(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5666035
(24)【登録日】2014年12月19日
(45)【発行日】2015年2月4日
(54)【発明の名称】防護柵
(51)【国際特許分類】
E01F 7/04 20060101AFI20150115BHJP
【FI】
E01F7/04
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-36657(P2014-36657)
(22)【出願日】2014年2月27日
【審査請求日】2014年4月16日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】398054845
【氏名又は名称】株式会社プロテックエンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 朔生
(72)【発明者】
【氏名】野村 利充
(72)【発明者】
【氏名】井上 昭一
(72)【発明者】
【氏名】藤井 智弘
(72)【発明者】
【氏名】西田 陽一
【審査官】
須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−034766(JP,A)
【文献】
特開2003−003425(JP,A)
【文献】
特開2002−348817(JP,A)
【文献】
特開2002−322615(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01F 7/04
CiNii
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
谷側控えロープを具備しない複数の支柱と、前記複数の支柱の上部間に横架した防護ネットとを具備し、前記防護ネットの下辺を山側斜面に固定した防護柵であって、
防護ネットの上辺を支柱の上部山側に前記支柱の径より大きい距離を隔てて取り付けたことを特徴とする、
防護柵。
【請求項2】
前記支柱の上部に張出ブラケットを突設し、該張出ブラケットを介して防護ネットの上辺を支柱の上部山側に前記支柱の径より大きい距離を隔てて取り付けたことを特徴とする、請求項1に記載の防護柵。
【請求項3】
前記張出ブラケットは防護ネットの上辺と係合可能な開口を有することを特徴とする、請求項2に記載の防護柵。
【請求項4】
支柱本体に延長用支柱を継ぎ足して支柱を構成し、支柱に生じる応力の変化点の近傍に支柱の接合部を形成したことを特徴とする、請求項1または2に記載の防護柵。
【請求項5】
前記支柱の上部間に間隔保持材を横架したことを特徴とする、請求項1または2に記載の防護柵。
【請求項6】
前記防護ネットはアンカーロープを具備し、該アンカーロープの下端を山側アンカーに接続したことを特徴とする、請求項1または2に記載の防護柵。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は雪崩、崩落土砂、落石等による災害を防止する防護柵に関し、より詳細には支柱の荷重負担を軽減した防護柵に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1〜3には、防護ネットの上辺を支柱上部に接続し、防護ネットの下辺を斜面山側に固定した防護柵が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−280333号公報
【特許文献2】特開2003−3425号公報
【特許文献3】特開2002−322615号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1〜3に記載された防護柵にはつぎの問題点がある。
<1>防護ネットに衝撃荷重が作用すると、支柱には軸力と斜面谷側へ向けた曲げモーメント(転倒モーメント)が作用する。殊に支柱の根元部には応力が集中的に作用する。
したがって、支柱の設計にあたっては、衝撃荷重に耐え得るように支柱径を大径にしたり、鋼管内にコンクリートを充填した充填鋼管を使用したりして支柱を高強度に設計するだけでなく、支柱の根入れ長を深くしなければならない。
<2>支柱の耐力を高めるために、支柱を大径化したり、鋼管内にコンクリートを充填したりすると、支柱コストが嵩むだけでなく、重量が増して運搬性や取扱い性が悪くなる。
<3>支柱の根入れ深さが長くなるほど支柱の全長が長くなるため、支柱コストが嵩む問題と、支柱の全長が長くなるほど現場への搬入性および現場での作業性が悪くなる。
殊に、単位長さの単価が高価な高剛性の支柱を使用する場合は、支柱コストが非常に高いものとなる。
【0005】
本発明は上記した問題点に鑑みて成されたもので、その目的とするところは、つぎの少なくともひとつの防護柵を提供することにある。
<1>従来と比べて支柱の荷重負担を軽減できること。
<2>支柱コストを削減すること。
<3>支柱の運搬性および取扱性を改善できること。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、谷側控えロープを具備しない複数の支柱と、前記複数の支柱の上部間に横架した防護ネットとを具備し、前記防護ネットの下辺を山側斜面に固定した防護柵であって、防護ネットの上辺を支柱の上部山側に
前記支柱の径より大きい距離を隔てて取り付けて構成する。
防護ネットの上辺の取付け手段としては、前記支柱の上部に張出ブラケットを突設し、該張出ブラケットを介して防護ネットの上辺を支柱の上部山側に
前記支柱の径より大きい距離を隔てて取り付ける。
前記張出ブラケットは防護ネットの上辺と係合可能な開口を有する。
支柱本体に延長用支柱を継ぎ足して支柱を構成し、
支柱に生じる応力の変化点の近傍に支柱の接合部を形成してもよい。
前記支柱の上部間には必要に応じて間隔保持材を横架する。
前記防護ネットはアンカーロープを具備し、該アンカーロープの下端を山側アンカーに接続する。
【発明の効果】
【0007】
本発明は上記した構成を有することから、少なくともつぎのひとつの効果を奏する。
<1>防護ネットの上辺を支柱から所定の距離を隔てて支持するようにしたことで、従来と比べて支柱の負担荷重を大幅に軽減することができる。
<2>支柱の負担荷重が小さくなるので、支柱の設計強度を下げて経済的な設計が可能となる。
<3>支柱の下部を地盤へ直接に建て込む形態にあっては、支柱の根入れ長が短くなるから、支柱の全長を短くすることができる。
<4>支柱の全長が短くなれば、削孔長が短くなるだけでなく、支柱の運搬、取扱性もよくなる。
<5>延長用支柱を継ぎ足して支柱を構成しても、応力の変化点の近傍に支柱の接合部を形成すれば、支柱の接合部が強度的弱点にならずに済む。
そのため、防護柵を巨大な荷重が作用する過酷な環境下で使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図4】張出ブラケットを有しない対比用の防護柵のモデル図
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1〜4を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。
【0010】
<1>防護柵
図1〜3を参照して説明すると、本発明に係る防護柵は、斜面等の地面10に間隔を隔てて立設した複数の支柱20と、支柱20の上部山側に突設した張出ブラケット25と、張出ブラケット25を介してこれらの支柱20間に横架した防護ネット30とを具備する。
本発明では張出ブラケット25を介して防護ネット30の上辺を支柱20の上部山側に所定の距離を隔てて取り付けるとともに、防護ネット30の下辺を山側斜面の山側アンカー11に固定するようにしたものである。
以下主要な構成部材について詳説する。
【0011】
<2>防護ネット
防護ネット30は支柱20間の山側に横架した公知のネット状物であり、各種公知の防護用ネットを含む。
本例の防護ネット30は、ネットの上下左右の周囲を包囲する枠ロープ31と、複数のロープ材を交差して形成して枠ロープ31の全面に付設したロープネット32と、ロープネット32に付設したロープネット32より目合い寸法の小さな網体33とにより構成している。枠ロープ31には支柱20のピッチに合せて縦断方向に向けてアンカーロープ34が配置されている。
枠ロープ31,34、ロープネット32、および網体33の素材は、公知の鋼製、繊維製、樹脂製の何れでもよい。
【0012】
<3>支柱
支柱20は公知の型鋼や鋼管等の鋼材、コンクリート柱、鋼管とコンクリートを複合した充填鋼管、充填鋼管内に引張材や補強鋼材を埋設した高強度柱体等を適用することができる。
支柱20の下部は地面10に穿孔した建込み穴に建て込んで立設するか、或いは現場で構築した基礎コンクリートに立設する。
【0013】
<4>張出ブラケット
支柱20の上部には張出ブラケット25が水平に突設してある。
支柱20に張出ブラケット25を設けたのは、防護ネット30の上辺を支柱20の上部山側へ向けて離隔させて支持するためである。
図2に例示した形態について説明すると、張出ブラケット25は支柱20に固着して水平に突設した横板26と、横板26に交差させて設けた縦板27とにより構成し、張出ブラケット25の一部に開設した開口28を介して枠ロープ31やアンカーロープ34が接続可能になっている。
【0014】
防護ネット30の上辺を支持する手段は、例示した張出ブラケット25に限定されず、防護ネット30の上辺を支柱20から離隔させて支持し得る構造体であれば適用可能である。
【0015】
<5>間隔保持材
隣り合う支柱20の上部間には間隔保持材22が横架してあり、支柱20の間隔を一定に保持するようになっている。
間隔保持材22は圧縮耐力に優れた剛性部材であり、例えば鋼や鋳鉄で形成する。
図2に例示した間隔保持材22と支柱20の連結構造について説明すると、支柱20の上部に設けた大径の天板21には連結孔21aが設けられ、一方、間隔保持材22のり端部に設けた接続ブラケット23には連結孔23aが設けられ、両連結孔21a,23aにピンやボルト等の連結要素24を挿入することで間隔保持材22と支柱20の間が回動自在に連結されている。
尚、間隔保持材22は必須ではなく、省略される場合がある。
【0016】
[防護柵の特性]
つぎに
図3を参照して本発明に係る防護柵の特性について説明する。
【0017】
<1>衝撃荷重の吸収
図3に示した防護柵において、防護ネット30の上辺は、張出ブラケット25を介して支柱20の上部山側に所定の距離Xを離隔して支持され、防護ネット30の下辺は山側アンカー11に固定されている。
防護ネット30に斜面谷側へ向けた衝撃荷重Fが作用すると、防護ネット30が変形し、防護ネット30に作用した衝撃荷重Fを山側アンカー11と支柱20の強度で支持する。
【0018】
<2>曲げモーメントの打ち消し合い
本発明では以下に説明する支柱20に作用する曲げモーメントの打ち消し合いにより、支柱20の負担荷重を軽減することができる。
【0019】
<2.1>防護ネットから張出ブラケットへの荷重伝達
防護ネット30に作用した衝撃荷重Fは防護ネット30との上辺と張出ブラケット25の係合部へ伝達し、さらに張出ブラケット25を経由して支柱20の上部へ伝達される。
【0020】
<2.2>衝撃荷重の分力
防護ネット30の上辺が支柱20から距離Xを隔てて支持されているため、防護ネット30と張出ブラケット25の係合部には谷側へ向けた水平分力Aと、鉛直分力Bが発生する。
【0021】
<2.3>支柱に発生する曲げモーメント
本発明では防護ネット30に作用した衝撃荷重Fを支柱20へ直接伝えずに、張出ブラケット25を経由して支柱20へ伝達するように構成したことで、谷側へ向けた水平分力Aは支柱20に対して谷側へ向けた曲げモーメントMdを生成し、鉛直分力Bは支柱20に対して山側へ向けた曲げモーメントMuを生成する。
【0022】
支柱20に対して山側へ向けた曲げモーメントMuは距離Xに比例して大きくなる。
支柱20に生じる応力の変化点Pは、距離Xの長さに応じて変化する。
【0023】
<2.4>モーメントの打ち消し合い
両曲げモーメントMd,Muは作用方向が逆の関係にあることから、曲げモーメントMd,Muが互いに打ち消し合って、支柱20に作用する曲げモーメントを大幅に緩和することができる。
換言すれば、張出ブラケット25を介して防護ネット30を支柱20から離隔して支持することで、支柱20の全体に斜面山側へ向けた曲げ力がはたらく。斜面山側へ向けた曲げ力は支柱20を斜面谷側へ向けて曲げようとする力を減衰して緩和する。
以上説明したように本発明では、防護ネット30の上辺を支柱20から距離Xを離隔させて支持することにより、支柱20自体の負担荷重を軽減することができる。
殊に支柱20の根元部の負担荷重が小さくなる。
【0024】
<2.5>支柱の負担荷重軽減に伴う利点
支柱20の負担荷重が小さくなれば、支柱20の径を小径にするなどして支柱20の設計強度を下げて経済的な設計が可能となる。
さらに支柱20の下部を地面10に直接に建て込む形態にあっては、支柱20の根入れ長が短くなるから、支柱20の全長も短くすることができる。
支柱20の全長を短くできれば、削孔長が短くなるだけでなく、支柱20の運搬、取扱性もよくなる。
【0025】
また積雪用防護柵にあっては、支柱20の負担荷重が極めて大きくなることがあり、巨大な雪圧荷重に対抗するために支柱20の根入れ長を長くし、結果的に支柱20の全長が鋼材の市販製品の長さを越えて設計される場合がある。
本発明では支柱本体に延長用支柱を繋ぎ合わせて支柱20を形成しても、
図3に示す応力の変化点Pの近傍に支柱20の接合部を形成すれば、支柱20の接合部が強度的弱点にならずに済むため、防護柵を過酷な環境下で使用することができる。
さらに従来と比較して支柱20の間隔を広げることも可能である。
【0026】
<3>対比の防護柵
図4に張出ブラケット25を省略し、防護ネット30の上辺を支柱20の上部山側に取り付けた対比用の防護柵のモデル図を示す。
同時の防護柵にあっては、防護ネット30に作用した衝撃荷重Fが支柱20の上部へ直接伝達されるため、支柱20の上部には山側へ向けた水平分力Aと、鉛直分力Bが発生する。
【0027】
谷側へ向けた水平分力Aは支柱20に対して谷側へ向けた曲げモーメントMdを生成し、鉛直分力Bは支柱20の軸力となり、本発明の防護柵のような曲げモーメントの打ち消し合いは生じない。
【0028】
張出ブラケット25を省略した
図4に示した防護柵では、衝撃荷重Fに比例して支柱20の曲げモーメントMdと軸力が大きくなる。殊に支柱20の根元部の負担荷重が最大となる。したがって、支柱20の全体を高強度に設計しなければならない。
【符号の説明】
【0029】
10・・・・・地面
11・・・・・山側アンカー
20・・・・・支柱
21・・・・・天板
21a・・・・天板の連結孔
22・・・・・間隔保持材
23・・・・・接続ブラケット
23a・・・・接続ブラケットの連結孔
24・・・・・連結要素
25・・・・・張出ブラケット
28・・・・・張出ブラケットの開口
30・・・・・防護ネット
31・・・・・枠ロープ
32・・・・・ロープネット
33・・・・・網体
34・・・・・アンカーロープ
【要約】
【課題】従来と比べて支柱の荷重負担を軽減しつつ、支柱コストを削減すること。
【解決手段】複数の支柱20と防護ネット30とを具備し、支柱20の上部に突設した張出ブラケット25を介して防護ネット30の上辺を支柱20の上部山側に所定の距離Xを隔てて取り付け、受撃時に支柱20に発生する谷側へ向けた曲げモーメントと、山側へ向けた曲げモーメントMuとが互いに打消し合うように構成する。
【選択図】
図3