(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5666313
(24)【登録日】2014年12月19日
(45)【発行日】2015年2月12日
(54)【発明の名称】Al−Siコーティングが施された鋼材からコンポーネントを製造する方法および該方法による中間鋼材
(51)【国際特許分類】
C23C 2/28 20060101AFI20150122BHJP
C21D 9/46 20060101ALI20150122BHJP
C23C 2/12 20060101ALI20150122BHJP
C21D 1/18 20060101ALI20150122BHJP
B21D 22/20 20060101ALI20150122BHJP
B21D 24/00 20060101ALI20150122BHJP
【FI】
C23C2/28
C21D9/46 J
C23C2/12
C21D1/18 C
B21D22/20 G
B21D22/20 H
B21D22/20 Z
B21D24/00 M
【請求項の数】13
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2010-544691(P2010-544691)
(86)(22)【出願日】2009年1月29日
(65)【公表番号】特表2011-514440(P2011-514440A)
(43)【公表日】2011年5月6日
(86)【国際出願番号】EP2009050980
(87)【国際公開番号】WO2009095427
(87)【国際公開日】20090806
【審査請求日】2011年12月6日
(31)【優先権主張番号】102008006771.7
(32)【優先日】2008年1月30日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】510041496
【氏名又は名称】ティッセンクルップ スチール ヨーロッパ アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】ThyssenKrupp Steel Europe AG
(74)【代理人】
【識別番号】100095614
【弁理士】
【氏名又は名称】越川 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】フリードヘルム マシュレ
(72)【発明者】
【氏名】フレンツ−ヨゼフ レンツェ
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル ペーテルズ
(72)【発明者】
【氏名】マヌエラ ルーテンベルク
(72)【発明者】
【氏名】サシャ シコラ
【審査官】
祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−027203(JP,A)
【文献】
特開2007−314874(JP,A)
【文献】
特開平07−188887(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/090555(WO,A1)
【文献】
特開2007−314817(JP,A)
【文献】
特表2011−512455(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 2/00−2/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
保護Al−Siコーティングがコーティングされた鋼材からコンポーネントを作る方法において、
Al−Siコーティングがコーティングされた鋼材が第1加熱段階を受け、該第1加熱段階では、Al−Siコーティングが、鋼材からのFeと一部のみが予め合金化されるように熱処理温度および熱処理時間が設定され、
一部が予め合金化されたAl−Siコーティングを有する鋼材が冷却され、
前記冷却された鋼材は、第2加熱段階において、鋼材の少なくとも一部がオーステナイト構造を有するAC1温度より高い加熱温度に加熱され、第2加熱段階の加熱温度および加熱時間は、第2段階中に、Al−Siコーティングが鋼材からのFeと完全に合金化されるように設定され、
加熱温度に加熱された鋼材が成形されて、コンポーネントを形成し、
得られたコンポーネントが、制御された態様で冷却されてマルテンサイト構造を得ることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記鋼材は、第1加熱段階と第2加熱段階との間で室温に冷却されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記鋼材は、第1加熱段階と第2加熱段階との間で空気中に搬送されることを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記第1加熱段階の加熱温度は少なくとも500℃であり、同時に、せいぜい鋼材のAC1温度と同じであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記第1加熱段階の加熱温度は550〜723℃、より詳しくは550〜700℃であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記第1加熱段階はベル型焼きなまし炉内で行われることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記第1加熱段階は連続炉内で行われることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記第2加熱段階で鋼材が加熱される加熱温度は、少なくともAC3温度に等しいことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記第2加熱段階は連続炉内で行われることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記第2加熱段階はチャンバ炉内で行われることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
前記鋼材は、焼入れおよび焼戻しされた鋼からなることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
前記鋼材は、鋼板または鋼ストリップのような平鋼材であることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
前記鋼材は予成形された半成品であることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Al−Si保護コーティングがコーティングされた鋼材からコンポーネントを製造する方法に関する。また、本発明は、このような製造方法の過程で生じる中間鋼材であって、本発明に関連する形式のコンポーネンツを製造するのに使用できる中間鋼材に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明に関連する形式の鋼材とは、概略的に、既知の方法例えば溶融アルミめっきによりAl−Siコーティングが施された鋼ストリップまたは鋼板である。しかしながら、本発明に関連する形式の鋼材として、例えば金属板から予成形され、次に所与の完成品に成形される予成形された半成品を含めることができる。
【0003】
Al−Siコーティングは、所与の鋼材から形成されるコンポーネントを、その使用期間中に腐食から保護する。Al−Siコーティングはまた、防食効果、より詳しくは鋼基板のコーティングの直後のスケーリングに対する保護を与えかつ変形加工中に防食効果を維持する。これは、特に、「プレス硬化」として知られているものにより成形が行われる場合にあてはまる。
【0004】
プレス硬化では、成形すべき生(なま)鋼材が、成形前に、少なくとも一部にオーステナイト構造が存在する温度に加熱され、次に、熱いまま成形される。得られるコンポーネントは、次に、熱間成形加工中またはその直後に加速態様で冷却され、マルテンサイト構造を形成する。プレス硬化用生鋼材として、既に予成形されているか、熱間成形加工の終時に成形される金属板ブランクまたは半成品のような平鋼材が使用される。
【0005】
プレス硬化中に、Al−Siコーティングは、成形加工を大きく妨げるスケールが鋼材上に形成されることを防止する。したがって、現場で特に高レベルの荷重に曝される高強度で熱処理可能な鋼を成形できる。
【0006】
この目的で一般的に使用される鋼材は、当業界で「22MnB5」として知られている。例えば、厚さが薄くしたがって重量がかなり小さい平鋼材であっても、高レベルの強度をもつ必要がある自動車のボディ部品は、この種の鋼材から作られる。同様に、「DX55D」の商標で知られておりかつドイツ工業規格DIN EN 10327にしたがって形成された形式の深絞り鋼、およびドイツ工業規格DIN EN 10292にしたがって合金化されかつ「HX300/340LAD」の商標で市販されている形式のマイクロアロイ鋼のような他の鋼材もプレスモールド硬化(press mould hardened、pressformgehaertet(英、独訳))される。テーラードブランク/パッチワークブランクの形式により複数の鋼板から作られる生鋼材を使用することもできる。
【0007】
Al−Siコーティングが強固に付着して、成形中にAl−Siコーティングが割れたりまたは剥離されないようにするには、Al−Siコーティングが施された鋼材が、鋼基板からの鉄をAl−Siコーティングに合金化する熱処理を受ける必要がある。この目的は、コーティングの全厚に亘ってコーティングを合金化して、コーティングされた平鋼材の自由外面に当接するコーティングの上層に割れまたは剥離が全く生じないようにすることにある。Al−Siコーティングの全層合金化の形式およびレベルは、更に、プレス硬化により作られるコンポーネンツが容易に溶接されかつラッカー塗装できる効果を有する。
【0008】
下記特許文献1には、上記形式の方法が開示されている。この方法では、Al−Siコーティングされた鋼板は、最初に900〜950℃の温度に2〜8分間加熱される。コーティングされた鋼板は、次に、700〜800℃の温度に冷却されかつこの温度で熱間成形される。成形された鋼部品は、次に、得られる鋼部品内にマルテンサイト組織を作るため、300℃より低い温度に迅速に冷却される。コーティングが施された鋼基板の熱処理は、熱処理後の鋼基板からの鉄の拡散により、コーティング内の鉄含有量が80〜95%になるように行われる。この方法で、優れた溶接能力、優れた成形性および高レベルの耐食性を兼備する熱間成形コンポーネントが得られる。
【0009】
全層合金化を達成するのに必要な熱処理を行う場合の1つの問題は、充分な加熱温度を設定するとともに、鋼材を、炉内に或る時間留めておく必要があることである。所与の鋼材を炉内に維持しておく時間は、基板を加熱する速度と、必要とされる、基板とAl−Si層との全層合金化とに関係している。従来技術では、炉内時間は5〜14分間である。
【0010】
実際に、Al−Siコーティングが施された鋼材の加熱は、放射炉を使用して、熱間成形前に行われる。Al−Siコーティングが施された鋼材を加熱したときの反応に関する基礎研究によれば、このような炉内では、所与のコーティングの表面からの熱放射により、非コーティング材、有機コーティング材または無機コーティング材と比較して、加熱速度が遅くなることが証明されている。したがって、加熱には比較的長時間を考慮に入れなくてはならない。
【0011】
この長時間加熱は、Al−Siコーティングが施された平鋼材の加工プラントでの加工時間の長期化を招き、したがって、所与のコンポーネントの生産のサイクルタイムを延長するだけでなく、加熱に必要な炉設備を複雑化する。
【0012】
鋼をベースとするコーティングされた平鋼材は、誘導加熱または伝導加熱により一層迅速に加熱できる。加熱は、熱放射を強制対流させることによっても加速できる。しかしながら、加速加熱の場合には、Al−Siコーティング層内の合金化加工が加熱よりも一層遅くなり、このため、Al−Si層が完全に合金化しないか、合金化に欠陥が生じ、極端な場合には、Al−Si層が鋼材から剥落することもある。
【0013】
下記特許文献2から、コーティングの全層合金化と平鋼材の適温への加熱を2つの別々の段階で行うことにより、Al−Siコーティングが施された平鋼材を加工するプラントでの加工時間を短縮する1つの試みが知られている。このアプローチは、Al−Siコーティングが施された平鋼材の製造業者が、全層合金化加工を行うことを可能にする。次に、既に全層合金化がなされているコーティングが施された平鋼材の加熱は、プラントで、例えば誘導加熱または伝導加熱により、最適短時間でかつコーティングの形成を考慮に入れる必要なく行うことができる。したがって、この既知の方法を使用すれば、製造業者は、彼らにより既に全層合金化コーティングが施されている平鋼材を中間貯蔵設備に貯蔵しておき、プラントで更に加工する場合には、直ぐに中間貯蔵設備から取出すことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】欧州特許EP 1 380 666 A1号公報
【特許文献2】ドイツ国特許DE 10 2004 007 071 B4号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、上記提案は、予製造された平鋼材を中間貯蔵設備内に貯蔵しておく間およびプラントで加工段階を遂行する間に、全層合金化コーティング自体が腐食を受けてしまうという問題がある。この問題は、全層合金化コーティングの露出面に存在する鉄含有物から生じる。このような表面腐食の問題を解消するには、全層合金化とプレス硬化とを分離することにより得られる長所を大きく相殺するコストが嵩む保護手段が必要になる。この問題に加え、全層合金化コーティングでコーティングされた平鋼材ブランクを切断するのは困難であるという事実がある(切断は、熱間成形前の或る状況下で必要なことがある)。なぜならば、全層合金化Al−Siコーティング層は硬くかつ脆弱だからである。上記従来技術の観点から、本発明のベースを形成する目的は、Al−Siコーティングされた平鋼材を後で切断することを考慮に入れる必要がある場合に、腐食等の欠点なくして、Al−Siコーティングが施された鋼材のプラントでの加工時間を短縮できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明によれば、上記目的は、特許請求の範囲の請求項1に記載の方法により達成される。この方法の有利な実施形態は、請求項1に従属する請求項に記載されている。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】所与のサンプルの温度Tに対してプロットした焼きなまし時間tを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明により加工される鋼材は、例えば鋼板から予成形された鋼板または鋼ストリップ、または半成品等の平鋼材であり、その成形は、本発明により行われる熱間プレス硬化により完成される。テーラードブランク/パッチワークブランクの形態からなる複数の鋼板も、本発明により加工できる。
【0019】
本発明による加工には2段階熱処理があり、第1加熱段階では、従来技術と同様に、鋼基板からの鉄がAl−Si層内に合金化される。
【0020】
しかしながら、従来技術とは異なり、この第1合金化段階は、Al−Siコーティングが第1加熱段階後に鋼材からの鉄と不完全に合金化されるように、適当な温度および処理時間を設定することにより行われる。
【0021】
本発明による不完全に合金化されたコーティングが施された鋼材は、次に、室温まで冷却されかつ更に加工するため所与のコンポーネントに供給されるまで貯蔵される。Al−Siコーティングは、第1加熱段階では、不完全に合金化されているに過ぎないため、Al−Siコーティングは第1加熱段階後に依然として僅かに腐食を受け易い。このため、Al−Siコーティングの貯蔵および運搬、および第2熱処理の前に行われる更なる加工段階が、更なる手段を必要とせず行われる。
【0022】
同時に、第1加熱段階中に、本発明により一部のみに合金化されるコーティングは、第1加熱段階後でも、得られた平鋼材を、コーティング層に損傷を与え続けることなく、簡単な作業で分割または切断できる頑丈さを維持する。
【0023】
第1加熱段階後に得られかつ本発明により予合金化されているだけのコーティングが施された平鋼材は、コンポーネントに成形される前に第2加熱段階を受ける。この第2加熱段階は、一般に最終加工プラントで行われ、一方、完了すべき第1熱処理段階は、一般に鋼材の生産者により行われる。
【0024】
第2加熱段階は、通常、熱間成形の直前に完了される。第2加熱段階中、本発明により予合金化Al−Siコーティングのみが施された鋼材は、次の硬化に必要な加熱温度、すなわち鋼材の少なくとも一部がオーステナイト構造になるA
C1温度より高い温度まで加熱される。必要ならば、形成される生鋼材を、できる限り完全にオーステナイト構造となった構造にするため、少なくともA
C3温度以上の加熱温度にセットされる。
【0025】
これにより、第2加熱段階の温度および時間は、本発明により、Al−Siコーティングが第2加熱段階中に鋼材からの鉄と完全に合金化されるように設定される。
【0026】
この点に関し驚くべきことに、本発明により一部のみが鋼基板と合金化されたコーティングは、完全に合金化されたAl−Si−Feコーティングが施された平鋼材の加熱と比較して、放射炉内で加熱されたときにコーティングの剥落を生じさせることなく必要温度まで加熱する極めて高い加熱速度を可能にする反射率を有することが判明した。
【0027】
このため、本発明の方法により得られる中間製品は、鋼基板からの鉄と不完全に予合金化されたに過ぎないAl−Siコーティングが施されているという特徴を有している。
【0028】
この第2加熱段階の後に、今や完全に合金化されたAl−Si−Feコーティングが施された生鋼材が、適当な熱間成形工具で知られた方法で所望のコンポーネントに成形される。得られたコンポーネントは、完全に成形されたコンポーネントでもよいし、次に更なる成形段階を受ける半成品コンポーネントでもよい。
【0029】
熱間成形中または熱間成形の直後に、熱間成形されたコンポーネントは、制御された方法で最後に冷却され、鋼基板内にマルテンサイト構造を作る。「熱間成形」および「冷却」の作業段階は、特に、「プレスモールド硬化」から知られた方法で行うことができる。
【0030】
したがって、本発明の方法は、アルミめっきされかつプレスモールド硬化により作られたコンポーネントを、経済的にかつ同時に短い加工時間内で特に効率的に利用できるようにする。この場合、一般に鋼材の生産者により行われる加熱段階の努力が、Al−Si層と鋼基板からの鉄とを一部のみ合金化させる加工時間および処理温度が従来技術に比べて短縮されるために低減できるだけでなく、本発明により不完全にのみ合金化されるAl−Siコーティングを加工するプラントで一般に行われる第2加熱段階を、短い加工時間で、このため少ないエネルギ消費でかつ最小の設備コストで行うことができる。
【0031】
本発明により行われる第1加熱段階後に、Al−Si層内のFe含有量がホットプレス硬化後に得られるコンポーネントにおけるFe含有量より少ないという事実(これにより、ごく僅かに腐食の危険性がある)から、特に、鋼材が次に更なる加工のために供給される前に、第1加熱段階と第2加熱段階との間で鋼材を室温に冷却し、貯蔵することが可能になる。第1加熱段階後に存在する一部のみが合金化されたAl−Si層の腐食防止効果は非常に大きく、このため、鋼材を、第1加熱段階と第2加熱段階との間、例えば鋼材生産者の工場と最終加工プラントとの間で、問題ない態様で空気中に搬送できる。
【0032】
実際の試験によれば、第1加熱段階の温度は少なくとも500℃であるが、これは同時にせいぜい鋼材のA
C1温度と同じである。したがって、実際に、第1加熱段階では、550〜723℃、より詳しくは550〜700℃の範囲内の温度が特に適している。鋼材の機械的な技術的パラメータは、この範囲内の温度に加熱することによって悪化することはなく、かつ基本的構造はその成分に維持される。
【0033】
ベル型焼きなまし炉内で行われるこれらの加熱温度では、10〜30μm(80〜150g/m
2に一致する)の初期状態でのAl−Siコーティングの厚さを得るのに第1加熱段階で予定すべき時間は4〜24時間である。連続炉またはチャンバ炉内での加熱も考えることができ、各場合の加熱時間は1時間より短い。
【0034】
第1処理段階の温度および時間は、鋼基板から出発して測定したAl−Siコーティングが、Feを含むその厚さの少なくとも50%、特に70〜99%、好ましくは90〜99%に亘って合金化されるように設定するのが好ましい。
【0035】
鋼材の製造業者により使用されている炉の技術に基づいて、第1加熱段階は、ベル型焼きなまし炉、チャンバ炉または連続焼きなまし炉内で行うことができる。平鋼材の加工の場合は、ガルバニーリングユニットと同様の方法でコーティングユニットからの出口と一直線状に直接配置された連続炉内で予合金化を行うことができ、加熱は600〜723℃の範囲内で行われる。同様に、一部のみが合金化されたAl−Siコーティングが施されかつ本発明により得られた鋼材は、第2加熱段階において、連続炉内で必要加熱温度に加熱される。第2加熱は誘導加熱または伝導加熱を用いることができ、または熱放射で行うことができる。
【0036】
以下、例示の実施形態を参照して、本発明をより詳細に説明する。
【0037】
鉄および不可避の不純物とともに0.226重量%のC、0.25重量%のSi、1.2重量%のMn、0.137重量%のCr、0.002重量%のMo、0.034重量%のTi、0.003重量%のBを含有しかつ慣用の溶融アルミめっきによる20μm(120g/m
2に一致する)厚のAl−Siコーティングが施された1.5mm厚の鋼板のサンプルを試験した。
【0038】
サンプルはベル型焼きなまし炉でモデル化された試験炉内に置かれ、各サンプルについて、本発明による方法の第1加熱段階と同じ8時間の熱処理を行った。ここで、第1組のサンプルは500℃で焼きなまされ、第2組のサンプルは550℃で、また第3組のサンプルは600℃でそれぞれ焼きなまされた。更に、他のサンプルが、950℃の温度で6分間連続炉に通された。これは、Al−Siコーティング層が合金化される一般的なプレス硬化熱処理を代表するものである。所与の焼きなましの後、サンプルは室温まで冷却された。得られたサンプルは、950℃で熱処理されたサンプルまで、不完全に合金化されたAl−Siコーティング層を有していた。
【0039】
次に、予め焼きなまされかつ冷却されたサンプルを、第2加熱段階と同じ焼きなまし処理において、放射炉内で950℃の加熱温度に加熱し、オーステナイト構造の鋼基板を得た。このプロセスで加熱速度が測定された。すなわち、加熱速度は、サンプルが950℃の目標温度までいかに迅速に加熱されるかで観察された。
【0040】
図1は、所与のサンプルの温度Tに対してプロットした焼きなまし時間tを示すものである。前の第1加熱段階で焼きなまされなかったサンプルについての温度プロファイルも
図1に描かれている(曲線「−℃/−S」)。
【0041】
試験されたサンプルについて、加熱速度は、サンプルが、第1加熱段階でベル型焼きなまし炉内で550℃または600℃の温度で8時間焼きなまされたときに最適であることが理解されよう。同様に、連続炉内で950℃で6分間焼きなまされたサンプルについても、同様に良い加熱反応が観察された。
【0042】
500℃で8時間予め焼きなまされたサンプルの加熱反応が劣っている理由は、これらのサンプルでは、Al−Siコーティングの合金化されていない上層内の放射の反射が、予め熱処理を行わない供給されたままの状態で、まさに慣用のAl−Siコーティングにおけるように反応することによる。
【0043】
本発明による方法は、熱間成形前に硬化炉内で完全合金化を行うのに要する時間を顕著に短縮できる。したがって、慣用の方法に比べ、少なくとも90秒の利益(ゲイン)を期待できることを証明できた。このような時間の利益により、熱間成形前の加熱に必要な炉を小さく設計できる。慣用サイズの炉の維持には、約10日間に亘って室温まで冷却する必要があるのに対し、本発明により可能となった炉サイズの縮小により、冷却には少なくとも2〜3日で済む利益が得られる。