(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5666315
(24)【登録日】2014年12月19日
(45)【発行日】2015年2月12日
(54)【発明の名称】繊維ウェブプロセスに関連付けて填料を結晶化するための方法、及び繊維ウェブ機用のアプローチシステム
(51)【国際特許分類】
D21H 17/70 20060101AFI20150122BHJP
D21H 17/67 20060101ALI20150122BHJP
【FI】
D21H17/70
D21H17/67
【請求項の数】30
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2010-547211(P2010-547211)
(86)(22)【出願日】2009年2月19日
(65)【公表番号】特表2011-512463(P2011-512463A)
(43)【公表日】2011年4月21日
(86)【国際出願番号】FI2009050138
(87)【国際公開番号】WO2009103854
(87)【国際公開日】20090827
【審査請求日】2010年10月20日
(31)【優先権主張番号】20085166
(32)【優先日】2008年2月22日
(33)【優先権主張国】FI
(73)【特許権者】
【識別番号】501128874
【氏名又は名称】ウプム − キメネ オーワイジェイ
(73)【特許権者】
【識別番号】506118559
【氏名又は名称】ウエテンド テクノロジーズ オサケユキチュア
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100066692
【弁理士】
【氏名又は名称】浅村 皓
(74)【代理人】
【識別番号】100072040
【弁理士】
【氏名又は名称】浅村 肇
(74)【代理人】
【識別番号】100112243
【弁理士】
【氏名又は名称】下村 克彦
(74)【代理人】
【識別番号】100088926
【弁理士】
【氏名又は名称】長沼 暉夫
(74)【代理人】
【識別番号】100102897
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 幸弘
(74)【代理人】
【識別番号】100097870
【弁理士】
【氏名又は名称】梶原 斎子
(74)【代理人】
【識別番号】100140556
【弁理士】
【氏名又は名称】新村 守男
(74)【代理人】
【識別番号】100114719
【弁理士】
【氏名又は名称】金森 久司
(74)【代理人】
【識別番号】100143258
【弁理士】
【氏名又は名称】長瀬 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100124969
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 洋一
(74)【代理人】
【識別番号】100132492
【弁理士】
【氏名又は名称】弓削 麻理
(74)【代理人】
【識別番号】100163485
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 義敬
(72)【発明者】
【氏名】クッカメーキ、エスコ
(72)【発明者】
【氏名】マチュラ、ヨウニ
(72)【発明者】
【氏名】シピレー、マッティ
【審査官】
長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2004/0118542(US,A1)
【文献】
特開平04−272292(JP,A)
【文献】
特表2008−506859(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B1/00−1/38
D21C1/00−11/14
D21D1/00−99/00
D21F1/00−13/12
D21G1/00−9/00
D21H11/00−27/42
D21J1/00−7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維ウェブ機から濾液を得ること、少なくとも該濾液、及び各種の紙料成分から製紙紙料を調製すること、並びに該調製から該繊維ウェブ機に向けて該製紙紙料をポンプ送出することを含む、繊維ウェブ機の短循環内で炭酸カルシウム填料を結晶化するための方法であって、二酸化炭素及び石灰乳を該繊維ウェブ機の短循環液体流に供給し、互いに反応させることによって、炭酸カルシウム結晶を伴う該製紙紙料を提供するために、少なくとも泡のサイズが10mmよりも小さい泡の形態の二酸化炭素又は平均粒度3μm未満の粒子の形態の石灰乳のいずれかを、少なくとも一つの紙料成分、及び製紙原料の少なくとも一つを含む液体流に混合して、この化学物質が、該液体流の流動条件とは無関係に該液体流に均一に広がるようにし、この繊維表面での結晶化反応が、15秒未満で完了するようにし、
該混合が、少なくとも二酸化炭素又は石灰乳を、1つ又は複数のノズルから、該液体流の方向に対して横方向に、該液体流の流量よりも高い流量で、該液体流に注入することによって行われ、
該注入が、注入液体として、繊維ウェブ機から得られた濾液、繊維ウェブ機から得られた透明な又は濁った濾液、繊維ウェブを生成するために使用された繊維懸濁液、繊維ウェブの生成で使用された繊維懸濁液の繊維又はその他の成分、アクセプト流、リジェクト流、オーバーフロー、及び短循環のバイパス流、及び清浄な水の少なくとも1種を使用して行われることを特徴とする上記方法。
【請求項2】
石灰乳の平均粒度が、1.5μm未満であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
二酸化炭素の前記泡のサイズが、100μmよりも小さいことを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記注入で使用される流量が、前記液体流の流量に対して最小で3倍、最大で15倍であることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記液体流から二次流を採取し、該二次流に、注入液体として繊維ウェブ生成の繊維成分を使用することによって二酸化炭素又は石灰乳を注入し、その後、該二次流を該液体流に供給することによって、少なくとも二酸化炭素又は石灰乳のいずれかが該液体流に注入されることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記液体流から二次流を採取し、該二次流に、注入液体として繊維ウェブ生成のいわゆる濃厚な紙料成分を使用することによって二酸化炭素又は石灰乳を注入し、その後、該二次流を該液体流に供給することによって、少なくとも二酸化炭素又は石灰乳のいずれかが該液体流に注入されることを特徴とする、請求項1から5までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記液体流から二次流を採取し、該二次流に、注入液体として繊維ウェブ生成の濾液又はその成分のいずれかを使用することによって二酸化炭素又は石灰乳を注入し、その後、該二次流を該液体流に供給することによって、少なくとも二酸化炭素又は石灰乳のいずれかが該液体流に注入されることを特徴とする、請求項1から6までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
二酸化炭素又は石灰乳を別々に又は一緒に混合して、繊維ウェブ生成で使用される繊維成分に注入し、その後、形成された懸濁液を前記液体流に供給することによって、少なくとも二酸化炭素又は石灰乳のいずれかが該液体流に注入されることを特徴とする、請求項1から7までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
二酸化炭素及び/又は石灰乳と共に、別の製紙添加剤が前記液体流に注入されることを特徴とする、請求項1から8までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
二酸化炭素が、前記石灰乳の注入前に溶解する時間があるように、前記液体流に注入されることを特徴とする、請求項1から9までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
二酸化炭素及び/又は石灰乳の供給量が、所望のPCC量に応じて調節されることによって、第1の化学物質である該二酸化炭素又は該石灰乳の量が、PCCの当初望まれる量を基にして数値的に決定され、その後、第2の化学物質である石灰乳又は二酸化炭素の供給が、該第1の化学物質の供給に対して制御されることを特徴とする、請求項1から10までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
石灰乳が、40〜80℃の温度で、前記液体流に供給されることを特徴とする、請求項1から11までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
石灰乳が、消和又は回収プラントから得られた際の温度で、前記液体流に供給されることを特徴とする、請求項1から12までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
二酸化炭素の供給と石灰乳の供給の間隔が、15秒よりも短いことを特徴とする、請求項1から13までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
二酸化炭素及び石灰乳が、同時に液体流に供給されることを特徴とする、請求項1から14までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
二酸化炭素又は石灰乳が、液体流に並行に又は液体流に直接対向して注入されることを特徴とする、請求項1から15までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
少なくとも、繊維ウェブ機(2)から濾液を得るための手段、少なくとも繊維ウェブ機(2)から得られた濾液及び様々な紙料及び填料成分(6−12)から製紙紙料を調製するための手段(4)、並びに製紙紙料の調製(4)から繊維ウェブ機(2)のヘッドボックスに製紙紙料を運ぶための、ポンプ送出装置(14、20)と共にいくつかの送り管からなる送り配管を含む、請求項1から16のいずれか一項に記載の方法を実施するために採用される繊維ウェブ機のアプローチシステムであって、二酸化炭素及び石灰乳の少なくとも一方を、該送り管内を移動する液体流であって、少なくとも一つの紙料成分、及び製紙原料の少なくとも一つを含む上記液体流に供給するための手段を備え、該供給するための手段は、少なくとも石灰乳又は二酸化炭素のいずれかを前記液体の流動方向に対して横方向に注入して、該液体流の流動条件とは独立して、均一に混合するために、送り管の壁面に配置された第1の注入ユニットであり、
それにより、15秒以内に、生成されるPCCの結晶化反応が完了することを特徴とする上記アプローチシステム。
【請求項18】
少なくとも石灰乳又は二酸化炭素のいずれかを送り管に供給し混合するために配置された第2の注入ユニットを備え、該第2の注入ユニットは、前記第1の注入ユニットから距離を置いて設置されていることを特徴とする、請求項17に記載の繊維ウェブ機のアプローチシステム。
【請求項19】
前記注入ユニットが、前記送り管内の液体流に並行に又は前記液体流に対して直接対向して配置されたことを特徴とする、請求項18に記載の繊維ウェブ機のアプローチシステム。
【請求項20】
前記二酸化炭素及び/又は石灰乳注入ユニットが、二酸化炭素又は石灰乳用の入口フィッティング(40)と、二酸化炭素又は石灰乳が製紙紙料へと注入されるノズル開口とを含有する、前記送り管(44)の壁面に取着された1つ又は複数の注入又はノズル手段からなることを特徴とする、請求項19に記載の繊維ウェブ機のアプローチシステム。
【請求項21】
前記注入ユニットが、注入液体用の入口フィッティング(42)をさらに含むことを特徴とする、請求項17から20のいずれか一項に記載の繊維ウェブ機のアプローチシステム。
【請求項22】
前記入口フィッティング(42)が、送り配管(44)から二次流として注入液体を得るために、製紙紙料送り配管(44)内に配置されたフィッティングに流路を用いて取着されている、ことを特徴とする、請求項21に記載の繊維ウェブ機のアプローチシステム。
【請求項23】
前記注入液体用の前記入口フィッティング(42)が、濾液を得る手段に、流路を用いて取着されていることを特徴とする、請求項21に記載の繊維ウェブ機のアプローチシステム。
【請求項24】
前記注入液体用の前記入口フィッティング(42)が、製紙紙料の生成に使用される紙料成分用又は填料用の流動経路に、流路を用いて取着されていることを特徴とする、請求項21に記載の繊維ウェブ機のアプローチシステム。
【請求項25】
ヘッドボックスに至る製紙紙料送り配管から分岐する二次流の経路を含み、二酸化炭素及び/又は石灰乳を注入するための手段がこの二次流の経路に連絡して配置されていることを特徴とする、請求項17から24までのいずれか一項に記載の繊維ウェブ機のアプローチシステム。
【請求項26】
前記二次流の経路に、前記二次流を加圧するためのポンプ及び絞り弁(throttle valve)を備えることを特徴とする、請求項25に記載の繊維ウェブ機のアプローチシステム。
【請求項27】
前記二酸化炭素又は石灰乳注入ユニットが、紙料調製から製紙紙料の希釈に向かって繋がるパイプラインに取着されていることを特徴とする、請求項17から26までのいずれか一項に記載の繊維ウェブ機のアプローチシステム。
【請求項28】
前記石灰乳又は二酸化炭素注入ユニットが、希釈された製紙紙料をヘッドボックスに運ぶ製紙紙料用送り配管(44)に取着されていることを特徴とする、請求項27に記載の繊維ウェブ機のアプローチシステム。
【請求項29】
渦流清浄化のもの(16)をも含んでいてもよい、少なくとも1種の加圧スクリーン(22)を含んでなる、製紙紙料をスクリーニングするための手段(16、22)を追加として含み、かつ、前記注入ユニットが、該スクリーニング手段(16、22)の少なくとも一つの上流に設置されること、及び/又は、製紙紙料から気体を分離するための手段(18)を追加として含み、前記注入ユニットが、該気体分離手段(18)の上流に設置されること、を特徴とする、請求項17から28までのいずれか一項に記載の繊維ウェブ機のアプローチシステム。
【請求項30】
前記第1及び第2の注入ユニット間の距離が、15秒よりも短い、前記送り管内を移動する液体流の流動時間を表すことを特徴とする、請求項18から29までのいずれか一項に記載の繊維ウェブ機のアプローチシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
上述の発明の目的は、繊維ウェブプロセスに関連付けて、填料(filler)、特に炭酸カルシウムを結晶化するための方法、及び繊維ウェブ機用のアプローチシステムである。本発明は、特に、抄紙機プロセスに関連付けて、紙及び厚紙の生産で填料として使用されるPCCを連続生産するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭酸カルシウムは、とりわけ炭酸塩(carbonate)の高い輝度やその好ましい価格などに起因して、一般に、填料として且つコーティング材として紙の生産に使用される。炭酸カルシウムは、白亜(chalk)、大理石、又は石灰石を摩砕することによって生成することができ、これは重質炭酸カルシウムと呼ばれ、一般にGCC(Ground Calcium Carbonate)と略される。炭酸カルシウムを生成する別の方法は、化学的方法であり、例えば、水酸化カルシウムの第2の成分として存在するカルシウムイオンと、二酸化炭素を水に溶解したときに得られる炭酸イオンとを反応させ、得られた炭酸カルシウムを溶液から結晶として沈殿させるが、その形状は、とりわけ反応条件に左右されるものである。この生成方法の最終的な生成物は、沈殿炭酸カルシウム(Precipitated Calcium Carbonate)という単語の略称であるPCCという名称で呼ばれる。本発明は、PCCの生成と、紙の填料としてのその特殊用途に焦点を当てる。
【0003】
PCCの生成は、伝統的に、実際の紙の生産とは別に行われてきた。これまでPCCは、製紙工場付近に位置するPCC自体の個別のプラントで生成され、そこからPCCスラリーがポンプ送出によりパイプラインを介して搬送されて製紙が行われるか、又はPCCは、同様のプラントで生成され、そこからPCCスラリーがタンクローリによって、離れて位置する製紙工場へと輸送されていた。この方法により生成されたPCCは、化学的に生成されたセルロース繊維であるか又は機械的に生成されたセルロース繊維であるかに関わらず、このPCCが繊維に接着するように、紙の生産で歩留向上剤を使用する必要がある。上記手短に説明したPCCを生成する従来の方法には、既に述べた歩留向上剤の使用に関連した問題の他に、いくつかの問題がある。タンクローリによる化学プラントから製紙工場へのPCCの輸送は、輸送コストの問題を引き起こし、分散剤及び殺生剤の使用を必要とする。これらの添加剤の使用によって、PCCの性質が劣化する。
【0004】
工場に関連付けた個別のPCCプラントの建設は、高価な投資であり、24時間体制で作業する多くの人々が必要である。PCCプラントは、大量の真水及びエネルギーも消費する。
【0005】
したがって、紙の生産コストを削減するために、製紙工場で直接PCCを生成するための多くの様々な提案が最近なされており、それにより製紙コスト構造から少なくともPCCの輸送コストが除外される。繊維懸濁液の存在下でのPCCの生成は、PCC結晶と繊維との間の改善された接着をもたらし、したがって少なくとも歩留向上剤の必要性が低下し、場合によっては歩留向上剤の使用を完全に回避さえできることが注目されている。以下の記述は、製紙に関連付けたPCCの生成に対処したいくつかの特許文献について論じている。
【0006】
国際公開公報WO−A1−0107365は、従来のPCC生成法について論じている。一般的に言えば、この方法は、カルシウムが溶解したイオンの形で及び不溶性固体として存在する、カルシウムイオンを含有する懸濁液の形成を想定している。この懸濁液は、正圧反応器に供給され、そこに気体の二酸化炭素を導入し、その内容物を連続的に混合する。こうして、二酸化炭素と水との反応で炭酸イオンが生成し、カルシウムイオンとのさらなる反応で炭酸カルシウムが生成する。このプロセスは、pH値に応じてバッチ式ベースで実行される。初期段階において、即ち二酸化炭素を供給する前は、反応器内に存在する懸濁液のpH値が、概ね12よりも高い。反応器内への二酸化炭素の供給は、pHが6.5〜7.5レベルに降下するまで継続し、その後、スクリーンを通してPCC懸濁液を貯蔵タンクにポンプ送出し、製紙プロセスに供することができる。
【0007】
上記にて一般的に説明されたプロセスから生じたカルシウムイオンは、酸化カルシウム又は水酸化カルシウムであってもよい。この文献は、焼石灰(CaO)が、列車、トラック、又は空気式パイプラインによって地方のサイロ(silo)からPCCプラントまでどのように搬送されるかを説明している。焼石灰は、水酸化カルシウムを形成するために、消和器で工場水により消和する。適正な反応温度を確実にするために、必要に応じて水蒸気を加えてもよい。消和器から得られた石灰乳(milk of lime)を、スクリーンを通してポンプ送出し、そこで大きいサイズの粒子を除去し、前述の反応器内に送る。純粋な液体としてこのプロセスに導入されたCO
2に加え、適用可能な手法で精製された任意の適切な排煙を、反応器に供給される二酸化炭素の供給源として使用してもよい。
【0008】
国際公開公報WO−A1−9935333、国際公開公報WO−A1−9945202、及び国際公開公報WO−A1−0047817は、酸性紙の生産を念頭に置いた、摩砕炭酸カルシウム又はPCCの保護について論じている。これらの文献は、炭酸カルシウムがアルカリ条件下で比較的安定であり、低pH(概ね8以下)は、炭酸カルシウムがカルシウムイオン及び炭酸イオンに分割する傾向があり、これにより懸濁液は二酸化炭素(この形成は、紙料の起泡により検知できる)を放出することを想定する。この文献によれば、気状形態か水に溶解した状態かに関わらず二酸化炭素を使用することによって、炭酸カルシウムを安定化させることができ、したがって炭酸カルシウムが分解する危険性無しに、紙の生産のpHを6.5〜7.5の範囲内にまで下げることができるようになることが分かった。
【0009】
米国特許第5,223,090号は、繊維中、特にその内腔(lumen)内に填料粒子を沈殿させるため、バージンパルプと石灰乳とを最初に混合し、その含水率40〜95%の懸濁液を、加圧タンク内で激しく撹拌しながら気状又は液状試薬(二酸化炭素)と接触させることによる、バージンパルプ繊維の親水性を利用した製紙工場で生ずる繊維中のPCCの沈殿について開示している。混合器の代替例として、加圧パルプ摩砕器が開示されている。
【0010】
米国特許第5,262,006号は、リサイクル繊維又はリジェクト(reject)含有懸濁液中に硫酸カルシウム又は石膏が存在し、これらが紙コーティングにおける原材料として使用される、製紙プロセスについて論じている。この文献の目的は、リサイクル石膏の少なくとも一部を炭酸カルシウムに変換することである。これは、アルカリ金属又はアンモニウムの炭酸塩を懸濁液に供給することによって行われる。さらに、炭酸又は炭酸水素イオンが、PCCを形成するために製紙紙料に供給され、それにより繊維中への炭酸カルシウムの沈殿が引き起こされる。炭酸イオンは、懸濁液に最初に石灰乳を、次いで二酸化炭素を供給することによって、石灰乳及び二酸化炭素から公知の手法で生成してもよい。関連ある繊維懸濁液は、そのように使用され、又はその他のセルロース成分と混合されて、紙の生産が行われる。
【0011】
米国特許第5,558,782号、米国特許第5,733,461号、米国特許第5,830,364号、及び欧州公開特許EP−A1−0658606は、アルカリ土類金属炭酸塩を製紙濾液に沈殿させ、炭酸塩が濾液微細繊維に接着するようにし、次いでより容易に再使用できるようにするプロセスについて述べている。事実、文献は、濾液にまず石灰乳を、次いで二酸化炭素をどのように供給し、得られたPCCを濾液微細繊維に沈殿させるかについて教示している。PCCの沈殿後、PCCを含有する微細繊維を濃厚画分として沈殿物から分離し、別の填料と共に供給して生成される紙に添加し、又は、填料若しくはコーティング顔料として使用するために、PCCが沈殿した濾液をそれ自体として紙の生産に供給する。
【0012】
米国特許第5,665,205号は、紙の生産で使用されるリサイクル繊維の輝度及び純度の改善を対象とした方法について論じている。この方法は、15〜80℃の温度の混合反応器内で、0.1〜5%の濃度(consistency)で存在するリサイクル繊維への、炭酸カルシウム(酸化カルシウム又は水酸化カルシウム)及び二酸化炭素の添加を想定しており、二酸化炭素と石灰乳とのモル比は、0.1〜10の間で様々である。反応条件を変えることにより、炭酸カルシウム結晶のサイズ及び形状を制御することができる。同様に、化学材料供給の順序を変えることにより、反応pHを制御することができる。
【0013】
米国特許第5,679,220号は、上記にて既に述べた(米国特許第5,665,205号)プロセスについて、やや異なる角度から論じている。この文献では、懸濁液が、製紙繊維成分から形成され、この成分の濃度は、上述のように5%よりも低い。石灰乳は、個別の容器内で、水酸化カルシウムなどから形成される。繊維懸濁液及び石灰乳を、従属流反応器内で気状試薬を用いることにより剪断力によって激しく混合し、この場合、静的混合器は、ポンプ及びその他の混合器も同様であるがこの剪断力を発生させるのに十分と見なされ、炭酸カルシウムが繊維内に沈殿する。純粋な二酸化炭素又は排煙又はその他の同様の供給源から得られた二酸化炭素を、気状試薬として使用する。この文献は、石灰乳及び二酸化炭素を、どの反応器条件が望ましいかに応じて(主にpHに応じて)配置構成の異なるパイプ反応器に供給することを提示する。二酸化炭素は、例えば、多くの異なるステップで反応器に投与することができる。
【0014】
米国特許第5,731,080号及び米国特許第5,824,364号は、繊維が大量の微小繊維を含有しているような繊維懸濁液の炭酸カルシウムによる沈殿について特に論じている。これらの微小繊維は、自然に、又は摩砕の結果として、繊維中に存在すると言われている。この文献に記述されるプロセスにおいて、繊維懸濁液は、0.1〜30%の濃度でバッチ型混合反応器に供給され、石灰乳も受容する。好ましくは、反応器内の懸濁液の濃度は概ね2.5%である。反応器温度が安定化したら激しい混合を開始し、二酸化炭素をこの反応器に供給し、得られたPCC結晶が繊維表面に沈殿する。PCCが蓄積された繊維懸濁液は、紙の生産で使用され、通常の繊維懸濁液に添加することができる。
【0015】
米国公開特許公報20050045288は、機械パルプの黄変特性が最終製品を損なわないような、漂白した機械パルプ及びその生産について論じている。この目的は、PCCを用いた機械パルプの最適なコーティングである。この文献に記述されるパルプの本質的な特徴は、繊維表面が十分にフィブリル化(fibrillate)するように摩砕されていることである。この文献による方法では、機械的撹拌を軽く行うことによって石灰乳が繊維懸濁液に添加されるが、この混合物の濃度は、10%よりも低く、好ましくは約2.5%に調節される。その後、気状二酸化炭素を希釈懸濁液に添加し、全ての石灰乳が、繊維内で結晶化する炭酸カルシウムに変換されるまで、以前よりも強い機械的撹拌を維持する。上述の混合方法は、特別な容器内でバッチ式ベースで行われる混合に、主に関係する。この文献によれば、混合は、必要量の静的混合器を収容するパイプ反応器を含む、連続プロセスとして行ってもよい。混合は例えば、石灰乳が、パイプ内を流動する繊維懸濁液に供給され、次いで静的混合器により紙料と混合されるように実施してもよい。その後、二酸化炭素を1つ又は複数の連続点から流れに供給し、静的混合が各供給点で引き起こされる。上述の手法で生成された紙料を、紙の生産で1つの成分として使用する。
【0016】
国際公開公報WO−A1−9942657は、濾液が2種の画分に分割される、抄紙機の濾液の取扱いについて論じている。分画後、石灰乳を輝度の高い濾液に混合し、二酸化炭素を、微細繊維及び繊維を含有する画分に混合する。これらの画分を結晶化反応器に供給し、紙の生産用の繊維成分の一部もそこで受容するが、この操作は、連続的であってもバッチ式であってもよい。この文献に開示される解決策では、抄紙機濾液の微細繊維及び繊維を含有する画分に供給される炭酸カルシウムが、二酸化炭素で処理したときに重炭酸カルシウムに変換され、濾液に溶解し、その後、必要であれば固形分を濾液から分離することができる。任意選択で、重炭酸カルシウムを元の炭酸カルシウムとして沈殿させてもよい(PCC)。
【0017】
国際公開公報WO−A1−0112899は、無機ベースの填料とセルロース懸濁液との接着について論じている。この文献に開示されている製紙方法は、アルカリ及び/又はアルカリ土類金属の炭酸塩、重炭酸塩、又はケイ酸塩を含有するセルロース繊維懸濁液を使用する。この方法では、無機水酸化物を繊維懸濁液に添加し、無機填料の炭酸塩が繊維中に沈殿できるようにする。炭酸塩の沈殿は、ナトリウムイオンの利用に基づく。この文献は、ナトリウムイオン源として、リサイクル繊維プロセスで得られた懸濁液を挙げており、このナトリウムは、重炭酸塩として、又は製紙紙料中に元々存在するナトリウムとして、又は地下水から得られたナトリウムとして生じる。どのような場合でも、ナトリウムイオンは、製紙機械の水循環内を流動する。例えば、水酸化カルシウムがナトリウムイオン及び重炭酸イオンを含有する繊維懸濁液に供給される場合、炭酸カルシウム及び炭酸ナトリウムが形成される。炭酸ナトリウムは、水酸化カルシウムとさらに反応することができ、それにより炭酸カルシウム及び水酸化ナトリウムが形成される。得られる炭酸カルシウムは、繊維懸濁液の繊維中に、公知の手法で沈殿する。沈殿反応が完了したら、製紙紙料を製紙機械に運び、pH値を制御するために、得られた沈殿物に二酸化炭素を供給し、沈殿反応で副生成物として得られた水酸化ナトリウムを、最初に炭酸ナトリウムに変換し、さらに、二酸化炭素及び水と反応させて、重炭酸ナトリウムに変換し、それにより濾液は、紙の生産のためリサイクルできる状態になる。
【0018】
国際公開公報WO−A1−02066735は、紙繊維及び炭酸カルシウムからの、紙の生産について論じている。この文献の課題を解決するために、重炭酸カルシウム及び/又は二酸化炭素及び水酸化カルシウムの水溶液を混合して、バテライト(vaterite)結晶として炭酸カルシウムを沈殿させ、その直後に紙繊維を添加し、バテライト結晶を、繊維に接着するカルサイト結晶に変換する。このように形成された製紙紙料は、紙を生産するために製紙機械に供給することができる。
【0019】
国際公開公報WO−A1−03033815は、上述の文献を参照し、セルロース繊維と、製紙プロセスに関連付けて生成されたPCCとからなるセルロース生成物について論じている。この文献によれば、そこに記述されるプロセスは、任意の繊維表面に、即ち繊維の内側及び外側の両方に、PCCを堆積させることが可能である。この文献は、いくつかの異なるPCC沈殿の選択例について述べている。
【0020】
言及される選択例の第1において、重炭酸カルシウム及び二酸化炭素は、第1の混合器で繊維懸濁液と混合され、このプロセスに入るその濃度は3〜6%であり、二酸化炭素が懸濁液に完全に溶解するような値である。その後、水酸化カルシウムを懸濁液と混合し、この懸濁液を第2の混合器で混合し、得られた炭酸カルシウムを繊維中に沈殿させる。
【0021】
第2の選択例では、炭酸カルシウム及び二酸化炭素からなる混合物を第1の混合器で混合し、二酸化炭素を完全に溶解し、炭酸カルシウムの少なくとも一部を重炭酸カルシウムに変換する。最後に、混合物を第1の混合器から第2の混合器に供給し、そこに繊維懸濁液及び水酸化カルシウムも供給し、得られた炭酸カルシウムを繊維中に沈殿させる。
【0022】
第3の選択例では、炭酸カルシウム及び二酸化炭素を互いに混合し、その後、繊維懸濁液と共に、第1の混合器に供給する。これは、実際には、重炭酸カルシウム溶液を繊維懸濁液と混合することを意味する。第1の混合器の後、水酸化カルシウムを繊維懸濁液に混合し、その懸濁液を第2の混合器に供給し、そこで炭酸カルシウムが形成されて繊維中に沈殿する。
【0023】
第4の選択例では、PCCを短繊維画分中に沈殿させ、混合タンクに供給し、そこで短繊維画分を長繊維画分と混合する。
【0024】
さらに、第5の選択例では、PCCを短繊維パルプ中に沈殿させ、その後、短繊維画分を多層抄紙機のヘッドボックス(headbox)に供給し、例えば生成物を生成することができ、その中間層は短繊維画分で作製されたものであり、表面層は短繊維又は填料含有画分で作製されたものである。
【0025】
国際公開公報WO−A1−0200999は、少なくとも短繊維パルプ及び/又は填料を含有する流れにバージンパルプを添加する、製紙プロセスについて論じている。この混合物は濃縮され、特殊な反応器に供給され、そこで、例えば石灰乳及び二酸化炭素から生じたカルシウム及び炭酸イオンを混合物に添加する。短繊維化材料及び/又は填料を含有するこの流れは、例えば、抄紙機のワイヤセクション(wire section)から得られる濾液であってもよい。その他の短繊維源としては、様々な化学物質、摩砕の前及び後の両方の機械的なバージンパルプタイプの広葉樹及び針葉樹、剛性パルプ、並びにリサイクル繊維及びリジェクトが挙げられる。この文献に記述される一実施形態によれば、繊維中でのPCCの沈殿は、パイプ流中に設置された静的混合器で生じるが、そこには上述の短繊維/填料含有パルプ及びバージンパルプの混合物、希釈水、及び石灰乳が供給され、懸濁液の濃度が1〜3.5%の範囲内にあるようになされる。第1の静的混合器の後、二酸化炭素をこの流れに供給し、これを第2の静的混合器内で懸濁液と混合する。石灰から得られたPCC投入懸濁液を、中間タンクに貯蔵し、そこから希釈された形態で製紙機械に搬送する。
【0026】
欧州特許公報EP−B1−835343及び国際公開公報WO−A1−03035979は、填料含有化学パルプの生産について論じている。この生産は、その中にPCCが沈殿している填料と化学パルプとを混合することによって生産された、所望の化学パルプをベースにする。この填料は、Bauer−McNett番号が約P100であるいわゆるノイルフィブリル(noil fibril)が生成されるように、化学又は機械パルプを摩砕することによって得られる。炭酸カルシウムを、ノイルフィブリルを含有するこのパルプと混合し、その後、パルプを化学パルプと混合し、この混合物を乾燥させて製紙工場に配送する。
【0027】
国際公開公報WO−A1−02097189は、カルシウムイオンが紙の生産の水循環内に蓄積できないような、製紙機械のカルシウム含有濾液について論じている。この目的は、酸化カルシウム又は水酸化カルシウムを使用することなく、濾液のpHが少なくとも9の値に上昇するように、実現される。その後、二酸化炭素をプロセス水と混合し、カルシウムイオンの大部分を、プロセスから除去可能な炭酸カルシウムとして沈殿させる。
【0028】
国際公開公報WO−A1−2005005726は、石灰乳及び二酸化炭素を利用することによって特殊な混合デバイス内にPCCを沈殿させる、製紙紙料からの紙の生産について論じている。
【0029】
国際公開公報WO−A1−2005033403は、基材及びそこに沈殿したアルカリ土類金属炭酸塩から形成された、填料組成物について論じている。基材は例えば、繊維及び/又は微細繊維を含有する抄紙機の濾液、又は長繊維バージンパルプであってもよい。填料生成プロセスでは、まず固形分を石灰乳から除去し、その後、石灰乳を基材と合わせ、二酸化炭素を用いて混合物からPCCを沈殿させる。
【0030】
国際公開公報WO−A1−2005044728は、PCCを繊維中に沈殿させることのない又は製紙機械に至る繊維流にPCCを沈殿させることによる、PCCの生成についてのみ記述する。この文献は、どのように石灰乳を生成し、スクリーニングして固形分を無くすのか、また、スクラバ(scrubber)及び冷却器内での排煙の取扱いについて述べており、これらは共に約1〜7バールの圧力で炭酸化ステップに運ばれる前のものであり、そこでPCCが生成される。必要に応じて、PCCが沈殿したパルプを炭酸化ステップに搬送してもよく、その後、PCCが投入されたパルプを製紙機械に送ってもよい。
【0031】
国際公開公報WO−A1−2005061386は、その目的が結晶サイズを増大させ且つ特性表面積を縮小させるような、PCCの生成について論じている。この生成は、石灰乳及び懸濁液の混合物をベースにし、目的を実現するためにいくつかの連続した混合反応器内で二酸化炭素により炭酸化される。懸濁液は、製紙機械から得られた濾液であってもよく、又は別の適切な固体、又はバージン若しくはリサイクル繊維を含有する懸濁液であってもよい。このプロセスから得られる最終生成物は、例えば他の填料及び添加剤、並びに異なる繊維懸濁液と共に、紙の生産で使用してもよい。
【0032】
言い換えれば、従来技術は、抄紙機の濾液をどのように取り扱うのか教示しており、即ち、その内部の固形分が繊維ベースであるか又は填料などのその他の微粒子材料であるかに関わらずPCCがその固形分に沈殿しており、したがってこの固形分をより容易に濾液から分離することができるようになされた抄紙機の濾液、又は固形分を例えば製紙填料として利用することができる抄紙機の濾液を、どのように取り扱うのか教示している。
【0033】
PCCを紙の生産の画分に沈殿させ、次いでそれ自体を製紙機械に搬送し、又は製紙機械に搬送する前に混合タンクに搬送してその他の画分と混合する、公知の文献もある。
【0034】
繊維含有懸濁液でのPCCの沈殿は、主に従来技術の文献に従って行われ、カルシウムイオンが、例えば石灰乳によって懸濁液中に配置され、その後この懸濁液を、炭素イオンを放出し又は形成する化学物質で、主に二酸化炭素で処理するようになされる。このように、繊維に、より具体的にはその表面の凹凸部分及びフィブリルに接着する、炭酸カルシウム結晶が形成される。典型的にはこの方法は、石灰乳が、及びその後は二酸化炭素のみが、繊維含有懸濁液と混合されるように、適用される。
【0035】
いくつかの文献に提示された別の選択肢は、いわゆる重炭酸塩法である。この方法では、二酸化炭素を、炭酸カルシウム又はいくつかのその他の適切な炭酸塩を含有する液体/濾液/懸濁液と混合し、この炭酸塩を重炭酸塩に変換する。この目的に適したカルシウム又はいくつかのその他の水酸化物、例えば石灰乳を、溶液/懸濁液に添加した場合、炭酸塩が、水酸化物及び重炭酸塩の反応で形成される。
【0036】
しかし、従来の方法及び重炭酸塩法は共に、それ自体の弱点がある。重炭酸塩法は、少なくとも何らかの形のナトリウムを使用する必要があり、それは個別に添加することなく製紙紙料中に常に存在するとは限らない。事実、以下に論じる従来の方法と同じ問題が重炭酸塩法にも生じると、本発明者らは理解する。石灰乳及びその後の二酸化炭素のみが、まず利用可能な液体又は懸濁液と混合される従来の方法は、本発明者らの意見では、より需要のある生成物の生成に必要とされるほど最適な方法で、炭酸塩結晶の形成を制御することができない。さらに、沈殿プロセスの速度は、個別のより長く続く副循環を用いずに抄紙機の短い循環内で直接PCCの沈殿を行おうとする場合、必ずしも十分ではない。
【0037】
本発明者らの意見では、現行プロセスにおける沈殿反応の遅い速度は、化学物質が混合される方法に起因する。パイプ内を流動する媒体中でPCCの沈殿を行おうと試みる従来技術の解決策は、単なるパイプ流とパイプ内に配置された静的又は動的混合器の両方が、適切に良好な混合を引き起こすのに十分であることを開示する。しかし、その最終的な結果は、これらの方法によるPCCの生成が、一般販売又は製紙工場での使用に用いることができないようなものである。
【0038】
例えば、上記にて言及した従来技術文献の米国特許第5,679,220号では、二酸化炭素をパイプ混合器内に投入して、パイプ内を流動する繊維懸濁液がパイプに進入する二酸化炭素を速やかに通過するようになされ、パイプ流それ自体が小さな気泡としての二酸化炭素と紙料とを混合すると言われている。流動パイプの直径が半インチから6インチの間にあるこの米国特許文献の試験機器では、約1から2分の反応時間が必要であるが、この時間は、パイプ内の紙料の流量が概ね3〜6m/秒である抄紙機の短い循環に関しては、完全に長すぎるものである。この米国特許文献による混合方法において、流動は、事実上、二酸化炭素が流れを速やかに通過するときに生じる。二酸化炭素の添加点の後、均一なガス後流が最初に形成され、それがゆっくりと気泡に崩壊し、徐々にさらに小さな泡になる。しかし、二酸化炭素を供給してから長時間が経過すると、懸濁液のわずかな部分だけが二酸化炭素の泡と即座に相互作用することができる状況が広がる。この液体の部分は、二酸化炭素によって非常に素早く飽和され、その結果、二酸化炭素の分解が遅くなるが、その理由は、二酸化炭素によってまだ飽和されていない液体に遭遇するために、泡を懸濁液中でさらに保持しなければならないからである。
【0039】
既に手短に述べたように、上述の低速混合は、PCC結晶の不均一なサイズ分布をもたらすが、それは全混合期間中に且つ化学物質の一部が完全に消費されるまで、既存のPCC結晶が成長するとともに新しい結晶が形成されるからである。さらに、適切な流動条件では、PCCは流動経路(channel)の壁面などに又はその他の固定構造にも沈殿する。これは当然ながら、結晶化反応を長引かせることによって促進され、離れた構造において結晶化が利用可能になることが疑われる。
【0040】
事実、これらの問題は、十分に短い化学混合時間、特に反応時間を設けるよう試みることによって、解決することができる。事実、これは例えば、最適に均一に分散したPCCが望まれる場合、二酸化炭素を液体又は懸濁液の流れに溶解し、また二酸化炭素のほぼ完全な溶解に必要な時間が完了した場合のみ、石灰乳をこの流れに混合し、二酸化炭素に対して少なくともほぼ化学量論的な量で供給することを意味する。また、この場合のように、石灰乳をできる限り素早く且つ均一に混合し、結晶化反応を開始させ液体全体にわたり均一に進行させ、したがって結晶成長は均一であり、反応は、完了するまで素早く進行させる。
【0041】
仏国特許出願FR−A1−2821094は、バテライト結晶として紙料にPCCを沈殿させる試みについて記述しており、不安定なバテライトによって引き起こされる問題の解決に焦点を当てている。言い換えれば、バテライトは、炭酸カルシウムの最も不安定な結晶形態であり、カルサイト及びアラゴナイトに素早く変換する傾向にあることが公知である。この文献の出願人は、最終生成物中のバテライトの存在によって、この最終生成物に特に良好な性質が与えられると考えているので、バテライトが、最終生成物まで持続するよう十分に遅い段階で形成される方法が、開発された。結晶の生成が十分遅い段階で生じるのを確実にする唯一の方法は、重炭酸カルシウムの別の供給源材料を、炭酸塩結晶が所望の段階で形成されるような遅い段階で供給することである。この場合、出願人は、抄紙機ヘッドボックスにできる限りに近い場所で石灰乳を供給することを決定した。この文献は、「ウェブ形成の直前」という用語を、石灰乳を供給する場合に関して多くの異なる文脈で使用する。この文献の明細書の最後から2番目の文章は、紙料が製紙機械のウェブ形成領域に進入する点から10秒未満前の点で、石灰乳を供給すると述べている。言い換えれば、炭酸化反応は、10秒以内で終わりに向かって進行し、紙料は、ヘッドボックスを通って抄紙機のワイヤセクションに移動する。したがって出願人は、沈殿又は結晶化反応が、抄紙機ヘッドボックスの配管の中で問題なく進行し得ると考えているようである。
【0042】
しかし、行われた研究では、特許文献の時点で利用可能な石灰乳を供給するために混合器を使用したそのような後期石灰乳供給が、ほぼ確実に、製紙機械の主な操作性に関する問題の原因であることが示された。これらの問題の最も明らかで深刻なものは、ヘッドボックスのパイプでの沈殿として現れ、ウェブ形成にすぐに損害を与える。これら操作性の問題及び沈殿に関する主な理由は、大部分が、流れに存在する乱流効果により石灰乳を紙料とのみ混合したことにあり、その結果、炭酸化反応は、少なくとも製紙機械ヘッドボックスで継続し、おそらくは抄紙機のワイヤセクションでも継続する。このように、まず、バテライト結晶としてPCCを使用する考えは、その良好な意図とは無関係に、結晶化反応を抄紙機ヘッドボックスのパイプ内で進行させなければならないことを意味する場合には、失敗することになると留意すべきである。第2に、バテライト結晶の不安定性が高いことに起因して、この結晶はより安定な結晶形態に素早く変換するので、前もって生成することができない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0043】
上記にて論じたPCCの生成に関する多くの問題を明らかにするには、結晶化反応の動態をじっくり見る必要がある。二酸化炭素が供給され、少なくともその大部分が、PCCが沈殿することが好ましい液体又は懸濁液/製紙紙料にも溶解することが想定される場合、PCCの結晶化又は沈殿反応は、石灰乳の混合時に開始されることになる。関連ある物質移動に必要とされる時間は、例えば、以下の2つの要因によって影響を受ける:石灰乳が、より速くより効率的に流れと完全に混合されるほど、反応時間は短くなる。このステップでの素早く効率的な混合は、流れの濃度の差をできる限り少なくしようとするものである。別の重要な要因は、石灰乳の粒度であり、即ち、石灰乳の粒度が小さくなるほど、関係ある粒子の液相への物質移動が速くなり、結晶化反応の速度も明らかに増大する。PCC出発材料が、微細に摩砕され且つ液体流に均一に分散されている場合、結晶化は、素早く且つ液体流全体に均一に生じ、大き過ぎるPCC結晶、凝集体、及び沈殿物が形成する可能性が排除される。行われた実験では、従来の紙の生産で使用されるPCCを生成するためにサイズ分布の観点からの適切な石灰乳混合時間は、概ね3秒より短いことが示された。さらに、所望のプロセスステップの前、例えば抄紙機ヘッドボックスの前での実質的に完全な変換の後に、PCC沈殿反応が止まるように、供給、混合、及び反応ゾーンが配置される場合、有害な沈殿又は操作性の問題が、関連あるプロセスステップ及びその後に続くプロセスで生じないことが確実となる。
【課題を解決するための手段】
【0044】
本発明によるプロセスは、最初に石灰乳を、その後にのみ二酸化炭素を、液体又は懸濁液と混合するように実施してもよい(紙料の暗色化に及ぼすpH値の影響を考慮する。)。行われた実験では、最適なPCC結晶サイズ分布を得ようとする場合に、二酸化炭素及び石灰乳がいずれの順序で供給されるにせよ、本発明の方法により実施された沈殿反応において、反応で沈殿する成分の供給開始時から実際に全ての石灰乳が二酸化炭素と反応しPCC結晶が形成されるまでの反応全体に必要な時間、言い換えれば、所望のプロセスステップの前、例えば繊維ウェブ機のヘッドボックスで実質的に100%の変換が生じる時間は、15秒より短く、好ましくは10秒より短く、より好ましくは6秒より短く、最も好ましくは3秒より短いことが示された。求められる反応時間が短くなるほど、必要とされる物質移動はより素早くなる。迅速な物質移動は、実際に化学物質が、供給が生じたときにすぐに、ほぼ完全に混合されるように、後半の化学物質の供給を設けることによってのみ得られる。当然ながら、先に供給された化学物質は既に分散されているか、液体又は懸濁液/製紙紙料全体に均一に溶解していると想定される。短い変換時間を目標とする別の重要な要因は、先に述べたように、十分に微細な泡又は粒度、即ち反応ゾーン内での化学物質の大きな比表面積である。泡又は粒度が小さくなるほど(比表面積が大きくなるほど)、気体又は固体材料から液体への物質移動がより素早く生じる。関連ある石灰乳の好ましい平均粒度は、3ミクロン(μm)よりも小さく、好ましくは1.5ミクロンよりも小さく、最も好ましくは0.5ミクロンよりも小さいことが分かった。二酸化炭素の泡のサイズに関しては、少なくとも10mmよりも小さく、より好ましくは100ミクロンよりも小さくあるべきである。当然ながら、最適な結果は、液体の流れと共に供給する場合には、二酸化炭素が供給/注入液体に既に完全に溶解している場合に得られる。
【0045】
理論上及びある前提条件下では、有用な混合方法は、静的混合器、動的(回転)混合器、及び注入混合器を含む。静的混合器は、全ての条件が最適である状況で適切である。言い換えれば、混合される液体流は無定位であり、それらの流量は、互いにそれほど離れ過ぎていない。さらに、混合器は、迅速な混合を目的として特別に設計されなければならない。特定の問題は、大きなサイズの混合器によって引き起こされる流れ抵抗、混合器を製造する高いコスト、又は開発コストが高いために、混合器が非常に少ない応用に対してのみ適切であること、と考えられる。
【0046】
動的混合器も、特に比較的小さな流れを互いに混合すべき場合に可能である。混合体積を比較的小さく保った場合、混合される液体の流量の相対的相違は、大きくても良い。例えば製紙機械ヘッドボックスの配管をしばしば含む、大きなサイズのデバイスでは、回転混合器の投資及び設置コストとエネルギー消費が、それらの使用を制限する要因である。
【0047】
行われた試験に基づけば、本発明の適用目的に関して最も有利な混合方法は、注入混合器であることが分かった。
【0048】
トランプジェット(TrumpJet、いずれかの国における登録商標)、即ち従来技術によって公知でありWetend Technologies Oyによって開発された供給デバイスは、欧州特許公報EP−B1−1064427、欧州特許公報EP−B1−1219344、フィンランド特許公報FI−B−111868、フィンランド特許公報FI−B−115148、及びフィンランド特許公報FI−B−116473などの特許で論じられている。この供給デバイスは、紙の生産で歩留向上剤及び同様の化学物質を混合するための回転及び静的混合器のみが従来技術で公知であるという事実が原因で、開発された。このデバイスは、全ての態様で高価な投資であり、化学物質とヘッドボックス紙料との混合までも期待される状況で比較的効果がなく、そのことが、例えば、使用者が非常に使い易いデバイスでの化学物質の均一で素早い混合を可能にする、本発明による注入混合器の開発を促した。これまで、そのようなデバイスの機能的品質は、得られた生成物によって、即ちほとんどの場合、紙によって、並びに使用した化学物質の量によって、測定されてきた。言い換えれば、利用した化学物質の量を減少させながら、得られた紙の品質が変化しないままであり又は改善された場合、従来技術のデバイスの使用に比べて化学的な混合が改善されたと推測される。
【0049】
しかし注入混合器は、今や新しい種類の適用目的を実現することが想定され、そこでは、本発明者らは、製紙機械のヘッドボックスを通してワイヤに運ぶとき、内部に均一に分散するように単一の化学物質と製紙紙料との混合に対処するだけではなく、化学物質間の反応がヘッドボックスの上流で又はいくつかのその他のプロセスステップで生じるように、2種の化学物質と製紙紙料との混合にも対処する。
【0050】
このように、本発明の目的は、化学物質に対するそのような短い混合時間及び液体流全体にわたっても均一な混合それ自体を設けることであり、それにより、得られたPCC結晶のサイズ分布ができる限り均質であるように、また、大き過ぎる結晶、凝集体、及び沈殿物が形成される危険性ができる限り少なくなるようにする。
【0051】
本発明のより具体的な目的は、液体又は懸濁液の流れを用いた石灰乳及び/又は二酸化炭素の注入であり、この流れへの混合が、固有の乱流とは事実上無関係に、素早く且つ均一に行われるようにすることである。
【0052】
二酸化炭素及び/又は石灰乳を流れに注入する場合、Wetend Technologies Oyによって開発され且つ既に記述されたトランプジェット(TrumpJet、いずれかの国における登録商標)供給デバイスを使用し、したがって所望の数のデバイスを送り管の周辺に設置することができる。1つ又は複数の供給又は注入デバイスを、この送り管のサイズ及び形状に応じて送り管の周辺に設置した場合、本発明者らは実際に、同じ化学物質を供給するために、送り管の同じ周辺に設置された全ての注入デバイスを包含する注入ユニットに取り組む。
図19、20、及び21は、化学物質を液体流に供給したときの、従来技術による供給デバイスの動作とトランプジェット(TrumpJet、いずれかの国における登録商標)供給ユニットの動作を比較した試験結果を示す。従来技術による供給デバイスは、送り管の周辺に配置されたパイプ取付け用具であり、そこから、混合される化学物質を、管内を流れる液体と共に流すことが可能になる。これらの図から、トランプジェット(TrumpJet、いずれかの国における登録商標)供給ユニットは、上記発明の1つの条件として設定された高速混合が可能になることが分かる。トランプジェット(TrumpJet、いずれかの国における登録商標)供給デバイスを使用することにより、後続のプロセスステップ又はデバイスから約1〜3、好ましくは約1.7〜2秒(メートルで計算すると、10メートル未満)離して、注入及び混合を行うことができ、一方、従来技術のデバイスを使用する場合、添加剤の供給は、所望のプロセスステップ又はデバイス、例えば製紙機械ヘッドボックスの数十メートル手前で行われることになり、したがって化学物質は、プロセスデバイスの前に、乱流の影響下で混合される時間を有する。上述の内容は、続くプロセスステップの前に、化学物質などを均一に分布すべき状況にも当てはまる。しかし、本発明者らが、化学物質と、いくつかのその他の化学物質又は液体流中に既に存在する物質とを反応させなければならない状況に対処する場合、それぞれの反応に必要な時間は、好ましくはそれぞれの反応を上述のプロセスステップで、例えば製紙機械ヘッドボックスで継続させるものではない限り、当然ながら確保しなければならない。
【0053】
本発明の別の目的は、流動固体中のPCC結晶化を制御することであり、懸濁液中の炭酸化結晶のサイズ及び分布を、比較的精密な手法で予め決定することができる。この目的を実現する必須の方法は、その結晶及び/又は泡のサイズが目的に適したものになるように、PCC出発材料を液体流に注入することにある。
【0054】
本発明の目的の1つは、PCC結晶を、流れの中の繊維の表面に沈殿させることである。
【0055】
本発明の特定の目的は、PCC結晶を、流れの中に存在する繊維の中空コア、いわゆる内腔に沈殿させることである。
【0056】
上述の目的の少なくとも1つを実現するために、及びPCC沈殿反応を加速させるために、本発明は、十分に微細な泡又は粒子のサイズにある化学物質、即ち石灰乳及び二酸化炭素の少なくとも1種を、管内を流れる流体に添加し、事実上、化学物質の添加と同時に、流れの断面積全体にわたって実質的に均一に混合されるようにすることについて開示する。この場合、注入は、液体流に対して横方向に十分に、また、液体流の速度の少なくとも3倍(好ましくは5〜10倍)の速度で行うべきである。
【0057】
本発明者らの考えでは、混合の方式は、特に二酸化炭素が混合される化学物質の後者である場合に特に重要であり、このとき従来技術の方法では、液体又は繊維懸濁液にうまく混合することができず、そのためインラインでのPCC生成を製紙工場規模で成功させる要件であるのに二酸化炭素を水に素早く(事実上即座に)溶解するようにできない。その添加ステップに既にある二酸化炭素を、流れの断面積全体にわたり分布させる場合、二酸化炭素を流れの稠密化の任意の点で形成することができず、泡を取り囲む液体は二酸化炭素によって飽和され、二酸化炭素の溶解が妨げられ、しかし代わりに、二酸化炭素は注入の直後に溶解するようになる。
【0058】
本発明の特に有利な実施形態によれば、石灰乳も供給してパイプ流の断面積全体にわたり混合する場合、石灰乳の物質移動が素早く生じる状況が結果として起こり、カルシウムイオンは実際に、液体/懸濁液全体にわたって均一に分布する。このように、二酸化炭素の溶解から得られる炭酸イオンとの反応は、全液体体積を通して実際に同時に開始することができ、当初から存在する固体も、均一に分布すると想定することができる。言い換えれば、繊維の流れは、均質に且つ均一に処理されることになる。その結果は、結晶サイズ及び炭酸カルシウムの分布が均一なままであり、結晶は、懸濁液の固形分中に均一に位置している。混合が不均一であり、石灰乳が局所的に強力に反応する場合、制御されないPCC結晶成長が生じ、とりわけ大き過ぎる結晶及びPCC凝集体をもたらす可能性があり、深刻な品質及びプロセス操作性の妨害を引き起こす可能性がある。これは、プロセスデバイス及び配管の壁面に、制御されない状態でPCCを結晶化し、極度の清浄上の及びプロセス操作性の問題を引き起こす可能性もある。同様に、プロセスの制御性及び調節が影響を受け、生成されるPCCの品質を予測することがより難しくなる。
【0059】
上記従来技術によるPCC生成プロセスの欠点の少なくともいくつかは、修正することができ、上述の目的の少なくともいくつかは、填料を結晶化する発明の方法によって実現することができ、即ち、二酸化炭素及び石灰乳を短循環液体流に供給し、互いに反応させることによって、流動固体中及び/又はその表面に結晶が形成されるように、抄紙機の短循環内で填料、特に炭酸カルシウムを結晶化するための方法によって実現することができ、この方法は、少なくとも二酸化炭素又は石灰乳のいずれかを、十分小さいサイズの粒子又は泡として液体流に供給し、混合することにより、この化学物質が、液体流の流動条件とは無関係に液体流中で実質的に均一に広がるようにし、結晶化反応が、15秒未満、好ましくは10秒未満、より好ましくは6秒未満、最も好ましくは3秒未満で実質的に完了するようにして、それによりこの目的に適した均質な炭酸カルシウム結晶のサイズ分布を実現し、大き過ぎるPCC結晶、PCC凝集体、及びPCC沈殿物の形成を防止し、二酸化炭素と石灰乳の炭酸化反応を制御することを特徴とする。
【0060】
全く同じ方法で、従来技術による上述のPCC生成プロセスの欠点の少なくともいくつかを、修正することができ、上述の目的の少なくともいくつかは、少なくとも、繊維ウェブ機から濾液を受容するためのデバイス、少なくとも繊維ウェブ機から得られた濾液及び様々な繊維及び填料成分から製紙紙料を生成するためのデバイス、並びに製紙紙料をその生成点から繊維ウェブ機のヘッドボックスに運ぶための、ポンプ送出デバイス(単数又は複数)と共に複数の送り管からなる送り配管を備える発明による繊維ウェブ機のアプローチシステム(approach system)によって実現することができ、このアプローチシステムは、二酸化炭素及び石灰乳の両方を、送り配管内で移動する液体流に供給するためのデバイスを備え、このアプローチシステムは、少なくとも石灰乳又は二酸化炭素のいずれかを液体流の流動方向に対して実質的に横方向に送り管に注入するために、送り管の壁面に配置された第1の注入ユニットを備えることを特徴とする。
【0061】
本発明による方法及び繊維ウェブ機のアプローチシステムのその他の特徴は、添付される特許請求の範囲で示される。
【発明の効果】
【0062】
従来技術の方法に優る、本発明による方法及び繊維ウェブ機のアプローチシステムによって得られた利点は、例えば、下記の通りである:
・繊維ウェブ機の短循環内を流動する懸濁液での、直接的なPCC沈殿
・PCC沈殿プロセスを抄紙機短循環に即座に結び付けることができるような、二酸化炭素の迅速な溶解
・懸濁液への石灰乳の急速混合、固相から液相への急速物質移動
・二酸化炭素と石灰乳との迅速な反応
・炭酸塩結晶の均一で制御された形成、さらには繊維及び固体への結晶の均一な接着を意味する、流れ全体にわたる化学物質の均一な混合
・単純化された短循環プロセス−濃厚紙料の混合タンク又はより小さいサイズのタンクの使用の制限は全く必要なし
・以前使用されたデバイスに比べて少なくとも半分の、PCC製造により必要とされる投資額の削減
・先のPCC生成に比べて約10分の1までの、PCC生成エネルギーコストの削減
・従来技術によるオンサイト(on−site)PCCデバイスと比べた場合、清浄水の消費が実質的に削減される
・紙の生産は、歩留向上化学物質を少ししか必要とせず、又は全く必要としない
・紙の生産は、以前よりも多くの填料を使用することができ、それにより高価な繊維材料の使用が節約される
・疎水性グルー(glue)の必要性が低下する
・製紙水サイクルがより清浄になり、及び/又は精製化学物質の必要性が低下し、水サイクルを、以前よりも閉鎖的なものにすることができる。
【0063】
本発明について、添付された図を参照しながらより詳細に、以下に記述する。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【
図1】製紙機械の短循環プロセスの配置構成を概略的に示す図である。
【
図2】製紙機械の短循環における、従来技術によるPCC生成方法を概略的に示す図である。
【
図3】製紙機械の短循環における、従来技術による第2のPCC生成方法を概略的に示す図である。
【
図4】本発明の好ましい実施形態による短循環プロセス配置構成を概略的に示す図である。
【
図5】本発明の好ましい実施形態による、
図4の短循環プロセス配置構成をより一般的に示す図である。
【
図6】本発明の第2の好ましい実施形態による短循環プロセス配置構成を概略的に示す図である。
【
図7】本発明の第3の好ましい実施形態による短循環プロセス配置構成を概略的に示す図である。
【
図8】本発明の第4の好ましい実施形態による短循環プロセス配置構成を概略的に示す図である。
【
図9】本発明の第5の好ましい実施形態による短循環プロセス配置構成を概略的に示す図である。
【
図10】本発明の第6の好ましい実施形態による短循環プロセス配置構成を概略的に示す図である。
【
図11】本発明の第7の好ましい実施形態による短循環プロセス配置構成を概略的に示す図である。
【
図12】本発明の第8の好ましい実施形態による短循環プロセス配置構成を概略的に示す図である。
【
図13】本発明の第9の好ましい実施形態による短循環プロセス配置構成を概略的に示す図である。
【
図14】本発明の第10の好ましい実施形態による短循環プロセス配置構成を概略的に示す図である。
【
図15】本発明の第11の好ましい実施形態による短循環プロセス配置構成を概略的に示す図である。
【
図16】本発明の第12の好ましい実施形態による短循環プロセス配置構成を概略的に示す図である。
【
図17】本発明の第13の好ましい実施形態による短循環プロセス配置構成を概略的に示す図である。
【
図18】本発明によるプロセス配置構成で好ましく使用される注入デバイスの構造的選択例を概略的に示す図である。
【
図19】aからdは時間の関数として生成された混合プロファイルを用いて、
図18による注入デバイスを示す図である。
【
図20】従来技術による化学供給デバイスの動作を示す図である。
【
図21】本発明によるプロセス配置構成で好ましく使用される注入デバイスの動作を示す図である。
【
図22】繊維表面に沈殿したPCC結晶を使用する、本発明によるプロセス配置構成を示す図である。
【
図23】繊維表面に沈殿したPCC結晶を使用する、本発明によるプロセス配置構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0065】
簡略化のため、上記発明に関連したセクション、特に本発明の以下のより詳細な説明は、比較的一般的な用語を使用することに留意すべきであり、これらの一般的な用語の説明を、以下に示す。
・製紙機械は、より広範に、ウェブ様生成物が繊維含有懸濁液から生成される繊維ウェブ機又は全てのウェブ生産機を指す。したがってこの用語には、様々な最終生成物の他、全ての可能性ある中間生成物も含まれる。
・紙料は、繊維ウェブ機のヘッドボックスに向かって流れる任意の懸濁液を指し、ウェブは、繊維ウェブ機によって、いくつかの点でこの懸濁液から形成されるものである。紙料は、繊維を少量でも含有する上述の懸濁液タイプの全てを含む。
・液体流は、濃度とは無関係に、繊維ウェブ機の短循環内を移動する全ての流れを指し、したがって液体流は、多かれ少なかれ繊維及び/又は様々な紙の生産用の添加剤又は填料を含有していてもよい。液体流は、様々な気体含有懸濁液及び濾液、いわゆる高輝度(bright)及び超高輝度(super bright)濾液と、共に濃厚な繊維成分及び顔料含有沈殿剤も含有する。「液体流」という用語には、短循環の様々な部分で動く、選別(screening)及び渦流清浄化(rortex cleaning)のための、供給、アクセプト(accept)、及びリジェクト(reject)流などの二次流及び部分流が含まれる。
・繊維ウェブを生成するのに使用される繊維懸濁液は、繊維を少量でも含有する任意の懸濁液を指す。したがって、繊維ウェブ機のワイヤセクションから得られた濾液と、ヘッドボックスに供給された最終的な製紙紙料との間にあって、これらを含む様々な懸濁液の全ては、繊維ウェブの生産に使用される懸濁液である。
・加工された濾液成分は、沈殿剤、高輝度濾液、混濁濾液、主に固形分を含有する希釈濾液、又は固形分を含有する沈殿濾液を含む、任意の加工の結果物を指す。
・繊維成分は、任意の濃度の繊維ウェブを生成するのに使用される、任意の繊維含有成分を指す。したがって繊維成分は、機械パルプ、化学パルプ、化学機械パルプ、リサイクルパルプ、及び濾液から得られた様々な繊維を含有する沈殿物(per cipitant)などであってもよい。
・注入は、注入される媒体が、液体(流)よりも実質的に高い流量を有するような、注入液体を使用した液体流への流動媒体の供給を指し、この媒体は、注入されると液体流に深く浸透し、そこで実質的に均一に広がる(15%よりも低いいわゆるピーク間分散−ピーク間分散は、これらの平均に対する、逸脱している極値の差として計算される。)。好ましくは、注入供給速度は、液体流量の約3〜15倍、好ましくは5〜10倍である。
【0066】
従来技術の製紙機械の短循環のプロセス配置構成について概略的に論じている
図1は、符号2によって抄紙機を示し、ここで、いわゆる白水(white water)Fが濾液として得られ、この濾液は直接又は中間タンク(単数又は複数)での処理を介して混合タンク、濾液タンク、又はワイヤピット4に運ばれ、そこに、紙料調製に必要とされる様々な繊維成分及び紙の生産に必要とされる添加剤が導入される。フィッティング6〜12からは、化学バージンパルプ、機械バージンパルプ、長及び/又は短繊維パルプ、リサイクル繊維及びコーティング付きリジェクト(reject)、非コーティング付きリジェクト、回収フィルタから得られた繊維画分、並びに製紙紙料とこのステップで既に混合され得る填料及び/又は添加剤の少なくとも1種が、混合タンク又は同様の配置構成に運ばれる。繊維成分の濃度は、その用途に応じて3から5%の間の値である。混合タンク4内の製紙紙料は、上述の成分を混合して所望の組成にしたものであり、出力される製紙紙料の濃度は、個別の混合タンク内でのみ又はそこに接続されるワイヤピット内などで、0.3〜1.5%の範囲内に調節され、それにより紙の生産、又はより大まかに言えば繊維ウェブの生産に適合するようになされる。混合タンク4の後、又は一般的に言えば最終希釈の後、製紙紙料は、ポンプ、いわゆる混合ポンプ14によって、渦流清浄化プラント16内の渦流清浄化に搬送され、そこでは、より重い粒子が製紙紙料から分離される。典型的には、渦流清浄化プラントの第1のステップのリジェクトは、多くの渦流清浄化プラントステップでさらに加工され、ほとんどの場合、これらのそれぞれから得られたアクセプトは、先のステップの供給材料へと搬送され、リジェクトは後に続くステップの供給材料に搬送されるが、これは最後のステップのリジェクトが短循環から除去されるまで行われる。渦流清浄化プラント16のアクセプトは、気体分離タンク18までその移動を継続し、そのタンクでは、紙の生産を妨げないように、真空によって、空気又はおそらくはその他の気体が製紙紙料から除去される。気体分離タンク18内のレベルは、特殊な堰(weir)によって一定に保たれ、このタンクに供給される製紙紙料の一部は、元のタンク供給材料に戻される。製紙紙料は、気体分離タンク18からヘッドボックスの供給ポンプ20に流れ、製紙紙料をいわゆるヘッドボックススクリーン(head box screen)22にポンプ送出し、紙の生産に不適切な大きいサイズの粒子を製紙紙料から分離し、アクセプト画分を、そのヘッドボックスに通して製紙機械2に運ぶ。ヘッドボックススクリーン22のリジェクトは、さらに別のスクリーニングステップで許容可能な繊維画分を回収するために加工され、そのアクセプトは、通常、ヘッドボックススクリーンの供給材料に戻される。それほど要求のきびしくない最終生成物を生成する繊維ウェブ機の短循環は、渦流清浄化プラント、気体分離及び/又はヘッドボックススクリーンを持たなくてもよい。
【0067】
図2は、従来技術によるプロセスの概略図であり、例えば、製紙機械の短循環に結び付けたPCCの生成に関する特許文献米国特許第6,387,212号で論じられている。製紙機械から得られた濾液Fは、このプロセスにおいて、濾過26により2つの画分に分割され、その高輝度濾液を石灰乳(Ca(OH)
2、乳状石灰、以後、MoLとする。)と混合し、固形分含有濾液を二酸化炭素(CO
2)と混合する。固形分含有濾液は炭酸カルシウムを含有するので、重炭酸カルシウムを供給したときに二酸化炭素がそこで形成される。最後に、上述の画分と繊維懸濁液の両方を反応器28に供給し、そこで、炭酸カルシウムを形成するために重炭酸カルシウムと水酸化カルシウムとを反応させる。反応は、1〜15、好ましくは5〜10%の濃度で生じると言われる。
【0068】
図3は、製紙機械のアプローチシステムでPCCを生成するための、第2の従来技術の提示例の概略図である。このプロセスは、例えば特許文献米国特許第5,679,220号で扱われており、製紙紙料成分又はその組合せをベースにしており、それと石灰乳及び二酸化炭素が混合される。混合は、この目的のために特に設計された反応器で、又はパイプ流内で行うことができる。この文献は、どのようにして、石灰乳供給に対して二酸化炭素の導入点を変えることができ、例えば石灰乳を供給する前、並びに後での二酸化炭素の供給を可能にするのか述べている。炭酸カルシウムへの水酸化カルシウム(石灰乳)の変換反応は早いと言われているが、それにも関わらずこの文献は、アルカリ水酸化物から炭酸塩への完全な変換を確実にするために、混合の後に特別な反応ゾーンを設ける必要があると見なしている。これは、pHが高過ぎる場合、特に機械パルプの、暗色化が生じ得るので、非常に重要である。この反応ゾーンには、1から2分にわたる時間が与えられる。しかし上記反応時間は、例えば製紙機械のアプローチ配管の製紙紙料流量が約5m/秒であることを念頭に置いた場合、実際の抄紙機プロセスでは問題になるほど長い。事実、抄紙機短循環内での混合に利用可能なパイプ流は、最良でも数十メートルしかなく、即ち、米国文献で提示されたものの10分の1以下である。
【0069】
理論的には比較的速いものであるべき変換反応が、なぜそのように遅いかという理由を検討し始めてみると、初期の疑念は、化学物質を混合する手法に行き着く。本発明者らの考えでは、これに関わる明らかに最大の要因は、文献に記述されているような、二酸化炭素及び石灰乳を混合する方法である。この文献は、二酸化炭素をパイプ混合器内に放出させて、管内を流れる繊維懸濁液が、管に進入する二酸化炭素を速やかに通過し、そしてパイプ流そのものが、二酸化炭素を小さな気泡として製紙紙料と混合するようになされることについて、特に述べている。送り管の直径が半インチから6インチまでのいずれかであるこの米国特許文献の試験機器において、約1から2分の混合/反応時間が必要とされる場合、送り管の直径が明らかにより大きくその流れが比較的より層流になるときのみ、どのくらいの時間が必要なのかということを推測することができる。製紙紙料を製紙機械ヘッドボックスに運ぶパイプラインの直径は、例えば500〜1000mmの範囲内であり、即ち実際に、断面積は、米国特許第5,679,220号の文献の試験機器と比較した場合、少なくとも十倍大きい(おそらくは百又は千倍でもある。)。本発明者らの考えによれば、従来技術の混合方法では、二酸化炭素の添加点の後に均一なガス後流が最初に形成されるように、流れと共に二酸化炭素が運ばれ、それがゆっくりと崩壊して気泡になり、さらにより小さい泡へと崩壊する。しかし、その最終結果は、少量の懸濁液のみが即座に二酸化炭素の泡と相互に作用することができ、且つ二酸化炭素で素早く飽和された状況である。その結果、泡は、二酸化炭素によってまだ飽和されていない液体に接するために、懸濁液中にさらに運ばれなければならないので、二酸化炭素の溶解がゆっくりと生じる。混合に影響を及ぼす別の要因は、繊維懸濁液の濃度であるが、それは明らかに、より高い懸濁液の濃度がより遅く動き、乱流を巻きおこすからである。さらに、例えば米国文献そのものが、5%よりも高い濃度によって気−液反応を遅らせると主張している。この文献の実施例で使用された濃度は、1.5%であった。そのような制御されていない弱い混合から生じる石灰乳と二酸化炭素との反応は、例えば、大き過ぎるPCC結晶、PCC凝集体、及びPCC沈殿物を引き起こし、それらが流動経路又はその他の壁面に接着し、それにより堆積物及びその後に生じる汚染の問題を引き起こす可能性がある。事実、大きな石灰乳の液滴が二酸化炭素と反応する場合、その表面にPCCを有する粒子が形成され、内部に未反応の石灰乳を有するこの粒子も問題を構成する可能性がある。いくつかの段階で、石灰乳は、この粒子から流出することができ、懸濁液のpHを上昇させる。これが生ずると、十分に数多くのPCC粒子が崩壊する間、高いPHがこの系を混合する。
【0070】
図4は、
図1で概略的に示したものと同じ方法で製紙機械の短循環と組み合わせた、本発明の好ましい実施形態によるPCC生成プロセスを示す。
図4による方法では、PCC生成は、渦流清浄化プラント16の前に抄紙機短循環内で生ずる。実際に、二酸化炭素は、ポンプ14の加圧側で注入され、水酸化カルシウム(Ca(OH)
2;石灰乳)は、二酸化炭素の後に、同じ管内で、即ち渦流清浄化プラント16の第1の段階の送り管内で、前者から数メートル離れた点で溶解した。第2の注入供給ユニット、即ち石灰乳注入ユニットが、渦流清浄化プラント16から十分な距離にある場合(これは、例えば石灰乳の粒度及び注入流量に依存する。)、結晶化反応は、渦流清浄化の前にその反応を完了させる時間を有することになる。この実施形態の1つの利点は、渦流清浄化16とこの短循環内で後半に存在する機械スクリーン22とが、大き過ぎる粒子を全て除去し、それに対して過剰な気状CO
2の全てが気体分離器18で除去されることである。例えばヘッドボックス供給ポンプ20の吸引側で、pH値を調節する必要がある場合、引き続き酸性化を行うことが可能である。言い換えれば、化学物質が、製紙機械に向かう製紙紙料の流れに注入されるが、そこでは全ての繊維成分が既に添加されており、その濃度は、ヘッドボックスの濃度と実質的に一致するものである。
【0071】
図5は、原則として、先の生成プロセスと同様であるがややより概略的な、PCC生成プロセスを示す。言い換えれば、
図5から開始すると、この図は、抄紙機の短循環内にどのデバイスが存在するか考慮されておらず、代わりに、どの順序で、どの液体/懸濁液に化学物質が混合され、どのような方法で行われるかに焦点が当てられただけの図が使用される。行われた実験は、PCCが繊維中に沈殿する短循環内の点が、沈殿が生じる方法、特に化学物質が懸濁液と混合される方法ほど重要ではないことを示した。さらに、粒子又は泡のサイズも、PCC生成速度と生成されたPCCの品質との両方に、特に形成される粒子のサイズ及びサイズ分布に、著しい影響を及ぼすことが示された。言い換えれば、
図5は、種々の紙料画分からなる、いわゆる濃厚な紙料のみを示し、即ち紙料成分は、製紙機械から得られた濾液Fと混合され、その後、二酸化炭素及びその後に石灰乳が繊維懸濁液に混合されることを示す。しかしこの段階では、本発明者らの発明の実施形態のほとんどの特徴が、本発明者らの考えによれば石灰乳の注入前に利用可能な液体に二酸化炭素を溶解することが有利である、という点は注目に値する。これには少なくとも2つの理由がある。第1に、濃厚な紙料が機械パルプ又はリサイクルパルプ、一部が機械パルプからなるものを含有する場合、二酸化炭素の前に石灰乳を注入することにより、懸濁液のpHは、機械パルプが暗色化し始めるように上昇する可能性がある。これが生じないようにするには、最初に二酸化炭素を注入することが安全であり、懸濁液のpHは降下し、暗色化は生じなくなる。第2に、二酸化炭素が液体中に既に溶解している場合は、沈殿反応が素早く生じる。別の利点は、二酸化炭素を液体全体に均一に溶解することによって得られる。このように、好ましくは懸濁液全体にわたり混合物中に素早く且つ均一に広がるように、石灰乳が注入された場合、均一に分布した炭酸カルシウム、PCCは、懸濁液中に存在する繊維及び固形分の全ての表面に形成される。
【0072】
図6は、本発明の第2の好ましい実施形態による製紙機械の短循環内で、PCCを生成する第2の方法を概略的に示す。実際には、先の実施形態とは異なる唯一の特徴は、二酸化炭素及び石灰乳を注入する順序である。石灰乳が最初に注入され、その後にのみ二酸化炭素が注入される、そのような注入システムは、本発明者らの考えによれば、いくつかの条件下で関連あるものと考えられる。第1に、かなりの量の機械パルプが、繊維懸濁中にバージンパルプとして又はリサイクルパルプとして存在しない場合、又は、供給される石灰乳の量が少な過ぎて、pH値が、暗色化の危険性を必然的に伴うレベルにまで上昇しない場合である。第2に、本発明者らの理解によれば、二酸化炭素の注入又はむしろ製紙紙料への二酸化炭素の混合は、溶解が素早く生じ、二酸化炭素が懸濁液全体に均一に分布することができ、石灰乳との反応が均質なPCC形成をもたらすように、この実施形態で特に効果的でなければならない。しかし、現実は、反応がイオンを介してのみ進行し、したがってPCCは、二酸化炭素が溶解するにつれて徐々に形成されるだけである。
【0073】
図7は、本発明の第3の好ましい実施形態による製紙機械の短循環内で、PCCを生成する第3の方法を示す。この図による種々の繊維成分から形成された濃厚紙料は、製紙機械から得られた濾液によって、適切な濃度に希釈され、その後、石灰乳及び二酸化炭素が実質的に同時に、繊維懸濁液に注入される。注入は、個別の注入液体を使用することにより行ってもよく、水に溶解した二酸化炭素を石灰乳の注入液体として使用してもよく、又は例えば、両方の化学物質を、主要な製紙紙料管から得られた二次紙料流を使用することによって、又は供給液体として短循環のいくつかのその他の液体流を使用することによって、注入してもよい。注入は、両方の化学物質に共通のノズルによって、又は送り管の周辺上に交互に設置された各化学物質ごとの個々のノズルによって、行ってもよい。
【0074】
図8は、本発明の第4の好ましい実施形態による製紙機械の短循環内で、PCCを生成する方法を示す。この図による種々の繊維成分から形成された濃厚な製紙紙料は、製紙機械から得られた濾液によって、適切な濃度に希釈され、その後、石灰乳及び二酸化炭素が、実質的に同時に製紙紙料に注入される。事実、このプロセスはこれまで、
図4及び5に示される方法と同じである。しかし、このプロセスは、二酸化炭素若しくは石灰乳、又は好ましくはその両方(この選択例が図に示されている。)が、特定の注入液体を使用して1つ又は複数の混合器により製紙紙料に注入されるように、明らかにされた。このタイプの混合器は、例えば、Wetend Technologies Oyの特許、米国特許第6,659,636号及び米国特許第7,234,857号に記載されている。種々の実施形態で実施される注入の特徴は、トランプジェット(TrumpJet、いずれかの国における登録商標)デバイスを使用するにしても又はいくつかのその他の注入デバイスを使用するにしても、二酸化炭素及び/又は石灰乳が、十分に高い流量で注入又は供給液体を使用して、製紙紙料の流れに対して実質的に横方向に製紙紙料に注入され、1つ又は複数のノズルの注入液体/化学物質のスプレーが、紙料の流れの実質的に全断面を包含し、二酸化炭素及び/又は石灰乳は、懸濁液中に乱流が存在するか否かに関わらず、液体全体にわたって事実上均一に分布されることである。上述の「実質的に横方向に」という用語は、比較すべき方向から、例えば流れの方向又は配管の軸の方向から、30度よりも大きく逸れる方向を指す。注入液体として製紙紙料が、
図8の方法で使用される。言い換えれば、小さな二次流が、製紙機械に至る製紙紙料管から得られ、この流れが注入器にポンプ送出され、そこに石灰乳又は二酸化炭素が注入されて、このように形成された注入液体の混合物として実質的に同時に二酸化炭素又は石灰乳が注入液体中に混合されるようになり、二酸化炭素又は石灰乳は、ヘッドボックスに向かって流れる製紙紙料に浸透するようになる。注入液体及び化学物質の混合物の流量は、紙料管内を流れる製紙紙料の流量の3〜15倍、好ましくは5〜10倍である。二酸化炭素又は石灰乳及び注入液体の接触と、製紙紙料へのこれら混合物の供給との間の遅延は、好ましくは0〜0.5秒程度である。化学物質が上述の方法で紙料管に注入され、化学物質の泡又は粒子のサイズが十分低く保たれる場合(例えば、石灰乳の場合は3ミクロンより小さく、好ましくは1.5ミクロンより小さく、より好ましくは0.5ミクロンより小さい。)、炭酸化反応は、後者の化学物質の供給開始から15秒未満で、好ましくは10秒未満で、より好ましくは6秒未満で、最も好ましくは3秒未満で完了する(完全な変換が生じた。)と考えることができる。二酸化炭素の泡のサイズは、高い流量(製紙紙料の流量の少なくとも3倍)で上述の実質的に横方向の供給を使用したときに、気体から液体への高速の材料移動を確実にするために、十分小さくなるよう試験で決定した。このように、泡のサイズは少なくとも10mmよりも小さく、より好ましくは100ミクロンよりも小さい。横方向の流量が大きくなるほど、二酸化炭素の泡のサイズは小さくなる。しかし当然ながら、最適な結果は、二酸化炭素が液体流と共に供給されたときに、供給/注入液体中に既に完全に溶解した場合に得られる。
【0075】
図9は、本発明の第5の好ましい実施形態による製紙機械の短循環内で、PCCを生成する方法を示す。この図による種々の繊維成分から形成された濃厚な製紙紙料は、製紙機械から得られた濾液によって適切な濃度に希釈され、その後、最初に二酸化炭素が、その後に石灰乳が、希釈繊維懸濁液に注入される。この実施形態による方法は、化学物質の少なくとも1種が、注入液体としてヘッドボックスの濃度にまで希釈された製紙紙料以外のいくつかのその他の液体又は懸濁液を使用して紙料の流れに注入される点が、先の実施形態とは異なる。紙料成分は、第1の注入液体の選択例として論じられる。これにより、当然ながらいくつかのさらなる選択例が可能になる。紙料成分を両方の化学物質の注入液体として使用する場合、この成分は、両方の化学物質に用いられる同じ紙料成分から得られた二次流若しくは各化学物質ごとに別々にそれ自体の成分から得られた二次流であってもよく、又は、二酸化炭素を供給するために
図9に示されるように、全体として注入液体としての紙料成分の使用である。さらに、注入液体として使用される成分は、いくつかの紙料成分の混合物にすることが可能である。1種若しくは複数の紙料成分、又はこれらの混合物は、これらの当初の濃度を有し、それと共にこれらの成分を、通常通り混合タンクに供給することも可能であり、又は1種若しくは複数の成分は、ヘッドボックスの濃度若しくはいくつかのその他の利用可能な濃度に希釈されていてもよい。上述の内容は、濃度の別の調節が化学物質(単数又は複数)の混合後に望まれない限り、繊維懸濁液を初めに希釈すべき濃度に依存する。言い換えれば、注入液体が、希釈されていない濃厚な紙料成分であり、その濃度が3〜5%の範囲内のいずれかの値である場合、濃厚な製紙紙料は混合タンク内で過剰に希釈されるべきであり、したがって最終的な繊維懸濁液の濃度は、所望のヘッドボックスの濃度になり得る。一方、注入液体として使用される成分(単数又は複数)が、例えば製紙機械からの白水によってヘッドボックスの濃度にまで別々に希釈される場合は、最終的な化学物質の混合後に紙料の濃度に注意を払う必要はない。当然ながら、濃度を試験する場合、石灰乳から製紙紙料に流れる水も考慮に入れる必要があることは、明らかである。
【0076】
その他の注入液体の選択例として、例えばゼロ水フィルタ填料画分、繊維回収フィルタ微細画分、ゼロ水若しくはいくつかのその他の濾液、又はその他の手法で利用可能な液体などの、様々なフィルタ画分を使用してもよい。したがって、短循環から得られる様々な二次流、戻り流、又はオーバーフローも、供給液体として利用可能である。注入液体の濃度の作用に関する上述の内容は、当然ながら、これらの選択例にも当てはまる。言い換えれば、ヘッドボックスの濃度に対する注入液体と、製紙紙料中の石灰乳と共に運ばれる液体との両方の濃度は、液体がそれ自体の効果を製紙紙料の最終濃度に及ぼすので、考慮に入れるべきである。また、
図9に示される実施形態では、米国特許第6,659,636号、米国特許第7,234,857号に記載されているWetend Technologies Oyの混合方法及び機器が好ましく使用され、化学物質及び注入液体の混合から、製紙紙料へのこの混合物の供給までの間の遅延は、0〜0.5秒程度である。しかし、注入液体が含有する様々な添加剤などの量が多くなるほど、即ち、注入液体が純粋ではなくなるほど、不純物が、悪影響を及ぼす方向に石灰乳又は二酸化炭素と反応する危険性が高くなることに、留意すべきである。
【0077】
図10は、本発明の第6の好ましい実施形態による製紙機械の短循環内で、PCCを生成する方法を示す。この図によれば、種々の繊維成分から形成された濃厚な紙料は、製紙機械から得られた濾液によって適切な濃度に希釈され、その後、
図8に関連して既に示した場合と同様に、二酸化炭素及び石灰乳が製紙紙料に注入される。この図による実施形態では、PCC沈殿の後、1種若しくは複数の繊維成分又はこれらの混合物を、繊維懸濁液に注入してもよい。この図に示される実施形態による注入では、抄紙機ヘッドボックスに向かって移動する繊維懸濁液から得られた二次流を、注入液体として使用するが、任意の液体又は懸濁液を使用してもよい。さらに、例えばデンプン、接着剤などの添加剤を、
図10に示した方法で、同じ混合器により、得られる製紙紙料に注入してもよい。添加剤の供給に関連して、注入液体の使用がその供給に必ずしも必要でないことも、注目に値する。
【0078】
図11は、本発明の第7の好ましい実施形態による製紙機械の短循環内で、PCCを生成する方法を示す。この図によれば、様々な繊維成分から形成された濃厚な紙料は、製紙機械から得られた濾液によって適正な濃度に希釈され、その前に、最初に二酸化炭素及びその後の石灰乳が、希釈に使用され且つ製紙機械から得られた濾液と混合される。二酸化炭素を濾液に溶解するために、濾液の量、温度、及び圧力は、好ましくは、溶解する二酸化炭素の所望の量に比例して保持すべきことにも留意すべきである。
【0079】
図12は、本発明の第8の好ましい実施形態による製紙機械の短循環内で、PCCを生成する方法を示す。この図によれば、様々な繊維成分から形成された濃厚な紙料は、製紙機械から得られた濾液によって適正な濃度に希釈され、その前に、最初に二酸化炭素を及びその後に石灰乳を、希釈に使用され且つ製紙機械から得られた濾液と混合する。
図11の実施形態に示される方法との違いは、この実施形態中の繊維成分が、それ自体の画分として液体流にそれぞれ添加されることであり、その流れの中には、二酸化炭素及び石灰乳が既に混合されている。PCCの沈殿に関し、この図のプロセスは、
図1のプロセスと全く同じ方法で動作する。さらに、この実施形態では、二酸化炭素を濾液に溶解するために、濾液の量、温度、及び圧力を、溶解する二酸化炭素の所望の量に比例して保持すべきである。
【0080】
図13は、本発明の第9の好ましい実施形態による製紙機械の短循環内で、PCCを生成する方法を示す。この図によれば、製紙紙料の調製に使用される様々な繊維又は添加剤成分が、それら自体の流れとして、製紙機械から得られた濾液と混合される。この図は、1種の紙料又は添加剤成分が最初に、製紙機械から得た濾液に添加され、その後、第2の紙料又は添加剤成分が二酸化炭素と共に添加され、その後、第3の紙料又は添加剤成分が石灰乳と共に添加され、最後に第4の紙料又は添加剤が単独で添加される、例示的な状況を示す。当然ながら、4種未満の紙料又は添加剤成分が存在する場合、上記にて示される成分のいくつかは省略されることになり、また4種よりも多い紙料又は添加剤成分が存在する場合には、同様により多くの供給点が必要になることが明らかである。事実、2種以上の紙料又は添加剤成分を同時に添加してもよく、これも本実施形態の範囲内に包含される。1つの好ましい選択例は、石灰乳又は二酸化炭素、又はこれらの両方が、最初に紙料成分と混合されている溶液を示す。したがって、この化学物質は、紙料成分に正確に投与され、外面上(いわゆる表面投入)及び繊維内腔内(いわゆる内腔投入)の両方へのPCC沈殿を支援すべきである。同時に、実際のPCC沈殿が生じた場合、PCCはそのほとんどが、関与する紙料成分の表面の大部分に沈殿すると想定することができる。さらに、ある供給点で注入液体として、製紙機械から得られた濾液又は同様に希釈された繊維懸濁液を使用することが可能であり、所望の化学物質、添加剤、又は紙料成分などを注入する他に、得られた製紙紙料の濃度を調節することができる。言い換えれば、例えば、二酸化炭素注入液体として、製紙機械から得られた濾液又はワイヤ水を使用することが可能である。石灰乳に関しては、繊維成分が機械由来のパルプを含有しないこと、又は石灰乳が、繊維成分と石灰乳との混合物のpHが高過ぎる値にまで成長できないような少量で注入されることが確実である場合、製紙繊維成分に注入してもよい。石灰乳を、好ましくは機械的に粉砕されたパルプであるが必ずしもそうである必要はない繊維成分と共に同時に供給する場合、得られるカルシウムイオンは、炭酸化反応がまさに繊維の表面上に生じるように、繊維成分と混合すべきである。したがって、炭酸塩結晶は、繊維表面上に均一に分布し、互いに接着するよりむしろ、主に繊維表面に接着する。好ましくは、紙料又は添加剤成分及び/又は二酸化炭素及び石灰乳の添加は、注入によって行われ、特に好ましくは、Wetend Technologies Oyの特許、米国特許第6,659,636号及び米国特許第7,234,857号に記載されているトランプジェット(TrumpJet、いずれかの国における登録商標)混合デバイスを使用することによって行われる。
【0081】
図14は、本発明の第10の好ましい実施形態による製紙機械の短循環内で、PCCを生成する方法を示す。図の実施形態では、二次流は、種々の繊維成分がこのように既に混合されている製紙紙料の流れから得られ、製紙機械に至り、そこに、最初に二酸化炭素及びその後に石灰乳が注入される。さらに、これらを供給するとき、供給デバイスとしてWetend Oyのトランプジェット(TrumpJet、いずれかの国における登録商標)供給デバイスを使用することが有利である。
【0082】
二酸化炭素及び石灰乳が、製紙機械へと移動する紙料の全ての流れに対して化学物質の注入が行われる先の実施形態のほとんどの場合よりも、少ない液体体積に供給される上述の例示的な実施形態は、この実施形態をいくらかより詳細に説明する理由を示している。特に二酸化炭素が注入される液体の量はより少ないので、特に供給される二酸化炭素の量が比較的多い場合は、ある量の二酸化炭素しか、大気又は大気付近の条件下で溶解することができないことに留意されたい。したがって、より多量の二酸化炭素を、
図14に示される実施形態の二次流に溶解することが望まれる場合、注入は、短循環内の圧力よりも高圧で行うべきである。言い換えれば、溶解した二酸化炭素の量に比例した圧力は、二次流に広がらなければならない。濃厚な紙料成分、ノイル、濾液、又は添加剤の流れに対する二酸化炭素の注入が望まれる場合、同じ圧力要件がやはり当てはまる。二次流の加圧は、
図14に示されるように、例えば逆止め弁30及びポンプ32を二次ライン34に配置することを必要とする。二次流の加圧は、十分多量の二酸化炭素が流れに溶解することが直接裏付けられるよう、二次流の圧力が十分高くなるように、実現することができる。別の選択例は、二酸化炭素が石灰乳と反応する場合、液体の溶解能がある意味で解放され、したがって泡として存在する二酸化炭素が、液体中に連続的に溶解すると見なすことである。言い換えれば、二次流の圧力は、実際に、第1の選択例ほど上昇させる必要はない。
【0083】
図15に示される本発明の第11の好ましい実施形態では、PCCを、製紙繊維成分中に沈殿させ、その後、この成分とその他の製紙紙料成分とを混合する。図の実施形態では、注入液体なしで、又は注入液体として例えば製紙機械から得られた濾液、混合が行われた同じ繊維成分、又はいくつかのその他の繊維成分、又は利用可能な紙料成分、又はその他の液体流を使用することによって、二酸化炭素を最初にこの成分に注入し、その後、注入液体として、繊維成分そのものから得られた二次流を使用することにより、石灰乳を繊維成分に注入する。この実施形態では、やはり、二酸化炭素を繊維成分に溶解するために、繊維成分の量、温度、及び圧力が、溶解する二酸化炭素の所望の量に比例すべきであると言える。言い換えれば、
図14に示される加圧は、この実施形態でも有効な選択例である。
【0084】
図16は、本発明の第12の好ましい実施形態による、二酸化炭素又は石灰乳を製紙紙料に添加する方法を示す。この図の実施形態では、化学物質(図では、二酸化炭素)を、濃厚な紙料用の送り管の壁面に固定された1つ又は複数の注入ノズルを通して、濃厚な紙料に注入し、その後、濃厚な紙料を抄紙機ヘッドボックスの濃度に希釈する。この実施形態では、化学物質を、繊維に非常に密接させた状態で供給し、それにより非常に効率的なPPC表面付加が得られる。この実施形態では、製紙紙料が暗色化する危険性もないが、それは、二酸化炭素の溶解によってpHが低下し、その後の混合が意図される石灰乳が、もはや紙料の暗色化の危険性が生じ得る程度にpHを上昇させることができないからである。
【0085】
図17は、二酸化炭素又は石灰乳を製紙紙料に添加するための、本発明の第13の好ましい実施形態による方法を示す。この図の実施形態では、化学物質(図では石灰乳)を、濃厚な紙料用の送り管の壁面に固定された1つ又は複数の注入ノズルを通して濃厚な紙料に注入し、その後、濃厚な紙料を、抄紙機ヘッドボックスの濃度にまで希釈する。また、この実施形態では、製紙紙料への石灰乳の供給に関する物理法則も考慮しなければならない。言い換えれば、石灰乳は、製紙紙料中に存在する機械パルプ又はそのようなものを含有するリサイクルパルプが暗色化し始めるほど大量に注入すべきではない。当然ながら、製紙紙料が、暗色化傾向にあるパルプを含有しない場合、これらの制限は不適切である。製紙紙料を暗色化させないための別の選択肢は、製紙紙料が暗色化する時間を持たないよう、石灰乳の後に非常に素早く二酸化炭素を供給することである。
【0086】
上記実施形態で述べた液体流の他に、1種又は両方のPCC原材料成分を、例えば様々な二次流に、例えば渦流清浄化プラントの後続ステップの供給材料に、アクセプト又はリジェクトに、気体分離タンク又はデキュレータのオーバーフローに、抄紙機ヘッドボックス再循環流に、ヘッドボックス希釈水に、機械スクリーンの下流段階の供給材料又はアクセプトなどに供給してもよい。
【0087】
上図で概略的に示され且つ論じられた注入デバイスは、好ましくは、WetendTechnologies Oyから商標名トランプジェット(TrumpJet、いずれかの国における登録商標)で販売されているデバイスであり、例えば、その1つの設計選択例が
図18に概略的に示されている、米国特許第6,659,636号、第7,234,857号で保護されるデバイスである。デバイスの動作の特徴は、このデバイスが、主要な流れに対して実質的に横方向にこの主要な流れに混合され、主要な流れのかなりの部分に混合される薬剤、化学物質、又は材料を注入することであり、主要な流れへの薬剤、化学物質、又は材料の均一な混合が、任意のその他の公知のデバイスの場合よりも速く行われる。主要な流れを運ぶ送り管のサイズ及びその断面形状のサイズに応じて、送り管の周辺上に規則的な間隔で配置された2個以上の、例えば4個の注入デバイスがあってもよい。注入デバイスの別の実質的な特徴は、薬剤、フィッティング40から出て来る化学物質、又は材料の注入が、管44内を移動する主要な流れに混合される薬剤を注入液体が運ぶように、フィッティング42を通して供給された注入液体を使用して行われることである。例えば、濃度が変化する未処理の水、様々な濾液、又は繊維懸濁液を、注入液体として使用してもよい。言い換えれば、図の実施形態で上記にて論じた石灰乳及び二酸化炭素を供給する混合器を、好ましくは、注入液体抄紙機白水、繊維回収濾液、混合タンクから出て製紙機械に流入する製紙紙料、又はさらにいくつかの製紙繊維含有画分又は繊維成分であって、ヘッドボックスの濃度にまで希釈したもの又は濃厚なままとして使用してもよい。さらに、様々なソータ、渦流清浄器、気体分離、及びヘッドボックスの供給材料、アクセプト、リジェクション、オーバーフロー、及びバイパス流も、利用可能である。
【0088】
本発明者らの試験は、デバイスを設定するのに最も有利なプロセス解決策を示し、送り管の周辺に設置された1つ又は複数の注入供給デバイスを含む第1の注入供給デバイスを通して、気状二酸化炭素は、高い流量で且つプロセス液体の流れ方向に対して実質的に横方向に送り管内を移動するプロセス液体に、注入又は供給液体を用いて注入される。この後、送り管の周辺に全く同様に設置された1つ又は複数の注入デバイスを含む第2の注入ユニットを配置し、石灰乳を、高い流量で、プロセス液体の流れ方向に対して実質的に横方向に、同様の手法でプロセス液体に注入する。この方法を最適化するために、注入ユニットは、二酸化炭素がプロセス液体に溶解したままの状態で実際に石灰乳がプロセス液体に供給されるように、できる限り互いに近づけて間隔を空けて配置する。この手順は、この場合実際にプロセス液体が二酸化炭素で飽和する部分はないので、二酸化炭素が素早く溶解するのを確実にする。注入ユニットの混合は十分に効果的であるので、二酸化炭素及び石灰乳の完全な変換は、プロセス液体に石灰乳を注入した瞬間から開始して数えた場合に15秒未満で、好ましくは10秒未満で、より好ましくは6秒未満で、最も好ましくは3秒未満で行うことができる。高速反応は、従来技術に優るいくつかの利点をもたらす。ここで、変換は速く且つ実質的に完璧であり、PCC結晶は均質であり、そのサイズ分布は均一であり、沈殿プロセスを開始することはできなくなる。
【0089】
図19a〜19dは、
図18によるデバイスを使用することによって、時間の関数として得られた混合プロファイルを示す。試験機器は、送り管(抄紙機ヘッドボックスの送り管の直径は、800mmである。)からなり、その円周上には、
図18による注入デバイスが規則的な(90度)間隔で配置されている。試験では、着色剤を、注入デバイスから、管内を移動する液体の流量に対してある流量で管内を流れる液体に注入する。
図19aは、化学物質の注入点から1メートルの距離(約0.25秒に相当する。)での混合状態を示す。化学物質は、管の断面積の半分を既に包含するが、化学物質は、管の断面積全体にわたって十分均一に分布しないことが分かる。
図19bは、化学物質を供給してから1秒後の混合プロファイルを示す。化学物質は、管の全断面積のほぼ全体にわたって既に分布しており、混合物の均一性は、依然として改善の余地を残したままであることが分かる。
図19cは、化学物質を供給してから2秒後の混合プロファイルを示す。化学物質は、非常にうまく混合しているので、以下のプロセスステップ又はデバイスを、既にこの点に位置させることができる。
図19dは、化学物質を供給してから3秒後の混合プロファイルを示す。混合レベルは改善し続け、例えばピーク間の溶液又は懸濁液の濃度の変動は10%よりも低く、標準偏差は5%未満である。
【0090】
図20は、従来技術の供給デバイスの動作を示し、化学物質又は填料などを、比較的低い圧力差で送り管に移動させる。
図20の記述子(descriptor(供給点から開始する、緩やかに下向きに勾配のついた直線))及びタイムラインから、添加剤を供給してから1秒後程度では、送り管の流動断面積の非常に小さな部分にしか広がらず、添加剤を供給してから約2秒後では、流れの天然の乱流の影響下で、送り管の断面積の約5分の1に広がることが分かる。タイムラインの下部の四角形は、タイムラインの終わりから右側での添加剤の混合度を示す(供給から6〜20秒)。四角形は、混合される添加剤(右方領域)を、主要な流れの内部での依然として比較的均質な領域として示す。測定によれば、いわゆるピーク間変動は50%よりも高い。実際の実験に基づけば、従来技術の供給デバイスは、供給点から抄紙機ヘッドボックスまでの移動が約6〜20秒の流動時間である場合、即ち単位をメートルにすれば約20〜100メートルである場合に使用することができる。
【0091】
図21は、トランプジェット(TrumpJet、いずれかの国における登録商標)供給デバイスを使用したときに得られる混合物の、類似する図を示す。図の状況では、5個のトランプジェット(TrumpJet、いずれかの国における登録商標)供給デバイスが、円周方向に均一な間隔で送り管の円周上に配置されており、着色剤は、送り管内を移動する液体の流量に対して所与の流量で、送り管に供給される。図のタイムラインの下にある送り管の断面は、添加剤供給後約1秒が既にどのようなものであるかを示し、添加剤は、送り管の断面積のかなりの部分(約90%)まで広がることを示す。添加剤供給後2秒で、添加剤は実際に流れの中を均一に広がり、3秒の間隔を空けた後は、化学物質は既に、ほとんどの適用例で十分均一に混合されている。タイムラインの下の四角形は、添加剤を供給してから3秒後の、添加剤の混合度を示す。測定によるピーク間の変動は、10%よりも低い範囲内であり、既に供給から2秒後では、15%よりも低い。したがって、従来の適用例では、ヘッドボックスからトランプジェット(TrumpJet、いずれかの国における登録商標)供給デバイスの距離は、混合がヘッドボックス配管内である程度まで行われることを考慮すると、5〜15メートルしか必要としない。混合が、炭酸化反応の素早く有利な進行のための唯一の前提条件である本発明の場合のように、ヘッドボックス配管内では反応を継続してはならないので、混合後の適正な反応のために時間を確保しておく必要があることは、本当である。
【0092】
PCCの生成では、注入供給ユニットを、送り管の壁面上に比較的密接に間隔を空けて配置してもよいことは、上記にて既に述べた。上記の
図19及び21に関連して示された内容によって、注入供給ユニットを、管の同じ円周上で最良の筋書きに従って設置することが可能になる。言い換えれば、二酸化炭素及び石灰乳用の注入ノズルは、例えば交互に、送り管の同じ円周上に配置される。そのような設計では、例えば石灰乳が非常に細かく分散しており且つ/又は二酸化炭素が注入液体に前もって溶解している場合、明らかに有利である。注入供給ユニットを、送り管の壁面上で、連続的に一緒に非常に密接した状態で間隔を空けて配置してもよいことが明らかであることは、事実である。
図21は、例えば、石灰乳の注入供給ユニットを、先の二酸化炭素注入供給ユニットから1〜3秒程度離して設置してもよいことを教示する。しかし、全ての考えられる状況では、そのような近接した間隔で注入供給ユニットを配置することはできないが、最悪の状況のシナリオでも、送り管内を移動する製紙紙料の流量を用いて計算したときに15秒以下で足りることを考慮すべきである。
【0093】
注入供給ユニット及びその後の反応ゾーンは、PCCの生成で使用された管反応器を構成するように見え、その寸法を以下に論じる。既に上記にて述べたように、第1と第2の注入供給ユニットの間隔(単位:秒)は、15秒よりも短く、好ましくは3秒よりも短い。同様に、PCCに実質的に完全に変換するまでの、後者の化学物質の供給材料からの反応ゾーンの長さは、製紙紙料の流量によって同様に測定したように、15秒よりも短く、好ましくは10秒よりも短く、より好ましくは6秒よりも短く、最も好ましくは3秒よりも短いことは、先に述べた。言い換えれば、管反応器の長さは、30秒よりも短く、好ましくは18秒よりも短く、より好ましくは9秒よりも短い。長さは、主に、化学物質の供給順序(石灰乳の物質移動は、二酸化炭素の場合よりも遅い。)、化学物質の泡及び粒子のサイズ、及び化学物質の注入速度に依存する。
【0094】
上記にて開示された実施形態は、製紙紙料へのPCCの沈殿についてのみ述べている。しかし、多くのその他の添加剤又は化学物質を紙の生産に使用することも必要であるので、PCCの沈殿に対する2〜3のそのような好ましい供給点について、以下に概説する。本発明の好ましい実施形態によれば、製紙機械のウェットエンドで必要とされる全ての又は少なくとも実質的に全ての化学物質は、PCCの沈殿後に投与される。主に歩留向上化学物質、例えばポリマー、ベントナイト、及びシリケート、様々なグルー、特殊な顔料、蛍光増白剤、及び消泡剤が、この場合に関係するる。一方、ある状況では、PCCの沈殿前に化学物質の一部を供給する理由も存在する。
【0095】
上記にて示した数多くの実施形態から、注入は、流れに特定の供給又は注入液体を使用して、流れに混合される液体又は気体を噴霧することにより行ってもよいと理解することができる。さらに、注入又は供給液体は実際に、清浄な水を始めとして、それに関連した繊維ウェブの生成又はプロセスで形成された様々な透明な又は濁った濾液、繊維懸濁液又は様々な繊維成分を含有するそれらの組合せに至る、任意の液体でもよいことを、容易に理解することが可能である。さらに、供給液体として、様々な選別デバイス又は渦流清浄器から得られた利用可能な流れを使用することが可能である。最も好ましい注入液体として、製紙紙料が使用される。
【0096】
この段階で、本発明の目的、即ち炭酸カルシウム結晶の均質なサイズ分布、大き過ぎるPCC結晶、PCCの凝集体、及びPCCの沈殿物の形成の防止、並びに二酸化炭素と石灰乳の炭酸化反応の制御が、上述の横方向注入に基づく技法による他に2〜3のその他の解決策によって実現できることも、注目に値する。1つの選択例は、送り管の方向に使用される化学物質を注入することであり(即ち、流れに並行に又は流れに対して直接)、いくつかの手法では、例えば十分な量の静的又は動的(例えば、回転し又は回転可能な)混合要素を注入デバイス(単数又は複数)の後に配置することによって、十分速い混合が、この発明によって要求される通り得られる。第2の選択例は、化学物質が全体積にわたり均一に混合されるよう、混合効率が十分になるように、例えば回転式機械混合器又はポンプの有効範囲内に従来の方法で化学物質を供給することである。上記開示された選択例は、供給される化学物質(二酸化炭素及び石灰乳)のどちらか又は両方に使用することができる。
【0097】
化学物質の特徴又は供給源については、まだ少しも論じられていない。しかし本発明は、純粋な二酸化炭素、又はCO
2回収プラントの排煙若しくはその他同様の供給源から分離され若しくは得られた二酸化炭素を使用できることに留意すべきである。同様に、石灰乳は、消和されていない石灰からその場で生成することができ、又はおそらくは近くのパルプ工場の化学回収プラントから持ち込むことができる。試験では、プロセス温度(ヘッドボックス温度又は石灰乳の温度、例えば、消和後又は回収プラントから得られた後)、典型的には40〜80℃で石灰乳を使用することの利益が示された。温めた石灰乳は、例えば沈殿の形成及び微生物の成長を、効果的に予防する。さらに、冷却のためにエネルギーを大量に使用する従来技術のプロセスと比較すると、本発明によるインラインPCC生成は、従来技術のプロセスよりも著しくエネルギー効率が高い。
【0098】
上述のPCCの生成に関する様々な実施形態に関連して、例えば、下記の制御システムを使用してもよい。填料の量は、1つの基準と見なすことができる。言い換えれば、ある量の填料の形成が望まれる場合、二酸化炭素又は石灰乳の投与は、所望のPCC量が得られるように、数値的に決定される。その後、第2の化学供給材料を、第2の数値的に決定された投与量に比例して配置する。この比較的単純な制御システムは、PCCの量がかなり少ない場合、即ち、利用可能な液体に溶解することができる値を超えた量で二酸化炭素を投与しようとしない場合に、利用可能である。
【0099】
PCCの最大量を生成させようとする場合、連続PCC生成制御システムは、数値を、このプロセスに供給される二酸化炭素の量の上限に、即ち二酸化炭素が液体に完全に溶解する値に設定する事実を基にすることになる。しかし、特に、二酸化炭素及び石灰乳が実質的に同時に注入され、これらを即座に反応させる状況では、二酸化炭素と石灰乳との反応によって二酸化炭素の溶解能が解放され、場合によっては二酸化炭素が過量投与される可能性があること、例えば約10〜20%になることを想像することも可能である。当然ながら、二酸化炭素の溶解度は、圧力及び温度、並びに液体のpH値に依存することを考慮しなければならない。しかし、実際の状況では、本発明者らは比較的小さなpH範囲内で操作しているので、pHの作用は制御システムに含まれない。5%低下した、石灰乳と二酸化炭素との化学量論的な比から計算された値を、炭酸カルシウム生成方程式による水酸化カルシウム(Ca(OH)
2)の量の上限として設定し、即ちCa(OH)
2の量は、mCa(OH)
2/mCO
2−5%=56/44−5%=1.2×CO
2の量である。5%の低下は、二酸化炭素の量がわずかに過剰であることを常に確実にしたいという要求に起因する。供給源材料に関するこれら許容上限が、このように設定されたら、PCCの量に関する設定値を制御システムに入力することができ、それに基づいて、制御システムは石灰乳及び二酸化炭素の両方の供給量を制御する。計算では、Ca(OH)
2とCO
2との比は、互いに対してカスケード(cascade)接続されている。これは、1種又は複数の供給材料の量が、前述の制御システムに与えられた上限に対して大き過ぎる場合、制御回路が過剰なPCC設定値の入力を阻止することを意味する。したがって制御システムは、新しいPCC設定値を要求し又は最大許容PCC設定値を計算するように、プログラムすることができる。
【0100】
制御システムはさらに、PCC生成プロセスに対して、PCC生成の前に石灰乳のpH及び伝導度測定値が、また得られたPCCのpH及び伝導度の測定値が共に与えられることを含む。PCC生成の後の測定には、標準条件下、適用例に応じて決定されたあるpH及び伝導度の回廊(corridor)内でPCC生成が生ずるべきであることを指定する、限界値が与えられる。限界を何らかの方法で超えた場合、制御システムは、CO
2量を調節することによって、バランスのとれた状態に向けて動作する。警報限界が限界値の外へと超過した場合、警報が発せられ、PCC生成制御は手動制御に移行する。PCC沈殿の後、pH値を再度測定する。pHが、先のpH測定値に対して0.5単位上昇した場合、生成物は、少量の炭酸によって又はいくつかのその他の弱酸によって酸性化されることになる。
【0101】
上記説明から、従来技術の方法とは明らかに異なる新しいプロセスが開発されたことが、明らかである。上述の様々な実施形態から、これらの実施形態は、添付される特許請求の範囲に開示されるような本発明の範囲を限定するものとは決して解釈すべきでないと理解すべきである。同様に、本発明の様々な実施形態の詳細は、技術的に実現可能であることを条件に、その他の実施形態で実施できることが明らかである。