(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
リチウムを吸蔵・放出可能な炭素材料を含む負極活物質と、一般式(
3)で表される化合物を混合して含有している、リチウムイオン二次電池用負極。
【化2】
(但し、Mは、遷移元素、周期表の13族、14族又は15族元素を表す;A
a+は金属イオンプロトン又はオニウムイオン、aは1〜3の整数、pはb/a;bは1〜3の整数、mは1〜4の整数、nは0〜8の整数、qは0又は1を表す;R
1は、炭素数1〜10のアルキレン、炭素数1〜10のハロゲン化アルキレン、炭素数6〜20のアリーレン又は炭素数6〜20のハロゲン化アリーレン(これらのアルキレン及びアリーレンはその構造中に置換基、ヘテロ原子を持っていてもよく、またqが1でmが2〜4のときにはm個のR
1はそれぞれが結合していてもよい)を表す;R
2は、ハロゲン、炭素数1〜10のアルキル、炭素数1〜10のハロゲン化アルキル、炭素数6〜20のアリール、炭素数6〜20のハロゲン化アリール(これらのアルキル及びアリールはその構造中に置換基、ヘテロ原子を持っていてもよく、またnが2〜8のときにはn個のR
2はそれぞれが結合して環を形成してもよい)又は−X
3R
3を表す;X
1,X
2及びX
3は、それぞれが独立でO,S又はNR
4を表す;R
3及びR
4は、それぞれが独立で水素、炭素数1〜10のアルキル、炭素数1〜10のハロゲン化アルキル、炭素数6〜20のアリール、炭素数6〜20のハロゲン化アリール(これらのアルキル及びアリールはその構造中に置換基、ヘテロ原子を持っていてもよく、R
3又はR
4は複数個存在する場合にはそれぞれが結合して環を形成してもよい)を表す)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の特許文献1,2の方法では、電池構成が複雑化してしまう問題があった。また、特許文献3の方法では、重合反応に時間がかかるなどの問題があった。このように、リチウム二次電池の発熱を抑制するものは提案されているが、まだ十分ではなく、リチウム二次電池において、発熱反応を抑制することが望まれていた。
【0005】
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、炭素材料を含む負極活物質での発熱反応をより抑制することができるリチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、非水系電解液に対して難溶解性である化合物を黒鉛の負極活物質と共に混合して負極を作製すると、炭素材料を含む負極活物質での発熱反応をより抑制することができることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明のリチウムイオン二次電池用負極は、リチウムを吸蔵・放出可能な炭素材料を含む負極活物質と、一般式(1)で表される化合物とを含有しているものである。
【0008】
【化1】
(但し、Mは、遷移元素、周期表の13族、14族又は15族元素を表す;A
a+は金属イオンプロトン又はオニウムイオン、aは1〜3の整数、pはb/a;bは1〜3の整数、mは1〜4の整数、nは0〜8の整数、qは0又は1を表す;R
1は、炭素数1〜10のアルキレン、炭素数1〜10のハロゲン化アルキレン、炭素数6〜20のアリーレン又は炭素数6〜20のハロゲン化アリーレン(これらのアルキレン及びアリーレンはその構造中に置換基、ヘテロ原子を持っていてもよく、またqが1でmが2〜4のときにはm個のR
1はそれぞれが結合していてもよい)を表す;R
2は、ハロゲン、炭素数1〜10のアルキル、炭素数1〜10のハロゲン化アルキル、炭素数6〜20のアリール、炭素数6〜20のハロゲン化アリール(これらのアルキル及びアリールはその構造中に置換基、ヘテロ原子を持っていてもよく、またnが2〜8のときにはn個のR
2はそれぞれが結合して環を形成してもよい)又は−X
3R
3を表す;X
1,X
2及びX
3は、それぞれが独立でO,S又はNR
4を表す;R
3及びR
4は、それぞれが独立で水素、炭素数1〜10のアルキル、炭素数1〜10のハロゲン化アルキル、炭素数6〜20のアリール、炭素数6〜20のハロゲン化アリール(これらのアルキル及びアリールはその構造中に置換基、ヘテロ原子を持っていてもよく、R
3又はR
4は複数個存在する場合にはそれぞれが結合して環を形成してもよい)を表す)
【0009】
本発明のリチウムイオン二次電池は、正極活物質を有する正極と、上述したリチウムイオン二次電池用負極と、前記正極と前記負極との間に介在し、リチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池は、炭素材料を含む負極活物質での発熱反応をより抑制することができる。このような効果が得られる理由は明らかではないが、以下のように推測される。例えば、上述の化合物は、初回充電時に負極活物質上で分解して安定なSEI(Solid Electrolyte Interface)被膜を形成すると考えられる。ここでは、上述した化合物と負極活物質とが負極内に混合して存在するため、安定した被膜が形成されやすく、この被膜によって負極活物質の発熱反応をより抑えることができるものと推察される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極は、リチウムを吸蔵・放出可能な炭素材料を含む負極活物質と、一般式(1)で表される化合物とを含有しているものである。即ち、一般式(1)で表される化合物が負極内に固体として存在するものである。一般式(1)において、Mは、遷移元素、周期表の13族、14族又は15族元素であり、このうちAl、B、V、Ti、Si、Zr、Ge、Sn、Cu、Y、Zn、Ga、Nb、Ta、Bi、P、As、Sc、Hf又はSbであることが好ましく、Al、B又はPであることがより好ましい。MがAl、B又はPの場合には、化合物に含まれるアニオンの合成が比較的容易になり、製造コストを抑えることができる。アニオンの価数bは1〜3であり、このうち1であることが好ましい。価数bが3より大きい場合には、化合物の塩が混合有機溶媒に溶解しにくくなる傾向があるので好ましくない。また、定数m,nは、配位子の数に関係する値であり、Mの種類によって決まってくるものであるが、mは1〜4の整数、nは0〜8の整数である。定数qは、0又は1である。qが0の場合には、キレートリングが五員環となり、qが1の場合にはキレートリングが六員環となる。
【0014】
ここで、R
1は、炭素数1〜10のアルキレン、炭素数1〜10のハロゲン化アルキレン、炭素数6〜20のアリーレン又は炭素数6〜20のハロゲン化アリーレンを表す。これらのアルキレン及びアリーレンはその構造中に置換基、ヘテロ原子を持っていてもよい。具体的には、アルキレン及びアリーレン上の水素の代わりに、ハロゲン、鎖状又は環状のアルキル基、アリール基、アルケニル基、アルコキシ基、アリーロキシ基、スルホニル基、アミノ基、シアノ基、カルボニル基、アシル基、アミド基、水酸基を置換基として持っていてもよいし、アルキレン及びアリーレン上の炭素の代わりに、窒素、硫黄、酸素が導入された構造であってもよい。またqが1でmが2〜4のときには、m個のR
1はそれぞれが結合していてもよい。そのような例としては、エチレンジアミン四酢酸のような配位子を挙げることができる。
【0015】
R
2は、ハロゲン、炭素数1〜10のアルキル、炭素数1〜10のハロゲン化アルキル、炭素数6〜20のアリール、炭素数6〜20のハロゲン化アリール又は−X
3R
3(X
3,R
3については後述)を表す。ここでのアルキル及びアリールも、R
1と同様に、その構造中に置換基、ヘテロ原子を持っていてもよく、またnが2〜8のときにはn個のR
2はそれぞれが結合して環を形成していてもよい。R
2としては、電子吸引性の基が好ましく、特にフッ素原子が好ましい。フッ素原子の場合には、アニオン化合物の塩の溶解度や解離度が向上し、これに伴ってイオン伝導度が向上するからである。また、耐酸化性が向上し、これにより副反応の発生を抑制することができるからである。
【0016】
X
1,X
2及びX
3は、それぞれが独立でO,S又はNR
4を表す。つまり、配位子はこれらのヘテロ原子を介してMに結合することになる。
【0017】
R
3及びR
4は、それぞれが独立で水素、炭素数1〜10のアルキル、炭素数1〜10のハロゲン化アルキル、炭素数6〜20のアリール、炭素数6〜20のハロゲン化アリールを表す。これらのアルキル及びアリールも、R
1と同様に、その構造中に置換基、ヘテロ原子を持っていてもよい。また、R
3又はR
4は複数個存在する場合にはそれぞれが結合して環を形成してもよい。
【0018】
一般式(1)で表される化合物のカチオン(A
a+)において、aは、1〜3であり、pはb/aである。このカチオンとしては、例えばリチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、セシウム、ルビジウム、銀、亜鉛、銅、コバルト、鉄、ニッケル、マンガン、チタン、鉛、クロム、バナジウム、ルテニウム、イットリウム、ランタノイド、アクチノイドなどのカチオンが挙げられるほか、テトラアルキルアンモニウム(アルキルはメチル、エチル、ブチルなど)、トリエチルアンモニウム、ピリジニウム、イミダゾリウムなどのアンモニウムカチオン、プロトン等が挙げられる。このうち、リチウムカチオン、ナトリウムカチオン又はカリウムカチオンが好ましい。特に、ナトリウムやカリウムを含む化合物は、リチウムイオン二次電池に用いられる非水系電解液へ溶解しにくく、非水系電解液への添加が困難であることがあるが、負極中に混合して用いることができる。
【0019】
この化合物は、リチウムイオン二次電池を少なくとも1回充電することにより、化合物のすべて又は一部(例えばアニオン)が分解して、負極活物質の表面に被覆して被膜を形成すると考えられる。この被覆物は、例えばX線光電子分光分析(XPS)やIR分析等により検出することができる。こうした化合物は、式(2)〜(6)に示す、PTFO,PFO,PO,BFO及びBOBの1種以上のアニオンを含むことが好ましい。その理由は、負極活物質に含まれる炭素材料の表面に安定な被膜を形成しやすいためである。カチオンとしてカリウムやナトリウムを含み、アニオンとしてBOBを含む化合物がより好ましい。
【0021】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極において、一般式(1)で表される化合物は、リチウムイオン二次電池が備える、リチウムイオンを伝導する非水系電解液に対して難溶である難溶解性化合物であるものとしてもよい。上記化合物が非水系電解液に対して難溶であるときには、この化合物を電解液に溶解させて利用することは困難であるが、本発明においては、負極活物質と上記化合物とを負極内に混合させるため、十分利用することができる。ここで、「非水系電解液に対して難溶である」とは、非水系電解液1mLに対して、0.05mmolを溶解させたときに、この化合物が溶け残ることをいうものとする。例えば、電解液として、環状カーボネート類及び鎖状カーボネート類を含むカーボネート系電解液を用いた場合では、NaやKをカチオンとし上記式(6)のBOBをアニオンとする化合物などが難溶性を示す。
【0022】
こうした化合物の合成方法としては、例えばBFOの場合には、非水系溶媒中でLiBF
4と2倍モルのリチウムアルコキシドとを反応させた後、シュウ酸を添加して、ホウ素に結合しているアルコキシドをシュウ酸で置換する方法等がある。また、PFOの場合には、非水系溶媒中でLiPF
6と4倍モルのリチウムアルコキシドとを反応させた後、シュウ酸を添加して、リンに結合しているアルコキシドをシュウ酸で置換する方法等がある。これらの場合には、一般式(1)で表される化合物は、アニオンのリチウム塩として得ることができる。
【0023】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極は、負極活物質と結着材と一般式(1)で表される化合物とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の負極合材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。この負極合材には、他の助材や導電材を含むものとしてもよい。負極活物質に含まれる炭素材料としては、例えば、コークス類、ガラス状炭素類、グラファイト類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維などが挙げられる。このうち、人造黒鉛、天然黒鉛などのグラファイト類が、金属リチウムに近い作動電位を有し、高い作動電圧での充放電が可能であり支持塩としてリチウム塩を使用した場合に自己放電を抑え、且つ充電時における不可逆容量を少なくできるため、好ましい。結着材は、活物質粒子を繋ぎ止める役割を果たすものであり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレン−プロピレン−ジエンマー(EPDM)、スルホン化EPDM、天然ブチルゴム(NBR)等を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。また、水系バインダーであるセルロース系やスチレンブタジエンゴム(SBR)の水分散体等を用いることもできる。負極活物質や結着材を分散させる溶剤としては、例えばN−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチルトリアミン、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフランなどの有機溶剤を用いることができる。また、水に分散剤、増粘剤等を加え、SBRなどのラテックスで活物質をスラリー化してもよい。増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロースなどの多糖類を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。塗布方法としては、例えば、アプリケータロールなどのローラコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレイド方式、スピンコーティング、バーコータなどが挙げられ、これらのいずれかを用いて任意の厚さ・形状とすることができる。集電体としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、アルミニウム、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス、Al−Cd合金などのほか、接着性、導電性及び耐還元性向上の目的で、例えば銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものも用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状については、箔状、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などが挙げられる。集電体の厚さは、例えば1〜500μmのものが用いられる。
【0024】
このリチウムイオン二次電池用負極において、負極活物質及び上記化合物を含む負極合材に占める上記化合物の重量割合が、0.01重量%以上20重量%以下であることが好ましく、0.1重量%以上10重量%以下であることがより好ましく、1重量%以上5重量%以下であることが更に好ましい。上記化合物が負極合材に混合されており、負極活物質に容易に被膜を形成することができるため、より少ない化合物の添加量で負極活物質での発熱反応をより抑制することができる。
【0025】
本発明のリチウムイオン二次電池は、正極活物質を有する正極と、上述したいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用負極と、正極と負極との間に介在し、リチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備えている。
【0026】
本発明のリチウムイオン二次電池の正極は、例えば正極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の正極合材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。正極活物質としては、遷移金属元素を含む硫化物や、リチウムと遷移金属元素とを含む酸化物などを用いることができる。具体的には、TiS
2、TiS
3、MoS
3、FeS
2などの遷移金属硫化物、Li
(1-x)MnO
2(0<x<1など)、Li
(1-x)Mn
2O
4などのリチウムマンガン複合酸化物、Li
(1-x)CoO
2などのリチウムコバルト複合酸化物、Li
(1-x)NiO
2などのリチウムニッケル複合酸化物、LiV
2O
3などのリチウムバナジウム複合酸化物、V
2O
5などの遷移金属酸化物などを用いることができる。これらのうち、リチウムの遷移金属複合酸化物、例えば、LiCoO
2、LiNiO
2、LiMnO
2、LiV
2O
3などが好ましい。導電材は、正極の電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば特に限定されず、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などの1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。これらの中で、導電材としては、電子伝導性及び塗工性の観点より、カーボンブラック及びアセチレンブラックが好ましい。集電体としては、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、鉄、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラスなどのほか、接着性、導電性及び耐酸化性向上の目的で、アルミニウムや銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものを用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。正極に用いられる結着材、溶剤などは、それぞれ負極で例示したものを用いることができ、集電体の形状は、負極と同様のものを用いることができる。
【0027】
本発明のリチウムイオン二次電池のイオン伝導媒体としては、支持塩を含む非水系電解液や非水系ゲル電解液などを用いることができる。非水系電解液の溶媒としては、カーボネート類、エステル類、エーテル類、ニトリル類、フラン類、スルホラン類及びジオキソラン類などが挙げられ、これらを単独又は混合して用いることができる。具体的には、カーボネート類としてエチレンカーボネート(EC)やプロピレンカーボネート(PC)、ビニレンカーボネート(VC)、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネートなどの環状カーボネート類や、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチル−n−ブチルカーボネート、メチル−t−ブチルカーボネート、ジ−i−プロピルカーボネート、t−ブチル−i−プロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート類、γ−ブチルラクトン、γ−バレロラクトンなどの環状エステル類、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酪酸メチルなどの鎖状エステル類、ジメトキシエタン、エトキシメトキシエタン、ジエトキシエタンなどのエーテル類、アセトニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、などのフラン類、スルホラン、テトラメチルスルホランなどのスルホラン類、1,3−ジオキソラン、メチルジオキソランなどのジオキソラン類などが挙げられる。このうち、環状カーボネート類と鎖状カーボネート類との組み合わせが好ましい。この組み合わせによると、充放電の繰り返しでの電池特性を表すサイクル特性が優れているばかりでなく、電解液の粘度、得られる電池の電気容量、電池出力などをバランスの取れたものとすることができる。
【0028】
本発明のリチウムイオン二次電池に含まれている支持塩は、例えば、LiPF
6、LiBF
4、LiAsF
6、LiCF
3SO
3、LiN(CF
3SO
2)
2、LiC(CF
3SO
2)
3、LiSbF
6、LiSiF
6、LiAlF
4、LiSCN、LiClO
4、LiCl、LiF、LiBr、LiI、LiAlCl
4などが挙げられる。このうち、LiPF
6、LiBF
4、LiAsF
6、LiClO
4などの無機塩、及びLiCF
3SO
3、LiN(CF
3SO
2)
2、LiC(CF
3SO
2)
3などの有機塩からなる群より選ばれる1種又は2種以上の塩を組み合わせて用いることが電気特性の点から見て好ましい。この支持塩は、非水系電解液中の濃度が0.1mol/L以上5mol/L以下であることが好ましく、0.5mol/L以上2mol/L以下であることがより好ましい。支持塩の濃度が0.1mol/L以上では、十分な電流密度を得ることができ、5mol/L以下では、電解液をより安定させることができる。また、この非水系電解液には、リン系、ハロゲン系などの難燃剤を添加してもよい。
【0029】
また、液状のイオン伝導媒体の代わりに、固体のイオン伝導性ポリマーをイオン伝導媒体として用いることもできる。イオン伝導性ポリマーとしては、例えば、アクリロニトリル、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、メチルメタクリレート、ビニルアセテート、ビニルピロリドン、ポリフッ化ビニリデンなどのポリマーと支持塩とで構成されるポリマーゲルを用いることができる。更に、イオン伝導性ポリマーと非水系電解液とを組み合わせて用いることもできる。また、イオン伝導媒体としては、イオン伝導性ポリマーのほか、無機固体電解質あるいは有機ポリマー電解質と無機固体電解質の混合材料、若しくは有機バインダーによって結着された無機固体粉末などを利用することができる。
【0030】
本発明のリチウムイオン二次電池は、負極と正極との間にセパレータを備えていてもよい。セパレータとしては、リチウムイオン二次電池の使用範囲に耐えうる組成であれば特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン製不織布やポリフェニレンスルフィド製不織布などの高分子不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の薄い微多孔膜が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0031】
本発明のリチウムイオン二次電池の形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。また、電気自動車等に用いる大型のものなどに適用してもよい。
図1は、本発明のリチウムイオン二次電池10の一例を示す模式図である。このリチウムイオン二次電池10は、集電体11に正極活物質12を形成した正極シート13と、集電体14の表面に負極活物質17を形成した負極シート18と、正極シート13と負極シート18との間に設けられたセパレータ19と、正極シート13と負極シート18の間を満たす非水系電解液20と、を備えたものである。このリチウムイオン二次電池10では、正極シート13と負極シート18との間にセパレータ19を挟み、これらを捲回して円筒ケース22に挿入し、正極シート13に接続された正極端子24と負極シートに接続された負極端子26とを配設して形成されている。ここでは、負極シート18には、炭素材料を含む負極活物質と、非水系電解液20に難溶である一般式(1)で表される化合物とが混合して含まれている。
【0032】
以上詳述した本実施形態のリチウムイオン二次電池では、上記化合物と負極活物質とが負極内に混合して存在するため、上記化合物により安定した被膜が形成されやすく、この被膜によって負極活物質の発熱反応をより抑えることができる。このため、より熱的に安定、安全なリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【0033】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【実施例】
【0034】
以下には、本発明のリチウムイオン二次電池を具体的に作製した例を実施例として説明する。
【0035】
[実施例1]
負極活物質としての人造黒鉛を95重量%と、結着材としてのポリフッ化ビニリデンを5重量%とを混合し混合物を得た。この混合物を90重量部と、一般式(1)で表される化合物(添加剤)としてのカリウムビスオキサラトボレート(KBOB)を10重量部とを混合し、ペレット成型し負極合材とした。これを、対極にリチウム金属を用い、非水系電解液として、EC、DMC及びEMCのカーボネート類混合溶媒にLiPF
6を1mol/Lとなるように溶解させたものを用いて二極式セルを作製した。これを実施例1とした。
【0036】
[実施例2〜4]
一般式(1)で表される化合物としてリチウムビスオキサラトボレート(LiBOB)を10重量部用いた以外は、実施例1と同様の工程を経て得られた二極式セルを実施例2とした。また、一般式(1)で表される化合物としてナトリウムビスオキサラトボレート(NaBOB)を10重量部用いた以外は、実施例1と同様の工程を経て得られた二極式セルを実施例3とした。また、一般式(1)で表される化合物としてリチウムジフルオロビスオキサラトホスフェート(LPFO)を10重量部用いた以外は、実施例1と同様の工程を経て得られた二極式セルを実施例4とした。
【0037】
[比較例1〜3]
一般式(1)で表される化合物を添加しない以外は、実施例1と同様の工程を経て得られた二極式セルを比較例1とした。また、負極合材に一般式(1)で表される化合物を添加せず、実施例1の負極に添加したのと同量のKBOBを非水系電解液に添加した以外は、実施例1と同様の工程を経て得られた二極式セルを比較例2とした。なお、比較例2においては、KBOBはほとんど非水系電解液に溶解せず、添加したKBOBは固体状態で非水系電解液の底に沈んだ状態であった。また、負極合材に一般式(1)で表される化合物を添加せず、実施例2の負極に添加したのと同量のLiBOBを非水系電解液に溶解させた以外は、実施例2と同様の工程を経て得られた二極式セルを比較例3とした。
【0038】
(二極式セルの評価)
作製した二極式セルを、20℃の温度条件下で、電流密度70μA/cm
2の定電流で下限電圧0.01Vまで放電を行い、次いで電流密度70μA/cm
2の定電流で上限電圧1.2Vまで充電を行った。単位活物質あたりの初期放電容量を単位活物質あたりの初期充電容量で除算し100を乗算した値を充放電効率とした。また、再度放電後の負極と上記非水系電解液との発熱反応を、示差走査熱量測定(Differential scanning calorimetry:DSC)により見積もった。評価は、100℃〜170℃付近における発熱の有無で行った。
【0039】
(結果と考察)
実施例1〜4及び比較例1〜3の添加した化合物、充放電効率及びDSCの発熱の有無についてまとめたものを表1に示す。
図2〜8は、それぞれ実施例1〜4及び比較例1〜3の充放電曲線及びDSC測定結果である。 表1及び
図2〜8に示すように、負極合材中に化合物が添加されていない比較例1,2においては、100℃〜170℃付近で発熱が観測された。これに対して、負極合材中に化合物が添加された実施例1〜4においては、100℃〜170℃付近で発熱は観測されず、負極と電解液との発熱反応が抑制されていることがわかった。この温度範囲での発熱を抑制すると、発熱反応の連鎖などを防止することができ、より好ましい。また、電解液に易溶なLiBOBを溶解させた比較例3では、LiBOBの分解による電気容量について実施例2と比較すると、実施例2の負極材に含まれる量と同量のLiBOBが含まれているにもかかわらず、実施例2の場合の半分程度しか分解されておらず、負極合材中に存在した方が効率よく分解反応(被膜の生成)が進むといえ、少量の添加でも有効に作用することがわかった。このように、負極合材中に化合物が添加された負極では、充放電過程において、化合物の分解・被膜の形成が効率よく進み、負極と電解液との発熱反応を抑制することがわかった。
【0040】
【表1】
【0041】
[実施例5]
正極活物質としてLiNi
0.75Co
0.15Al
0.05Mg
0.05O
2を85重量%、導電材としてのカーボンブラックを10重量%および結着材としてのポリフッ化ビニリデンを5重量%混合し、分散材としてN−メチル−2−ピロリドンを適量添加し、分散してスラリー状正極合材とした。これをアルミニウム箔集電体の両面に塗布し、乾燥させたあと、ロールプレスで高密度化し、短冊状に切り出したものを正極シートとした。負極活物質として人造黒鉛を95重量%と、結着材としてポリフッ化ビニリデンを5重量%とを混合した。この混合物を90重量部、一般式(1)で表される化合物としてのKBOBを10重量部混合し、正極と同様にスラリー状負極合材とした。これを銅箔集電体の両面に塗布し、乾燥させたあと、ロールプレスで高密度化し、短冊状に切り出したものを負極シートとした。非水系電解液には、EC、DMCおよびEMCを混合したカーボネート類溶媒にLiPF
6を1mol/Lとなるように溶解させたものを用いた。上記の正極シートと負極シートとを、ポリエチレン製セパレータを挟んで捲回し、ロール状電極体とし、この電極体を18650型円筒ケースに挿入し、上記非水系電解液を含侵させたあと、密閉して円筒型リチウムイオン二次電池を作製した。作製したリチウムイオン二次電池を実施例5とした。
【0042】
[実施例6,7]
一般式(1)で表される化合物としてリチウムビスオキサラトボレート(LiBOB)を10重量部用いた以外は、実施例5と同様の工程を経て得られたリチウムイオン二次電池を実施例6とした。また、一般式(1)で表される化合物としてナトリウムビスオキサラトボレート(NaBOB)を10重量部用いた以外は、実施例5と同様の工程を経て得られたリチウムイオン二次電池を実施例7とした。
【0043】
[比較例4]
一般式(1)で表される化合物を添加しない以外は、実施例5と同様の工程を経て得られたリチウムイオン二次電池を比較例4とした。
【0044】
(リチウムイオン二次電池の評価)
作製した電池を、20℃の温度条件下で、電流密度2mA/cm
2の定電流で充電上限電圧4.1Vまで充電を行い、次いで電流密度2mA/cm
2の定電流で放電下限電圧3.0Vまで放電を行う充放電を5回行った。充電電流値と充電に要した時間とを乗じて得られた値を正極活物質の重量で除したものを充電容量、同様に放電電流値と放電に要した時間を乗じて得られた値を正極活物質の重量で除したものを放電容量とし、放電容量を充電容量で除して100を乗算した値を充放電効率%とした。再度充電後の電池を解体し、負極と上記非水系電解液との発熱反応を、DSCにより見積もった。
【0045】
(結果と考察)
実施例5〜7および比較例4の化合物の有無、充放電効率およびDSCにおける100℃〜170℃付近の発熱の有無を表2に示す。表2に示すように、化合物を添加しない比較例4では、99%の高い充放電効率で電池が動作しているものの、100℃〜170℃の範囲に発熱が確認された。これに対して、負極合材中に化合物を添加した実施例5〜7では、ほぼ100%の充放電効率で電池が動作すると共に、DSCでの100℃〜170℃付近に現れる、負極と電解液との発熱が抑制されていることが確認された。このように、負極材中に一般式(1)で表される化合物が添加された電池では、充放電効率に悪影響を与えることなく、電解液に難溶な添加剤でも効率よく良好な被膜が形成するため、負極と電解液との発熱反応を抑制することができることが明らかとなった。
【0046】
【表2】