徴としている。
【0051】
本態様によれば、正極活物質層および負極活物質層のうち少なくとも一方が、上述した活物質材料を含有することで、リチウムイオン電池のサイクル安定性を向上させることができる。
以下、本態様のリチウムイオン電池について、構成ごとに説明する。
【0052】
1.正極活物質層
本態様における正極活物質層は少なくとも正極活物質を含有する層である。また正極活物質層は、正極活物質以外に、必要に応じて、導電化材、結着材および固体電解質材料の少なくとも一つを含有していても良い。
【0053】
本態様における正極活物質層は、上記「A.活物質材料」の項に記載した活物質材料を含有していることが好ましい。リチウムイオン電池のサイクル安定性を向上させることができるからである。また、例えば負極活物質層が上述した活物質材料を含有する場合、正極活物質層は上述した活物質材料を含有していなくても良く、一般的なリチウムイオン電池に使用される正極活物質を含有する正極活物質層とすることができる。正極活物質層における正極活物質の含有量は、例えば10重量%〜99重量%の範囲内であることが好ましく、20重量%〜90重量%の範囲内であることがより好ましい。
【0054】
本態様における正極活物質層は、さらに導電化材を含有しても良い。導電化材としては、例えば炭素材料を挙げることができ、具体的には、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンブラック、コークス、炭素繊維、黒鉛等を挙げることができる。また本態様における正極活物質層は、さらに結着剤を含有していても良い。結着剤としては、化学的、電気的に安定なものであれば特に限定されるものではないが、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素含有結着材、スチレンブタジエンゴム(SBR)等のゴム系結着材等を挙げることができる。また、本態様における正極活物質層は、さらに固体電解質材料を含有していても良い。固体電解質材料としては、所望のイオン伝導性を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば酸化物固体電解質材料、硫化物固体電解質材料を挙げることができる。なお、固体電解質材料については、後述する「3.電解質層」の項で詳細に説明する。
【0055】
正極活物質層の厚さは、目的とするリチウムイオン電池の構成によって大きく異なるものであるが、例えば、0.1μm〜1000μmの範囲内であることが好ましい。
【0056】
2.負極活物質層
本態様における負極活物質層は、少なくとも負極活物質を含有する層である。また、負極活物質層は、負極活物質以外に、必要に応じて、導電化材、結着材および固体電解質材料の少なくとも一つを含有していても良い。
【0057】
本態様における負極活物質層としては、上述した活物質材料を含有していても良い。また、正極活物質層が上述した活物質材料を含有する場合、一般的なリチウムイオン電池に使用される負極活物質層とすることができる。このような負極活物質層に使用される負極活物質としては、例えば金属活物質およびカーボン活物質を挙げることができる。金属活物質としては、例えば、In、Al、SiおよびSn等を挙げることができる。一方、カーボン活物質としては、例えば、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、高配向性グラファイト(HOPG)、ハードカーボンおよびソフトカーボン等を挙げることができる。また、負極活物質層における負極活物質の含有量は、例えば、10重量%〜99重量%の範囲内であることが好ましく、20重量%〜90重量%の範囲内であることがより好ましい。
【0058】
負極活物質層に用いられる導電化材、結着材および固体電解質材料については、上述した正極活物質層における場合と同様である。また、負極活物質層の厚さは、電池の構成によって大きく異なるものであるが、例えば、0.1μm〜1000μmの範囲内であることが好ましい。
【0059】
3.電解質層
次に、本態様における電解質層について説明する。本態様における電解質層は、上記正極活物質層および上記負極活物質層の間に形成された層である。電解質層の形態は、特に限定されるものではなく、例えば液体電解質層、ゲル電解質層、固体電解質層等を挙げることができる。
【0060】
液体電解質層は、通常、非水電解液を用いてなる層である。また非水電解液は、通常、Li塩および非水溶媒を含有する。Li塩としては、例えば、LiPF、LiBF、LiClOおよびLiAsF等の無機Li塩;およびLiCFSO、LiN(CFSO、LiN(CSO、LiN(FSO、LiC(CFSO等の有機Li塩等を挙げることができる。また、非水溶媒としては、Li塩を溶解するものであれば特に限定されるものではない。例えば高誘電率溶媒としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)等の環状エステル(環状カーボネート)、γ−ブチロラクトン、スルホラン、N−メチルピロリドン(NMP)、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(DMI)等を挙げることができる。一方、低粘度溶媒としては、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等の鎖状エステル(鎖状カーボネート)、メチルアセテート、エチルアセテート等のアセテート類、2−メチルテトラヒドロフラン等のエーテル等を挙げることができる。高誘電率溶媒および低粘度溶媒を混合した混合溶媒を用いても良い。なお、本態様においては、非水電解液として、例えば、イオン性液体等の低揮発液体を用いても良い。
【0061】
電解液におけるLi塩の濃度は、例えば、0.3mol/dm〜5mol/dmの範囲内、中でも0.8mol/dm〜1.5mol/dmの範囲内であることが好ましい。Li塩の濃度が低すぎるとハイレート時の容量低下が生じる可能性があり、Li塩の濃度が高すぎると粘性が高くなり低温での容量低下が生じる可能性があるからである。
【0062】
ゲル電解質層は、例えば非水電解液にポリマーを添加してゲル化することで得られる。具体的には、非水電解液に、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリアクリロニトリル(PAN)またはポリメチルメタクリレート(PMMA)等のポリマーを添加することにより、ゲル化を行うことができる。
【0063】
固体電解質層は、固体電解質材料を用いてなる層である。固体電解質材料としては、Liイオン伝導性を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば酸化物固体電解質材料および硫化物固体電解質材料を挙げることができる。酸化物固体電解質材料としては、例えば、Li1+xAlGe2−x(PO(0≦x≦2)、Li1+xAlTi2−x(PO(0≦x≦2)、LiLaTiO(例えば、Li0.34La0.51TiO)、LiPON(例えば、Li2.9PO3.30.46)、LiLaZrO(例えば、LiLaZr12)等を挙げることができる。一方、硫化物固体電解質材料としては、例えば、LiS−P化合物、LiS−SiS化合物、LiS−GeS化合物等を挙げることができる。
【0064】
本態様における固体電解質材料は、非晶質であっても良く、結晶質であっても良い。また、固体電解質材料の形状は、粒子状であることが好ましい。また、固体電解質材料の平均粒径(D50)は、例えば1nm〜100μmの範囲内、中でも10nm〜30μmの範囲内であることが好ましい。
【0065】
電解質層の厚さは、電解質の種類および目的とするリチウムイオン電池の構成によって大きく異なるものであるが、例えば0.1μm〜1000μmの範囲内、中でも0.1μm〜300μmの範囲内であることが好ましい。
【0066】
4.その他の構成
本態様のリチウムイオン電池は、上述した正極活物質層、負極活物質層および電解質層を少なくとも有するものである。さらに通常は、正極活物質層の集電を行う正極集電体、および負極活物質層の集電を行う負極集電体を有する。正極集電体の材料としては、例えばSUS、アルミニウム、ニッケル、鉄、チタンおよびカーボン等を挙げることができる。一方、負極集電体の材料としては、例えばSUS、銅、ニッケルおよびカーボン等を挙げることができる。また、正極集電体および負極集電体の形状としては、例えば、箔状、メッシュ状、多孔質状等を挙げることができる。
【0067】
本態様のリチウムイオン電池は、正極活物質層および負極活物質層の間に、セパレータを有していても良い。より安全性の高い電池を得ることができるからである。セパレータの材料としては、例えばポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、セルロース、ポリフッ化ビニリデン等の多孔膜;および樹脂不織布、ガラス繊維不織布等の不織布等を挙げることができる。また、セパレータは、単層構造(例えばPE、PP)であっても良く、積層構造(例えばPP/PE/PP)であっても良い。また、本態様に用いられる電池ケースには、一般的な電池の電池ケースを用いることができる。電池ケースとしては、例えばSUS製電池ケース等を挙げることができる。
【0068】
5.リチウムイオン電池
本態様のリチウムイオン電池は、一次電池であっても良く、二次電池であっても良いが、中でも二次電池であることが好ましい。繰り返し充放電でき、例えば車載用電池として有用だからである。また、本態様のリチウムイオン電池の形状としては、例えばコイン型、ラミネート型、円筒型および角型等を挙げることができる。また、本態様のリチウムイオン電池の製造方法としては、上述したリチウムイオン電池を製造できる方法であれば特に限定されるものではない。
【0069】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0070】
以下に実施例を示して本発明をさらに具体的に説明する。
【0071】
[合成例1]
出発原料として、NaCO、TiOおよびPを準備し、高純度Arが充填されたグローブボックス内で混合して原料混合物を得た。なお、原料混合物中におけるNa、TiおよびPの割合が、Na:Ti:P=1:2:3(モル比)となるように混合した。得られた原料混合物2.0gを密閉型粉砕容器に入れ、遊星型ボールミル装置(フリッチュ・ジャパン製、P−7)に取り付けてメカニカルミリング(MM)処理を行い、a−NaTi(PO(a−NTP)を得た。ここで、MM処理条件としては、台盤回転数450rpm、20時間とした。また、密閉型粉砕容器の容積は45cc、ボール径は直径10mm、ボールの個数は10個とした。また、得られたa−NTPを850℃、2時間熱処理してc−NaTi(PO(c−NTP)を得た(図3参照)。
【0072】
[合成例2]
出発原料として、NaCO、LiO、TiOおよびPを準備し、高純度Arが充填されたグローブボックス内で混合して原料混合物を得た。なお、原料混合物中におけるLi、Na、TiおよびPの割合が、Li:Na:Ti:P=0.1:0.9:2:3(モル比)となるように混合した。得られた原料混合物2.0gを密閉型粉砕容器に入れ、遊星型ボールミル装置(フリッチュ・ジャパン製、P−7)に取り付けてMM処理を行い、Li0.1Na0.9Ti(PO(未熱処理)を得た。ここで、MM処理条件等については合成例1と同様とした。得られたLi0.1Na0.9Ti(PO(未熱処理)を850℃、2時間熱処理してLi0.1Na0.9Ti(PO(熱処理後)を得た。
【0073】
[合成例3]
出発原料として、LiO、Al、TiOおよびPを準備し、高純度Arが充填されたグローブボックス内で混合して原料混合物を得た。なお、原料混合物中におけるLi、Al、TiおよびPの割合が、Li:Al:Ti:P=1.3:0.3:1.7:3(モル比)となるように混合した。得られた原料混合物2.0gを密閉型粉砕容器に入れ、遊星型ボールミル装置(フリッチュ・ジャパン製、P−7)に取り付けてMM処理を行い、Li1.3Al0.3Ti1.7(PO(未熱処理、a−LATP)を得た。ここで、MM処理条件等については合成例1と同様とした。得られたa−LATPを850℃、2時間熱処理してLi1.3Al0.3Ti1.7(PO(熱処理後、c−LATP)を得た。
【0074】
[評価1]
(XRD測定)
合成例1、2において、熱処理前後に、それぞれCuKα線によるX線回折(XRD)測定を行った。すなわち、それぞれの試料を空気中でX線回折用サンプルホルダーに均等に入れ、X線回折装置(Rigaku製、Mini Flex)により測定した。測定条件は、次の通りである。その結果を図4、5に示す。
X線源:CuKα線(管電圧:30kV、管電流:15mA)
回折角:5°≦2θ≦80°
スキャンスピード:2°/min
サンプリング幅:0.01°
【0075】
図4の結果から、MM処理後の未熱処理試料は、非晶質のa−NaTi(PO(a−NTP)であることが確認された。なお、未熱処理試料のXRDパターンにおける小さなピークは出発原料であるTiO由来であると考えられる。また熱処理後の試料のXRDパターンでは、ナシコン型化合物であるc−NaTi(PO(c−NTP)と同様の位置にピークが確認された。そのため、a−NTPを熱処理することで、c−NTPが形成されることが確認できた。
【0076】
また、図5の結果から、熱処理後の試料(Li0.1Na0.9Ti(PO)は、合成例1で得られた熱処理後の試料、すなわちc−NTPのXRDパターンと同様の位置にピークが確認された。そのため、c−NTPと同様の結晶構造、すなわちナシコン型の結晶構造を有する化合物が形成されたと考えられる。
【0077】
(熱重量・示差熱分析)
合成例1で得られた未熱処理試料(a−NTP)を白金パン容器に入れ、差動型示差熱天秤(Rigaku製、Thermo Plus 2シリーズTG8120)を用いて、開放系で熱重量・示唆熱分析(TG−DTA)を行った。測定条件としては、次の通りである。その結果を図6に示す。
リファレンス:アルミナ(Al
昇温速度:10℃/min(空気350mL/minでフロー)
測定温度範囲:室温〜1000℃
【0078】
図6に示すように、示差熱分析(DTA)曲線から、670℃付近に発熱ピークが観察された。この発熱ピークから、a−NTPが670℃付近で結晶形成すると考えられる。
【0079】
(SEM観察)
合成例1で得られた熱処理後の試料(c−NTP)について、走査型電子顕微鏡(日本電子製、JSM5300)を用いて観察した。観察条件は、加速電圧:20kV、動作距離WD:15mmとした。その結果を図7に示す。図7に示すように、0.2μm程度の微粒子が観察できた。また、それらが一部凝集した様子が観察された。
【0080】
[実施例1]
(活物質材料の作製)
活物質であるLiNi0.5Mn1.5と、合成例1で得られたc−NTPとを80:20(重量比)の割合で、めのう乳鉢を用いた乾式方法によって混合し、活物質材料を得た(図3参照)。
【0081】
(電池の作製)
得られた活物質材料を用いて評価用電池を作製した(図8参照)。まず、得られた活物質材料と、アセチレンブラック(AB)とを混合し、さらにn−メチルピロリドン(NMP)に溶解したポリフッ化ビニリデン(PVDF)バインダーを添加してスラリーを作製した。スラリーにおける活物質材料、ABおよびPVDFの割合は、活物質材料:AB:PVDF=85:5:10(重量比)とした。次に、得られたスラリーをドクターブレード法により集電体であるアルミニウム箔(15μm厚)上に塗布し、空気中において80℃程度で真空乾燥し、NMPを除去した。その後、120℃で10時間真空乾燥した。さらに、プレスして圧着し、120℃で10時間真空乾燥して塗布型試験電極を作製した。なお、試験電極における電極面積は、1.77cm(直径1.5cmの円形)とした。
【0082】
その後、CR2032型の2極式コインセルを用い、正極層として上記試験電極を用い、負極層として金属Liを用い、セパレータとしてポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレンの微多孔膜セパレータを用いた。電解液には、エチレンカーボネート(EC)およびエチルメチルカーボネート(EMC)をEC:EMC=3:7(体積比)で混合した溶媒に、LiPFを1.0mol/dmの割合で溶解させたものを用いた。このようにして、評価用電池を得た。
【0083】
[比較例1]
活物質であるLiNi0.5Mn1.5と、アセチレンブラック(AB)とを混合し、さらにn−メチルピロリドン(NMP)に溶解したポリフッ化ビニリデン(PVDF)バインダーを添加してスラリーを作製した。スラリーにおける活物質、ABおよびPVDFの割合は、活物質:AB:PVDF=85:5:10(重量比)とした。次に、得られたスラリーをドクターブレード法により集電体であるアルミニウム箔(15μm厚)上に塗布し、空気中において80℃で真空乾燥し、NMPを除去した。その後、120℃で10時間真空乾燥した。さらに、プレスして圧着し、120℃で10時間真空乾燥して塗布型試験電極を作製した。なお、試験電極における電極面積は、1.77cm(直径1.5cmの円形)とした。
上記試験電極を正極層として用いたこと以外は、実施例1と同様に評価用電池を得た。
【0084】
[比較例2]
活物質であるLiNi0.5Mn1.5と、合成例3で得られたc−LATPとを80:20(重量比)で混合し、活物質材料を得た。
上記活物質材料を用いたこと以外は、実施例1と同様に評価用電池を得た。
【0085】
[評価2]
(充放電試験)
実施例1、比較例1および2で得られた評価用電池において、充放電試験を行った。試験電極からLiイオンを脱離させる過程を「充電」、試験電極にLiイオンを挿入させる過程を「放電」として測定を行った。測定装置は充放電試験装置(北斗電工製、HJ-1001 SM8A)を使用した。測定条件は、次の通りである。その結果を、図9、10に示す。
電位範囲:3.0V〜5.0V(vs.Li/Li
温度:25℃
電流値(1サイクル目):0.2mA/cm
電流値(2サイクル目以降):0.5mA/cm
【0086】
図9に示すように、実施例1で得られる評価用電池が、比較例1で得られる評価用電池に比べて、サイクル回数の増加に伴う容量の低下が小さく、高容量を維持可能であることが確認された。これより、活物質の表面にNaイオン伝導体が配置されることで、サイクル安定性が向上し、さらに高容量化できることが確認された。また、図10に示すように、実施例1で得られる評価用電池が、比較例2で得られる評価用電池に比べて、サイクル回数が増加しても高容量であり、かつ、その差がサイクル数と共に大きくなることが確認できた。これより、活物質の表面にNaイオン伝導体が配置されることで、より良好なサイクル安定性を示すことが確認できた。
【0087】
(サイクリックボルタンメトリー(CV)測定)
実施例1および比較例1で得られた評価用電池において、CV測定を行った。具体的には、挿引速度(スキャンスピード)0.5mV/Sで、1サイクル目は開回路電位より5Vまで挿引し、その後3Vまで挿引した。2〜5サイクルの間は、3〜5Vの電位範囲でCV測定を行った。その結果を、図11に示す。なお、縦軸は、正極活物質LiNi0.5Mn1.5の単位重量当たりの電流値で示した。図11に示すように、実施例1で得られた評価用電池の方が、酸化還元電流値が大きく、酸化側および還元側のピーク面積が増加していることが確認できた。これより、活物質の表面にNaイオン伝導体が配置された活物質材料を使用することで、電池容量が増加していると考えられる。
【符号の説明】
【0088】
1 … 活物質
2 … Naイオン伝導体
10 … 活物質材料
11 … 正極活物質層
12 … 負極活物質層
13 … 電解質層
14 … 正極集電体
15 … 負極集電体
16 … 電池ケース
20 … 電気化学デバイス(リチウムイオン電池)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図8
図9
図10
図11
図7