(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記規制部は、前記片作動バネに備えられ、前記片作動バネの位置を前記作動レバーの長手方向に対して規制する形状を備えていることを特徴とする請求項1に記載の時計用デテント脱進機。
【背景技術】
【0002】
従来から、機械式時計の歩度を維持するための脱進機としてデテント脱進機が知られている。この種の脱進機の機構は、スプリングデテント脱進機(Spring Detent Escapement)とピボットデテント脱進機(Pivoted Detent Escapement)の2つに大別される(例えば、特許文献1、特許文献2、非特許文献1参照)。
以下、各デテント脱進機の基本的構成について説明する。
【0003】
図13は、従来のスプリングデテント脱進機の一例を示す斜視図である。
同図に示すように、スプリングデテント脱進機300は、ガンギ車301と、回転軸であるテン真302を中心に自由振動するテンプ303と、デテントレバー304とを備えている。テンプ303は、ガンギ車301の歯部301aと接触可能な振り石305、およびデテントレバー304に取り付けられている片作動バネ309と接触可能な外し石306を有している。
【0004】
デテントレバー304は、この基端に設けられた復帰バネ307を介して固定されている。復帰バネ307は、デテントレバー304をガンギ車301に対して接離可能に支持していると共に、デテントレバー304を原位置に復帰するように付勢している。すなわち、デテントレバー304は、復帰バネ307の基端を支点304aとしてガンギ車301に接離可能に構成されている。
【0005】
また、デテントレバー304には、ガンギ車301の歯部301aと接触可能な止め石308が設けられている。さらに、デテントレバー304の基端側には、片作動バネ309の基端が固定されている。片作動バネ309は、この先端がデテントレバー304の先端よりも僅かに突出するようにデテントレバー304の長手方向に沿って形成されている。すなわち、片作動バネ309は、テンプ303のテン真302とデテントレバー304の支点304aとを通る直線上に沿うように形成されている。そして、片作動バネ309の先端が、テンプ303の外し石304と接触するようになっている。
【0006】
このような構成のもと、テンプ303の自由振動により外し石306が矢印CCW30方向(
図13における反時計回り方向)に向かって回転すると、片作動バネ309を介してデテントレバー304が押圧される。すると、ガンギ車301の歯部301aに接触していた止め石308が歯部301aから離脱し、ガンギ車301とデテントレバー304との係合が解除される。そして、ガンギ車301が1歯分回転する。
ガンギ車301が1歯分回転する間に、デテントレバー304に復帰バネ307の付勢力が作用し、デテントレバー304が原位置に戻る。これにより、ガンギ車301の歯部301aに止め石308が再び接触する。すなわち、ガンギ車301とデテントレバー304とが係合し、ガンギ車301の回転が停止される。
【0007】
一方、テンプ303の自由振動により外し石306が逆転し、矢印CW30方向(
図13における時計回り方向)に向かって回転すると、この外し石306によって片作動バネ309がデテントレバー304から離反する方向に向かって押圧される。このとき、片作動バネ309が弾性変形する一方、デテントレバー304は停止したままの状態となる。外し石306に押圧された片作動バネ309は、この片作動バネ309から外し石306が離反した後、片作動バネ309自身の復元力により原位置に戻る。
【0008】
すなわち、外し石306が矢印CCW30方向に向かって回転し、片作動バネ309を介してデテントレバー304が押圧される際、片作動バネ309は、何ら動作していないことになる。これに対し、外し石306が矢印CW30方向に向かって回転すると、片作動バネ309が弾性変形して動作することになる。
そして、この動作が繰り返し行われることにより、機械式時計の輪列が一定速度で駆動する。
【0009】
図14は、従来のピボットデテント脱進機の一例を示す斜視図である。なお、
図13のスプリングデテント脱進機300と同一態様には、同一符号を付して説明する。
同図に示すように、ピボットデテント脱進機400は、ガンギ車301と、テン真302を中心に自由振動するテンプ403と、デテントレバー404とを備えている。ここで、ピボットデテント脱進機400とスプリングデテント脱進機300との相違点は、デテントレバーを原位置に復帰させる付勢手段が異なる点にある。
【0010】
すなわち、ピボットデテント脱進機400のデテントレバー404は、回転軸410を介して回転自在に支持されており、これによってガンギ車301に対して接離可能となっている。また、デテントレバー404に設けられている復帰バネ407は、回転軸410を取り囲むように渦巻きバネで構成されており、デテントレバー404を原位置に復帰するように付勢している。
【0011】
さらに、デテントレバー404には、この長手方向に略直交し、かつ回転軸410を通る直線P100上に片作動バネ409の基端が固定されている。片作動バネ409は、デテントレバー404の長手方向に沿うように、つまり、テンプ403のテン真302とデテントレバー404の回転軸410とを通る直線上に沿うように形成されており、その先端がテンプ403の外し石306と接触するようになっている。
【0012】
このような構成のもと、テンプ403が自由振動することにより、外し石306が矢印CCW31方向(
図14における反時計回り方向)に向かって回転したり、矢印CW31方向(
図14における時計回り方向)に向かって回転したりすると、これに基づいて片作動バネ409が動作したり、何ら動作しなかったりする。また、デテントレバー404の止め石308がガンギ車301の歯部301aに対して係合したり離脱したりする。これにより、機械式時計の輪列が一定速度で駆動する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
ところで、上述の従来技術にあっては、片作動バネ309,409を動作させる際、これらのバネ力に抗して外し石306を回転させることになるので、テンプ303,403の自由振動に対してエネルギーロスが生じてしまう。また、外し石306に対する片作動バネ309,409の位置がガンギ車301の動作に影響を及ぼす。
【0016】
すなわち、例えば、外し石306と片作動バネ309,409との接触面積が小さいと、この分片作動バネ309,409がガンギ車301から離反する方向に向かう変位量が小さくなる。このため、ガンギ車301の歯部301aに対するデテントレバー304,404の止め石308,308の離脱動作を正常に行うことが困難となり、ガンギ車301を1歯分ずつ回転させることができなくなる。
【0017】
また、外し石306と片作動バネ309,409との接触面積が大きいと、この分片作動バネ309,409がガンギ車301から離反する方向に向かう変位量が大きくなる。このため、テンプ303,403の自由振動に対するエネルギーロスが大きくなってしまい時計の持続時間が短くなってしまう。
【0018】
このようなことから、作動時の外し石306に対する片作動バネ309,409の位置規制が必要となる。
【0019】
そこで、この発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、デテント脱進機作動時の片作動バネの位置規制を可能にし、ガンギ車を確実に正常動作させることができる時計用デテント脱進機、および機械式時計を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記の課題を解決するために、本発明に係る時計用デテント脱進機(例えば、デテント脱進機1)は、歯部(例えば、歯部2a)を有するガンギ車(例えば、ガンギ車2)と、このガンギ車に対して接離可能であって、ガンギ車に近づいた時にはガンギ車の回転を停止させ、ガンギ車から離れた時はガンギ車を回転させる作動レバー(例えば、作動レバー23)と、この作動レバーに対して接離方向に沿って弾性変形可能な片作動バネ(例えば、片作動バネ24)と、この片作動バネと接触可能な外し石を有し、ガンギ車の回転に基づいて正回転および逆回転の振幅を行うテンプ(例えば、テンプ5)とを備え、片作動バネの外し石に対する接触位置を規制する規制部(例えば、
図8の規制部36)を備えたことを特徴とする。 このように、規制部を設けることにより、片作動バネのバネ先端部の位置を規制することが可能になる。よって、外し石と片作動バネとを所望の接触状態とし、これら作動レバー、および片作動バネを安定的に作動させることができるので、ガンギ車を確実に正常動作させることができる。
【0021】
本発明に係る時計用デテント脱進機において、作動レバーおよび片作動バネの少なくともいずれか一方に、片作動バネの外し石に対する接触位置を規制する規制部を備え、この規制部により片作動バネの先端位置を規制することを特徴とする。
このように構成することで、作動中の片作動バネの先端位置の変動を抑え、確実に外し石と片作動バネを接触させることができる。よって、ガンギ車を確実に正常動作させることができる。
【0022】
本発明に係る時計用デテント脱進機は、規制部が、作動レバーおよび片作動バネの少なくともいずれか一方に、片作動バネを外し石の振動方向に垂直な方向に対して規制する挟持体であることを特徴とする。
このように構成することで、作動中の片作動バネの先端位置の変動を外し石の振動方向に垂直な方向に対して規制し、確実に外し石と片作動バネを接触させることができる。よって、ガンギ車を確実に正常動作させることができる。
【0023】
本発明に係る時計用デテント脱進機は、規制部が片作動バネに備えられ、片作動バネの位置を作動レバーの長手方向に対して規制する形状を備えていることを特徴とする。
このように構成することで、作動中の片作動バネの先端位置の変動を作動レバーの長手方向に対して規制し、確実に外し石と片作動バネを接触させることができる。よって、ガンギ車を確実に正常動作させることができる。
【0024】
本発明に係る時計用デテント脱進機は、規制部が、作動レバーの片作動バネ側に第一規制部と、片作動バネに第一規制部に対向して設けられた第二規制部とを備え、第一規制部と第二規制部とは互いに嵌合することを特徴とする。第一規制部を凸部、第二規制部を凹部としてもよいし、第一規制部を勘合突起、第二規制部を勘合孔としてもよい。
このように構成することで、作動中の片作動バネの先端位置の変動を抑え確実に外し石と片作動バネを接触させることができる。よって、ガンギ車を確実に正常動作させることができる。
【0025】
本発明に係る機械式時計(例えば、機械式時計100)は、上述した時計用デテント脱進機と、動力源を構成するゼンマイ(不図示)と、このゼンマイが巻き戻されるときの回転力により回転する表輪列(例えば、表輪列105)とを備え、この表輪列の回転を時計用デテント脱進機により制御することを特徴とする。
このように構成することで、作動中の片作動バネの先端位置の変動を抑え確実に外し石と片作動バネを接触させることができ、ガンギ車を確実に正常動作させることができる機械式時計を提供できる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、片作動バネの先端位置を規制する規制部を設けることにより、片作動バネのバネ先端部の位置を規制することが可能になる。よって、外し石と片作動バネとを所望の接触状態とし、片作動バネを安定的に作動させることができるので、ガンギ車を確実に正常動作させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
(第一実施形態)
(機械式時計)
次に、この発明の第一実施形態を
図1〜
図8に基づいて説明する。
図1は、機械式時計のムーブメントを裏蓋側からみた平面図である。
同図に示すように、機械式時計100は、ムーブメント101を備えている。ムーブメント101は、このムーブメント101の基板を構成する地板102を有している。地板102には巻真案内孔103が形成されており、ここに巻真104が回転可能に組み込まれている。
【0029】
また、ムーブメント101の裏側(
図1における紙面奥側)には、オシドリ、カンヌキ、およびカンヌキ押さえを含む切換装置(不図示)が配置されている。この切換装置により、巻真104の軸方向の位置が決定するようになっている。
一方、ムーブメント101の表側(
図1における紙面手前側)には、表輪列105を構成する四番車106、三番車107、二番車108、および香箱車110が配置されていると共に、表輪列105の回転を制御するデテント脱進機1が配置されている。
【0030】
香箱車110は、ゼンマイ(不図示)を有しており、巻真104を回転させると不図示のツヅミ車が回転し、さらにキチ車、丸穴車、および角穴車(何れも不図示)を介して前記ゼンマイが巻き上げられるようになっている。そして、前記ゼンマイが巻き戻される際の回転力により香箱車110が回転し、さらに二番車108が回転するように構成されている。
二番車108は、香箱車110の不図示の香箱歯車に噛合う二番カナと、二番歯車(何れも不図示)とを有している。二番車108が回転すると、三番車107が回転するように構成されている。
【0031】
三番車107は、二番車108の二番歯車に噛合う不図示の三番カナと、三番歯車(何れも不図示)とを有している。三番車107が回転すると、四番車106が回転するように構成されている。
四番車106は、三番車107の三番歯車に噛合う不図示の四番カナと、四番歯車(何れも不図示)とを有している。四番車106が回転することによりデテント脱進機1が駆動する。このデテント脱進機1が駆動することにより、四番車106が1分間に1回転するように制御されると共に、二番車108が1時間に1回転するように制御される。
【0032】
(デテント脱進機)
図2は、デテント脱進機の平面図であり、
図3は、デテント脱進機の斜視図である。
図1、
図2、
図3に示すように、デテント脱進機1は、四番車106が回転することにより回転するガンギ車2と、ガンギ車2の歯部2aと接触可能な止め石6を有するデテント7と、ガンギ車2の歯部2aと接触可能な振り石3、およびデテント7と接触可能な外し石4を有するテンプ5とを備えている。
【0033】
ガンギ車2は不図示の四番歯車に噛合されるガンギカナ8を有しており、地板102(
図1参照)と輪列受(不図示)によって回転可能に枢支されている。すなわち、輪列受にガンギカナ8の上軸部が回転可能に支持されると共に、地板102にガンギカナ8の下軸部が回転可能に支持される。また、ガンギ車2の歯部2aは、ガンギ車2の外周部に複数(例えば、この実施形態では15個)形成されている。
【0034】
テンプ5は、回転軸であるテン真9を中心にして自由振動するものであって、テン真9の他に、テン真9と同心円上に配置されたテン輪10と、略円板状の大ツバ11と、不図示のヒゲゼンマイとを有している。そして、不図示のテンプ受けにテン真9の上軸部が回転可能に支持されると共に、地板102にテン真9の下軸部が回転可能に支持されることにより、地板102、およびテンプ受けに、テンプ5が回転可能に枢支される。
【0035】
また、大ツバ11に、振り石3と外し石4とが設けられている。振り石3は、この断面形状が大ツバ11の径方向に沿って長くなるように直方体状に形成されており、断面短手方向で対向する2面のうち、ガンギ車2の歯部2aと接触する接触面3aが他の面よりも大ツバ11から突出するように形成されている。
外し石4は、デテント7に設けられている後述の片作動バネ24と接触可能になっている。デテント7の円板状部分は、地板102に固定されており、外し石4によって作動するようになっている。
【0036】
(デテント)
図4は、デテントの平面図であり、
図8(a)は、デテント7の先端部58の拡大図である。また、
図8(b)は、同図(a)中の円Aで示す部分の拡大図である。
図2、
図4、
図8に示すように、デテント7は、地板102に固定されている円板状のデテント固定部21と、デテント固定部21に復帰バネ22を介して支持されている作動レバー23と、外し石4と接触可能な片作動バネ24とが一体成形されたものである。
ここで、一体成形を行う方法として、電鋳加工によりデテント7を形成したり、フォトリソグラフィーのような光学的な手法を取り入れたLIGA(Lithographie Galvanoformung Abformung)プロセスによりデテント7を形成したりすることが可能である。
【0037】
デテント固定部21の径方向中央には、固定用ボルト15を挿通可能なボルト挿通孔25が形成されている。また、デテント固定部21の固定ピン13a,13bに対応する箇所には、これら固定ピン13a,13bを挿通可能な2つのピン挿通孔26a,26bが形成されている。
ここで、2つのピン挿通孔26a,26bのうちの一方のピン挿通孔26bは、各部品の製作誤差を吸収できるように長円形状に形成されている。
【0038】
また、デテント固定部21の外周部には、テンプ5側(
図4における上側)に凹部27が形成され、ここに復帰バネ22が立設されている。復帰バネ22は、この基端22aとテンプ5のテン真9の中心(軸心)とを結ぶ直線L1に沿うように板状に形成されている。復帰バネ22は、例えば、ニッケル、りん青銅、ステンレス鋼、エリンバー、コエリンバーなどの弾性材料により形成されていることが望ましい。
【0039】
復帰バネ22の先端に設けられている作動レバー23は、復帰バネ22の先端から直線L1上に沿って延設された直方体状のアーム部28と、このアーム部28の先端に配置され、アーム部28よりも幅広の止め石取付部29とが一体成形されたものである。止め石取付部29には、ガンギ車2の歯部2aと接触可能な止め石6が設けられている。止め石6は、この断面形状が作動レバー23の先端部58に向かうに従って漸次幅広となるように略台形状に形成されている。そして、止め石6の下面(
図2、
図4における上側の面)がガンギ車2の歯部2aと接触する接触面6aに設定されている。
【0040】
片作動バネ24も復帰バネ22と同様に、例えば、ニッケル、りん青銅、ステンレス鋼、エリンバー、コエリンバーなどの弾性材料により形成されていることが望ましい。
片作動バネ24は、平面視略6字状に形成されたものであって、作動レバー23の基端部から延出する円弧部31と、円弧部31の先端からレバー先端部58に向かって延出する直線部32とにより構成されている。そして、直線部32が作動レバー23に対する接離方向に沿って弾性変形するようになっている。
【0041】
円弧部31は、アーム部28の基端部からガンギ車2とは反対側に向かって、かつ直線L1と略直交する方向に沿って延出し、この後、デテント固定部21の周囲の約3/4を取り囲むように円弧状に形成されている。つまり、円弧部31は、アーム部28の基端部から、一旦テンプ5とは反対側に向かって延出された後、テンプ5側に向かって折り返すように円弧状に形成されている。円弧部31の曲率半径の中心は、デテント固定部21の中心、つまり、デテント固定部21に形成されているボルト挿通孔25の中心P1とほぼ一致している。
【0042】
一方、直線部32は、円弧部31の先端から直線L1に対して緩やかに傾斜するように延出された緩傾斜部32aと、緩傾斜部32aの先端から、この緩傾斜部32aよりも直線L1に対して急傾斜するように延出され、先端が先端部58に当接された急傾斜部32bと、急傾斜部32bから先端部58に沿って延出された舌片部32cとにより構成されている。また
図8に示すように、舌片部32cにはレバー先端部58側に凸形状の規制部36を備え、この規制部36aとレバー先端部58aが当接することにより舌片部32cの先端位置を外し石4から遠ざかる方向(
図8における下方向)へ動かない様に規制している。
【0043】
緩傾斜部32aは、円弧部31の先端から止め石取付部29に対応する位置に至るまで延出されている。すなわち、直線部32は、作動レバー23の止め石取付部29との干渉を避けるように円弧部31の先端からレバー調整部52の先端部58に向かって延出形成された状態になっている。
また、舌片部32cは、この先端が作動レバー23を構成するレバー先端部58から僅かに突出するように延出形成されている。この舌片部32cの先端部58から突出した部位に、テンプ5の外し石4が接触するようになっている。
【0044】
ここで、直線L1上には、デテント固定部21のボルト挿通孔25の中心P1、復帰バネ22、作動レバー23、およびテン真9が同一直線上に設けられた状態になっている。このように構成されたデテント7の作動レバー23は、復帰バネ22の基端22aを支点23aとし、この支点23aを中心にしてガンギ車2に対して接離可能になっている。すなわち、復帰バネ22が基端22aを中心にしてしなるように弾性変形することにより、作動レバー23がガンギ車2に対して接離方向に沿って変位する。
【0045】
復帰バネ22は、作動レバー23を原位置に復帰するように付勢している。より具体的には、
図2、
図4に図示した状態のように、復帰バネ22は、作動レバー23のアーム部28の長手方向が直線L1上となる位置に復帰するように付勢している。一方、片作動バネ24は、この片作動バネ24の舌片部32cが常にレバー先端部58と当接可能な程度のバネ力に設定されている。
【0046】
また、復帰バネ22は、デテント固定部21の凹部27に形成されていることから、デテント固定部21と作動レバー23との間の離間距離K1を大きく設定することなく十分な長さを確保することができる。これにより、復帰バネ22は、作動レバー23をガンギ車2の接離方向に沿って十分変位させることができるようになっている。
また、凹部27の幅は、作動レバー23をガンギ車2に対して接離方向に沿う変位を許容可能に設定されているため、作動レバー23をガンギ車2の接離方向に沿って十分変位させることができる。
【0047】
片作動バネ24の舌片部32cに接触可能な外し石4は、舌片部32cのレバー先端部58とは反対側の面に接触する接触面4aが舌片部32cに沿うように形成されている。一方、外し石4の接触面4aとは反対側には、平面取りすることにより傾斜面4bが形成されている。これにより、外し石4は、この断面形状が大ツバ11の径方向外側に向かうに従って先細りになっている。
【0048】
ここで、デテント7を取り付ける際、片作動バネ24の舌片部32cの位置を、テンプ5の自由振動時に外し石4の先端が片作動バネ24の舌片部32cに接触可能となるように調整する。また、外し石4の先端回転軌跡R1と片作動バネ24の舌片部32cに設けられた規制部36bの間には両者が接触しないように、隙間(
図8(b)で示す隙間W1)を設ける必要がある。これにより、テンプ5の自由振動に伴って作動レバー23をスムーズにガンギ車2から離反させたり、接近させたりすることができる(詳細は後述する)。
【0049】
図2に示すように、地板102には、作動レバー23のガンギ車2に接近する方向に向かう変位を規制するストッパ40が設けられている。ストッパ40は、ストッパアーム41とストッパアーム41の先端に立設されたストッパピン42とを有している。そして、ストッパアーム41の基端側が、固定ピン43を介して地板102に固定されている。
【0050】
ストッパピン42は、作動レバー23にガンギ車2側から当接するようになっている。これにより、作動レバー23のガンギ車2に接近する方向に向かう変位が規制される。
また、ストッパアーム41は、固定ピン43を中心にして回転可能に設けられており、これによってストッパピン42の位置が調整できるようになっている。このストッパピン42の位置を調整することにより、作動レバー23の移動規制位置が、ガンギ車2の歯部2aに止め石6が接触可能、かつアーム部28の長手方向が直線L1上となる位置に設定される。
【0051】
(デテント脱進機の動作)
次に、
図2、
図5〜
図7に基づいて、デテント脱進機1の動作について説明する。
図5〜
図7は、デテント脱進機の動作説明図である。
図2に示すように、デテント7の作動レバー23が直線L1に沿う位置に存在している状態では、ガンギ車2の歯部2aと作動レバー23に設けられている止め石6の接触面6aとが接触し、両者2,6が係合した状態になっている。
ここで、ガンギ車2は表輪列105より回転力が付与されているが、止め石6と係合している状態にあっては、ガンギ車2が停止した状態になっている。
【0052】
この状態から、
図5に示すように、テンプ5が自由振動することにより、大ツバ11が矢印CCW1方向(
図5における反時計回り方向)に向かって回転すると、この大ツバ11に設けられている外し石4の接触面4aと片作動バネ24の舌片部32cの先端とが当接する。そして、外し石4により、舌片部32cを介して作動レバー23が押圧され、ガンギ車2から離反する方向に向かって変位する(
図5における矢印Y1参照)。
【0053】
このとき、復帰バネ22がしなるように弾性変形することにより、作動レバー23が変位するが、これに対し、片作動バネ24は殆ど弾性変形しない。すなわち、舌片部32cがガンギ車2から離反する方向(
図5における矢印Y1方向)に向かって僅かに変位する場合にあっては、片作動バネ24が平面視略6字状に形成されており、直線部32が僅かに円弧部31を巻き上げる方向に変位するだけなので、殆ど弾性変形しない。
【0054】
作動レバー23がガンギ車2から離反する方向に向かって変位することにより、これに設けられている止め石6がガンギ車2の歯部2aから離脱し、両者2,6の係合が解除される。これにより、ガンギ車2が矢印CW1方向(
図5における時計回り方向)に向かって回転する。
また、大ツバ11が矢印CCW1方向に向かって回転することにより、ガンギ車2が矢印CW1方向に向かって回転し始めるのとほぼ同時に、ガンギ車2の歯部2aに振り石3の接触面3aが接触する(
図5における2点鎖線参照)。そして、ガンギ車2の回転力が振り石3を介してテンプ5に伝達される。このとき、テンプ5に矢印CCW1方向に向かって回転力が付与される。
【0055】
図6に示すように、大ツバ11が矢印CCW1方向(
図6における反時計回り方向)に向かって所定角度回転すると、片作動バネ24の舌片部32cの先端から外し石4が離反する。すると、復帰バネ22の復元力により、作動レバー23がガンギ車2に接近する方向(
図6における矢印Y2参照)に向かって変位する。このとき、作動レバー23の変位がストッパ40によって規制され、作動レバー23が原位置に戻る。
【0056】
作動レバー23が原位置に戻ることにより、止め石6の接触面6aに回転するガンギ車2の歯部2aが当接し、再びガンギ車2と止め石6とが係合する。これにより、ガンギ車2の回転が停止される。ここで、ガンギ車2と止め石6との係合が解除されてから再び係合するまでの間に、ガンギ車2は1歯分だけ回転する。
一方、ガンギ車2によって矢印CCW1方向に向かう回転力が付与されたテンプ5は、このテンプ5に設けられているヒゲゼンマイが巻き上げられる。そして、ヒゲゼンマイが所定量巻き上げられると、ヒゲゼンマイの復元力とテンプ5の回転力とが逆転し、大ツバ11の回転方向が矢印CW2方向(
図6における時計回り方向)に転じる。
【0057】
図7に示すように、大ツバ11が矢印CW2方向に向かって回転すると、外し石4の傾斜面4bが片作動バネ24の舌片部32cの先端に接触する。そして、さらに大ツバ11が回転することにより、片作動バネ24の舌片部32cが作動レバー23から離反する方向、つまり、ガンギ車2に向かう方向(矢印Y3参照)に向かって押圧される。すると、片作動バネ24は、直線部32を押し広げられるように弾性変形する。
さらに、大ツバ11が矢印CW2方向に向かって回転し、所定角度に達すると、片作動バネ24の舌片部32cから外し石4が離反する。すると、片作動バネ24の復元力により、舌片部32cが作動レバー23側に向かって変位し(
図7における矢印Y4参照)、原位置に戻る。
【0058】
一方、大ツバ11が矢印CW2方向に向かって回転している間、テンプ5に設けられているヒゲゼンマイが巻き戻される。そして、ヒゲゼンマイが所定量巻き戻されると、ヒゲゼンマイの復元力とテンプ5の回転力とが逆転し、再び大ツバ11の回転方向が矢印CCW1方向(
図7における反時計回り方向)に転じる。
これを繰り返すことにより、テンプ5がテン真9を中心にして自由振動すると共に、デテント7が
図2、
図5〜
図7に示す状態を繰り返す。このため、ガンギ車2が常に一定速度で回転する。
【0059】
(デテントの取付方法)
上述のように、デテント7は、地板102にテンプ5の自由振動時における外し石4の先端の軌跡上に片作動バネ24の舌片部32cが位置し、かつ外し石4の軌跡上を避けるように作動レバー23の先端部58が位置するように調整し、固定される。
【0060】
そこで、本発明の第一実施形態に係るデテント7によれば、片作動バネ24の舌片部32cに設けた規制部36aとレバー先端部58aとが当接することにより、舌片部32cの先端位置を外し石4から遠ざかる方向(
図8における下方向)へ動かない様に規制しているため、片作動バネ24の舌片部32cと作動レバー23の先端部58との相対位置は変化しない。
したがって、外し石4と片作動バネ24とを常に所望の接触状態とし、作動レバー23、および片作動バネ24を適正に動作させることができるので、ガンギ車2を確実に正常動作させることができる。
【0061】
(第二実施形態)
次に、この発明の第二実施形態を
図9に基づいて説明する。なお、第一実施形態と同一態様には、同一符号を付して説明を省略する(以下の実施形態についても同様)。
図9は、第二実施形態におけるデテント73の要部平面図である。
また、
図9中の(a)は、作動レバー先端部58の拡大図であり、同図(b)は同図(a)中の円Bで示す部分の拡大図である。
この第二実施形態において、機械式時計100は、ムーブメント101を備えている点、ムーブメント101の表側に、表輪列105の回転を制御するデテント脱進機1が配置されている点、デテント脱進機1は、四番車106が回転することにより回転するガンギ車2と、ガンギ車2の歯部2aと接触可能な止め石6を有するデテント73と、ガンギ車2の歯部2aと接触可能な振り石3、およびデテント73と接触可能な外し石4を有するテンプ5とを備えている点、地板102にデテント73が固定されている点、デテント73の作動レバー23が直線L1に沿うように延出されている点等の基本的構成は、前述した第一実施形態と同様であり、本発明の第一実施形態で説明したデテント7と同様に動作可能である(以下の実施形態についても同様)。
【0062】
ここで、
図9に示すように、第二実施形態と第一実施形態との相違点は、以下の点にある。すなわち、第二実施形態のデテント73には、作動レバー23の先端部58および片作動バネの舌片部32cの当接面に嵌合する嵌合形状(
図9における37、60)を備えている。また、嵌合形状については
図9(b)に示すように凸形状側37が、凹形状側60に対し小さくなるよう設定することが望ましい。
【0063】
このような嵌合形状の効果により、作動中に片作動ばね24の舌片部32cとレバー先端部58との相対位置が変化しない。
したがって、上述の第二実施形態によれば、前述の第一実施形態と同様の効果に加え、片作動ばね24の舌片部32cの位置を作動レバー23の長手方向(
図9における上下方向)へも規制することが可能になる。
【0064】
(第三実施形態)
次に、この発明の第三実施形態を
図10に基づいて説明する。
図10は、第三実施形態におけるデテント74の先端部58近傍の要部斜視図である。
同図に示すように、この第三実施形態と第一実施形態との相違点は、以下の点にある。すなわち、第三実施形態のデテント74には、作動レバー23に嵌合突起61を備え、片作動バネ24に嵌合孔38を備える。したがって、上述の第三実施形態によれば、前述の第一実施形態及び第二実施形態と同様の効果に加え、片作動バネ24を外し石4の振動方向に垂直な方向に対しても位置規制可能になる。
【0065】
(第四実施形態)
次に、この発明の第四実施形態を
図11に基づいて説明する。
図11は、第四実施形態におけるデテント75の先端部58近傍の要部斜視図である。
同図に示すように、この第四実施形態と第一実施形態との相違点は、以下の点にある。すなわち、第四実施形態のデテント75には、作動レバー23に、コの字型もしくはC形状の開口部を持った挟持体62を備える。この挟持体の開口部の幅は、片作動バネ24の厚み幅と同じか、もしくはわずかに広くなっている。
したがって、上述の第四実施形態によれば、片作動バネ24を外し石4の振動方向に垂直な方向に対して位置規制可能になる。
【0066】
(第五実施形態)
次に、この発明の第五実施形態を
図12に基づいて説明する。
図12は、第五実施形態におけるデテント76の先端部58近傍の要部斜視図である。
同図に示すように、この第五実施形態と第一実施形態との相違点は、以下の点にある。すなわち、第五実施形態のデテント76には、片作動バネ24の近傍に、コの字型もしくはC形状の開口部を持った挟持体63を備える。この挟持体の開口部の幅は、片作動バネ24の厚み幅と同じか、もしくはわずかに広くなっており、片作動バネ24を外し石4の振動方向に垂直な方向に対して位置規制可能である。
したがって、第五実施形態によれば、前述の第四実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0067】
また、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述の実施形態に種々の変更を加えたものを含む。
【0068】
さらに、上述の実施形態では、電鋳加工やLIGAプロセスにより、デテント7,72〜76を成形する場合について説明したが、これに限られるものではなく、樹脂成形としてもよい。また、復帰バネ22や片作動バネ24,124は、例えば、ニッケル、りん青銅、ステンレス鋼、エリンバー、コエリンバーなどの弾性材料により形成されていることが望ましいと説明した。しかしながら、これに限られるものではなく、例えば、金属製の板バネや線バネにより形成することも可能である。
そして、デテント固定部21や作動レバー23を樹脂成形とし、復帰バネ22や片作動バネ24を金属製の板バネや線バネとする場合、デテント固定部21や作動レバー23に、復帰バネ22、および片作動バネ24をインサート成型する構成としてもよい。
【0069】
また、上述の実施形態では、デテント固定部21に復帰バネ22を介して作動レバー23が支持されている場合について説明した。しかしながら、これに限られるものではなく、所謂ピボットデテント脱進機のように、不図示の回転軸を介して作動レバー23を回転自在に支持し、これによってガンギ車2に対して作動レバー23を接離可能に構成してもよい。この場合、復帰バネ22に代わって不図示の回転軸を取り囲むように渦巻きバネ(不図示)を設ける。そして、この渦巻きは、作動レバー23を原位置に復帰するように付勢すればよい。
【0070】
さらに、上述の実施形態では、デテント固定部21の中心P1、復帰バネ22、作動レバー23およびテン真9が、全て復帰バネ22の基端22a、つまり作動レバー23の支点23aとテンプ5のテン真9の中心とを結ぶ直線L1上に形成されている場合について説明した。しかしながら、これに限られるものではなく、作動レバー23の止め石6がガンギ車2の歯部2aに対して接離可能に構成されていればよい。
【0071】
さらに、上述の実施形態を組み合わせた形態、例えば、第一実施形態と第五実施形態を組み合わせた構成等としても良い。