(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5666287
(24)【登録日】2014年12月19日
(45)【発行日】2015年2月12日
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0525 20100101AFI20150122BHJP
H01M 10/0569 20100101ALI20150122BHJP
H01M 10/0587 20100101ALI20150122BHJP
H01M 4/131 20100101ALI20150122BHJP
H01M 4/133 20100101ALI20150122BHJP
H01M 2/26 20060101ALI20150122BHJP
H01M 2/02 20060101ALI20150122BHJP
H01M 2/16 20060101ALI20150122BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20150122BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20150122BHJP
【FI】
H01M10/0525
H01M10/0569
H01M10/0587
H01M4/131
H01M4/133
H01M2/26 A
H01M2/02 A
H01M2/16 P
H01M4/505
H01M4/525
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2010-286400(P2010-286400)
(22)【出願日】2010年12月22日
(65)【公開番号】特開2012-38702(P2012-38702A)
(43)【公開日】2012年2月23日
【審査請求日】2013年12月3日
(31)【優先権主張番号】特願2010-161471(P2010-161471)
(32)【優先日】2010年7月16日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001889
【氏名又は名称】三洋電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101823
【弁理士】
【氏名又は名称】大前 要
(72)【発明者】
【氏名】南 圭亮
(72)【発明者】
【氏名】藤原 豊樹
(72)【発明者】
【氏名】山内 康弘
(72)【発明者】
【氏名】能間 俊之
【審査官】
吉田 安子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−185223(JP,A)
【文献】
特開2009−004289(JP,A)
【文献】
特開2010−092820(JP,A)
【文献】
特開2009−302009(JP,A)
【文献】
特開平11−135107(JP,A)
【文献】
特開2003−346906(JP,A)
【文献】
特開2002−270225(JP,A)
【文献】
特開2002−203555(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0525
H01M 2/02
H01M 2/16
H01M 2/26
H01M 4/131
H01M 4/133
H01M 10/0569
H01M 10/0587
H01M 10/058
H01M 10/052
H01M 10/0566
H01M 4/505
H01M 4/525
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム遷移金属複合酸化物からなる正極活物質を有する正極と、炭素材料からなる負極活物質を有する負極と、非水電解液と、が外装体内部に収容された構造の非水電解質二次電池において、
前記外装体は角形外装缶であり、
前記正極と前記負極がセパレータを介して巻回された扁平状の電極体が前記角形外装缶に収容されており、
前記扁平状の電極体は、一方の端部から複数枚重なりあった正極芯体が突出しており、他方の端部から複数枚重なりあった負極芯体が突出しており、
前記正極芯体に正極集電板が接続され、前記負極芯体に負極集電体が接続され、
前記リチウム遷移金属複合酸化物はニッケル、コバルト、及びマンガンの少なくとも一種を含み、
前記炭素材料は黒鉛であり、
前記非水電解液は溶媒として環状カーボネート及び鎖状カーボネートを含み、
前記非水電解質二次電池の電池容量あたりの前記非水電解液質量が、10.0〜12.0g/Ahであり、且つ、前記外装体内部の空隙体積あたりの前記非水電解液体積が、70〜85%である、
ことを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記リチウム遷移金属複合酸化物がリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物であり、
前記環状カーボネートがエチレンカーボネートであり、
前記鎖状カーボネートがエチルメチルカーボネートである
請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
前記正極の充填密度は2.0〜2.9g/cm3であり、
前記負極の充填密度は0.9〜1.5g/cm3であり、
前記セパレータはオレフィン樹脂製の多孔質膜である
請求項2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
電池容量が、4.6〜6.6Ahである請求項1〜3のいずれかに記載の非水電解質二次電池。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の非水電解質二次電池において、前記正極、前記負極の少なくとも一方の電極の表面には、無機酸化物と、絶縁性結着剤とからなる保護層が設けられており、前記無機酸化物は、アルミナ、チタニア、ジルコニアからなる群より選択される少なくとも一種である、
ことを特徴とする非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池に関し、詳しくは高いサイクル特性を有する非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
ビデオカメラ、携帯電話、ノートパソコン等の携帯電子機器の小型・軽量化が急速に進展しており、その駆動電源として、高いエネルギー密度を有し、高容量である非水電解質二次電池が広く利用されている。
【0003】
近年、非水電解質二次電池は、電動工具や電気自動車等の駆動電源としても使用されるようになってきており、このような用途においては、低温域から高温域までの幅広い温度条件において、高いサイクル特性が求められる。
【0004】
このような非水電解質二次電池に関する技術としては、特許文献1〜10がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8-111239号公報
【特許文献2】特開2002-270225号公報
【特許文献3】特開2008-98107号公報
【特許文献4】特開2002-33123号公報
【特許文献5】特開昭60-65479号公報
【特許文献6】特開2000-294294号公報
【特許文献7】特開2010-113804号公報
【特許文献8】特開平11-135107号公報
【特許文献9】特開平6-275321号公報
【特許文献10】特開2007-220455号公報
【0006】
特許文献1は、電解液量と充放電容量の比を0.0064cc/mAh以上に設定する技術である。この技術によると、形状の薄型化にともなう電池特有の欠陥の発生を防止し得たコイン型二次電池を実現できるとされる。
【0007】
特許文献2は、体積容量密度が400Wh/L以上のリチウム二次電池において、電池内全電解液量をQとし、正極、負極及び高分子膜の全空孔をVxとし、電極と高分子膜間の空間及び電極と高分子膜とからなる極板群の側面と電池ケース内壁との間の空間及び電池内空隙(群の上部および下部)の総和をVyとするとき、全電解液量Qを(Vx+0.4Vy)≦Q≦(Vx+0.8Vy)に規制する技術である。この技術によると、高容量かつ高寿命な特性を確保できるとされる。
【0008】
特許文献3は、電池容量1Ahに対する有機溶媒の量が6〜8g/Ahの範囲であり、且つ正極活物質含有層と負極活物質含有層の対向面積が有機溶媒1gに対して130〜290cm
2/gの範囲に規制する技術である。この技術によると、急速充電性能に優れた非水電解質電池を実現できるとされる。
【0009】
特許文献4は、電解液量を電池の単位放電容量(Ah)当たり3〜7gとし、リチウム塩に四フッ化ホウ酸リチウムを用い、リチウム塩の濃度を1.5〜4Mとする技術である。この技術によると、漏液や膨れを起こすことがなく、安全性にも優れたフィルムパッケージ式非水電解質電池を実現できるとされる。
【0010】
特許文献5は、遷移金属カルコゲン化合物を正極活物質、リチウム又はリチウム合金を負極活物質に用いるリチウム二次電池において、電池内電解液量を正極電気容量で除した値を3μL/mAh以上とする技術である。この技術によると、充放電サイクル特性を向上できるとされる。
【0011】
特許文献6は、リチウムマンガン酸化物を正極活物質とする非水電解液二次電池において、それら正極、負極、およびセパレータそれぞれの空隙率から計算される空隙体積の総和を1としたときに、非水電解液の液量を0.8〜1.5とする技術である。この技術によると、リチウムマンガン酸化物を正極活物質として用いる非水電解液二次電池の高温環境下でのサイクル特性を向上できるとされる。
【0012】
特許文献7は、非水電解液量(体積)を、正極、負極およびセパレータにおける空隙の合計体積の0.9倍以上1.6倍以下とする技術である。この技術によると、充放電を繰り返した際の容量減少をより抑制することができるとされる。
【0013】
特許文献8は、黒鉛質炭素を負極活物質として用いる負極における電解液の含浸率を70〜90%とする技術である。この技術によると、充放電に伴う容量劣化が少なく、サイクル特性に優れたリチウム二次電池を実現できるとされる。
【0014】
特許文献9は、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、チタン、モリブデン又は鉄から選ばれる少なくとも一種以上の金属を主体とするリチウム金属化合物を活物質とする正極と、X線回折による黒鉛構造の(002)面の回折ピーク(d
002)が0.340nm以下の粉末である炭素物質と、非水電解液を備えたリチウム二次電池において、非水電解液量を、電池放電容量に対して7cm
3/Ah以下とする技術である。この技術によると、高容量でサイクル寿命に優れたリチウム二次電池を実現できるとされる。
【0015】
特許文献10は、非水電解液量を、放電容量1mAh当たり1.3〜1.8μLとする技術である。この技術によると、電池を高容量・高エネルギー密度化した場合においても、サイクル特性が劣化することなく、高温保存時の信頼性にも優れた非水電解液二次電池を実現できるとされる。
【0016】
しかしながら、これらの技術によっても、低温域から高温域までの広い温度範囲で必ずしも高いサイクル特性が得られるものではないという問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、以上の知見に基づき完成されたものであって、低温域から高温域(例えば、−30〜70℃)までの広い温度範囲において、優れたサイクル特性を発揮し得る非水電解質二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するための本発明は、リチウム遷移金属複合酸化物からなる正極活物質を有する正極と、炭素材料からなる負極活物質を有する負極と、非水電解液とが外装体内部に収容された構造の非水電解質二次電池において、
前記外装体は角形外装缶であり、前記正極と前記負極がセパレータを介して巻回された扁平状の電極体が前記角形外装缶に収容されており、前記扁平状の電極体は、一方の端部から複数枚重なりあった正極芯体が突出しており、他方の端部から複数枚重なりあった負極芯体が突出しており前記正極芯体に正極集電板が接続され、前記負極芯体に負極集電体が接続され、前記リチウム遷移金属複合酸化物はニッケル、コバルト、及びマンガンの少なくとも一種を含み、前記炭素材料は黒鉛であり、前記非水電解液は溶媒として環状カーボネート及び鎖状カーボネートを含み、前記非水電解質二次電池の電池容量あたりの前記非水電解液質量が、10.0〜12.0g/Ahであり、且つ、前記外装体内部の空隙体積あたりの前記非水電解液体積が、70〜85%であることを特徴とする。
【0019】
本発明者らが鋭意研究を行ったところ、低温〜高温の幅広い温度条件で優れたサイクル特性を得るためには、電池容量あたりの非水電解液質量とともに、外装体内部の空隙体積あたりの非水電解液体積を所定の範囲内とする必要があることを知った。この知見について説明する。
【0020】
外装体の空隙体積に対する非水電解液体積が過少であると、充放電サイクルを繰り返した場合に、電極体に十分な量の非水電解液が供給されず、非水電解液不足によりサイクル特性が低下する。また、電池容量あたりの非水電解液質量が過少であると、非水電解液の絶対量が少ないため、この場合もまた非水電解液不足が起き易くなる。非水電解液不足は、非水電解液の粘性が高まる低温条件において特に起き易いため、低温条件下におけるサイクル特性が大幅に低下する。このため、電池容量あたりの非水電解液質量を10g/Ah以上で且つ外装体の空隙体積に対する非水電解液体積を70%以上とする。
【0021】
この一方、外装体の空隙体積に対する非水電解液体積が過大であると、非水電解液の注液に要する時間が長くなるため、生産効率が低下する。また、電池容量あたりの非水電解液質量が12g/Ahあたりで低温サイクル特性向上効果がほぼ上限に達し、これ以上非水電解液質量を増やすと重量エネルギー密度が低下する。このため、電池容量あたりの非水電解液質量の上限は好ましくは12g/Ahとし、外装体の空隙体積に対する非水電解液体積の上限は好ましくは85%とする。
【0022】
ここで、上記電池容量は、25℃条件で、電池を1Itの定電流で電圧が4.1Vとなるまで充電し、その後定電圧4.1Vで2.5時間充電を行い、その後定電流1Itで電圧が2.5Vとなるまで放電したときの放電容量を意味する。また、1Itの値は、電池容量を1時間で放電させる電流値とする。
【0023】
また、上記外装体の空隙体積は、外装体と封口板とにより構成される密閉空間の容積から電極体等の上記密閉空間に収容する構成材料の実質体積を減じることにより算出できる。電極体以外の構成材料としては、外装体や封口板と電極体とを絶縁離隔する絶縁板や、電極体と外部端子とを接続するためのリード等がある。ここで、電極体等の実質体積とは、正負電極やセパレータ等の空隙体積は含まないものとする。また、外装体の空隙体積及び非水電解液体積は、25℃、1気圧(101325Pa)条件でのものとする。
【0024】
また、外装体の空隙体積に対する非水電解液体積は、25℃、1気圧(101325Pa)条件でのものである。
【0025】
上記構成において、前記正極、前記負極の少なくとも一方の電極の表面には、無機酸化物と、絶縁性結着剤とからなる保護層が設けられており、前記無機酸化物は、アルミナ、チタニア、ジルコニアからなる群より選択される少なくとも一種である構成とすることができる。
【0026】
上記構成の保護層は、絶縁性の無機酸化物と絶縁性結着剤とからなるため、万が一電池内部に導電性異物が混入して正負極を絶縁しているセパレータを突き破ったとしても、内部短絡を防止できる可能性を高めることができる。よって、万が一の場合における電池の安全性を高めることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によると、幅広い温度範囲で優れたサイクル特性を発揮する非水電解質二次電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明を実施するための形態を、実施例を用いて説明する。なお、本発明は下記の形態に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することができる。
【0029】
(実施例1)
〈正極活物質の作製〉
リチウム源としての炭酸リチウム(Li
2CO
3)と、遷移金属源としての(Ni
0.35Co
0.35Mn
0.3)
3O
4とを、リチウムのモル数と、遷移金属の合計モル数と、の比が1:1となるように混合した。この混合物を、空気雰囲気下、900℃で20時間焼成して、LiNi
0.35Co
0.35Mn
0.3O
2からなる正極活物質を作製した。
【0030】
〈正極の作製〉
この正極活物質と、導電剤としての薄片化黒鉛及びカーボンブラックと、結着剤としてのポリフッ化ビニリデンがN−メチル−2−ピロリドン(NMP)中に分散された分散液とを、固形分質量比88:7:2:3で混合して正極活物質スラリーとした。この正極活物質スラリーを、アルミニウム合金製の正極芯体(厚み15μm)の両面に塗布した。ただし、正極芯体の長手方向に沿う一方の端部(両面ともに同一方向の端部)にはスラリーを塗布せず、その芯体を露出させて、正極芯体露出部を形成した。
【0031】
この極板を乾燥し、スラリー調製時に必要であったNMPを揮発除去した。この後、充填密度が2.61g/cm
3となるように圧延し、所定のサイズに裁断して正極を作製した。
【0032】
〈負極の作製〉
負極活物質としての天然黒鉛と、結着剤としてのスチレンブタジエンゴムと、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロースとを、質量比98:1:1で混合し、さらに水と混合して負極活物質スラリーとした。この後、この負極活物質スラリーを銅製の負極芯体(厚み10μm)の両面に塗布した。ただし、負極芯体の長手方向に沿う一方の端部(両面ともに同一方向の端部)にはスラリーを塗布せず、その芯体を露出させて、負極芯体露出部を形成した。
【0033】
この極板を乾燥し、スラリー調製時に必要であった水を揮発除去した。この後、充填密度が1.11g/cm
3となるように圧延し、所定のサイズに裁断した。
【0034】
この後、アルミナと、アクリロニトリル系の結着剤と、NMPとを、質量比30:0.9:69.1で混合してスラリーとし、このスラリーを負極活物質層上に塗布した。この極板を乾燥し、スラリー調製時に必要であったNMPを揮発除去して、保護層が形成された負極を作製した。なお、保護層の厚みは、3μmとした。
【0035】
なお、上記正負極の充填密度は、次のようにして算出した。まず、圧延後の電極を10cm
2のサイズに切り取り、その質量A(g)及び厚みC(cm)を測定した。次いで、芯体を10cm
2のサイズに切り取り、その質量B(g)及び厚みD(cm)を測定した。そして、以下の式により、充填密度を算出した。ここで、負極の充填密度はアルミナ含有スラリーを塗布する前に測定した。
【0036】
充填密度(g/cm
3)=(A−B)/〔(C−D)×10(cm
2)〕
【0037】
〈電極体の作製〉
上記正極板と負極板とポリエチレン製微多孔膜からなるセパレータとを、同極の芯体露出部同士が複数枚直接重なり、異なる芯体露出部同士が巻回方向に対し互いに逆向きに突出し、かつ異なる活物質層間にはセパレータが介在するように3つの部材を位置あわせし重ね合わせ、巻き取り機により巻回し、絶縁性の巻き止めテープを設け、その後プレスして扁平状の電極体を完成させた。
【0038】
〈集電板の取り付け〉
この後、正極芯体露出部が複数枚重なり合ってなる正極芯体集合領域にアルミニウム製の正極集電板を、負極芯体露出部が複数枚重なり合ってなる負極芯体集合領域に銅製の負極集電板を、それぞれレーザ溶接により取り付けた。
【0039】
〈非水電解液の調製〉
非水溶媒としてのエチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを体積比3:7(25℃、1気圧)で混合し、電解質塩としてのLiPF
6を1M(モル/リットル)となるように溶解してベース非水電解液となした。このベース非水電解液と、ビニレンカーボネートと、シクロヘキシルベンゼンとを、質量比97.7:0.3:2.0で混合し、さらにリチウムビスオキサレートボレートを0.12M(モル/リットル)となるように溶解して、非水電解液となした。
【0040】
〈電池の組み立て〉
角形外装缶に電池容量が5.4Ahとなるように設計した上記電極体を挿入した後、正負集電板をそれぞれ封口板に設けられた電極外部端子に接続し、上記非水電解液を55.08g注液し、外装缶の開口部を封口することにより、実施例1に係る非水電解質二次電池を作製した。
【0041】
(実施例2)
上記非水電解液を58.86g注液したこと以外は、上記実施例1と同様にして、実施例2に係る非水電解質二次電池を作製した。
【0042】
(実施例3)
上記非水電解液を63.18g注液したこと以外は、上記実施例1と同様にして、実施例3に係る非水電解質二次電池を作製した。
【0043】
(比較例1)
上記非水電解液を50.76g注液したこと以外は、上記実施例1と同様にして、比較例1に係る非水電解質二次電池を作製した。
【0044】
(比較例2)
正極の充填密度を2.43g/cm
3、負極の充填密度を0.96g/cm
3とし、電池容量が4.6Ahとなるように正極及び負極を裁断して電極体を作製し、上記非水電解液を46.92g注液したこと以外は、上記実施例1と同様にして、比較例2に係る非水電解質二次電池を作製した。
【0045】
(比較例3)
上記非水電解液を50.14g注液したこと以外は、上記比較例2と同様にして、比較例3に係る非水電解質二次電池を作製した。
【0046】
(比較例4)
上記非水電解液を53.36g注液したこと以外は、上記比較例2と同様にして、比較例4に係る非水電解質二次電池を作製した。
【0047】
(比較例5)
正極の充填密度を2.80g/cm
3、負極の充填密度を1.40g/cm
3とし、電池容量が6.6Ahとなるように正極及び負極を裁断して電極体を作製し、上記非水電解液を56.76g注液したこと以外は、上記実施例1と同様にして、比較例5に係る非水電解質二次電池を作製した。
【0048】
(比較例6)
上記非水電解液を59.40g注液したこと以外は、上記比較例5と同様にして、比較例6に係る非水電解質二次電池を作製した。
【0049】
〔初期容量の測定〕
上記の方法で作製した実施例1〜3、比較例1〜6の電池に対して、1It(実施例1〜3及び比較例1については5.4A、比較例2〜4については4.6A、比較例5及び6については6.6A)で電圧が4.1Vとなるまで充電し、その後定電圧4.1Vで2.5時間充電した。その後、定電流1It(実施例1〜3及び比較例1については5.4A、比較例2〜4については4.6A、比較例5及び6については6.6A)で電圧が2.5Vとなるまで放電し、その放電容量を測定した。この結果を下記表1に示す。なお、上記充放電はいずれも25℃条件で行い、1Itの値は、電池容量より算出した。
【0050】
〔パルスサイクル試験〕
上記の方法で作製した実施例1〜3、比較例1〜6の電池に対して、低温(−30℃)条件で、270A以下の電流を60秒以内の時間充電又は放電するパルス充放電を、充電容量と放電容量の合計が50Ah以上となるまで行った。また、上記実施例1〜3、比較例1の電池に対しては、さらに、室温(25℃)、及び高温(70℃)の温度条件で、270A以下の電流を60秒以内の時間充電又は放電するパルス充放電を、充電容量と放電容量の合計が5000Ah以上となるまで行った。
【0051】
ここで、低温での試験においては、実施例1〜3および比較例1〜6は全て同一の終了条件とし、室温及び高温での試験においては、実施例1〜3および比較例1は全て同一の終了条件とした。このパルスサイクル後の電池を、上記初期容量測定と同様の条件で放電し、その放電容量を測定した。そして、以下の式によりサイクル後の容量維持率を算出した。この結果を下記表1に示す。
【0052】
容量維持率(%)=サイクル後放電容量÷初期容量×100
【0053】
〔外装缶の空隙体積あたりの非水電解液体積の算出〕
まず、外装缶と封口板とにより構成される密閉空間の容積を算出し、電極体の構成材料の質量及び比重から算出した電極体実質体積(空隙を含まない体積)を減じて、外装缶の空隙体積を算出した。次いで、注液した非水電解液体積を外装缶の空隙体積で除して、外装缶の空隙体積あたりの非水電解液体積を算出した。なお、体積算出は、いずれも、25℃、1気圧(101325Pa)条件のものである。
【0054】
〔電池容量あたりの非水電解液質量の算出〕
非水電解液質量を上記初期容量(電池容量)で除して、電池容量あたりの非水電解液質量を算出した。
【0056】
上記表1から、電池容量あたりの非水電解液質量が9.4g/Ah、外装缶の空隙体積に対する非水電解液体積が65.6%である比較例1は、パルスサイクル後容量維持率が低温条件:82.5%、室温:91.4%、高温:82.4%であり、電池容量あたりの非水電解液質量が10.0g/Ah以上、且つ、外装缶の空隙体積に対する非水電解液体積が70%以上である実施例1〜3のパルスサイクル容量維持率の低温:92.0〜96.7%、室温:90.7〜91.3%、高温:82.0〜82.8%に比べ、低温条件において顕著に劣っていることがわかる。
【0057】
また、電池容量あたりの非水電解液質量が10.0g/Ah以上であるが、外装缶内部の空隙体積あたりの非水電解質体積が70%未満(55.5〜63.0%)である比較例2〜4は、低温でのパルスサイクル容量維持率が40.4〜52.6%、電池容量あたりの非水電解液質量が、10g/Ah未満(8.6〜9.0g/Ah)でありであり、外装缶内部の空隙体積あたりの非水電解質体積が70%以上である比較例5,6は、低温でのパルスサイクル容量維持率が86.4〜89.2%であり、電池容量あたりの非水電解液質量が10.0g/Ah以上であり、且つ、外装缶内部の空隙体積あたりの非水電解液体積が70%以上である実施例1〜3の92.0〜96.7%に比べ、低温でのパルスサイクル後の容量維持率が低いことがわかる。
【0058】
このことは、次のように考えられる。リチウム遷移金属複合酸化物を用いた正極及び炭素材料を用いた負極は、充放電によって体積が膨張・収縮し、電極膨張時には非水電解液は極板外部に移動し、電極収縮時には非水電解液は極板内部に移動する。ここで、外装缶の空隙体積に対する非水電解液体積が過少であると、充放電サイクルを繰り返した場合に、電極収縮時に十分な量の非水電解液が供給されず、非水電解液不足が生じ、これによりスムースな充放電反応が阻害される。特に、低温条件においては、非水電解液の粘性が高まるので、非水電解液不足がより起き易く、その後の室温での放電容量が低下する。また、電池容量あたりの非水電解液質量が過少であると、非水電解液の絶対量が少ないため、充放電サイクルに伴う非水電解液不足が起き易くなる。
【0059】
低温でのパルスサイクル後の容量維持率を向上させるためには、電池容量あたりの非水電解液質量が、10.0g/Ah以上であるとともに、外装缶内部の空隙体積あたりの非水電解液体積が70%以上であることが必要であり、いずれか一方でも満たさない場合には、低温でのパルスサイクル後の容量維持率を向上させることができない。したがって、電池容量あたりの非水電解液質量を10g/Ah以上で且つ外装缶の空隙体積に対する非水電解液体積を70%以上とする。
【0060】
なお、外装缶の空隙体積に対する非水電解液体積を85%よりも多くすると、非水電解液の注液に要する時間が長くなり、生産効率が低下する。また、電池容量あたりの非水電解液質量が12g/Ahあたりで低温サイクル特性向上効果がほぼ上限に達し、さらに非水電解液質量を増やすと重量エネルギー密度が低下する。よって、外装缶の空隙体積に対する非水電解液体積の上限は85%とすることが好ましく、電池容量あたりの非水電解液質量の上限は12g/Ahとすることが好ましい。
【0061】
(追加事項)
正極活物質としては、コバルト酸リチウム(LiCoO
2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO
2)、マンガン酸リチウム(LiMn
2O
4)、リチウムニッケルマンガン複合酸化物(LiNi
1−xMn
xO
2(0<x<1)、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(LiNi
1−xCo
xO
2(0<x<1)、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LiNi
xCo
yMn
zO
2(0<x<1、0<y<1、0<z<1、x+y+z=1)等のリチウム遷移金属複合酸化物を用いることができる。また、このリチウム遷移金属複合酸化物に、さらにAl,Ti,Zr,Nb,B,Mg,Mo等の異種元素が、Co,Ni,Mnの合計モル数を1とするとき、異種元素合計モル数が0.02以下の割合で添加されていてもよい。
【0062】
負極活物質としては、天然黒鉛、人造黒鉛、難黒鉛化炭素、易黒鉛化炭素、繊維状炭素、コークス、カーボンブラック等を用いることができる。
【0063】
セパレータとしては、ポリプロピレンやポリエチレン等のオレフィン樹脂製の多孔質膜を用いることができる。多孔質膜は、単層構造であってもよく、多層構造であってもよい。
【0064】
正極の充填密度は、好ましくは2.0〜2.9g/cm
3とし、より好ましくは2.2〜2.8g/cm
3とし、さらに好ましくは2.4〜2.8g/cm
3とする。また、負極の充填密度は、好ましくは0.9〜1.5g/cm
3とする。
【0065】
非水電解液の溶媒としては、プロピレンカーボネート・エチレンカーボネート・ブチレンカーボネート・ビニレンカーボネート・フルオロエチレンカーボネートに代表される環状カーボネート、γ−ブチロラクトン・γ−バレロラクトンに代表されるラクトン、ジエチルカーボネート・ジメチルカーボネート・メチルエチルカーボネートに代表される鎖状カーボネート、テトラヒドロフラン・1,2−ジメトキシエタン・ジエチレングリコールジメチルエーテル・1,3−ジオキソラン・2−メトキシテトラヒドロフラン・ジエチルエーテルに代表されるエーテル、酢酸エチル・酢酸プロピルに代表されるエステル等を単独で、あるいは二種以上混合して用いることができる。
【0066】
また、非水電解液の電解質塩としては、LiPF
6、LiBF
4、LiCF
3SO
3、LiN(CF
3SO
2)
2、LiN(C
2F
5SO
2)
2、LiN(CF
3SO
2)(C
4F
9SO
2)LiC(C
2F
5SO
2)
3、LiAsF
6、LiClO
4、Li
2B
10Cl
10、Li
2B
12l
12、LiB(C
2O
4)
2、LiB(C
2O
4)F
2、LiP(C
2O
4)
2F
2等を単独で、あるいは二種以上混合して用いることができる。また、電解質塩の濃度は、0.5〜2.0M(モル/リットル)とすることが好ましい。
【0067】
また、非水電解液に、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、シクロヘキシルベンゼン、tert−アミルベンゼン等の公知の添加剤が添加されていてもよい。
【0068】
上記実施例においては外装体として外装缶を用いる場合を例として説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、ラミネート外装体等を使用することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0069】
以上に説明したように、本発明によれば、広い温度条件においてサイクル特性に優れた非水電解質二次電池を実現できるという優れた効果を奏する。したがって、産業上の利用可能性は大きい。