【実施例1】
【0013】
始めに、実施例1の緩衝クリップ1の構成について、
図1ないし
図9を用いて説明する。この緩衝クリップ1は、
図1および
図7に示すように、自動車のバックドアDに取付けられて(
図1参照)、このバックドアDを閉める際にボディーパネルF1との衝突を緩和する(
図7参照)ように機能するものとなっている。この緩衝クリップ1は、バックドアDのバックドアパネルD1に形成された取付け穴H1に差し込まれて装着される硬質部10(
図1参照)と、バックドアパネルD1から突出してボディーパネルF1との衝突によって受ける衝撃力を弾性的に受け止めて緩和するクッション部20(
図7参照)とを備えている。ここで、ボディーパネルF1が本発明における「対向部材」に相当する。また、バックドアパネルD1が本発明における「取付け部材」に相当する。
【0014】
上記硬質部10は、ポリプロピレンなどの、バックドアパネルD1と当たりによる衝突音を発生させる硬質樹脂材により成形されている。これにより、硬質部10にこの硬質部10を上記取付け穴H1にスムーズに差し込むことができる剛性が備えられる。硬質部10は、
図3に示すように、上記取付け穴H1に差し込まれて係止される係止部位12と、上記クッション部20が2色成形によって一体に付設される頭部位11とを一体に備えている。
【0015】
頭部位11には、
図9に示すように、クッション部20を2色成形によって一体に成形する2次成形工程の際にクッション部20の成形材料P2が後述する第2のキャビティC2の外に漏れ出すことを防止するシール面11Aが形成されている。
図2ないし
図5に示すように、シール面11Aは、硬質部10の取付け穴H1への差し込み方向側(
図3および
図4で見て下側)に面を向けて径方向外方側に環状に張り出して(
図2および
図5参照)形成されている。このシール面11Aは、緩衝クリップ1がバックドアパネルD1に装着された際にバックドアパネルD1に対向するようになっている(
図3および
図4参照)。
【0016】
クッション部20は、
図9に示すように、上記2色成形により、硬質部10の頭部位11に一体に接着された状態となって成形される。
図3および
図4に示すように、クッション部20は、上述したシール面11Aが形成された頭部位11の環状部分11Bをその外周側からくるむ包囲部位21を備えた形状に成形されている。包囲部位21には、シール面11Aよりも上記差し込み方向(図示下方向)に突出した突出部分21Aが、上記環状部分11Bに近い内周部分から後述するリップ部分21Bに隣接した外周部分にわたって形成されている。
【0017】
上記突出部分21Aは、
図7に示すように、緩衝クリップ1にボディーパネルF1から衝撃力が入力された際に、硬質部10の取付け穴H1に対する差し込み方向(図示上下方向)のがたつきを抑える弾発力を上記環状部分11Bに近い内周部分を含む全体で発揮する構成とされている。具体的には、上記緩衝クリップ1にボディーパネルF1が相対的に接近して衝突すると、ボディーパネルF1がクッション部20の先端部位22に受け止められて、その衝撃力がクッション部20の弾性変形により吸収される。この衝撃力により、硬質部10には取付け穴H1に対する差し込み方向(図示下方向)に圧迫される力が加わる。この圧迫力に対して、上記突出部分21Aはその上記環状部分11Bに近い内周部分を含む全体が弾発力を発揮して、取付け穴H1に対する硬質部10のがたつきを抑えるように支持する。
【0018】
本実施例の緩衝クリップ1は、硬質部10のシール面11AがバックドアパネルD1と対向して、硬質部10が取付け穴H1に対してがたつくとシール面11AがバックドアパネルD1に当たって干渉音を発生させるようになっている。それにもかかわらず、緩衝クリップ1にバックドアパネルD1から衝撃力が入力された際には、突出部分21Aが硬質部10のがたつきを抑える弾発力を環状部分11Bに近い内周部分で発揮することで、シール面11AをバックドアパネルD1と当たらないように支持して、シール面11AがバックドアパネルD1に当たる干渉音を防ぐことができる。
【0019】
ところで、上述した硬質部10の頭部位11は、
図3ないし
図5に示すように、上記環状部分11Bの上記シール面11Aよりも上記先端部位22寄りの位置(
図3および
図4参照)から、径方向外方に向かって上記シール面11Aよりも広く環状に張り出して形成された(
図5参照)支持突起11Cを備えている。
図7に示すように、支持突起11Cは、緩衝クリップ1にボディーパネルF1から衝撃力が入力された際に、包囲部位21を上記硬質部10の差し込み方向とは反対側(図示上側)から支持するように機能する。これにより、シール面11AがバックドアパネルD1と当たらないように支持される支持強度を高めて、上記干渉音の発生を効果的に防ぐことができる。
【0020】
上記支持突起11Cは、
図1および
図6に示すように、複数本(本実施例では8本)のリブ11C1により頭部位11に対して裏側(
図3および
図4で見て上側)から支持されている。これにより、支持突起11Cは、上述した包囲部位21を支持する支持強度が高められている。シール面11Aは、
図3および
図8に示すように、後述する下型M3の水平面M3B(
図8参照)により平面状に形作られており、その径寸法が取付け穴H1の径寸法よりも大きく張り出して形成されている(
図3参照)。環状部分11Bは、
図1、
図3、
図4および
図5に示すように、径方向外方への張り出し量が厚さ方向(
図3および
図4で見て上下方向)に一定となる環形状に成形されて、その差し込み方向側(
図3および
図4で見て下側)の端面が上記シール面11Aとなるように形成されている。
【0021】
係止部位12は、
図1ないし
図5に示すように、上記頭部位11から硬質部10の差し込み方向(
図3および
図4で見て下方向)に向かって延びる円柱形状に形成されて、バックドアパネルD1に円形に形成された取付け穴H1(
図1参照)にはめ込まれて係止する構成となっている。具体的には、係止部位12には、
図2および
図5に示すように、その円柱形状の側面部分(
図2参照)から径方向外方に張り出して内外に撓む係止爪12Aが、互いに周方向に対向する2箇所の位置(
図5参照)に形成されている。また、係止部位12には、
図2および
図3に示すように、係止部位12の差し込み方向側(
図3で見て下側)の端部から係止部位12の内部に向かって伸びるように複数の凹所12Bが形成されている。
【0022】
上記各凹所12Bは、
図3および
図5に示すように、上記各係止爪12Aに対応した位置に形成されて、各係止爪12Aの撓み代として機能するようになっている。上記各係止爪12Aは、係止部位12をバックドアパネルD1の取付け穴H1に差し込むことにより、取付け穴H1の径によって撓みすぼめられた後に拡開し、取付け穴H1に弾性的に係着して抜け止めされた状態に係止されるようになっている。各係止爪12Aは、
図3に示すように、取付け穴H1に傾斜面で係止された構成とされて、バックドアパネルD1の板厚のばらつきに対応できるようになっている。
【0023】
クッション部20は、
図1および
図3に示すように、熱可塑性エラストマーなどの軟質樹脂材によって、バックドアパネルD1から突出する側(
図3で見て上側)の頂面22Aが小径となる円錐台形状(
図1参照)に成形されている。クッション部20は、
図3および
図4に示すように、そのバックドアパネルD1に取付けられる根元側(図示下側)に形成された包囲部位21と、この包囲部位21から硬質部10の差し込み方向とは反対側(図示上側)に延びる先端部位22とを一体に備えている。
図6に示すように、先端部位22は、上述した頂面22Aと、この頂面22Aで開口した肉抜き部分22Bと、この肉抜き部分22Bの開口部分から径方向外方に延びる複数(本実施例では4本)の突条部分22Cとを備えている。
【0024】
上記肉抜き部分22Bは、
図3、
図4および
図6に示すように、上記頂面22Aから先端部位22の内部に向かって円柱形状に伸びるように形成されている。そして、この肉抜き部分22Bの大きさを変えることにより、先端部位22がボディーパネルF1からの衝撃力を受け止める弾発力を調節できるようになっている。上記各突条部分22Cは、
図1に示すように、上記頂面22Aから先端部位22の頂面22Aに近い先端側(図示上側)の側面にわたって延びるように形成されている。各突条部分22Cは、上記頂面22Aから突出高さW2だけ突出し、ボディーパネルF1が緩衝クリップ1に衝突するときにこのボディーパネルF1に先当たりして衝撃力を柔らかく受け止めるようになっている。
【0025】
先端部位22は、
図3および
図4に示すように、外力が加わらない自然状態ではボディーパネルF1と当接しないように設定されている。具体的には、クッション部20の頂面22AとボディーパネルF1との間には、バックドアDを閉めた状態で上記各突条部分22Cの突出高さW2よりも大きな隙間幅W1を有する隙間が形成されるように設定されている。これにより、上記自然状態では緩衝クリップ1がボディーパネルF1から圧迫されないようにして、緩衝クリップ1にかかる圧迫力によりシール面11AがバックドアパネルD1に当たる干渉音をより発生しにくくすることができる。
【0026】
包囲部位21は、
図5に示すように、バックドアパネルD1に着座する側(
図3および
図4で見て下側)の底面に、この底面の外周縁部に沿って形成されたリップ部分21Bと、上述したシール面11Aを径方向外方側から囲む突出部分21Aと、上記突出部分21Aとシール面11Aとの間に形成された隙間面21Cとを備えている。突出部分21Aは、バックドアパネルD1に着座する側(
図3および
図4で見て下側)の面が平坦に形成されて、緩衝クリップ1がボディーパネルF1から受ける圧迫力に対して突出部分21A全体が弾発力を発揮するようになっている。突出部分21Aは、上述した複数の係止爪12Aに対応する溝部分21A1を除いた部分に形成されている。これにより、突出部分21Aがシール面11Aを支持する機能を保ちながら、後述する係止爪12Aの成形型(スライド型)を抜き去りやすくすることができる。
【0027】
リップ部分21Bは、
図1に示すように、上記包囲部位21の底面の外周縁部から径方向外方側(
図5参照)かつ硬質部10の差し込み方向(
図1で見て下方向)に向かって突出している。リップ部分21Bは、
図3および
図4に示すように、係止部位12が取付け穴H1に差し込まれるときにバックドアパネルD1の表側(図示上側)の面に撓んで密着することで、水などの異物が取付け穴H1に浸入することを防止するように機能する。隙間面21Cは、後述する下型M3の水平面M3B(
図8参照)により、シール面11Aと面一な平面状に成形されている。
【0028】
続いて、緩衝クリップ1の成形方法について、
図8および
図9を用いて説明する。緩衝クリップ1は、まず硬質部10を成形し(1次成形)、ついで硬質部10にクッション部20を一体に成形する(2次成形)、いわゆる2色成形により成形されている。
【0029】
具体的には、緩衝クリップ1は、下型M3と1次上型M1とを型閉めして第1のキャビティC1を形成する第1の型閉め工程と、第1のキャビティC1内に硬質部10の成形材料P1を充填して硬質部10を成形する1次成形工程(
図8参照)と、1次上型M1を下型M3から型開きする第1の型開き工程と、下型M3に硬質部10を残した状態で下型M3と2次上型M2とを型閉めして第2のキャビティC2を形成する第2の型閉め工程と、第2のキャビティC2内にクッション部20の成形材料P2を充填して硬質部10にクッション部20を一体に成形する2次成形工程(
図9参照)と、2次上型M2を下型M3から型開きして、成形された緩衝クリップ1を下型M3から突き出す第2の型開き工程とによって成形される。
【0030】
1次上型M1と下型M3とは、それぞれ型閉めおよび型開きの際に径方向にスライド可能な複数のスライド型(図示省略)を組み合わせて構成されている。これにより、硬質部10に支持突起11Cおよび係止爪12Aなどのアンダーカットを形成しつつ、1次上型M1および下型M3から硬質部10を抜き去ることができるようになる。第1のキャビティC1は、
図8および
図9に示すように、硬質部10よりも大きい寸法(
図8参照)に形成されて、硬質部10の成形収縮の影響を相殺する(
図9参照)ようになっている。これにより、
図9に示すように、下型M3と硬質部10との間には上記2次成形工程の際に硬質部10の成形収縮による隙間M3Aができるようになっている。
【0031】
第1のキャビティC1は、
図8に示すように、1次上型M1側で頭部位11を成形し、下型M3側で係止部位12を成形するようになっている。これにより、
図9に示すように、硬質部10の係止部位12を下型M3に残しながら、硬質部10の頭部位11にクッション部20を一体に成形することができる。上記頭部位11は、厳密には、
図8に示すように、そのシール面11Aが下型M3側に形成された水平面M3Bにより成形されている。この水平面M3Bは、その径寸法がシール面11Aの成形収縮前の径寸法よりも大きく張り出して形成されて、そのシール面11Aよりも外周側の外周部分が、上記1次成形工程の際に硬質部10の成形材料P1が第1のキャビティC1の外に漏れ出すことを防ぐシール面として機能するようになっている。
【0032】
上記水平面M3Bは、
図9に示すように、上記2次成形工程の際に上記シール面11Aと平面で密着することで、上記隙間M3Aと第2のキャビティC2とを隔てる構成とされている。これにより、クッション部20の成形材料P2が下型M3と硬質部10との間の隙間M3Aから第2のキャビティC2の外に漏れ出すことが防がれるようになっている。なお、水平面M3Bとシール面11Aとが平面で密着する構成とされることにより、硬質部10が成形収縮しても隙間M3Aと第2のキャビティC2とを確実に隔てることができるようになっている。また、水平面M3Bの上記外周部分は、上記2次成形工程の際に上述した隙間面21Cを形作るようになっている。
【0033】
このように、本実施例の緩衝クリップ1は、硬質部10ががたつくとシール面11AがバックドアパネルD1に当たって干渉音を発生させるようになっているにもかかわらず、緩衝クリップ1にバックドアパネルD1から衝撃力が入力された際には、突出部分21Aがシール面11AをバックドアパネルD1と当たらないように支持することで、シール面11AがバックドアパネルD1に当たる干渉音を防ぐことができる。
【0034】
また、突出部分21Aがシール面11Aと当たらないように支持される支持強度が高められることで、干渉音の発生を効果的に防ぐことができる。
【0035】
以上、本発明の実施形態を一つの実施例を用いて説明したが、本発明は上記実施例のほか各種の形態で実施できるものである。例えば、係止部位と取付け穴との係止構造は実施例1の構成に限定されず、その具体的な形状は種々変更することができる。また、支持突起は実施例1の構成に限定されず、例えば支持突起を支持するリブが省略された構成や、複数の支持突起を頭部位に周方向に断続的に並べた構成、支持突起を頭部位の環状部分から離間した位置に形成した構成を選択することができ、支持突起の具体的な形状は適宜設定することができる。また、支持突起は必須の構成ではなく、頭部位から支持突起を省略することもできる。ただし、この場合はシール面が取付け部材と当たらないように支持される支持強度が下がって干渉音が発生しやすくなるおそれがある。
【0036】
また、頭部位のシール面の構成は実施例1の構成に限定されず、例えばシール面が下型に形成された傾斜面により傾斜して形作られた構成とすることもできる。ただし、この場合はシール面が下型の上記傾斜面に密着しにくくなってクッション部の成形材料を漏れ止めする機能が低下するおそれがある。また、頭部位の形状は実施例1の形状に限定されず、その具体的な形状は適宜変更することができる。また、硬質部の素材はポリプロピレンなどの樹脂材に限定されず、ポリアセタール、ナイロン、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン、PC/ABSアロイなどの取付け部材の取付け穴にスムーズに差し込むことができる剛性を備えた素材であればよい。なお、硬質部は、2色成形の1次成形に適した性質を備えた素材で成形されることが好ましい。
【0037】
また、クッション部の素材は熱可塑性エラストマーなどの樹脂材に限定されず、ポリエチレン、塩化ビニル、シリコンゴム、ゴムなどの硬質部のシール面を十分な強度で支持する弾発力を発揮することができる素材であればよい。なお、クッション部は、他部材の当たりを柔らかく受け止めることができる弾性と、2色成形の2次成形に適した性質とを備えた素材で成形されることが好ましい。また、クッション部の先端部位の構成は実施例1の構成に限定されず、その形状や構造は適宜変更することができる。また、クッション部のリップ部分は必須の構成ではなく、リップ部分の有無やリップ部分の具体的な形状は適宜設定することができる。
【0038】
また、突出部分の形状は実施例1の構成に限定されず、少なくとも包囲部位の環状部分に近い内周部分からシール面よりも差し込み方向側に突出していれば、本発明の機能を発揮させることができる。例えば、突出部分の突出量が外周側で少なくなっている構成や、突出部分が包囲部位からシール面を周方向に連続的あるいは断続的に囲むように突出した突起である構成を選択することができ、その具体的な構成は限定されない。また、突出部分とシール面との間に隙間面がない構成や、包囲部位が溝部分を備えておらず、突出部分がシール面を全周で囲む構成を選択することもできる。ただし、この場合は緩衝クリップを成形して成形型から取り出す工程が難しくなるおそれがある。
【0039】
実施例1では、緩衝クリップ1を、
図1ないし
図7に示すように、自動車のバックドアパネルD1(可動側の部材)に取付けて、バックドアDを閉める際にボディーパネルF1(固定側の部材)とバックドアパネルD1との衝突を緩和するものとして示した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されたものではなく、互いに接近する方向に相対移動する2部材のうちの一方側となる取付け部材に取付けられ、他方側となる対向部材の相対的な接近移動に伴う衝突を緩和する緩衝クリップであれば、本発明を適用することができる。上記2部材としては、例えば自動車のドアとドア枠などの、一方が他方に対して開閉される2部材を選択することができ、その具体的な構成は限定されない。また、緩衝クリップは、上記各2部材のうちどちら側の部材に取付けられていても本発明を適用することができ、その取付け箇所は適宜設定することができる。