特許第5666353号(P5666353)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5666353
(24)【登録日】2014年12月19日
(45)【発行日】2015年2月12日
(54)【発明の名称】液体ロケットエンジン用ノズル
(51)【国際特許分類】
   F02K 9/64 20060101AFI20150122BHJP
   F02K 9/48 20060101ALI20150122BHJP
   F02K 9/97 20060101ALI20150122BHJP
【FI】
   F02K9/64
   F02K9/48
   F02K9/97
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2011-53802(P2011-53802)
(22)【出願日】2011年3月11日
(65)【公開番号】特開2012-189010(P2012-189010A)
(43)【公開日】2012年10月4日
【審査請求日】2014年2月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】500302552
【氏名又は名称】株式会社IHIエアロスペース
(73)【特許権者】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】独立行政法人 宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100102141
【弁理士】
【氏名又は名称】的場 基憲
(72)【発明者】
【氏名】石井 雅博
(72)【発明者】
【氏名】舘 伊佐夫
(72)【発明者】
【氏名】鳥井 義弘
【審査官】 西中村 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−016781(JP,A)
【文献】 特開2007−239473(JP,A)
【文献】 特開昭56−096136(JP,A)
【文献】 特開2009−150401(JP,A)
【文献】 特開平06−042407(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0005193(US,A1)
【文献】 特開2011−027120(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02K 9/42、48、64、97
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体ロケットエンジンを構成するノズルであって、スロート部よりも下流側の周上に、ノズル外部から導入した冷却用流体をノズル内面に沿って流出させる環状マニホルドを備え、
環状マニホルドが、ノズル外周に配置される外環部と、内周端がノズル内側に延出する内環部とを一体的に備えており、
外環部が、冷却用流体の導入部と、導入部に連通し且つ周方向にわたって形成した冷却用流体の外側流路を備えると共に、
内環部が、外側流路に連通し且つ周方向にわたって形成した内側流路と、周方向にわたって所定間隔で配置され且つノズル内周面に沿って開放した多数の噴射孔を備え
外環部と内環部とが、周方向に所定間隔で配置した連通孔により互いに連通していることを特徴とする液体ロケットエンジン用ノズル。
【請求項2】
少なくともスロート部上流側から環状マニホルドに至る範囲のノズル内面にアブレータを備え、環状マニホルドにおける内環部のノズル内面からの延出量が、アブレータの厚さよりも小さいことを特徴とする請求項1に記載の液体ロケットエンジン用ノズル。
【請求項3】
液体ロケットエンジンが、ノズルの頭部側に連続する燃焼室と、燃焼室に燃料及び酸化剤を供給する夫々のターボポンプと、燃料及び酸化剤を燃料過多の状態で混合燃焼させるガス発生器を備えると共に、ガス発生器で発生した燃焼ガスを各ターボポンプの駆動流体として用いる構造を有しており、
冷却用流体が、ガス発生器で発生した燃焼ガスであることを特徴とする請求項1又は2に記載の液体ロケットエンジン用ノズル。
【請求項4】
ノズル材料がコバルト合金であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の液体ロケットエンジン用ノズル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体ロケットエンジンを構成するノズルの改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液体ロケットエンジンのノズルは、非常に高温の燃焼ガスに晒されるので耐熱対策が不可欠であり、例えば特許文献1に記載されているように、ノズル壁部を全体的に二重構造にして、その層間に推進剤の一部を冷却用流体として流通させる再生冷却が周知である。また、非特許文献1に記載されているように、ノズル材料としてコロンビウム等の耐熱性金属を使用し、その耐熱性金属材料に圧延及びプレス等の塑性加工や溶接などを施してノズルを形成することも周知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−42407号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】『ロケット工学』株式会社養賢堂、1993年1月27日発行、第326頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記したような従来の液体ロケットエンジン用ノズルにおいて、再生冷却を行うものでは、ノズルの全体的な構造が複雑になり、その分製造の工数やコストが嵩むという問題点があった。また、コロンビウム等の耐熱性金属を使用した場合には、材料が高価であるうえに、加工や溶接が非常に難しいので、同様に製造の工数やコストが嵩むという問題点があり、このような問題点を解決することが課題であった。
【0006】
本発明は、上記従来の課題に着目して成されたものであって、充分な耐熱機能を備えたうえで、製造工数の削減や製造コストの低減を実現することができる液体ロケットエンジン用ノズルを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の液体ロケットエンジン用ノズルは、スロート部よりも下流側の周上に、ノズル外部から導入した冷却用流体をノズル内面に沿って流出させる環状マニホルドを備え、環状マニホルドが、ノズル外周に配置される外環部と、内周端がノズル内側に延出する内環部とを一体的に備えており、外環部が、冷却用流体の導入部と、導入部に連通し且つ周方向にわたって形成した冷却用流体の外側流路を備えると共に、内環部が、外側流路に連通し且つ周方向にわたって形成した内側流路と、周方向にわたって所定間隔で配置され且つノズル内周面に沿って開放した多数の噴射孔を備え、外環部と内環部とが、周方向に所定間隔で配置した連通孔により互いに連通している構成としており、上記構成をもって従来の課題を解決するための手段としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明の液体ロケットエンジン用ノズルは、冷却用流体を環状マニホルドに導入し、その冷却用流体を外環部の外側流路から多数の連通孔を介して内環部の内側流路に流通させて、多数の噴射孔から冷却用流体を一斉に噴射する。このように環状マニホルドからノズル内面に沿って冷却用流体を流出させることで、冷却用流体によるフィルム冷却行うこととなり、充分な耐熱機能を得ることができ、これにより、ノズルの全体的な構造が複雑化することがないうえに、ノズル材料として高価な耐熱性金属を用いる必要もないので、製造工数の削減や製造コストの低減を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の液体ロケットエンジン用ノズルを説明するブロック図である。
図2】環状マニホルドを説明する上側からの斜視図である。
図3】環状マニホルドを説明する下側からの斜視図である。
図4】ノズルにおける環状マニホルド部分の垂直断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1に示す液体ロケットエンジンは、ノズルNの頭部に連続する燃焼室Cと、燃焼室Cの頭部に設けた噴射器Iを備えると共に、噴射器Iに燃料を加圧供給するためのターボポンプTP1と、同噴射器Iに酸化剤を加圧供給するためのターボポンプTP2を備えている。なお、燃料としては、例えば液化天然ガス(LNG:液化メタン)を用いることができ、酸化剤としては、例えば液体酸素(LOX)を用いることができる。
【0011】
また、液体ロケットエンジンは、噴射器Iに導入される燃料及び酸化剤の一部を取り入れて混合燃焼させるガス発生器GGを備え、このガス発生器GGで発生させた燃焼ガスを各ターボポンプTP1,TP2の駆動流体として用いるようになっている。このとき、ガス発生器GGでは、配管類の熱保護だけでなく、強度低下の観点からリスク無く運用するために、燃料及び酸化剤を燃料過多の状態で混合燃焼させて、発生する燃焼ガスの温度を低くしている。
【0012】
上記の液体ロケットエンジンを構成するノズルNは、その材料が、例えばコバルト合金であって、その材料に圧延及びプレス等の塑性加工や溶接などを施して、所定のノズル形状に形成したものである。
【0013】
そして、上記ノズルNは、スロート部Tよりも下流側の周上に、ノズル外部から導入した冷却用流体をノズル内面に沿って流出させる環状マニホルド1を備えている。この実施形態では、冷却用流体として、先のガス発生器GGで発生した燃焼ガスを用いている。なお、ガス発生器GGで発生した燃焼ガスは、先述の如く燃料及び酸化剤を燃料過多の状態で燃焼させるので、例えば500℃程度の温度であり、各ターボポンプTP1,TP2の駆動に使用することで、300℃程度に低下する。
【0014】
環状マニホルド1は、図2及び図3に示すように、ノズル外周に配置される外環部2と、内周端がノズル内側に延出する内環部3とを一体的に備えている。この環状マニホルド1は、図4に示すように、上側ノズル部材Naの下端に設けた外向きのフランジFaと、下側ノズル部材Nbの上端に設けた外向きのフランジFbとで内環部3を挟持するようにして、ノズルNに固定されている。
【0015】
外環部2は、冷却用流体(低温の燃焼ガス)の導入部4と、この導入部4に連通し且つ周方向にわたって形成した冷却用流体の外側流路5を備えている。導入部4は、外環部2の周上の一箇所に設けてあり、前記ターボポンプTP1,TP2の排気側から導いた図示しない配管を接続する。外側流路5は、外環部2の全周にわたって連続している。
【0016】
内環部3は、外側流路5に連通し且つ周方向にわたって形成した内側流路6と、周方向にわたって所定間隔で配置され且つノズル内周面に沿って開放した多数の噴射孔7を備えている。内側流路6は、内環部3の全周にわたって連続しており、図4に示すように、周方向に所定間隔で設けた多数の連通孔8により、外側流路5と互いに連通している。各噴射孔7は、ノズル内面に延出した内環部3の内周端において、全周にわたって所定間隔で配置され且つ下向きに形成してある。
【0017】
ここで、ノズルNは、図4に示すように、少なくともスロート部Tの上流側から環状マニホルド1に至る範囲のノズル内面にアブレータAを備えている。アブレータAは、ノズルNから噴出する高温のガスにより溶融・蒸発して、その潜熱により冷却効果をもたらす周知の材料である。そして、当該ノズルNでは、環状マニホルド1における内環部3のノズル内面からの延出量が、アブレータAの厚さよりも小さいものとなっている。これにより、ノズル内面は、内環部3の内周端の部分が下向きの段差になっている。
【0018】
上記構成を備えた液体ロケットエンジンは、ガス発生器GGにおいて燃料及び酸化剤を燃料過多の状態で混合燃焼させると共に、その燃焼ガスにより両ターボポンプTP1,TP2を駆動する。そして、各ターボポンプTP1,TP2により燃料及び酸化剤を噴射器Iに加圧供給する。これにより、液体ロケットエンジンは、噴射器Iから燃料及び酸化剤を噴射して燃焼室Cで混合燃焼させ、その燃焼ガスをノズルNから噴出することで推進力を得る。
【0019】
このとき、液体ロケットエンジン用ノズルNは、ガス発生器GGから各ターボポンプTP1,TP2を経た低温の燃焼ガスを環状マニホルド1に導入し、その燃焼ガスを外環部2の外側流路5から内環部3の内側流路6に流通させて、多数の噴射孔7から燃焼ガスを一斉に噴射する。これにより、ノズル内面に低温の燃焼ガスがフィルム状に供給されることとなり、燃焼室Cで発生した高温の燃焼ガスからノズル内面を保護する。
【0020】
このように、上記実施形態の液体ロケットエンジン用ノズルNは、環状マニホルド1から冷却用流体(低温の燃焼ガス)を噴射するフィルム冷却を行って、充分な耐熱機能を得ることができる。これにより、ノズル材料としては、コロンビウムのような高価で加工し難い耐熱性材料を用いずに、安価で加工し易い耐熱性材料を使用することができ、製造の工数やコストの大幅な低減を実現することができる。
【0021】
例えば、上記実施形態で説明したように、ノズル材料としてコバルト合金等を使用すれば、コロンビウムを用いた場合に比べて、材料費が節減され、圧延及びプレス等の塑性加工や溶接などにも容易に対処することができる。
【0022】
また、上記実施形態の液体ロケットエンジン用ノズルNは、外環部2及び内環部3から成る環状マニホルド1の採用により、ノズル壁部を二重構造にして再生冷却を行うものに比べて、全体構造が簡単なものとなり、このような面からも製造工数の削減や製造コストの低減を実現することができる。
【0023】
さらに、上記実施形態の液体ロケットエンジン用ノズルNは、環状マニホルド1における内環部3のノズル内面からの延出量を、アブレータAの厚さよりも小さくしたことで、燃焼室Cからの高温の燃焼ガス流と内環部3との干渉を防ぐことができ、とくに内環部3の熱保護機能が高められる。
【0024】
さらに、上記実施形態の液体ロケットエンジン用ノズルNは、ガス発生器GGで発生した低温の燃焼ガスをターボポンプTP1,TP2の駆動流体及びノズルNの冷却用流体の両方に用いることで、上記の燃焼ガスを効率的に使用するものとなっている。
【0025】
本発明の液体ロケットエンジン用ノズルは、その構成が上記実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において構成の細部を適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0026】
1 環状マニホルド
2 外環部
3 内環部
4 導入部
5 外側流路
6 内側流路
7 噴射孔
A アブレータ
C 燃焼室
GG ガス発生器
I 噴射器
N ノズル
T スロート部
TP1 ターボポンプ
TP2 ターボポンプ
図1
図2
図3
図4