特許第5666236号(P5666236)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5666236
(24)【登録日】2014年12月19日
(45)【発行日】2015年2月12日
(54)【発明の名称】潤滑組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/04 20060101AFI20150122BHJP
   C10M 105/04 20060101ALN20150122BHJP
   C10M 107/02 20060101ALN20150122BHJP
   C10M 159/22 20060101ALN20150122BHJP
   C10M 133/12 20060101ALN20150122BHJP
   C10N 20/00 20060101ALN20150122BHJP
   C10N 30/10 20060101ALN20150122BHJP
   C10N 40/04 20060101ALN20150122BHJP
   C10N 40/08 20060101ALN20150122BHJP
   C10N 40/12 20060101ALN20150122BHJP
   C10N 40/25 20060101ALN20150122BHJP
   C10N 40/30 20060101ALN20150122BHJP
   C10N 50/10 20060101ALN20150122BHJP
【FI】
   C10M169/04
   !C10M105/04
   !C10M107/02
   !C10M159/22
   !C10M133/12
   C10N20:00 Z
   C10N30:10
   C10N40:04
   C10N40:08
   C10N40:12
   C10N40:25
   C10N40:30
   C10N50:10
【請求項の数】6
【外国語出願】
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2010-230437(P2010-230437)
(22)【出願日】2010年10月13日
(65)【公開番号】特開2011-84740(P2011-84740A)
(43)【公開日】2011年4月28日
【審査請求日】2013年9月4日
(31)【優先権主張番号】09173062.2
(32)【優先日】2009年10月14日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】000186913
【氏名又は名称】昭和シェル石油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ラウラ・デ・ラグーノ・ゴリア
(72)【発明者】
【氏名】クリストフアー・アンドリユー・パドン
(72)【発明者】
【氏名】デイビツド・ジヨン・ウエドロツク
【審査官】 岩田 行剛
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−189904(JP,A)
【文献】 特開2006−176672(JP,A)
【文献】 特開2008−138204(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00−177/00
C10N 10/00−80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィッシャー・トロプシュ誘導基油であるか、または、90重量%を超えるフィッシャー・トロプシュ誘導基油とポリ−αオレフィン(PAO)基油との混合物である基油と、
清浄剤と、
アミン化合物と
を含
前記基油の量は全重量を基準にして70から85重量%の範囲であり、
最高0.5重量%の硫酸灰分、最高0.05重量%のリン分、および最高0.2重量%の硫黄分を有し、
前記清浄剤は、240mgKOH/g未満の範囲内のTBN値を有するサリチラート型清浄剤であり、前記清浄剤の量は全重量を基準にして0.01から5.0重量%の範囲であり、
前記アミン化合物は一般式(I)
【化1】


(式中、各Rは独立して、1から16個の炭素原子を有するアルキル基である。)を有するジフェニルアミンであり、前記アミン化合物の量は全重量を基準にして0.1から5.0重量%の範囲である
ことを特徴とする、潤滑組成物。
【請求項2】
清浄剤が60から240mgKOH/gの範囲内のTBN値を有する、請求項1に記載の潤滑組成物。
【請求項3】
前記アミン化合物の各Rが独立して、3から14個の炭素原子を有するアルキル基である、請求項1または2に記載の潤滑組成物。
【請求項4】
前記アミン化合物の各Rが独立して、4から12個の炭素原子を有するアルキル基である、請求項3に記載の潤滑組成物。
【請求項5】
抗酸化特性改善するための、請求項1から4のいずれか1項に記載の潤滑組成物の使用。
【請求項6】
ASTM D 6186−08に準拠したHPDSC、および/またはASTM D 7528−09に準拠したROBO試験によって測定した際の抗酸化特性を改善するための、請求項5に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基油、特にフィッシャー・トロプシュ誘導(Fischer−Tropsch derived)基油を含む潤滑組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、2nd Asia−Pacific base oil Conference,Beijing,China,23−25 October 2007において提示されたD.J.Wedlock et al.,「Gas−to−Liquids Base Oils to assist in meeting OEM requirements 2010 and beyond」に開示されているように、エンジンオイル、トランスミッションフルード、および工業用潤滑油などの潤滑組成物中にフィッシャー・トロプシュ誘導基油を使用することによって、種々の性能上の利点が得られる。上記文献中に記載されているフィッシャー・トロプシュ誘導基油の使用による性能上の利点の例は、改善された酸化特性、改善されたエンジン清浄性、改善された摩耗保護、改善された排気、および改善された後処理装置の互換性である。フィッシャー・トロプシュ基油によって、低粘度のエネルギー節約型配合物を配合することもできる。
【0003】
また、フィッシャー・トロプシュ誘導基油は、添加剤濃縮物のキャリアオイルとして使用できることも分かっている。一例として、WO2009/074572には、フィッシャー・トロプシュ誘導基油と、粘度調整剤のキャリアオイルとして使用されるアルキル化ナフタレンなどのアルキル化芳香族成分との併用が開示されている。本出願人は、オレフィンコポリマー(OCP)を含有するSAE 0W−30、0W−40、5W−30、および5W−40のエンジンオイルを、OCPのキャリアオイルとしてフィッシャー・トロプシュ誘導基油を使用しながら配合できることも見出した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2009/074572号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】2nd Asia−Pacific base oil Conference,Beijing,China,23−25 October 2007において提示されたD.J.Wedlock et al.,「Gas−to−Liquids Base Oils to assist in meeting OEM requirements 2010 and beyond」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的の1つは、潤滑組成物の抗酸化特性を改善することである。
【0007】
本発明の別の目的の1つは、代替となる潤滑組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記またはその他の目的の1つ以上は、本発明の潤滑組成物、即ち、
フィッシャー・トロプシュ誘導基油、およびポリ−αオレフィン(PAO)基油、またはこれらの組み合わせからなる群から選択される基油と、
清浄剤と、
アミン化合物と、を含む潤滑組成物によって実現可能である。
【0009】
驚くべきことに、本発明による潤滑組成物は改善された抗酸化特性を示すことが分かった。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明による潤滑組成物中に使用される基油に関しては特に制限は存在せず、少なくともフィッシャー・トロプシュ誘導基油またはポリ−αオレフィン(PAO)基油が存在するのであれば、種々の従来の鉱物油、合成油、および植物油などの天然由来のエステル類を好都合に使用することができる。
【0011】
本発明で使用される基油は、1種類以上の鉱物油および/または1種類以上の合成油の混合物を好都合に含むことができ、従って、本発明によると、用語「基油」は、2種類以上の基油を含有する混合物を意味することができる。鉱物油としては、液体石油、ならびにパラフィン系、ナフテン系、または混合パラフィン/ナフテン系の溶媒処理また酸処理された鉱物潤滑油が挙げられ、これらは水素化仕上げ処理(hydrofinishing)および/または脱蝋によってさらに精製することができる。
【0012】
本発明の潤滑油組成物中に使用する好適な基油は、グループI、グループII、グループIIIの鉱物基油、グループIVのポリ−αオレフィン(PAO)、グループIIIのフィッシャー・トロプシュ誘導基油、およびこれらの混合物である。
【0013】
本発明における「グループI」、グループII」、「グループIII」、および「グループIV」基油は、米国石油協会(American Petroleum Institute)(API)の分類I、II、III、およびIVの定義に準拠した潤滑油基油を意味する。これらのAPI分類は、API Publication 1509,15th Edition,Appendix E,April 2002において定義されている。
【0014】
フィッシャー・トロプシュ誘導基油は、当技術分野において周知である。用語「フィッシャー・トロプシュ誘導」は、基油が、フィッシャー・トロプシュ法の合成生成物である、またはこれから誘導されることを意味する。フィッシャー・トロプシュ誘導基油は、GTL(ガスツーリキッド(Gas−To−Liquid))基油と呼ばれる場合もある。本発明の潤滑組成物中の基油として好都合に使用することができる好適なフィッシャー・トロプシュ誘導基油は、例えば、EP0776959、EP0668342、WO97/21788、WO00/15736、WO00/14188、WO00/14187、WO00/14183、WO00/14179、WO00/08115、WO99/41332、EP1029029、WO01/18156、およびWO01/57166に開示される基油である。
【0015】
合成油としては、オレフィンオリゴマー(ポリαオレフィン基油、即ちPAOを含む。)などの炭化水素油、二塩基酸エステル類、ポリオールエステル類、ポリアルキレングリコール(PAG)類、アルキルナフタレン類、および脱蝋した蝋状異性化物(isomerate)類が挙げられる。Shell Groupより名称「シェル(Shell)XHVI」(商標)で販売される合成炭化水素基油を好都合に使用してもよい。
【0016】
ポリ−αオレフィン基油(PAO)およびこれらの製造は当技術分野において周知である。本発明の潤滑組成物中に使用し得る好ましいポリ−αオレフィン基油は、直鎖C−C32、好ましくはC−C16αオレフィン類から誘導され得る。上記ポリ−αオレフィン類の特に好ましい原料は、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、および1−テトラデセンである。
【0017】
本発明によると、本発明の潤滑組成物中に使用される基油は、ポリ−αオレフィン基油、およびフィッシャー・トロプシュ誘導基油、またはこれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1種類の基油を含む。
【0018】
PAOの製造コストが高いことを考慮すると、PAO基油よりもフィッシャー・トロプシュ誘導基油を使用することが非常に好ましい。従って、好ましくは、基油は、50重量%を超える、好ましくは60重量%を超える、より好ましくは70重量%を超える、さらにより好ましくは80重量%を超える、最も好ましくは90重量%を超えるフィッシャー・トロプシュ誘導基油を含有する。特に好ましい一実施形態では、基油の5重量%以下、好ましくは2重量%以下は、フィッシャー・トロプシュ誘導基油ではない。さらにより好ましくは、基油の100重量%が、1種類以上のフィッシャー・トロプシュ誘導基油を主成分とする。好ましくは、フィッシャー・トロプシュ誘導基油を含む基油または基油混合物は、100℃において2から30cStの間、好ましくは2.5から10cStの間の動粘度(ASTM D 445に準拠)を有する。
【0019】
本発明の潤滑組成物中に含まれる基油の総量は、潤滑組成物の全重量に対して、好ましくは60から99重量%の範囲内の量、より好ましくは65から90重量%の範囲内の量、最も好ましくは70から85重量%の範囲内の量で存在する。
【0020】
本発明による潤滑組成物中に使用される清浄剤に関しては特に制限は存在せず、種々の従来の清浄剤を使用してもよい。使用できる清浄剤の例としては、金属、特にアルカリ金属またはアルカリ土類金属、例えばナトリウム、カリウム、リチウム、特にカルシウムおよびマグネシウムの、油溶性で中性および過塩基性である、スルホナート類、フェナート類、硫化フェナート類、チオホスホネート類、サリチラート類、およびナフテナート類、およびその他の油溶性カルボキシラート類が挙げられる。好ましい金属清浄剤は、20から450mgKOH/gのTBN(ASTM D2896に準拠する全塩基価(Total Base Number))を有する中性および過塩基性清浄剤である。好ましい一実施形態によると、清浄剤は、60から240の範囲内、好ましくは200mgKOH/g未満などの240mgKOH/g未満のTBN値を有する。過塩基性または中性、またはこの両方のいずれかである清浄剤の組み合わせを使用してもよい。
【0021】
典型的には、清浄剤、または清浄剤混合物は、本発明による潤滑組成物中に、完全に配合された潤滑油組成物の全重量を基準にして0.01から5.0重量%の量で存在する。
【0022】
本発明の好ましい一実施形態によると、清浄剤はサリチラート型清浄剤である。好適なサリチラート型清浄剤の例としては、Infineumより商品名「インフィニアム(Infineum)C9012」、「インフィニアムM7101」「インフィニアムM7102」、「インフィニアムM7105」、「インフィニアムM7121」および「インフィニアムM7125」で入手可能な製品が挙げられる。
【0023】
本発明による潤滑組成物中に使用されるアミン化合物に関しては特に制限は存在せず、種々の従来のアミン化合物を使用してもよい。好適なアミン化合物の例としては、モノアミン類、ジアミン類、およびポリアミン類が挙げられる。
【0024】
本発明の好ましい一実施形態によると、アミン化合物は芳香族アミン化合物である。好適な芳香族アミン化合物の例としては、ジフェニルアミン類、アルキル化ジフェニルアミン類、フェニル−α−ナフチルアミン類(PANA)、フェニル−β−ナフチルアミン類、およびアルキル化α−ナフチルアミン類が挙げられる。好ましくは芳香族アミンは、場合によりアルキル化されたジフェニルアミンおよび場合によりアルキル化されたフェニル−α−ナフチルアミンから選択され、より好ましくは場合によりアルキル化されたジフェニルアミンから選択される。
【0025】
上記の(場合によりアルキル化された)ジフェニルアミン(DPA)化合物は当技術分野において周知であり、広く市販されている。使用し得る好適なジフェニルアミン類およびフェニル−α−ナフチルアミン類の例としては、ジフェニルアミン(DPA)、ブチルジフェニルアミン、ジブチルジフェニルアミン、オクチルジフェニルアミン、ジオクチルジフェニルアミン、ノニルジフェニルアミン、ジノニルジフェニルアミン、ヘプチルジフェニルアミン、ジヘプチルジフェニルアミン、メチルスチリルジフェニルアミン、混合ブチル/オクチルアルキル化ジフェニルアミン類、混合ブチル/スチリルアルキル化ジフェニルアミン類、混合ノニル/エチルアルキル化ジフェニルアミン類、混合オクチル/スチリルアルキル化ジフェニルアミン類、混合エチル/メチルスチリルアルキル化ジフェニルアミン類、フェニル−α−ナフチルアミン、オクチルフェニル−β−ナフトニルアミン(naphtnylamine)、t−オクチルフェニル−α−ナフチルアミン、フェニル−β−ナフチルアミン、p−オクチルフェニル−α−ナフチルアミン、4−オクチルフェニル−1−オクチル−β−ナフチルアミン、n−t−ドデシルフェニル−1−ナフチルアミン、N−ヘキシルフェニル−2−ナフチルアミン、および混合アルキル化フェニル−α−ナフチルアミン類を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。ジフェニルアミン類およびフェニル−ナフチルアミン類の市販の例は、CIBA Speciality Chemicalsより商品名イルガノックス(Irganox)L−06およびイルガノックスL−57、またChemturaより商品名ナウガルーベ(Naugalube)AMS、ナウガルーベ438、ナウガルーベ438R、ナウガルーベ438L、ナウガルーベ640、ナウガルーベ680、ナウガルーベAPAN、およびナウガード(Naugard)PANA、またR.T.Vanderbilt Company,Incより商品名バンルーベ(Vanlube)DND、バンルーベNA、バンルーベPNA、バンルーベSL、バンルーベSLHP、バンルーベSS、バンルーベ81、バンルーベ848、およびバンルーベ849、またAlbemarleより商品名AN−1225で入手可能である。
【0026】
典型的には、アミン化合物は、完全に配合された潤滑油組成物の全重量を基準にして0.1から10.0重量%、好ましくは0.1から5.0重量%、より好ましくは0.2から4.0重量%、最も好ましくは0.3から1.5重量%の範囲内の量で存在する。
【0027】
本発明の特に好ましい一実施形態によると、芳香族アミン化合物は一般式(I)
【0028】
【化1】
(式中、各Rは独立して、1から16個の炭素原子、好ましくは3から14個の炭素原子、より好ましくは4から12個の炭素原子を有するアルキル基である。)
を有するジフェニルアミンである。
【0029】
本発明による潤滑組成物は、酸化防止剤、耐摩耗添加剤、分散剤、清浄剤、過塩基性清浄剤、極圧添加剤、摩擦調整剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、金属不動態化剤、腐食防止剤、解乳化剤、消泡剤、シール適合剤(seal compatibility agent)、および添加剤を希釈する基油などの1種類以上の添加剤をさらに含むことができる。
【0030】
当業者であれば上記およびその他の添加剤を熟知しているので、本明細書においてこれらについてさらなる検討は行わない。このような添加剤の具体例は、例えばKirk−Othmer Encyclopedia of Chemical Technology、third edition、volume 14、pages 477−526に記載されている。上述の添加剤は、典型的には、潤滑組成物の全重量を基準にして0.01から35.0重量%の範囲内の量で存在し、好ましくは潤滑組成物の全重量を基準にして0.05から25.0重量%の範囲内、より好ましくは1.0から20.0重量%の範囲内の量で存在する。
【0031】
本発明の潤滑組成物は、1種類以上の添加剤を基油と混合することによって好都合に調製することができる。
【0032】
本発明による潤滑組成物は、好ましくはいわゆる「低SAPS」(SAPS=硫酸灰分、リン、および硫黄)、「中間(mid)SAPS」、または「レギュラー(regular)SAPS」配合物である。
【0033】
乗用車モーターオイル(Passenger Car Motor Oil)(PCMO)エンジンオイルの場合、上記範囲は、
それぞれ最高0.5重量%、最高0.8重量%、および最高1.5重量%の硫酸灰分(ASTM D 874に準拠)、
それぞれ最高0.05重量%、最高0.08重量%、および典型的には最高0.1重量%のリン分(ASTM D 5185に準拠)、ならびに
それぞれ最高0.2重量%、最高0.3重量%、および典型的には最高0.5重量%の硫黄分(ASTM D 5185に準拠)
を意味する。
【0034】
大型車両用ディーゼルエンジンオイル(Heavy Duty Diesel Engine Oil)の場合、上記SAPS範囲は、
それぞれ最高1重量%、最高1重量%、および最高2重量%の硫酸灰分(ASTM D 874に準拠)、
それぞれ最高0.08重量%(低SAPS)および最高0.12重量%(中間SAPS)のリン分(ASTM D 5185に準拠)、ならびに
それぞれ最高0.3重量%(低SAPS)および最高0.4重量%(中間SAPS)の硫黄分(ASTM D 5185に準拠)
を意味する。
【0035】
本発明の潤滑組成物は、潤滑組成物が異なる用途に意図されている場合でもエンジンオイルの上記SAPS範囲に適合させ得る。
【0036】
また、本発明の潤滑組成物は、SAE J300規格(2009年1月改訂)などの特定の工業規格に適合させてもよい。好ましくは本発明による潤滑組成物は、SAE J300 0W−20、5W−30、5W−40、および10W−40クランクケースエンジンオイルの規格、好ましくは10W−40の規格に適合する。SAEは、米国自動車技術者協会(Society of Automotive Engineers)を意味する。
【0037】
組成物が、
7000cP未満の−25℃における絶対粘度(ASTM D 5293に準拠)、
少なくとも12.5cStおよび典型的には16.3cSt未満の100℃における動粘度(ASTM D 445に準拠)、
少なくとも3.5cPの高温高剪断粘度(「HTHS」、ASTM D 4683に準拠)、および
14重量%未満、好ましくは13.0重量%未満、より好ましくは11.0重量%未満、さらにより好ましくは10.5重量%未満、最も好ましくは10.0重量%未満のノアク(Noack)揮発度(ASTM D 5800に準拠)であることが、本発明により特に好ましい。
【0038】
本発明による潤滑組成物は、内燃機関(エンジンオイルとして)中、トランスミッション油、グリース、油圧油、タービン油、コンプレッサー油などとしての種々の用途で使用することができる。
【0039】
別の一態様では、本発明は、抗酸化特性(特に、ASTM D 6186−08に準拠してHPDSCによって、および/またはASTM D 7528−09に準拠したROBO試験によって求められる。)を改善するための、本明細書に記載の潤滑組成物の使用を提供する。
【0040】
以下の実施例を参照しながら本発明を以下に説明するが、これらの実施例は本発明の範囲の限定を意図したものでは決していない。
【0041】
実施例
潤滑油組成物
添加剤および基油の種々の組み合わせを配合した。表1は、使用した基油の性質を示している。表2は、それぞれの基油中に含まれる添加剤の量を示しており、添加剤の量(残分は基油である。)は、添加剤と基油との全重量を基準にした重量%の単位で示されている。参照しやすいように、表2は、2種類以上の添加剤と基油との組み合わせを含有する「混合物1から21」に対する言及も含んでいる。
【0042】
「基油1」(または「BO1」または「GTL 4」)は、100℃における動粘度(ASTM D445)が約3.9cSt(mm−1)であるフィッシャー・トロプシュ誘導基油であった。基油1(および後述の基油3)は、例えばPCT公開WO02/070631(この教示は参照により本明細書に組み入れられる。)に記載される方法によって好都合に製造することができる。
【0043】
「基油2」(または「BO2」)は、100℃における動粘度(ASTM D445)が約4.3cStである市販のグループIII基油であった。基油2は、例えばSK Energy(ウルサン(Ulsan)、韓国)より商品名「ユーベース(Yubase)4」で市販されている。
【0044】
「基油3」(または「BO3」または「GTL 8」)は、100℃における動粘度(ASTM D445)が約7.7cSt(mm−1)であるフィッシャー・トロプシュ誘導基油であった。
【0045】
「基油4」(または「BO4」)は、100℃における動粘度(ASTM D445)が約6.5cStである市販のグループIII基油であった。基油4は、例えばSK Energyより商品名「ユーベース6」で市販されている。
【0046】
【表1】
【0047】
以下の添加剤A1からA22を使用した。
【0048】
A1:CIBA Speciality Chemicals(バーゼル(Basel)、スイス)より商品名「イルガノックスL−57」で入手可能なオクチル化/ブチル化ジフェニルアミン(DPA)。
【0049】
A2:R.T.Vanderbilt(コネチカット州ノーウォーク(Norwalk、Connecticut)、米国)より商品名「バンルーベ81」で入手可能なジオクチル化ジフェニルアミン。
【0050】
A3:Chemtura(コネチカット州ミドルベリー(Middlebury,Connecticut)、米国)より商品名「ナウガルーベAMS」で入手可能な4,4’−ビス(α,α,−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン。
【0051】
A4:CIBA Speciality Chemicalsより商品名「イルガノックスL−06」で入手可能なオクチル化フェニル−α−ナフチルアミン(PANA)。
【0052】
A5:CIBA Speciality Chemicalsより商品名「イルガノックスL−135」で入手可能な液体高MWフェノール系酸化防止剤。
【0053】
A6:R.T.Vanderbiltより商品名「バンルーベ9317」で入手可能な合成エステル中のオリゴマーアミン化合物。
【0054】
A7:Infineum International Ltd(アビントン(Abingdon)、英国)より商品名「インフィニアムC9455」で入手可能な二核モリブデン−硫黄化合物。
【0055】
A8:Adekaより商品名「サクラルーブ(Sakura−Lube)515」で入手可能なジチオカルバミン酸モリブデン。
【0056】
A9:R.T.Vanderbiltより商品名「バンルーベ7723」で入手可能な無灰ジチオカルバマート。
【0057】
A10:CIBA Speciality Chemicalsより商品名「イルガノックスPS800 FL」で入手可能なチオジプロピオン酸エステル。
【0058】
A11:R.T.Vanderbiltより商品名「バンルーベ727」で入手可能な2−エチル−ヘキシル−ジチオホスファート。
【0059】
A12:Lubrizol Corporation(オハイオ州ウィクリフ(Wickliffe,Ohio)、米国)より商品名「Lz 5125」で入手可能なチオリン酸アミン。
【0060】
A13:Lubrizol Corporationより商品名「Lz 1395」で入手可能な第1級ジチオリン酸亜鉛(ZDTP)。
【0061】
A14:Lubrizol Corporationより商品名「Lz 1371」で入手可能な第2級ZDTP。
【0062】
A15:Infineum International Ltdより商品名「インフィニアムC9417」で入手可能な混合ZDTP。
【0063】
A16:Infineum International Ltdより商品名「インフィニアムM7102」で入手可能な低BI(塩基度指数)サリチラート清浄剤(Ca系)。性質:Vk40(270);Vk100(19);TBNE(全塩基価当量(ASTM D 2896);mgKOH/g)=64;Ca(重量%)=2.3。
【0064】
A17:Infineum International Ltd.より商品名「インフィニアムM7121」で入手可能な中間BIサリチラート清浄剤(Ca系)。性質:Vk40(1130);Vk100(95);TBNE(mgKOH/g)=225;Ca(重量%)=8.0%;Mg(重量%)=0.24。
【0065】
A18:Infineum International Ltdより商品名「インフィニアムM7125」で入手可能な高BIサリチラート清浄剤(Ca系)。性質:Vk40(835);Vk100(100);TBNE(mgKOH/g)=350;Ca(重量%)=12.5;Mg(重量%)=0.3。
【0066】
A19:Chemturaより入手可能な酸性有機化合物と、ホウ素化合物と、塩基性有機化合物との反応生成物。例えばUS2005/0172543、および特にこの段落[0025]から[0077]参照。
【0067】
A20:Infineum International Ltdより商品名「インフィニアムC9350」で入手可能なスルホナート清浄剤。性質:Vk40(2300);Vk100(130);TBN(mgKOH/g)=16.5;Ca(重量%)=2.15。
【0068】
A21:Infineum International Ltdより商品名「インフィニアムC9394」で入手可能なフェナート清浄剤。性質:TBN(mgKOH/g)=258;Ca(重量%)=9.5。
【0069】
A22:Infineum International Ltdより商品名「インフィニアムC9012」で入手可能なMg系サリチラート清浄剤。性質:Vk100(65);TBNE(mgKOH/g)=345;Mg(重量%)=7.45。
【0070】
【表2】
【0071】
HPDSC酸化安定性試験
本発明による潤滑組成物の抗酸化特性を示すために、高圧示差走査熱量測定(HighPressure Differential Scanning Calorimetry)(HPDSC)を使用し、ASTM D 6186−08に準拠して、200℃の温度において、(規定の500psigの代わりに)200psigの酸素にさらしながら、酸化誘導時間(OIT)測定を行った。アルミニウム製試料皿を使用した。酸化誘導時間は酸化安定性の指標として使用することができる。
【0072】
SAE 10W−40配合物
さらに、乗用車のクランクケースエンジン中に使用するための種々の低SAPSのSAE 10W−40(PCMO)エンジンオイルを配合した。
【0073】
表3は、試験を行った完全に配合されたエンジンオイル配合物の組成および性質を示している。成分の量は、完全に配合された配合物の全重量を基準にした重量%の単位で示している。
【0074】
試験したすべてのエンジンオイル配合物は、基油と、添加剤パッケージと、清浄剤と、アミンとの組み合わせを含有しており、添加剤パッケージは試験したすべての組成物で同じものであった。
【0075】
添加剤パッケージは、いわゆる低SAPS(低硫酸灰分、リン、および硫黄)PCMO配合物であり、即ち最高0.5重量%の硫酸灰分、最高0.05重量%のリン分、および最高0.2重量%の硫黄分を有した。添加剤パッケージは、酸化防止剤、亜鉛系耐摩耗添加剤、無灰分散剤、流動点降下剤、消泡剤約3ppm、および従来の粘度調整剤濃縮物を含む添加剤の組み合わせを含有した。
【0076】
実施例1から3および比較例1から3の組成物は、従来の潤滑剤混合手順を使用して、基油を添加剤パッケージと混合することによって得た。
【0077】
【表3】
【0078】
ROBO酸化試験
本発明による潤滑組成物の油劣化性(aging properties)を示すために、ASTM D 7528−09に準拠したROBO(ロマシェフスキー・オイルベンチ酸化(Romaszewski Oil Bench Oxidation))試験を使用して測定を行った。このベンチテスト方法は、シーケンス(Sequence)IIGエンジン試験で劣化させた後のASTM TMCシーケンス(ASTM TMC Sequence)IIGAマトリックス標準油434、435、および438で得られる油劣化性と同等の特性を得ることを意図している。
【0079】
粘度増加、見かけの粘度、および降伏応力の測定値を以下の表4に示す。
【0080】
【表4】
【0081】
考察
表2から分かるように、特に混合物14、15、および19(アミンと清浄剤との組み合わせをフィッシャー・トロプシュ誘導基油中に含有する。)の抗酸化特性の改善(HPDSC応答の増加)は、個々の成分の性能に基づいて予想されるよりも高かった。一例として、混合物14(フィッシャー・トロプシュ誘導基油1中にアミンA1を0.5重量%および清浄剤A16を3.5重量%含有)は、109.5分のOITを示した(鉱物由来のグループIII基油の68.2分と比較される。)。これは驚くべきことに、BO1中にアミンA1が0.5重量%(8.0分)、BO1中に清浄剤A16が3.0重量%(15.1分)の寄与の合計よりも高い。従って、特に混合物14、15、および19のフィッシャー・トロプシュ誘導基油中での性能は個別のOITへの寄与の合計と比較すると相乗的である。混合物14、15、および19から、フィッシャー・トロプシュ誘導基油中での同じアミンおよび同じ清浄剤の同じ量での性能が、鉱物由来のグループIII基油中での同じ成分の同じ量での性能よりも有意に良好(長いOIT)であることも同様に分かる。このことは相乗効果を明確に示している。
【0082】
さらに、混合物14および15を混合物16および21と比較すると、混合物14および15の実際のOIT値がはるかに高いため、低または中間BIを有する、即ち60から240mgKOH/gの範囲内などの240mgKOH/g未満のTBNを有する清浄剤が、高BI清浄剤よりも本発明の場合に好ましいことが分かる。
【0083】
さらに、(表4を参照すると)本発明による実施例1から3の組成物(フィッシャー・トロプシュ誘導基油含有)は、粘度増加の(望ましい)減少、および比較例1から3による組成物(鉱物由来の基油)よりも低い試験終了時(EOT)粘度を示すことが分かった。さらに、比較例と比較すると、本発明による組成物で降伏応力が顕著に下がっている。このことは、表2にも示されるような、本発明により請求される清浄剤、アミン化合物、およびフィッシャー・トロプシュ誘導基油の組み合わせの相乗的挙動をさらに示している。