(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5665946
(24)【登録日】2014年12月19日
(45)【発行日】2015年2月4日
(54)【発明の名称】セサミン類とビタミンB1類とを配合した組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/51 20060101AFI20150115BHJP
A61K 31/36 20060101ALI20150115BHJP
A61P 3/02 20060101ALI20150115BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20150115BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20150115BHJP
A23L 1/30 20060101ALI20150115BHJP
A23L 1/302 20060101ALI20150115BHJP
【FI】
A61K31/51
A61K31/36
A61P3/02 105
A61P43/00 121
A23L2/00 F
A23L1/30 Z
A23L1/302
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-225880(P2013-225880)
(22)【出願日】2013年10月30日
(62)【分割の表示】特願2009-533161(P2009-533161)の分割
【原出願日】2008年9月17日
(65)【公開番号】特開2014-55148(P2014-55148A)
(43)【公開日】2014年3月27日
【審査請求日】2013年11月15日
(31)【優先権主張番号】特願2007-242965(P2007-242965)
(32)【優先日】2007年9月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100101373
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(72)【発明者】
【氏名】竹本 大輔
(72)【発明者】
【氏名】小野 佳子
(72)【発明者】
【氏名】安武 瑶子
【審査官】
▲高▼岡 裕美
(56)【参考文献】
【文献】
特許第5450075(JP,B2)
【文献】
特開2000−004832(JP,A)
【文献】
特開平05−051388(JP,A)
【文献】
国際公開第2007/105757(WO,A1)
【文献】
特開平04−278067(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00−31/80
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種のセサミン類と少なくとも1種のビタミンB1類を含有する飲料であって、
飲料100mL中のセサミン類の総含量が1〜100mgであり、ビタミンB1類の総含量が1〜100mgであり、
セサミン類が、セサミン、エピセサミン、又はこれらの混合物であり、
ビタミンB1類が、チアミン、チアミンジスルフィド、ベンフォチアミン、フルスルチアミン、ビスベンチアミン、ジセチアミン、チアミンエチルジスルフィド、チアミンプロピルジスルフィドおよびそれらの塩から選択された1種または2種以上であり、
セサミン類とビタミンB1類の配合量比が1:1〜2:1である、
前記飲料。
【請求項2】
少なくとも1種のセサミン類と少なくとも1種のビタミンB1類とを有効成分として含有する抗疲労剤であって、
セサミン類が、セサミン、エピセサミン、又はこれらの混合物であり、
ビタミンB1類が、チアミン、チアミンジスルフィド、ベンフォチアミン、フルスルチアミン、ビスベンチアミン、ジセチアミン、チアミンエチルジスルフィド、チアミンプロピルジスルフィドおよびそれらの塩から選択された1種または2種以上であり、
セサミン類とビタミンB1類の配合量比が1:1〜2:1である、
前記抗疲労剤。
【請求項3】
慢性疲労症候群を治療または予防するための、請求項2記載の抗疲労剤。
【請求項4】
ビタミンB1類の総配合量が、抗疲労剤全重量に対して0.01〜10重量%である、請求項2又は3記載の抗疲労剤。
【請求項5】
ビタミンB1類の総配合量が、抗疲労剤全重量に対して0.1〜5重量%である、請求項2〜4のいずれか一項記載の抗疲労剤。
【請求項6】
抗疲労剤を製造するための、少なくとも1種のセサミン類および少なくとも1種のビタミンB1類を含む組成物の使用であって、
セサミン類が、セサミン、エピセサミン、又はこれらの混合物であり、
ビタミンB1類が、チアミン、チアミンジスルフィド、ベンフォチアミン、フルスルチアミン、ビスベンチアミン、ジセチアミン、チアミンエチルジスルフィド、チアミンプロピルジスルフィドおよびそれらの塩から選択された1種または2種以上であり、
前記組成物におけるセサミン類とビタミンB1類の配合量比が1:1〜2:1である、
前記使用。
【請求項7】
ビタミンB1類の総配合量が、組成物全重量に対して0.01〜10重量%である、請求項6記載の使用。
【請求項8】
ビタミンB1類の総配合量が、組成物全重量に対して0.1〜5重量%である、請求項6又は7記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セサミン類とビタミンB1類とを配合することにより、セサミン類の持つ生理活性作用を高めた組成物に関し、より詳細には、セサミン類の抗疲労作用を高めた組成物に関する。また、本発明は、セサミン類とビタミンB1類とを有効成分として含有する抗疲労剤にも関する。
【背景技術】
【0002】
疲労とは、身体的あるいは精神的作業を行ったときに生じる、活動力や作業能率の量的または質的な低下であり、さらには倦怠感、不快感、脱力感等の疲労感の自覚を伴うものである。これらの機能的低下と疲労感の発生は同時に生じる場合もあるが、時間差を持って生じたり、個別に独立して発生したりする場合もある。このような生理学的な疲労は通常、体を休めることにより元の正常な状態に回復し、長く続くことはない。1985年に行われた総理府の「健康に関する国民意識調査」では、約6割強の人が疲労を訴えているが、疲労を訴えている人の7割は「一晩の睡眠により疲労は回復する」と答えている。しかしながら、近年ではこの傾向が変わりつつある。1999年に行われた厚生省疲労調査研究班が実施した疫学調査によると、疲労を自覚している人の割合は約6割と変わっていないが、疲労を自覚している人うちの6割もの人が6ヶ月以上にわたって疲れを感じていることが報告されている。すなわち、1985年から1999年までの14年の間に、慢性的な疲労に悩む人が増加し、疲労の質が変化してきているのである(非特許文献1)。そして、最近では、慢性疲労症候群(Chronic Fatigue Syndrome;CFS)なる疾患や、過労死が大きな社会問題となっている。しかし、疲労に関する原因、メカニズムは多種多様であり、多くの研究者により研究が行われているが、全体像の把握には至っておらず、また、慢性疲労症候群や過労死などの疲労を原因とする疾患の明確な治療または予防方法は確立されていない。
【0003】
最近では、いわゆる「抗疲労物質」と呼ばれる、疲労の軽減作用や、疲労から正常な状態への回復を早める作用などを有する物質が報告されている。例えば、ある種のアミノ酸組成物(特許文献1)や、L−カルニチンおよびヒスチジン関連ジペプチド(特許文献2)、サンザシ抽出物(特許文献3)などに体力増強作用があることが報告されている。また、運動等による体力の消耗や疲労時等における栄養補給を目的として、アスコルビン酸を含む栄養補給組成物が有用であることが示されている(特許文献4)。
【0004】
セサミン類(本明細書では、セサミン及びその類縁体を含む総称として使用している。セサミン類縁体としては、エピセサミンの他、セサミン、セサミノール、エピセサミノール、セサモリン等を例示できる。)については、精製されたセサミン類を用いた実験から、腸内でのコレステロール又は胆汁酸の代謝阻害作用(特許文献5)や、アルコール中毒や禁断症状の緩和作用(特許文献6)、肝機能改善作用(特許文献7)、高度不飽和脂肪酸の生体内安定化作用(特許文献8)、Δ5−不飽和化酵素阻害作用(特許文献9)、片頭痛の抑制作用(特許文献10)、ヒト白血病細胞に対するアポトーシス誘導作用(特許文献11)、メラトニンの酸化分解抑制作用(特許文献12)、自律神経調節作用(特許文献13)等が報告されている。
【特許文献1】特開平9−124473号公報
【特許文献2】特開2001−046021号公報
【特許文献3】特開平8−47381号公報
【特許文献4】特開平6−327435号公報
【特許文献5】特許第3183664号
【特許文献6】米国特許第4427694号
【特許文献7】特許第3075358号
【特許文献8】特開平11−269456号公報
【特許文献9】特許第3070611号
【特許文献10】特開2003−183172号公報
【特許文献11】特開2001−151676号公報
【特許文献12】特開2000−143546号公報
【特許文献13】国際公開WO2004−105749
【非特許文献1】疲労の科学(9.疲労回復情報;2001、講談社)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のとおり、セサミン類については種々の生理活性作用が報告されているが、セサミン類と併用することによりセサミン類の生理活性作用を増強することができる物質については殆ど報告がない。
【0006】
本発明は、生理活性作用が増強されたセサミン類配合組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、セサミン類を有効成分として含む、高い生理活性作用を有する剤を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、セサミンの生理活性作用について検討を行い、セサミンの経口摂取により抗疲労作用(疲労の軽減作用および疲労回復の促進作用)が得られることを既に見出している。本発明者らは、さらに鋭意検討を行い、セサミン類(セサミン及びその類縁体を含む。セサミン類縁体としては、エピセサミン、セサミン、セサミノール、エピセサミノール、セサモリン等が挙げられる。)とビタミンB1類とを配合した組成物では、上記のセサミン類の抗疲労作用が、セサミン類単独の作用とビタミンB1類単独の作用とから予想される範囲を超えて顕著に高まることを見出し、本発明に至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
1.少なくとも1種のセサミン類と少なくとも1種のビタミンB1類とを配合した組成物であって、前記セサミン類の総配合量が、組成物全重量に対して1重量%以上である、組成物。
2.セサミン類が、セサミン、エピセサミン、又はこれらの混合物である、上記1に記載の組成物。
3.ビタミンB1類が、チアミン、チアミンジスルフィド、ベンフォチアミン、フルスルチアミン、ビスベンチアミン、ジセチアミン、チアミンエチルジスルフィド、チアミンプロピルジスルフィドおよびそれらの塩から選択された1種または2種以上である、上記1又は2に記載の組成物。
4.ビタミンB1類の総配合量が、組成物全重量に対して、0.001〜20重量%である、請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
5.経口用である、上記1〜4のいずれかに記載の組成物。
6.飲食品である、上記1〜5のいずれかに記載の組成物。
7.少なくとも1種のセサミン類と少なくとも1種のビタミンB1類を含有する飲料であって、飲料100mL中のセサミン類の総含量が1〜100mgであり、ビタミンB1類の総含量が1〜100mgである、飲料。
8.少なくとも1種のセサミン類と少なくとも1種のビタミンB1類とを有効成分として含有する抗疲労剤。
9.慢性疲労症候群を治療または予防するための、上記8記載の抗疲労剤。
10.抗疲労剤を製造するための、少なくとも1種のセサミン類および少なくとも1種のビタミンB1類を含む組成物の使用。
11.疲労状態の予防または治療方法であって、少なくとも1種のセサミン類および少なくとも1種のビタミンB1類を含む組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む、方法。
【発明の効果】
【0009】
セサミン類とビタミンB1類とを配合することにより、組成物の抗疲労作用(疲労回復効果、疲労軽減作用、滋養強壮作用)がセサミン類単独およびビタミンB1類単独から予想される範囲を超えて相乗的に高まり、優れた抗疲労作用を有する組成物が得られる。
【0010】
また、本発明の抗疲労剤は、優れた疲労軽減、疲労回復の促進作用を有し、しかも、ヒトに対しても非ヒト動物に対しても安全であるので、継続投与が可能である。したがって、本発明の抗疲労剤は、機能性食品を含む医薬組成物として、広く適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】通常飼育群(対照群)、水浸飼育群(比較群1)、水浸飼育マウスにビタミンB1類を50mg/kg投与した群(比較群2)、水浸飼育マウスにセサミン類を50mg/kg投与した群(比較群3)、および水浸飼育マウスにビタミンB1類50mg/kgとセサミン類50mg/kgとを投与した群(試験群1)についての限界水泳時間を示す。
【
図2】通常飼育群(対照群)、水浸飼育群(比較群4)、水浸飼育マウスにビタミンB1類を10mg/kg投与した群(比較群5)、水浸飼育マウスにセサミン類を10mg/kg投与した群(比較群6)、水浸飼育マウスにビタミンB1類5mg/kgとセサミン類10mg/kgとを投与した群(試験群2)、および水浸飼育マウスにビタミンB1類10mg/kgとセサミン類10mg/kgとを投与した群(試験群3)についての限界水泳時間を示す。
【
図3】通常飼育群(対照群1)、水浸飼育群(比較群7)、および水浸飼育マウスにビタミンB1類を5mg/kg、10mg/kg、および25mg/kg投与した群(それぞれ、参考群1〜3)についての限界水泳時間を示す。
【
図4】通常飼育群(対照群2)、水浸飼育群(比較群8)、および水浸飼育マウスにビタミンB1類を50mg/kg、および100mg/kg投与した群(それぞれ、参考群4および5)についての限界水泳時間を示す。
【0012】
(セサミン類)
本発明のセサミン類とは、セサミンおよびその類縁体を含む一連の化合物の総称である。前記のセサミン類縁体としては、エピセサミンの他、例えば特開平4−9331号公報に記載されたジオキサビシクロ〔3.3.0〕オクタン誘導体がある。セサミン類の具体例としては、セサミン、セサミノール、エピセサミノール、セサモリン等を例示でき、これらの立体異性体又はラセミ体を単独で、あるいは混合して使用することができる。本発明においては、セサミン、エピセサミン又はこれらの混合物が好ましく用いられる。また、セサミン類の代謝体(例えば、特開2001−139579号公報に記載)も、本発明の効果を示す限り、本発明のセサミン類に含まれるセサミン類縁体として、本発明に使用することができる。
【0013】
本発明に用いるセサミン類は、その形態や製造方法等によって、何ら制限されるものではない。例えば、セサミン類としてセサミンを選択する場合には、ゴマ油から公知の方法(例えば、特開平4−9331号公報に記載された方法)によって抽出したセサミン(セサミン抽出物または濃縮物という)を用いることができる。ゴマ油特有の風味が官能的に好ましくないと評価されることもあることから、セサミン抽出物(又はセサミン濃縮物)を公知の手段、例えば活性白土による処理等により無味無臭としてもよい。
【0014】
このように、セサミン類としては、ゴマ油等の食品由来の素材から抽出及び/又は精製することによりセサミン類の含有濃度を向上させて得られるセサミン類の濃縮物を用いるのが好ましい。濃縮の度合いは、用いるセサミン類の種類や配合する組成物の形態により適宜設定すればよいが、好ましくは、セサミン類濃縮物中のセサミン類総含量は、20重量%以上であり、さらに好ましくは50重量%以上であり、さらに好ましくは70重量%以上であり、最も好ましくは90重量%以上である。
【0015】
(ビタミンB1類)
ビタミンB1類は、チアミンとも称される水溶性のビタミンであり、生体内ではチアミン二リン酸(TPP)に変換されピルビン酸デヒドロゲナーゼの補酵素として糖代謝に関わることや、TCA回路のα−ケトグルタール酸デヒドロゲナーゼの補酵素として働くことが知られている。
【0016】
本発明でいうビタミンB1類は、チアミンおよびチアミン誘導体を含む一連の化合物の総称である。チアミン誘導体は、ジスルフィド型、アシル型、又はこれらの混合物であってもよい。チアミン誘導体の例としては、ビスチアミン、チアミンジスルフィド、チアミンジセチル硫酸エステル塩、ベンフォチアミン、プロスルチアミン、フルスルチアミン、ビスベンチアミン、シコチアミン、オクトチアミン、アリチアミン、チアミンプロピルジスルフィド、チアミンテトラヒドロフルフリルジスルフィド、ジセチアミン、ビスブチアミン、ビスイブチアミン、チアミンモノホスフェートジスルフィド、チアミンピロリン酸、シコチアミン、チアミンエチルジスルフィド、チアミンプロピルジスルフィドなどが挙げられる。本発明のビタミンB1類としては、これらの中でも、チアミン、チアミンジスルフィド、ベンフォチアミン、フルスルチアミン、ビスベンチアミン、ジセチアミン、チアミンエチルジスルフィド、チアミンプロピルジスルフィド、又はこれらの混合物が、その高い安定性の点から好ましく用いられる。さらに、安定性に加えて、吸収性の観点からは、ベンフォチアミン、ビスベンチアミン、フルスルチアミン、チアミン、又はこれらの混合物が特に好ましく用いられる。
【0017】
本発明に用いるビタミンB1類は、医薬上、薬学的に又は生理学的に許容される塩の形態であっても良い。このような塩としては、無機酸塩(例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩等)などが例示でき、好ましくは塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩であり、特に好ましくは塩酸塩、硝酸塩であり、具体的には塩酸チアミン、硝酸チアミン、硝酸ビスチアミン、塩酸ジセチアミン、塩酸フルスルチアミン等が挙げられる。
【0018】
本発明において、ビタミンB1類は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0019】
以下で詳細に説明するが、本発明者らによる疲労動物モデルを用いた実験では、動物モデルへビタミンB1類を単独で(セサミン類と組み合わせずに)、5mg/kg、10mg/kg、25mg/kg、50mg/kg(動物モデルの体重1kg当りのチアミンに換算したビタミンB1量(mg))投与した際には、抗疲労作用がみられなかった。ビタミンB1類を100mg/kg投与した際に抗疲労作用の増強が見られた(
図3および
図4参照)。
【0020】
(少なくとも一種のセサミン類と少なくとも一種のビタミンB1類とを配合した組成物)
本発明の組成物は、セサミン類とビタミンB1類との配合により、セサミン類の生理活性作用である抗疲労作用の相乗的な増強が得られる。また、本発明の組成物は高い抗疲労作用を有する飲食品として利用することができる。
【0021】
本発明の組成物(医薬組成物、飲食品等)中におけるセサミン類の総配合割合は、好ましくは1重量%以上であり、好ましくは1〜50重量%、さらに好ましくは1〜10重量%である。組成物中におけるビタミンB1類の総配合割合は、上記のセサミン類の抗疲労作用の相乗的増強効果が発揮される範囲であれば特に制限されず、組成物の形態や対象となる病態等の条件によって適宜選択すればよいが、組成物全量に対し、0.001〜20重量%、好ましくは0.01〜10重量%、さらに好ましくは0.1〜5重量%で配合するのがよい。なお、本明細書においてビタミンB1類の量を示す際は、チアミンに換算した値を用いている。
【0022】
セサミン類は、通常、成人1日当り1〜200mgとなるように摂取することが好ましく、より好ましくは5〜100mg程度である。また、ビタミンB1類は、厚生労働省により日本人の栄養所要量として、成人1日当り1.0mg以上の摂取が好ましいとされている。ビタミンB1類の1日当り摂取量の上限は定められていない。
【0023】
本発明の組成物には、組成物の全重量にもよるが、例えばセサミン類を1〜100mg、好ましくは1〜60mg、より好ましくは3〜60mg程度、さらに好ましくは5〜60mg程度の量で配合することができる。また、ビタミンB1類を1〜100mg、好ましくは5〜50mg程度の量で配合することができる。一般的に、ビタミンB1類を100mgより多く配合しても、抗疲労作用の増強の相乗効果が期待できないので経済的に不利であり、またビタミンB1類の種類によってはそのビタミンB1類由来の苦味等により呈味の低下を引き起こすことがあると考えられる。
【0024】
本発明の組成物を1日に1〜3回程度の頻度で投与することにより、1日当りのセサミン類およびビタミンB1類の摂取量を上記の範囲にすることが好ましい。
【0025】
(少なくとも1種のセサミン類と少なくとも1種のビタミンB1類とを含有する飲料)
少なくとも1種のセサミン類と少なくとも1種のビタミンB1類とを飲料中に含有させることにより、セサミン類の生理活性作用である抗疲労作用を相乗的に増強させた飲料を提供することができる。本発明の飲料中のセサミン類の総含量は、飲料100mL当たり1〜100mg、好ましくは1〜60mg、より好ましくは1〜20mgである。飲料中のビタミンB1類の総含量は、セサミン類の抗疲労作用の相乗的増強効果が発揮される範囲であれば特に制限されないが、飲料100mL当たり1〜100mg程度、好ましくは1〜60mg程度、より好ましくは1〜20mg程度がよい。
【0026】
本発明の飲料には、セサミン類およびビタミンB1類のほかに、飲料に慣用される添加剤や他の栄養成分等を適宜加えてもよい。そのような添加剤としては、例えば、酸化防止剤、甘味剤、酸味剤、安定剤、乳化剤、香料、色素類、保存料などが挙げられる。本発明の飲料は、例えば容器詰飲料として提供することができる。そのような容器としては、一般の容器詰飲料と同様にポリエチレンテレフタレートを主成分とする成形容器(PETボトル)、金属缶、金属箔やプラスチックフィルムと複合された紙容器、瓶等の通常の形態の容器を使用することができる。
【0027】
以下に詳細に説明するが、本発明者らによる疲労動物モデルを用いた実験では、セサミン類10mg/kg(動物モデルの体重1kg当りのセサミン類の量(mg))に加えてビタミンB1類を5〜10mg/kg投与することにより、セサミン類10mg/kgのみの投与(ビタミンB1類の投与なし)の場合に比べて、抗疲労作用が顕著に増強された(
図2参照)。上述したとおり、ビタミンB1類のみを5〜10mg/kg経口投与した際には抗疲労作用が得られなかった(
図3参照)にも関わらず、同量のビタミンB1類の添加によりセサミン類の抗疲労作用が顕著に増強されることは驚くべきことである。
【0028】
本発明の組成物は、その効果を損なわない限り、セサミン類およびビタミンB1類の他に、任意の所望成分を配合してもよい。例えば、ビタミンE、ビタミンC等のビタミン類、ミネラル類、ホルモン、栄養成分、香料などの生理活性成分のほか、製剤化において配合される乳化剤、緊張化剤(等張化剤)、緩衝剤、溶解補助剤、防腐剤、安定化剤、抗酸化剤等を適宜配合することができる。
【0029】
本発明の組成物は、セサミン類とビタミンB1類とを配合することにより相乗的に増強された抗疲労作用が得られるから、健康食品としても好適に利用できる。本明細書における健康食品としては、例えばカプセル剤や錠剤のように、本発明のセサミン類とビタミンB1類とを配合した組成物そのものを有効成分とする製剤又は食品、ならびに一般の食品に上記本発明組成物を1つの成分として配合して、生体に対する抗疲労作用等の種々の機能をその食品に付加してなる機能性食品(特定保健用食品や条件付き特定保健用食品が含まれる)を挙げることができる。さらに、生体の疲労を軽減する旨の表示または疲労回復を促進する旨の表示を付してなる抗疲労作用を有することを特徴とする食品等も本発明の組成物に含まれる。
【0030】
セサミン類とビタミンB1類とを含有する健康食品の形態は特に制限されず、例えば、粉末状、顆粒状、錠剤状などの固体状;溶液状、乳液状、分散液状等の液状;またはペースト状等の半固体状などの、任意の形態に調製される。
【0031】
本発明の組成物は医薬組成物として利用することもできる。その場合には、例えば、本発明の組成物を液剤、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、ドライシロップ剤、または丸剤等の剤形へと調製して経口投与してもよいし、注射剤等へと調製して投与してもよい。投与形態は、病態やその進行状況、その他の条件によって適宜選択することができる。
【0032】
(抗疲労作用および抗疲労剤)
本発明の組成物は、ヒトおよび非ヒト動物の抗疲労剤としても有用である。ここで、非ヒト動物とは、産業動物、ペットおよび実験動物を表し、より詳細には、産業動物とは、ウシ、ウマ、ブタ、ヤギ、ヒツジ等の家畜や競争馬、猟犬等を表し、ペットとはイヌ、ネコ、マーモセット、ハムスター等を表し、実験動物とはマウス、ラット、モルモット、ビーグル犬、ミニブタ、アカゲザル、カニクイザル等の医学、生物学、農学、薬学等の分野で研究に供用される動物を表す。本発明の抗疲労剤は、疲労を知覚するヒト、産業動物、ペットおよび実験動物に用いられ、特にヒトに対して好適に用いられる。
【0033】
疲労とは、身体的あるいは精神的負荷を連続して与えたときにみられる一時的な身体的および精神的パフォーマンスの低下現象であり、パフォーマンスの低下は、身体的および精神的作業能力の質的あるいは量的な低下を意味する。また、本発明の「疲労」には、慢性疲労症候群や過労死も含まれる。
【0034】
本発明の抗疲労剤とは、上記疲労を減弱させる作用や疲労を回復させる作用を有する剤をいい、具体的には、運動や作用した部位(脳を含む)の働きの持続時間を向上させること、および同じ運動量や作用量での疲労物質の増加を抑制すること(持久力向上・体力増強)、運動や作用した部位が疲労していないにもかかわらず脳や神経などが疲労感知状態になっていることを改善すること、ならびに運動や作用した部位の疲労状態を通常状態に回復することを促進する効果を有する剤をいう。
【0035】
また、本発明の抗疲労剤が目的とする慢性疲労症候群とは、日常生活に支障を来すほどの長期的な全身疲労感、倦怠感、微熱、リンパ節腫脹、筋肉痛、関節痛、精神神経症状などの基本的な症状を意味する。本発明の抗疲労剤は、この慢性疲労症候群を処理、すなわち慢性疲労症候群の各症状を緩和し、正常な状態に移行させることができる。さらに、本発明の抗疲労剤が目的とする過労死とは、重度の過労状態にあり、身体的活力を保つことができないにも関わらず、疲労を十分に感じることができなくなり、その結果、脳血管疾患や心疾患を発症して永久的労働不能や死亡に至った状態を意味する。本発明の抗疲労剤は、慢性疲労症候群を処置することができ、それにより過労死を予防しうるものである。本発明の抗疲労作用、すなわち「抗疲労剤」としての効果は、例えば水浸断眠試験における遊泳時間の測定のような試験により確認することができる。水浸飼育のように、十分な睡眠や休息姿勢をとることができず、肉体的にも精神的にも休息できない環境で飼育されたマウスを用い、おもりを負荷させた状態で遊泳させ、限界水泳時間(例えば、最初に10秒以上鼻が水没してしまう際の水没時までの時間、または最終的に(再浮上しなくなるまで)鼻先が水没する際の水没時までの時間等)を測定することにより、その疲労度を確認するものである。この動物モデルは肉体的および精神的疲労モデルであるから、被験物質を投与することにより遊泳時間が延長されれば、肉体的および精神的疲労やそれに伴う筋肉痛等の苦痛を予防または改善できたこと、体力が増強され疲労困憊に至るまでの時間が延長されたこと、疲労状態のもとで身体的活力が維持されたこと等、疲労に対する抵抗性があることが確認される。
【0036】
本発明の抗疲労剤は、これを摂取することにより疲れにくくなり、また疲労回復にも効果がある。すなわち、スポーツなどの筋肉運動に際して肉体疲労を感じたときや計算作業等の連続作業に際して精神疲労を感じたときに摂取して疲労の回復を図ることができるし、予め摂取してから労働、スポーツなどを行うと疲労を予防することもできる。また、スポーツを行う前や途中で摂取することにより、持久力向上が期待できる。さらに、日常的に摂取することにより、精神的な疲労やそれに伴う疾患をも予防することができる。
【0037】
本発明の抗疲労剤の投与形態は、液剤、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、ドライシロップ剤、丸剤等の形態で経口投与してもよいし、注射剤等の形態で投与してもよく、病態やその進行状況、その他の条件によって適宜選択することができる。また、本発明の有効成分であるセサミン類は脂溶性であり、ビタミンB1類は水溶性であることから、それぞれを別の形態で摂取しても良い。具体的には、セサミン類とビタミンB1類を含有する製剤を個別に調製し、それらをほぼ同時に、または、一方の製剤を服用後、その効き目が持続している間に他方の製剤を服用すれば、本発明の意図するセサミン類の抗疲労作用の増強作用が得られる。よって、セサミン類含有製剤とビタミンB1類含有製剤のキット等も本発明の抗疲労剤の範囲に含まれる。
【0038】
以下実施例により、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0039】
ビタミンB1類とセサミン類による抗疲労作用(1)
被験物質となるセサミン類としてはセサミン/エピセサミン混合物(セサミン:エピセサミン(重量比)=5:5)を用い、ビタミンB1類としては塩酸チアミン(ナカライテスク社)を用いた。
【0040】
水浸断眠試験により、抗疲労作用を評価した。評価は、Tanakaらの方法(Neurosience, Let.352, 159−162, 2003)を一部改変した方法で実施した。Balb/c系雄性マウス(8週齢)を日本エスエルシー株式会社より購入し、1週間試験環境で馴化させた後、順調な発育を示した動物を試験に供した。平均体重が均等になるように1群10匹で表1のようにマウスを5群に群分けした。表1におけるビタミンB1類の量は、用いた塩酸チアミンをチアミンとして換算した量を用いている。そのうち、4群は水浸断眠ストレス群として、床敷(ペーパーチップ)のかわりに水温23℃の水道水を水深7mmになるように飼育ケージに入れて飼育することにより、マウスを水浸断眠させた。2日間の水浸断眠中にそれぞれの被検サンプルを1日1回、2日間強制経口投与した。被検サンプルのうち、セサミン類はオリブ油に、チアミンは蒸留水にそれぞれ溶解した。投与順序はチアミン、セサミン類の順とし、対照として蒸留水、オリブ油を強制経口投与した。
【0041】
水浸飼育又は通常飼育2日後、マウスの尾に体重の8%相当の重りをつけて水槽中(直径18cm、水深30cm)で遊泳させ、鼻先が最初に10秒以上水没するまでの水没時までの時間を限界水泳時間として測定した。水浸飼育群(水浸断眠ストレス群)のマウスは通常飼育群のマウスよりも限界水泳時間が短縮される。被検サンプル(セサミン類及び/又はビタミンB1類)の投与により限界水泳時間の短縮をどれだけ抑制できるかを評価することににより被験サンプルの抗疲労作用を評価した。
【0042】
【表1】
結果を
図1に示す。
図1より明らかなとおり、水浸飼育対照群(比較群1)のマウスの限界水泳時間は、通常飼育対照群(対照群)のマウスに比べて短かった。被験サンプルとしてビタミンB1類を50mg/kg投与した群(比較群2)は、比較群1と比べて、限界水泳時間に変化が認められなかった。セサミン類を50mg/kg投与した群(比較群3)は、比較群1と比べて限界水泳時間がやや長くなった。50mg/kgのビタミンB1類とセサミン類とをともに投与した群(試験群1)では、比較群1に対して限界水泳時間が顕著に長くなった。この結果は、ビタミンB1類とセサミン類とをともに投与することにより相乗的に抗疲労作用が増強されることを示している。
【実施例2】
【0043】
ビタミンB1類とセサミン類による抗疲労作用(2)
表2のようにマウスを群分けし、鼻先が水面から最終的に水没するまで(再浮上しなくなるまで)の水没時までの時間を限界水泳時間としたこと以外は、実施例1と同様にして、ビタミンB1類とセサミン類による抗疲労作用を評価した。表2におけるビタミンB1類の量は、用いた塩酸チアミンをチアミンに換算した量で示している。
【0044】
【表2】
結果を
図2に示す。
図2より明らかなとおり、水浸飼育対照群(比較群4)のマウスの限界水泳時間は、通常飼育対照群(対照群)に比べて短かった。ビタミンB1類をそれぞれ5mg/kg、10mg/kgと、セサミン類を10mg/kgとをともに投与した群(試験群2、試験群3)では、限界水泳時間が、比較群4に比べて、顕著に長くなった。この結果は、ビタミンB1類とセサミン類とをともに投与することにより、抗疲労作用が相乗的に増強されることを示している。
【実施例3】
【0045】
参考例.ビタミンB1類の単独投与による抗疲労作用
表3、表4のようにマウスを群分けしたこと以外は、実施例1と同様にして、ビタミンB1類の単独投与による抗疲労作用を評価した。表3、表4におけるビタミンB1類の量は、用いた塩酸チアミンをチアミンに換算した際の量として示している。
【0046】
【表3】
【0047】
【表4】
結果を
図3および
図4に示す。図より明らかなとおり、水浸飼育対照群(比較群7および8)の限界水泳時間はそれぞれ、通常飼育対照群(対照群1および2)に比べて短かった。ビタミンB1類を5mg/kg、10mg/kg、25mg/kg、および50mg/kg投与した群(それぞれ、参考群1〜4)の限界水泳時間は、比較群7または8の限界水泳時間とほぼ同程度であった。ビタミンB1類を100mg/kg投与した群(参考群5)では、限界水泳時間が、比較群8に比べて長くなった。
【実施例4】
【0048】
製剤例1.顆粒剤
セサミン 10g
塩酸チアミン 10g
酢酸トコフェロール 50g
無水ケイ酸 20g
トウモロコシデンプン 110g
以上の紛体を均一に混合した後、10%ハイドロキシプロピルセルロース・エタノール溶液100mlを加え、常法通り練和し、押出し、乾燥して顆粒剤を得た。
【0049】
製剤例2.カプセル剤
ゼラチン 60.0%
グリセリン 30.0%
パラオキシ安息香酸メチル 0.15%
パラオキシ安息香酸プロピル 0.51%
水 適量
上記成分からなるソフトカプセル剤皮の中に、以下に示す組成物を常法により充填し、1粒360mgのソフトカプセルを得た:
セサミン 3.5mg
塩酸チアミン 0.4mg
グリセリン脂肪酸エステル 15.0mg
ミツロウ 15.0mg
小麦胚芽油 245mg
【0050】
製剤例3.錠剤
セサミン 10g
硝酸チアミン 30g
デンプン 172g
ショ糖脂肪酸エステル 9.0g
酸化ケイ素 9.0g
これらを混合し、単発式打錠機にて打錠し、径9mm、重量300mgの錠剤を製造した。
【0051】
製造例4.飲料
呈味: DL−酒石酸ナトリウム 0.1g
コハク酸 0.009g
甘味:液糖 800g
酸味:クエン酸 12g
ビタミンC 10g
セサミン 1g
ビタミンB1 1g
ビタミンE 20g
シクロデキストリン 5g
乳化剤 5g
香料 15ml
塩化カリウム 1g
硫酸マグネシウム 0.5g
上記成分を配合し、水を加えて10リットルとした。この飲料は、1回あたり約100mlを飲用する。