(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0017】
図1は、本実施形態に係る硫酸銅回収装置の一例を示す概略構成図である。
図1に示す硫酸銅回収装置1は、逆浸透膜分離装置(以下、RO膜分離装置とする)10、不純物析出反応槽12、固液分離槽14(固液分離手段)、キレート樹脂が充填されたカートリッジ16(銅吸着手段)、蒸発濃縮装置18、を備える。
【0018】
RO膜分離装置10、RO膜分離装置10と不純物析出反応槽12との間、不純物析出反応槽12と固液分離槽14との間、固液分離槽14とカートリッジ16との間、及びカートリッジ16には、それぞれ配管20a〜20eが接続されている。また、不純物析出反応槽12には、pH調整剤添加ライン22が接続され、カートリッジ16には硫酸添加ライン24が接続されている。また、配管20eには廃液中の銅濃度又は銅濃度と硫酸濃度を検出するセンサ30が設置されている。カートリッジ16と蒸発濃縮装置18の間には、脱着液ライン26aが接続されている。脱着液ライン26aには、脱着液中の銅濃度又は銅濃度と硫酸濃度を検出するセンサ32が接続されている。脱着液ライン26aは、センサ32と蒸発濃縮装置18との間で、硫酸銅回収ライン26bと廃液ライン27に分岐される。
【0019】
本実施形態において、不純物析出手段は、不純物析出反応槽12及びpH調整剤添加ライン22により構成されているが、硫酸銅廃液のpHを3.5〜5.0の範囲に調整して、硫酸銅廃液中の不純物を析出させることができる構成であれば、これに制限されるものではない。また、本実施形態において、硫酸銅回収手段は、カートリッジ16と硫酸添加ライン24、脱着液ライン26a、硫酸銅回収ライン26b及び廃液ライン27とにより構成されているが、銅を吸着したキレート樹脂に硫酸を通液させ、硫酸銅を回収することができる構成であれば、これに制限されるものではない。
【0020】
以下に、本実施形態の硫酸銅回収装置1の動作について説明する。
【0021】
電解精製、銅箔製造、銅めっき等の工程等から排出される不純物を含む硫酸銅廃液は、配管20aを通り、RO膜分離装置10に送液され、RO膜分離装置10により、濃縮処理が行われる。金属イオンは平衡吸着によってキレート樹脂に吸着するので、溶液中の金属イオンの濃度が高い方が、吸着には有利である。同じ樹脂量であれば、溶液中の金属イオン濃度が高い方が吸着する金属イオンの量は多くなる。同じ量の金属を吸着させる場合、溶液中の金属イオン濃度が低いと、金属イオン濃度が高い場合よりも多くの樹脂を必要とする。本実施形態では、RO膜分離装置10を必ずしも設置する必要はないが、硫酸銅を濃縮し、後段の処理時間の短縮、処理効率の向上と共に、カートリッジ16内のキレート樹脂の充填量を低減させることができる点で、RO膜分離装置10を設置することが好ましい。
【0022】
RO膜処理が行われた硫酸銅廃液は、配管20bを通り、不純物析出反応槽12に送液される。また、pH調整剤添加ライン22からpH調整剤が不純物析出反応槽12に添加され、槽内の硫酸銅廃液のpHが調整される。ここで、電解精製、銅箔製造、銅めっき等の工程等から排出される硫酸銅廃液には、多くの場合、鉄イオンが不純物として含まれている。鉄イオン(以下、単に鉄と記載する場合がある)は銅イオン(以下、単に銅と記載する場合がある)と同様に、後段に設置したカートリッジ16内のキレート樹脂に吸着され易いため、キレート樹脂により、硫酸銅廃液中の銅イオンと鉄イオンとを分離することは困難である。
【0023】
図2は、廃液中のpHと銅イオン及び鉄イオン濃度との関係を示す図である。
図2に示すように、廃液中のpHが3.5以上であると、鉄イオンは廃液中に溶解できずほとんど析出される。一方、銅イオンは廃液中のpHが3.5〜5の範囲では、溶液中に溶解しており、ほとんど析出されない。そこで、本実施形態では、硫酸銅廃液にpH調整剤を添加して、pHを3.5〜5.0の範囲、好ましくは3.5〜4.5の範囲に調整することにより、主に廃液中の鉄(その他の重金属等)を析出させることができる(不純物析出工程)。そして、廃液は配管20cを通り、固液分離槽14に送液され、固液分離槽14内で廃液から析出した鉄等の不純物が分離される(不純物分離工程)。析出した鉄等の不純物は、系外へ排出される。
【0024】
pH調整剤により調整される硫酸銅廃液中のpHが3.5未満であると、鉄等の不純物を析出させることができないばかりか、後段のキレート樹脂の吸着性能が低下し、硫酸銅廃液中の銅イオンの吸着量が低下する。また、硫酸銅廃液中のpHが5を超えると、銅が水酸化物として沈殿するため、硫酸銅として回収できなくなる。このように、本実施形態では、鉄等の不純物を分離し、銅の沈殿を抑制し、キレートの吸着量を十分に確保することができる等の点で、硫酸銅廃液のpHを3.5〜5.0の範囲に調整する。
【0025】
pH調整剤は、後段に設置されるカートリッジ16内のキレート樹脂に吸着し難いものが好ましく、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ剤が使用される。
【0026】
固液分離槽14による固液分離方式には、自然沈殿、凝集沈殿またはろ過法等、特に制限されるものではないが、中でも薬品を使用せず、高速に処理が行えるろ過法が好ましい。
【0027】
次に、固液分離槽14により不純物が除去された硫酸銅廃液は、配管20dを通り、カートリッジ16に送液される。そして、硫酸銅廃液中の銅イオンはカートリッジ16に充填されたキレート樹脂により吸着され(銅吸着工程)、廃液が配管20eを通り系外へ排出される。
【0028】
通常、キレート樹脂は、金属イオンの吸着効率を高めるため、イオン交換基の一部をNa形に変換して使用する。そのためキレート樹脂はNa形で市販されている。しかし、回収あるいは再利用を目的として吸着した金属を脱着しようとすれば、強酸を通液する必要があり、このときキレート樹脂はH形に変換してしまう。従って同じキレート樹脂を再利用するためには、再度Na形に戻す必要が生じる。キレート樹脂をNa形に戻すには水酸化ナトリウムなどの変換剤による通液に加え、変換剤の洗浄除去などの工程も付加しなければならず、工程が複雑になり、使用水量も膨大となる。
【0029】
しかし、鉄等の不純物を分離するために事前にpH調整剤を添加し、pHを3.5〜5.0の範囲に調整することによって、H形のキレート樹脂でもNa形と同等の吸着効率が得られるようになることが、本発明者らの検討により明らかとなった。したがって、本実施形態では、H形のキレート樹脂を用いることが可能となる。これにより、Na形のキレート樹脂を用いた場合より、工程の短縮および使用水量ならびに排水量を低減することができる。また、本実施形態では、上記でも説明したように、pH3.5〜5.0の硫酸銅廃液を通液するため、銅の沈殿を抑制するとともに、H形のキレート樹脂でも、銅の吸着量を十分に確保することができる。
【0030】
カートリッジ16にNa形のキレート樹脂が充填される場合、上記のようにpH調整し、沈殿を除去した廃液を直接通液しても銅の吸着に問題はないが、脱着回収した硫酸銅溶液中にナトリウムが混入する場合がある。ナトリウムの混入を避けるには、Na形のキレート樹脂は、使用する前に、酸を通液して、H形キレート樹脂に変換させる必要がある。
【0031】
本実施形態のH形キレート樹脂は、銅イオンを吸着することができるものであれば特に制限されるものではないが、銅イオンに対して高い選択性を有する点で、H形キレート樹脂は、イミノジ酢酸基、アミノリン酸基、ポリアミン基、ビスピコリルアミン基、アミドオキシム基のいずれかの官能基を有することが好ましい。
【0032】
キレート樹脂が充填されたカートリッジ16に硫酸銅廃液を通液する際のSVは1〜20L/L−R・hの範囲(本明細書中のRは樹脂の略)が好ましく、2〜10L/L−R・hの範囲がより好ましい。SVが1L/L−R・hより低い場合は、一定の処理量を得ようとすれば、樹脂カラムを大きくして通液量を確保する必要があり、自ずとキレート樹脂量を多くする必要があるため経済性が低くなる。20L/L−R・hより高い場合は、キレート樹脂の吸着性能を十分に発揮できない場合がある。
【0033】
図3は、キレート樹脂に通液する銅の負荷量と銅の吸着率との関係を示す図である。この図は、IRC748(ロームアンドハース社)の吸着曲線を示しているが、他のキレート樹脂も同様の傾向にある。なお、ここでいう吸着率は、次式により定義されるものである。
吸着率(%)=[(Qin−Qout)/Qin]×100(%)
Qin:キレート樹脂1Lあたりに通液した銅の負荷量(g−Cu/L−R)
Qout:キレート樹脂1Lあたりの銅の漏出量(g−Cu/L−R)
【0034】
図3に示すように、キレート樹脂に通液する銅の負荷量は、10〜60g−Cu/L−R(樹脂1Lあたりの銅の負荷量)の範囲が好ましく、10〜40g−Cu/L−Rの範囲がより好ましい。銅の負荷量が10g−Cu/L−Rより低い場合は、樹脂中の吸着部位が未吸着のまま過剰に残存することとなり経済性が低下し、60g−Cu/L−Rより高い場合は、銅が吸着した吸着部位の割合が増えるため、銅イオンが平衡吸着される量が減り、系外へ排出される銅イオン量が増加し、最終的な硫酸銅の回収率が低下する。
【0035】
吸着時の温度は特に管理される項目ではないが、70℃以下とすることが好ましい。また、カートリッジ16に流入する廃液中の銅濃度が変動する場合、配管20eに設置したセンサ30により、カートリッジ16から排出される廃液中の銅イオン濃度を測定し、その値が所定値に達した時に、銅吸着工程を終了する。これにより、安定した銅吸着工程を実施することが可能となる。なお、銅イオン濃度を検出するセンサ30には吸光光度計等を用いることができるが、硫酸銅メッキ液用分析計が特に好適に用いられる。
【0036】
次に、吸着工程を終了した後(すなわち、硫酸銅廃液の送液を停止した後)、硫酸添加ライン24から硫酸をカートリッジ16内に添加する。これにより、キレート樹脂から銅イオンが脱着され、硫酸銅溶液として脱着液ライン26aから排出される(硫酸銅回収工程)。排出された硫酸銅溶液は、必要に応じて硫酸銅回収ライン26bを通じて蒸発濃縮装置18に送られ、濃縮あるいは固形化の後、排出される。回収された硫酸銅溶液は、保管スペースを低減できる点で、蒸発濃縮装置18により、濃縮あるいは固形化されることが好ましい。
【0037】
キレート樹脂が充填されたカートリッジ16に硫酸を通液する際のSVは、0.5〜10L/L−R・hの範囲が好ましく、1〜4L/L−R・hの範囲がより好ましい。SVが0.5L/L−R・hより低い場合は、銅イオンの脱着時間が長くなるため効率が悪くなり、SVが10L/L−R・hより高い場合は、回収する銅濃度が低下する場合がある。脱着時の温度は特に管理される項目ではないが、70℃以下とすることが好ましい。
【0038】
硫酸を通液後、カートリッジ16内の銅全量を回収してもよいが、硫酸通液初期は、低濃度の硫酸銅しか回収することができない。また、硫酸銅廃液中に含まれる不純物には、上記pH調整により析出し難いニッケルイオン等の不純物が存在する場合があり、カートリッジ16内のキレート樹脂に銅イオンと共にニッケルイオン(以下、単にニッケルと記載する場合がある)が吸着される虞がある。そして、このようなニッケルイオンは、硫酸を通液することにより、キレート樹脂から脱着されるため、カートリッジ16内の銅全量を回収しようとすると、ニッケルイオンが不純物として混入する場合がある。そこで、純度の高い硫酸銅を効率的に回収するために、本実施形態では、以下の条件を採用することが好ましい。
【0039】
まず、通液する硫酸濃度は0.5〜20wt%の範囲が好ましく、1〜10wt%の範囲がより好ましい。硫酸濃度が0.5wt%より低い場合は、銅の脱着効率が低下し、20wt%より高い場合は、不純物として吸着したニッケルを銅と分離回収することが困難であるとともに、回収した銅に対する硫酸の比率が高くなり、再利用する際の利便性が低下する虞がある。また、後段で蒸発濃縮を設ける場合、硫酸比率が高いと沸点上昇が顕著となり、硫酸銅を固形物として回収することが困難となる。
【0040】
次に、カートリッジ16に供給する硫酸の供給量は、100〜300g−H
2SO
4/L−R(樹脂1Lあたりに供給する硫酸量(g))の範囲が好ましく、100〜200g−H
2SO
4/L−Rの範囲がより好ましい。硫酸の供給量が100g−H
2SO
4/L−Rより低い場合は、銅の回収率が低下し、300g−H
2SO
4/L−Rより高い場合は、硫酸を過剰に使用することになり、経済性が低下する虞がある。
【0041】
一般に、硫酸通液初期(硫酸供給量が低い領域)では銅濃度が低く、不純物であるニッケル濃度が高くなり、硫酸通液後期(硫酸供給量が高い領域)では銅の濃度が低下し硫酸の濃度が高くなるため、回収される硫酸銅における硫酸比率が高くなってしまう。そこで、本実施形態では、硫酸供給量が50g−H
2SO
4/Lに達した時点から硫酸銅の回収を開始し、好ましくは250g−H
2SO
4/L−Rに達した時点、より好ましくは180g−H
2SO
4/L−Rに達した時点で回収を終了すれば、ニッケルイオン等の不純物の混入を抑制し、また、硫酸銅溶液の銅の純度および濃度を高めることができるとともに、硫酸と銅のモル比を硫酸銅の比率である1に近づけることができる。なお、硫酸供給量が50g−H
2SO
4/L未満の時、及び250g−H
2SO
4/L−Rを超えた時には、その時の廃液を配管20eから系外へ排出するか、脱着液ライン26aから廃液ライン27を通じて系外へ排出することが好ましい。
【0042】
上記のように、回収する硫酸銅溶液を通液する硫酸量によって決定してもよいが、ライン20eに設置したセンサ30又は脱着液ライン26aに設置したセンサ32により、硫酸銅溶液の硫酸濃度及び銅濃度を分析し、硫酸濃度と銅濃度との比が、所定の範囲内の硫酸銅溶液を回収する方法がよい。具体的には、硫酸濃度に対する銅濃度のモル比が0.5倍〜2倍の範囲を所定範囲として設定することが好ましい。硫酸濃度が既知の場合には、銅濃度のみを測定し、銅濃度が所定範囲内の硫酸銅溶液を回収してもよい。硫酸濃度と銅濃度との比が所定の範囲の硫酸銅溶液を、硫酸銅回収ライン26bを通じて蒸発濃縮装置18に回収し、所定の範囲外の溶液は廃液ライン27より排出してもよい。銅濃度を分析するセンサには吸光光度計等が好適であり、硫酸濃度を分析するセンサには導電率計や密度計等が好適であるが、硫酸銅メッキ液用分析計が特に好適に用いられる。
【0043】
硫酸銅廃液の通液によるキレート樹脂への銅イオンの吸着、及び硫酸の通液による硫酸銅溶液の回収は、複数回繰返し実施してもよい。また、銅イオンの吸着後には、回収する硫酸銅溶液に不純物が混入しないように、カートリッジ16内に洗浄液を通液して、カートリッジ16内のキレート樹脂を洗浄する洗浄工程を導入することが好ましい。この洗浄工程で使用する洗浄液は工水、市水、純水の他、後段に設置した蒸発濃縮装置18から排出される凝縮水等を用いることができる。凝縮水を用いれば、水の使用量を低減することができる点で、凝縮水を使用することが好ましい。洗浄液を通液する際のSVは0.5〜10L/L−R・hの範囲が好ましく、1〜5L/L−R・hの範囲がより好ましい。また、処理倍量は1〜20L/L−Rの範囲が好ましく、2〜5L/L−Rの範囲がより好ましい。
【0044】
また、硫酸銅回収後にキレート樹脂を再使用する場合にも、硫酸通液によるpH低下により、次の銅イオンの吸着が阻害されないように洗浄工程を導入することが好ましい。洗浄液としては、上記例示した洗浄液が好ましい。洗浄液を通液する際のSVは0.5〜10L/L−R・hの範囲が好ましく、1〜5L/L−R・hの範囲がより好ましい。また、処理倍量は1〜20L/L−Rの範囲が好ましく、2〜5L/L−Rの範囲がより好ましい。
【実施例】
【0045】
以下、実施例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0046】
(実施例1−1)
硫酸銅を主成分とする廃液に水酸化ナトリウム(濃度25%)を添加し、pHを4とした。その後、この廃液をろ過器(日本フィルター)に通液し固形物を分離した。表1に硫酸銅廃液の組成と、pH調整及びろ過した硫酸銅廃液の組成をまとめた。
【0047】
【表1】
【0048】
表1から判るように、pH調整剤を適切に添加することで、銅を低減させることなく、不純物であるとともに後段のキレート樹脂に吸着されやすい鉄を十分に低減させることができた。
【0049】
(実施例1−2)
実施例1−1で得られた廃液をキレート樹脂に通液し、銅イオンの吸着処理を行った。キレート樹脂には、ロームアンドハース社製のIRC748(0.3L:Na形)を用いた。このキレート樹脂は硫酸によりH形に変換し、純水で洗浄した後に使用した。通液時のSVを5L/L−R・h(Na形樹脂の基準SV)とし、処理倍量を10.5L/L−Rとして、吸着処理を行った(通液量は3.15Lである)。このキレート樹脂はイミノジ酢酸基を官能基として有し、pHが4.5のときの銅の吸着量のカタログ値は≧0.5mol(32g)/L−R(Na形)である。
【0050】
前記廃液をキレート樹脂に通液し、2.85L通液した時点から3.15L通液した時点まで(処理倍量9.5L/L−Rから10.5L/L−R)の0.3Lを、樹脂出口で採取した。採取したサンプルの金属イオンの濃度を調べ、結果を表2にまとめた。銅及びニッケル濃度はICP発光法により、ナトリウム濃度は原子吸光法により測定した。表2から判るように、キレート樹脂入口に含まれていた銅は、キレート樹脂通液後に大幅に低減されており、キレート樹脂に吸着されたことがわかった。一方、主たる不純物であるニッケルとナトリウムはキレート樹脂に吸着され難いことがわかった。
【0051】
【表2】
【0052】
次に、キレート樹脂層内を純水で洗浄した。洗浄時のSVは4L/L−R・h、処理倍量は2L/L−Rとした。その後、5wt%硫酸をキレート樹脂に通液し、吸着した銅を脱着した。硫酸通液のSVは2L/L−R・hとした。硫酸供給量0g、36g、45g、54g、62g、71g、89g、107g、116g、125g、134g、142g、161gの間のフラクションを採取し(処理倍量としてはそれぞれ0、0.67、0.83、1.0、1.17、1.3、1.67、2.0、2.2、2.3、2.5、2.67、3.0L/L−Rである)、銅、ニッケル、硫酸の濃度を調べた。銅およびニッケル濃度はICP発光法により、硫酸濃度はキャピラリ電気泳動法により、それぞれ測定した。結果を
図4に示す。
図4から明らかなように、硫酸通液初期にはニッケルが一つのピークとなって脱着し、次いで銅の脱着が始まった。硫酸通液の中期を通じ、銅は効率的に脱着され、フラクション中の銅の濃度は高く保たれた。次いで硫酸通液の後期には、吸着していた銅の大部分が脱着したため、フラクション中の銅濃度は低下した。
【0053】
硫酸の供給量が0〜62g/L−Rの範囲を硫酸通液初期、硫酸の供給量が62〜125g/L−Rの範囲を硫酸通液中期、硫酸供給量が125〜161g/L−Rの範囲を硫酸通液後期として該当するフラクションを回収した。硫酸通液初期の処理倍量は1.17L/L−R(回収容積0.35L)、硫酸通液中期の処理倍量は1.17L/L−R(回収容積0.35L)、硫酸通液後期の処理倍量は0.5L/L−R(回収容積0.15L)であった。初期、中期、後期の各画分の組成を表3にまとめた。
【0054】
【表3】
【0055】
硫酸通液後に回収される硫酸銅溶液の全量を回収してもよいが、表3から判るように、硫酸通液中期にだけ回収することにより、初期、中期、後期に回収された銅の合計と比較すると、銅の回収量は低減するものの、ニッケル等の不純物の混入を抑制することができる。また、硫酸通液中期では、銅と硫酸のモル比が1に近づいた。このような硫酸銅溶液は、後段で蒸発濃縮するのに適している。
【0056】
(実施例2)
銅濃度の異なる2種類の硫酸銅廃液をキレート樹脂に通液した。本実施例でキレート樹脂に吸着させた硫酸銅廃液は、実施例1−1で得られたものと基本的には同じであるが、実施例2−1では、廃液中の銅濃度は2500ppmであり、実施例2−2では廃液中の銅濃度は4000ppmであった。キレート樹脂の前処理、硫酸銅廃液のSVは実施例1−2と同様とし、処理倍量は10L/L−Rとした。
【0057】
キレート樹脂の出口にインライン型の吸光光度計(笠原理化工業株式会社製のCU−502)を設置した。硫酸銅廃液の通液を開始すると同時に、樹脂出口の銅濃度を吸光光度計により測定した。表4に、実施例2−1及び2−2の、処理倍量10L/L−Rを通液した時点でのキレート樹脂出口の銅濃度及び該処理倍量を通液した場合の銅イオンの吸着率をまとめた。吸着率は以下のようにして算出した。まず、吸光光度計CU−502により測定したキレート樹脂出口の銅濃度を、通液開始時から10L/L−R処理した時点まで積分し、通液時に漏出した銅の量を算出した。次いでキレート樹脂にSV4L/L−R・hで2L/L−Rの純水を通液して洗浄し、洗浄液中の銅濃度を積分し、洗浄によって漏出した銅の量を算出した。通液時および洗浄時に漏出した銅の量を、漏出した銅の総量とした。負荷した銅の総量から漏出した銅の総量を減じ、これを負荷した銅の総量で除して、吸着率(100分率)を求めた。
【0058】
【表4】
【0059】
表4から判るように、キレート樹脂入口の銅濃度が高い場合、前記処理倍量10L/L−Rを通液した時点でのキレート樹脂出口の銅濃度は大幅に増加した。すなわち、
図3から予測されるように、キレート樹脂入口の銅濃度が高い場合には、少ない液量でも、キレート樹脂中の吸着部位の多くに銅が吸着してしまうことにより、それ以上の銅を吸着し難くなり、処理倍量10を通液した時点では、吸着されずに漏出する銅の量が増えるため、結果として銅の吸着率が低下した。一方、銅濃度が低い場合には、同じ処理倍量10を通液した時点でも、キレート樹脂の吸着部位にまだゆとりがあり、吸着率は高いまま保たれる。この結果より、キレート樹脂出口の銅濃度を監視せずに通液すると、処理する廃液中の銅濃度によっては、漏出する銅の量が多くなり、銅の回収率が低下することが予見される。
【0060】
(実施例3)
銅濃度の異なる2種類の硫酸銅廃液をキレート樹脂に通液した。本実施例でキレート樹脂に吸着させた硫酸銅廃液は、実施例1−1で得られたものと基本的には同じであるが、実施例3−1では、キレート樹脂入口の廃液中の銅濃度は2500ppmであり、実施例3−2ではキレート樹脂入口の廃液中の銅濃度は4000ppmであった。キレート樹脂の前処理、硫酸銅廃液のSV及び処理倍量は実施例2と同様とした。そして、キレート樹脂出口にインライン型の吸光光度計(笠原理化工業株式会社製のCU−502)を設置して銅濃度を監視し、キレート樹脂出口の銅濃度が50mg/Lに達した時点で、廃液の通液を停止した。表5に、実施例3−1及び3−2のキレート樹脂の銅イオン吸着率をまとめた。吸着率は、硫酸銅廃液の通液を開始した時点から通液を停止した時点までの銅の漏出量および洗浄時に漏出した銅の量を積分して、実施例2と同様にして算出した。
【0061】
【表5】
【0062】
表5から判るように、キレート樹脂の出口で銅濃度を監視して、出口の濃度が適正になった時点で、通液を停止することにより、キレート樹脂入口の銅濃度に依らず、キレート樹脂は高い吸着率を維持した。このように、キレート樹脂入口の銅濃度が変動する場合には、キレート樹脂出口の銅濃度を分析することで、吸着率を高く保つことができることがわかった。
【0063】
(実施例4)
キレート樹脂に吸着した銅の量が異なる場合に、脱着する銅の濃度と回収率にどのような差が生じるかを調べた。本実施例でキレート樹脂に吸着させた硫酸銅廃液は、実施例1−1で得られたものと基本的には同じであるが、実施例4−1では、廃液中の銅濃度は2500ppmであり、実施例4−2では廃液中の銅濃度は4000ppmであった。同じ処理倍量の硫酸銅廃液を通液した場合、通常は、銅濃度が高い廃液の方が、キレート樹脂に多くの銅が吸着する。キレート樹脂の前処理、硫酸銅廃液のSV及び処理倍量、吸着後の洗浄処理は、実施例2と同様とした。銅を吸着後、純水洗浄したキレート樹脂に5wt%硫酸を通液し、硫酸銅の回収処理を行った。硫酸通液のSVは、2L/L−R・hとした。樹脂出口に吸光光度計(笠原理化工業株式会社製のCU−502)を設置し、銅濃度を測定した。硫酸通液によって硫酸銅溶液を回収した時期は、硫酸通液中期とし、硫酸の供給量が60g/L−Rの時を開始点とし、供給量が120g/L−Rの時を終了点とした。硫酸供給量60g/Lから120g/Lの間に脱着した銅の量を、吸光光度計による測定値を積分し、銅の回収量とした。また、硫酸通液開始から、出口の銅濃度が1mg/L以下になるまでの銅濃度を積分し、キレート樹脂へ吸着していた銅の総吸着量とした。銅の回収量を銅の総吸着量で除して、回収率を求めた。表6に、実施例4−1及び4−2の硫酸通液中期の開始時点及び終了時点における硫酸銅溶液の銅濃度及び銅の回収率をまとめた。
【0064】
【表6】
【0065】
表6から明らかなように、多量の銅を吸着したキレート樹脂とそれより少ない銅を吸着したキレート樹脂に硫酸を通液して脱着すると、硫酸の供給量が同じ時点では、当然、多量の銅を吸着していたキレート樹脂から脱着してくる銅の量は、少ない量の銅を吸着していた樹脂から脱着してくる銅の量よりも多い。ここで一律に同じ時点で回収を終了すると、多量の銅を吸着した樹脂からの回収においては、銅濃度が高い脱着液を回収しそびれてしまい、回収率は下がる。
【0066】
(実施例5)
銅濃度が異なる硫酸銅廃液をキレート樹脂に通液した。本実施例でキレート樹脂に吸着させた硫酸銅廃液は、実施例1−1で得られたものと基本的には同じであるが、実施例5−1では、廃液中の銅濃度は2500ppmであり、実施例5−2では廃液中の銅濃度は4000ppmであった。キレート樹脂の前処理、硫酸銅廃液のSV及び処理倍量、吸着後の洗浄処理は実施例2と同様とした。実施例4と同様、この操作によって、銅の吸着量が異なる2つのキレート樹脂が得られた。次いで、5wt%硫酸をキレート樹脂に通液した。硫酸通液のSVは2L/L−R・hとした。樹脂出口に吸光光度計(笠原理化工業株式会社製のCU−502)を設置し、銅濃度を監視した。吸光光度計の測定値から、以下のようにして脱着液を回収した。脱着により銅濃度が上昇し50mg/Lに達した時点から回収を開始し、銅濃度が上昇を続けて定常状態に達し、脱着が終了し銅濃度が400mg/Lまで下降した時点で回収を終了した。表7に、実施例5−1及び5−2の回収率をまとめた。樹脂出口の吸光光度計による銅濃度の測定値を、硫酸通液開始時点から、脱着が終了し銅濃度が1mg/Lまで下降した時点まで積分し、キレート樹脂に吸着した銅の総量を算出した。次に、硫酸銅を回収した範囲、すなわち樹脂出口の銅濃度が50mg/Lに達した時点から400ppmまで下降した時点までの、銅濃度を積分し、それぞれの樹脂から回収された銅の量を算出した。回収率は、回収した銅の量を、樹脂に吸着した銅の総量で除して、算出した。
【0067】
【表7】
【0068】
表7から判るように、キレート樹脂出口で銅濃度を監視し、適切な濃度範囲で硫酸銅を回収することによって、キレート樹脂に吸着した銅の量に依らず、高い硫酸銅の回収率を維持できる。キレート樹脂入口の銅濃度が変動し、キレート樹脂に吸着する銅の量を正確に把握するのが困難な場合には、銅を回収する際に、硫酸の供給量だけに頼って回収すると、銅濃度の高い脱着液を回収しそびれたり、銅濃度が低い脱着液を回収してしまったりして、回収率が下がる懸念がある。キレート樹脂の出口で回収する硫酸銅溶液の銅濃度を分析し、適正な濃度の脱着液を回収することで、回収率を高く保つことができることがわかった。