特許第5666429号(P5666429)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5666429エチレン性不飽和酸またはそのエステルの製造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5666429
(24)【登録日】2014年12月19日
(45)【発行日】2015年2月12日
(54)【発明の名称】エチレン性不飽和酸またはそのエステルの製造
(51)【国際特許分類】
   C07C 67/62 20060101AFI20150122BHJP
   C07C 69/54 20060101ALI20150122BHJP
   C07C 67/343 20060101ALI20150122BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20150122BHJP
【FI】
   C07C67/62
   C07C69/54 Z
   C07C67/343
   !C07B61/00 300
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2011-510048(P2011-510048)
(86)(22)【出願日】2009年5月15日
(65)【公表番号】特表2011-520948(P2011-520948A)
(43)【公表日】2011年7月21日
(86)【国際出願番号】GB2009050523
(87)【国際公開番号】WO2009141641
(87)【国際公開日】20091126
【審査請求日】2012年5月2日
(31)【優先権主張番号】0809332.0
(32)【優先日】2008年5月22日
(33)【優先権主張国】GB
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】500460209
【氏名又は名称】ルーサイト インターナショナル ユーケー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】ジョンソン、デイビッド ウィリアム
(72)【発明者】
【氏名】モーリス、トレバー ヒュー
【審査官】 水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特表昭61−502535(JP,A)
【文献】 特開平06−048977(JP,A)
【文献】 特開2007−055948(JP,A)
【文献】 特開平09−316022(JP,A)
【文献】 特開2001−288147(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 67/343
C07C 69/54
C07C 67/60
C07C 67/48
C07C 57/04
C07C 51/353
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒系の存在下、式R−CH−COOR(式中、RおよびRは各々独立に水素またはアルキル基である)のアルカン酸またはアルカン酸エステルと、ホルムアルデヒドまたはホルムアルデヒド源とを反応させて、式R−C(=(CH)−COOR(mは1である)のエチレン性不飽和酸またはエステルの生成物を生成させることによる、エチレン性不飽和酸またはそのエステルを製造するための製造方法であって、
前記酸またはエステルの生成物を続いてジエノフィルと接触させることによって、変色を除去することを特徴とし、
前記ジエノフィルは、無水マレイン酸、マレイミド、チオフェン−2,5−ジオン、アクリル酸、アクロレイン、アクリル酸アルキル、アクリロニトリル、マレイン酸、マレイン酸ジアルキル、およびハロゲン化ビニルから選択される化合物である、製造方法。
【請求項2】
前記ジエノフィルとの接触とは別の工程において、酸またはエステル生成物のDETA処理も行われる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記ジエノフィルの濃度および、存在する場合には、DETAの濃度は、そのそれぞれの用途について適切に過剰に存在するように選択される、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記ジエノフィルは、処理される粗生成物の重量を基準として10〜50,000ppmの範囲で存在する、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン性不飽和酸またはそのエステル、特に、アルカクリル酸または(アルク)アクリル酸アルキル、例えば、メタクリル酸または(メタ)アクリル酸アルキルの製造、特に、かかる製造中の該酸またはエステル生成物の精製に関する。
【背景技術】
【0002】
かかる酸またはエステルは、式R−CH−COOR(式中、RおよびRは、それぞれ独立に、アクリル化合物の当業者に知られている好適な置換基、例えば、水素またはアルキル基、特に、例えば、1〜4個の炭素原子を含有する低級アルキル基である)のアルカン酸(またはエステル)を、好適なメチレン源、例えば、ホルムアルデヒド源と反応させることにより製造される。このように、例えば、メタクリル酸またはそのアルキルエステル、特に、メタクリル酸メチル(メチルメタクリレート)は、プロピオン酸または対応のアルキルエステル、例えば、プロピオン酸メチルの、メチレン源としてのホルムアルデヒドとの触媒反応により、以下の反応シーケンス1に従って作製される。
【0003】
【化1】
反応シーケンス1の例は、反応シーケンス2である。
【0004】
【化2】
反応は、典型的には、高温、通常は、250〜400℃の範囲で、塩基性触媒を用いて行われる。所望の生成物がエステルの場合には、反応は、エステルの加水分解による対応の酸の形成を最少にするために、関連するアルコールを存在させて行うのが好ましい。また、簡便にするために、ホルマリンの形態のホルムアルデヒドを導入するのが望ましいことが多い。従って、メチルメタクリレートの製造については、触媒に供給される反応混合物は、ほぼ、プロピオン酸メチル、メタノール、ホルムアルデヒドおよび水からなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、メチルメタクリレートは、いわゆるアセトン−シアノヒドリン経路により工業的に製造されてきた。この製法は、資本集約的で、メチルメタクリレートの製造は比較的高コストである。
【0006】
アセトン−シアノヒドリン経路からのMMA生成物流には、望ましくない黄色の色調およびその他不純物が入る。しかしながら、これらは、ジアミノまたはポリアミノ化合物、例えば、N,N−ジエチレントリアミン(DETA)またはオルト−フェニレンジアミンによりうまく除去することができる。MMA製造の新たに改善された商業的な製法では、上述したプロピオン酸メチルとホルムアルデヒドの触媒反応を利用する。残念ながら、この製法でも、黄色の色調となる。DETAのみを用いて黄色の色調を除去することは、驚くべきことに、成功しないことが分かった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様によれば、触媒系の存在下、式R−CH−COOR(式中、RおよびRは各々独立に水素またはアルキル基である)のアルカン酸またはアルカン酸エステルを反応させて、エチレン性不飽和酸またはエステルの生成物を生成させることによる、エチレン性不飽和酸またはそのエステルを製造するための製造方法であって、酸またはエステルの生成物を続いてジエノフィルと接触させることによって、変色を除去することを特徴とする方法が提供される。
【0008】
好ましくは、ジエノフィルは、下記式Iの化合物である。
【0009】
【化3】
式中、Zは、−C(O)Y、−CN、−NOまたはハロからなる群から選択され、Yは、水素、アルキル、ヘテロ、−OR、ハロまたはアリールからなる群から選択され、R、RおよびRは、独立に、水素、アルキルまたはアリールを表し、ヘテロは、N、SまたはOを表し、ヘテロ原子は、非置換であっても、水素、アルキル、−OR、アリール、アラルキルまたはアルカリールからなる群の1つ以上で置換されていてもよく、Rは、上記においてYについて定義したとおりであり、Z’は、上記においてZについて選択された群のうちのいずれかであっても、これに加え、水素、アルキル、アリールまたはヘテロであってもよく、ZおよびZは、ジエノフィルが下記式Iaの環状基を形成するように、共に−C(O)Y(O)C−となってもよい。
【0010】
【化4】
式中、RおよびRは、上記において定義したとおりであり、Yは、上記において定義したとおりヘテロであるか、またはYは、式−(CH−(式中、Sは、1、2または3、好ましくは1である)のアルキレン基を表す。
【0011】
本発明の反応は、バッチ反応または連続反応であってよく、続くジエノフィルとの接触は、他の続く処理工程の前、後、またはその両方において行ってよい。しかしながら、典型的には、粗生成物は、ジエノフィルと接触させる前に、反応物から実質的に分離される。本発明の連続製造方法において、生成物は、第1の態様による好適な反応容器における反応が行われた後、ジエノフィルと接触する生成物流に存在するであろう。
【0012】
本発明の製造方法は、(C0〜8アルク)アクリル酸または(C0〜8アルク)アクリル酸アルキル、好ましくは、メタクリル酸または、特に、メタクリル酸メチルの製造に特に好適であり、この場合、アルカン酸またはエステルは、それぞれ、プロピオン酸またはプロピオン酸メチルである。特に、この製造方法は、アルカン酸またはそのエステルと、メチレン源またはエチレン源、例えば、ホルムアルデヒド源の、触媒系の存在下での反応に特に好適である。
【0013】
用語「アルキル(alkyl)」を本明細書で用いるとき、特に別記しない限り、C〜C10アルキルを意味し、メチル、エチル、エテニル、プロピル、プロペニル、ブチル、ブテニル、ペンチル、ペンテニル、ヘキシル、ヘキセニルおよびヘプチル基、好ましくは、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチルおよびヘキシルが挙げられる。特に別記しない限り、アルキル基は、十分な数の炭素原子があるときは、直鎖または分岐、飽和または不飽和、環式、非環式または部分環式/非環式であってよく、非置換であっても、ハロ、シアノ、ニトロ、−OR19、−OC(O)R20、−C(O)R21、−C(O)OR22、−NR2324、−C(O)NR2526、−SR29、−C(O)SR30、−C(S)NR2728、非置換または置換アリール、非置換または置換Hetから選択される1つ以上の置換基によって置換または中断されてもよく(式中、R19〜R30は、それぞれ独立に、水素、ハロ、非置換または置換アリール、非置換または置換アルキルであり、R21については、ハロ、ニトロ、シアノおよびアミノである)、かつ/または1つ以上(好ましくは4未満)の酸素、硫黄、ケイ素原子により、あるいはシラノ基またはジアルキルケイ素基により中断されていてよく、あるいはこれらの混合物であってよい。好ましくは、アルキル基は、非置換、好ましくは、鎖状であり、好ましくは、飽和している。
【0014】
「アルク(alk)」等の用語は、そうでないという情報がなければ、上記の定義の「アルキル」に従うものとする。ただし、「Cアルク」は、アルキルで置換されていないことを意味する。
【0015】
用語「アリール(aryl)」を本明細書で用いるとき、5〜10員環、好ましくは5〜8員環の炭素環式芳香族または擬似芳香族基、例えば、フェニル、シクロペンタジエニルおよびインデニルアニオンおよびナフチルが挙げられ、これらの基は、非置換、あるいは、非置換または置換アリール、アルキル(基自体が、本明細書に定義したとおり、非置換であっても、置換または中断されていてもよい)、Het(基自体が、本明細書に定義したとおり、非置換であっても、置換または中断されていてもよい)、ハロ、シアノ、ニトロ、−OR19、−OC(O)R20、−C(O)R21、−C(O)OR22、−NR2324、−C(O)NR2526、−SR29、−C(O)SR30、−C(S)NR2728から選択される1つ以上の置換基により置換されていてよく、式中、R19〜R30は、それぞれ独立に、水素、非置換または置換アリールまたはアルキルであり(基自体が、本明細書に定義したとおり、非置換であっても、置換または中断されていてもよい)、R21については、ハロ、ニトロ、シアノおよびアミノである。
【0016】
用語「アルカリール(alkaryl)」または「アラルキル(aralkyl)」は、「アルキル」および「アリール」についての上記の定義を参照して解釈されるものとする。
【0017】
「ハロ(halo)」という用語を本明細書で用いるとき、クロロ、ブロモ、ヨードまたはフルオロ基、好ましくは、クロロまたはフルオロを意味する。保護の範囲を毀損することなく、また理論に拘束されることなく、この驚くべき知見を得た際、本発明者らは、発色を生じるジエン不純物が存在するか否かを試験した。しかしながら、ジエノフィルとの反応が、識別されるジエン不純物に影響を与えるとは思われず、不純物がジエンでないであろうことを示している。
【0018】
「Het」という用語を本明細書で用いるとき、4〜12員環、好ましくは、4〜10員環系が含まれ、環は、窒素、酸素、硫黄およびこれらの混合から選択される1つ以上のヘテロ原子を含有し、環は、二重結合がない、または1つ以上含有する、または非芳香族性、部分芳香族性、もしくは全芳香族性であってよい。環系は、単環、二環または縮合環であってよい。本明細書で識別される各「Het」基は、非置換、あるいは、ハロ、シアノ、ニトロ、オキソ、アルキル(アルキル基自体が、本明細書に定義したとおり、非置換であっても、置換または中断されていてもよい)、−OR19、−OC(O)R20、−C(O)R21、−C(O)OR22、−N(R23)R24、−C(O)N(R25)R26、−SR29、−C(O)SR30、−C(S)N(R27)R28から選択される1つ以上の置換基により置換されていてよく、式中、R19〜R30は、それぞれ独立に、水素、非置換または置換アリールまたはアルキルであり(基自体が、本明細書に定義したとおり、非置換であっても、置換または中断されていてもよい)、R21については、ハロ、ニトロ、アミノまたはシアノである。用語「Het」には、このように、任意で置換されたアゼチジニル、ピロリジニル、イミダゾリル、インドリル、フラニル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、オキサジアゾリル、チアゾリル、チアジアゾリル、トリアゾリル、オキサトリアゾリル、チアトリアゾリル、ピリダジニル、モルホリニル、ピリミジニル、ピラジニル、キノリニル、イソキノリニル、ピペリジニル、ピラゾリルおよびピペラジニル等の基が含まれる。Hetでの置換は、Het環の炭素原子で、または、適切な場合には、1つ以上のヘテロ原子でなされてよい。
【0019】
「Het」基はまた、N酸化物の形態であってもよい。
好ましくは、RおよびRは、独立に、水素またはアルキルから選択される。好ましくは、RおよびRあるいはその一方がアルキルのときは、それらは、C〜Cアルキルから選択され、アルキルは上記したものであり、より好ましくは、メチルまたはエチル、最も好ましくは、アルキルのときは、それらはメチルである。典型的には、RまたはRの一方がアルキルのとき、他方は水素であり、より典型的には、一方は水素で、他方はメチルまたはエチルであり、最も典型的には、一方は水素で、他方はメチルである。特に好ましい実施形態において、RおよびRは両方とも水素である。
【0020】
任意で、粗生成物はまたDETAでも処理される。DETAによる処理は、他の不純物を、粗生成物から除去するのに役立つ。好ましくは、粗生成物のDETAによる処理は、ジエノフィルによる処理とは別の工程で行う。驚くべきことに、本発明のジエノフィルは、DETAが存在しているときよりも存在していないときの方が有効であり、それぞれの化合物間に反応が存在し得ることが分かった。
【0021】
有利なことに、DETAとジエノフィルとの反応性にも係らず、ジエノフィルは、上記の製法により生成された生成物から、特に、DETAがなくても、色を除去するための有益な試薬として働く。従って、好ましくは、DETA処理および本発明の処理は、それらの間の反応を避けるために別の工程で行うものとする。好ましくは、粗生成物のDETA処理の後に、ジエノフィル処理工程を行う。
【0022】
好ましくは、DETAおよびジエノフィル化合物濃度あるいはその一方は、そのそれぞ
れの用途について好適に過剰に存在するように選択する。DETAは、比較的反応性が低いため、不純物と反応させるには過剰に(不純物濃度に比べて)存在させなければならない。一方、本発明のジエノフィル化合物は、酸およびエステルを容易に形成する加水分解またはアルコール分解を起こしやすいため、関連の発色剤を除去するには、過剰に(潜在的な発色剤濃度に比べて)存在させる。典型的には、ジエノフィルは、処理する粗生成物の重量を基準として、10〜50,000ppm、より好ましくは、処理する粗生成物の重量を基準として、100〜20,000ppm、最も好ましくは、処理する粗生成物の重量を基準として、1000〜10,000ppm、の範囲で存在する。しかしながら、ジエノフィルの濃度は限定されず、除去する不純物の濃度に応じて異なる。典型的には、連続製法においては、処理する粗生成物は、生成物流である。
【0023】
不純物とは、エチレン性不飽和酸またはエステル以外の反応生成物を意味するが、反応物および触媒を意味しない。
本発明による好適なジエノフィルは、無水マレイン酸、マレイミド、チオフェン−2,5−ジオン、アクリル酸、アクロレイン、アクリル酸アルキル(アルキルアクリレート)、アクリロニトリル、マレイン酸、マレイン酸ジアルキルおよびハロゲン化ビニルを含むか、またはそれらからなる一覧から選択することができる。好ましいジエノフィルは、無水マレイン酸、マレイミドおよびチオフェン−2,5−ジオン、より好ましくは、無水マレイン酸およびマレイミド、最も好ましくは、無水マレイン酸である。
【0024】
本発明の第2の態様によれば、酸またはエステル粗生成物を、ジエノフィルと接触させて、少なくとも1つの発色不純物、好ましくは黄色発色不純物を除去することを特徴とするエチレン性不飽和酸またはエステル粗生成物を精製する方法が提供される。
【0025】
ジエノフィルとの接触による精製の前にエチレン性不飽和酸またはエステルを調製する好適な方法は、好適な触媒の存在下、および任意で、アルコールの存在下において、式R−CH−COORのアルカン酸またはエステルを、式Iのメチレン源またはエチレン源と接触させることを含む。
【0026】
【化5】
式中、RおよびRは、独立に、定義されたC〜C12炭化水素、好ましくは、C〜C12アルキル、アルケニルまたはアリールまたはH、より好ましくは、C〜C10アルキルまたはH、最も好ましくは、C〜CアルキルまたはH、特に、メチルまたはHから選択され、XはOかS、好ましくはOであり、nは1〜100、好ましくは1〜10、より好ましくは1〜5、特に、1〜3の整数であり、mは、1または2、好ましくは1であり、RおよびRは各々独立に水素またはアルキル基である。
【0027】
特に好ましい実施形態において、式Iの化合物は、メタノールおよび水あるいはその一方の存在下、ホルムアルデヒドから誘導される。かかる場合、式Iの化合物は、ホルムアルデヒドの好適な源と定義される。
【0028】
誤解を避けるために、ホルムアルデヒドの好適な源としては、ホルムアルデヒドの源を提供し得る平衡組成物であればいずれでもよい。かかるものとしては、これらに限られるものではないが、メチラール(1,1ジメトキシメタン)、ポリオキシメチレン−(CH
−O)−(式中、i=1〜100)、ホルマリン(ホルムアルデヒド、メタノール、水)およびその他平衡組成物、例えば、ホルムアルデヒド、メタノールおよびプロピオン酸メチルの混合物が例示される。
【0029】
典型的には、ポリオキシメチレンは、高級ホルマール形態のホルムアルデヒドおよびメタノールCH−O−(CH−O)−CH(「ホルマール−i」)(式中、i=1〜100、好ましくは、1〜5、特に、1〜3)、または少なくとも1つの非メチル末端基を有するその他ポリオキシメチレンである。従って、ホルムアルデヒドの源はまた、式R31−O−(CH−O−)32(式中、R31およびR32は同一または異なる基であってよく、少なくとも1つがC〜C10アルキル基から選択され、例えば、R31=イソブチル、R32=メチル)のポリオキシメチレンであってもよい。
【0030】
好ましくは、ホルムアルデヒドの好適な源は、1,1ジメトキシメタン、ホルムアルデヒドおよびメタノールの高級ホルマール、CH−O−(CH−)O−CH(式中、i=2)、ホルマリン、またはホルムアルデヒド、メタノールおよびプロピオン酸メチルを含む混合物から選択される。
【0031】
好ましくは、ホルマリンという用語は、25〜65重量%:0.01〜25重量%:25〜70重量%の比のホルムアルデヒド:メタノール:水の混合物を意味する。より好ましくは、ホルマリンという用語は、30〜60重量%:0.03〜20重量%:35〜60重量%の比のホルムアルデヒド:メタノール:水の混合物を意味する。最も好ましくは、ホルマリンという用語は、35〜55重量%:0.05〜18重量%:42〜53重量%の比のホルムアルデヒド:メタノール:水の混合物を意味する。
【0032】
好ましくは、ホルムアルデヒド、メタノールおよびプロピオン酸メチルを含む混合物は、5重量%未満の水を含有する。より好ましくは、ホルムアルデヒド、メタノールおよびプロピオン酸メチルを含む混合物は、1重量%未満の水を含有する。最も好ましくは、ホルムアルデヒド、メタノールおよびプロピオン酸メチルを含む混合物は、0.1〜0.5重量%未満の水を含有する。
【0033】
従って、本発明のさらに他の態様によれば、式R−C(=(CH)−COOR(式中、RおよびRは、上記アルカン酸またはエステルと同様に定義され、mは、1または2である)のエチレン性不飽和酸またはエステルを調製して精製する方法であって、
a)式R−CH−COOR(式中、RおよびRは、上記で既に定義したとおりである)のアルカン酸またはエステルを、式Iのメチレン源またはエチレン源と、好適な触媒の存在下、および任意で、アルコールの存在下で接触させて、式R−C(=(CH)−COORの不純物のあるエチレン性不飽和酸またはエステルを生成する工程と、
b)後に、工程(a)の前記不純物のあるエチレン性不飽和酸またはエステルを、ジエノフィルと接触させて、変色を除去する工程と
を含む方法が提供される。
【0034】
好ましくは、エチレン性不飽和酸またはエステルは、メタクリル酸、アクリル酸、メチルメタクリレート、エチルアクリレートまたはブチルアクリレートから選択され、より好ましくは、エチレン性不飽和エステル、最も好ましくは、メチルメタクリレートである。
【0035】
この製法は、(C0〜8アルク)アクリル酸またはアルキル(C0〜8アルク)アクリレートの精製に特に好適で、典型的には、対応のアルカン酸またはそのエステルと、メチレン源またはエチレン源、例えば、ホルムアルデヒドとの、触媒系を存在させた反応によ
るものであり、好ましくは、それぞれ、プロピオン酸またはプロピオン酸メチルからのメタクリル酸、特に、メチルメタクリレート(MMAの精製に特に好適である。
【0036】
従って、MMA粗生成物の典型的な源は、プロピオン酸メチル(MEP)からMMAへのホルムアルデヒドを用いた触媒変換である。この製法および本発明において一般に適切な触媒は、(例えば、シリカに)担持させたセシウム触媒であるが、他の金属および金属化合物を含んでもよい。
【0037】
好ましくは、本発明において、生成物と接触するジエノフィルの量は、100〜50,000重量ppmの粗生成物、より好ましくは、500〜20,000重量ppmの粗生成物、最も好ましくは、1000〜10,000重量ppmの粗生成物である。
【0038】
生成物は、ジエノフィルの添加前は純粋でないため、生成物濃度および続く粗生成物からの色除去の有効性の判断後、遡及的に最適なppm濃度を最初に判断する必要がある。
本発明においては、ジエノフィルとの反応中、他の発色不純物が存在する可能性があり、それら自体は、さらなる工程で後に除去される。従って、ジエノフィルによる色除去の有効性は、これらのさらなる処理工程後に判断すればよい。
【0039】
ジエノフィルの添加に対する粗生成物の温度および圧力の典型的な条件は、50℃〜200℃、より好ましくは、80℃〜150℃、最も好ましくは、90℃〜130℃、0.001MPa〜1MPa、より好ましくは、0.003MPa〜0.5MPa、最も好ましくは、0.01MPa〜0.2MPaである。
【0040】
本発明の製法により除去される黄色の色調または黄変は、不純なものと比較的純粋な粗生成物の両方から除去することができる。比較的不純な粗生成物から除去する場合、通常の精製法で容易に除去される他の着色不純物の存在のために、処理後の色にほとんど変化は見られない。かかる場合、色の改善は、さらなる精製工程後に観察することができる。典型的には、本発明の不純物のある粗生成物は、ジエノフィル処理工程前は、少なくとも60%w/w、より典型的には、少なくとも70%w/w、最も典型的には、少なくとも80%w/wの純度の(C0〜8アルク)アクリル酸または(C0〜8アルク)アクリル酸アルキル/粗生成物を有する。本発明の製造方法は、かかる生成物流に特に有利であることが分かっている。あるいは、比較的高純度の生成物流を処理することができ、その場合、処理直後、また精製(C0〜8アルク)アクリル酸またはアルキル(C0〜8アルク)アクリレートを、未反応ジエノフィル、変色反応からの分解生成物、および蒸留によって分離できるその他不純物から分離した後に、色の改善を観察することができる。この場合、本発明の粗生成物は、ジエノフィル処理工程前は、少なくとも90%w/w、より典型的には、少なくとも95%w/w、最も典型的には、少なくとも97%w/wの純度の(C0〜8アルク)アクリル酸または(C0〜8アルク)アクリル酸アルキル/粗生成物を有する。
【0041】
本発明の実施形態を、以下の限定されない実施例を参照し、図面を参照して、例示のためにのみ説明していく。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1】本発明に従って処理された試料のUV可視スペクトルを示す図。
図2】本発明に従って処理された試料のヘイズ値を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0043】
[比較試験]
様々な比較試験を行って、MMA粗生成物からの色の除去を調べた。
[酸素処理の比較]
発色または退色が酸素により促進されるか否かを判断するために調査を行った。
【0044】
MMAの試料を、異なる温度および時間で加熱した。留出を防ぐための凝縮器を備えたフラスコ中、MMAの豊富な溶液に空気または窒素を通じてバブリングを行った。空気処理した試料および窒素処理した試料に色の差はなかった。従って、酸素処理は無効であることがわかった。
【0045】
[色の時間および光安定性]
色は無限に安定ではない。MMA試料のヘイズ値(ASTM D1209に定義された白金−コバルト/APHAカラーとしても知られており、白金−コバルト原液を指定の通りに希釈することにより規定される透明な淡黄色の液体について、最も明るい尺度を0、最も暗い尺度を500とする)を試料採取直後に調べた。試料を2つの場所で暗所に保管した。各試料を、30日後再試験した。色の試験結果は次のとおりであった。
【0046】
【表1】
[徐熱の比較]
熱安定性を、MMAの加熱試料に関して、さらに試験した(75分間および315分間、全還流(103℃))。ヘイズ読取値は次のとおりである。
【0047】
【表2】
このように、色は最初下降したが、熱処理により再び上昇してきた。この上昇は、MMAオリゴマー(弱く着色を示すものもある)の形成によるものであったと考えられる。従って、加熱は、色の除去には不適であるが、短時間の温和な加熱であれば色を低減する場合がある。
【0048】
[吸収システムの比較]
複数の吸着材料について、色の除去を比較した。
1 チャコール
いくつかの形態の脱色チャコールを用いた。カーボン(約1g)/MMA(50ml)を室温で一晩放置した後、MMAをマイクロメートルフィルタによるろ過によってMMAを分離した。色の除去には役立たなかった。
【0049】
【表3】
2 水素化ホウ素ナトリウム
水素化ホウ素ナトリウムを、MMAの試料に添加した(約2g/50ml MMA)。反応は観察されなかった。試料を次のテーブルに示すとおりに処理した。
【0050】
【表4】
色レベルは、水素化ホウ素なしで同様に加熱したものから予測されるものと同様と思われる。従って、水素化ホウ素ナトリウムが色に影響を与える証拠はない。
【0051】
3 酸性および塩基性カラム
全てアルドリッチ・ファイン・ケミカルズ(Aldrich Fine Chemicals)より入手可能な以下の材料を吸収測定に用いた。
酸化アルミニウム 酸性
酸化アルミニウム 塩基性
酸化アルミニウム 中性
酸化アルミニウム Typ 506−C−1
シリカゲル 70〜230メッシュ 60A カラムクロマトグラフィー用
シリカゲル 60〜200メッシュ Typ 22
シリカゲル 35〜70メッシュ 40A Typ 10181
各材料の50mlの試料を100mlのカラムに充填した。
【0052】
【表5】
酸性の酸化アルミニウムで処理したMMAは、3ヘイズ単位まで落ちた(開始時の数である6単位から)。他の試料はいずれも影響されなかった。実際の所、塩基性のアルミナは、わずかに高いレベルの色を与えた。
【0053】
容量10mlのカラムにおける色の除去を調べるため、酸性アルミナを用いて第2の一連の実験を行った。
【0054】
【表6】
このように、カラムの容量が非常に小さいので、色の除去に好適な方法となるとは思われない。
【0055】
[様々な化合物との反応]
経時による色の除去の証拠と、酸素の影響の明らかな不存在とは、着色した材料の反応性が相当低いことを示している。しかしながら、いくつかのジエノフィル化合物との反応
を調べた。
【0056】
2系列の試料をテーブル7およびテーブル8に示す。それぞれについて、MMAの試料を30分間(80℃)、還流下で加熱してから、約80%のMMAを、ロータリエバポレータでの低圧蒸留により除去した。試料毎の色レベルの予測不能性のために、異なる未処理MMA試料は、異なる出発ヘイズ値を有している場合がある。
【0057】
【表7】
驚くべきことに、ジエノフィルは、他の系より明らかにより有効である。ベンゾキノンは、ナフタキノンおよびフマロニトリル同様に正の効果があると思われるが、マレイミドと、特に、無水マレイン酸が特に有効である。
【0058】
新たに調製したヘイズ値約35のMMAを用いて、さらに調査を試みた。50mlの試料を、上記したのと同じやり方で、80℃で30分間の後、ロータリエバポレータでの真空蒸留により、試験した。添加剤なしの対照例と3重量%の無水マレイン酸の2つの試料を試験した。
【0059】
無水マレイン酸の場合、蒸留物および残渣は、目視では本質的に無色であった。
[無水マレイン酸との反応]
[MMAへの添加]
無水マレイン酸2000ppmの影響を、MMAのバッチ(500ml)を30分間、80℃で加熱し、続いてロータリエバポレータを用いてフラスコオーバヘッドの内容物の約80%を減圧留去することによって調べた。蒸留物および残渣の色を測定し、以下のテ
ーブル9に示す。
【0060】
【表8】
着色したMMAを、UV可視分光光度計を用いて調べた。図1には、脱イオン水の試料、生成MMAの脱色試料(本発明による)および未処理の着色した試料について、5nm毎に測定したUV可視スペクトルを示す。各試料は、4cmのセル中、参照としての脱イオン水に対して測定した。
【0061】
吸着は360nmにピークを示す。このピークは処理試料には実質的に存在しない。
観察された色は、UV可視スペクトルのUV終部から可視領域における吸収によるものである。吸収は、約500nmで消えている。
【0062】
[パイロットプラント流への無水マレイン酸の添加]
無水マレイン酸を、パイロットプラントのMMA生成物流へ、処理流に対して1000ppmで添加した。濃度を段階的に7000ppmを超えるまで増やした。
【0063】
軽いものと重いものの蒸留後に誘導されたMMAの色に与える影響を図2に示す。図2に、カラムからの流分に対して、定義された濃度で生成物流に添加したときの、無水マレイン酸のパイロットプラントMMA生成物流への影響を示す。
【0064】
図2に示すデータを以下にテーブルとして示す(テーブル10)。
【0065】
【表9】
このデータは、4単位のヘイズ基準に対してゼロ値を仮定した指数関数的減衰にフィットした。
図1
図2