(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5666144
(24)【登録日】2014年12月19日
(45)【発行日】2015年2月12日
(54)【発明の名称】加飾成形体
(51)【国際特許分類】
B44F 1/04 20060101AFI20150122BHJP
B44F 9/02 20060101ALI20150122BHJP
B44C 3/02 20060101ALI20150122BHJP
B32B 33/00 20060101ALI20150122BHJP
B32B 21/04 20060101ALI20150122BHJP
【FI】
B44F1/04
B44F9/02
B44C3/02 Z
B32B33/00
B32B21/04
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2010-4964(P2010-4964)
(22)【出願日】2010年1月13日
(65)【公開番号】特開2011-143583(P2011-143583A)
(43)【公開日】2011年7月28日
【審査請求日】2012年7月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003551
【氏名又は名称】株式会社東海理化電機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】岡内 諭
(72)【発明者】
【氏名】森 浩樹
(72)【発明者】
【氏名】長尾 慶
(72)【発明者】
【氏名】細川 英寿
【審査官】
大内 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−322223(JP,A)
【文献】
特開2001−232720(JP,A)
【文献】
特開平06−055900(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B44F 1/04, 9/02,
B44C 3/02,
B32B 21/04,33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
木製の被加飾体と、
前記被加飾体の表面に設けられ、光透過性を備えた透明層と、
前記透明層の表面に設けられ、木目柄の模様が施されると共に光透過性を備えた加飾層と、
を有し、前記透明層は、無色の第一透明層と、有色の第二透明層と、の二層構造であり、更に前記第一透明層は、前記第二透明層に比べて膜厚が厚く設定されてレンズ層としても機能している、加飾成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木製の被加飾体の表面側が加飾された加飾成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
加飾成形体においては、基板(被加飾体)の表面側に木目柄模様が印刷された構造が知られている(例えば、特許文献1参照)。このような構造では、例えば、基板の表面に隠蔽用の下塗り塗装部が形成されると共に、その表面に光沢層が形成され、さらその表面に木目柄模様部が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公昭61−29786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような構造では、加飾成形体に当る光が下塗り塗装部で反射するため、人工感が生じてしまい、見栄えの点で改善の余地がある。
【0005】
本発明は、上記事実を考慮して、木製生地の自然な風合いを活かして見栄えを向上させることができる加飾成形体を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載する本発明の加飾成形体は、木製の被加飾体と、前記被加飾体の表面に設けられ、光透過性を備えた透明層と、前記透明層の表面に設けられ、木目柄の模様が施されると共に光透過性を備えた加飾層と、を有し、前記透明層は、無色の第一透明層と、有色の第二透明層と、
の二層構造であり、更に前記第一透明層は、前記第二透明層に比べて膜厚が厚く設定されてレンズ層としても機能している。
【0007】
請求項1に記載する本発明の加飾成形体によれば、木製の被加飾体の表面には透明層が設けられ、透明層の表面には木目柄の模様が施された加飾層が設けられている。ここで、透明層及び加飾層は、いずれも光透過性を備えている。このため、加飾成形体に当る光は、加飾層を透過した後に透明層を透過して木製の被加飾体の表面に当って反射し、反射した光は、透明層を透過した後に加飾層を透過する。これによって、加飾層による木目柄の模様が視認されるだけでなく、被加飾体による自然な風合いが視認されて活かされると共に、透明層を介した被加飾体の表面と加飾層の模様との距離感(遠近感)により奥行き感が得られる。
【0009】
また、この加飾成形体によれば、透明層が無色の第一透明層と有色の第二透明層と
の二層構造であるので、加飾成形体に当る光は、加飾層を透過した後、第一透明層及び第二透明層を透過して木製の被加飾体の表面に当って反射し、反射した光は、第一透明層及び第二透明層を透過した後、加飾層を透過する。このため、第一透明層及び第二透明層によって奥行き感が得られると共に、有色の第二透明層によって所望の色合いが確保される。
更に第一透明層は、第二透明層に比べて膜厚が厚く設定されてレンズ層としても機能している。この第一透明層によって、被加飾体の表面の生地木目が虚像として結像され、生地木目が部分的に拡大されたりぼかされたりする。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように、本発明に係る請求項1に記載の加飾成形体によれば、木製生地の自然な風合いを活かして見栄えを向上させることができるという優れた効果を有する。
【0011】
また、この加飾成形体によれば、所望の色合いを確保することで見栄えをさらに向上させることができるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る加飾成形体の構成を示す断面図である(
図2の1−1線に沿った拡大断面図に相当する。)。
【
図2】本発明の一実施形態に係る加飾成形体を示す斜視図である。
【
図3】加飾成形体が適用可能なウッド部材を備えたステアリングホイールの正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(実施形態の構成)
本発明の一実施形態に係る加飾成形体について
図1及び
図2を用いて説明する。
【0014】
図1には、本発明の一実施形態に係る加飾成形体10の構成が断面図にて示されている。また、
図2には、加飾成形体10が斜視図にて示されている。
【0015】
加飾成形体10は、
図2の1−1線に沿った拡大断面図に相当する
図1に示されるように、木製の被加飾体12を備えている。被加飾体12は、加工性が良好で加工後の物性も良好な木材料により形成されることが好ましいが、意匠性は低いものでよく、安価な天然木を適用することができる。被加飾体12の形状は、加飾成形体10の形状と概ね同じ形状(厳密には極僅かに小さい略相似形)に形成されている。また、被加飾体12の表面12Aは、木材素地の生地面とされて木目を視認できる状態とされている。
【0016】
このような被加飾体12の表面12Aには、光透過性を備えた透明層14が設けられている。この透明層14は、被加飾体12の表面12A側で光沢(光の反射による表面の輝き、所謂「てかり」)を付与しており、無色の第一透明層16及び有色の第二透明層18で構成されている。
【0017】
第一透明層16は、被加飾体12の表面12A上に被覆された厚膜のクリア層である。第一透明層16の膜厚は、被加飾体12の表面12Aの木目や色合いをぼかさずに透過させる観点から、30μm〜150μmが好ましく、本実施形態では、被加飾体12の表面12Aにおける微細な凹凸(換言すれば平滑化の精度)を考慮して100μmとしている。また、第一透明層16は、レンズ層としても機能している。すなわち、第一透明層16によって、被加飾体12の表面12Aの生地木目が虚像として結像されることで前記生地木目が部分的に拡大されたりぼかされたりする構造(レンズ効果が得られる構造)になっている。
【0018】
第二透明層18は、第一透明層16の表面16A上に被覆されており、本実施形態では、第一透明層16に比べて膜厚が薄く設定されている。第二透明層18の色は、被加飾体12の色を考慮しつつ、高級な天然木を用いた木製品の色合いに合わせて設定されている。このような第二透明層18が設けられることで、被加飾体12の表面12A側に高級な色沢が付与される構造となっている。
【0019】
第二透明層18の表面18A(透明層14の表面14A)には、光透過性を備えた加飾層20が設けられている。加飾層20は、インク部22によって木目柄の模様(杢柄要素)が施されている。インク部22は、部位によって光の透過率が異なっており、薄い部分では光を透過するが、濃い部分では光を透過させない(又は殆ど透過させない)ようになっている。また、インク部22は、図示しない転写シートを第二透明層18の表面18Aに密着させて加熱することによって第二透明層18の表面18Aに転写されたものであり、一部にパール色等の光輝性顔料が含まれている。なお、例えば、特開2007−168121等に開示された公知の転写技術を用いることで、曲面部への転写や曲面部での位置合わせが良好になされる。
【0020】
また、インク部22により施された木目柄の模様は、装飾性が高い天然木の杢柄(例えば、バーズアイメープル(鳥眼杢)やフェザー等の高級で美しい紋様)に近似した模様に設定されている。すなわち、木目柄の模様は、天然の杢柄(紋様)が木材の組成上どのように配置されかつ構成されているのかを検討したうえで設定されたものであり、高級な天然木の杢柄として見ても違和感のない杢柄となっている。
【0021】
インク部22間の隙間及びインク部22の表面側には、無色で透明な保護部24が設けられている。保護部24は、インク部22を保護する機能を備えると共に、光沢を付与する機能を備えている。
【0022】
本実施形態では、インク部22と保護部24とで、第二透明層18の表面18A(透明層14の表面14A)を被覆する加飾層20が形成されている。また、加飾層20及び透明層14(第一透明層16、第二透明層18)を介して被加飾体12の表面12Aを視認できるように、加飾層20及び透明層14の厚さや光透過率が設定されている。
【0023】
(実施形態の作用・効果)
次に、上記実施形態の作用及び効果について説明する。
【0024】
木製の被加飾体12の表面12Aには透明層14として無色の第一透明層16と有色の第二透明層18とが設けられ、透明層14の表面14A(第二透明層18の表面18A)にはインク部22により木目柄の模様が施された加飾層20が設けられている。ここで、第一透明層16、第二透明層18及び加飾層20は、いずれも光透過性を備えているので、加飾成形体10に当る光の一部(L3、L4参照)は、加飾層20、第二透明層18及び第一透明層16をこの順で透過して木製の被加飾体12の表面12Aに当って反射し、反射した光は、第一透明層16、第二透明層18及び加飾層20をこの順で透過する。
【0025】
これによって、加飾層20による木目柄の模様が視認されるだけでなく、被加飾体12による自然な風合い(木目や生地発色)が視認されて活かされると共に、有色の第二透明層18によって所望の色合いが確保され、さらに透明層14を介した被加飾体12の表面12A(生地木目)と加飾層20のインク部22(加飾柄)との距離感(遠近感)により奥行き感が得られる。また、透明層14(主として厚膜の第一透明層16)によって、被加飾体12の表面12Aの生地木目が虚像として結像されることで前記生地木目が部分的に拡大されたり、ぼかされたりしている。これにより、前記距離感が部位によって異なるように見える。また、加飾成形体10は、第一透明層16、第二透明層18及び加飾層20の保護部24で光沢を出しながら、インク部22によって光の非透過部分を設けることでアクセントをつけて(単調でない変化を表現して)奥行き感を高めている。
【0026】
さらに、加飾成形体10に当る光(L1〜L4参照)は、様々な積層位置で反射して視覚(目40)により捉えられる。すなわち、加飾層20における保護部24の表面24A(トップクリア表層)で反射した光L1、加飾層20におけるインク部22で反射した光L2、加飾層20におけるインク部22を通過して被加飾体12の表面12A(生地面)で反射した光L3、及び、加飾層20におけるインク部22を通過しないで被加飾体12の表面12A(生地面)で反射した光L4等の様々な反射光が視覚(目40)により捉えられる。これらの反射光によって、加飾層20におけるインク部22の木目柄の模様(人工の加飾柄)の違和感が緩和(低減)されており、これらの総合的な作用によって奥行きのある本物感が表現されている。
【0027】
補足説明すると、天然木材においては、切削や研磨によって木材表面に現れる導管や繊維の断面が、見る角度によって異なる発色や陰影を作っており、樹種や部位による特徴的な組織や沈着物質等が独特の見栄えを形成している。そして、それらの見栄えが特に特徴的で意匠的な価値の高いものは、杢と呼ばれる。ここで、自然な発色や木目の流れは天然木材面には一様に見られるが、例えば、木製の被加飾体の表面生地を完全に隠蔽した対比構造では、自然な風合いが活かされず、見栄え(外観品質)が良くない。これに対して、本実施形態に係る加飾成形体10は、被加飾体12の表面12Aの木目模様を透過させて自然な風合いを活かした見栄えを実現している。すなわち、加飾成形体10では、被加飾体12の表面12Aの生地の木目や発色によって加飾層20におけるインク部22の木目柄の模様(人工の加飾柄)の違和感が緩和(低減)され、言わば前記杢の見え方を再現したような効果が得られる。
【0028】
以上説明したように、本実施形態に係る加飾成形体10によれば、木製生地の自然な風合いを活かして見栄え(外観品質)を向上させることができる。
【0029】
また、本実施形態に係る加飾成形体10は、安価かつ加工性の良好な天然木を利用できるので、低コスト化が可能なうえ加工も容易である。すなわち、美しい杢を有する天然木材は、希少であって非常に高価なうえに特徴的な模様を残しながら加工するのも難しいが、本実施形態に係る加飾成形体10では、このような課題を解消することができる。その結果として、貴重な木材資源を乱伐することなく、要求される意匠仕様を満足させる素材の供給が低コストで可能になる。
【0030】
(実施形態の補足説明)
なお、加飾成形体10の形状は、
図2に示されるような円柱形状に限定されない。例えば、加飾成形体は、
図3に示される車両用のステアリングホイール30において上部及び下部に配設されてリム芯金部32を被覆する装飾用のウッド部材34、36として適用されてもよく、このようなウッド部材34、36の形状に形成されてもよい。また、加飾成形体は、ステアリングホイール30のウッド部材34、36や図示しないシフトレバー等の自動車の内装部材だけでなく高級家具や家電、ホテルの内装部材等に適用される種々の木製品に適用されて当該木製品の形状に形成されたものであってもよい。
【0031】
また、上記実施形態では、
図1に示されるように、無色の第一透明層16が被加飾体12の表面12A上に設けられ、有色の第二透明層18が第一透明層16の表面16A上に設けられているが、例えば、有色の第二透明層が被加飾体の表面上に設けられ、無色の第一透明層が第二透明層の表面上に設けられてもよい。
【0032】
また、上記実施形態では、透明層14が無色の第一透明層16と有色の第二透明層18とで構成されているが、
本発明の実施形態ではない参考例として、透明層は、被加飾体の種類によっては、無色の透明層のみ又は有色の透明層のみで構成された透明層であってもよい。
【符号の説明】
【0033】
10 加飾成形体
12 被加飾体
14 透明層
16 第一透明層
18 第二透明層
20 加飾層