(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ガスバリア層が、厚みが30nmから200μmであるポリオルガノシロキサン系化合物を含む層の、該層表面から5nm〜100nmの深さまでの領域に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の積層体。
前記ガスバリア層が、該ガスバリア層の表層部におけるX線光電子分光(XPS)測定において、ケイ素原子の2p電子軌道の結合エネルギーのピーク位置が102〜104eVであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の積層体。
ポリオルガノシロキサン系化合物を含む層を表面部に有する成形物の、前記ポリオルガノシロキサン系化合物を含む層に、イオンを注入してガスバリア層を形成する工程を有する請求項8〜10のいずれかに記載の積層体の製造方法。
前記イオンを注入する工程が、窒素、酸素、アルゴン及びヘリウムからなる群から選ばれる少なくとも一種のガスをイオン化して注入する工程であることを特徴とする請求項11に記載の積層体の製造方法。
前記イオンを注入する工程が、ポリオルガノシロキサン系化合物を含む層を表面部に有する長尺状の成形物を一定方向に搬送しながら、前記ポリオルガノシロキサン系化合物を含む層にイオンを注入する工程であることを特徴とする請求項12または13に記載の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を、1)積層体及びその製造方法、並びに、2)電子デバイス部材および電子デバイスに項分けして詳細に説明する。
【0022】
1)積層体
本発明の積層体は、少なくとも、酸素原子、炭素原子及びケイ素原子を含む材料から構成されてなるガスバリア層と、無機化合物層を有する積層体であって、前記ガスバリア層の表面から深さ方向に向かって、該ガスバリア層中における酸素原子の存在割合が漸次減少し、炭素原子の存在割合が漸次増加していることを特徴とする。
【0023】
(ガスバリア層)
本発明の積層体のガスバリア層(以下、「A層」ということがある。)は、少なくとも、酸素原子、炭素原子及びケイ素原子を含む材料から構成されてなり、かつ、層の表面から深さ方向に向かって、層中における酸素原子の存在割合が漸次減少し、炭素原子の存在割合が漸次増加していることを特徴とする。
【0024】
前記少なくとも、酸素原子、炭素原子及びケイ素原子を含む材料は、少なくとも、酸素原子、炭素原子及びケイ素原子を含む高分子であれば、特に制約はないが、より優れたガスバリア性を発揮する観点から、前記ガスバリア層の表層部における酸素原子、炭素原子及びケイ素原子の存在量全体に対する(すなわち、酸素原子、炭素原子及びケイ素原子の存在量の合計を100%とした場合の)酸素原子の存在割合が10〜70%、炭素原子の存在割合が10〜70%、ケイ素原子の存在割合が5〜35%であるものが好ましく、酸素原子の存在割合が15〜65%、炭素原子の存在割合が15〜65%、ケイ素原子の存在割合が10〜30%であるものがより好ましい。酸素原子、炭素原子及びケイ素原子の存在割合の測定は、実施例において説明する方法で行う。
【0025】
表面から深さ方向に向かって、酸素原子の存在割合が漸次減少し、炭素原子の存在割合が漸次増加する領域は、ガスバリア層に相当する領域であり、厚さは、通常、5〜100nm、好ましくは10〜50nmである。このようなガスバリア層としては、例えば、後述するように、ポリオルガノシロキサン系化合物を含む層にイオンが注入されて得られる層(以下、「注入層」ということがある。)や、ポリオルガノシロキサン系化合物を含む層にプラズマ処理が施されて得られる層が挙げられる。
【0026】
また、前記ガスバリア層は、ガスバリア層の表層部におけるX線光電子分光(XPS)測定において、ケイ素原子の2p電子軌道の結合エネルギーのピーク位置が102〜104eVであるものが好ましい。
例えば、ポリジメチルシロキサンの層は、X線光電子分光(XPS)測定において、ケイ素原子の2p電子軌道の結合エネルギーのピーク位置が約101.5eVであるのに対し、このポリジメチルシロキサンの層にアルゴンをイオン注入して得られたイオン注入層(ガスバリア層)は、表層部におけるX線光電子分光(XPS)測定において、ケイ素原子の2p電子軌道の結合エネルギーのピーク位置が約103eVとなる。この値は、ガラスや二酸化ケイ素膜などのような、従来公知のガスバリア性を有するケイ素含有高分子に含まれるケイ素原子の2p電子軌道の結合エネルギーのピーク位置とほぼ同程度である(X線光電子分光(XPS)測定におけるケイ素原子の2p電子軌道の結合エネルギーのピーク位置は、ガラスの場合約102.5eVであり、二酸化ケイ素膜の場合約103eVである。)。このことから、ガスバリア層の表層部におけるケイ素原子の2p電子軌道の結合エネルギーのピーク位置が102〜104eVである本発明の成形体は、ガラスや二酸化ケイ素膜と同一又は類似の構造を有しているので、ガスバリア性能に優れていると推測される。なお、ケイ素原子の2p電子軌道の結合エネルギーのピーク位置の測定は、実施例において説明する方法で行う。
【0027】
本発明の積層体は、ポリオルガノシロキサン系化合物を含むことが好ましい。また、前記ガスバリア層が、厚みが30nmから200μmであるポリオルガノシロキサン系化合物を含む層の表面部に形成され、該ガスバリア層の深さが5nmから100nmであることが好ましく、30nmから50nmであることがより好ましい。
【0028】
また、本発明の積層体においては、前記ガスバリア層が、ポリオルガノシロキサン系化合物を含む層にイオンが注入されて得られる層であることがより好ましい。
【0029】
本発明の積層体において用いるポリオルガノシロキサン系化合物の主鎖構造に制限はなく、直鎖状、ラダー状、籠状のいずれであってもよい。
例えば、前記直鎖状の主鎖構造としては下記式(a)で表される構造が、ラダー状の主鎖構造としては下記式(b)で表される構造がそれぞれ挙げられ、籠状の主鎖構造としては下記式(c)で表される構造が例示される。これらの中でも、下記(a)又は(b)で表される構造が好ましい。
【0033】
式中、Rx、Ry、Rzは、それぞれ独立して、水素原子、無置換若しくは置換基を有するアルキル基、無置換若しくは置換基を有するアルケニル基、無置換若しくは置換基を有するアリール基等の非加水分解性基を表す。なお、式(a)の複数のRx、式(b)の複数のRy、および式(c)の複数のRzは、それぞれ同一でも相異なっていてもよい。ただし、前記式(a)のRxが2つとも水素原子であることはない。
【0034】
無置換若しくは置換基を有するアルキル基のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n−へキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基等の炭素数1〜10のアルキル基が挙げられる。
【0035】
アルケニル基としては、例えば、ビニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基等の炭素数2〜10のアルケニル基が挙げられる。
【0036】
前記アルキル基およびアルケニル基の置換基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;ヒドロキシル基;チオール基;エポキシ基;グリシドキシ基;(メタ)アクリロイルオキシ基;フェニル基、4−メチルフェニル基、4−クロロフェニル基等の無置換若しくは置換基を有するアリール基;等が挙げられる。
【0037】
無置換または置換基を有するアリール基のアリール基としては、例えば、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基等の炭素数6〜10のアリール基が挙げられる。
【0038】
前記アリール基の置換基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;メチル基、エチル基等の炭素数1〜6のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基等の炭素数1〜6のアルコキシ基;ニトロ基;シアノ基;ヒドロキシル基;チオール基;エポキシ基;グリシドキシ基;(メタ)アクリロイルオキシ基;フェニル基、4−メチルフェニル基、4−クロロフェニル基等の無置換若しくは置換基を有するアリール基;等が挙げられる。
【0039】
これらの中でも、Rx、Ry、Rzとしては、それぞれ独立して、無置換もしくは置換基を有する、炭素数1〜6のアルキル基、またはフェニル基が好ましく、メチル基、エチル基、プロピル基、3−グリシドキシプロピル基、またはフェニル基が特に好ましい。
なお、式(a)の複数のRx、式(b)の複数のRy、および式(c)の複数のRzは、それぞれ同一でも相異なっていてもよい。
【0040】
本発明においては、ポリオルガノシロキサン系化合物としては、前記式(a)で表される直鎖状の化合物、または前記式(b)で表されるラダー状の化合物が好ましく、入手容易性、および優れたガスバリア性を有する注入層を形成できる観点から、前記式(a)において2つのRxが、メチル基またはフェニル基である直鎖状の化合物、前記式(b)において2つのRyが、メチル基、プロピル基、3−グリシドキシプロピル基またはフェニル基であるラダー状の化合物が特に好ましい。
【0041】
ポリオルガノシロキサン系化合物は、加水分解性官能基を有するシラン化合物を重縮合する、公知の製造方法により得ることができる。
【0042】
用いるシラン化合物は、目的とするポリオルガノシロキサン系化合物の構造に応じて適宜選択すればよい。好ましい具体例としては、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン等の2官能シラン化合物;メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−ブチルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルジエトキシメトキシシラン等の3官能シラン化合物;テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラn−プロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラn−ブトキシシラン、テトラt−ブトキシシラン、テトラs−ブトキシシラン、メトキシトリエトキシシラン、ジメトキシジエトキシシラン、トリメトキシエトキシシラン等の4官能シラン化合物等が挙げられる。
【0043】
また、ポリオルガノシロキサン系化合物は、剥離剤、接着剤、シーラント、塗料等として市販されている市販品をそのまま使用することもできる。
【0044】
ポリオルガノシロキサン系化合物を含む層は、ポリオルガノシロキサン系化合物の他に、本発明の目的を阻害しない範囲で他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、硬化剤、他の高分子、老化防止剤、光安定剤、難燃剤等が挙げられる。
【0045】
なお、ポリオルガノシロキサン系化合物を含む層中の、ポリオルガノシロキサン系化合物の含有量は、優れたガスバリア性を有する注入層を形成できる観点から、50重量%以上であるのが好ましく、70重量%以上であるのがより好ましく、90重量%以上であるのが特に好ましい。
【0046】
ポリオルガノシロキサン系化合物を含む層を形成する方法としては、特に制約はなく、例えば、ポリオルガノシロキサン系化合物の少なくとも一種、所望により他の成分、および溶剤等を含有する層形成用溶液を、適当な基材の上に塗布し、得られた塗膜を乾燥し、必要に応じて加熱等して形成する方法が挙げられる。
【0047】
形成されるポリオルガノシロキサン系化合物を含む層の厚みは、特に制限されないが、通常30nmから200μm、好ましくは50nmから100μmである。
【0048】
前記注入層は、ポリオルガノシロキサン系化合物を含む層にイオンが注入されてなるものである。
イオンの注入量は、形成する積層体の使用目的(必要なガスバリア性、透明性等)等に合わせて適宜決定すればよい。
【0049】
注入されるイオンとしては、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノンなどの希ガス;、フルオロカーボン、水素、窒素、酸素、二酸化炭素、塩素、フッ素、硫黄等のイオン;金、銀、銅、白金、ニッケル、パラジウム、クロム、チタン、モリブデン、ニオブ、タンタル、タングステン、アルミニウム等の導電性の金属のイオン;等が挙げられる。
【0050】
なかでも、より簡便に注入することができ、特に優れたガスバリア性と透明性を有する注入層が得られることから、水素、酸素、窒素、希ガスおよびフルオロカーボンからなる群から選ばれる少なくとも一種のイオンが好ましく、窒素、酸素、アルゴンまたはヘリウムのイオンが特に好ましい。
【0051】
イオンを注入する方法は特に限定されず、例えば、ポリオルガノシロキサン系化合物を含む層を形成した後、該ポリオルガノシロキサン系化合物を含む層にイオンを注入する方法等が挙げられる。
【0052】
イオン注入法としては、電界により加速されたイオン(イオンビーム)を照射する方法、プラズマ中のイオンを注入する方法等が挙げられる。なかでも、本発明においては、簡便にガスバリア性を有する積層体が得られることから、後者のプラズマイオン注入する方法が好ましい。
【0053】
プラズマイオン注入は、例えば、希ガス等のプラズマ生成ガスを含む雰囲気下でプラズマを発生させ、ポリオルガノシロキサン系化合物を含む層に負の高電圧パルスを印加することにより、該プラズマ中のイオン(陽イオン)をポリオルガノシロキサン系化合物を含む層の表面部に注入して行うことができる。
【0054】
イオンが注入されたことは、X線光電子分光(XPS)分析を用いて、ガスバリア層表層部の元素分析測定を行うことによって確認することができる。
【0055】
(無機化合物層)
本発明の積層体は、さらに無機化合物層(以下、「B層」ということがある。)を有する。無機化合物層は、無機化合物の一種又は二種以上からなる層である。
B層を構成する無機化合物としては、一般的に真空成膜可能で、ガスバリア性を有するもの、例えば無機酸化物、無機窒化物、無機炭化物、無機硫化物、これらの複合体である無機酸化窒化物、無機酸化炭化物、無機窒化炭化物、無機酸化窒化炭化物等が挙げられる。これらの中でも、本発明においては、無機酸化物、無機窒化物、無機酸化窒化物が好ましい。
【0056】
無機酸化物としては、一般式MOxで表される金属酸化物が挙げられる。
式中、Mは金属元素を表す。xはMによってそれぞれ範囲が異なり、例えば、Mがケイ素(Si)であれば0.1〜2.0、アルミニウム(Al)であれば0.1〜1.5、マグネシウム(Mg)であれば0.1〜1.0、カルシウム(Ca)であれば0.1〜1.0、カリウム(K)であれば0.1〜0.5、スズ(Sn)であれば0.1〜2.0、ナトリウム(Na)であれば0.1〜0.5、ホウ素(B)であれば0.1〜1.5、チタン(Ti)であれば0.1〜2.0、鉛(Pb)であれば0.1〜1.0、ジルコニウム(Zr)であれば0.1〜2.0、イットリウム(Y)であれば、0.1〜1.5の範囲の値である。
【0057】
これらの中でも、透明性等に優れることから、Mがケイ素であるケイ素酸化物、アルミニウムであるアルミニウム酸化物、チタンであるチタン酸化物が好ましく、ケイ素酸化物がより好ましい。なお、xの値としては、Mがケイ素であれば1.0〜2.0が、アルミニウムであれば0.5〜1.5が、チタンであれば1.3〜2.0の範囲のものが好ましい。
【0058】
無機窒化物としては、一般式MNyで表される金属窒化物が挙げられる。
式中、Mは金属元素を表す。yはMによってそれぞれ範囲が異なり、Mがケイ素(Si)であればy=0.1〜1.3、アルミニウム(Al)であればy=0.1〜1.1、チタン(Ti)であればy=0.1〜1.3、すず(Sn)であればy=0.1〜1.3の範囲の値である。
【0059】
これらの中でも、透明性等に優れることから、Mがケイ素であるケイ素窒化物、アルミニウムであるアルミニウム窒化物、チタンであるチタン窒化物、スズであるスズ窒化物が好ましく、ケイ素窒化物(SiN)がより好ましい。なお、yの値としては、Mがケイ素であればy=0.5〜1.3、アルミニウムであればy=0.3〜1.0、チタンであればy=0.5〜1.3、スズであればy=0.5〜1.3の範囲のものが好ましい。
【0060】
無機酸化窒化物としては、一般式MOxNyで表される金属酸化窒化物が挙げられる。
式中、Mは金属元素を表す。x及びyの値は、Mによってそれぞれ範囲が異なる。すなわち、x、yは、例えば、Mがケイ素(Si)であればx=1.0〜2.0、y=0.1〜1.3、アルミニウム(Al)であればx=0.5〜1.0、y=0.1〜1.0、マグネシウム(Mg)であればx=0.1〜1.0、y=0.1〜0.6、カルシウム(Ca)であればx=0.1〜1.0、y=0.1〜0.5、カリウム(K)であればx=0.1〜0.5、y=0.1〜0.2、スズ(Sn)であればx=0.1〜2.0、y=0.1〜1.3、ナトリウム(Na)であればx=0.1〜0.5、y=0.1〜0.2、ホウ素(B)であればx=0.1〜1.0、y=0.1〜0.5、チタン(Ti)であればx=0.1〜2.0、y=0.1〜1.3、鉛(Pb)であればx=0.1〜1.0、y=0.1〜0.5、ジルコニウム(Zr)であればx=0.1〜2.0、y=0.1〜1.0、イットリウム(Y)であればx=0.1〜1.5、y=0.1〜1.0の範囲の値である。
【0061】
これらの中でも、透明性等に優れることから、Mがケイ素であるケイ素酸化窒化物、アルミニウムであるアルミニウム酸化窒化物、チタンであるチタン酸化窒化物が好ましく、ケイ素酸化窒化物がより好ましい。なお、x及びyの値としては、Mがケイ素であればx=1.0〜2.0、y=0.1〜1.3、アルミニウムであればx=0.5〜1.0、y=0.1〜1.0、チタンであればx=1.0〜2.0、y=0.1〜1.3の範囲のものが好ましい。
【0062】
B層の形成方法としては特に制限はなく、例えば、蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、熱CVD法、プラズマCVD法等が挙げられる。
【0063】
例えば、蒸着法は、抵抗加熱;高周波誘導加熱;電子線やイオンビーム等のビーム加熱;等により、るつぼに入った無機化合物材料を加熱、蒸発させて基材などの付着対象物に付着させ、薄膜を得る方法である。
【0064】
スパッタリング法は、真空槽内に放電ガス(アルゴン等)を導入し、無機化合物からなるターゲットと基材などの付着対象物(プラスチックフィルム等)との間に高周波電圧あるいは直流電圧を加えて放電ガスをプラズマ化し、該プラズマをターゲットに衝突させることでターゲット材料を飛ばし、付着対象物に付着させて薄膜を得る方法である。ターゲットとしては、例えば、前記の金属酸化物、金属窒化物、金属酸化窒化物、あるいはこれらに含まれる金属の単体が挙げられる。
本発明においては、簡便にB層が形成できることから、スパッタリング法が好ましい。
【0065】
スパッタリング法としては、基本的な方式である2極法;2極法に熱電子を放出する熱陰極を追加した3極法;磁界発生手段によりターゲット表面に磁界を印加することにより、プラズマを安定化させ成膜速度を上げるマグネトロンスパッタリング法;高エネルギーのイオンビームをターゲットに照射するイオンビーム法;2枚のターゲットを平行に対向させてこれらのターゲット面に垂直に磁界を印加する対向ターゲット法;電子サイクロトロン共鳴(ECR)を利用するECR法;ターゲットと基板を同軸の円筒状に配置する同軸型スパッタリング法;反応性ガスを基板近傍に供給して成膜組成を制御する反応性スパッタリング法等が挙げられる。
これらの中でも、本発明においては、簡便にガスバリア性に優れた積層体が得られることから、マグネトロンスパッタリング法が好ましい。
【0066】
得られるB層の厚みは、積層体の用途にもよるが、通常10nm〜1000nm、好ましくは20〜500nm、より好ましくは20〜100nmの範囲である。
【0067】
一般的に、無機化合物層はガスバリア性能を有するが、ガスバリア性を高めるために無機化合物層をあまりに厚くすると、耐折り曲げ性、透明性が低下し、クラックが発生しやすくなり、軽量化にも反する。
本発明の積層体は、無機化合物層の他にA層を有するため、無機化合物層を厚くしなくても、優れたガスバリア性能を有する。
【0068】
(積層体)
本発明の積層体は、前記A層とB層を有するものであれば、A層、B層の2層からなるものであっても、A層、B層を複数有する多層のものであってもよい。また、後述するように、衝撃吸収層や接着剤層等の他の層を含む3層以上のものであってもよい。また、他の層は単層であっても、同種または異種の2層以上であってもよい。
【0069】
また、本発明の積層体は、ポリオルガノシロキサン系化合物を含む層にイオンが注入された層(A層を有する層)とB層が、直接積層されてなる積層体であることが好ましい。直接積層されることで、B層にクラックが発生することを効果的に抑えることができるので、優れた耐折り曲げ性、ガスバリア性を有する積層体が得られる。
【0070】
本発明の積層体は、取り扱い容易性、製造容易性等の観点から、基材フィルムに、前記A層とB層が積層されていることが好ましい。
【0071】
基材フィルムを構成する素材としては、積層体の目的に合致するものであれば特に制限されないが、軽量化やフレキシブル化を実現する点から樹脂フィルムが好ましい。樹脂フィルムとしては、例えば、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、アクリル系樹脂、シクロオレフィン系ポリマー、芳香族系重合体等が挙げられる。
【0072】
なかでも、透明性に優れ、汎用性があることから、ポリエステル、ポリアミドまたはシクロオレフィン系ポリマーが好ましく、ポリエステルまたはシクロオレフィン系ポリマーがより好ましい。
【0073】
ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアリレート等が挙げられる。
ポリアミドとしては、全芳香族ポリアミド、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン共重合体等が挙げられる。
【0074】
シクロオレフィン系ポリマーとしては、ノルボルネン系重合体、単環の環状オレフィン系重合体、環状共役ジエン系重合体、ビニル脂環式炭化水素重合体、およびこれらの水素化物が挙げられる。その具体例としては、アペル(三井化学社製のエチレン−シクロオレフィン共重合体)、アートン(JSR社製のノルボルネン系重合体)、ゼオノア(日本ゼオン社製のノルボルネン系重合体)等が挙げられる。
基材フィルムの厚さは特に限定されないが、通常5〜1000μm、好ましくは、10〜300μmである。
【0075】
本発明の積層体が基材フィルムを含む積層体である場合、A層、B層の数や配置は特に限定されない。A層、B層は、基材フィルムの片面のみに形成されていても、基材フィルムの両面に形成されていてもよい。基材フィルムにA層を積層することによって基材フィルム表面の凹凸(微小突起物)が覆われて平滑性が向上するので、その上にB層を積層すれば、B層のピンホール発生が抑制されて優れたガスバリア性を有する積層体が得られる。また、基材フィルムの種類によっては無機化合物との密着性が得られない場合があるが、基材フィルムとB層の間にA層を設けることで十分な密着性が得られる。
【0076】
(衝撃吸収層)
本発明の積層体は、前記ガスバリア層及び無機化合物層に加えて、さらに衝撃吸収層(以下、「C層」ということがある。)を有していてもよい。衝撃吸収層は25℃における貯蔵弾性率が、1×10
2Pa以上、1×10
9Pa以下であり、1×10
3Pa以上、1×10
7Pa以下であるのがより好ましく、1×10
4Pa以上、1×10
6Pa以下であるのがさらに好ましい。貯蔵弾性率は、動的粘弾性測定装置を用いて、ねじりせん断法により周波数1Hzで測定を行う。
このような衝撃吸収層を設けることにより、衝撃吸収性能に優れ、衝撃を受けても、無機化合物層にクラックや割れが生じることがない、すなわち、無機化合物層のクラックや割れによるガスバリア性の低下のおそれがない積層体を得ることができる。
【0077】
衝撃吸収層を形成する素材としては、特に限定されないが、例えば、アクリル系樹脂、オレフィン系樹脂、ウレタン系樹脂、シリコーン系樹脂、ゴム系材料、ポリ塩化ビニルなどが挙げられる。
これらの中でも、アクリル系樹脂、オレフィン系樹脂、シリコーン系樹脂、ゴム系材料が好ましく、アクリル系樹脂、オレフィン系樹脂がより好ましい。
【0078】
アクリル系樹脂としては、主成分として、(メタ)アクリル酸エステル単独重合体、2種以上の(メタ)アクリル酸エステル単位を含む共重合体、及び(メタ)アクリル酸エステルと他の官能性単量体との共重合体の中から選ばれた少なくとも1種を含有するものが挙げられる。なお、「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸又はメタクリル酸の意である(以下同様。)
【0079】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、エステル部分の炭素数が1〜20の(メタ)アクリル酸が好ましく、後述する衝撃吸収層の貯蔵弾性率を特定の範囲内とすることが容易であることから、エステル部分の炭素数が4〜10の(メタ)アクリル酸エステルを用いることがより好ましい。このような(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル等が挙げられる。
【0080】
官能性単量体としては、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル等のヒドロキシル基含有単量体、(メタ)アクリルアミド等のアミド基含有単量体、(メタ)アクリル酸等のカルボン酸基含有単量体等が挙げられる。
【0081】
(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体は、例えば、溶液重合法、乳化重合法、懸濁重合法等の公知の重合方法により得ることができる。なお、(共)重合体は、単独重合体又は共重合体の意である(以下、同様)。
【0082】
(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体は、架橋剤と混合して、少なくとも一部に架橋体を形成して用いることもできる。
架橋剤としては、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアナート等、あるいはそれらのアダクト体等のイソシアネート系架橋剤;エチレングリコールグリシジルエーテル等のエポキシ系架橋剤;ヘキサ〔1−(2−メチル)−アジリジニル〕トリフオスファトリアジン等のアジリジン系架橋剤;アルミニウムキレート等のキレート系架橋剤;等が挙げられる。
【0083】
架橋剤の使用量は、(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体の固形分100質量部に対して通常0.01〜10質量部、好ましくは0.05〜5質量部である。架橋剤は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0084】
オレフィン系樹脂としては、低密度ポリエチレン、直鎖低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレン(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン(メタ)アクリル酸エステル共重合体等が挙げられる。
【0085】
シリコーン系樹脂としては、ジメチルシロキサンを主成分とするものが挙げられる。また、ゴム系材料としては、イソプレンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ポリイソブチレンゴム、スチレン−ブタジエン−スチレンゴム等を主成分とするものが挙げられる。
【0086】
また、衝撃吸収層はこれらの積層体からなるものであってもよい。
さらに、このような樹脂からなる衝撃吸収層としては熱可塑性樹脂を押出し成形によりシート化したものであってもよいし、硬化性樹脂を所定手段により薄膜化し、硬化してシート化したものであってもよい。
【0087】
用いる硬化性樹脂としては、例えば、エネルギー線硬化性のウレタンアクリレートなどのオリゴマーを主剤とし、イソボルニルアクリレートなど比較的嵩高い基を有するアクリレートモノマーを希釈剤とし、必要に応じて光重合開始剤を配合した樹脂組成物から得られるものが挙げられる。
【0088】
衝撃吸収層には、各種添加剤、例えば、酸化防止剤、粘着付与剤、可塑剤、紫外線吸収剤、着色剤、帯電防止剤等の他の成分を含んでいてもよい。
【0089】
衝撃吸収層の形成方法としては特に制限はなく、例えば、前記ポリオルガノシロキサン系化合物を含む層の形成方法と同様に、前記衝撃吸収層を形成する素材(粘着剤等)、及び、所望により、溶剤等の他の成分を含む衝撃吸収層形成溶液を、積層すべき層上に塗布し、得られた塗膜を乾燥し、必要に応じて加熱等して形成する方法が挙げられる。
また、別途、剥離基材上に衝撃吸収層を成膜し、得られた膜を、積層すべき層上に転写して積層してもよい。
衝撃吸収層の厚みは、通常1〜500μm、好ましくは5〜100μmである。
【0090】
また、衝撃吸収層としては、該衝撃吸収層の引張弾性率E’(Pa)、厚みをL(cm)としたとき、次の式(1)及び(2)を同時に満足するものであることが、優れた衝撃吸収性の観点から好ましい。
【0092】
衝撃吸収層の引張弾性率E’は、JIS K7161:1994及びJIS K7127:1999に準拠して測定することができる(詳細は実施例の記載を参照)。
【0093】
本発明の積層体が衝撃吸収層を有するものである場合、本発明の積層体としては、A層、B層、及びC層を少なくとも1層ずつ有するものであれば、A層、B層、C層の3層からなるものであっても、A層、B層、C層のいずれかの層を複数有するものであってもよい。積層順は特に限定されないが、B層とC層が直接積層されていることが好ましい。
また、A層、B層、C層以外に、基材フィルム、接着剤層等の他の層を有するものであってもよい。他の層は、単層でも、同種又は異種の2層以上であってもよい。
【0094】
なかでも、本発明の積層体は、取り扱い容易性、製造容易性等の観点から、基材フィルムを有するのが好ましい。
【0095】
前記基材フィルムを構成する素材としては、積層体の目的に合致するものであれば特に制限されないが、軽量化やフレキシブル化を実現する点から樹脂フィルムが好ましい。樹脂フィルムの具体例は、上述したとおりである。
基材フィルムの厚みは特に限定されないが、通常5〜1000μm、好ましくは、10〜300μmである。
【0096】
本発明の積層体の全体の厚みは、特に制限されず、目的とする電子デバイスの用途等によって適宜決定することができる。
【0097】
本発明の積層体の層構成の例を
図1、
図2に示す。ただし、本発明の積層体はこれらに限定されるものではない。
【0098】
図1中、Sは基材フィルムを表し、A1、A2はそれぞれA層を表し、B1、B2はそれぞれB層を表す。
図1(a)、(b)は、A層、B層、及び基材フィルムからなる3層の積層体を、
図1(c)、(d)は、2層のA層2層、B層、及び基材フィルムからなる4層の積層体を、
図1(e)、(f)は2層のA層、2層のB層、及び基材フィルムからなる5層の積層体を示す。
これらの中でも、基材フィルムとの密着性に優れることから、
図1(a)、(c)、(e)に示す積層体が好ましく、簡便に製造できること等の理由から、
図1(a)に示す積層体が特に好ましい。また、基材フィルムにA層を形成することにより、基材フィルム表面の凹凸が緩和され、高平滑な面にB層を形成することができる。
【0099】
図2中、S、S1、S2はそれぞれ基材フィルム、第1の基材フィルム、第2の基材フィルムを表し、AはA層を表し、BはB層を表し、CはC層を表す。
図2(a)、(b)、(c)は、A層、B層、C層、及び基材フィルムからなる4層の積層体を、
図2(d)、(e)は、A層、B層、C層、及び2層の基材フィルムからなる5層の積層体を、
図2(f)はA層、B層、2層のC層、及び2層の基材フィルムからなる6層の積層体を示す。
【0100】
(積層体の製造)
本発明の積層体の製造方法は特に限定されない。
本発明の積層体を製造する方法としては、例えば、(i)ポリオルガノシロキサン層としてポリオルガノシロキサン系化合物を含むフィルムを用い、該フィルムにイオン等を注入してA層を形成し、A層にB層を形成する方法、(ii)基材フィルム上に、ポリオルガノシロキサン系化合物を含む層を形成し、その表面にイオン等を注入することによりA層を形成し、形成したA層上に、B層を形成する方法、(iii)基材フィルム上にB層を形成し、形成したB層上に、ポリオルガノシロキサン系化合物を含む層を形成し、その表面にイオン等を注入することによりA層を形成する方法等が挙げられる。
【0101】
これらの中でも、(ii)及び(iii)の方法が生産効率の面から好ましい。これらの方法によれば、長尺の積層フィルムを連続的に製造することが可能である。例えば、前記(ii)の方法は以下のようにして実施することができる。
【0102】
先ず、長尺の基材フィルムの一方の面側にポリオルガノシロキサ層を形成する。例えば、長尺の基材フィルムを一定方向に搬送しながら、該基材フィルムの一面に、ポリオルガノシロキサン系化合物の少なくとも一種、所望により他の成分、および溶剤等を含有する層形成用溶液を塗工装置により塗布し、得られた塗膜を必要に応じて加熱(乾燥)等することにより、ポリオルガノシロキサン層を形成することができる。以下、この基材フィルムにポリオルガノシロキサン層が形成されたものを「積層フィルム」と称する。
【0103】
次に、該積層フィルムのポリオルガノシロキサン層にプラズマイオン注入装置を用いてプラズマイオン注入する。
【0104】
図3は、プラズマイオン注入装置を備える連続的プラズマイオン注入装置の概要を示す図である。
図3(a)において、11aはチャンバー、20aはターボ分子ポンプ、3aはイオン注入される前の積層フィルム1aを送り出す巻き出しロール、5aはイオン注入された積層フィルム1bをロール状に巻き取る巻取りロール、2aは高電圧印加回転キャン、10aはガス導入口、7は高電圧パルス電源、4はプラズマ放電用電極(外部電界)である。
図3(b)は、前記高電圧印加回転キャン2aの斜視図であり、15は高電圧導入端子(フィードスルー)である。
【0105】
図3に示す連続的プラズマイオン注入装置においては、積層フィルム1aは、チャンバー11a内において、巻き出しロール3aから、
図3中矢印X方向に搬送され、高電圧印加回転キャン2aを通過して、巻取りロール5aに巻き取られる。積層フィルム1aの巻取りの方法や、搬送する方法等は特に制約はないが、本実施形態においては、高電圧印加回転キャン2aを一定速度で回転させることにより、積層フィルム1aの搬送を行っている。また、高電圧印加回転キャン2aの回転は、高電圧導入端子15の中心軸13をモーターにより回転させることにより行われる。
【0106】
高電圧導入端子15、および積層フィルム1aが接触する複数の送り出し用ロール6a等は絶縁体からなり、例えば、アルミナの表面をポリテトラフルオロエチレン等の樹脂で被覆して形成されている。また、高電圧印加回転キャン2aは導体からなり、例えば、ステンレス等で形成することができる。
【0107】
積層フィルム1aの搬送速度は適宜設定できる。積層フィルム1aが巻き出しロール3aから搬送され、巻取りロール5aに巻き取られるまでの間に積層フィルム1aのポリオルガノシロキサン層にイオン注入され、所望のイオン注入層が形成されるだけの時間が確保される速度であれば、特に制約されない。イオン注入された積層フィルム1bの巻取り速度(ライン速度)は、印加電圧、装置規模等にもよるが、通常0.1〜2m/min、好ましくは0.2〜0.7m/minである。
【0108】
イオン注入は、まず、チャンバー11a内をロータリーポンプに接続されたターボ分子ポンプ20aにより排気して減圧とする。減圧度は、通常1×10
−4Pa〜1Pa、好ましくは1×10
−3Pa〜1×10
−2Paである。
【0109】
次に、ガス導入口10aよりチャンバー11a内に、窒素等のイオン注入用のガス(以下、「イオン注入用ガス」ということがある。)を導入して、チャンバー11a内を減圧イオン注入用ガス雰囲気とする。
【0110】
次いで、プラズマ放電用電極4(外部電界)によりプラズマを発生させる。プラズマを発生させる方法としては、マイクロ波やRF等の高周波電力源等による公知の方法が挙げられる。
【0111】
一方、高電圧導入端子15を介して高電圧印加回転キャン2aに接続されている高電圧パルス電源7により、負の高電圧パルス9が印加される。高電圧印加回転キャン2aに負の高電圧パルスが印加されると、プラズマ中のイオンが誘因され、高電圧印加回転キャン2aの周囲の積層フィルム1aのポリオルガノシロキサン層表面に注入される(
図3(a)中、矢印Y)。その結果、基材フィルム上にA層が形成された積層フィルム1bが得られる。
【0112】
なお、プラズマイオン注入装置はこれに限定されず、外部電界を用いることなく高電圧パルスの印加により発生するプラズマ中のイオンを注入するものであってもよい。
【0113】
次に、得られた積層フィルム1bのA層(イオン注入層が形成された面)上に、マグネトロンスパッタリング法によりB層を形成する。
B層は、例えば、
図4に示す連続的マグネトロンスパッタ装置を使用して形成することができる。
【0114】
図4に示す連続的マグネトロンスパッタ装置において、11bはチャンバー、20bはターボ分子ポンプ、3bは積層フィルム1bを送り出す巻き出しロール、5bはB層が形成された積層体1をロール状に巻き取る巻取りロール、10bはガス導入口、2bは回転キャン、6bは送り出し用ロール、Cはターゲットである。
【0115】
Cの詳細を
図4(b)、(c)に示す。
図4(b)は断面図、
図4(c)は上面図である。
図4(b)中、8はターゲット、12は磁場発生手段であり、
図4(c)中、12aはドーナツ状の永久磁石、12bは棒状の永久磁石である。
【0116】
積層フィルム1bは、回転キャン2bを回転させることによって巻き出しロール3bから
図3中矢印X向に搬送され、巻取りロール5bに巻き取られる。
【0117】
まず、
図3に示すプラズマイオン注入装置と同様にして、チャンバー11b内に、A層上にB層が形成されるように積層フィルム1bを設置し、チャンバー11b内をロータリーポンプに接続されているターボ分子ポンプ20bにより排気して減圧とする。
【0118】
そこへ、ガス導入口10bよりチャンバー11b内に、例えばアルゴン及び窒素ガスを導入しながらターゲットに高周波電力を印加してプラズマ放電させる。すると、アルゴン及び窒素ガスがイオン化してターゲットに衝突する。その衝撃でターゲットを構成している原子(例えばSi)がスパッタ粒子として飛び出し、積層フィルム1bのA層の表面に堆積する。なお、ここで、磁場発生手段12により形成された磁場が、ターゲットからたたき出された二次電子にサイクロイド運動させ、窒素ガス等とのイオン化衝突の頻度を増大させ、ターゲット付近にプラズマを生成し、成膜速度を高速化している。
【0119】
以上のようにして、積層フィルム1bのA層上にB層(窒化珪素膜)が形成された積層体1を得ることができる。B層として他の無機化合物の層を形成する場合も同様である。
【0120】
図2に示す層構成を有する積層体、例えば、
図2(a)に示す積層体は、基材フィルムS上に、ポリオルガノシロキサン層を形成し、その表面にイオンを注入することによりA層を形成し、形成したA層上に、B層を形成し、該B層上にC層を形成することによって製造することができる。この方法によれば、長尺の積層体を連続的に製造することができる。以下、この積層体の製造方法を具体的に説明する。
【0121】
先ず、
図1に示す層構成を有する積層体の製造方法と同様にして、第1の長尺の基材フィルムの一方の面側にポリオルガノシロキサン層を形成し、該ポリオルガノシロキサン層に、前記のプラズマイオン注入装置を用いてプラズマイオン注入する。
【0122】
次に、得られた積層フィルム1bのA層(イオン注入層が形成された面)上にB層を形成する。
B層は、例えば、
図4に示す連続的マグネトロンスパッタ装置を使用して形成することができる。
以上のようにして、積層フィルム1bのA層上にB層が形成された積層フィルム1dを得ることができる。
【0123】
次に、得られた積層フィルム1dのB層上にC層を形成する。
第2の長尺の基材フィルム(S2)上に、衝撃吸収層形成用溶液を塗布し、得られた塗膜を乾燥・加熱して、第2の基材フィルムS2上にC層を成膜する。このものを、C層側が前記B層と接するようにB層上に積層する。得られる積層体は、
図2(d)に示す積層体である。ここで、第2の長尺の基材フィルムS2として剥離処理されたフィルムを用い、この積層体から第2の基材フィルムS2を剥離すれば、
図2(a)に示す積層体を得ることができる。
【0124】
同様にして、第1の基材フィルムS1上にC層を形成し、第2の基材フィルムS2上にB層、A層を順次積層し、前記C層と基材フィルムS2上のA層が接するように積層すれば、
図2(e)の積層体が得られる。この積層体の基材フィルムS1を剥離すれば
図2(b)の積層体が得られる。
【0125】
また、基材フィルムS上に、C層、A層及びB層を順次積層すれば、
図2(c)の積層体が得られる。
第1の基材フィルムS1上に、C層、A層及びB層を順次積層し、第2の基材フィルムS2上にC層を形成し、前記B層と基材フィルムS2上のC層が接するように積層すれば、
図2(f)の積層体を製造することができる。
【0126】
本発明の積層体は、優れたガスバリア性、透明性、及び耐折り曲げ性(折り曲げが容易で、折り曲げてもクラックが発生することがない)を有する。
本発明の積層体がガスバリア性に優れることは、本発明の積層体の水蒸気等のガスの透過率が、同じ厚みの無機化合物層等と比較して格段に小さいことから確認することができる。例えば、40℃、相対湿度90%雰囲気下での水蒸気透過率は、0.2g/m
2/day以下が好ましく、0.1g/m
2/day以下がより好ましい。なお、積層体の水蒸気等の透過率は、公知のガス透過率測定装置を使用して測定することができる。
【0127】
本発明の積層体が透明性に優れることは、可視光透過率を測定することによって確認することができる。可視光透過率は、全光線透過率で80%以上が好ましく、85%以上がより好ましい。なお、積層体の可視光透過率は、公知の可視光透過率測定装置を使用して測定することができる。
【0128】
本発明の積層体が優れた耐折り曲げ性を有することは、例えば、3mmφステンレスの棒に、積層体のB層側が接するように積層体を巻き付け、上下に10往復させた後、光学顕微鏡にてB層を観察(倍率2000倍)し、クラック発生が認められないことで確認することができる。
【0129】
本発明の積層体が衝撃吸収層を有するものである場合、優れたガスバリア性、透明性、及び耐折り曲げ性(折り曲げが容易で、折り曲げてもクラックが発生することがない)に加えて、優れた耐衝撃吸収性をも有する。
【0130】
本発明の衝撃吸収層を有する積層体が耐衝撃吸収性に優れることは、例えば、ステンレス等からなる支持体上に、衝撃吸収層側を上にして積層体を載せ、直径1cm、重さ5gの鉄球を高さ30cmから積層体上へ落下させ、鉄球落下後の無機化合物層の表面状態を光学顕微鏡(100倍)にて観察し、割れの発生が認められないことで確認することができる。
【0131】
本発明の積層体は、さらにフレキシブル性にも優れるため、特に、太陽電池用裏面保護シート;タッチパネル;フレキシブルなディスプレイ;等に好適に用いることができる。
【0132】
2)電子デバイス用部材および電子デバイス
本発明の電子デバイス用部材は、本発明の積層体からなることを特徴とする。従って、本発明の電子デバイス用部材は、優れたガスバリア性を有しているので、水蒸気等のガスによる素子の劣化を防ぐことができる。また、衝撃吸収性に優れるので、液晶ディスプレイ、ELディスプレイ等のディスプレイ部材;太陽電池用裏面保護シート;等として好適である。
【0133】
本発明の積層体を電子デバイス用部材として用いる際の衝撃吸収層と無機化合物層の位置関係は、通常、電子デバイスにおいて衝撃吸収層が外側に配置され、無機化合物層がその内側に配置される。また、
図2(f)のように、無機化合物層が2つの衝撃吸収層の間にある場合は、任意の衝撃吸収層を外側に配置することができる。
【0134】
本発明の電子デバイスは、本発明の電子デバイス用部材を備える。具体例としては、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、無機ELディスプレイ、電子ペーパー、太陽電池等が挙げられる。
本発明の電子デバイスは、本発明の積層体からなる電子デバイス部材を備えているので、優れたガスバリア性、透明性、フレキシブル性を有し、軽量化が可能である。
【実施例】
【0135】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。但し、本発明は、以下の実施例になんら限定されるものではない。
【0136】
用いたプラズマイオン注入装置、X線光電子分光測定装置と測定方法、スパッタリング装置、水蒸気透過率測定装置と測定条件、可視光透過率測定装置及び耐折り曲げ試験の方法、衝撃吸収層の貯蔵弾性率の測定装置と測定方法、衝撃吸収層の引張弾性率測定方法、並びに衝撃吸収性能試験の方法は以下の通りである。
また、イオン注入層が形成されていることは、XPS(測定装置:Quantum2000、アルバックファイ社製)を用いてA層の表面から10nm付近の元素分析測定を行うことによって確認した。
【0137】
(プラズマイオン注入装置)
RF電源:型番号「RF56000」、日本電子社製
高電圧パルス電源:「PV−3−HSHV−0835」、栗田製作所社製
【0138】
(X線光電子分光測定装置)
測定装置:「PHI Quantera SXM」アルバックファイ社製
・X線ビーム径:100μm
・電力値:25W
・電圧:15kV
・取り出し角度:45°
【0139】
この測定条件にて、酸素原子、炭素原子及びケイ素原子の存在割合、並びにケイ素原子の2p電子軌道の結合エネルギーのピーク位置を以下のようにして測定した。
実施例1〜3、7及び8において、ポリジメチルシロキサンを含む層のプラズマイオン注入された面の酸素原子、炭素原子及びケイ素原子の存在割合、並びにケイ素原子の2p電子軌道の結合エネルギーのピーク位置を測定し、ガスバリア層の表層部における前記原子の存在割合及びケイ素原子の2p電子軌道の結合エネルギーのピーク位置を得た。その後、プラズマイオン注入された面から深さ方向に向かって、アルゴンガスを用いてスパッタリングを行い、スパッタリングにより露出した表面における存在割合を測定する操作を繰り返すことにより深さ方向の原子の存在割合を測定した。
【0140】
上記測定において、アルゴンガスによるスパッタリングの印加電圧は−4kV、1回のスパッタリング時間は12秒とした。なお、原子の存在割合は、測定により得られた酸素原子、炭素原子及びケイ素原子のピーク面積の合計値を100%とし、各原子のピーク面積から算出した値である。
【0141】
(スパッタリング装置)
巻取り式スパッタリング装置:「RS−0549」(ロック技研社製)
【0142】
(水蒸気透過率測定装置)
透過率測定器:「L80−5000」(LYSSY社製)
測定条件:相対湿度90%、40℃
【0143】
(可視光透過率測定装置)
「UV−3101PC」(島津製作所社製)
波長550nmでの透過率を測定。
【0144】
(耐折り曲げ性試験)
3mmφステンレスの棒に、実施例1〜6及び比較例1で得られた積層体のB層側が接するように積層体を巻き付け、上下に10往復させた後、光学顕微鏡(キーエンス社製)にて観察(倍率2000倍)してB層のクラック発生の有無を確認した。
【0145】
(衝撃吸収層の貯蔵弾性率の測定装置と測定方法)
実施例7〜10における衝撃吸収層を形成するための溶液を、剥離フィルム(リンテック社製、「PET3801」)に実施例と同じ方法で塗布、乾燥して厚さ30μmの層を形成し、これを積層して厚さ3mm、直径8mmの測定用試料を作製した。得られた測定用試料を用いて、粘弾性測定装置(DYNAMIC ANALYZER RDA II、REOMETRIC社製)を用いて、25℃における貯蔵弾性率(Pa)の測定を行なった。測定周波数は1Hz、昇温速度は3℃/分とした。
【0146】
(衝撃吸収層の引張弾性率の測定)
衝撃吸収層の引張弾性率は、JIS K7161:1994及びJIS K7127:1999に準拠して測定した。この際、試験片(幅15mm、長さ140mm、剥離シートは除去)の両端20mm部分に試験片引張り用ラベルを貼付し、ダンベル型のサンプル(幅15mm、長さ100mm)を用い、万能試験機(オートグラフAG−IS500N、島津製作所社製)にて引張り速度200mm/分にて引張弾性率測定を行った。
【0147】
(衝撃吸収性能試験)
支持体(SUS板)上に、実施例7〜11の積層体を衝撃吸収層側が上になるように載せ、直径1cm、重さ5gの鉄球を高さ30cmから積層体上へ落下させた。落下後の無機化合物層の状態を光学顕微鏡(倍率100倍、キーエンス社製)にて観察した。無機化合物層に割れの発生が認められなかった場合を、無機化合物層の割れが「なし」、割れの発生が認められた場合を、無機化合物層の割れが「あり」と評価した。
【0148】
(実施例1)
基材フィルムとしてのポリエチレンテレフタレートフィルム(「PET38T−300」、三菱樹脂社製、厚さ38μm)(以下、「PETフィルム」という。)に、ポリオルガノシロキサン系化合物としてポリジメチルシロキサンを主成分とするシリコーン樹脂(KS835」、信越化学工業社製)を塗布し、120℃で2分間加熱してPETフィルム上に100nmのポリジメチルシロキサンを含む層を形成した。次に、
図3に示すプラズマイオン注入装置を用いてポリジメチルシロキサンを含む層の表面に、アルゴンをプラズマイオン注入した。なお、XPSによる測定により、ポリジメチルシロキサンを含む層の表面から10nm付近にアルゴンが存在することが確認できた。
【0149】
プラズマイオン注入の条件を以下に示す。
・プラズマ生成ガス:アルゴン
・Duty比:0.5%
・繰り返し周波数:1000Hz
・印加電圧:−10kV
・RF電源:周波 13.56MHz、印加電力 1000W
・チャンバー内圧:0.2Pa
・パルス幅:5μsec
・ライン速度:0.4m/min
・処理時間(イオン注入時間):5分間
【0150】
次に、プラズマイオン注入されたシリコーン樹脂層上に、巻き取り式スパッタリング装置を用いて、マグネトロンスパッタリング法により、膜厚50nmの窒化ケイ素(Si
3N
4)層を形成し、基材(PETフィルム)−A層(アルゴンがプラズマイオン注入されたシリコーン樹脂層)−B層(窒化ケイ素層)の3層からなる積層体1を作製した。
【0151】
マグネトロンスパッタリングの条件を以下に示す。
・プラズマ生成ガス:アルゴン、窒素
・ガス流量:アルゴン100sccm,窒素60sccm
・電力値:2500W
・チャンバー内圧:0.2Pa
・ライン速度:0.2m/min
・処理時間:10分間
・ターゲット:Si
【0152】
(実施例2)
実施例1において、プラズマイオン注入のプラズマ生成ガスをアルゴンから窒素に変更した他は、実施例1と同様にして積層体2を作製した。
【0153】
(実施例3)
実施例1において、プラズマイオン注入のプラズマ生成ガスをアルゴンからヘリウムに変更した他は、実施例1と同様にして積層体3を作製した。
【0154】
(比較例1)
実施例1において、PETフィルム上に、シリコーン樹脂層の形成及びプラズマイオン注入を行わなかった以外は、実施例1と同様にして窒化ケイ素層(B層)を形成し、基材(PETフィルム)−B層(窒化ケイ素層)の2層からなる積層体Aを作製した。
【0155】
実施例1〜3の積層体1〜3における、ガスバリア層(表面から深さ方向に向かって、層中における酸素原子の存在が漸次減少し、炭素原子の存在割合が漸次増加する領域)表層部における、酸素原子、炭素原子及びケイ素原子の存在割合、並びにケイ素原子の2p電子軌道の結合エネルギーのピーク位置を測定した結果を第1表に示す。
【0156】
【表1】
【0157】
第1表から、積層体1〜3のケイ素原子の2p電子軌道の結合エネルギーのピーク位置は、103.0eV〜103.3eVであった。
【0158】
また、実施例1〜3において、XPSによる元素分析測定により得られた積層体1〜3の、酸素原子、炭素原子及びケイ素原子の存在割合の分析結果を
図5〜7に示す。
図5が積層体1、
図6が積層体2、
図7が積層体3である。また、プラズマイオン注入前のポリジメチルシロキサンを含む層の酸素原子、炭素原子及びケイ素原子の存在割合を同様に測定した分析結果を
図8に示す。
【0159】
図5〜8において、縦軸は、酸素原子、炭素原子及びケイ素原子の存在量の合計を100とした場合の原子の存在割合(%)を表し、横軸はスパッタリングの積算時間(Sputter Time、分)を表す。スパッタリングの速度は一定であるので、スパッタリングの積算時間(Sputter Time)は、深さに対応している。
図5〜8において、aは炭素原子の存在割合、bは酸素原子の存在割合、cはケイ素原子の存在割合である。
【0160】
図5〜7に示すように、積層体1〜3においては、表面から深さ方向に向かって、酸素原子の存在割合が漸次的に減少し、炭素原子の存在割合が漸次的に増加する領域(ガスバリア層)を有することが確認された。
一方、
図8に示すように、プラズマイオン注入前のポリジメチルシロキサンを含む層においては、上記のような領域は存在しなかった。
【0161】
また、実施例1で作製した積層体1のガスバリア層(以下、「ガスバリア層1」という。)につき、XPS分析により、表層部のケイ素原子の2p電子軌道の結合エネルギーを測定した結果を
図9に示す。
図9において、縦軸はピーク強度を表す、横軸は結合エネルギー(eV)を表す。
図9から、ガスバリア層1のケイ素原子の2p電子軌道の結合エネルギー(B)のピーク位置が103.3eVであった。このガスバリア層1のケイ素原子の2p電子軌道の結合エネルギーのピーク位置は、イオン注入前には101.5evであったが、イオン注入後においては、103.3eVと高エネルギー側にシフトしていることが確認された。
【0162】
(実施例4)
実施例1において、プラズマイオン注入されたシリコーン樹脂層上に、巻き取り式スパッタリング装置を用いて、マグネトロンスパッタリング法により、膜厚50nmの酸化ケイ素(SiO
2)層を形成し、基材(PETフィルム)−A層(アルゴンがプラズマイオン注入されたシリコーン樹脂層)−B層(酸化ケイ素層)の3層からなる積層体4を作製した。
【0163】
マグネトロンスパッタリングの条件を以下に示す。
・プラズマ生成ガス:アルゴン、酸素
・ガス流量:アルゴン100sccm,酸素60sccm
・電力値:2000W
・チャンバー内圧:0.2Pa
・ライン速度:0.2m/min
・処理時間:10分間
・ターゲット:Si
【0164】
(実施例5)
実施例1において、プラズマイオン注入されたシリコーン樹脂層上に、巻き取り式スパッタリング装置を用いて、マグネトロンスパッタリング法により、膜厚50nmの酸窒化ケイ素(SiOxNy)層を形成し、基材(PETフィルム)−A層(アルゴンがプラズマイオン注入されたシリコーン樹脂層)−B層(酸窒化ケイ素層)の3層からなる積層体5を作製した。
【0165】
マグネトロンスパッタリングの条件を以下に示す。
・プラズマ生成ガス:アルゴン、酸素
・ガス流量:アルゴン100sccm,酸素30sccm,窒素30ccm
・電力値:2500W
・チャンバー内圧:0.2Pa
・ライン速度:0.2m/min
・処理時間:10分間
・ターゲット:Si
【0166】
(実施例6)
実施例1において、プラズマイオン注入されたシリコーン樹脂層上に、巻き取り式スパッタリング装置を用いて、マグネトロンスパッタリング法により、膜厚50nmの酸化アルミニウム(Al
2O
3)層を形成し、基材(PETフィルム)−A層(アルゴンがプラズマイオン注入されたシリコーン樹脂層)−B層(酸化アルミニウム層)の3層からなる積層体6を作製した。
【0167】
マグネトロンスパッタリングの条件を以下に示す。
・プラズマ生成ガス:アルゴン、酸素
・ガス流量:アルゴン100sccm,酸素60sccm
・電力値:2500W
・チャンバー内圧:0.2Pa
・ライン速度:0.2m/min
・処理時間10分間
・ターゲット:Al
【0168】
次に、実施例1〜6、および比較例1で得られた積層体1〜6、Aにつき、水蒸気透過率と全光線透過率を、水蒸気透過率測定装置および可視光透過率測定装置をそれぞれ使用して測定した。測定結果を下記第2表に示す。また、前記耐折り曲げ性試験を行い、クラック発生の有無を観察した。その結果もあわせて下記第2表に示す。
【0169】
【表2】
【0170】
第2表から、実施例1〜6の積層体1〜6は、比較例1の積層体Aに比して、水蒸気透過率が小さく、ガスバリア性に優れていた。また、積層体1〜6は、70%以上の高い全光線透過率を有していた。また、耐折り曲げ性試験において積層体1〜6はクラックの発生がみられず、積層体Aに比して、耐折り曲げ性に優れていることがわかった。
【0171】
(実施例7)
(i)イオン注入層を有するポリオルガノシロキサン層の形成
基材フィルムとしてのポリエチレンテレフタレートフィルム(「T−100」、三菱樹脂社製、厚さ38μm)(以下、「PETフィルム」という。)に、ポリオルガノシロキサン系化合物としてシリコーン剥離剤(「KS835」、ポリジメチルシロキサンを主成分とするシリコーン樹脂、信越化学工業社製)を塗布し、120℃で2分間加熱して、PETフィルム上に厚さ100nmのポリジメチルシロキサンを含む層を形成して積層フィルムを得た。次に、
図3に示すプラズマイオン注入装置を用いてポリジメチルシロキサンを含む層の表面に、アルゴンをプラズマイオン注入して、イオン注入層を有するポリオルガノシロキサン層(以下、「ポリオルガノシロキサン系化合物層7」という。)を形成した。
【0172】
プラズマイオン注入の条件を以下に示す。
・Duty比:1%
・繰り返し周波数:1000Hz
・印加電圧:−10kV
・RF電源:周波 13.56MHz、印加電力 1000W
・チャンバー内圧:0.2Pa
・パルス幅:5μsec
・ライン速度:0.4m/min
・処理時間(イオン注入時間):5分間
・ガス流量:100ccm
【0173】
イオン注入層が形成されたことは、XPS(Quantum2000、アルバックファイ社製)を用いて表面から10nm付近の元素分析測定を行うことによって確認した。
なお、この積層フィルムの水蒸気透過率は、0.3g/m
2/dayであった。
【0174】
(ii)無機化合物層の形成
得られた、アルゴンがイオン注入されたポリオルガノシロキサン層(以下、「ポリオルガノシロキサン系化合物層7」という。)に、スパッタリング法により、厚さ50nmの窒化ケイ素(Si
3N
4)の膜(以下、「無機化合物層7」という。)を形成した。
【0175】
スパッタリングの条件を以下に示す。
・プラズマ生成ガス:アルゴン、窒素
・ガス流量:アルゴン100sccm、窒素60sccm
・電力値:2500W
・チャンバー内圧:0.2Pa
・ライン速度:0.2m/min
・処理時間:10分間
・膜厚:50nm
・ターゲット:Si
【0176】
(iii)衝撃吸収層の形成
アクリル酸2−エチルヘキシルとアクリル酸(アクリル酸2−エチルヘキシル:アクリル酸(重量比)=95:5)からなるアクリル酸エステル系共重合体(粘着剤)溶液の固形分100質量部に、架橋剤としてトリメチロールプロパントリレンジイソシアナート(日本ポリウレタン工業社製、「コロネートL」)を固形分換算で0.1質量部を混合し、粘着剤溶液Aを調製した。この溶液Aを、剥離シート(リンテック社製、SP−PET3801)に塗布し、120℃で2分間加熱して、剥離シート上に厚さ30μmの衝撃吸収層7を形成した。
【0177】
得られた衝撃吸収層7を前記無機化合物層7の表面に積層し、剥離シートを除去して、PETフィルム−ポリオルガノシロキサン系化合物層7−無機化合物層7−衝撃吸収層7からなる積層体7を得た。ポリオルガノシロキサン系化合物層7においても、XPSによる元素分析測定により、表面(イオン注入面)から深さ方向に向かって、酸素原子の存在割合が漸次的に減少し、炭素原子の存在割合が漸次的に増加する領域(ガスバリア層)があることが確認された。ガスバリア層の表層部における、酸素原子、炭素原子及びケイ素原子の存在割合と、ケイ素原子の2p電子軌道の結合エネルギーのピーク位置を第3表に示す。
【0178】
(実施例8)
実施例7において、アルゴンをプラズマイオン注入する代わりに、窒素をプラズマイオン注入した他は、実施例7と同様にして積層体8を得た。積層体8においても、プラズマイオン注入されたポリオルガノシロキサン系化合物層のXPSによる元素分析測定により、表面(イオン注入面)から深さ方向に向かって、酸素原子の存在割合が漸次的に減少し、炭素原子の存在割合が漸次的に増加する領域(ガスバリア層)があることが確認された。ガスバリア層の表層部における、酸素原子、炭素原子及びケイ素原子の存在割合と、ケイ素原子の2p電子軌道の結合エネルギーのピーク位置を第3表に示す。
【0179】
【表3】
【0180】
(実施例9)
実施例7において、粘着剤溶液Aに代えてゴム系粘着剤(TN−286、松村石油化学社製)を用いて、衝撃吸収層7の代わりに、厚さ40μmの衝撃吸収層9を形成した他は、実施例7と同様にして積層体9を得た。
【0181】
(実施例10)
実施例7において、粘着剤溶液Aに代えて、シリコーン粘着剤(SD−4580、東レダウコーニング社製)100重量部と白金触媒(SRX−212、東レダウコーニング社製)0.9重量部を混合し、粘着剤溶液Bを調製し、この溶液Bを、剥離シート(リンテック社製、PET50FD)に塗布し、120℃で2分間加熱して、PETフィルム上に厚さ30μmの衝撃吸収層10を形成した他は、実施例7と同様にして積層体10を得た。
【0182】
(実施例11)
実施例7において、衝撃吸収層7の代わりに、厚さ100μmのウレタンアクリレート系硬化性樹脂を用いて、衝撃吸収層11を形成した他は、実施例7と同様にして積層体11を得た。
【0183】
<衝撃吸収層11の形成>
衝撃吸収層11は、以下のようにして形成した。
ポリエステルジオールとイソホロンジイソシアネートを反応させて得られた末端イソシアネートウレタンプレポリマーに、2−ヒドロキシエチルアクリレートを反応させ、重量平均分子量約5000のウレタンアクリレートオリゴマーを得た。このウレタンアクリレートオリゴマー40重量部とフェニルヒドロキシプロピルアクリレート20重量部と、イソボニルアクリレート40重量部と、光重合開始剤としての1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(イルガキュア184、チバ・スペシャルティケミカルズ社製)2.0重量部を配合し、光硬化型樹脂組成物を得た。
得られた樹脂組成物を剥離シート(SP−PET3801、リンテック社製)の上に、厚みが100μmになるように塗布し、高圧水銀ランプを用いて紫外線(光量200mJ/cm
2)を照射し樹脂組成物層を硬化させて衝撃吸収層11を得た。
【0184】
(参考例1)
実施例7において、衝撃吸収層7を設けなかった以外は、実施例7と同様にして積層体Bを得た。
【0185】
積層体7〜11、比較例1の積層体A及び参考例1の積層体Bにつき、衝撃吸収層の貯蔵弾性率の測定、衝撃吸収層の引張弾性率の測定値から得られた「引張弾性率×厚さ」の値、衝撃吸収性能試験(無機化合物層の割れの有無)、及び該衝撃吸収性能試験前後の水蒸気透過率の測定を行った。測定結果を下記第4表に示す。
【0186】
【表4】
【0187】
第4表から、実施例7〜11の積層体7〜11は、水蒸気透過率が小さく、ガスバリア性に優れ、衝撃吸収性能試験において無機化合物層に割れが見られず、比較例1の積層体A及び参考例1の積層体Bに比して、衝撃吸収性能試験後も水蒸気透過率はほとんど変化せず、ガスバリア性は低下しなかった。