(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5666139
(24)【登録日】2014年12月19日
(45)【発行日】2015年2月12日
(54)【発明の名称】潤滑油基油、潤滑組成物、及びそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
C10M 105/04 20060101AFI20150122BHJP
C10M 101/02 20060101ALI20150122BHJP
C10M 107/02 20060101ALI20150122BHJP
C10N 20/00 20060101ALN20150122BHJP
C10N 20/02 20060101ALN20150122BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20150122BHJP
C10N 30/04 20060101ALN20150122BHJP
C10N 30/10 20060101ALN20150122BHJP
C10N 40/25 20060101ALN20150122BHJP
C10N 70/00 20060101ALN20150122BHJP
【FI】
C10M105/04
C10M101/02
C10M107/02
C10N20:00 Z
C10N20:02
C10N30:00 Z
C10N30:04
C10N30:10
C10N40:25
C10N70:00
【請求項の数】15
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2009-550750(P2009-550750)
(86)(22)【出願日】2008年2月18日
(65)【公表番号】特表2010-519376(P2010-519376A)
(43)【公表日】2010年6月3日
(86)【国際出願番号】GB2008000554
(87)【国際公開番号】WO2008102114
(87)【国際公開日】20080828
【審査請求日】2011年2月8日
(31)【優先権主張番号】07250739.5
(32)【優先日】2007年2月21日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】397035070
【氏名又は名称】ビーピー ピー・エル・シー・
(74)【代理人】
【識別番号】100064012
【弁理士】
【氏名又は名称】浜田 治雄
(72)【発明者】
【氏名】エイムス,スティーブン ブルース
(72)【発明者】
【氏名】デイヴィス,ジョン フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】リディ,ジョン フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】リム,コクチェ
【審査官】
▲吉▼澤 英一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−117733(JP,A)
【文献】
国際公開第1997/035462(WO,A1)
【文献】
特表2005−516108(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 171/00
C10M 101/02
C10M 105/04
C10M 107/02
C10N 20/00
C10N 20/02
C10N 30/00
C10N 30/04
C10N 30/10
C10N 40/25
C10N 70/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)少なくとも95重量%の飽和炭化水素を含むベースストックであって、フィッシャー・トロプシュ合成されたろう状パラフィン系炭化水素原料から得られるベースストック、及び/又は、グループ2ベースストック及び/又はグループ3ベースストックである水素化処理されたベースストック、及び、
(ii)0.2乃至30重量%の芳香族抽出物であって、芳香族化合物含量が60乃至85重量%であり、かつ、ジメチルスルホキシド抽出性多環芳香族化合物含量が3重量%未満である、前記芳香族抽出物を含む、
液体潤滑油基油組成物。
【請求項2】
0.2乃至18重量%の芳香族抽出物を含む、請求項1記載の液体潤滑油基油組成物。
【請求項3】
1乃至18重量%の芳香族抽出物を含む、請求項2記載の液体潤滑油基油組成物。
【請求項4】
3乃至18重量%の芳香族抽出物を含む、請求項1記載の液体潤滑油基油組成物。
【請求項5】
6乃至18重量%の芳香族抽出物を含む、請求項1記載の液体潤滑油基油組成物。
【請求項6】
1乃至30重量%の芳香族抽出物を含む、請求項1記載の液体潤滑油基油組成物。
【請求項7】
前記芳香族抽出物が残渣芳香族抽出物である、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の液体潤滑油基油組成物。
【請求項8】
前記芳香族抽出物が蒸留芳香族抽出物である、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の液体潤滑油基油組成物。
【請求項9】
前記芳香族抽出物が、少なくとも一つの更なる処理を行った蒸留芳香族抽出物である、請求項8記載の液体潤滑油基油組成物。
【請求項10】
前記少なくとも一つの更なる処理が、水素化、深度水素化脱硫、粘土処理、酸処理、及び、更なる溶媒抽出からなる群より選択される、請求項9記載の液体潤滑油基油組成物。
【請求項11】
前記ベースストックが少なくとも一つのポリ−α−オレフィンを含む、請求項1乃至10のいずれか一項に記載の液体潤滑油基油組成物。
【請求項12】
少なくとも95重量%の飽和炭化水素を含むベースストックであって、フィッシャー・トロプシュ合成されたろう状パラフィン系炭化水素原料から得られるベースストック、及び/又は、グループ2ベースストック及び/又はグループ3ベースストックである水素化処理されたベースストック、と、3重量%未満のジメチルスルホキシド抽出性多環芳香族化合物含量及び60乃至85重量%の芳香族化合物含量である、十分な芳香族抽出物を混合し、請求項1乃至11のいずれか一項に記載の液体潤滑油基油組成物を生成することを含む、請求項1乃至11のいずれか一項に記載の液体潤滑油基油組成物の製造方法。
【請求項13】
請求項1乃至11のいずれか一項に記載の液体潤滑油基油組成物及び1以上の添加剤を含む、液体潤滑組成物。
【請求項14】
前記1以上の添加剤が、洗浄剤、分散剤、耐摩耗添加剤、酸化防止剤、消泡剤、腐食抑制剤、流動点降下剤、摩擦調整剤、粘着付与剤、及び、粘度指数向上剤からなる群より選択される、請求項13記載の液体潤滑組成物。
【請求項15】
大型2サイクル船用ディーゼル機関シリンダー油、大型2サイクル船用ディーゼル機関システム油、又は、大型4サイクル船用ディーゼル機関クランク室潤滑組成物として用いられる、請求項13又は14記載の液体潤滑組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物及び方法、特に、潤滑油基油、潤滑組成物、及びそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、潤滑組成物は、基油及び1以上の添加剤を含む。API規格1509の“エンジンオイル認証システム(ENGINE OIL LICENSING AND CERTIFICATION SYSTEM)”(2004年11月、第15版、別表E)によれば、基油に用いられるベースストック(base stock)は、次に示す表1のとおりに、5つのグループの一つに属することが定義されている。
【0003】
【表1】
【0004】
一般に、グループ1は、船用大型2サイクル機関及び船用大型4サイクル機関、特に、重油で作動する機関用の潤滑組成物の製造のためのグループ2ベースストックであるのが好ましい。しかしながら、グループ1ベースストックの古い生産設備が閉鎖され、新しい生産設備でグループ2ベースストックを製造する傾向があるため、グループ2ベースストックは、ますます、容易に利用可能になってきている。
【0005】
グループ2ベースストックは、潤滑組成物(例えば、船用潤滑剤)において用いる場合に、グループ1ベースストックに比べ、性能上の短所がある場合がある。これらの短所は、非常に低い分散性、非常に低いシール膨潤性能、非常に低い添加剤の溶解性、船用機関用途の燃料油との低い相容性(例えば当該機関の冷却部分でデポジットを生成する)、及び/又はある局面における燃料油との低い相容性、非常に低い酸化安定性を含み得る。
【0006】
水素化処理されたベースストックは、産業的な潤滑剤の用途で用いられる場合に[「Hartの潤滑剤の世界(Hart’s Lubricants World)」Deckman D. E.ら、1997年9月、第20乃至26頁]、並びに、商業的な個人用の乗り物及び船用機関油において用いられる場合に[「Hartの潤滑剤の世界(Hart’s Lubricants World)」Deckman D. E.ら、1997年9月、第27乃至28頁]、長所及び短所があり得る[「Hartの潤滑剤の世界(Hart’s Lubricants World)」Deckman D. E.ら、1997年7月、第46乃至50頁]。
【0007】
Deckman D. E.らの『Hartの潤滑剤の世界」(1997年9月、第27乃至28頁)によれば、“水素化分解により、ベースストックの粘度を損失させるので、一般に、船用油は、水素化分解されたベースストックと単独で配合されないが、相当量のブライトストック(bright stock)の使用を必要とする。しかしながら、ブライトストックの使用は、酸化的に不安定な芳香族化合物の存在により望ましくない。”とある。
【0008】
水素化処理により生成されたベースストックは、グループ2ベースストック及びグループ3ベースストックに含まれ、グループ1ベースストックよりも低い芳香族化合物含量及び低い硫黄含量である。
【0009】
また、ポリ−α−オレフィン(グループ4)であるベースストックは、高い飽和度である。
【0010】
また、フィッシャー・トロプシュ(Fischer−Tropsch)合成されたろう状パラフィン系炭化水素原料から得られるベースストックは、低い芳香族化合物含量であり、そのため、少なくともグループ2ベースストック及びグループ3ベースストックは、グループ1ベースストックに比べ非常に低い性能を示す。国際公開第00/14187号パンフレット及び国際公開第2005/066314号パンフレットは、フィッシャー・トロプシュで得られたベースストックを含む潤滑組成物に関する。
【0011】
これらの問題を克服する、又は、少なくとも緩和する基油組成物の必要性が依然として存在していた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】「Hartの潤滑剤の世界(Hart’s Lubricants World)」Deckman D. E.ら、1997年9月、第20乃至26頁、第27乃至28頁
【非特許文献2】「Hartの潤滑剤の世界(Hart’s Lubricants World)」Deckman D. E.ら、1997年7月、第46乃至50頁
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】国際公開第00/14187号パンフレット
【特許文献1】国際公開第2005/066314号パンフレット
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
少なくとも95重量%の飽和炭化水素を含んだベースストックを含む基油において、芳香族抽出物を0.2乃至30重量%使用することにより、これらの問題を克服する、又は、少なくとも緩和することができることが今般明らかとなった。
【0015】
したがって、本発明の第一の局面によれば、(i)少なくとも95重量%の飽和炭化水素を含むベースストック、及び、(ii)0.2乃至30重量%、好ましくは0.2乃至18重量%又は1乃至30重量%、より好ましくは1.0乃至18重量%の芳香族抽出物であって、3重量%未満のジメチルスルホキシド抽出性多環芳香族化合物含量である、前記芳香族抽出物を含む、液体潤滑油基油組成物が提供される。
【0016】
本発明の第二の局面によれば、少なくとも95重量%の飽和炭化水素を含むベースストックと、十分な芳香族抽出物であって、3重量%未満のジメチルスルホキシド抽出性多環芳香族化合物含量である、前記芳香族抽出物を混合して、本明細書で定義される液体潤滑油基油組成物を生成することを含む、本明細書で定義される液体潤滑油基油組成物の製造方法が提供される。
【0017】
本発明の第三の局面によれば、本明細書で定義される潤滑油基油組成物と、1以上の添加剤、好ましくは、洗浄剤、分散剤、耐摩耗添加剤、酸化防止剤、消泡剤、腐食抑制剤、流動点降下剤、摩擦調整剤、粘着付与剤、及び、粘度指数向上剤からなる群より選択される添加剤を含む、液体潤滑組成物が提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、基油が少なくとも95重量%の飽和炭化水素を含んだベースストックを含む液体潤滑油基油組成物において、3重量%未満のジメチルスルホキシド抽出性多環芳香族化合物含量である、芳香族抽出物を0.2乃至30重量%使用することにより、上述した問題を解決する。本発明は、このようなベースストックに関連し得る少なくとも幾つかの欠陥を克服する、又は、少なくとも緩和する潤滑油基油を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】さまざまな量の芳香族抽出物での基油の性能を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の潤滑油基油組成物は、0.2乃至30重量%の芳香族抽出物を含む。好ましくは、本発明の潤滑油基油組成物は、0.2乃至18重量%又は1.0乃至30重量%の芳香族抽出物を含む。より好ましくは、本発明の潤滑油基油組成物は、1.0乃至18重量%の芳香族抽出物を含む。
【0021】
好ましくは、少なくとも95重量%の飽和炭化水素を含むベースストック(base stock)は、水素化処理されたベースストック、及び/又は、フィッシャー・トロプシュ(Fischer−Tropsch)合成されたろう状パラフィン系炭化水素原料から得られるベースストックを含む。本発明は、このようなベースストックに関連し得る少なくとも一つの欠陥、例えば、低い分散性(例えば、すす及び/又はデポジット)、低いシール膨潤性能、低い添加剤の溶解性、船用機関用途の燃料油との低い相容性(例えば当該機関の冷却部分でデポジットを生成する)、ある局面における燃料油との低い相容性、及び、低い酸化安定性からなる群より選択される欠陥を克服する、又は、少なくとも緩和する潤滑油基油を提供する。
【0022】
したがって、本発明の更なる局面によれば、低い分散性、及び、低いシール膨潤性能、低い添加剤の溶解性、及び、船用機関用途の燃料油との低い相容性からなる群より選択される少なくとも一つのベースストックの欠陥を緩和するために、基油が少なくとも95重量%の飽和炭化水素を含んだベースストックを含む液体潤滑油基油組成物において、3重量%未満のジメチルスルホキシド抽出性多環芳香族化合物含量である、芳香族抽出物の0.2乃至30重量%の使用が提供される。
【0023】
特に、本発明は、例えば、グループ2ベースストック及び/又はグループ3ベースストックを含む水素化処理されたベースストックを用いて、及び/又は、ポリ−α−オレフィンを含むベースストックを用いて、及び/又は、フィッシャー・トロプシュ合成されたろう状パラフィン系炭化水素原料から得られるベースストックを用いて基油を生成するための規定量の芳香族抽出物を用いる方法が提供される。この基油は、グループ1ベースストックが従来から用いられてきた用途、例えば、船用機関用途、大型2サイクル船用ディーゼル機関シリンダー油、大型2サイクル船用ディーゼル機関システム油、及び、大型4サイクル船用ディーゼル機関クランク室潤滑組成物において用いることができる。
【0024】
前述の芳香族抽出物は、溶媒抽出工程における少なくとも一つの精製工程流れの処理により生成されるのが好ましい。適切な溶媒抽出工程は、フルフラール、n−メチルピロリドン、二酸化硫黄、Duo−Sol(商標)、又はフェノール等の溶媒と少なくとも一つの精製工程流れを接触し、精製流れ、芳香族物質及びヘテロ環物質から選択的に抽出し、溶媒中でこれらの物質の溶液を生成することを含む。次いで、前述の溶媒は、抽出工程に再利用するために溶液から回収される。得られる生産物は、芳香族抽出物である。
【0025】
芳香族抽出物の製造は、当業界で公知であり、例えば、「潤滑油基油及びワックスの加工(Lubricant base oil and wax processing)」(A. Sequeira、第81乃至118頁、pub.Marcel Dekker Inc. New York、1994年)に記載されている。
【0026】
前述の芳香族抽出物は、脱アスファルト化のための溶媒としてDuo−Sol(商標)、プロパン、ブタン又はその混合物を用いて生成される溶媒の脱アスファルト化減圧残留物(DAOとしても公知)の抽出工程における処理により生成される、残渣芳香族抽出物であり得る。
【0027】
前述の芳香族抽出物は、減圧蒸留工程からの蒸留流れの抽出工程における処理により生成される蒸留芳香族抽出物(DAE)であり得る。好ましくは、前述の蒸留芳香族抽出物は、少なくとも一つの更なる処理を行った蒸留芳香族抽出物である。適切には、前述の少なくとも一つの更なる処理は、水素化処理、水素化、深度水素化脱硫、粘土処理、酸処理、及び、更なる溶媒抽出からなる群より選択される。
【0028】
前述の芳香族抽出物は、ASTM D 2007により測定される芳香族化合物含有量が60乃至85重量%であり得る。
【0029】
前述の芳香族抽出物は、Concawe Product Dossier 92/101の“芳香族抽出物”に記載されているような特性を有し得る。
【0030】
前述の蒸留芳香族抽出物は、ASTM D 2887により測定される沸点が250乃至680℃の範囲であり得る。前述の蒸留芳香族抽出物は、ASTM D 445により測定される40℃での動粘度が5乃至18000mm
2/sの範囲であり得る。前述の蒸留芳香族抽出物は、ASTM D 445により測定される100℃での動粘度が3乃至60mm
2/sの範囲であり得る。前述の蒸留芳香族抽出物は、ASTM D 2887により測定される平均分子量が300乃至580の範囲であり得る。前述の蒸留芳香族抽出物は、ASTM D 2887により測定される炭素数がC
15乃至C
54の範囲であり得る。前述の蒸留芳香族抽出物は、ASTM D 2007により測定される芳香族化合物含量が65乃至85重量%の範囲であり得る。
【0031】
前述の残渣芳香族抽出物は、ASTM D 2887により測定される沸点が380℃超であり得る。前述の残渣芳香族抽出物は、ASTM D 445により測定される40℃での動粘度が4000mm
2/s超であり得る。前述の残渣芳香族抽出物は、ASTM D 445により測定される100℃での動粘度が60乃至330mm
2/sの範囲であり得る。前述の残渣芳香族抽出物は、ASTM D 2887により測定される平均分子量が400超であり得る。前述の残渣芳香族抽出物は、ASTM D 2887により測定される炭素数がC
25超であり得る。前述の残渣芳香族抽出物は、ASTM D 2007により測定される芳香族化合物含量が60乃至85重量%の範囲であり得る。
【0032】
芳香族抽出物は、そのうちの幾つかが発癌物質である多環芳香族化合物(PAC’s)を含んでいてもよい。ジメチルスルホキシド(DMSO)に抽出する原料の量(重量%)は、芳香族抽出物における許容されない物質(多環芳香族化合物を含む)の量の指標として用いられる。IP 346(石油学会の試験方法346)は、DMSO抽出物の重量%を決定するために用いられる方法である。3重量%超のジメチルスルホキシド抽出性多環芳香族化合物含量である芳香族抽出物は、発癌物質に分類され、健康、安全性及び環境危険を識別するために、権威において特定の記号及び危険な言い回しで標識化されることを必要とする。少なくともこのような理由で、前述の芳香族抽出物は、3重量%未満のジメチルスルホキシド抽出性多環芳香族化合物含量(低PCA抽出物)である。より好ましくは、前述の芳香族抽出物は、3重量%未満のジメチルスルホキシド抽出性多環芳香族化合物含量の残渣芳香族抽出物又は処理された蒸留芳香族抽出物である。
【0033】
好ましくは、前述の芳香族抽出物は、相当量のワックスを含まない。もし存在すれば、ワックスは、使用に際しデポジットとなり得るからである。
【0034】
少なくとも95重量%の飽和炭化水素を含む本発明のベースストックは、水素化処理されたベースストック、及び、フィッシャー・トロプシュ合成されたろう状パラフィン系炭化水素原料から得られるベースストックを含んでいてもよい。適切には、少なくとも95重量%の飽和炭化水素を含む本発明のベースストックは、水素化処理されたベースストック、又は、フィッシャー・トロプシュ合成されたろう状パラフィン系炭化水素原料から得られるベースストックを含んでいてもよい。
【0035】
前述の水素化処理されたベースストックは、好ましくは、API規格1509の“エンジンオイル認証システム(ENGINE OIL LICENSING AND CERTIFICATION SYSTEM)”(2004年11月、第15版、別表E)により定義されるようなグループ2ベースストック及び/又はグループ3ベースストックである。
【0036】
前述の少なくとも95重量%の飽和炭化水素を含むベースストックは、好ましくは、API規格1509の“エンジンオイル認証システム(ENGINE OIL LICENSING AND CERTIFICATION SYSTEM)”(2004年11月、第15版、別表E)により定義されるような少なくとも95重量%の飽和炭化水素を含んだグループ2ベースストック及び/又はグループ3ベースストックを含む。
【0037】
好ましくは、グループ2ベースストック又はグループ3ベースストックは、水素化処理、好ましくは、減圧蒸留物若しくは脱アスファルト化減圧残留物の水素化処理、又は、無公害燃料水素化分解装置からのボトム流れ(bottoms stream)の水素異性化により生成される水素化処理されたベースストックである。水素化処理によるベースストックの製造は、公知であり、例えば、例えば、「潤滑油基油及びワックスの加工(Lubricant base oil and wax processing)」(A. Sequeira、第119乃至152頁、pub. Marcel Dekker Inc. New York、1994年)に記載されている。
【0038】
前述の少なくとも95重量%の飽和炭化水素を含むベースストックは、1以上のポリ−α−オレフィンを含んでいてもよい。
【0039】
前述のフィッシャー・トロプシュ合成されたろう状パラフィン系炭化水素原料から得られるベースストックは、適切な公知のフィッシャー・トロプシュ工程からのベースストックの製造方法により製造され得る。フィッシャー・トロプシュ合成されたろう状パラフィン系炭化水素原料から得られるベースストックの用いることができる製造方法は、例えば、米国特許第4943672号明細書、欧州特許出願公開第0668342号明細書及び欧州特許出願公開第0776959号明細書に記載されており、これらの内容は、引用により本明細書中に組み込まれる。したがって、ベースストックは、(i)合成ガスを生成するステップ、(ii)合成ガスから炭化水素をフィッシャー・トロプシュ合成するステップ、(iii)炭化水素の水素化分解して、ろう状パラフィン残留物と共に、ナフサ及びディーゼル/灯油燃料工程流れを生成するステップ、及び、(iv)ろう状残留物を水素異性化して、ベースストックを生成するステップにより製造され得る。
【0040】
本発明の液体潤滑油基油組成物は、少なくとも95重量%の飽和炭化水素を含むベースストックと十分な芳香族抽出物を混合して、潤滑油基油組成物を生成することにより製造され得る。混合は、バッチ混合工程、又は連続混合工程で行うことができる。バッチ混合は、混合する成分を振盪及び/又は攪拌しながら、ベースストック及び芳香族抽出物を混合ケトルへ導入することにより行うことができる。連続混合は、インライン式ミキサーを用いてベースストックと芳香族抽出物を混合することができる。加熱は、混合時において、芳香族抽出物の処理を促進するのに必要であり得る。
【0041】
好ましくは、本発明の液体潤滑油基油組成物は、100℃で7乃至40cStの範囲の粘度である。
【0042】
本発明の液体潤滑油基油組成物は、特に、大型2サイクル船用ディーゼル機関シリンダー油、大型2サイクル船用ディーゼル機関システム油、又は、大型4サイクル船用ディーゼル機関クランク室潤滑組成物の製造に有用である。
【0043】
本発明の液体潤滑組成物は、本明細書で定義される液体潤滑油基油組成物と、洗浄剤、分散剤、耐摩耗添加剤、酸化防止剤、消泡剤、腐食抑制剤、流動点降下剤、摩擦調整剤、粘着付与剤、及び、粘度指数向上剤からなる群より選択される1以上の添加剤を含む。
【0044】
本発明の潤滑組成物における添加剤の濃度は、潤滑組成物が意図される使用に依存する。
【0045】
1以上の酸化防止剤が、潤滑組成物に0乃至1重量%の全濃度、通常は、0.5重量%未満の濃度含まれていてもよい。
【0046】
1以上の耐摩耗添加剤が、潤滑組成物に0乃至2重量%の全濃度、通常は、1重量%未満の濃度含まれていてもよい。
【0047】
1以上の高塩基性洗浄剤が、潤滑組成物に0乃至40重量%の全濃度含まれていてもよい。
【0048】
1以上の低塩基性洗浄剤が、潤滑組成物に0乃至10重量%の全濃度含まれていてもよい。
【0049】
1以上の中性洗浄剤が、潤滑組成物に0乃至2重量%の全濃度含まれていてもよい。
【0050】
1以上の分散剤が、潤滑組成物に0乃至10重量%の全濃度含まれていてもよい。
【0051】
1以上の消泡剤が、潤滑組成物に0乃至0.1重量%の全濃度含まれていてもよい。
【0052】
1以上の腐食抑制剤が、潤滑組成物に0乃至1重量%の全濃度含まれていてもよい。
【0053】
1以上の流動点降下剤が、潤滑組成物に0乃至1重量%の全濃度含まれていてもよい。
【0054】
1以上の摩擦調整剤が、潤滑組成物に0乃至5重量%の全濃度含まれていてもよい。
【0055】
1以上の粘着付与剤が、潤滑組成物に0乃至15重量%の全濃度含まれていてもよい。
【0056】
1以上の粘度指数向上剤が、潤滑組成物に0乃至20重量%の全濃度含まれていてもよい。
【0057】
添加剤の濃度の範囲は、互いに独立していてもよい。あるいは、このような濃度の範囲の組み合わせは、特に、潤滑組成物に用いることができる。
【0058】
本発明の液体潤滑組成物は、大型2サイクル船用ディーゼル機関シリンダー油、大型2サイクル船用ディーゼル機関システム油、又は、大型4サイクル船用ディーゼル機関クランク室潤滑組成物に用いることができる。
【0059】
本発明の潤滑組成物の添加剤の濃度の範囲を次の表2に示す。このような濃度の範囲は、互いに独立していてもよい。あるいは、このような濃度の範囲の組み合わせは、特に、潤滑組成物に用いることができる。
【実施例】
【0061】
本発明を、さまざまな量の芳香族抽出物での基油の性能のグラフを示す
図1を参照して実施例のみにより説明する。
【0062】
これらの実験では、少なくとも97重量%の飽和炭化水素を含むグループ2ベースストックである、水素化処理されたベースストックを用いた。芳香族抽出物は、Shell社により提供されている低PCAブライトストック抽出物(3重量%未満の多環芳香族化合物、ブライトストックフルフラール抽出物)であった。これらの成分の特性を次の表3に示す。
【0063】
【表3】
【0064】
ベースストック及び芳香族抽出物は、相当量のろう状物質を含んでいないことが示された。基油組成物を、芳香族抽出物(AE)とさまざまな量のグループ2ベースストックを混合することにより調製した。基油組成物の特性を次の表4に示す。
【0065】
【表4】
【0066】
さらに、基油を、グループ2ベースストック及び他の量の芳香族抽出物を用いて調製した。基油の酸化特性は、石油学会のIP48の方法で試験された。その結果を次の表5に示す。
【0067】
【表5】
【0068】
実験例Aは、芳香族抽出物を含まないので、本発明によるものではない。
【0069】
また、基油中のさまざまな濃度の芳香族抽出物での炭素の変化(Δ炭素)及び粘度比の結果を
図1に示す。
【0070】
Δ炭素及び粘度比の結果では、芳香族抽出物は、約12重量%までの濃度でΔ炭素を改良し、30重量%までの濃度で粘度比を改良することが示された。
【0071】
これらの結果では、少なくとも95重量%の飽和炭化水素を含んだベースストックを含む基油組成物において、0.2乃至30重量%の芳香族抽出物の存在による有益な効果が示された。
【0072】
重油を用いる船用大型4サイクル機関の使用に適した潤滑組成物を、サリチル酸塩リッチ添加剤パッケージ及びさまざまな量の芳香族抽出物を含む基油を用いて調製した。
【0073】
配合された潤滑組成物の特性を次の表6に示す。
【0074】
【表6】
【0075】
潤滑組成物の酸化特性を測定した。その結果を次の表7に示す。
【0076】
【表7】
【0077】
表7での結果において、12重量%及び24重量%の芳香族抽出物でのインハウス法(in−house method)による鋼鉄パネルを用いたパネルコーカー試験(Panel Coker Test)で、芳香族抽出物を用いた場合に、潤滑組成物の溶解性が改良されることが明らかとなった。
【0078】
カメロン・プリント試験(Cameron Plint test)を用いて、潤滑組成物の摩耗特性を測定した。その結果を次の表8に示す。
【0079】
【表8】
【0080】
摩耗特性を、良い摩耗性能及び悪い摩耗性能の潤滑組成物の対照と比較した。その結果、12重量%の芳香族抽出物を含む基油で、潤滑組成物における摩耗性能が例外的に良好であることが示された。しかしながら、基油中24重量%の高濃度の芳香族抽出物で、100%グループ2基油での組成物と比較して、摩耗性能においては、顕著な改善はみられなかった。このデータは、摩耗性能において、芳香族抽出物の最適濃度があることを示唆する。