(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記調整機構は、前記回転停止部の位置を前記作動レバーに対して移動させる移動部材と、前記移動部材の固定位置を調整することにより前記回転停止部の位置を調整する調整手段とを有することを特徴とする請求項1に記載のデテント脱進機。
請求項1から請求項10のいずれかに記載のデテント脱進機と、動力源を構成するゼンマイと、このゼンマイが巻き戻されるときの回転力により回転する表輪列とを備え、この表輪列の回転を前記デテント脱進機により制御することを特徴とする時計用ムーブメント。
【背景技術】
【0002】
従来から、機械式時計の歩度を維持するための脱進機としてデテント脱進機が知られている。この種の脱進機の機構は、スプリングデテント脱進機(Spring Detent Escapement)とピボットデテント脱進機(Pivoted Detent Escapement)の2つに大別される(例えば、特許文献1、特許文献2、非特許文献1参照)。
以下、各デテント脱進機の基本的構成について説明する。
【0003】
図14は、従来のスプリングデテント脱進機の一例を示す斜視図である。
同図に示すように、スプリングデテント脱進機300は、ガンギ車301と、回転軸であるテン真302を中心に自由振動するテンプ303と、デテントレバー304とを備えている。テンプ303は、ガンギ車301の歯部301aと接触可能な振り石305、およびデテントレバー304に取り付けられている片作動バネ309と接触可能な外し石306を有している。
【0004】
デテントレバー304は、この基端に設けられた復帰バネ307を介して固定されている。復帰バネ307は、デテントレバー304をガンギ車301に対して接離可能に支持していると共に、デテントレバー304を原位置に復帰するように付勢している。すなわち、デテントレバー304は、復帰バネ307の基端を支点304aとしてガンギ車301に接離可能に構成されている。
【0005】
また、デテントレバー304には、ガンギ車301の歯部301aと接触可能な停止部308が設けられている。さらに、デテントレバー304の基端側には、片作動バネ309の基端が固定されている。片作動バネ309は、この先端がデテントレバー304の先端よりも僅かに突出するようにデテントレバー304の長手方向に沿って形成されている。すなわち、片作動バネ309は、テンプ303のテン真302とデテントレバー304の支点304aとを通る直線上に沿うように形成されている。そして、片作動バネ309の先端が、テンプ303の外し石304と接触するようになっている。
【0006】
このような構成のもと、テンプ303の自由振動により外し石306が矢印CCW30方向(
図14における反時計回り方向)に向かって回転すると、片作動バネ309を介してデテントレバー304が押圧される。すると、ガンギ車301の歯部301aに接触していた停止部308が歯部301aから離脱し、ガンギ車301とデテントレバー304との係合が解除される。そして、ガンギ車301が1歯分回転する。
ガンギ車301が1歯分回転する間に、デテントレバー304に復帰バネ307の付勢力が作用し、デテントレバー304が原位置に戻る。これにより、ガンギ車301の歯部301aに停止部308が再び接触する。すなわち、ガンギ車301とデテントレバー304とが係合し、ガンギ車301の回転が停止される。
【0007】
一方、テンプ303の自由振動により外し石306が逆転し、矢印CW30方向(
図14における時計回り方向)に向かって回転すると、この外し石306によって片作動バネ309がデテントレバー304から離反する方向に向かって押圧される。このとき、片作動バネ309が弾性変形する一方、デテントレバー304は停止したままの状態となる。外し石306に押圧された片作動バネ309は、この片作動バネ309から外し石306が離反した後、片作動バネ309自身の復元力により原位置に戻る。
【0008】
すなわち、外し石306が矢印CCW30方向に向かって回転し、片作動バネ309を介してデテントレバー304が押圧される際、片作動バネ309は、何ら動作していないことになる。これに対し、外し石306が矢印CW30方向に向かって回転すると、片作動バネ309が弾性変形して動作することになる。
そして、この動作が繰り返し行われることにより、機械式時計の輪列が一定速度で駆動する。
【0009】
図15は、従来のピボットデテント脱進機の一例を示す斜視図である。なお、
図14のスプリングデテント脱進機300と同一態様には、同一符号を付して説明する。
同図に示すように、ピボットデテント脱進機400は、ガンギ車301と、テン真302を中心に自由振動するテンプ403と、デテントレバー404とを備えている。ここで、ピボットデテント脱進機400とスプリングデテント脱進機300との相違点は、デテントレバーを原位置に復帰させる付勢手段が異なる点にある。
【0010】
すなわち、ピボットデテント脱進機400のデテントレバー404は、回転軸410を介して回転自在に支持されており、これによってガンギ車301に対して接離可能となっている。また、デテントレバー404に設けられている復帰バネ407は、回転軸410を取り囲むように渦巻きバネで構成されており、デテントレバー404を原位置に復帰するように付勢している。
【0011】
さらに、デテントレバー404には、この長手方向に略直交し、かつ回転軸410を通る直線P100上に片作動バネ409の基端が固定されている。片作動バネ409は、デテントレバー404の長手方向に沿うように、つまり、テンプ403のテン真302とデテントレバー404の回転軸410とを通る直線上に沿うように形成されており、その先端がテンプ403の外し石306と接触するようになっている。
【0012】
このような構成のもと、テンプ403が自由振動することにより、外し石306が矢印CCW31方向(
図15における反時計回り方向)に向かって回転したり、矢印CW31方向(
図15における時計回り方向)に向かって回転したりすると、これに基づいて片作動バネ409が動作したり、何ら動作しなかったりする。また、デテントレバー404の停止部308がガンギ車301の歯部301aに対して係合したり離脱したりする。これにより、機械式時計の輪列が一定速度で駆動する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
ところで、上述の従来技術にあっては、片作動バネ309,409を動作させる際、これらのバネ力に抗して外し石306を回転させることになるので、テンプ303,403の自由振動に対してエネルギーロスが生じてしまう。また、外し石306に対する片作動バネ309,409の位置がガンギ車301の動作に影響を及ぼす。
【0016】
すなわち、例えば、外し石306と片作動バネ309,409との接触面積が小さいと、この分片作動バネ309,409がガンギ車301から離反する方向に向かう変位量が小さくなる。このため、ガンギ車301の歯部301aに対するデテントレバー304,404の停止部308の離脱動作を正常に行うことが困難となり、ガンギ車301を1歯分ずつ回転させることができなくなる。
【0017】
また、外し石306と片作動バネ309,409との接触面積が大きいと、この分片作動バネ309,409がガンギ車301から離反する方向に向かう変位量が大きくなる。このため、テンプ303,403の自由振動に対するエネルギーロスが大きくなってしまい時計の持続時間が短くなってしまう。
【0018】
また、デテントレバー304,404の先端位置がテンプ303,403に近づき過ぎると、外し石306とデテントレバー304,404とが接触してしまう恐れがある。この場合、テンプ303,403の自由振動がデテントレバー304,404によって阻害され、テンプ303,403が正常に動作できなくなり、この結果ガンギ車301が正常に動作しなくなる。
【0019】
また、停止部308がテンプ303,403から離れ過ぎると、ガンギ車301の停止位置は正常な位置に対して時計周りに移動する。このため、停止状態のガンギ車301の歯部301aの先端が、振り石306の先端の軌道の内側に入り、その結果テンプに伴って回転する振り石305と停止状態のガンギ車301の歯部301aが接触し、テンプ300,400の回転が妨げられる恐れがある。
【0020】
また、停止部308がテンプ303,403に近づきすぎると、ガンギ車301の停止位置は正常な位置に対して反時計周りに移動する。このため、停止部308とガンギ車301の歯部301aの係合が外れてガンギ車301が回転を始めてから、ガンギ車301の別の歯部301aが振り石305に追いつくまでにかかる時間が長くなり、結果としてガンギ車301の歯部301aと振り石305が接触している時間は短くなり、ガンギ車301からテンプ303,403に伝えられるエネルギーは減少してしまう。
【0021】
また、停止部308がガンギ車301から離れすぎると、ガンギ車301の歯部301aと停止部308の係合が浅くなり、衝撃等によってデテントレバー304が動いたときに、この係合が外れやすくなる恐れがある。
【0022】
また、停止部308がガンギ車301に近づきすぎると、ガンギ車301の歯部301aと停止部308の係合が深くなり、この係合を外すために必要なデテントレバー304の移動量が増大し、テンプ303,403のエネルギーのロスが大きくなってしまう。
【0023】
このような理由から、デテント脱進機を正常に動作させるためには、デテントレバー304の先端の位置、片作動バネ309,409の先端位置、停止部308の位置がそれぞれ正しく調整されていなければならない。しかるに、従来のデテント脱進機においては、停止部308はデテントレバー304に固定されており、独立してその位置を調整することができない。つまり、デテントレバー304の位置を調整する際に、停止部308の位置も同時に変化してしまい、上記に挙げた不具合を引き起こす恐れがある。
【0024】
このようなことから、停止部308の位置を、デテントレバー304の位置調整とは独立して調整できることが望ましい。
【0025】
また、停止部308の接触面(ガンギ車301の歯部301aと係合する面)には、引き角と呼ばれる角度がつけられている。これは、ガンギ車301の静止状態において、外部から振動などが加わったときに、デテントレバー304がガンギ車301から離反する方向に動いてガンギ車301の歯部301aと停止部308との係合が容易に外れてしまうことを防ぐことを目的としたものである。すなわち、停止部308の接触面をガンギ車301の中心方向に延長していくと、この面はガンギ車301の中心を通らず、それよりテンプ303,403の側にずれた位置を通る。つまり、停止部308の接触面は、接触面とガンギ車301の歯部301aとの接触点からガンギ車2の中心に向かう半径方向に対してテンプ303,403の側に傾いている。
【0026】
この角度は、ガンギ車301の停止状態においてデテントレバー304をガンギ車301方向に引きつける作用をするのと同時に、外し石306が片作動バネ309,409の先端を押圧してガンギ車301の歯部301aと停止部308の係合を外すために必要なエネルギーを増大させるものであって、小さすぎればガンギ車301の歯部301aと停止部308の接触面との係合が振動などによって容易に外れてしまい、大きすぎればテンプ303,403のエネルギーのロスが大きくなる。
このような理由から、停止部308の停止面の角度は精密に調整できることが望ましいが、従来のデテント脱進機においては、この停止部308の停止面の角度は設計及び製造によって決まるものであって、調整することはできない。
【0027】
そこで、この発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、停止部の位置調整を可能にし、確実に正常動作させることができるデテント脱進機、および機械式時計を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0028】
上記の課題を解決するために、本発明に係るデテント脱進機(例えば、デテント脱進機1)は、歯部(例えば、歯部2a)を有するガンギ車(例えば、ガンギ車2)と、このガンギ車の回転に基づいて正回転および逆回転の振動を行うテンプ(例えば、テンプ5)と、テンプの振動に従ってガンギ車に対して近づいたり離れたりし、ガンギ車に近づいた時には歯部に当接することによりガンギ車の回転を停止させ、ガンギ車から離れた時には当接を解除してガンギ車を回転させる回転停止部(例えば停止部6、もしくは停止部6を含む別体の回転部59、もしくは停止部6を含む別体のレバー調整部52)を有する作動レバー(例えば、作動レバー23)とを備え、作動レバーは、回転停止部の位置を調整する調整機構を具備することを特徴とする。
このように、回転停止部の位置を調整する調整機構を設けることにより、停止状態におけるガンギ車の位置およびテンプが作動レバーをガンギ車から離反させるのに必要なエネルギー量を所望の状態とし、これら作動レバー、ガンギ車、およびテンプを安定的に作動させることができる。
【0029】
本発明に係るデテント脱進機において、調整機構は、回転停止部の位置を作動レバーに対して移動させる調整部と、回転停止部の位置を調整部により調整する調整手段とを有することを特徴とする。
このように構成することで、回転停止部の位置調整を容易かつ迅速に行うことが可能になる。
【0030】
本発明に係るデテント脱進機において、調整部は、回転停止部をガンギ車に対して遠近方向に移動可能な略矩形孔であることを特徴とする。
このように構成することで、ガンギ車の歯部と回転停止部の係合の深さを調整することができる。よって、ガンギ車の歯部と回転停止部の係合が衝撃などによって容易に外れてしまわないようにするとともに、テンプが作動レバーに押圧してガンギ車の歯部と停止部の係合を外す際に必要なエネルギーが必要最小限になるように調整することができる。
【0031】
本発明に係るデテント脱進機において、調整部は、回転停止部を作動レバー上で回転可能とする回転体であることを特徴とする。
このように構成することで、停止部がガンギ車の歯部と係合する角度を調整することができる。よって、作動レバーがガンギ車の方向に引き付けられる力を与え、ガンギ車の歯部と回転停止部の係合が衝撃などによって容易に外れてしまわないようにするとともに、テンプが作動レバーに押圧してガンギ車の歯部と回転停止部の係合を外す際に必要なエネルギーが必要最小限になるように調整することができる。
【0032】
本発明に係るデテント脱進機において、調整部は、回転停止部の端部を移動可能に支持する支持部と、端部を掴持するように支持部に連設され、端部に向けて付勢力を有する係合部とを備え、調整手段は、付勢力により係合部を端部に対して押圧することにより、支持部に対する端部の位置を調整することを特徴とする。
端部が複数の位置決め用溝を有し、係合部が位置決め用爪を有し、調整手段が位置決め用爪を複数の位置決め用溝の各々に段階的に係合させるものであってもよい。
また、端部が螺旋溝を有し、調整手段が、支持部を挿通し、螺旋溝に対応する溝を備えたボルトを回転させるものであってもよい。
このように構成することによって、調整作業が容易になるとともに、正確かつ迅速に行うことができる。
【0033】
また、調整部が支持部に支点を有し、回転停止部に作用点を有する調整レバーを有し、調整手段が調整レバーを支点を中心として回動させるものであってもよい。
このように構成することによって、調整作業が容易になるとともに、正確かつ迅速に行うことができる。
【0034】
また、調整部が、端部に回転停止部の移動方向と一致しない方向を長径とする長孔と、長孔内を移動可能であるとともに回転中心からずらして突設された突出部を備えたカムとを有し、調整手段がカムを回動させることにより、突出部を長孔内で移動させるものであってもよい。
このように構成することによって、調整作業が容易になるとともに、正確かつ迅速に行うことができる。
【0035】
本発明に係るデテント脱進機において、調整部は、作動レバーに設けられるとともに回転停止部をテンプに対して遠近方向に移動可能な貫通孔と、回転停止部の端部に設けられるとともに貫通孔と係合する凸部とを有し、調整手段は、凸部を貫通孔内で移動させることを特徴とする。
このように構成することによって、調整作業が容易になるとともに、正確かつ迅速に行うことができる。
【0036】
本発明に係る機械式時計(例えば、機械式時計100)は、上記解決手段の何れかに記載の時計用デテント脱進機と、動力源を構成するゼンマイ(例えば、ゼンマイ(非図示))と、このゼンマイが巻き戻されるときの回転力により回転する表輪列(例えば、表輪列105)とを備え、この表輪列の回転を前記時計用デテント脱進機により制御することを特徴とする。
このように構成することで、回転停止部の位置調整が可能になり、作動レバー、テンプ、およびガンギ車を確実に正常動作させることができる機械式時計を提供できる。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、調整機構を設けることにより、回転停止部の位置を容易、かつ高精度に調整することが可能になる。このため、ガンギ車の停止位置、ガンギ車の歯部と回転停止部の係合深さ及び角度を高精度に決めることができる。よって、ガンギ車がテンプに与えるエネルギーを最大にするとともに、テンプが作動レバーをガンギ車から離反させるのに必要なエネルギー量を所望の状態とし、これら作動レバー、ガンギ車、およびテンプを確実に正常作動させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0039】
(第一実施形態)
(機械式時計)
次に、この発明の第一実施形態を
図1〜
図8に基づいて説明する。
図1は、機械式時計のムーブメントを裏蓋側からみた平面図である。
同図に示すように、機械式時計100は、ムーブメント101を備えている。ムーブメント101は、このムーブメント101の基板を構成する地板102を有している。地板102には巻真案内孔103が形成されており、ここに巻真104が回転可能に組み込まれている。
【0040】
また、ムーブメント101の裏側(
図1における紙面奥側)には、オシドリ、カンヌキ、およびカンヌキ押さえを含む切換装置(不図示)が配置されている。この切換装置により、巻真104の軸方向の位置が決定するようになっている。
一方、ムーブメント101の表側(
図1における紙面手前側)には、表輪列105を構成する四番車106、三番車107、二番車108、および香箱車110が配置されていると共に、表輪列105の回転を制御するデテント脱進機1が配置されている。
【0041】
香箱車110は、ゼンマイ(不図示)を有しており、巻真104を回転させると不図示のツヅミ車が回転し、さらにキチ車、丸穴車、および角穴車(何れも不図示)を介してゼンマイ(不図示)が巻き上げられるようになっている。そして、ゼンマイ(不図示)が巻き戻される際の回転力により香箱車110が回転し、さらに二番車108が回転するように構成されている。
二番車108は、香箱車110の香箱歯車110aに噛合う二番カナ(不図示)と、二番歯車108aとを有している。二番車108が回転すると、三番車107が回転するように構成されている。
【0042】
三番車107は、二番車108の二番歯車108aに噛合う不図示の三番カナと、三番歯車107aとを有している。三番車107が回転すると、四番車106が回転するように構成されている。
四番車106は、三番車107の三番歯車108aに噛合う不図示の四番カナと、四番歯車106aとを有している。四番車106の四番歯車106aは、不図示のガンギ車2のカナと噛み合っており、四番車106が回転すると、ガンギ車2が回転するように構成されている。
よって、四番車106が回転することによりガンギ車2が回転し、これによってデテント脱進機1が駆動する。このデテント脱進機1が駆動することにより、四番車106が1分間に1回転するように制御されると共に、二番車108が1時間に1回転するように制御される。
【0043】
(デテント脱進機)
図2および
図3は、それぞれ第一実施形態におけるデテント脱進機の平面図と斜視図であり、
図4は本発明の第一実施形態に係るデテント7の平面図である。
図1〜
図4に示すように、デテント脱進機1は、四番車106が回転することにより回転するガンギ車2と、ガンギ車2の歯部2aと接触可能な停止部6を有するデテント7と、
ガンギ車2の歯部2aと接触可能な振り石3、およびデテント7と接触可能な外し石4を有するテンプ5とを備えている。
【0044】
ガンギ車2は四番歯車106aに噛合されるガンギカナ8(
図3参照)を有しており、地板102(
図1参照)と輪列受(不図示)によって回転可能に枢支されている。すなわち、輪列受(不図示)にガンギカナ8の上軸部が回転可能に支持されると共に、地板102にガンギカナ8の下軸部が回転可能に支持される。また、ガンギ車2の歯部2aは、ガンギ車2の外周部に複数(例えば、この実施形態では15個)形成されている。
【0045】
テンプ5は、回転軸であるテン真9を中心にして自由振動するものであって、テン真9の他に、テン真9と同心円上に配置されたテン輪10と、略円板状の大ツバ11と、不図示のヒゲゼンマイとを有している。そして、不図示のテンプ受にテン真9の上軸部が回転可能に支持されると共に、地板102にテン真9の下軸部が回転可能に支持されることにより、地板102、およびテンプ受(不図示)に、テンプ5が回転可能に枢支される。
【0046】
また、大ツバ11に、振り石3と外し石4とが設けられている。振り石3は、大ツバ11の径方向に沿って長い直方体状に形成されており、ガンギ車2の歯部2aと接触する接触面3aが他の面よりも大ツバ11から突出するように形成されている。
外し石4は、デテント7に設けられている後述の片作動バネ24と接触可能になっている。デテント7の円板状部分は、地板102に固定されており、外し石4によって作動するようになっている。
【0047】
(デテント)
図4に示すように、デテント7は、地板102に固定されている円板状のデテント固定部21と、デテント固定部21に復帰バネ22を介して支持されている作動レバー23と、外し石4と接触可能な片作動バネ24とが一体成形されたものである。
ここで、一体成形を行う方法として、電鋳加工によりデテント7を形成したり、フォトリソグラフィーのような光学的な手法を取り入れたLIGA(Lithographie Galvanoformung Abformung)プロセスによりデテント7を形成したりすることが可能である。
【0048】
デテント固定部21の径方向中央には、固定用ボルト15(
図2、
図3参照)を挿通可能なボルト挿通孔25が形成されている。また、デテント固定部21の固定ピン13a,13b(
図2、
図3参照)に対応する箇所には、これら固定ピン13a,13bを挿通可能な2つのピン挿通孔26a,26bが形成されている。
ここで、2つのピン挿通孔26a,26bのうちの一方のピン挿通孔26bは、各部品の製作誤差を吸収できるように長円形状に形成されている。
【0049】
また、デテント固定部21の外周部には、テンプ5側(
図4における上側)に凹部27が形成され、ここに復帰バネ22が立設されている。復帰バネ22は、この基端22aとテンプ5のテン真9の中心(軸心)とを結ぶ直線L1に沿うように板状に形成されている。復帰バネ22は、例えば、ニッケル、りん青銅、ステンレス鋼、エリンバー、コエリンバーなどの弾性材料により形成されていることが望ましい。
【0050】
復帰バネ22の先端に設けられている作動レバー23は、復帰バネ22の先端から延設されたレバー本体51と、レバー本体51とは別体に設けられ、棒状に形成されたレバー調整部52とにより構成されている。
レバー調整部52は、凹部55に挿入される直方体状の取付部28と、この取付部28のテンプ9側の先端に配置され、取付部28よりも幅広の停止部取付部29とが一体成形されたものである。停止部取付部29には、貫通孔64が設けられており、ここに円柱状の回転体59が嵌合されている。回転体59の直径は、貫通孔64の直径よりも僅かに大きく作られており、回転体59は圧力によって保持されている。これによって、回転体59は通常の脱進機の動作中には回転しないが、必要な力を加えれば回転し、任意の位置に調整可能である。
【0051】
回転体59には略台形状の貫通孔65が設けられており、この略台形の上底と下底に挟持されるようにして、ガンギ車2の歯部2aと接触可能な停止部6の基部(
図4における紙面奥側)が嵌合されている。貫通孔65は停止部6よりも、直線L1と直交方向に長く作られており、停止部は任意の位置にスライド移動することができる。
【0052】
停止部6は、直線L1に直交する断面形状が、作動レバー23を構成するレバー本体51の先端部58に向かうに従って漸次幅広となるように形成されており、表側(
図4における紙面手前側)から見ると台形状を成すように台形柱状に形成されている。そして、停止部6のテンプ9側の面がガンギ車2の歯部2aと接触する接触面6aに設定されている。
また、接触面6aと、停止部6のガンギ車2側の面6bが成す角は、他の角に比べて鋭角になるように形成されている。
停止部6の直線L1方向の幅は、回転体59の貫通孔の直線L1方向の幅よりも僅かに長く作られており、停止部6は圧力によって保持されている。これによって、停止部6は通常の脱進機の動作中には移動しないが、必要な力を加えれば直線L1と直交方向にスライド移動し、任意の位置に調整可能である。
【0053】
レバー本体51の基端には、このレバー本体51とレバー調整部52とを連結するための挟持機構60が一体成形されている。挟持機構60は、レバー本体51の基端から直線L1と略直交する方向に向かって両側に延出するベース部61と、ベース部61のガンギ車2側の先端から直線L1に沿って、かつレバー本体51の先端側に向かって延出する係合片62と、係合片62と向かい合ってベース部61のガンギ車2と反対側の先端から延設されたアーム基部53が一体成形されたものである。
【0054】
係合片62は、弾性変形可能に形成されており、先端にレバー本体51側に向かって鉤部63が一体成形されている。また、鉤部63と向かい合って、アーム基部53には二つの凸部53aが突設されている。そして、アーム基部53と、ベース部61と、係合片62とにより形成される凹部55に、レバー調整部52の取付部28が挿入されるように構成されている。
【0055】
このような構成のもと、レバー調整部52は、鉤部63および二つの凸部53aの三点で、係合片62の弾性により挟持され、凹部55内を直線L1方向に沿ってスライド移動可能に設けられた状態となる。
【0056】
レバー本体51には、テンプ5側(
図2における上側)に向かってアーム基部53より延出するアーム部57と、アーム部57の先端に設けられている先端部58とが一体形成されている。アーム部57は、レバー調整部52の停止部取付部29との干渉を避けるように湾曲形成されている。
先端部58は、このガンギ車2側の当接面58aが直線L1方向に沿うように、かつ、ガンギ車2とは反対側(
図2における右側)に向かって僅かにオフセットするように形成されている。このように形成された先端部58の当接面58aに、片作動バネ24の先端に設けられた舌片部32cが当接されている。
【0057】
片作動バネ24も復帰バネ22と同様に、例えば、ニッケル、りん青銅、ステンレス鋼、エリンバー、コエリンバーなどの弾性材料により形成されていることが望ましい。
片作動バネ24は、平面視略6字状に形成されたものであって、作動レバー23の基端部から延出する円弧部31と、円弧部31の先端からレバー先端部58に向かって延出する直線部32とにより構成されている。そして、直線部32が作動レバー23に対する接離方向に沿って弾性変形するようになっている。
【0058】
円弧部31は、ベース部61のガンギ車2と反対側の先端から、ガンギ車2と反対側に向かって、かつ直線L1と略直交する方向に沿って延出し、この後、デテント固定部21の周囲の約3/4を取り囲むように円弧状に形成されている。つまり、円弧部31は、ベース部61のガンギ車2と反対側の先端から、一旦テンプ5とは反対側に向かって延出された後、テンプ5側に向かって折り返すように円弧状に形成されている。円弧部31の曲率半径の中心は、デテント固定部21の中心、つまり、デテント固定部21に形成されているボルト挿通孔25の中心P1とほぼ一致している。
【0059】
一方、直線部32は、円弧部31の先端から直線L1に対して緩やかに傾斜するように延出された緩傾斜部32aと、緩傾斜部32aの先端から、この緩傾斜部32aよりも直線L1に対して急傾斜するように延出され、先端が先端部58に当接された急傾斜部32bと、急傾斜部32bから先端部58に沿って延出された舌片部32cとにより構成されている。
【0060】
緩傾斜部32aは、円弧部31の先端から停止部取付部29に対応する位置に至るまで延出されている。すなわち、直線部32は、作動レバー23の停止部取付部29との干渉を避けるように円弧部31の先端からレバー本体51の先端部58に向かって延出形成された状態になっている。
また、舌片部32cは、この先端がレバー本体51のレバー先端部58から僅かに突出するように延出形成されている。この舌片部32cの先端部58から突出した部位に、テンプ5の外し石4が接触するようになっている。
【0061】
ここで、直線L1上には、デテント固定部21のボルト挿通孔25の中心P1、復帰バネ22、作動レバー23、およびテン真9が同一直線上に設けられた状態になっている。このように構成されたデテント7の作動レバー23は、復帰バネ22の基端22aを支点23aとし、この支点23aを中心にしてガンギ車2に対して接離可能になっている。すなわち、復帰バネ22が基端22aを中心にしてしなるように弾性変形することにより、作動レバー23がガンギ車2に対して接離方向に沿って変位する。
【0062】
復帰バネ22は、作動レバー23を原位置に復帰するように付勢している。より具体的には、
図2、
図4に図示した状態のように、復帰バネ22は、レバー調整部52の取付部28の長手方向が直線L1上となる位置に復帰するように付勢している。一方、片作動バネ24は、この片作動バネ24の舌片部32cが常にレバー先端部58と当接可能な程度のバネ力に設定されている。
【0063】
また、復帰バネ22は、デテント固定部21の凹部27に形成されていることから、デテント固定部21と作動レバー23との間の離間距離K1を大きく設定することなく十分な長さを確保することができる。これにより、復帰バネ22は、作動レバー23をガンギ車2の接離方向に沿って十分変位させることができるようになっている。
また、凹部27の幅は、作動レバー23をガンギ車2に対して接離方向に沿う変位を許容可能に設定されているため、作動レバー23をガンギ車2の接離方向に沿って十分変位させることができる。
【0064】
片作動バネ24の舌片部32cに接触可能な外し石4は、舌片部32cのレバー先端部58とは反対側の面に接触する接触面4aが舌片部32cに沿うように形成されている。一方、外し石4の接触面4aとは反対側には、平面取りすることにより傾斜面4bが形成されている。これにより、外し石4は、この断面形状が大ツバ11の径方向外側に向かうに従って先細りになっている。
【0065】
ここで、デテント7を取り付ける際、片作動バネ24の舌片部32cの位置を、テンプ5の自由振動時に外し石4の先端が片作動バネ24の舌片部32cに接触可能となるように調整する。これにより、テンプ5の自由振動に伴って作動レバー23をガンギ車2から離反させたり、接近させたりすることができる(詳細は後述する)。
【0066】
図2に示すように、地板102(
図1参照)には、作動レバー23のガンギ車2に接近する方向に向かう変位を規制するストッパ40が設けられている。ストッパ40は、ストッパアーム41とストッパアーム41の先端に立設されたストッパピン42とを有している。そして、ストッパアーム41の基端側が、固定ピン43を介して地板102に固定されている。
【0067】
ストッパピン42は、作動レバー23にガンギ車2側から当接するようになっている。これにより、作動レバー23のガンギ車2に接近する方向に向かう変位が規制される。
また、ストッパアーム41は、固定ピン43を中心にして回転可能に設けられており、これによってストッパピン42の位置が調整できるようになっている。このストッパピン42の位置を調整することにより、作動レバー23の移動規制位置が、ガンギ車2の歯部2aに停止部6が接触可能、かつレバー調整部52の取付部28の長手方向が直線L1上となる位置に設定される。
【0068】
(デテント脱進機の動作)
次に、
図2、
図5〜
図7に基づいて、デテント脱進機1の動作について説明する。
図5〜
図7は、デテント脱進機の動作説明図である。
図2に示すように、デテント7の作動レバー23が直線L1に沿う位置に存在している状態では、ガンギ車2の歯部2aと作動レバー23に設けられている停止部6の接触面6aとが接触し、両者2,6が係合した状態になっている。
ここで、ガンギ車2は表輪列105(
図1参照)より回転力が付与されているが、停止部6と係合している状態にあっては、ガンギ車2が停止した状態になっている。
【0069】
この状態から、
図5に示すように、テンプ5が自由振動することにより、大ツバ11が矢印CCW1方向(
図5における反時計回り方向)に向かって回転すると、この大ツバ11に設けられている外し石4の接触面4aと片作動バネ24の舌片部32cの先端とが当接する。そして、外し石4により、舌片部32cを介して作動レバー23が押圧され、ガンギ車2から離反する方向に向かって変位する(
図5における矢印Y1参照)。
【0070】
このとき、復帰バネ22がしなるように弾性変形することにより、作動レバー23が変位するが、これに対し、片作動バネ24は殆ど弾性変形しない。すなわち、舌片部32cがガンギ車2から離反する方向(
図5における矢印Y1方向)に向かって僅かに変位する場合にあっては、片作動バネ24が平面視略6字状に形成されており、直線部32が僅かに円弧部31を巻き上げる方向に変位するだけなので、殆ど弾性変形しない。
【0071】
作動レバー23がガンギ車2から離反する方向に向かって変位することにより、これに設けられている停止部6がガンギ車2の歯部2aから離脱し、両者2,6の係合が解除される。これにより、ガンギ車2が矢印CW1方向(
図5における時計回り方向)に向かって回転する。
また、大ツバ11が矢印CCW1方向に向かって回転することにより、ガンギ車2が矢印CW1方向に向かって回転し始めるのとほぼ同時に、ガンギ車2の歯部2aに振り石3の接触面3aが接触する(
図5における2点鎖線参照)。そして、ガンギ車2の回転力が振り石3を介してテンプ5に伝達される。このとき、テンプ5に矢印CCW1方向に向かって回転力が付与される。
【0072】
図6に示すように、大ツバ11が矢印CCW1方向(
図6における反時計回り方向)に向かって所定角度回転すると、片作動バネ24の舌片部32cの先端から外し石4が離反する。すると、復帰バネ22の復元力により、作動レバー23がガンギ車2に接近する方向(
図6における矢印Y2参照)に向かって変位する。このとき、作動レバー23の変位がストッパ40によって規制され、作動レバー23が原位置に戻る。
【0073】
作動レバー23が原位置に戻ることにより、停止部6の接触面6aに回転するガンギ車2の歯部2aが当接し、再びガンギ車2と停止部6とが係合する。これにより、ガンギ車2の回転が停止される。ここで、ガンギ車2と停止部6との係合が解除されてから再び係合するまでの間に、ガンギ車2は1歯分だけ回転する。
一方、ガンギ車2によって矢印CCW1方向に向かう回転力が付与されたテンプ5は、このテンプ5に設けられているヒゲゼンマイ(不図示)が巻き上げられる。そして、ヒゲゼンマイが所定量巻き上げられると、ヒゲゼンマイの復元力とテンプ5の回転力とが逆転し、大ツバ11の回転方向が矢印CW2方向(
図6における時計回り方向)に転じる。
【0074】
図7に示すように、大ツバ11が矢印CW2方向に向かって回転すると、外し石4の傾斜面4bが片作動バネ24の舌片部32cの先端に接触する。そして、さらに大ツバ11が回転することにより、片作動バネ24の舌片部32cが作動レバー23から離反する方向、つまり、ガンギ車2に向かう方向(矢印Y3参照)に向かって押圧される。すると、片作動バネ24は、直線部32を押し広げられるように弾性変形する。
さらに、大ツバ11が矢印CW2方向に向かって回転し、所定角度に達すると、片作動バネ24の舌片部32cから外し石4が離反する。すると、片作動バネ24の復元力により、舌片部32cが作動レバー23側に向かって変位し(
図7における矢印Y4参照)、原位置に戻る。
【0075】
一方、大ツバ11が矢印CW2方向に向かって回転している間、テンプ5に設けられているヒゲゼンマイ(不図示)が巻き戻される。そして、ヒゲゼンマイが所定量巻き戻されると、ヒゲゼンマイの復元力とテンプ5の回転力とが逆転し、再び大ツバ11の回転方向が矢印CCW1方向(
図7における反時計回り方向)に転じる。
これを繰り返すことにより、テンプ5がテン真9を中心にして自由振動すると共に、デテント7が
図2、
図5〜
図7に示す状態を繰り返す。このため、ガンギ車2が常に一定速度で回転する。
【0076】
(停止部の調整方法)
次に、
図2、
図4、
図5に基づいて、停止部の調整方法について説明する。
図5に示すように、上述のごとく、デテント7は、テンプ5が反時計方向CCW1に回転し、外し石4が片作動バネ24の舌片部32cを押圧し、作動レバー23がガンギ車2から離反する方向に動き、停止部6がガンギ車2の歯部2aから離脱し、両者2,6の係合が解除されるとき、この直後にガンギ車の別の歯部2aが振り石3の接触面3aに接触し、これを押圧するように調整する必要がある。
【0077】
もし、停止部6がガンギ車2の歯部2aから離脱し、両者2,6の係合が解除された時点において、ガンギ車2の別の歯部2aと振り石3の接触面3aとが離れすぎていると、ガンギ車2が回転を始めてから、両者が接触するまでに要する時間が長くなり、これによってガンギ車2がテンプ5にエネルギーを与える時間が短くなってしまう。
【0078】
この場合、停止部6がガンギ車2の歯部2aと係合した状態におけるガンギ車の静止位置を、時計回りCW1に回転させる必要がある。
このような場合は、以下のように調整すればよい。
図4に示すように、レバー調整部52は、この取付部28が作動レバー23の凹部55に挿入され、係合片62により挟持固定されている。このため、凹部55からレバー調整部52を挿脱方向に沿ってスライド移動させることができる。凹部55からレバー調整部52を挿入する方向に向かってスライド移動させると、この先端にある停止部が作動バネ22の方向に移動する。これによってガンギ車の静止位置を時計回りCW1(
図5参照)に移動することができる。
【0079】
また、停止部6の接触面6aとガンギ車2の歯部2aが係合した状態におけるガンギ車2の静止位置が、正常な位置に比べて時計回りCW1に移動しすぎているとき、ガンギ車2の歯部2aの先端が、振り石3の先端の軌道の内側に入ってしまう恐れがある。
このようなとき、回転する振り石がガンギ車2の歯部2aに接触してしまい、テンプ5は回転不能になってしまう。
【0080】
このような場合は、凹部55からレバー調整部52を抜き出す方向に向かってスライド移動させると、この先端にある停止部6がテンプ5の方向に移動する。これによってガンギ車2の停止位置を反時計回りに移動することができる。
【0081】
また、上述のように、デテント7は、テンプ5が反時計方向CCW1に回転するとき、外し石4が片作動バネ24の舌片部32cを押圧し、作動レバー23がガンギ車2から離反する方向に動いたとき、外し石4と片作動バネ24の舌片部32cの係合が外れるよりも前に、停止部6がガンギ車2の歯部2aから離脱しなければならない。
【0082】
しかし、停止部6の接触面6aとガンギ車2の歯部2aの係合が深すぎると、外し石4と片作動バネ24の舌片部32cの係合が外れた瞬間において、停止部6の接触面6aとガンギ車2の歯部2aとの係合が未だ解除されていないという状態になり得る。この場合、ガンギ車2は回転できないため、脱進動作は停止してしまう。
【0083】
もしくは、外し石4と片作動バネ24の舌片部32cの係合が外れる前に、停止部6の接触面6aとガンギ車2の歯部2aとの係合が解除されたとしても、この係合が深すぎると、両者が摺動する区間が長くなり、この摩擦によってテンプ5が失うエネルギーが大きくなってしまう。
【0084】
このような場合は、以下のように調整すればよい。
図2に示すように、停止部6は、回転体59に設けられた略台形状の貫通孔64に圧力によって挟持固定されている。また、貫通孔64は停止部6よりも、直線L1と直交方向に長く作られており、停止部は任意の位置にスライド移動することができる。
よって上記の場合、停止部をガンギ車と離反する方向にスライド移動させることによって、ガンギ車2の静止状態における停止部6の接触面6aとガンギ車2の歯部2aの係合を浅くすることができる。
【0085】
また、停止部6の接触面6aとガンギ車2の歯部2aの係合が浅すぎると、外部からの衝撃が加わった場合などに、作動レバー23がガンギ車2と離反する方向に僅かに動いただけで、この係合が外れてしまい、ガンギ車2は余分に回転してしまう。
【0086】
このような場合は、停止部6をガンギ車2の方向にスライド移動させることによって、ガンギ車2の静止状態における停止部6の接触面6aとガンギ車2の歯部2aの係合を深くすることができ、これによって上記の状態を防ぐことができる。
【0087】
また、前述のように、停止部6の停止面6aには、引き角と呼ばれる角度がつけられている。これは、ガンギ車2の停止状態において、振動などが加わったときに、作動レバー23がガンギ車2から離反する方向に動いてガンギ車2の歯部2aと停止部6の接触面6aとの係合が容易に外れてしまうことを防ぐことを目的としたものである。
【0088】
すなわち、接触面6aをガンギ車2の中心方向に延長していくと、この面はガンギ車2の中心を通らず、それよりテンプ5の側にずれた位置を通る。つまり、接触面6aは、接触面6aとガンギ車2の歯部2aとの接触点からガンギ車2の中心に向かう半径方向に対してテンプ5の側に傾いている。
【0089】
この角度は、ガンギ車2の静止状態において作動レバー23をガンギ車2の方向に引きつける作用をするのと同時に、外し石4が片作動バネ24の舌片部32cを押圧してガンギ車2の歯部2aと停止部6の係合を解除するために必要なエネルギーを増大させるものであって、小さすぎればガンギ車2の歯部2aと停止部6の接触面6aとの係合が振動などによって容易に外れてしまい、大きすぎればテンプ5のエネルギーのロスが大きくなる。このような理由から、停止部6の停止面6aの角度は精密に調整する必要がある。
【0090】
そこで、この角度が正常でない場合、もしくは、レバー調整部52をスライド移動して位置調整を行い、この角度が変化してしまった場合、もしくは、デテント本体の取り付け位置を移動して位置調整を行い、この角度が変化してしまった場合は、以下のようにして調整すればよい。
図4示すように、停止部6を備える回転体59は、レバー調整部52の先端に設けられた円形の貫通孔64に圧力によって保持されており、回転体59は回転させることができる。
よって、この回転体59を任意の位置に回転させることによって、停止部6の接触面6aの傾きを調整することができる。
【0091】
したがって、本発明の第一実施形態によれば、停止部6の位置調整を独立に、容易かつ高精度に行うことができる。これによって、デテント脱進機に正常かつ安定した動作をさせることができる。
【0092】
また、片作動バネ24の舌片部32cと外し石4の係合の深さもしくは作動レバー23の先端部30aと外し石4の相対位置を調整するために、デテント本体7の位置を移動して調整を行った場合、停止部6の位置もこれに伴って変動してしまい、これによって、停止部6のガンギ車2に対する相対位置や相対角度が変化してしまう。
しかし、本発明によれば、停止部6の位置及び接触面6aの角度を独立に調整し、変化してしまったガンギ車2との相対位置および相対角度を、元の状態に戻すことができる。
【0093】
また、レバー調整部52をスライド移動させて停止部6の位置を調整した場合、これに伴って停止部6の接触面6aとガンギ車2の相対角度も変化してしまうが、停止部6を回転体59によって回転することにより、変化してしまった相対角度を調整し直すことが可能になる。
【0094】
また、停止部6の位置調整を独立に、容易かつ高精度に行うことができるため、製造による誤差を調整によって吸収することが可能になる。
【0095】
(第二実施形態)
次に、この発明の第二実施形態を
図8に基づいて説明する。なお、第一実施形態と同一態様には、同一符号を付して説明を省略する(以下の実施形態についても同様)。
図8は、第二実施形態におけるデテントの要部平面図である。
この第二実施形態において、機械式時計100は、ムーブメント101を備えている点、ムーブメント101の表側に、表輪列105の回転を制御するデテント脱進機1が配置されている点、デテント脱進機1は、四番車106が回転することにより回転するガンギ車2と、ガンギ車2の歯部2aと接触可能な停止部6を有するデテント72と、ガンギ車2の歯部2aと接触可能な振り石3、およびデテント72と接触可能な外し石4を有するテンプ5とを備えている点、地板102にデテント72が固定されている点、デテント72のレバー調整部52が直線L1に沿うように延出されている点等の基本的構成は、前述した第一実施形態と同様である(以下の実施形態についても同様)。
【0096】
ここで、
図8に示すように、第二実施形態と第一実施形態との相違点は、以下の点にある。すなわち、第二実施形態のデテント72には、挟持機構120に、レバー調整部52の位置決め機構の役割を有する位置決め用ボルト81が設けられている。
ここで、位置決め用ボルト81は二つの部品からなる。すなわち、雄ネジ部82、円柱形状の貫入部83、及び貫入部83の雄ネジ部82と逆側の先端に突設された雄ネジ部83aからなるボルト部84と、このボルト部の雄ネジ部83aを螺入して連結固定可能なネジ穴を有し、工具により挟持して回転可能な形状を有する頭部85である。
【0097】
挟持機構120のベース部61には、位置決め用ボルト81の貫入部83を貫入可能な貫通孔61aが設けられている。この貫通孔61aに、凹部55側(
図8における上側)からボルト部84の貫入部83が貫入されている。貫入部の長さは、先端の雄ネジ部83aがベース部61の復帰バネ22側に突出できる長さに設定されており、突出した雄ネジ部83aに、頭部85が連結固定されている。
【0098】
レバー調整部52の取付部28の基部には、係合片62側に、位置決め用ボルト81の雄ネジ部82と噛合する雌ネジ部28aが刻設されている。
【0099】
このような構成のもと、レバー本体51とレバー調整部52との相対位置を調整する場合には、位置決め用ボルト81の頭部85を時計回りまたは反時計回りに回転させることにより、レバー調整部52を挿脱方向にスライド移動させる。ボルト部84は、円柱形状の貫入部83が貫通孔61aの中で空転することにより、その位置はボルト部84の軸方向には変化せず、雄ネジ部82と噛合する雌ネジ部を有するレバー調整部52のみが、取付部28の挿脱方向に移動する。これにより、レバー本体51とレバー調整部52との相対位置の調整が完了する。
したがって、上述の第二実施形態によれば、前述の第一実施形態と同様の効果に加え、レバー調整部52の位置調整をより容易に行うことが可能になる。
【0100】
(第三実施形態)
次に、この発明の第三実施形態を
図9に基づいて説明する。
図9に示すように、第三実施形態と第一実施形態との相違点は、以下の点にある。すなわち、第三実施形態のデテント73には、挟持機構121に、レバー調整部52の位置決め機構の役割を有する位置決め用カム86が設けられている。
ここで、位置決め用カム86は、円柱形状を有しドライバーなどの工具を係合させて回転させるための溝を備えた頭部87と、位置決めカム86の円柱形状の中心軸C1からオフセットして、頭部の裏面に一体形成で凸設された突起部88からなる。
挟持機構121のベース部61には貫通孔89が設けられており、位置決め用カム86の頭部87が嵌合されている。
レバー調整部52の取付部28の基部には、貫通孔89に嵌合された位置決め用カム86の頭部87との干渉を避けるための段差部90が設けられ、この段差部90の先端には、位置決め用カム86の突起部88と係合するための、段差部90の幅方向に長い貫通孔91が設けられている。
【0101】
このような構成のもと、レバー本体51とレバー調整部52との相対位置を調整する場合には、位置決め用カム86の頭部87を時計回りまたは反時計回りに回転させる。段差部90の先端の貫通孔91は位置決めカム86の突起部88と係合しているため、レバー調整部52は突起部88の動きに合わせて挿脱方向にスライド移動する。これにより、レバー本体51とレバー調整部52との相対位置の調整が完了する。
したがって、上述の第三実施形態によれば、前述の第一実施形態と同様の効果に加え、レバー調整部52の位置調整をより容易に行うことが可能になる。
【0102】
(第四実施形態)
次に、この発明の第四実施形態を
図10に基づいて説明する。
図10は、第四実施形態におけるデテント74の要部平面図である。
ここで、
図10に示すように、第四実施形態と第一実施形態との相違点は、以下の点にある。すなわち、第三実施形態のデテント74には、挟持機構122に、レバー調整部52の位置決め機構の役割を有する位置決め用レバー92が設けられている。
ここで、位置決め用レバー92は、直方体形状を有し掴持して揺動可能な掴持部93と、位置決め用レバー92の先端裏面に凸設された突起部94と、位置決め用レバー92の中間裏面に凸設された軸部95とからなる。
挟持機構122のアーム基部53には貫通孔96が設けられており、位置決め用レバー92の軸部95が嵌合されている。
レバー調整部52の取付部28の基部には、位置決め用レバー92の突起部94と係合するための、取付部28の幅方向に長い貫通孔97が設けられている。
【0103】
このような構成のもと、レバー本体51とレバー調整部52との相対位置を調整する場合には、位置決め用レバー92の掴持部93をテンプ5方向または復帰バネ22方向に揺動させる。これによって、位置決め用レバー92はその軸部95を中心に回動する。レバー調整部52の取付部28先端の貫通孔97は位置決めレバー92の突起部94と係合しているため、レバー調整部52は突起部94の動きに合わせて挿脱方向にスライド移動する。これにより、レバー本体51とレバー調整部52との相対位置の調整が完了する。
したがって、上述の第四実施形態によれば、前述の第一実施形態と同様の効果に加え、レバー調整部52の位置調整をより容易に行うことが可能になる。
【0104】
(第五実施形態)
次に、この発明の第五実施形態を
図11に基づいて説明する。
図11は、第五実施形態におけるデテントの要部斜視図である。
ここで、
図11に示すように、第五実施形態と第一実施形態との相違点は、以下の点にある。すなわち、第五実施形態のデテント75においては、挟持機構123のベース部61から延設された弾性を有する係合片62の先端に、レバー調整部52の位置決め機構の役割を有する位置決め用爪44が設けられ、レバー調整部52の取付部28の先端の係合片62側に、位置決め用爪44に係合する形状を有する微細な位置決め用溝45が並設されている。
【0105】
このような構成のもと、レバー本体51とレバー調整部52との相対位置を調整する場合には、レバー調整部の挿脱方向に力を加える。これによって、位置決め用爪は係合片62の弾性によってたわみ、一つの溝から次の溝へ移動して再び溝の谷へ落ちて係合する。この動きを繰り返すことによって、レバー調整部52を任意の位置に移動する。これによって、レバー本体51とレバー調整部52との相対位置の調整が完了する。
【0106】
したがって、上述の第五実施形態によれば、前述の第一実施形態と同様の効果に加え、レバー調整部52の位置調整をより容易に行うことが可能になる。
また、レバー調整部52は、係合片62の弾性によって挟持されるだけでなく、位置決め用爪44と位置決め用溝45の形状によって係止されるため、より強力に保持される。
【0107】
(第六実施形態)
次に、この発明の第六実施形態を
図12に基づいて説明する。
図12は、第六実施形態におけるデテント76の要部斜視図である。
ここで、
図12に示すように、第六実施形態と第一実施形態との相違点は、以下の点にある。すなわち、第六実施形態のデテント76においては、レバー調整部52の先端に設けられた停止部取付部29は略矩形状の貫通孔46を有し、この貫通孔46に略正方形状のスライド部47が嵌合されている。スライド部47はレバー調整部52の軸方向に貫通孔46より僅かに長く、これによってスライド部47は圧力によって停止部取付部29に保持されている。よって、スライド部47は、デテント脱進機の通常動作中には固定されているが、必要な力を加えれば貫通孔46の長辺方向にスライド移動が可能である。
また、スライド部の中央には、円筒形の貫通孔48が設けられている。
【0108】
ここで、停止部50にはスライド部47の方向に円柱形の突起部49が設けられており、この突起部49がスライド部47に設けられた貫通孔48に嵌合されている。突起部49の直径は貫通孔48の直径に対して僅かに大きく、これによって突起部49は圧力によってスライド部47に保持されている。よって、停止部50は、デテント脱進機の通常動作中には固定されているが、必要な力を加えれば貫通孔48の中で回転させることが可能である。
【0109】
また、第六実施形態においては、レバー調整部52とレバー本体51の相対位置の調整機構として、第一実施形態から第五実施形態のいずれかの調整機構を備える。
【0110】
このような構成のもと、停止部50は、レバー調整部52の挿脱方向及びガンギ車への接離方向において、任意の位置に調整が可能である。また、停止部50は突起部49を軸に回転させて位置調整が可能である。
したがって、上述の第六実施形態によれば、前述の第一実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0111】
(第七実施形態)
次に、この発明の第七実施形態を
図13に基づいて説明する。
図13は、第七実施形態におけるデテントの要部斜視図である。
ここで、
図13に示すように、第七実施形態と第一実施形態との相違点は、以下の点にある。すなわち、第七実施形態のデテント77においては、挟持機構124のベース部61に、直線L1方向(
図4参照)方向に長い略矩形状の貫通孔67が設けられ、レバー調整部52の取付部28の先端に、矩形孔67に挿入可能な突起部68を有する結合部66が設けられている。突起部68と取付部28は、ベース部61より一段高く設けられたブリッジ部69により連結されている。
【0112】
また、直線L1(
図4参照)に直交する方向における突起部68の幅は矩形孔67の幅よりも僅かに大きく、これによって突起部68は矩形孔67に圧力によって保持されている。直線L1方向における矩形孔67の長さは、直線L1方向における突起部68の長さよりも大きく作られている。
したがって、脱進機の通常の動作中には突起部68は移動しないが、必要な力を加えれば直線L1方向にスライド移動が可能である。
【0113】
このような構成のもと、レバー調整部52はテンプへの遠近方向において、任意の位置に調整が可能である。
したがって、上述の第七実施形態によれば、前述の第一実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0114】
なお、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述の実施形態に種々の変更を加えたものを含む。
また、停止部6あるいは停止部50の位置を調整した後、接着剤などで固定してもよい。
【0115】
さらに、上述の実施形態では、電鋳加工やLIGAプロセスにより、デテント7,72〜77を成形する場合について説明したが、これに限られるものではなく、樹脂成形としてもよい。また、復帰バネ22や片作動バネ24,124は、例えば、ニッケル、りん青銅、ステンレス鋼、エリンバー、コエリンバーなどの弾性材料により形成されていることが望ましいと説明した。しかしながら、これに限られるものではなく、例えば、金属製の板バネや線バネにより形成することも可能である。
そして、デテント固定部21や作動レバー23を樹脂成形とし、復帰バネ22や片作動バネ24を金属製の板バネや線バネとする場合、デテント固定部21や作動レバー23に、復帰バネ22、および片作動バネ24をインサート成型する構成としてもよい。
【0116】
また、上述の実施形態では、デテント固定部21に復帰バネ22を介して作動レバー23が支持されている場合について説明した。しかしながら、これに限られるものではなく、所謂
図15におけるピボットデテント脱進機のように、不図示の回転軸を介して作動レバー23を回転自在に支持し、これによってガンギ車2に対して作動レバー23を接離可能に構成してもよい。この場合、復帰バネ22に代わって不図示の回転軸を取り囲むように渦巻きバネ(不図示)を設ける。そして、この渦巻きは、作動レバー23を原位置に復帰するように付勢すればよい。
【0117】
さらに、上述の実施形態では、デテント固定部21の中心P1、復帰バネ22、作動レバー23およびテン真9が、全て復帰バネ22の基端22a、つまり作動レバー23の支点23aとテンプ5のテン真9の中心とを結ぶ直線L1上に形成されている場合について説明した。しかしながら、これに限られるものではなく、作動レバー23の停止部6がガンギ車2の歯部2aに対して接離可能に構成されていればよい。